第35話 ジョニーは備える
「――というわけだ。明後日、奴らの取引前に俺がお前の妹たちを助けてくる。それでいいか?」
「うん! ……本当にありがとう、アレイにいちゃん……俺、最初はにいちゃんに悪いことをしたのに……」
店の外で待っていたルークと、安全な場所まで移動して内容を話す。
それを聞いて、不安そうにしながらも助けるという言葉を信じてか感謝をするルークに俺は笑みを見せる。
「まあ、それも家族を助けるためだったんだろう? なら、仕方ないさ。でも、今後はちゃんと方法は選べよ。同じようなことをして、他の家族に迷惑をかけないためにもな」
「う、うん……そうするよ」
こうして素直に応じる当たりは、性格は真っ直ぐなのだろう……多分、これもルイのおかげなのかもしれない。
稼ぐ手段がないから犯罪に手を染める。それは貧民窟という場所の常識だからこそ咎める事は出来ない。だが、その中でも自分たちのために自分を削って育てて守ってくれている存在がいたからこそ、歪まずに育ってきたのだろう。
「とはいえ、しばらくはルークの妹に怖い思いをさせるかもしれない。ごめんな」
「大丈夫……シリカだって、貧民街の子供なんだ。一人になったら泣くかもしれないけど……それでも、ちょっとくらいなら怖いのは我慢できるはずだよ……にいちゃん、これを持って行ってくれないかな?」
「これは?」
そうしてルークから渡されたのは……指輪だ。
別に高価という感じはしない。見た感じでは、廃材を加工して指輪のように見えるように体裁を整えたという感じだ。そこには、幾何学的な模様が刻み込まれている。
「これは、俺達が持ってる仲間の証なんだ。シリカも知らない奴相手だと警戒してるだろうし、にいちゃんが助けに来ても信用しないと思う。でも、これを見せてルークから預かったって言ったら信用してくれるはずだよ」
「……ああ、分かった。受け取っておく」
「ごめんな。お願いばっかりで……」
「子供がそんなこと気にすんな」
そう言って頭を乱暴に撫でる。
……しかし、実行前に一つ大きな問題が転がっている。
「ルイをどうするかだな……バレたらマズいよな?」
「うん……ルイねーちゃんに内緒にした方が良いと思う。ルイねーちゃん、他人を巻き込むのは絶対に嫌だろうし……兄ちゃんが無茶をするって分かったら、ねーちゃんも無理をすると思うんだ」
……イメージして納得できる。それに、きっとこれを先に知ってしまって協力をすると……多分、ルイとの関係性は変わってしまうだろう。多分、対等な関係というか気を抜ける関係性ではなくなる。
(……なんかそれはやだなぁ)
ただでさえ日常は色々なしがらみが多いのだ。そんな中で、ただ飲みながら下らない話を出来る相手の一人くらいは欲しいだろう?
ゲーマーにとって大切な物は、楽しいゲームだけではない。一緒に語り合って、馬鹿な話を出来る友達もなのだから。
「ああ。分かった。ルイが気づかないようになんとかしてみる」
「ありがとう、にいちゃん! ルイねーちゃんなら、冒険者ギルドの近くにある宿屋に泊まってるはずだから会いに行くときはそこに行けば良いと思う……ねえ、俺にもなんかやれることはあるかな?」
そう言われて考える。ルークに何もやらせない……というのは、流石に本人としても気に病むだろう。
ならば、危険さは少ない何かを頼むとして……
「よし、それなら行き帰りの案内を頼む。俺一人じゃ助け出せても逃げ出すのには苦労するだろうからな。重要な役目だ。頼めるか?」
「ああ! もちろん! 場所はどこ? ちゃんと調べておくよ!」
笑顔で返事をするルークに場所を教えると、張り切って走っていく。
さて、救出決行のタイミングまでルイをどうやって貧民窟に近寄らせないようにするか……その方法に俺は頭を悩ませることになるのだった。
「――貧民窟に近寄らせない理由なぁ……」
貧民窟から出てきた俺は、未だに良い説得内容が思いついていなかった。
ここ最近の騒動を考えても、ルイが貧民窟のことを気にするのは当然だろう。
(明後日だから今日は行かないとしても、明日一日……いや、取引の時間は夜中だったからほぼ二日は近づかないようにする方法か)
ううむ……何か良い手段はないだろうか?
