第67話 ジョニー達と窮地
「があああああ!」
『ふむ、大丈夫かね? 状態が悪くなっているようだが』
(……やっぱり限界か)
ラトゥの吸血種としての力は激しいモノだ。それこそ、本気であれば先程のように一人でダンジョンボスを倒してしまえるほどに
だが、その代償は当然ながら大きい。感情にまかせて魔力を絞り取り意図的な暴走状態になっていたが……そんな無理をすれば、消耗は激しくさらに歪な魔力の使い方で自らの体を崩壊させる事になるのは当然だ。
確かにコレクターの体を何度も破壊しているが、致命的な一撃には届かず全て再生されている。これ以上は――
「ああああ!」
『これ以上、蒐集品の価値を下げるのも忍びないな』
「っ!」
慌てて、俺は割り込んで無理矢理ラトゥを引き剥がす。
半分ほど正気を失っていたラトゥは、俺に注意できずそのまま押し倒される。そして、先程までラトゥの居た場所に幾本もの合金の槍が突き刺さっていた。
『ほう、蒐集品として良い心がけだ』
「っ、ラトゥ!」
「……うっ、く……アレイ、さん……」
無理矢理、召喚符を通して先程までコントロールを奪われていた魔力の主導権を取り返す。
そうすると、暴走していたラトゥは正気に戻ったようだ。しかし、暴走した代償は大きく、体は傷だらけになり、魔力もかなり消耗している。
『しかし、吸血種の力とは面白い物だ。そして、そちらの稀血の人種も面白い。魔力を使った契約手段によってコントロールしているのか』
冷静に分析するコレクター。
「……申し訳、ありませんわ……感情が、押さえれず……」
「いや、今は良い。それよりも……この後をどうするかだ」
見ていて分かった。コレクターは想像以上の強敵だ。
何よりも、行動の合理性が図抜けている。ダメージよりも、修復できるかどうかで判断して攻撃を受けている。膨大な魔力を無駄に使わず、要所でちゃんと決めて動いている。
だから暴走していたラトゥは相手からすれば与し易い相手だっただろう。正気を失った獣の行動は読みやすいのだから。
「悔しいですわ……勝手に暴走して、いいようにされてしまって」
「反省は後だ。それよりも、どうやってアイツを倒すかを考えよう」
「……ええ。そうですわね」
――考えろ。思考を回せ。
コレクターの能力と、奴の今に至るまでの行動。
『さて、性能試験もそろそろいいかな? 十分に君たちは蒐集する価値があると判断しても良いだろう。光栄に思うといい』
(奴の攻撃手段は魔法のみ。それも金属を扱う魔法だ。逆に言えば、それ以外の攻撃手段は取っていない。何よりも、あの場所から動いていないと言う事は……動けないだけの理由がある)
膨大な魔力によって傷を塞ぐが、躱せば良いだけだ。それが出来ない以上は……つまり、代償なのだろう。そして、攻撃手段も金属を操る魔術以外は使わない。バリエーションのある戦術を取るタイプではない。
……だからこそ、そこを突くのが正解だろう。魔法使いの弱点の一つに……意識外の攻撃に弱いと言う点がある。魔法の座標、範囲、構成などは全て意識して使わなければならない。だからこそ、思いついた。
(――何か俺に注意を引ける物はあるか……?)
