第59話 ジョニー達は降り立つ

「――さて、ここが二層目か。とはいえ、一層目と見た目は全然変わらないね」


 リートの言葉に同意する。降りたって最初に視界に映るのは囲まれた白い壁だ。

 迷宮というのは、どこも同じような見た目だから気分的にも切り替わりが難しい。基本的に、階層が深いほど敵は強くなる。核がある場所に近い程、魔力が濃くなり発生するモンスターも強くなるからだ。


(とはいえ、基本的に種類が変わらないから順当に上の階層から倒した冒険者には関係ないけど)


 動きが良くなり、体の強度や判断力が強くなっても同じモンスターでしかない。

 いわば、不当に侵入しようとしたりボスから逃げてやってきたような侵入者を狩るための措置に近い。あとは、弱った侵入者を追い込むためか。


「……と、早速お客様か」


 ルイの言葉に構えると、正面からやってきたのはテンタクルとスライムが複数体。どうやら、音を聞きつけてやってきたらしい。

 魔力が濃くなるに連れて上の階層では別れて行動していたモンスターが徒党を組むようになる。これは上の階層よりも降り立つ侵入者の数が減り強くなるからと言う理由があるらしい。とはいえ、上の階層を超えた俺達に対処は出来る。


「どうかな? 対処は出来る?」

「当たり前だろ。ヒルデ、スライムの相手をするぞ。リートとアレイはテンタクルの相手を任せた」

「おう」


 ルイの言葉でお互いに分担して戦いを始める。

 動きが決して早くないスライムに対しては矢を当てて牽制。動きは止まらないが、ダメージを受ければ多少は鈍くなる。そして、ルイを守りながら一体ずつ戦斧で叩き潰していく。

 俺達はリートがテンタクルの相手をしている間に魔力を込めて魔法を構える。

 動きや戦術になれてきた俺達はスライムにはテンタクルの相手をして貰い、俺がアガシオンの魔法の補佐役をする。


「――よし、この方向に撃て!」

「は、はい!」


 俺の指示通りに放った魔力は、テンタクルの核を貫く。

 ――リートもそうだが、スライムの存在が思った以上に役に立つ。ルイ達の相手するスライムがこちらのスライムに気を取られて隙を作り、テンタクルは味方のスライムと見分けをつけれていないため俺のスライムからの妨害を防げず食らっている。スライムという種族の見た目などに差異が無い故の弊害だろう。

 そうして、危なげなく戦いが終わり最後の一匹に対してアガシオンからの一撃が貫く。


「――よし、お疲れ様。この数でも苦戦しないね」

「ここで苦戦してるようじゃ、先がキツいからな。そういや、魔石はどうする? 召喚獣にやるか?」


 回収した魔石を手でイジりながらルイが聞く。


「ああ、アガシオンもスライムも頑張ってくれたから上げてくれ」

「了解。ほら、お前らのだぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 受け取ったアガシオン達は嬉しそうに飲み込む。

 それを見て、ルイが呟いた。


「なんかこう……ペットみたいな感じだな。こう見てると」

「ああ、分かるね。なんだか食べてる姿が癒されるよね」


 ヒルデも頷いている。

 魔石を飲み込んでモゴモゴしているスライムとアガシオンを見る……そうか?


「そういうもんか? 俺は対して気にしてなかったけど」

「まあ、使役してる側とは感覚が違うもんかもな。俺達からすると、普段は戦ってるモンスターが意思疎通出来てこんな風に食事をしてるのを見るのは不思議な感覚だな」


 ……ふうむ、アニマルセラピーみたいなもんか?

 しかし、そういう意味では馬鹿に出来ないのかもしれない。


(モンスターセラピー……うーむ、使えるようで使えなさそうだな)


 何かに活かせそうな気もしたが……ちょっと思いつかないな。


(前世で見た、人をダメにするクッションみたいな感じでスライムを使うとかか?)


 そう言って視線を向けた俺に、スライムは何かあるかと聞くように震えている。

 ……流石に俺も、ちょっと酷いかと脳裏からその考えは切るのだった。



 ヒルデに先導されながら、迷宮の道を歩いて行く。

 難しい顔をしているルイに対して、リートが訊ねる。


「ルイ、どうかな? 地図は間違いない?」

「……ああ、間違いない。貰った地図通りだ……なんか、このルート通りに進むのもムカつくな」


 不機嫌そうなルイの言葉。斥候としての仕事のプライドもあるのだろう。

 とはいえ、気分は分かる。最初から自分の力で攻略するつもりだったのに横から攻略のヒントを勝手に教えられるのはイラッとするだろう。ネタバレというよりも、善意のアドバイス要らないお世話という感じだ。


「どうする? とはいえ、そのルートは最下層に辿り着くための地図だけど」

「……いや、こいつらが進んでない方向に行く。この最下層ルートは、最後に行くぞ」


 そう言うルイ。

 一見すると負けず嫌いで無理を言っているようにも聞こえるが……その提案自体は賛成だ。


「そうだね。同じルートを通っても【血の花園】と同じ結果になるだろうね。なら、地図を参考にして通ってないルートを通すのが一番かな」

「リスクもあるが、それを飲み込んでこそだからな」


 リートの言葉に同意して……ふと、思う。

 ……もしかして、エリザが地図を渡した理由はこちらの方が目的だったのではないか?


(銀等級冒険者である【血の花園】が単独で総当たりは難しい。なら、このダンジョンの秘密に近づけそうな冒険者を見つけた上で他のルートを散策させる?)


 あり得る。というよりも、そちらの方が目的だった可能性はあるのか。

 恐らく、俺達が【血の花園】を知っているファンだった場合には別の方法で違うルートを散策させたのかもしれない。だが、俺達とは微妙な距離感であり斥候のルイからは敵視されていた。それを利用して、地図を渡すことで正解ルート以外に行かせようとしている。


(……全部が全部計算って訳じゃないんだろうが……多分間違いではないと思うんだよな)


 この迷宮の秘密を解き明かすのに自分たちだけでは時間が掛かりすぎると判断したのだろう。

 【血の花園】の他のメンバーは分からないが、エリザのようなタイプはなんとなく当たりが付く。それは、謎を謎のままにしておくのが我慢ならないタイプだ。だから、過程よりも結果を重視する。最悪、自分たちが攻略出来なくてもこの迷宮というダンジョンの謎を解き明かす方が目的なのだろう。


「んじゃ、行くぞ。オレ達の方が先に迷宮の最奥に辿り着くからな!」

(……これ言ったら、めちゃくちゃルイはヘソ曲げるだろうな)


 いうなら、こうして俺達が地図通りのルートを通らないのも織り込み済みなんだろう。

 ルイはやる気になっているし、迷宮というダンジョンに挑む上でこのモチベーション自体は良いものだから言わないでおくとしよう。そうして、俺達は地図の正解と違う他のルートを模索することになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る