第49話 ジョニーは辿り着いた

 快適な馬車の旅、野営を繰り返しながらも疲れをためる事無く数日の道中を特にトラブルなく進行することが出来た。

 そして、夜が明けてきた時間に振動と共に止まり、外から声が聞こえる。


「お客様! 到着しましたよ! ここが、迷宮の街であるレタの街です!」

「お、やっとか」

「うー、流石に体がなまりそうだなったなぁ」

「まあまあ、そう言っても安い馬車で体を痛める場合もあるから良かったじゃないか」


 そんな言葉と共に、馬車を降りる。

 外では日の光が差して、街が徐々に盛り上がりを見せている状態だ。数日の旅ではあるが、やはりこうして街を遠く離れた場所に来ると新鮮な気分だ。


「馬車の運転ありがとうございました。それで、この後はどうされるんですか?」

「ええ。とりあえず捕まえていた野盗達をちょっと引き渡しに行ってくる予定で。それで懸賞金なのですが……」

「ええ。折半で良いですよ。そちらも商品が壊れたり野盗達の食事などで負担が大きかったでしょうから」


 リートの言葉に、パッと表情を明るくする御者。

 実際、損はしてないが本来の儲けよりも随分と少なくなっていたのだろう。何度も頭を下げながら感謝している。


「では、明日にこちらに受け取りに来ます。それでいいですかね?」

「ええ! 本当に助かります! いやあ、冒険者というのは乱暴な人も多いんですが……お客さん達のような人を送れて光栄ですよ! それでは良い冒険を!」


 そう言って御者は野盗達を押し込んでいる馬車を連れてそのまま引き取りに去って行った。

 さて、懸賞金を御者に渡す事に関しては道中で話して決定したことだ。


「アレイさん、すいません。無理を言って」

「いやいや、ちゃんと理由を聞いて納得した事だから良いさ」


 別に善意で懸賞金を半分渡しているわけではない。行きの馬車での快適さのせいで帰りの馬車のランクを落としたくないのだ。

 なので、ここで恩を売っておく事で優先的に良い馬車を回して貰えるようにしようと考えているのだ。人間、良い環境を経験した後に下げるのは難しいとこちらの世界でも実感する。と、それはそうとしてだ。


「しかし、ようやく到着したな。他の街に来たの初めてだから新鮮だ」

「僕も初めて来ましたけど、随分と活気がありますね」


 その言葉に頷く。活気があると言うが、どちらかと言えば騒がしい寄りだ。

 街の規模としては、俺達の拠点にしている街よりも小さい。しかし、そこら中で飛び交う行商人が売り出すための呼び声、冒険者同士の喧噪。酒場では、ダンジョン帰りの自慢話や喧嘩で大騒ぎ。

