第53話 ジョニーは迷宮に挑む
手続きを終わらせた俺達は、そのまま人の波を避けながらダンジョンの中へと向かっていく。
確かに、周囲から聞こえてくる声は冒険者の攻略というよりもファンの会話みたいな感じだ。
「この中でどれだけが攻略するのかね?」
「どうだろうね。中には帰ってきたばかりの人も居るだろうけど……半数は入らず待っている感じだね」
そう言われると、確かに。ダンジョンの前で誰かを待っているような雰囲気だ。
どこの世界もファンというのは似たような傾向があるのかもしれない。まさか、この世界でも出待ちを見るとは。
「ふーん、そんなに凄いのかね? その冒険者達ってのは」
「凄いんじゃないか? 銀等級ってだけで俺達よりは数段上だ」
「あはは、それは間違いないね」
そんな風に会話をしながら、迷宮の中へと入っていく。
ダンジョンの中に入り……真っ直ぐ進む道に思わず圧倒される。
「これが、迷宮か……本当に他のダンジョンと雰囲気から違うな」
「……うお、本当に遠見が使えないな。オレが普段見る時よりも範囲が狭い。それに、壁の材質だって普通と違うな……音の反響がしないのか。面倒だな」
そんな風に言いながら、ルイは壁を叩いている。まるで、白磁で作られたかのように硬質的で汚れのない道だ。
壁に沿って進んでいけば、綺麗に別れた道が出てくる。以前に行ったザントマンのダンジョンも舗装されている中身だったが、ここはどちらかと言えば狂った芸術家が一から作ったような偏執的な感じがする。
「とりあえず、分かれ道だけど……どっちに進むかだな。悩んでも仕方ないし、左手側に行くぞ」
「うん、それでいいかな。それじゃあ、アレイはどうする? 僕たちは基本的にしんがりをボクがやって、最前列をヒルデに任せる形になっているんだけど場所の希望はあるかな」
「俺はどこでもいいぞ。そっちが動きやすい場所に行く」
「うん、了解。それならルイと一緒に行動して貰えるかな? 立ち位置的にも一番無難だろうしね」
その言葉に頷きながら、4人でダンジョンを歩いて行く。
……こうして他の人間とダンジョンに行くのは初めてなので新鮮だ。いや、普段から召喚して一緒に行動しているけどもそれとは違う感覚と言ったら良いのだろうか。
と、歩きながらリートはルイを向いて声をかける。
「ルイ、どうかな? この迷宮は」
「……んー、まあ最初だから判断には困るけどよ。かなり面倒だな。まず、先が見通せないからモンスターの気配も感じにくい。出てくる種類もあんまり気配が出ないタイプだからな。難易度は低いとは聞いたけども、正直探索目当てなら相当に難しい方だぞ」
「なるほど……ヒルデ、警戒は怠らないようにね。音の反響がないらしいから、奇襲されたときにはヒルデ便りになるからさ」
その言葉にグッと腕を曲げてアピールをしているヒルデ。頼りになると笑うリートとルイ。
緊張感が残りながらも、和気藹々とした明るい雰囲気で俺達は進んでいく。
「そういえばだけどよ、アレイ」
「ん? なんだ?」
「……それなんだ? ずっと言おうか悩んでたんだけどさ」
と、ルイは俺の足下に視線を向ける。
そこにいるのは……
「……や、やっぱり変ですって……仲間の人からも言われてますし……」
アガシオンがいた。今回、とある方法によってアガシオンは地面をスムーズに動いている。
今も遅れることなく付いて来ているので問題は無い。考えた方法が成功すると気分が上がるものだ。
「アガシオンっていう召喚獣なんだが、元々移動に難があって魔法を使う時には動けなくなる欠点があるんだ。だから、こうしてみた」
さて、俺がアガシオンをどうやってカバーすることにしたのか?
方法はシンプル。
「グジュ……」
「いや、スライム潰れそうになってるぞ」
スライムに宝箱の足になって貰うという方法だ。
基本的に俺が体に張り付かせたりして移動をしているが、このダンジョンの床は摩擦の少ない作りになっている。他のダンジョンよりも地面を這いずるスライムは動きが速くなるのだ。そのおかげで、俺達の動きに遅れずについてくることが出来ている。
「大丈夫、俺のスライムは強いからな」
「ジュ、ジュル……」
「……いや、それでいいんならいいけどよ」
「うぅ……自分はも、申し訳なさが凄いです……」
ルイが微妙に引いた目でこちらを見ている。なんでだ、移動出来る固定砲台ってだけでどれだけ有用か分かるというものだろう。
それに、スライムに最初大丈夫かと聞いて大丈夫だと言う返事はあったのだ。あらためて聞いてみる。
「スライム、大丈夫だよな? 無理をしてるなら言っていいぞ」
「ジュル」
「……ほ、本当にダメなら……言った方が良いですよ……? そんな、もうなんでもやってやるみたいな……」
「……なんだろうな。全く表情がねえのに哀愁が漂っているな」
何故か味方がいない。スライム大丈夫だって言ってるのに。
リートに助けを求める視線を向けて、愛想笑いで視線をそらされた。くそう、見てろよ。実戦でこの考えの正解を見せてやるからな。
そして、初の迷宮での戦闘。真っ直ぐ歩いていると正面から這いずってきたスライムがこちらに襲いかかってきたのだ。
そして、俺の理屈の正しさを証明するためにアガシオンに指示を出したのだが……
「わわっ! 揺れて狙いが……! す、スライムさん! 止まって頂けると!」
「じゅ、ジュル」
「おい! 危ねえぞ! 射線に入ってる!」
「ちょ、ちょっとこれだと狙いづらいかな……」
――俺に大誤算があった。どうやら、スライム同士だと縄張り争いが起きてしまうらしい。
最初はヒルデに向かっていったのだが……アガシオンの足となっている俺のスライムを見つけると、一目散にこちらにやってきて喧嘩を売りに来たのだ。
このダンジョンのスライムからすると、どうやらよそ者が喧嘩を売りに来たように感じるらしい。しかし、そのせいでスライムが逃げる必要がでてしまった事。そして、味方との同士討ちのリスクが高くなってしまった事で最初の計画が崩れてしまった。
「――アガシオン、こっちに来い! スライムは逃げていろ!」
「は、はい!」
アガシオンがスライムから離れてこちらにやってくる。スライムは重みはなくなったが、そこまで速度は変わらずダンジョンスライムからギリギリの速度で逃げている。そうして、スライム同士の追いかけっこが始まる……なんだこの状況。
だが、スライムが分かりやすく動いて逃げる事によってダンジョンスライムの動きが分かりやすくなる。逃げた位置を予想したヒルデが、ダンジョンスライムを叩き潰して沈黙させる。他に敵が来ないかを警戒し、一息ついてから俺はスライムを呼び戻して3人に謝罪する。
「……すまん、まさかスライム同士が出会うとこうなるとは」
「あはは……予想外な出来事だったんだよね? なら、仕方ないさ」
ヒルデもその言葉に頷く。リートの気遣いが身に染みる。
ちなみに、ルイは思いっきり爆笑していた。くそう……やはり全部が上手くいくわけじゃないのだ。
「おい、ルイ。笑いすぎじゃねえか?」
「あはははは! いやー、アレイがあんなに自信満々だったってのに……くふっ、ははは!」
「くそう……発想は間違ってなかったんだよ。イレギュラーがあっただけだからな……!」
俺の負け惜しみにさらに笑うルイ。
次こそはスライム以外のモンスターが出てきて、動ける固定砲台という俺の考えついたコンセプトを実践してみせて、感心させてやろうと心に決めるのだった。
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