第65話 ジョニー達は踏み込む
「――魔力の扱いに関して、応用面なら下手な魔法使いよりも上手に出来ていますわ。ただ、基本的な部分が抜けていたり独自の物すぎますわね。今すぐ修正出来る部分だけは先に教えますわ。地道に訓練をして伸ばす部分は後から教えて自分で頑張りますのよ?」
「ああ、ありがとうな。ラトゥ。凄い助かるよ」
「ふふ、それなら良かったですわ。むしろ、これだけ応用が出来ているというのは相当な状況に遭遇しましたのね。魔力の分配だったり自分の限界を超えた魔力の扱いだったり、どれも、いざというときに使うような技術ですもの」
指摘内容に、全て思い当たる節があった。そんな風にラトゥから魔力の扱い方に関する手ほどきを受けながら、俺達は道を進んでいく。
……しかし、上層階は迷宮という名の通り迷わせようという意図を感じていたが、この道は殆ど分岐のない道を進んでいる。
「迷宮……って感じじゃないよな」
「そうですわね。道も一本道ですものね。出てくるモンスターも、ウェンディゴ以外には特色のあるモンスターは居ませんわ……不思議ですわね」
「スライムやテンタクルは影も形も見えないな。ミノタウロスは……まあ居なくて助かったけど」
魔力の扱いを練習しながら、歩く中でふと気になって聞いてみる。
銀等級冒険者であるラトゥ達がここに来た理由だ。
「そういえば、ラトゥ達はなんで迷宮の攻略に乗り出したんだ? 俺達は、偶然俺の友達が話を聞いて来たんだけど。迷宮なんて言う特殊なダンジョンに挑まなくても銀等級冒険者なら他にいけるダンジョンが多いだろうに。それだけの理由があったのか?」
「そうですわね……教えても良いですわね。私は人を探しに来ましたの」
「人を?」
その疑問に頷くラトゥ。
「私の知り合いの……同族の冒険者がいましたわ。私たちとは別のチームに参加していましたの。でも……数ヶ月前、迷宮に挑んでみると言い残してから帰ってきませんでしたわ。冒険者が帰ってこない事はよくある事……ですが、このダンジョンで帰還できない程に運が悪いわけでも実力が無いわけでもありませんわ。それだけの理由がある……そう思って、ここに来ましたの」
迷宮は帰還率の非常に高いダンジョンと言われているが……それでも、帰還できなかった冒険者達はいる。
どれだけ高い帰還率でも、犠牲者はいるのだ。だが、他のダンジョンであれば半数以上が志半ばで力尽きると考えれば決して関係の無い話ではない。
「なるほど……それのついでに、最下層まで攻略しようと?」
「というよりも、このダンジョンの秘密を解き明かしてやるつもりでしたの。きっと、彼女の遺品はもう残っていませんわ。なら、せめて彼女の敵を討つ意味を込めてこの迷宮を攻略するつもりでしたの。とはいえ、自分が冒険者病で前後不覚になってしまうのは本当に情けないですわね……」
良く笑い、悲しみ、落ち込む感情豊かな人だなぁ。
貴族というのは、基本的に腹の中で何を考えているか分からない表情に笑顔を貼り付けたような奴が多いので、こんな人が学生時代に居てくれたら良かったなぁと考えてしまう。
「ラトゥは優しいんだな」
「いえ、優しいわけではありませんわ。ただ、見捨てない事……それが私の矜持ですのよ」
……その言葉に込められた強い意志。それは、ラトゥの根幹なのかもしれない。
「それにしても……この道を進んでいて、迷宮という複雑な道の中でこんな風に一本道なのは違和感がありますわね……あれだけの広さに、こんなスペースがありましたかしら?」
「……そういえば、俺達のメンバーで道の途中に謎の空間があるのを見つけたんだけど……これも、何か繋がりがあるのか?」
「謎の空間ですの? 詳しくその話を教えて頂けますこと?」
頷いて、俺は地図は持ってきていないので口頭で説明すると考え込むラトゥ。
「……むしろ、ここが本当のダンジョンの姿かもしれませんわね。迷宮として惑わせるのではなく、本来はこうした一本道のダンジョンなのではないかしら?」
「そんな事あるのか?」
「ええ。魔力を一定以上蓄えたダンジョンというのは予想外の変化をしますのよ。いずれアレイさんも辿り着くでしょうから……その時には覚えて置いた方が良いですわ。銅級だったときの常識なんて通じない、本当の魔境という物を」
……思わず息をのむ。まだ見ぬ世界に対する期待と緊張で武者震いしそうだ。
そして、辿り着いて……予想外な物を見つける。
「ここから、上の階層に上がりますのね」
「……ここ、最下層なのか」
「ですわね」
道なりに進んでいった先には上へと上がる階段があった……まさか、最奥が最下層にないという事はあるのか?
てっきり、ここから降りるかゴールに行くとばかり思っていたのだが……
「最下層なのに、最奥がないってあるのか?」
「……いえ、恐らく、ここが一階なんですわ」
突然、そんな事を言い出すラトゥ。
「え? 俺達は上から入って――」
そこで、気付く。このダンジョンが普通ではないという前提であればあり得ると言う事に。
「まさか、俺達は最奥から入ってきたのか?」
「恐らくダンジョンの裏口なんですわ。正規のルートではないから最奥に辿り着けないと考えれば今まで、誰も辿り着けないのは理解出来ますわ」
――腑に落ちる。謎の空間というのは、そちらが正しいルートなのだ。それを避けるように作られた迷宮なのだろう。しかし、疑問は残る。
「なんで、そんな構造になったんだ?」
「詳しくは分かりませんわ……ただ、予想をするならダンジョンが育ってから地形が変わってしまって、今まで入り口だった場所が封鎖され、新しい入り口を作った……と言う可能性はありますわね。恐らく、かなり前……冒険者ギルドが出来る前からこの迷宮は存在していたと思いますわ。でなければ、他の入り口というのが知れ渡っている可能性は高いですもの」
あくまでも予想でしかないが、確かに納得は出来る。
……しかし、そう考えれば遙か昔の冒険者達が挑んで消えていったダンジョンのボスに挑むわけか。
「誰も見た事はない最奥のボスか……」
「……アレイさん。ここから先は、遙か昔から誰も踏み入れる事が出来なかった強大な敵がいるかもしれませんわ。もしも、臆したのなら――」
「――どんな敵が出てくるんだ?」
ああ、気になって仕方ない。俺の知識は、様々な文献や過去に学んだ学園での無駄知識だ。だが、今から出会う敵は俺の知っているモンスターではない何かの可能性が高い。
どんな生態をしている? どんな攻撃をしてくる? どんな姿をしている? 興味が尽きない。
「……ふふ、冒険者に聞くべき言葉じゃありませんでしたわね。未知を前にして、止まるようでは冒険者として大成なんて夢のまた夢ですもの。それじゃあ、行きましょう。アレイさん」
そう言って、ラトゥは階段を登っていく。
俺も付き従って登っていくと、そこには……奥の階段へと続いていく一本の道になっていた。さらに、階段がすでに見えている。
「不気味だな。この短い距離ですぐに階段があるなんて」
「……自信があるのかもしれませんわね。ここから先、対峙して負けるつもりなどないと」
……少しだけ、その言葉に緊張する。
――誰も攻略していないダンジョンの最奥で待ち構えるボスへと出会うために、俺とラトゥは最上階に上がるための階段を登っていくのだった。
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