第60話 ジョニー達は彷徨う
「……次はこっちだな」
ルイの先導で進んでいくのだが……ルートの指定をしているルイの顔色は悪い。
斥候というのは勘とは違う「この構物でゴールに辿り着くための方向」と言う感覚が備わっているらしい。
そのせいか、正解ではない下に行く道以外を通っているルイは不快そうな表情になっている。心配して、思わず声をかける。
「ルイ、大丈夫か?」
「大丈夫だ……いや、なんていうか気持ち悪いんだよな。落とし穴があるのが見えてるのにわざわざ落ちに行くみたいな気分というか……腹減って死にそうな時に腐ってそうな食べ物、わざわざ食べるときの気分というか」
最後の例えは実体験かどうか聞かないことにするが、一部の冒険者ではこういった事例はよくあるらしい。
いわゆる直感や、感覚によって思考や体調に影響が出てしまうのだ。魔力の濃いダンジョンという空間の影響もあるのだとか。だからこそ、冒険者達はダンジョンに潜り続けずに地上に出て感覚をリセットするのだ。
とはいえ、心配になるので声をかける。
「まあ、無理はするなよ? 俺も怒られたんだからさ」
「分かってるって……無理はしてねえんだが、このダンジョンどうも魔力が普通のダンジョンより濃いみたいだから影響が出てるみたいだ。普段なら、こんなことにはならねえんだが」
「確かに、普段は別に普通だからね……うーん、難儀だよね、冒険者体質」
リートの言葉に同意する。冒険者体質というのは、ある意味では職業病みたいな物だ。
例えば、盾役をしている冒険者であれば痛みや苦痛に対する感覚が鈍って体の動きに支障が出たり、魔法使いであれば過剰な魔力によって酔うことや、最悪の場合は魔力によって思考が変わる事もあるという。魔力による能力の最適化が進みすぎた結果起きる異常なのだ。
「ヒルデは大丈夫?」
そう聞かれたヒルデは自分の手を動かし少し悩んで首を振る。
「……影響でてるみたいだね。多分、あの感じだと軽度だけど、あんまり長いと戦闘にも影響が出るかもね」
「大変だな。俺にはそういう経験ないから、あんまり共感は出来ないが」
「僕もだよ。やっぱり、職業次第な所もあるんだろうね。僕は魔力に頼る戦い方をしないし、アレイはあっても魔力酔いかな? まあ、二人程じゃないはずだよ。その分、僕たちはしっかりしないとね」
「……よし。大丈夫だ。慣れてきた」
ルイがそう言って頬を叩いて気合いを入れる。
「んじゃ、行くぞ。ヒルデも無理そうならさっさと言えよ?」
頷くヒルデ。しかし、これが初心者にも優しいダンジョンと言われると首を捻ってしまう。
「こんなダンジョンで新人向けなのか?」
「むしろ、新人ほどいいんじゃないかな? 慣れない内は、魔力の濃いダンジョンの方が魔具を使いやすかったりするからね。それに、モンスターも厄介だけど人間型と違って動きが分かりやすいモンスタータイプだから基礎を学ぶ上では十分だと思うよ。とはいえ、ここに慣れると他のダンジョンは難しく感じるだろうけどね。それに、迷宮攻略以上の発見なんかは無いだろうから夢はちょっとないかもね」
そう言われて納得する。本当に変わり種のダンジョンだ。
最初に出会ったのがこのダンジョンでなくて良かった。そうでなければ、借金返済などという目的を達成することは出来なかっただろう。
「まあ、オレとしては結構面白いダンジョンだぞ。斥候の仕事も他のダンジョンに比べて多いからな」
「確かに、稼ぐ目的じゃなくて挑む分には楽しいね。ちょっと殺風景で気が滅入るけどね」
「違いない」
そう言って和やかな空気のまま、ダンジョンの先へと進んでいくのだった。
――ダンジョンの道をと分かれ道に差し掛かってルイは難しい顔を浮かべた。
調子が悪いと言うよりも、本当に悩んでいるようだ。
「……こっちは、行き止まりだな。んで、反対は……いや、これはどうなんだ?」
「どうしたんだ?」
その質問に答えずに進んでいくルイ。
俺達もついていくと、その途中でルイは突然首をかしげる。
「……やっぱり、道が変だ。構造的にこのルートはあり得ない」
ルイのその言葉に首をかしげる。
……構造的にあり得ない?
