第74話 ジョニー達と先の話と
「……なるほど。今回の一時的なパーティーだったと。本来は3人であり、4人がパーティーとして登録されているわけではないのだな?」
デインの言葉に頷く俺達。
4人での申請と言われて、事情を説明したのだが……デインは難しい顔をしている。
「ふむ、今から正式にパーティーへ加入するというのはダメなのだな?」
「……無理ですね。流石に俺の事情がそれを許してはくれなさそうなんで」
「なるほど」
どれだけ有名になったとしても、パーティーを組む上で俺と言う存在が相当な負担になる。
さらに、借金取りからの要請やらティータに関する事情も含めると俺はそこの事情が片付くまではパーティーを組むつもりはない。今回も、次に行くダンジョンの予定があるからこそ短期でならと参加したので、もしもパーティーになれば今後の行動予定が組みづらくなる。
リートやルイ、ヒルデとの冒険は楽しかったが……それはそれ、これはこれだ。
「うーん、どうすれば……アレイだけ別枠で特別にっていうのはダメですかね?」
「無理だな。一時的なパーティー加入者の昇格は認められていない。また、一度参加したパーティーから離脱した場合にはその冒険者は例えどんな事情があろうと銅級からのスタートになり二つ名も失効する。さらに一定期間の冒険の禁止も併せてだな。不正の温床になるが故の措置だ」
「それだと、僕たちもアレイに頼った上で攻略出来たのですけど……」
「だから難しい話になる。実績だけを見るならば、銀等級冒険者に昇格するだけの偉業ではある。その偉業に対して、何も報奨がないとなれば他の冒険者達のやる気にも影響が出るだろう。正当な評価をされなければギルドを抜けて技術や力を安売りし始める可能性も高い。だから、銀等級冒険者になることは必要な行為なのだよ」
言われてみれば、確かにそうだ。
事情はどうあれ、何百という冒険者が挑んで辿り着けなかった……もしくは帰って来れなかった最奥へ辿り着き戻ってきた冒険者なのだ。それが銀等級冒険者になれないとなれば、冒険者としての未来を感じられないと思う人間はいてもおかしくはないだろう。
「銀等級冒険者としての昇格は確定だ。しかし、単独の表彰などを許可すれば今後は面倒な不正が行われる可能性が高い」
「……あー、なら俺はいいですよ。事情があって辞退したって言うことで」
その発言に、ルイ達が驚いたような表情でこちらを見る。
デインも意外だと言いたそうな表情を浮かべていた。
「良いのかね? 辞退となれば、君の噂にも影響するだろう。こちらでも可能な限りフォローはするが、人の噂は防げない」
「別に良いですよ。どうせ、元から大した噂もないですし……俺としては、皆に助けられたって方が大きいですから。それに、ここで銀等級にならなくても、いずれなるんで早いか遅いか程度の違いです」
ならなければ借金返済とか出来ずにいずれ死ぬだろうし。と言う意味を込めた発言。
「アレイ……」
「……ふはっ、活きの良い冒険者だ。このくらいの覇気がなければ、確かに成長はあり得まい……アレイだったかな? 君のことは覚えておこう。今回の昇格は見送らせて貰うが……実績を見せて貰うときを楽しみにしている」
……何か違う受け取られ方をしてしまった。
そこまで意識を高く持っている発言でなかったので、なんというか……そんなつもりではなかったと言いたくなる。リートとかは、何やら色々と思うことがある表情をしているが、そこまで考えてなかった。
「……アレイ、受け取っておくよ。君が何時か銀等級冒険者になったときに恥じないように」
(いや、こう……ああもうダメだな。修正するよりは乗っておくか)
「俺が銀等級になったときに、また冒険に誘ってくれ。確か、等級が違うと協力するのは無理なんだよな?」
「そうだね。等級の違う冒険者はダンジョン内のトラブルでもなければ協力関係を結ぶのは禁止されているからね。だから、しばらくの間はお互いに頑張って行こう」
……今回の事は良い経験になった。
