第48話 ジョニーは対処する
「おい、金目の物を出せば命は助けてやる! キリキリ動け!」
「お頭! こっちはまあまあ金目のもんがありましたぜ!」
外を覗くと、そこには十数人の大所帯な野盗が馬車を止めて囲んでいた。俺達以外の馬車も狙われていたようで乗っていたらしい人たちが怯えている。
野盗達の武器を確認。あまり統一されていないようで、弓だったり剣だったりと様々な武器。あまり手入れをされているようには見えない。俺の上から一緒に覗いていたルイに、リートが訊ねる。
「どうですか?」
「んー、まあ装備は大した事はない。動きも手慣れてるけど別に戦い慣れてる奴らの動きじゃないかな」
「アレイさんはどうします?」
迷いなく、リート達は武器の準備をしている。
どうやら、野盗達を撃退するつもりらしい。一応、聞いてみる。
「頼まれてないけど、追い払うのか?」
「ええ。折角の馬車の旅を邪魔されたのもありますし、見過ごす理由もないですからね。それと、ちゃんとしかるべき場所に引き渡せば懸賞金が貰えますからね。損はないですよ。それで、アレイさんは……」
「やる。報酬は頭割りでいいか?」
困窮していなくても稼げるならやるしかない。
それに、こうして小さくでも稼いでおげばティータへのお土産もたんまりと買って帰れるだろう。
「え、ええ。それで問題ないですよ。それじゃあ、迷宮前に前哨戦で野盗退治ですね」
「はは、先に報酬の話からとかがっつきすぎだと思われんぞ、アレイ。んじゃ、行くか」
そう言うと、ルイは弓を構えて放つ。
放たれた矢は、御者を脅していた野盗の一人の足を的確に打ち抜いた。
「ぎゃっ! ぐっ、て、敵襲だぁ!」
「おい、敵だと!?」
「どこだ!? お前ら、武器を構えろ! ぶっ殺せ!」
突然の攻撃に混乱して烏合の衆という有様になっている。だが、数人の野盗は声が掛かる前に武器を構えて周囲を警戒している。戦い慣れている奴らがいるようだ。
その喧噪を見ながら、リートは涼しげな顔のまま呟く。
「よし、野盗達もだいぶ混乱してるね。そろそろ僕も出ようか」
そうして、馬車の荷台から降り立った勢いのままリートは剣を手に取って武器を構えていた野盗に向かっていく。
突如として距離を詰めたリートに気づいた野盗は構えて攻撃を受ける構えを取るが……そのまま、一閃をすると剣を叩き折って野盗の体を一刀に伏した。
リートによって剣を叩き折られた野盗は悲鳴を上げながら地面に倒れて動かなくなる。
「……死んでないか、あれ?」
「んー? ああ、鞘に入れてるから死なないと思うぞ。骨が折れただろうから、しばらくは動けないだろうけどな」
……鞘に入れて剣を叩き折る抜刀術というのは怖いな。
その上で死なないようにちゃんと手加減はしているというのも恐ろしい。しかし、こうしてみていて地面で痛みに呻くことすら出来ず痙攣している野盗を見ると斬られた方が苦痛が少なかったんじゃないかと思ってしまう。
と、ヒルデも馬車から出ていく。
「うおっ!? なんだ!? 化け物か!?」
「おい、先にコッチだ! 丸腰の鎧を殺せ!」
そういって、数人の野盗は武器を持ってヒルデを狙って武器を振るう。
そんな野盗達相手にヒルデは武器を持たずに向かっていった。
「おい、武器は――」
「うりゃあああ!」
大剣を振りかぶった野盗が、ヒルデに斬りかかる。そして、その剣をヒルデは掴んで受け止めていた。
……それも、片手で。
「……は? 嘘だろ?」
自分の渾身の一撃を片手で止められた野盗は呆気にとられた顔でそう呟く。
そのまま、剣を奪って投げ捨て、男を持ち上げて……地面に叩き付けた。
完璧に目を回している。その間にも、他の野盗達が槍や弓で援護をしているが黒い鎧は全てを弾き傷すら付かない。鎧の性能もそうだが、ヒルデのフィジカルが異常だ。
「……圧倒的だな」
「だろ? ヒルデは普段からモンスター相手の盾をしてるからな。人間相手、それも野盗程度にゃ負けたりしねえよ」
納得できるような、納得しづらいようなことを言われる。しかし、こうしてみればダンジョンでの役割もはっきり分かってくる。
ヒルデが相手の注目を引いて攻撃を正面から受け、リートは敵の攻撃をかいくぐりながら一撃を与える。ルイは後方からの援護で戦場をコントロールする。完成度の高い戦術だ。これなら、確かに他のメンバーを必要とせずに戦えるのも分かる。
十数人居た野盗はすでに半分以上が沈黙している。残った野盗も逃げ出している奴がいる始末だ。
「クソ! 化け物共が! おい! 人質を取れ!」
「おい! 止まれ! コイツがどうなってもいいのか!」
「ちっ、面倒な事をしようとしてるな」
「俺に任せてくれ。仕事しないとな」
叫んでいる野盗達は隠れていた御者を人質として掴んで剣で脅している。
さて、生け捕りにしつつ御者には被害を及ぼさないようにとなると……よし、誰を呼ぶか決めて召喚符に魔力を込めて召喚をする。
「ム、出番カ?」
「わわっ!?」
アガシオンとゴブリンを呼び出す。
さて、何故この二人かというと……
