第51話 ジョニーは集まった

「あー、待たせたか?」

「いや、大丈夫だよ。丁度良い宿が取れたから案内するね」


 リート達と合流した俺は今回宿泊する宿に連れ立って行く。

 こうして、戻ってきたら終わっているというのは楽で良いな。もしも屋敷が使えなかった苦労をしていただろう。貸し出してくれている借金取りに感謝すべきかと考えたが、それは何か違うような気がする。


「それで、皆は息抜きは出来たかな?」

「ああ、色々とやりたいことが出来た」

「オレは微妙だったなー。良い酒もねえし、目を引くような物も大してなかったんだよ」

「それは残念だったね。ヒルデは……のんびり出来たみたいだね。良かった」


 ……まだ俺にはヒルデの感情が読み取れないが多分満足はしているようだ。

 というか、どうやって鎧の人間の機微を読み取っているのだろうか? コツを教えて貰うと感情の見えないタイプのモンスターに応用できそうだ。


「今回の宿にある酒場が評判が良いらしいからね。なんなら、お酒を頼んでも良いよ」

「お、いいのか? ……あー、でもちょっと悩むな。明日迷宮だろ? あんまり酒で感覚を鈍らせたくない」


 そんな風に言うルイ。やはり根が真面目だ。

 しかし、思っていたよりも酒好きなんだな。折角だし、どこかのタイミングで色々と世話になったお礼としてルイに酒でもプレゼントしてみるか。


「まあ、ちょっとくらいならいいんじゃないか? 気分転換をした方が結果的にいいだろ?」

「……まあそれもそうか。んじゃ、飲むか!」


 俺の発言が決め手になったのか笑顔でそう宣言する。

 そして、宿に到着。見た目は俺達の街にある宿と同じような位の規模だが、酒場の喧噪と人の出入りが激しい。


「……凄いな」

「冒険者や商人がお客として多いからねー。評判が良いとすぐに人が集まるんだって。ああ、ちゃんと予約は取ってるから席はあるよ。こっちこっち」


 リートは店員に声をかけて、奥にあった四人掛けの席に座る。

 俺達も席に座ると料理を注文。ルイはオススメの酒を頼み、料理が来るまでの時間が生まれる。


「さてと……他に注文はないかな?」

「こんなもんでいいだろ。追加で欲しけりゃ注文するし。それよりもだ……ちゃんと迷宮の情報収集もしたんだろ? リート、どんなダンジョンか教えろー!」

「はいはい。さてと、ルイの言うとおり、宿探しと一緒に迷宮に関する情報を集めてきたんだけど……本当に特殊なダンジョンっていうことは分かったよ。まず、3層程度のダンジョンだけど広さが膨大だ。普通のダンジョンの倍近い長さになってる。さらに、部屋の中ですら迷路になっているんだよね」


 その言葉に、全員が首を捻る。

 いわば通路と小部屋に分かれて構成されるダンジョンにおいて部屋が迷路になっているはイメージがしにくい。


「実際に見てみないと確実なことは言えないけど……どうにも、どうやら構造的に殆どが通路のような状態になっているらしいんだ。だから、休息をしたりするのも通路の途中で休むことになる」

「……それ、モンスターはどこで住むんだ?」


 ダンジョンに居るモンスターというのは、発生した後にはちゃんとダンジョンで拠点を作って冒険者を待つのだ。

 召喚術で、召喚した後に消したりするよりも出しっぱなしの方がコストが低いのと同じだ。モンスターはダンジョン内の魔力を供給して生きていけるので食事は必要が無いのだがそれでも睡眠などは必要になる。


「それが、モンスターも迷宮で迷って徘徊しているんだ」

「……は? 冒険者だけじゃなくて、モンスターも迷っているのか?」

「バカじゃねえの? そのダンジョン」


 ルイの呆れたような言葉に、思わず同意する。

 自分の領域を守るためにモンスターを作る。しかし、その守るための兵隊が迷っていたら守れる物も守れないではないか。それに、ダンジョンにとっては外から来る冒険者というのは餌だ。それを食えないとなるとまず招き入れる意味が無い。


