第47話 ジョニーは旅立つ

 馬車乗り場にやってくると、すでにルイ達は集合地点に集まっていた。

 この世界の移動は基本的に徒歩か馬車だ。色々と開発されているらしいが、ダンジョンや魔種……いわゆるモンスターの存在が普及しない理由の一つだとか。まあそれはそれとしてだ。


「俺が最後か? すまん、待たせたみたいだな」

「おう。でもちゃんと時間前だ。ちゃんと間に合ってるぞ! ちゃんとしてるな!」


 そう言ってルイに背中を叩かれる。

 ……時間前に来るだけで褒められるって相当ラインを低く見積もられているのか。とはいえ、冒険者なんてそんなもんか。


「それで、どの馬車に乗るんだ?」

「まあ、あまり高い馬車じゃないですがあちらの馬車に乗せて貰うことになりました。あまり無駄使いを出来る程ではないですので……」

「もしイヤなら変えるか?」

「いや、大丈夫だ。むしろ俺もあんまり予算の余裕はないから」


 そうして指さした馬車は確かに一般的な荷物を運ぶような馬車だ。

 とはいえ、やはり金がなければ良い馬車には乗れない。本当に金欠の冒険者だと、山ほど詰まれた荷物として運んで貰う場合すらあるらしい。

 それに比べれば、人がちゃんとくつろげるスペースがあるだけマシだろう。


「それなら良かった。それじゃあ、出発しましょうか。そろそろ馬車が出発する時間らしいので待たせるの申し訳ないですからね」

「そうだな。それじゃあ、短い道中だけどよろしく頼む」

「おう、それじゃあ楽しい馬車の旅だな!」


 そう言って一番に馬車へと飛び乗ったルイ。

 それをまるで妹を見るかのような優しい顔で見ながらルークが乗り、それに続いてヒルデも乗り込む。

 こうして団体行動をするのも初めてかもしれないと思いながら、俺もその馬車に乗り込み出発するのだった。



 馬車に揺られながら馬車の幌から見える風景を楽しみならが、俺達は交友を深めるために会話をしていた。

 会話の内容は、主に俺がリート達のパーティーが結成するまでの過去の話だ。俺の話に関しては気を遣ってか聞かずに話してくれていた。そういう気遣いが良いチームの秘訣なのかもしれない。


「――というわけで、僕の家で長男がいずれ独立をするからということで、僕と弟でどちらかが実家の鍛冶屋を継ぐって言う話になったんですよ。で、弟は王宮の兵士になりたいと。昔から力が強くて運動も得意な弟よりは、鍛冶の才能は無くても愛想くらいはあって大して力も強くない僕が継ぐんだろうなぁと子供心に考えてたわけです」


 さて、出会いまでの話だが……リートは鍛冶屋の実家を継ぐという話を小さい頃に悩んでいたらしい。

 この世界で家業を継ぐかどうかは子供の数次第だ。俺などは一人っ子なので家を継ぐ事が決まっていた。そのための勉強も準備も学園ではしていたのだ。まあ、借金で全部ご破算になったんだが。ははは、笑えねえよ。


「でも、実家を継ぐ選択肢が変わったのか」

「そうですね。あれはいつだったかな……その日も、いつものように実家の鍛冶屋の手伝いを終わらせてから暇になったので街まで遊びに行って……そこで出会ったんですよね。ルイとヒルデに」

「あー、懐かしいな。あんときにはボーッとした奴がいるなーって認識だったんだよ」


 ルイもそう言って昔に思いを馳せるように目を細めている。


「それで巻き込まれたこっちも良い迷惑でしたよ、本当に……それで、ルイはヒルデを連れて逃げ回っていたんですけど……近くのゴミ箱の中へ隠れようとしてる所を僕が見つけてしまって、それで居場所を漏らされるわけには行かないと僕まで巻き込まれたんですよね。で、そのままなし崩し的に巻き込まれながら一緒に逃げ回りながら街を観光する事になったんですよね。いやあ、あの時は肝が冷えました」