まあ、銀等級冒険者という道は見えたのだ。いずれ稼いで……と言いたいが、まあ程々に無理をしない程度にしておきたい。
「よかろう。では、銀等級の昇格の手続きのために王都の冒険者ギルドにまで来てくれか? 交通費に関してはこちらから出す。私の使った移動方法は一部の人間しか使えないので、それに関しては諦めてくれ。王都についたら、正式に銀等級冒険者の証を発行しよう」
「分かりました」
「――では、先に君たちへ忠告しておこう。どんな冒険者でも、リスクを背負えば銀等級冒険者になるだけなら可能だ。だが、そこはスタートラインでしかない。新たな冒険には技術と実力、そして情報を調べ上げ精査する慎重さ……最善を尽くした上で、最後に運が必要となる。様々な理不尽が君たちを待ち構えているだろう……だが、その理不尽を乗り越えいつか金色の証を手に入れることを祈っている」
そう言って、デインは冒険者ギルドの奥へと消えていく。
おばちゃんが戻ってきて、笑顔を見せていた。
「いやー、お疲れ様ね。あんた達。偉い人が居てもう緊張したでしょ? それで、王都に行くんだってね。馬車は手配して頼んでおくから、それまではゆっくり観光でもしときなさい。外の連中にはさっきちゃんと釘を刺したからね。囲まれることもあんまり無いと思うよ」
「ありがとうございます」
リートは笑顔でおばちゃんに返事をする。
そして、一息ついてからリートはルイ達にポツリと告げる。
「……はぁ、まさかこんなに早く銀等級冒険者になるなんて。実感が湧かないね」
「まったくだ。なんかこう、もっと達成感がある感じで昇格するかと思ってたんだけどなぁ」
ヒルデも頷いている。
とはいえ、銀等級冒険者になったからいきなり凄くなるわけではない。そこから実績が無ければ銅級冒険者に降格もある。だからこそ、言葉とは裏腹に3人はやる気に溢れている。
「銀等級だと、色々と大変らしいから頑張れ。応援してるよ」
「おう、さっさと銀等級冒険者になれよ!」
そう言ってルイに背中を叩かれる。
和やかな空気の中で、静かにしていたラトゥが声を出す。
「アレイさん達もお疲れ様でしたわ。経験者からも言わせて頂きますけども……銀等級冒険者になってからは挑戦できるダンジョンも、報酬も増えた関係で勝手も分からず大変だと思いますわ。ですが、そこで慌てずに落ち着いて自分たちの実力を見極めて攻略すれば大丈夫ですわよ」
「ありがとうございます。それなら、銀等級冒険者として気をつけるべき事を聞いてもいいですか?」
「ええ、構いませんわ」
ラトゥとリートはそこから銀等級冒険者としての心構えやどうするべきか。気をつけることを話している。
……ふと気付いた。
(そういえば、帰りってラトゥと一緒になるのか)
帰りの馬車は……まあ、ラトゥがいるから高級な馬車に乗るべきだよな、うん。そんな風に贅沢を自分に許容しながら馬車の話題からふと思い出す。
「あ」
そういえば鍛冶屋に預けたゴブリン、どうしてるんだろうか。様子を見ることを忘れているのだった。
というわけで、鍛冶屋にやってきた。
盛り上がっている邪魔をしたくはなかったので、野暮用を済ませると席を離れてきたのだ。さて、ゴブリンは……
「うおおおおお! よくやったぁあああああ!」
「師匠、出来タ! 出来タゾ!」
抱き合っている二人。
……うわぁ、帰りたい。
「……あのー」
「いらっしゃいませ……おお、兄ちゃんか!」
「召喚術士カ!?」
そして、やってきた店主と……ん?
「……ゴブリン……じゃないよな?」
明らかに種族が変わっている。俺がここに預ける前と比べて一目瞭然だと思う程に変化していたのだが……
「ム?」
「ん?」
俺の指摘に二人が首をかしげる。
……おい、なんで自覚してないんだよ。
「お前、進化してるだろ」
「……ソウナノカ?」
「確かに、弟子は見た目が見違えているな……てっきり、鍛冶の中で成長したとばかり」
……俺の見ていない間に、ゴブリンはなんとも締まりの無い進化をしているのだった。
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