「だから、変わったダンジョンなんだよ。とはいえ、実際にモンスターを迷わせているけども最下層の部屋まで誰も辿り着けていないから、それでいいのかもね」

「それで、旨みがあるのか?」

「うん。むしろ出てくるモンスターや魔石の質は悪くない。だから冒険者になったばかりの人間でも安全に稼げるって場所なんだ。とはいえ、あんまりにも特殊なダンジョンすぎるからここになれると他のダンジョンに行けないなんて言われるくらいだけどね」


 ……聞けば聞くほど、冒険者達に対してメリットしか無いダンジョンだ。

 何やら怪しい気もするが、これだけの人間が挑戦し続けても攻略されずにそれを中心として発展している街がある以上、このダンジョンの秘密があったとしてもどの段階で爆発する爆弾なのかは分からない。なら、気にしても仕方ないのだろう。


「それで、厄介なのは……遠見に関連する能力が使えないらしいんだ。まあ、迷宮と呼ばれているだけはあるね。魔力によって壁があるらしくてね。先を見通せないんだ」

「いや、それだとオレの仕事はどうなるんだ?」

「まあ、目視出来る範囲でも罠もあるし出会い頭にモンスターに出会う事もあるだろうからね。それに、迷宮は広いけども入り組んでいるから他の冒険者に遭遇する事もあるから仕事は十分あるよ」

「……まあ、それならいいか。息抜きで良い場所が無かったのに仕事がたいして無いって言われたら最悪だったぞ」


 ルイはそういって安心したような表情を見せる。

 まあ、ダンジョンを楽しみにしているし自分の仕事がないとなると不満だあろうな。


「あはは、張り切ってるね。大丈夫、ルイに頼る事になるからちゃんと良い所を見せるのは――」

「料理が来たぞ!」


 何かをリートが言おうとしたのを大声で遮るルイ。確かに丁度料理が来たが、そんな遮るような場面だったか? と疑問が浮かぶ。

 全員の料理がやってきて、それぞれ料理を食べながらリートは先ほどの迷宮の話について続ける。


「それで、迷宮の話の続きなんだけど……中に居るモンスターだけど基本的にはスライムやテンタクルがメインらしいね」

「スライムか、珍しいな。ダンジョンに出てくるスライムってどう戦うのが正解なんだ?」

「どうも、進化してる個体らしくて分裂して増えるらしいんだよね。対処法か……そういえば、アレイはスライムを召喚獣にしてたよね? それなら、スライムの対処も何か分かったりする?」

「分裂か。そうだな……基本的に打撃にも斬撃にもそこそこ耐えるはずだが、毒には弱いはずだ。あと、分裂にも限界があるからある一定以上のサイズまでバラバラに出来たら無力化は簡単なはずだぞ」


 普通のスライムよりも強いかもしれないが、ダンジョンに居るようなスライムには知性はない。モンスターとしてのスライムなど、いわば魔力の粘菌のようなものだ。指示を聞いて動ける俺のスライムとは比べものにならない。

 俺の言葉に感心したような表情を見せる三人。


「本当に詳しいんだな。それも、召喚術士としての知識なのか?」

「それもあるし、元々俺は学園出身だからモンスターの勉強をしたことがあるんだよ。まあ、時間がある時に冒険者ギルドで資料を貸して貰って読んでたりする」

「へえ、凄いね。僕たちは結構モンスターが何をしてくるか手探りな時も多いから助かるよ」


 そう言われて悪い気はしない。モンスターの情報というのは手間も掛かり、情報も多いのであまり詳しくない冒険者も多いからな。だから、ザントマンのような初見殺しで帰ってこない奴らも多い。冒険者ギルドの資料も、文字が読めないと意味が無いからなぁ。

 ちなみにテンタクルは触手生物だ。ダンジョンの触手というと特殊な嗜好を持ってるように思えるが見た目はイソギンチャクに近いし、絡みついて絞め殺して捕食する危険な生物なので夢はない。


「あと、他のモンスターといったら……ミノタウロスがいるくらいかな? まあ、絡め手とか使ってこないから一番楽かもね。ミノタウロスは群れないから単体で戦ってくるだろうし」

「えっ、ミノタウロスって言ったか?」

「ん? どうしたの?」


 ……ミノタウロス。それを聞いて嫌な予感がする。

 さて、このいつの間にか身に受けてしまったらしいミノタウロスの呪いとやらをどう説明するか。それに悩ませるのだった。

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