第50話 ジョニーは見て回る

「この宝箱なんてどうだ? どっちかと言えば地味めかもしれないが」

「うーん……確かに、これいいかも……なんというか、作りが丁寧で……イメージのせいで華美な宝箱になっちゃったんですけど、こういうのもいいですね……」

「まあ、かなり材質も丈夫そうだな」

「そうですね……悩みます」


 結局探し回って、骨董市のような場所を見つけてそこで売っていた宝箱を見る事にした。

 冒険者の街だけあって、様々な物が多く売られている。この骨董市など、冒険者が見つけてきた様々なガラクタも買い取るせいか品揃えが混沌としていて何の店なのか首を捻ってしまいそうだ。

 しかし、こうしてみると不思議なモンスターだな。アガシオンというのは。


「本体は宝箱の中で良いんだよな? アガシオンは」

「えっ? は、はい。自分の体はこの魔力体です。基本的に、魔力体を維持する力が無いので物質を介して存在を確定させているのがアガシオンなので」

「ふむ……なら、その中身ってどんな見た目なんだ?」


 実は、アガシオンのちゃんとした姿は見たことがない。

 アガシオンだったときも、壺の中から見えてる目と口。後ついでにたまにモヤみたいな手が出てくるくらいだ。全容というのは見たことがない。アガシオンっていうかミミックだよなぁと思いながら聞いてみる。


「えーっと、中身……うーん……難しい質問です。魔力で擬似的な形になっている幽霊みたいな存在なので……多分、イメージとしてはあれが近いかも……」

「あれ?」

「ゴーストって見たことありますか? ゴーストも体を魔力で作っているんですが、発生の過程が違うので物質に取り憑かなくても体を維持できるんです。見た目としてもそれが一番近いですかね……?」


 ゴーストか。実物を見たことがないが情報は知っている。魔力による幽体を持ったモンスターでありモヤのような姿をしているらしい。つまり、アガシオンも入れ物がないとそういう姿なのか。

 割と勉強になる話を聞いた。アガシオンというのは決まった形を今は持っている訳じゃないのか……ふうむ。


「どうして急にそんなことを?」

「いや、ふと思ったんだが……入れ物である人型の器を作ってそこに入る事は出来るのかと思ってな」


 目線の先には、どこで拾ってきたんだと思うような人型の人形。サイズ的には俺の背丈の半分くらいの小さな物だ。あくまでも人型にしているだけで目鼻もない簡素なものだが、作り自体は丈夫そうだ。

 ……これ、いけるか? 入って動かすとか。


「……いやいや!? 無理ですよ!? 人形の体を持っているのはゴーレムですよね!? 自分には出来ませんよ!?」

「出来ないのか? 試してないんだろ?」

「た、試してませんけど……む、無理です! 宝箱だって魔力で無理矢理動かしてるだけですから。人形に入っても人間みたいな動きは出来ませんよ!? それどころか動くのも難しいですから!」

「そうなのか。それは残念だ」


 ちょっと面白そうだったんだがなぁ……アガシオンで動かすロボットみたいな感じの。やはり、人型の人形が動くというのはロマンがあるし面白いからな。

 そんなちょっとした計画を断念しつつ、最初に見ていた質素ながら丈夫な作りの宝箱を選んだ。買おうと思って店主を呼んでみる。


「すいません、ちょっと会計いいですか?」

「はいよ」


 強面の店員から会計をして宝箱を売って貰った。流石に、捨て値みたいな値段だ。実際、宝箱を家にインテリアに置こうという場所でもない。わざわざ他の街に運ぶようなものでもないからな。ついでにこっそりと人形の値段を聞いてその価格を払う。いずれ試そう。

 そして、アガシオンに宝箱を渡すとアガシオンはそのまま目にも止まらぬ早さで中身を移動していく。残された今までの宝箱はそのまま崩れていき、気づけば新しい宝箱にアガシオンが入って動き始めた。


「……ありがとうございます、召喚術士さん! 凄く良い宝箱です!」

「それなら良かった。ところで、宝箱以外にも他には入れそうなものって……」

「いやいや、無理ですからね!?」


 にべもなく断られる。普段、押したら言うことを聞くアガシオンがここまで拒否をするなら無理なのかもしれない。とはいえ、試したことはないという言質は取った。

 いずれ、なんとかしてアガシオンに試して貰おうと思うのだった。



 買い物を終わりアガシオンを送還した。

 そろそろ集合場所に戻るかと思い、ゴブリンを呼ぶため鍛冶屋にやってきたのだが……


「頼ム! 召喚術士!」

「……ううむ」


 目の前で俺に対して頭を下げているゴブリン。なんとも困った提案をされていた。

 俺に頭を下げるゴブリンと一緒に、店主も真剣な表情を浮かべて同じように俺に頼み込む。


「なあ、兄ちゃん。このゴブリンの言うことを聞いてやってくれねえか? こんだけ熱意を持ってる奴は珍しい。それにセンスもあるからな」

「そうなんですか?」

「ああ。少なくとも、鍛冶道具を扱わせても器用に使えるし知識も豊富だ。正直、鍛えりゃかなり物になると思う」


 さて、何を頼まれているかといえば……ゴブリンが鍛冶屋の弟子入りをしたいという話だ。

 いずれはそんな話になるときが来るだろうとは思っていた。とはいえ、まさかこんな短い時間での鍛冶屋の見学でそんな話に発展するとは思わなかった。


「セメテ、コノ街ニ居ル間ダケデ良イ! 頼ム!」

「……あー、どうするか」


 さて、ここまで悩むのなら弟子入りは駄目といえば良いと思うだろう。

 しかし、それは無理な理由がある。


(この提案、契約の関係上は断れないんだよなぁ。ゴブリンはあんまり意識してないみたいだけど)


 最初にした契約の内容で、ゴブリンは鍛冶という目的で俺に協力してくれている。その鍛冶に関する目的に対して無理矢理留めようとするのは契約不履行でペナルティを食らう。

 だから、個人的にはゴブリンが望むようにすれば良いと持っている。そのために複数召喚しているのだから。なら、何を渋っているのかと言えば……


「鍛冶屋で見て貰うのは良いんだが……召喚しっぱなしだと、俺の魔力の問題があるんだ。それをどうするかなんだよな」


 召喚を続けている間は魔力を常に食い続ける。

 ダンジョンに潜っている最中に召喚獣一枠分のリソースというのはかなり貴重だ。そういう意味で、召喚し続けるのに対して躊躇いがでる。


「ム、ソウカ……ソレナラ、俺ノ魔石ヲ使ウ」

「魔石っていうと……俺が渡した魔石か?」

「アア。貰ッタ魔石ノ魔力デ、シバラクハ自分デ体ヲ保テルハズダ」


 ……どうやら、俺が渡した魔石で貯蓄していた魔力を使って無理矢理に俺の魔力供給無しで体を留めるつもりらしい。

 かなりの無茶な方法だが、不可能ではない。初心者ダンジョンでゴブリンとフェアリーが運んだときも同じようにしていた。とはいえ、それでも限界はあるし問題がある。


「大丈夫か? 魔石って言っても俺が渡した魔石なんて屑石だったからそこまで多くないはずだ。折角貯めてたんだろ? 流石に数日も体を維持できるとは思わないんだが」

「大丈夫ダ。コウイウ時ノ為ニ貯メテイタ。無駄使イハシテナイカラ、足リルハズダ。今ガ使イ時ダロウ」

(……おお、今のはビビッと来た)


 ゴブリンの言葉は俺の琴線に触れた。使い時というのはなんとも素晴らしい言葉だ。


(貯めていたリソースを迷い無く使う場面を選べる……ううむ、俺も反省しないと行けないな。まさか、ゴブリンからこんな風に教えて貰うとは)


 リソースは大切だが、大切にしすぎるというのは使い所を失っている。安心のための無駄な貯蓄になってしまう。

 貴重な回復アイテムを最後まで……いや、最後になっても使えない。貯蓄がないと次の育成を出来ない。そういうダメもったいない精神エリクサー症候群に慢性的に苛まれる事がある人間が多いのだがゴブリンはそれを見定めていた。

 自分にも覚えがあるからこそ、感銘を受けた。


「よし、ゴブリンがそこまでの覚悟なら……俺もこれを渡そう」


 そういって、懐から取り出したのはちょっとサイズの大きい魔石だ。

 これは以前にダンジョンで拾った魔石なのだが、現金化をするのが間に合わずにいずれどこかで使うか換金出来るだろうと保管していた物だ。しかし、これをゴブリンに渡す。


「……イイノカ?」

「ああ。お前も頑張ってくれたしな。少なくとも、ダンジョン探索が終わるまでは持つと思う」


 なんというか、見込みのあるプレイヤーに構って色々と教えたくなったり貴重なカードやらを渡す感覚だ。

 いずれ俺にもプラスになり、全員が幸せになるので必要な投資だと納得させる。いや、無駄使いというか衝動的な理由だけど。


「アリガトウ! 俺、シッカリト学ンデイク!」

「おう、兄ちゃん! 気前が良いな! それじゃあ、このゴブリンは借りるぜ! 色々と教えてやらないとだからな!」

「ヨロシク頼ム、師匠!」

「俺の指導は厳しいぜ! 付いてこいよ!」


 ……俺を放置して、すっかり二人で自分たちの世界に入り込んでしまった

 まあ、楽しそうだからいいかと俺はゴブリンへの召喚符からの魔力供給を絶ってから集合場所に向かうのだった。

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