第58話 ジョニー達は協力する
全身を白い鎧に身を包んでいるボスはこちらに気づいて、ゆっくりと持っていた剣を抜く。
そこへ、まるで猛牛の突進のように突っ込んでいったヒルデが背中から取り出した戦斧を叩き付けるようにして斬る。だが、ボスは手に持っている大剣を使ってその突撃を完全に受け止めた。
拮抗し、ジリジリと二人は競り合っている。
「――そこだ」
その硬直の間を見逃さずに、ルイはボスに向かって矢を放った。そのまま当たるルートだったが……飛来した弓に気づき、受け止めながら体の重心をずらして矢を鎧で受ける。
だが、それはあくまでも誘導のためだった。そのまま競り合うヒルデが一瞬力を抜いて引く。バランスを崩した敵が体勢を崩し――そこに、リートが飛び込んで一閃。
しかし、金属音と共に弾かれる。
「くっ、堅いねっ!」
「――アガシオン!」
射線が通ったことを確認して、テンタクルにやったようにアガシオンに魔力込め一点に集中して放つ。
魔力によるレーザー。しかし、鎧の表面に当たった魔力は多少削ったが大部分を弾かれてしまい霧散する。
「あの鎧、魔力に耐性があるのか」
「ちっ、クソ面倒なボスだな。ヒルデの一撃で潰れねえのか」
「仕方ないよ。とりあえず、敵の隙を見つけていこう!」
こちらの攻撃を受けきったボスの振り回した大剣を回避しながら、そう言って鼓舞するリート。
――さて、俺は観察しながら敵のボスについて考察する。
(――多分、モンスターの種類としてはリビングメイルか? とはいえ、鎧の形質から見るとこのダンジョンの壁や床と同じような材質だな……純粋なリビングメイルじゃなさそうだ。普通のリビングメイルなら、鉄製の鎧を体にすることが殆どだし……まず、力勝負で勝てるようなタイプじゃない。)
ここまでの結果を見て、俺はそう判断する。
――リビングメイルという、動く鎧は主にアガシオンのように魔力の体で鎧を動かしていると言うのが通説だ。しかし、どうにもあのモンスターの動きを見ていると違う気がする。
「アガシオン、あのリビングメイルは動き的にどう思う? お前と同じタイプか?」
「……いえ、違うと思います。魔力体で鎧を媒介にしてても、ちょっと変ですから……それに、あんなに力強く動けるとは思えないです……」
アガシオンはそんな風に答える。同じような体を持っていると思うアガシオンの意見は貴重だ。
リビングメイルというモンスターは、中身は空洞になっている鎧を魔力によって動かしている。その特徴は、鎧という防御力と、その見た目から想像の出来ない身軽さだ。ダンジョンにおいて、火力の足りないパーティーが苦戦する相手なのだが……
(体幹がしっかりしている。戦斧を受け止める時点で普通のリビングメイルなら破壊されるだろうから……中身がある? あの大剣を振り回しているから、本来のリビングメイルの強みが生きないはずだ)
一つ一つ集まる情報。自身の知識を併せていく……そうして、自分の中でもしかしたらという一つの仮説を思いついた。
そう考えた俺は、一つ思いついた。
「ルイ! 持ってる矢に毒を付けてる奴はあるか!?」
「毒だ!? モンスターに有効な強い奴はねえけど、いいのか!?」
「それでいい! とりあえず、あの鎧の関節でもいい。中身に当ててくれ!」
「了解!」
その言葉に、ルイは矢を取り出す。
その矢の先端からは何かしらの液体が滴っている。持っていてくれて助かった。
「んじゃ、ヒルデ! リート! 頼む!」
「了解だよ! ヒルデ、行こう!」
動きがスイッチする。前線で受けていたヒルデからリートに入れ替わり、リビングメイルに向けて加速して連撃を与え続けながら大剣の攻撃を回避する。
一体だけのリビングメイルは、その攻撃を受け止めるために手一杯となっていた。だが、その時間を使ってヒルデは大きく振りかぶって溜めていた。そして、最初の一撃を超えるような威力で戦斧を思いっきり振り下ろす。そして、その一撃は鎧へと当たり――
「……あのボス、ヒルデの斧を受け止めて動けるの!?」
まるで、隕石でも衝突したのかと思わんばかりのとんでもない音を立てた鎧は……凹んで傷ついているが、なお健在であり、問題無く動き出していた。その事実にリートは驚愕の表情を浮かべている。
元々、ああいった斧や戦槌のような武器は堅い装甲を相手にしても中身を潰せる強さがあるのだが……それを受けきる強度の鎧は恐ろしい。しかし、あの勢いで打ち込まれても効果が無いとなれば、恐らく俺の予想は当たっているはずだろう。
「――っ!」
俺の頼みに、全ての神経を集中していたルイはチャンスを見つけて放つ。
飛来する矢は、リビングメイルの体を動かすために絶対に必要となる装甲の薄い関節部分へと突き刺さった。
