第52話 ジョニーは噂を聞く

 ――さて、酒場での食事も終わり、3人での迷宮探索の打ち合わせも終わり部屋へとやってきた。

 それぞれの個室を取ってくれていたので、一人で寝れるのは助かる。個室も丁度良いランクだ。一家に一台くらいの便利さだな、リート。


(……しかし、実際どうなるかなぁ)


 ミノタウロスの呪いに関しては、最初は冗談だと思われ本気だと分かると悩ましげな顔をしていた。

 というのも、呪いという概念は周知されている。特にモンスターや魔種と呼ばれる存在は魔力によって呪いをかけれるため、警戒するべき要素として伝わっているらしい。そして、呪いの種類や内容は未知数だからこそ実際に目の当たりにしないと判断は出来ないと言われた。

 まあ、それはそうだ。しかし、精神的な状態異常に対して効果の薄いはずのスケルトンになったミノタウロスですらあそこまで俺を狙って襲ってきたのだ。それを考えると、迷宮でミノタウロスが俺を見たらどうなるのか……ううむ。


「まあ、悩んでも仕方ないか」


 それよりも、初めて他の冒険者と一緒にダンジョン探索だ。

 なんというか、ちゃんとした冒険者になった気がする。さて、俺も迷宮に挑む際に誰を召喚して連れて行くのかを考えるとしよう。


「まずは……出すならスライムか」


 ダンジョンに出てくる敵がスライムである以上、スライムというモンスターに適した環境であると考える。ならばスライムは間違いなく出すべきだろう。あと、これはプライドの問題だが自分が一番上手くスライムを使えると自負をしている。つまり、野良スライムとの差を見せつけてやろうという魂胆もあるのだ。

 そして次だが……


(ミノタウロス対策で考えるならザントマンもありだが……まず、ザントマンは複数人で使う場合にはリスクが高いんだよな)


 砂による眠気は強制的な物だ。そのため、偶然でも前衛に居る味方に砂が入ってしまえば味方を殺す事になる。

 連携が取れていれば問題はないだろうが、今回の運用では向いていない。まず、スライムやテンタクルは目ではなく感覚器官が別だ。つまり、ほぼ無効化され幻覚の砂しか有効ではない。その幻覚も、味方に誤爆する可能性がある。出すとしても状況次第でだ。


(アガシオンは……機動力というか、動きに難はあるんだよな。でも、迷宮ならそこまで動けなくても……いや、他のメンバーと足並みを揃えられないのは問題か?)


 俺と一緒に行動しているならいいのだが、他のメンバーがいるときにアガシオンの運用は難しい部分がある。というのも、アガシオン本人が言っていたが魔力によって浮いて動いているため、移動をする際の速度は結構遅いのだ。

 早く動こうとすれば魔力の消費が激しくなり、魔法を使っている間はほぼ動けない固定砲台となっている。そういう意味では常に出して戦うには状況が難しい。俺一人であるなら何も気にしなくても良いので出しっぱなしなのだが。


「なら、バンシーか……バンシーなぁ……」


 魔力量、キツいんだよなぁ……

 ケチるのは良くないが、それでも召喚をし続けてダンジョンに潜るというのは負担が大きすぎる。それに、バンシー自体も消耗をしたくないのがある。もしもバンシーがやられてしまえばその後は使える時間が無くなってしまう。ダンジョン探索においてそれは致命的だ。


「バンシーは切り札だからな。最初から使い続けていざというときに使えない状況が一番困る」


 さて、どうするべきか……ううむ。ゴブリンが居ないというのは意外と困るな。

 俺の手持ちで一番どこでも使いやすくて、癖がないからな。だからこそ、面白い戦略にも使える存在だ。前回の貧民窟でもあの身軽さで……


「――ん? 行けるんじゃないか?」


 脳裏に閃いた。

 脳裏で検討する。これは本当に可能かどうか……不可能性ではなさそうだ。ダンジョンで試してからだが、これはいけそうだ。


「よおし! 明日が楽しみになってきたな!」


 会心のネタが出来たことでこのまま興奮して走り出しそうな気持ちを抑えつけ、俺は明日に備えて眠りにつくのだった。



 ――さて、次の日。ワクワクしながら宿の外で合流する。

 そのまま全員で歩いて行き、迷宮の近くに併設されている冒険者ギルドに行くと……そこは、驚くほど賑わいだった。


「おお、凄いな……というよりも、人種が多い」

「すげー。魚人とか初めて見たぞ」


 そこは、まるで種族の博覧会のようなレベルで沢山の種族が勢揃いしていた。

 目に見えるだけで、竜人族やドワーフ族、エルフ族も当然のことながら変わり種だと魚人やラミアまでいる。俺達の街でも居るのは居るが、ここまで多いのは初めてだ。異人種というのは適応出来ない土地もあるため、一つの場所で腰を据えることが多いのだ。


「まあ、それでもやることに変わりは無いからね。とりあえず、冒険者ギルドに手続きに行かないとね」

「ああ、そうだな」


 人混みをかき分けて冒険者ギルドに入っていく。

 そこは、俺達の街の冒険者ギルドと違ってかなり広くなっている。とはいえ、物が多いわけではない。むしろ少なく見える。カウンターはちょうど人が居ないタイミングだったらしく、すんなりと通る事が出来る。

 誰もいないカウンターに声をかける。


「すいませーん、冒険者なのですが、こちらのダンジョンに挑むための申請をして貰っても良いですか?」

「はいはい。冒険者さんね」


 奥からやってきたのは、恰幅の良いおばさんだ。ギルドの受付というよりも、酒場の女主人に見える。

 こちらを見てから、手を差し出す。握手ではなさそうだ。


「それじゃあ、紹介状は持ってる? それがないとダンジョン探索はダメだからね」

「ああ、これかな?」


 俺が受付嬢さんから貰った紹介状を差し出すと、それを確認していく。


「はい、預かるわね。ふむふむ……かなり優等な冒険者と……うん、内容的にも問題はなさそうね。じゃあ手続きを進めていくわね。それで、貴方たちは全員チーム?」

「一時的なチームでけどね。迷宮は一緒に攻略をする予定です」

「へえ、一時的ってことはあなたたち出稼ぎ?」

「いえ、珍しいダンジョンがあるから挑戦してみようと言うことになりまして――」


 自然にリートは受付のおばちゃんと世間話を始める。どう答えるか悩んでいたので、助かった。

 何の変哲も無い世間話ではあるが、情報は冒険者にとって重要だ。だからこそ、小さな会話から情報を掴んで役に立てるのも重要という。俺はできてないが。


「ここは色んな種族がいるんですね。こちらにも居ますけど、冒険者でこんなに種族がいるのは初めて見ます」

「そうね、迷宮は特殊なダンジョンだから多いのよ。誰も最下層を見たことがないから、その秘密を解き明かしたいって事で最近は盛況でね。アタシも忙しくて目が回りそうよ」

「今までは人気は無かったんですか?」


 そう言って笑っているおばちゃんに、リートはそう訊ねる。

 その質問は、どうやら聞いて欲しかったらしくそうなのよと頷いて答える。


「人気が無いというか、攻略する人は多かったわよ? それでも、ここまでじゃなかったのよねぇ。有名な冒険者達が攻略に乗りだしたのが大きいのよね」

「有名な冒険者?」

「知っているかしら? 【血の花園】っていう冒険者達なのだけど」


 ――二つ名持ち。つまり、銀等級以上だ。

 冒険者としての実績を重ねたことで憧れと恐れから付けられる呼び名。


「噂だけは……確か、吸血種のリーダーによって結成された銀等級のチームですよね?」

「そうね。本気で迷宮の謎を解き明かすっていうことで、モンスターもその子達が狩るから危険度がいつも以上に低くなるでしょう? だから、今が稼ぎ時だってことで一気になだれ込んできたのよ。それにここだけの話なんだけど……」


 そう言っておばちゃんは、他の冒険者に聞こえないように俺達にこっそり伝える。


「半分は【血の花園】に憧れて、一目会いたいって冒険者だと思うわ。全員美人で実力もあるから、人気があるのよ。だから、正直物見遊山な人も居てちょっと面倒なのよね」


 ……なるほど。ミーハーな奴らが多いという訳か。

 実際、銀等級以上の冒険者にはアイドル的な側面がある。有名な冒険者だと【竜葬騎士団】や【銀狼の帳】などは、その人気から同じような紋章や道具、武器などが真似をされて大きな商売になっている程だ。


「まあ、そんなわけで本気で攻略を狙ってるのは少ないと思うわ……はい、申請が終わりね。このままダンジョンに挑戦しても問題無いわ」

「なるほど、ありがとうございます」

「はい。それじゃあ、良い冒険をするのよ!」


 そう言って見送られ、俺達はいよいよ迷宮へと挑むのだった。

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