「どういうことだ? 構造的にあり得ないって」
「この道を通るとな……オレ達が最初に通った道に戻るんだよ。オレの地図が間違いじゃないなら」
「変かな? このダンジョンの迷路みたいな道なら、通ったはずの道に戻されることはあると思うんだけど」
「だから、それがおかしいんだよ。見たら分かると思うから、一回行くぞ」
そう言って、ルイは歩き始める。俺達も、そのルイの疑問に答えるすべを持たず一緒に進んでいく。
その道自体は何の変哲も無い。通りながら、ふと背後を見る。
(……ん?)
ちょっとだけ違和感を感じる。
スライムとアガシオンを見るが……別に何も感じていないようだ。なら、オレの勘違いだろう。
「そろそろか?」
そういうルイ。そのまま進んでいくと、それは階段の前に辿り着いていた。
最初の道に戻ったわけだが……ルイは、ドンドンと険しい顔になっていく。
「……おかしい。オレの地図と合わない」
「……どういうことだ?」
「僕も分からない。ルイがこんな反応をするのは珍しいけど……」
ヒルデも首を振って分からないと答える。
ルイだけは、地図をじっと眺めている。その表情は声をかけるのすら躊躇われる程に集中している。
「――歩数は……ルートも……ここで……」
「邪魔できそうにないな」
「とりあえず、周囲の警戒をしておこう。ルイが何か見つけてくれたならこのダンジョンの攻略に役立つだろうからね」
そうして、警戒をして3人で周囲を見渡す。
違和感はない。むしろ、下の階層だというのに全くダンジョンの構造が変化していないのが面倒だ。
「ちょっと上も見てくる」
そういって、ルイは走って階段の上に登っていく。
止める間もなく消えていって……そして、帰ってくる。
「間違いなく、オレ達が降りてきた入り口か……」
違う出口に来たのではないかと考えて、違ったというわけだ。
「……一回、さっきの所まで戻るぞ」
「あ、ああ。分かったよ」
そう言って全員でもう一度、先ほど進んだ道を進んでいく。
とはいえ、俺はちょっとだけワクワクしている。
(難しい展開だけど……だからこそ、攻略のヒントが手に入っているってもんだよな)
新ルートの発見は何時だって楽しい物だ。
そうして、目的の場所まで辿り着く。
「……さて、この分かれ道だな。さて、どうするか」
検証をするときには誰かがリスクを背負って確認に行く必要がある。
ルイは動けない。だから、俺達の中で誰かが人柱になる必要があり――
「よし、スライム。頼んだぞ」
「ジュル!?」
驚いているスライムだが、万が一の場合に一番俺の消耗が少なく回収も出来る。
「まあ、最悪消え去ることがあっても回収できるからな。最悪の場合は大丈夫だ」
「ジュ、ジュル……」
「このロープにちゃんと離れないようにするんだぞ? ……括り付けるよりも、外れないように無理矢理接着するか?」
しかし、それは辞めてくれと言わんばかりに震えている。
「それなら、消えるまでちゃんとロープを放すなよ? よし、行ってこい!」
「……ジュル……」
「よし、これで大丈夫だよなルイ?」
ズルズルと進んでいくスライムを見送ってルイに聞く。
さあ、これで秘密が解けると後ろを振り向くと全員が何故か引いた目で俺を見ていた。
「……いや、なんというか」
「お前、あんなに悲しい雰囲気を出してたのに良くそんな笑顔で送り出せるな……」
ヒルデも頷いている。アガシオンにフォローを求めようとしたが、何故か慣れたと言いたげな諦めた目をしていた。
……なんとか俺は、これが正当な行為だと説明をする羽目になるのだった。
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