第72話 ジョニーとリザルト4
「……ぐぅ……」
「つまり、ラトゥの魔力と共有状態になっていると考えると契約は……」
……ふと気付くと、周囲はとんでもない事になっていた。
ルイは完全に酒の飲まれて寝落ちしている。エリザは、酔っているのか素なのか分からないが……ひたすらにメモに何かを書き込んでいる。リートとヒルデも復活して、酒を飲みながら他の冒険者達と何やら話をしている。というか、気付いたら貸し切りだったはずがいつの間にか数人の冒険者達が参加していた。
「……あれ、いいのか?」
「多少は他の冒険者に事情を話して情報共有させた方がいいのだ。完全に締め付ければ、明日どのような騒動になるかは予想できるだろう」
「なるほど……え?」
……気付いたら、目の前に座っていたのはブラドだ。
あれだけ殺意を叩き付けられた後なので、思わず警戒して挨拶をする。
「……どうも」
「そう警戒するな……お嬢様からも、ちゃんと事情を聞いた。やむを得ない事情だったと理解している。だから大丈夫だ。私は冷静だ」
……そう言うなら、その敵意を抑えて欲しい。今にも片手で俺を掴みあげてぶっ飛ばされそうで怖い。
まあ、とはいえ本気でちゃんと話をするつもりというのは分かるので気にしすぎても仕方ない。
「それで、どうしたんですか?」
「今後のことだ……まず、お嬢様とお前の契約状態が終わらなければ【血の花園】としての活動はしばらく不可能となっている。お前を連れてダンジョンに行くなどという選択肢は論外だからな。万が一連れて行けたとしても、二人で一人分の力であれば戦術的にも問題がある。だから、しばらくの最優先はお前とお嬢様の疑似契約の解除となることになった」
「……そりゃそうですね」
言わば、ラトゥは俺に弱みを握られているような状況なのだ。
それに、銀等級冒険者が最前線で戦っているようなダンジョンでは完成された戦術、完成されたチームワーク、そして、圧倒的な経験と勘によって攻略するのが当然だ。そこに、突如として混じった異物を使えるまでに鍛える時間を考えれば契約解除をする方が先だろう。
「まあ、問題は解除方法が分からない事なんですが……」
契約において、条件の設定が必要だがそれが出来なかった。そして、その条件がなければ解除も破棄も出来ない。
……バグみたいな挙動だな。本当に。
「分かっている。そこはエリザと私がなんとかする。だが、それまでの間はお嬢様を連れて行くわけには行かない。【血の花園】はその名声の関係で敵も多い……だからこそ、頼みだ」
持っているカップがミシミシと破壊されそうな音を立てている。
青筋も立っている。俺、死ぬのかな?
「お嬢様をしばらくの間、お前に任せたい」
「……任せるって言うのは……」
「正確に言えば、お前の拠点にしている街でしばらくの間はお嬢様と協力関係として冒険者稼業を続けろということだ。お前がいなければお嬢様は吸血種としての力を使えず、解決まで無力な状態で放置する事は出来ないからだ。お嬢様を縛り付けるのも好まない。だから、お前はお嬢様に無礼をしないように気を遣い快適な生活を約束しろ。分かったな?」
一方的な宣告だが……それでも、俺の責任もある。それに、ラトゥの力を借りれると言う状況はありがたい。
「分かりました……一応、今は俺が見つけた未踏破ダンジョンの攻略を検討してるんですが、どうすればいいですかね?」
「……………………」
とんでもなく長考をしている。自分の気持ちを落ち着けるかのように強い酒を一気に飲んでいる。
行かせたくないが、多分無理だと思いながらなんとか理由を付けられないか考えている表情だ。
「……………………お嬢様が付いていくと言うだろうから、仕方ないだろう。ただ、お前は死んでもいい。お嬢様を無事に帰せ」
「ええ、それは当然」
「分かっているならいい」