 俺達の街はあくまでもダンジョンがメインというわけではない。王都ほどではないが、普通の町人の方が人口が多い街だ。


「なるほど。これが冒険者需要で成り立ってる街ってわけか」

「だなー。オレが聞いた奴も、冒険者と出入りの商人が主だから気を遣うことがなくて楽だって行ってたぞ」


 屋敷住まいの俺に関わりは無いので気にしたことはないが、冒険者と地元住人のトラブルは多い。住んでいる地域住人に気を遣う事が多いそうだ。

 だから、こういう冒険者だけで経済が回るような街は普通の街にはない活気がある。


「でも、ルイ。気をつけろよ。喧嘩とかすんなよ?」

「しねえよ! 人をなんだと思ってんだ!」


 そう言うが、俺は知っている。

 リート達からのタレコミで、酒場で二件ほど大喧嘩をして出入り禁止になりかけたという話を。


「あはは、まあ気をつけてね。それじゃあ、今日の宿を探してくるよ。みんな自由行動で良いかな?」

「ああ。それでいいけど、集合はどうするんだ?」

「そうだな……アレイさんもいるし、日が暮れたらここにもう一度集合で。それとルイ、無駄遣いはしないようにね?」

「おい、子供扱いすんな!」


 そんな微笑ましいやり取りをするルイとリート。

 とはいえ、リートに色々と任せていたような気がするな。


「リート、いいのか? 俺も宿探しを手伝うぞ」

「ああ、気にしてくれてありがとう。大丈夫だよ。僕たちのチームって交渉担当が僕になるからいつものことなんだ。まず、ルイは宿探しは苦手なんだよね。とりあえず寝れたらどこでも良いってタイプだから。で、ヒルデは当然ながら宿探しは無理だからね。だから僕が探すのがいつものことだから大丈夫だよ。それに、こういう交渉って大人数よりも一人の方が楽なんだよね」

「そうか、そういう事なら頼む」

「うん。もしも頼る事があったら僕の方からお願いするよ」


 そんなやり取りをしてから、リートはそのまま宿屋を探しに歩いて行く。それを見送ってから、俺達もそれぞれ自分たちの興味のある場所へと向かうために別れる。

 ――さて、俺も初めて来た街だからな。折角だから色々と見て回るとしようか。



「オオ……コレガ鍛冶……! 本場ノ迫力ダ……!」

「すいません、無理を言って」


 さて、俺はまず頑張っていたゴブリンの労いもかねて鍛冶屋にやってきた。

 随分と待たせてしまったが、契約したというのにダンジョン巡りやらがメインになってしまって全員の要求を叶える機会が場所がなかったこともありこの機会にモンスター達の希望を叶えようと思ったのだ。

 俺の言葉に、この鍛冶屋の店主であるらしいオーガの大男は笑顔で答える。


「いいってことよ! ゴブリンだろうがなんだろうが、鍛冶に興味があるなら大歓迎だ! センスがあるかは分からんが、なんならちょっとくらいは適正を見ても良いぞ!」

「いいんですか? 忙しいんじゃ」


 そう聞くと、笑いながら店主は答える。


「はは、この迷宮はそこまでモンスターが強いわけじゃないからな! だから鍛冶の仕事はそこまで詰まってねえんだ! オーダーメイドをするならもっと別の場所で頼む奴も多いからな!」


 ……反応に困るが、それでもキラキラとしたゴブリンの目はここで是非とも学んでみたいといっていた。

 契約でもちゃんと決めていたことだ。俺に期待するような視線を向けるゴブリンに頷く。


「……召喚術士! 本当ニイイノカ!?」

「ああ、構わない。最近はずっと頼りきりだったからな。問題ないぞ」

「感謝スル!」


 今まで見たことがないくらいに喜びながら鍛冶屋の店主に色々と話しかけている。

 ゴブリンはしばらくは反応できないだろうが……まあ、それなら後で様子を見に来れば良いだろう。一言だけ言い残してから鍛冶屋を出て、次はアガシオンを召喚する。


「あっ、召喚ですか? ……ええっと、何をすれば良いんでしょうか?」

「ああ。そういう目的じゃない。この前の貧民窟の騒動で壊した宝箱の代わりを探しに行こうかと思ってな。ちゃんと見た方が良いだろ?」

「えっ、い、いいんですか!?」


 驚くアガシオン。壊れてから実は良い物が見つからず治していなかった。魔力によって継ぎ接ぎで補強していたのだが、折角なら新しい宝箱を見つけようと言うことにした。

 さて、アガシオンの入っている依代だが……物質を取り込むことで変化をする。今の宝箱は、過去に収集した魔具の一種らしい。モンスターは物質を取り込むことで姿形を変えることもあるのだとか。だから、実物の宝箱を買ってそれを取り込めばアップデート出来る。

 別に強さに関わるわけではないが、気分は大切だ。パフォーマンスに影響するし。


「しかし、宝箱ってどこを見れば良いんだ? というか、売ってる物なのか?」

「え、えっと……どうですかね?」


 二人で首をかしげながら、どこかに売ってないかを探しに行くのだった。

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