それに、狩人として冒険者パーティーの索敵を担っているルイの勘は鋭い。なにせ、イチノさんが警戒して近寄らないほどなのだ。
別の手段を考える必要があるのだが……
(他人に何かを相談するにしても貧民窟の話題を出すのも難しいからな。さあて、どうするか)
そんな風に悩んでいると……
「わぷ」
「うおっと、すいません」
前方不注意でうっかりぶつかってしまった。
慌ててぶつかった人に謝って顔を見ると……
「……受付嬢さんですか」
「あれ、また召喚術士さんですか。奇遇ですねー」
「アレイです」
そこには見覚えのある顔……というか、受付嬢さんだ。朝にも会って帰りにも合うとは……偶然というか、間が良いというか。
「ちゃんと前を見ないと危ないですよー? でも、召喚獣は連れてないみたいですねー、感心感心。ちゃんと言うことを聞かない冒険者も多いですからねぇ」
「聞かない奴にはどうするんですか?」
「それはダンジョンにいくのが大変になるでしょうねぇ。申請だったりサポートだったり、受付の仕事ですからね」
にこやかにそう言われて、受付嬢さん達との関係はちゃんとしておこうと思う。
それはそうとだ。
「それで、仕事終わりですか?」
「いえ、まだお仕事中ですよ?」
そう言う受付嬢さんが持っている物を見る。
……普通に買い食いしてるな。まあ、あまり突っ込まないでおこう。下手なことを言って藪蛇になりたくはない。
「あー……ご苦労様です」
「ありがとうございます。それで、召喚術士さんは何をしてるんですか? 朝はふらふらーってしてたのでてっきりもう帰ったものだとばかり思ったんですけど」
「ちょっと街の散策をしてたんです。まあ、特に買い物とかはしてませんけど」
「お金に困ってそうですからねー」
そう言われて、聞きたいことを思い出した。
「……そういえばいたんですけど、俺が借金持ってるって噂が流れてるんですか?」
「あ、正解は何ですか? 私は召喚術士さんが人間嫌いのモンスター愛好家説に賭けてるんですけど」
何してるんだよ。この人。
「……まあ、借金ですよ。噂になってると思わなかったですけど……」
「なんだ、あんまり予想外じゃないですねぇ。もっと面白い内容かと思ったんですけど……一番面白そうだったのは、実は金を食べるモンスターを飼ってる説でしたね!」
「他人の借金事情で楽しまないでくださいよ」
「まあ、噂にはなってますけど冒険者でスネに傷があるような人は沢山居ますからねー。気にするほどじゃないですよ。それはそうと、誰から聞いたんですか? 冒険者さんって友達がいないのに」
フォローのような言葉をかけられた後にとんでもなく酷い事を言われる。
……いやまあ、事実だけど。
「最近出来たんですよ。友達」
「へえ~、誰ですか? 誰ですか? 冒険者さん、ただでさえ色物なのに召喚術士なんて謎の職業だから声かける変人なんて中々居なかったのに」
「なんか俺に恨みあります?」
そろそろ泣くぞ。
「あはは、冗談ですよ。でも、冒険者同士の交友関係が出来たというのは良いですね。やっぱり、冒険者って横の繋がりも大切ですから」
「やっぱりそうですよね」
「ええ。私たちも結構気にしていますよ。お互いに依頼を融通したりもありますし……あ、依頼で思い出しました。召喚術士さんにオススメの短期依頼があるんですよ。午前中に言ってたので、ちょっと探してきましたよ」
と、どうやら仕事をしていたらしい受付嬢さん。
……普段の俺への対応を考えると飄々としているけど、この人は驚くくらい優秀なのかもしれない。
「オススメっていうと?」
「召喚術士さんの実績が良いので、結構ワリが良くて安全な依頼が舞い込んでたんですよね。明日から三日ほどの護衛依頼なんですけどー」
「あー、明日からだとちょっと難しくて――」
と、そこで俺の脳裏で色々と繋がってくる。
……これは、使えるのではないか?
「あー、駄目なら他の人に回しますか。とはいえ、手頃な冒険者が……」
「……受付嬢さん。それって他の冒険者を推薦出来ますか?」
「推薦ですか? まあ、相手の実績次第ですけど可能ですよ」
「分かりました! ちょっと聞いてきます! 話ついたら冒険者ギルドに顔出します!」
そう言って俺は走り出す。
さて、早いところルイを見つけ出すとしよう。
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