第70話 ジョニー達と決戦

「さて、提案があるんだけどいいかな?」


 エリザの言葉に、ルイは不満を言いたそうな顔をしているが明確な反対意見はない。

 この場における提案というのは、全員の命という責任を背負う意味を持つ。それほどまでに重要で責任の重いのだ。だからこそ、その提案を言い出すのなら……間違いなく、勝つための手段だということだろう。


「まずは情報を教えて欲しいんだけども、えーっと……あのボスはなんて呼んでるのかな?」

「コレクターだ。ダンジョンの核が一体化しているから、無尽蔵に魔力を使ってくるぞ」

「なるほど、コレクターっていうのはいい呼び方だね。そして、ダンジョンの核と融合していると。なるほど、珍しいタイプのボスだね。コレクターの魔法は金属を操る。今の形態は金属を液体のようにして攻防共に隙は無い。水銀みたいな感じだね。あのスタイルは魔力の消費は重そうだけど、核が本体なら魔力量で消耗を待つのは無理だろうね」

『死ね』

「おっと、なるほど。液体の金属は弾丸のように使えるんだね。これは厄介だね」


 分析をしながら、コレクターから飛来する金属の液体による狙撃を回避していく。

 確かに強力な攻撃ではあるが……狙いに関しては大雑把だ。今までコレクターが一対多の戦いになれていないのが分かる。


「んー、まあ今から準備する魔法ならぶち抜けるね。悪いけど、ラトゥとドラク、それと君たちは魔法陣の完成までの時間を稼ぐためにコレクターの動きを止めてくれるかな? 今から大規模魔法の準備を始めるからね」


 そう言うと、杖を何処からともなく取り出したエリザは床に魔法陣を描き始める。エリザの周囲では魔力が渦巻き、圧倒する。

 初めて見る。魔法使いという職業の強さ――それは、己の知識と魔力を利用した超大規模な破壊だ。手間と時間をかけるほどにその威力は莫大な規模になっていく。それを、魔力に優れる吸血種が行うというのであれば間違いなく宣言通りにぶち抜けるのだろう。

 全員が意図をくみ取って、エリザを守るためにコレクターに向かっていく。俺も、新たに召喚をする事は出来ないが、アガシオンが増えたので戦力的には増強している。


「アガシオン、頼むぞ」

「は、はい!」


 リートはルイ達に指示を飛ばす。


「ヒルデ! 壁は任せるよ! ルイは援護を! アレイくん、ルイと一緒に任せるよ! 無理はしないようにね!」

「分かってる!」


 そして、壁を任されたヒルデは突撃し……そのヒルデに向かって液体の金属が鉄砲水のように激突する。

 その攻撃をヒルデは受け止めるが、勢いに後ずさる。何よりも、その攻撃によってヒルデの鎧はミシミシという音を立てている。何度も受ければ鎧は壊れてしまうだろう。


「――さて、行きますか」


 視界の端を何かがとんでもない勢いで飛翔していく。

 ……それは、ブラドと呼ばれていたラトゥ達【血の花園】最後のメンバーだ。背中に蝙蝠のような羽を生やして飛翔している。


「お嬢様に手を出した事、万死に値する」

『万死に値するのは貴様らだ』


 ブラドの攻撃は骨のような弾丸を放つらしく、羽から打ち出した骨の弾丸はコレクターに向かって飛来していく。

 しかし、ブラドの攻撃はあっさりと液体金属に阻まれ……しかし、その弾丸は決して弾かれる事はなく食い込んでいる――牙は、突如としてバキバキと音を立てながら形を変えて液体金属の中へ潜り込んでいこうとする。


『貴様――』

「食い殺されたくなければ対処をしないとダメですよ。まあ、そのまま魔力を食われ続けて良いのなら構わないのですが」

『不快だ』


 嘲るように言われ、怒りを込めてコレクターは液体金属に食い込んだ骨の弾丸の浸食した箇所を切除する。

 その無防備になった瞬間に、視界外からラトゥの爪による一撃がコレクターの腕を切り裂く。しかし、その一撃はかろうじてコレクターは回避する。


「――くっ、浅いですわね」


 そのまま、コレクターは反撃に転じようとして……その瞬間に、飛び込んだリートの持つ剣によって追撃が入る。


「これは、僕の友達の分だよ」


 その一撃によって、コレクターの千切れかけた腕は完全に切り飛ばされた。


「ありがとうございますわ」

「いえ、そちらの一撃があってこそです」


 ――やはり、強い。

 個々による力もそうだが、一瞬にして何をやりたいのかを理解して合わせる技術。全てが高レベルに纏まっている。ヒルデが正面から斧を持ち常に圧をかけているからこそ、コレクターは周囲に気を配れない。

