第75話 ジョニーは手に入れる
「……特徴的には、グレムリンか? ゴブリンからそっちに進化したのか……」
進化先を見た目の特徴から推察する。多分間違ってはないはずだ。
ゴブリンに遠すぎないが、耳が大きくなり手足がゴブリンの時に比べスマートかつ器用に動かせるように進化している。その分、体自体はゴブリンに比べれば華奢になっているが動きのキレは良くなっているはずだろう。
……てっきり進化するならドワーフとかになると思っていた。予想を裏切られて……ちょっと面白くなっている。
「ソウナノカ……? マアイイ。ソレヨリモ、見テクレ!」
「それよりもって……んで、なんだ?」
進化なんてどうでも良いと言わんばかりのグレムリンに苦笑しながら俺に見せたいというそれの元へ。
――それは、俺にとってあまりにも予想外の物だった。
「これは……」
「んじゃ、俺から説明させて貰おうか。まだ、弟子は説明をちゃんと出来る程口は回らないみてえだからな」
「スマナイ……頼ンダ、師匠」
鍛冶屋の店主がそう言ってから、俺に向けて解説をする。
……弟子って呼ばれてるのか。いやまあ、いいんだけど。
「まず、お前さんの冒険者としてのスタイルを聞いて、使ってたナイフが恐らく戦闘スタイルには合ってないと判断したんだ。まあ、まず聞いたことのねえ職業だから最初に仕立てた武器屋なんかも仕方なく誰でも扱えるような武器って事で選んだんだろうな。後衛職っていうのは、武器に関しては結構難しい。身を守る術は必要だが、前に出て戦う訳じゃあねえからな」
その言葉に納得する。俺のナイフも、これは最初に近場で装備を調えたときにどうするか悩んで一番取り回しの良さそうな物を選んだからだ。
「基本的に、魔法を使う冒険者っていうのは自衛としての魔法を使う場合が多い。だから、武器は補助の道具くらいしか必要としない場合が多い。中には護衛を味方に任せて魔具しか使わないタイプも多い。だが、これの欠点は魔力の依存度が高いことと、魔具が使えない状況だと脆い事だ。だから、仲間に頼るらしいが魔力消費の多いお前さんにこの魔具スタイルは会わないと判断した上で、魔力を扱う冒険者が愛用する杖がいいんじゃねえかとおもったわけだ」
なるほど、それ自体は納得だ。
何故魔法使いが杖を持つのかというと、魔法陣を作る際の補助としてだ。さらに、シンプルな構造だからこそ、加工の難易度が低くなり魔力の伝達力の高い素材を自由に使えるのも大きい。
言わば、魔法を使うための補助器具としての役割だ。武器として使う前提では考えていないらしく、エリザ曰く「壊れないように魔法で保護したり別の所から引っ張る」と言っていた。多分高レベルの魔法使いの話だろう。
「兄ちゃんを見た限りでは、武器の扱いに関してはそこまで器用な方じゃないだろうから複雑な武器は無しにした。それに、ダンジョンに潜る際にはかなり無茶をすると聞いたからな。それだと、一般的な魔法職の使うような杖なんてのは枯れ木にも劣る。じゃあ、どうするか? そこでだ……」
ニヤリと笑う店主。
そして、目の前のソレを持ってみせる。
「素材には魔鉄を使ってみたんだ。普通は杖を使う後衛職は軽い素材にして取り回しを良くするもんだが、ある程度重量のある金属を使って武器として使える程度に仕上げた。まあ、魔鉄は取り寄せてた安物だが、それでもただの金属よりは魔力の伝達力もある。魔鉄の加工は面倒で、難しいんだが……それは弟子の器用さのおかげだな。魔力の扱いも俺以上だった。さらに、ちょっとした仕掛けで収納性も高めた逸品……名付けて、戦闘杖だ! ああ、言っておくが俺はちょっとしか手を貸してない。弟子が一人で作り上げたんだ。ほら、持ってみな」
そう、それは鈍い輝きを放つ金属で作られた一本の杖……店主曰く、戦闘杖だ。俺はその戦闘杖を手に持ってみる。
……しっくりと馴染むような感じ。まるで、最初から俺の武器だったかのような感覚。これがオーダーメイドの武器というわけか。
感心していると、グレムリンは自信満々と言う表情で俺に訊ねる。
「ドウダ、召喚術士! 会心ノ一作ダ!」
「……凄いな、この武器……俺にぴったりな気がする」
「その杖の関節を触って見ろ」
そう言われて、戦闘杖のその仕掛けを起動して……確かに、便利になった。運びやすく携帯性に優れる。だが、俺には一つだけ……ずっと脳裏に浮かんでいた言葉があった。
見た目から俺の知識が叫んでいた……それは――
(三節根だコレ!)
そう、中国武術で使われる関節で折れて曲がるようになっている根である武器……ほぼそれだったのだ。
いや、使いこなすの絶対に難しいだろコレ。
――いやまあ、三節根としての使用は考えていないのだろう。関節部分を折ることで収納することが出来る武器として杖を作ったのだから俺が考えすぎではあるんだが。
……とはいえ、ナイフよりも確かに俺にはいいかもしれない。魔法使いが持つような杖には、魔力の扱いを補助する意味合いもある。杖を使った戦闘術というのは存在する……この世界ではどの程度使われるかは分からないが、それでも使える技術があるなら大丈夫だろう。俺、何になるつもりなんだよと思わず突っ込みたくなるが。
「それで、お代は……」
「ああ、素材代でいいぞ。弟子の作品だからな。それに、アンタは冒険者だって言うのに無理を言って戦力になるはずの弟子を任せてもらったからな。流石に、タダって訳にはいかないが……」
「いや、むしろ金を取られない方が気を使うから助かる」
「それなら良かった」
笑顔の店主に代金を渡して、俺は戦闘杖を受け取る。ズシリとした重み……普通の杖と違う、鉄骨を持つような感覚だ。
……確かに、収納が出来る事を考えても使い勝手は良い。杖というのはどうしても邪魔になるようなシーンが生まれる。その際に折ってしまうことが出来るのは大きい。
「ありがとうな、グレムリン」
「俺ノヤリタカッタ事ダカラナ! 気ニ入ッテクレテ良カッタゾ!」
笑顔で言うグレムリン。
さて……そろそろ真面目な話をするか。
「さて、そろそろ帰るんだが……グレムリン、どうする?」
「ドウスル……ドウイウ事ダ?」
「グレムリンは鍛冶屋に弟子入りしたんだろ? 鍛冶屋にこのまま、弟子入りして鍛冶屋としての未来を考えても良い。俺の契約はそういう物だからな」
「弟子がどっちを選んでも俺はいいぞ。俺から教えられることは教えたからな……お前の未来を考えるなら、俺の知ってる有名な鍛冶屋に弟子の育成を頼もうかと思っていた所だ」
店主もそういう。だが、グレムリンは思ってもなかったという表情を浮かべていた。
……多分だが、契約を解除出来るって事を忘れてたのだろう。馴染むと、こういう事って結構うやむやになるだろうからな。とはいえ、俺は別に本人がやりたい様にすれば良いというスタンスだ。
前世で何かをやり残したのだ。だからこそ、他人の夢を邪魔したくはない。
「――確カニ……鍛冶ヲモット学ビタイ。ダガ……魔石ガモウナイカラ、契約解除シテモ地上暮ラシハ……」
「あー、そういえばそうか。魔石はもう無いのか?」
「アア、使イ切ッタ。ソレニ、途中カラ魔石ノ消費量ガ多クナッタノモアル」
「そうか……それはちょっと予想外だったな」
召喚獣の契約を解除した場合には、そのモンスターは自分の意思で地上に留まるか元いたダンジョンに帰ることになる。地上に留まる場合、肉体を形成するだけの魔力を持っていないと当然ながら消滅してしまう。
今回、ため込んだ魔石を使ったことでその分もなくなったと……なら、しばらくはグレムリンは俺の仲間として継続することになるわけだ。。
「なら、もうしばらくはよろしく頼む。もしも、地上で生きていける分が貯まったらお前のやりたい様にしてくれ」
「……分カッタ。ソノ時ハチャント言ウ」
「ああ」
「んじゃ、紹介状だけ用意しといてやるよ。弟子への餞別だな」
そう言って、店主が書いた紙を受け取りグレムリンに手渡してから俺達は鍛冶屋を後にする。
「召喚術士」
「ん? なんだ?」
「……感謝スル。俺、絶対ニ夢ヲ叶エル」
「おう。期待してるぞ」
そんな言葉に、俺も本心から応える。
新しい武器に新しい戦力も揃った。後は、帰るだけだ。そして、ラトゥ達の待っている冒険者ギルドまで足を運んでいくのだった。
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