「なんでルイは逃げてたんだ?」

「表に遊びに来たら、なんか嫌がってるのに大人達に連れてかれそうになってる子供が居たから、助けて欲しいかって聞いて頷いたから無理矢理引っ張って逃げたんだよ。まさか、それが良い所の子供だと思わなかったけどな」


 その言葉に恥ずかしそうにするヒルデ……全身鎧の人間が照れている姿はなんとも形容しづらい。ちょっと怖い寄りですらあるな。

 そんなヒルデを見て苦笑しながらリートは続ける。


「まあ、ヒルデはお察しかもしれませんがかなり良い家の出でして。それで、憧れていた街を見たくて家を抜け出してきたそうなんですよ。そんな話を聞いて、僕とルイはお互いにそんな家もあるのかって驚きましたね」

「オレは、むしろ屋根があるだけでありがたいって言ったらそっちが驚いたんだよな」

「今考えても、生まれも育ちも立場も何もかも違うこの三人が揃ったのはとんでもない幸運の積み重ねなんでしょうね」


 その言葉に頷くルイとヒルデ。

 ……うーむ、なんというかとんでもなく面白いエピソードだ。こういうのもなんだが、俺もそういう出会いとか経験をしてみたかった。


「――それで、僕が街を案内しながらルイが逃げ道を誘導してヒルデと観光をしていたんです。で、そんな風に一日を過ごしたら仲良くなって。結局最後には日も暮れた当たりで見つかってしまってビックリするぐらい怒られてしまったんですけどね。まあ、今考えると怒られるだけで済んで良かったですよ」

「確かにな。場合によっちゃ、相当な揉め事になるだろ」

「ですね。ルイなんて、見つかった瞬間に一人で逃げてあの時は本当に僕たちはアイツ! ってなりましたね」

「貧民窟の子供なんて捕まったらどうなるか分からねえからな。まあ、後で謝りには行ったろ?」


 そんな風に言うルイ。

 ……まあ、確かに貧民窟の子供がお嬢様脱走の手引きをしたとなればその場で殺される可能性すらあるからなぁ。


「……しかし、思ったよりもぶっ飛んだ出会いなんだな。そっちのチームは」

「あはは、まあ珍しいよね」


 ルイに俺の冒険者になった経緯について言われてたが、どっちもどっちだ。

 むしろ、ドラマ性だけで考えるならリート達の方が聞いている側は面白いだろう。


「それで、そんな中で冒険者になる約束をしたのか?」

「うん、そうだね。その後も定期的にヒルデは家を出て街に来るようになって、ルイも僕の所に遊びに来るようになって遊ぶようになったんだ。みんなで遊んでて、それぞれ自分の生き方に色々と思う所があってね……ルイの冒険者になるって言葉が、凄く輝いて聞こえたんだ。それで、僕たちも一緒に冒険者になりたいって約束をして……みんなで冒険者になろうって決めたんだ」


 そうリートは、楽しそうに語る。

 冒険者というのは、どうしようもなくなった人間の行き着く先でもある。だが、どんな人間でも成り上がることの出来る平等な職業でもあるのだ。とはいえ、命が金貨一枚の価値よりも低い職業に就くという理解を貰うのはとんでもなく難しい。


「それでも、冒険者になりたいなんて説得には相当苦労したろ?」

「まあ、でも僕の方は実力で納得させれば良いだけだったから楽だったよ。むしろ一番大変だったのはヒルデなんじゃないかな? 実際納得させるまでも時間がかかって、冒険者になることを認められた後もかなり条件を付けられたらしいからね」


 その言葉に頷く。全身鎧なのも、あまり喋らないのもそれに関係しているのだろうか?

 更に詳しい話でも聞いてみるかと思っていると、突如として馬車が止まる。


「ん、どうした?」

「や、野盗だぁ!」


 そんな御者の叫びが聞こえてくる。

 ……まだ迷宮まで辿り着いていないが、どうやらトラブルというのは勝手に転がってくるものらしい。

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