 このまま勝てるのではないか。そんな風に思い――


『――良い勉強になった』


 ――突如として、空気が変わる。

 コレクターは、もはやそこには余裕はない。だがそれは――


『飛び回る羽虫を殺すのであれば、こうすればいいのだな』


 液体金属は収縮して、コレクターを中心に円を築き上げる。まるで、昆虫が繭を作ったかのようだ。だが、あんな魔力の塊のような液体金属を集中させて何を……

 そこまで思考が回って理解した。コレクターが何を狙っているのか。


「アガシオン!」

『散れ』


 ――そして、繭は爆発した。中心点近くにいたヒルデはその衝撃に負けて弾き飛ばされ、鎧は半分ほど崩壊しかけている。

 さらに、周囲に飛び散っていく液体金属の礫はまるで散弾のように全てを破壊せんと襲いかかる。

 ――それぞれは己に出来る手段でなんとか身を守った。


「ぐっ、うう……! きゃあっ!」

「アガシオン!」


 魔力による壁を作ったアガシオンだったが、最後まで防ぎきれず散弾が本体に直撃して消滅する。

 幾つかは防げた。しかし、それでも防ぎきれない弾丸が俺を襲う。


(マズい、避けれな――)


 ――キンと、弾く音。俺の心臓を貫こうとしていた一撃は阻まれる。


(なんだ……いや、これは……)


 ティータの作ってくれたお守りがある位置? まさか、魔力が籠もっていたお守りが魔具のように働いたのか?

 ……色々と考えることはあるが、とりあえずは自分の無事を喜ぶ。


(ルイは……)


 ルイは、何らかの魔具を起動していたが……攻撃の勢いを殺しきれず壁に叩き付けられていた。だが、出血などはなく致命的な怪我はなさそうだ。リートやラトゥは……急所は守れているが、ダメージは大きくそれぞれ出血している。飛んでいたヒルデは、敵の意図に感づいて迷い無くエリザの護衛に回っていた。だが、背後のエリザを守るために自分の身をさらした事で体は千切れ、血にまみれてボロボロになっている。魔力の消耗も激しいらしく、体の傷が治らず崩れ落ちた。

 ――たった一手。それだけで、ほぼ半壊してしまった。


(……形振り構わないと、ここまでか)


 先程の攻撃によって、迷宮の壁はまるで蜂の巣のようにボロボロになっている。飾られていた幾つかの魔具や遺体は破壊されてしまった。

 己の宝を捨ててまでの一撃。だからこそ、これほどまでの威力なのだろう。


『不愉快だ。そして、そこの背後にいるそれが何を狙っているかは知らないがこれ以上我が博物館を汚すな』


 破裂した液体金属が呼び戻されて、エリザに向けて飛来していく。

 だが、エリザは一歩も動かない。いや、恐らくは過度の集中状態だから周囲に一切目を向けていないのだ。それほどまでに信頼をしているのだろう。

 ――アガシオンが繋いでくれたのだ。


「――シェイプシフター!」


 その言葉と魔力によって、変身したシェイプシフター。

 ――シェイプシフターは、知らない物や理解出来ない物には変身できない。逆に言えば、知っている物なら変身出来る。

 この状況で、俺が頼れる存在は決まっている。それは――バンシーだ。


「――っ!」

『音の壁か。だが、一瞬だけだ』


 バンシーの声による音波の壁は、液体にとっては相性は悪い。金属といえど、音波の影響によって威力を保てない。

 音の壁に阻まれた液体金属は弾かれていく。だが、俺の魔力は一瞬にして持って行かれようとしている。当然だ。魔力の壁の消耗は俺が考えるよりも圧倒的に多い。まず、競り合いで勝てるわけがないとは分かっている。第二陣を防ぐ前に俺の魔力が尽きてシェイプシフターの変身が解除される。

 ――だが、それでいい。俺が意識を失おうが俺は間に合った事を理解する。


「完成だ!」


 笑顔のエリザ。魔力が渦巻き、魔法陣が起動する。

 そして、コレクターの頭上に渦巻く魔力によって作られた漆黒の魔法陣。


『……これは』


 ――魔法陣から閃光が降り注ぐ。コレクターは液体金属を集めて自分の身を守り閃光から身を守る。

 まるで落雷が降り注ぐかのような攻撃。しかし、コレクターはそれでも魔力に任せて耐え続ける。そして閃光が終わり、こちらを見て攻撃に転じようとする。その姿を見たエリザは拍手をする。


「おお、凄い凄い。『浄化』の予備動作で死なないんだ」


 コレクターの指が止まる。


『予備動作だと?』

「うん。そうだよ? これが本領なわけないでしょ?」


 ……魔法陣は消えていない。

 落下した閃光と、頭上の魔法陣が繋がれ光の檻となる。


「威力が凄いから、ちゃんと制御しないと周囲も全部消し飛ばしちゃうんだよね」


 ――それは、逃がさないためではなく。外に漏らさないため。

 そして、魔法の本当の効果が発動した。


『――――』


 圧倒的なまでの威力による、消失。視界すらも真っ白に埋め尽くすような圧倒的なまでの魔法。

 魔法陣が消えたとき、コレクターの肉体は消失し……残ったのはダンジョンの核。あの瞬間にすら、壊されないように守り切っていた。そして、まだ再生しようとしていた。


「じゃ、任せたよ」

「――ええ。ありがとう、エリザ」


 エリザの言葉と共に……ラトゥは爪を振るう。

 無防備になった核は両断され、崩れ去っていく。


「敵は討ちましたわ……ゆっくりお休みなさい。ミナ」


 追悼のような言葉と共に――これで、迷宮の最奥の攻略が完了するのだった。

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