……どうやら許されたようだ。何杯も酒を飲んだ上でやっと認められたのだろう。どんだけ嫌なんだ。
しかし、充実してくれた戦力。未踏破ダンジョンという魔境に挑む事を考えると助かる。俺も思わずテンションが上がり、ブラドに話しかける。
「それなら、聞きたいんですが【血の花園】でのラトゥが――」
――気付いたら、俺は宙づりになっていた。
ブチ切れたブラドが俺を掴み上げていた。うん、酔っ払いなんてのは地雷原だと忘れていた。
「何を貴様お嬢様の名前を呼んでいる殺すぞ!」
「ブラド!? 何をしてるの!?」
「お嬢様、今からコイツを殺しますから」
「辞めなさい!」
周囲から喧嘩をはやし立てる声。止めるラトゥに酔っているのか、興奮しすぎているのか暴走するブラド。
……酔っ払い相手の面倒を見るのは大変なのだと、改めて思うのだった。
「――ん?」
暴走するブラドを諫めて眠りについて、その後は料理を摘まみながら徐々に人気が減っていく。
ルイは部屋に連れて行かれ、リートやヒルデも自室に帰っていった。俺は、暴れ回った奴らに付き合わされたせいで食べれなかった料理を摘まみながらそろそろ宿に帰ろうかと考えていた。
そんな最中で、ふと視界の端にラトゥが外へ出るのを見かけた。それも、誰にも何も言わずにだ。
(……どうしたんだ?)
気になって、俺は付いていく。
外で誰かに襲われたときに俺が居なければラトゥの力は発揮出来ない。現状の疑似契約の関係で、ラトゥの能力は一般的な冒険者と同じかそれ以下の状態なのだ……という理性的な部分と、ラトゥが一人きりでどこかに行くのが気になるのが一つ。
(……随分歩くな)
外に出てから、夜風に当たるにしては長い距離を歩き……そして、止まったのは見晴らしの良い崖だった。
「……それで、出てきたらどうですの?」
……バレたらしく、俺はのそのそと出て行く。
「ごめん。どこに行くのか気になってさ」
「ああ、アレイさんでしたのね。エリザかと……ふふ、普段なら分かりますのに今の状態だと不思議な感じですわ」
楽しそうに言うラトゥ。
俺はなんとなく、話したいのだと感じてラトゥの横に立つ。
「今から言うのは、独り言ですわ――私が探しに来たミナは、吸血種でも身分の低い家の生まれでしたの。吸血種は、身分の差は大きくて……だからこそ、彼女は自分らしく生きる事の出来る冒険者になったそうですわ。一度、一緒にお酒を飲んだときにそんなお話を聞きましたの」
それは、彼女が探しに来たという吸血種の女性の話だった。
彼女は懐かしく、そして大切な思い出を語っていく。
「【血の花園】が、まだ冒険者になったばかりで右も左も分からない頃……そんなひよっこで困っていたときに、ミナが初めて声をかけてくれましたの。同族として、冒険者としての先輩として……彼女は貴族が嫌いだというのに、私にも優しく接してくれて導いてくれましたわ。私たちが銀等級冒険者になったときは、お祝いに一緒にお酒に誘ってくれて……友と呼べる方でしたわ」
ただ、俺は静かに聞いていた。
「いつか、私たち【血の花園】に誘ってもいいように席を空けておきましたの。ミナは、今のチームが気に入っているけども……もし、チームが解散するときにはお世話になるなんて言ってくれましたわ。今考えれば、それは私たちに気を遣ったのかもしれません……それでも、いつかを……楽しみにしていたのです。だって吸血種としての生は長いのですから……その何時かが、きっとあるはずだと……」
色々と他人とのズレをバンシーに言われることも多い。
そんな俺でも……彼女の涙を指摘することも、それに触れない程度には理解している。彼女の気持ちというものを。そして、彼女の思い出を俺は聞き続ける。
いつか、俺も出会うことになるかもしれない……避けれない離別に思いを馳せながら。
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