「よし、アガシオン。ゴブリンを魔法でアイツらの所に飛ばせるか? 魔力を足場にして、砲台みたいに打ち出すイメージなんだが」
「エ? ドウイウコトダ、召喚術士」
「えっと……多分、で、出来ます」
困惑するゴブリンだが、アガシオンが出来ると答えたのならやることは一つだ。
「よし。それじゃあ……ゴブリン大砲。行ってみるか」
先日のスライムを足場にした動きから、多分出来るんじゃないかと思っていたのだ。
ということで、物は試しだ。
「アガシオン、あっちの男達に向けてゴブリンを発射してくれ。ゴブリンは、あの男達をぶっ倒して襲われている方には怪我をさせないようにな。魔力でカバーはしておく。よし、行け!」
「い、行きます!」
「モウチョット心ノ準備ヲ――」
突発的な事態なので準備は無理ということでアガシオンに魔力を送る。
アガシオンの魔力によって、ゴブリンはまるでサーフィンでもしているかのように体を揺らしながら浮き上がる。
そして、そのまま野盗達の方向に向けて勢いよく射出されていく。
「グウ! コレモ、オマエラノセイダ! 覚悟シロ!」
「なんだ……!? ご、ゴブリン!?」
野盗達は突如として飛来してきた何かを見て気を取られ、更にそれがモンスターであるゴブリンだったことで仰天している。
やはり、こういった場面では虚を突くのは有用だ。下手に反応して思考する余地を与えると人質に危害が及ぶかもしれない。高速で飛んできたゴブリンという異常事態によって相手の思考を奪うのだ。まあ、ちょっと面白そうだからやってみたかったのはある。
「クラエッ!」
「ぐぎゃっ!」
「おい、そこの人! 今のうちにこっちに逃げてこい!」
そのまま跳び蹴りの要領で人質を取っていた男をゴブリンが蹴り飛ばす。そして、御者に声をかける。
人質に取られていた御者も気づいて慌てて逃げてくる。どうやら怪我はなさそうだ。
「大丈夫か? こっちだ」
「あ、ああ……ありがとう。冒険者達か? 本当に助かったよ……」
恐らく、情報が多すぎていっぱいいっぱいなのか助けられたことだけを感謝して疲れた表情を浮かべている御者。
そしてゴブリンを飛ばした先の野盗はゴブリンが立ち回りながらアガシオンが魔法で援護をしている。モンスター相手の戦い方に慣れていない野盗は対処に手こずっている間に他の野盗を黙らせたリート達に同じように倒される。
そうして、形勢不利を悟った野盗が逃げ出して御者達も解放される。残ったのは、地面で呻きながら痛みを訴えている野盗達と騒動が終わって安心している御者だけになった。
「――お疲れ様。アレイさんもありがとう」
「あんまり仕事してないけどな」
「いやいや、人質を助けてくれたんだろう? ゴブリンもありがとうね」
「アア、苦労シタ」
わざわざゴブリンにもお礼を言うリート。
ゴブリンはちょっと疲れたような表情だ。とはいえ、精神的な物だろう。ダンジョンでは使えないが、地上で奇襲をするときにはまた使ってみたい所だ。ゴブリン砲台。
と、俺達を乗せてくれていた馬車の御者の人たちがこちらにやってくる。
「冒険者さん達、助かりました……まさか野盗が出てくるとは。わざわざ頼んでいないのに守って頂いてすいません」
そんな言葉に、リートが笑顔で応じる。
「いえいえ、とんでもない。それにしても、野盗だなんて災難でしたね。よくあることなんですか?」
「まさか! 普段はこの道は安全なんですよ。だから、ここで野盗なんて珍しいどころか初めて見た程なのですが……運が悪いのか、それとも冒険者さん達が居て運が良いのか分かりませんね……」
「それなら仕方ありませんよ。今日はたまたま運が悪かったということです」
「そう言って頂けると……ああ、そうだ。忘れる所でした」
そう言ってから、御者が声をかけるとひときわ大きな馬車がやってくる。
馬も育ちの良さそうな立派な馬で、引いている荷台は荷台というよりも人が住むような小さな住居のようにすら見える。
「今回のお礼代わりです。あまり私たちも襲われて壊れた商品などもあって、出せる物がありませんので……こちらの馬車で目的地までお送りしますよ。普段は動かさないような、高級馬車なのですが動かす予定があって連れてきていたんです」
「いいんですか? こんなに良い馬車に乗せて貰って」
「ええ。助けてもらわなければこの馬車も残っていませんでしたからね」
そういう御者の行為に、頷いて全員で乗せて貰う。
「うおおお! ふかふかだぞ! このクッション!」
「馬車なのに、火を使う設備もあるのか……凄いなぁ」
「……多分貴族とかが使う奴だぞ、これ」
トラブルによって乗ることが出来た馬車は俺が過去に乗った馬車よりも豪華な物だ。もしかしたら、これを動かす予定があったから連れてきていたのかもしれない。
そうして、迷宮までの道を俺達はふかふかのクッション、温かい飲み物などを飲みながら快適に進む事になるのだった。
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