第46話 ジョニーは挨拶をする
「こんにちわ……あれ?」
「お、アレイじゃん」
「アレイさんですか?」
ルイが気づくと、隣に居た男と鎧の人がこちらに反応をする。
さて、最後にルイにダンジョンへ付いていくという返事をしようと思い、泊まっている宿屋にやってきたのだが……偶然にも、ルイの仲間であるリートとヒルドもルイの元に集っていたらしく、顔を合わせることとなった。
「どうもお久しぶりです、アレイさん。ここ最近はルイがお世話になっているようで本当にありがとうございます」
「ああ、いやいや。そんな俺は何もしてなくて……」
「何を変なこといってんだよ、リート! アレイも律儀に答えなくて良いからな!」
気恥ずかしそうに叫ぶルイを見てリートは笑っている。リートは前と変わらず人の良さそうな剣士の青年だ。だが、以前に見た時よりも装備が充実している。特に、見ただけで腰に差している剣が以前よりもランクが上がっている。それに、魔力も感じる。もしかしたら、魔具に近い性質を持っているのかもしれない。
そして、ヒルドというバケツ兜の全身鎧だった人は……あまりにも見た目が変わっていた。バケツ兜から甲冑のようになっている。金属光沢は漆黒に輝いていて、見ただけで威圧感がある。前の鉄製の鎧も威圧感があったが、今の姿はなんというかボスキャラという感じだ。ダンジョンで遭遇すると間違いなく敵だと判断して攻撃してしまうだろう。
俺の反応を見てルイが自慢をする。
「お、気づいたか。ヒルドの鎧がかっこ良くなっただろ? 前回の探索の功労者だったからな! 偶然入手した魔石と鉱石を使って特注の鎧にしたんだ。下手な魔鉄なんかよりも丈夫だぞ!」
その言葉に頷いて返事をするヒルド。無口なのか、相変わらず喋らずに身振りで返事をしてくれる。
「威圧感があるな」
「だろ? これを作るのに一月以上はかかってるからな!」
自分のことのように自慢するルイに、やはりこの二人は家族同然で自分のことのようなのだなと思わず微笑んでしまう。
と、そこでリートが気づいたように俺に話を振る。
「アレイさん、それで今日はどうされました? ルイを探していたのなら、ダンジョンの話かなと思うんですけど」
「あ、そうだそうだ。ルイ、昨日言ってたダンジョンだけど俺も参加していいか?」
「お、いいのか?」
「アレイさんも来てくれるんですね。それは本当に助かります」
笑顔でそう答えるリート。
ヒルドも頷いて握手をしてくれる。ちょっと力が強くて痛いな……しかし、やけに好意的だ。リートもヒルドもダンジョンから交流がないと思うんだが。
「返事をしてからなんだけど、本当に俺でいいのか? リートとヒルドとは知り合ってから話す機会が無かったと思うんだが……」
「いやいや、むしろお願いしたいくらいでしたよ。最近、ルイの機嫌が良くて聞いてみたら友達が出来たって聞いて、それが以前にダンジョンで出合ったアレイさんだというので――ぐっ!?」
色々と話始めたリートの脳天に弓が振り下ろされてとんでもない音と共に地に伏せてしまった。
周囲の視線がこちらを向き、そしてそらされる。何せ、顔を真っ赤にして猛獣のような気配を出しているルイが睨み付けているからだ。
「コイツの話は無視しろ! いいな!」
「……あ、ああ」
怖い。ヒルドに助けを求めて視線を向けると目が合った。お互いに助けを求めてどうするんだ。
頭を痛そうにさすりながら立ち上がるリート……丈夫だな。凄い音がしたんだけど。
「痛いなぁ……とはいえ、余計なことを言ったのは僕か。ごめんごめん」
「ったく。リートは口が軽いんだよ」
そんなやり取りをしながらも、お互いに楽しそうだ。
……俺にもこういう幼馴染みのような関係性の相手が居たら楽しかったかもしれないな。
「ああ、アレイさん。すいません、話を止めちゃってて」
「いや、大丈夫だ。問題ないならいいんだ」
「ええ。それに、他に理由があります。今回挑む迷宮に関しては危険度は低いとはいえ、誰も最奥を見たことがないダンジョンです。だから、僕たちにない発想力が欲しかったんですよ」
「発想力……ううむ、期待に応えられるかは分からないんだが」
俺はあくまでも前世……というか他の世界の知識があるだけだ。
そういう意味で、とんでもない能力を持っているわけでも凄い頭脳を持っているわけでもない。あんまり期待をされると困るが。
「少なくとも、僕たち含めて殆どの冒険者は型にハマっている部分はありますから。そういう意味でも、事情があったとして召喚術士という選択肢を選んだアレイさんは違う視点を持っていると思うんですよ」
「ふむ……」
「挑む以上は前人未踏である最奥への到達は目指します。とはいえ、あくまでも可能ならですからそんなに重く考えなくても大丈夫ですよ」
リートの言葉に、なるほどと納得する。
こうして話していて思うが、喋り方やこちらへの気遣いがちゃんとしている。ルイ達の中でリーダーのようなポジションになるのも納得だ。
「分かった。それじゃあ、よろしく頼む」
「ええ。ではまた明日に馬車乗り場へ集合で。時刻は……昼前でどうでしょう?」
「分かった」
「じゃあな、アレイ。遅刻すんなよー」
ヒルドも小さく手を振って見送ってくれる。
そうして、今日の予定を全て終わらせて俺は屋敷へと戻っていくのだった。
――翌日の朝、起きてから準備を済ませてティータに出発前に声をかける。
「ティータ、そろそろ行ってくる」
「お兄様、ちょっと待っててください!」
と、そんなことを言われてパタパタと音がする。
可愛らしい妹の頼みに、ちょっとだけ浮かれながら待っていると扉を開けたティータが何かを持っていた。
「お兄様、これを……」
「これは?」
「お守りです。その、旅の無事を祈るお守りの作り方を本で見て……作ってみたんです」
――ああ、多分今世で初かもしれない。俺のためを思って手作りの品を貰ったのは。
「ありがとう。大切に部屋にしまっておくよ」
「お兄様!? 持っていてくださらないと困ります!」
そんな心温まる一幕がありながら、お守りを大切にポケットに入れてティータに伝える。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、お兄様!」
そうして屋敷から見送られ……外に出た辺りで、声をかけられる。
「アレイ様」
「イチノさん? どうしました?」
それは、屋敷の中で見かけなかったイチノさんだ。
「フェレス様からの言付けを預かっております」
「……なんですか?」
「貧民窟のことは気にせず、頑張ってくると良い。ちゃんと子供たちの安全は保証をするとのことです」
……なるほど、それの話か。
しかし、気になって聞いてみる。
「イチノさん、借金取りはなんの理由があって貧民窟の子供たちに仕事を与えようと思ったんですか? 理由がなければ、やらないと思うんですけど」
「……そうですね。私から答えられることがあるなら」
表情を変えずにイチノさんは答える。
「フェレス様は、必要だからやっているに過ぎません。理由はありますが、伝えられない物もあります」
「……それ、教えて貰う事って出来ないんですよね?」
「ええ……いえ、そうですね」
そういって、微笑む彼女。
――初めて見たその笑みは……なんだろう、どこか怖さを感じる。
「私に勝てたら、教えても良いですよ」
「――辞めときます。それじゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
怖い提案を躱すと、いつもの無表情に戻って見送ってくれたイチノさん。
……なんだろう。俺が思ったよりもイチノさんは怖いのかもしれない。そんな風に思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます