第69話 ジョニー達と仲間と
「おお、本当にラトゥが居たね」
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
ルイ達……そして、ラトゥの仲間であるエリザとさらにもう一人の男装の麗人らしい吸血種の女性が降り立った。【血の花園】の最後のメンバーなのだろう。
……だが、コレクターにとっては呼んでいない存在を連れてくるという行為は逆鱗に触れる物だったのだろう。無言で、俺に向かって何本もの槍を放ち、急所を貫こうとしてくる。
「――アレイ!」
「ヒルデ! 頼むよ!」
――その槍が俺に刺さる前に、ヒルデが正面へと立った。
飛来する槍を打ち落とし、落としきれなかった物を自分の鎧で受け止める。そして、俺を見て頷くヒルデ。
「……助かった、ヒルデ……」
そして、ルイとアガシオンも俺の元に駆けつける。
……ルイはちょっと涙目になっている。心配をかけたようだ。
「お前なぁ……とんでもなく心配したんだからな!! 本当に、こんな怪我をしやがって……」
「しょ、召喚術士さん! 大丈夫ですか!?」
「ああ……こうして、会うの……久々な気がするな……」
「召喚術士さん!? しっかりして!?」
ああ、安心したら意識が途絶えそうだ。このまま寝たら流石に死ぬかもしれない。
そんな俺を見てアガシオンとルイが目に見えて慌てている……と、突如として新たな声が聞こえた。
「やあやあ、失礼するよ」
「なっ、テメエは――」
「まあまあ。ふむ。急所からは外れてるね。なら、なんとかなるかな」
エリザが俺の元にやってきて、ニコニコとした表情で診察している。
……コイツに体を任せるの、イヤだなと思いながらもされるがままになる。というか、目の前が霞んでいる。
「……んー、やっぱりラトゥと魔力的なパス繋がってるね。何をしたんだい? 後で詳しく教えてくれる? いや、でも面白いね。これはもしかして召喚術……」
「あ、あの! 召喚術士さんが本当に危ないので! 先に治療を!」
アガシオンが珍しく大きな声を出している。
そんな声を出せたんだな。アガシオン。
「ああ、ごめんごめん。さてと、血液が不足しているみたいだし……なんとかしてみるかな。まあ、肉体をイジるけど緊急事態だから仕方ないよね?」
ニコニコとしたエリザは、俺の体に魔力を流しながら――
「うぎっ!? ぐ、が!」
「召喚術士さん!!」
「まあ、体の中身をイジられるんだから不快感は凄いだろうね」
他人事のようにそう言いながら、魔力によってラトゥが体を霧に変えたように、変化させた腕で俺の体の中に触れていた。
先程まで意識が朦朧としていたのに、直接臓器などをいじくり回される不快感に意識が勝手に覚醒して口から悲鳴のような叫び声が漏れ出てくる。
「ぎ、がっ、ああ!」
「んー、血液不足なら……ここだったかな? 流石に適当な血液をぶち込んでも拒絶反応が出て死ぬかもしれないからね」
体の臓器が無理矢理動かされているような、最悪の感覚。
だが、それでも意識ははっきりしてきた。何よりも、体を襲っていた喪失感が回復している。
「さてと、こんなものかな? どうかな? 意識はある?」
「……最悪の、気分だ……」
「なら大丈夫だね」
別の意味で死にそうになったが、それでも血が足りない感覚は無くなって気付いたら空いていた手足の穴も消えている。
「後は、魔力さえ補充すればなんとかなるかな。じゃあ、これ飲んで」
「んぐっ!?」
そう言って口に液体の詰まっている瓶を突っ込まれる。
突然押し込まれて、拒否する事も吐き出す事も出来ずに中の液体を飲んで――
「げほっ! うげっ、ぐっ! ゴホッ!」
「アレイ!? お前、何を飲ませたんだ!」
「おお、凄いね。吐き出さないし意識を失わないなんて。魔力ポーションを過去に飲んでいるのかな? ラトゥでも、初めて飲んだときは反吐をぶちまけたのに偉いね!」
……死ぬほどマズい。というか、意識を失いかけそうだ。だが、それでも魔力が充実していくのが分かる。
貴重なアイテムだが、それを使ってくれた事には感謝をするしかない。
「それで、どうかな? 問題は?」
「……問題、しかない……最悪だよ……気分は……」
だが、体調はしっかりと回復しているせいでなんとも言えない気分になった。
……命を繋げた。それは何よりも大切な事だと自分を納得させる。
「……今、状況は?」
「君たちの盾と、僕の所の斥候がなんとかしてくれてるね。時間稼ぎだけど十分時間は作れたよ」
「なるほど……教えてくれて助かる」
なんとか動ける程度には回復した。気分は最悪だが、それでも死にそうな状態よりはマシだ。
――そして、俺の前にウェンディゴ……いや、シェイプシフターがやってくる。
「……ありがとうな、シェイプシフター。よく頑張ってくれた」
撫でると、シェイプシフターは嬉しそうに震えている。以前のスライムの時と変わらない反応だ。
そして、俺達の元にラトゥも合流する。
「エリザ、ありがとうございますわ……アレイさんを助けて頂いて」
「あはは、ラトゥが死にかけているなんて貴重なシーンを見たね。出来れば写真に残して起きたいくらいだったよ」
「……全く、貴方はどんな状況でもブレませんわね」
呆れたような表情のラトゥ……そして、視線をコレクターに向ける。
『――私の博物館に土足で踏み込む価値のないゴミ共が』
「さて……ブラドとあの鎧の方にも感謝ですわね……時間を作って頂いたから、反撃の時間が作れましたわ」
コレクターは、無感情に激怒している。俺達は蒐集するという目的を持って手加減していた。だが、感情的になっている今は手加減などはしてこないだろう
――だが、それでも状況は好転している。コレクターは知らないだろう。連れ去ってきた、孤立した冒険者としか戦っていない奴にはこの状況がどれほど俺達に有利なのか。
「――提案しますわ。私たち、【血の花園】とそちらの貴方たち……お互いに協力をしませんこと? あのモンスターに対して、私たちだけでも勝てるか分かりませんわ。だから、貴方たちの力を貸して頂きたいのですわ」
リーダーであるラトゥによる、【血の花園】としての正式な要請。
俺達が回復するまで待っていたリートは、その要請に頷いて答える。
「願ってもありません。それに、奴は僕たちの友人を傷つけたのです。だというのに、何もせずにそちらだけに任せるなんてつもりは最初からありません」
「交渉成立ですわね……では、奴を倒しますわよ」
『不愉快だ。不愉快だ。なるほど、これが不快感か。勉強になった。礼に欠片も残さず消し去ってやろう』
目の前のヒルデ達を倒せない事に、魔力をさらに解放する。恐らく、本来は使うつもりもない分も注ぎ込んだのだろう。背後から液体のように合金が溢れ出てコレクターの周囲を取り囲む。
これがコレクターの本気か。今までが遊んでいたとしか思えないほどの威圧感。しかし、それでも誰の表情にも不安はない。
「では――行きますわよ。未踏破ダンジョンの迷宮を……踏破致しますわ!」
その言葉と共に、コレクターとの最終決戦が始まるのだった。
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