「――当たったが、どうするんだ? あの程度じゃ止まらねえだろ」
「いや、多分俺の予想通りなら……」
リビングメイルは、刺さった矢を気にせずにヒルデに大剣を振ってぶち当てる。
その攻撃の勢いを受けて体勢を崩したヒルデに、そのまま追撃を加えようとして……突如として、大剣を落として悶え苦しみ始める。それを見て、ルイは困惑していた。
「……いや、効き過ぎじゃねえか? あの矢に塗ってた痺れ薬は殺傷力が無い奴なんだけどよ」
「多分、過剰に効いてるんだろうな……俺の予想が当たって良かった」
そして、倒れたリビングメイルは鎧の隙間から謎の液体を垂れ流しながら痙攣をしている。
それを見て、俺以外の全員が引いていた。
「うわっ、気色わりぃ! なんだあれ」
「スライムだよ」
「……スライム? リビングメイルじゃないのかな?」
リートの言葉に俺は難しい顔をする。
説明が難しいと言うよりも……分類、何になるんだコイツという方向で。
「見た目はリビングメイルだけど、多分このダンジョンの壁とかの材質を使って鎧を作り上げたスライムなんだと思う。貝とかと同じだな。スライムだから、打撃での中身に対する攻撃にも強い。それに、中身があることでリビングメイルの弱点である軽さや重心の弱さをカバーしてるんだろうな」
だからこそ、毒などを体に取り込んだ際の影響を強く受けてしまう。
……とはいえ、初見殺しだな。基本的にリビングメイルのようなモンスターに対して状態異常は効果が薄い。それを分かっていないと、正面切って戦ってしまうことになるだろう。この戦闘では、中身のスライムを如何にして倒すかが重要だ。
「なるほどなぁ……アレイ、よく分かったな」
「リビングメイルの性質を考えると戦い方も違和感があったからな。それに、鎧がこの迷宮の壁と全く同じなのにも違和感があったんだよ。リビングメイルって基本的には普通に鉄の鎧なのに、わざわざダンジョンの壁と同じ材質になっているのは理由があるんじゃないかと思ってな」
痙攣するリビングメイル……いや、メイルスライムか?
その首を跳ね飛ばすと中身からこぼれ落ちたスライムが溶け出して魔石に変貌し鎧が砕けて消える。それを回収しながらリートは笑顔を見せた。
「――本当に助かったよ。このまま正面切って戦うと消耗も酷いし……最悪、致命的なダメージがあったかもしれないからさ」
「まあ、試して貰うだけなら誰にでも出来るからな」
負けることはなかっただろう。元はスライムである以上、鎧が壊れるか中身のスライムが限界を迎えるまでダメージを与えれば良いのだから。
とはいえ、消耗少なく戦いを終えることに越したことはない。
「とはいえ、毒が有効か……ちっ、準備してねえんだよな。毒って基本的に効果が薄いんだよ。その割に、管理が面倒だからなぁ」
「今持ってる矢は、同じような敵が出てきた時に使うように残しておこう。今回は単体だからなんとかなったけど、これが複数体出てくる事を考えると相当に面倒だからね」
確かに。これを複数体相手にして正面から叩き潰すとなると相当な苦労をするだろう。
――だが、正体が分かればやりようがある。
(最悪、バンシーを使う事を考慮するか)
音による攻撃というのは、鎧に対して有効だ。特にバンシーであればスライムに対するダメージを与える方法も持っている。
正直、休んで体調は多少回復はしたが魔力まで回復するほどじゃない。バンシーを何度も呼び出せば魔力が空になり気絶する可能性が高い。だが、仲間が居る状況ならそのリスクは背負える。
と、そんなことを考えているとルイがこっちを見ていた。
「ん、どうした?」
「いやー、アレイを置いてて思ったよりは役に立つなって思ってな。戦闘では役立たずじゃないかと思ってたからさ」
「はっきりと言うな!? ……まあ、俺は正直戦闘って意味ではあんまりだからな。変に割り込んでルイの矢が刺さって死ぬのだけは避けたいから自分の位置に徹してる。むしろ、俺としては連携が上手いから楽させて貰ってる気分だよ」
「自分の役割分かってるだけでも上等だ! んじゃ、行くか!」
何故か上機嫌になって先に進んでいくルイ。慌てて、ヒルデが付いていく。
……首を捻る俺に、リートがニコニコとしながら教えてくれる。
「ルイ、自分から誘ったから気にしてたんだよ。アレイと上手く協力させれずに失敗したらどうしようって。だから、馴染んでくれて嬉しいんだと思うよ」
「それなら、そう言えば良いのに」
「あはは、ルイも照れ屋だからね」
「おーい! 何してんだ! 先に行くぞ!」
そこで、階段の所からルイの大声が聞こえてくる。
俺とリートは、慌てて置いて行かれないように走って降りるのだった。
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