考える。だが、すでに召喚している存在には魔力を送れるが新たに召喚して形を作る事は出来ない。
つまり、使える物は己のみ。他に頼れるのは……いや、心強い相棒がいた。
(……覚悟を決めるか)
だから、俺は持っていたが今まで使っていなかったナイフを取り出して走り出す。
『ふむ? 君は肉体の再生能力は持っていないのだろう? 貴重な蒐集品なのだ。先程の行為と同じように、無理に傷を付ける必要はないのだ』
「生憎、黙って死んでいいような人生は送ってないんでね!」
「アレイさん!」
ラトゥの悲鳴のような叫びに、俺は視線で返事をする。契約で繋がったからこそ、俺の思考も多少は分かってくれるだろう。
俺は必死に走っていく。コレクターの視線は面倒だが処理してやろうという目だ。だが、臆する事はない。
(大丈夫だ! ミノタウロス共に殺されかけるよりはマシだ。)
俺は必死にコレクターへと向かって走る。
コレクターが生成したのは合金の捕縛するための壁だ。俺を囲んで捕縛しようとしてくる。しかし、この程度なら――
「この程度! あの時に比べればなぁ!」
『……ふむ。少々甘く見たようだね』
ワームに食われ掛けたのを必死に逃げたときに比べれば、こちらを粉微塵にしようとしないような攻撃なら躱せる。むしろ速度を上げて隙間を縫って合金の壁から抜け出す。
ラトゥの魔力が流れ込んだ事で普段以上に魔力の動きに敏感になっている。相手の魔法の来る位置を大雑把だが把握できる。全てが功を奏している。そして――
「届いたっ!」
ついにコレクターの下へと辿り着いた。
そして、俺は飛びかかり奴の心臓がある位置に手に持った唯一持っていた武器を振るって――
『何の意味があるのだい? その行為に?』
俺のナイフは刺さるどころか、ボスの指に止められていた。
……当然だろう。強化もしていないようなただの後衛の一撃なんて、蚊の刺すようなものだ。そして、俺の冒険の始まりから地味に使い続けていたナイフはあっさりと砕け散る。あまりにも情けない結末に、コレクターも呆れたような表情を浮かべている。
――だが、終わりじゃない。
「スライム! 頼んだ!」
「ジュル!」
『む?』
だが、俺にしがみ付いていたスライムが居た。
それは、ボスに向かって飛びかかる。そのスライムによる一撃は……あっけなく、まるで跳ねた水の飛沫を払うかのように当たる前に腕で振り払われ、スライムは壁に叩き付けられる。暴走したラトゥの時と同じで、格上に効くはずはない。
『――ゴミをぶつけてくるとは。不可解だ。不合理な行動を取るものだね。君の蒐集する価値を考えてしまいそうだよ』
「――だから、私が近寄れたのですわ」
死角からやってきたのは……ラトゥだ。
――全ては、この瞬間のために。ラトゥの一撃を通すために、俺は命を賭けて突撃した。発言から合理性を持っている。だから、予想外の行動に対して奴は理屈を持って対応せざるを得なかった。俺が、コレクターに通用する可能性があると見せるために。
「これでっ!」
今までと違う、この一瞬のためだけに魔力を込めた致命の一撃、それは躱し続けていたコレクターの胴体に直撃した。
そして――
『――なるほど。不合理によって私の意識を割かせた訳か。それはなんとも合理的だ』
――そして、俺達は見てしまった。
「あれは……」
「ダンジョンの、核……?」
その肉体を構成する本体を。
それは、本来であれば最奥に秘匿されているダンジョンの命であり脳髄である核。
『素晴らしい。私の本体を披露するなど発生してから初めてかもしれない。だが、壊すには足りなさすぎるようだ。残念だがね』
ボスは、そう言って高らかに笑う。
――核から流れる魔力によって、破壊された肉体が再生させていく。ダンジョンの核が身を守るために作った守護者ではない。あのボス自体がダンジョンそのものなのだ。
「嘘……だろ……?」
本来であれば、そんな事は出来ない。核は魔力体を作る事は出来ない。
――そんな道理すら吹き飛ばす常識の通じない人外魔境が、ダンジョンではないのか。ラトゥの言葉が脳裏を巡る。
『では、改めて蒐集を始めよう』
「がっ!」
「あぐっ!」
近寄っていたラトゥと俺の体に合金の杭が突き刺さり、その勢いのまま壁に叩き付けられる。
――気絶しそうだ。クソ、今の瞬間まで奴は俺達に対して手加減をしていた。奴の基準点に合格するのかの試験と……コレクションをなるべく傷を付けずに捕獲するために。
(……クソ、ラトゥに送る魔力は……)
魔力を送ろうとするが、痛みで集中が出来ない。
俺からの魔力供給が減った事で、ラトゥの再生力も落ちている。
『さて、飾り付けは如何にするか』
楽しげな言葉。合金でコレクターは棺を作り出す。そこに俺達を殺して飾り保管するのだろう。
諦めたくない。だが、それでも光明が見えない。
(――どうすれば)
そして、俺の目の前にボスが立つ。
『では、君からだ。本体を見たのだ、君たちは丁重に飾り付けてあげよう』
そして、俺は首を掴まれる。そして、コレクターは力を込め――
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