第19話 ジョニーは最下層に降り立った
さて、フラれたものの本来の目的について聞いてみる。
「それで、アガシオンはこのダンジョンに落ちている道具なんかについて詳しいのか?」
「は、はい。自分の趣味が道具集めで……色々とダンジョンに落ちてる物を集めているんです。色々と冒険者が落とした道具は自分が持っていて、それ以外のダンジョンにある道具に関しても詳しいです」
「へえ、例えばどんなものを集めているんだ?」
「これが、冒険者が使っていた遠見の道具です。魔法で擬似的な目を作って見る道具らしいですよ。それと、こちらは状態異常に対して効果の高い盾です。持っているだけで、魔力によってこれを装備したときの状態に戻す魔術が組み込んであるんですね。他にも、投擲した物を当てやすくするような腕輪とか――」
楽しそうに集めている道具の解説をしながらダンジョンの隠れていた場所の奥から集めたらしき道具の実物を出してくれるアガシオン
どれも見た事がある、冒険者が使う魔道具だ。魔力によって自分の体に補助をしてくれる便利な道具だが、適正が必要でありそれが冒険者の職業が大きく分かれている原因だとか。それを集めるのが趣味というのは個性豊かな自我を持つモンスターらしいとも思える。
しかし、その中に目的のものは出てこなかった。
「……その中で指輪は見てないか? 魔石を加工した物らしいんだが……」
「魔石を加工した指輪ですか? えっと、それは知らないです……ごめんなさい、自分も色々と集めるのは好きだけど、そんな魔石を加工した指輪なんてレア物を見たら絶対に覚えてますから。少なくとも、最下層以外では絶対にないって断言できます」
「だって。アガシオンは基本的に嘘なんてつけないから、言ってることは間違い無いと思うよ。だから、あるとしたら最下層だろうね」
捜し物である指輪を知らないかという返事は知らないだった。
……ううむ、残念だ。期待していた分、がっかり感が大きくなる。ションボリしていると、アガシオンが申し訳なさそうに声をかける。
「えっと、その……ごめんなさい。他の自分に出来る事であればお手伝いをしますけども……」
「それじゃあ仲間になってくれると嬉しいんだが……」
「そ、それはちょっと……」
チッ、ダメだったか。まあ、嘆いていても仕方ない。
このまま最下層まで行って指輪を探す事にするべきだろう。
「協力してくれてありがとう。それじゃあ、俺達はこれで」
「じゃあねー」
「さ、さようなら」
どこか申し訳なさそうな顔をしながら、そのままダンジョンのどこかへと隠れたのか消えていくアガシオン。
そのままアガシオンと別れて最下層に向かい……ふと、聞き忘れた事を思い出す。
「アガシオンは、俺達がダンジョンの核を壊す事は知ってるのか?」
「うん、知ってるよ。まあ、アガシオンもちゃんと手段は考えてるから安心していいさ。あの子はダンジョンから道具を集めてるから、その中に手段があるんだろうね」
……ふうむ。気になるが、まあいい。とにかく、最下層に向かうとしよう。
そして、ダンジョンのさらに下へと向かっていく。
「ところで、4層のボスっていうのは知ってるか?」
「ああ、知ってるよ。ミノタウロスのスケルトンだね。元々ミノタウロスのボスだったんだけど可能な限り力を残しつつ、あのワームに食われない形を目指したらああなったんだろうねー」
「ミノタウロスか」
その言葉に、ミノタウロスにやけに縁があるなぁ……と思うのだった。
「うおおおおお!! 何で俺狙うんだよ!?」
ミノタウロスのスケルトンは、当然ながら普通のスケルトンよりも強力だ。ミノタウロスがベースであると言うことは、骨自体が普通の生物よりも強靱で巨大だ。
もとより、ゴブリンやスライムなどと連携して戦う俺達はシンプルな暴力に対しては弱い。つまり、絡め手の効かないミノタウロスなど天敵だ。
「あ、そっち右からくるよ」
「どわぁああああ!」
ザントマンの忠告に従って避ける。ミノタウロスにゴブリンやスライムが攻撃を加えてくれているので徐々に削れてはいる。
問題は、何で全てを差し置いて俺を攻撃してくるんだよ! 痛みも感じない骨ならではの耐久力を活かして、ひたすらに突き進んでくる。
「お、俺は! 脅威じゃ! ないだろ! 攻撃も! してないって! いうのに!」
「あ、マズそう。しゃがまないと死ぬよ」
「ぐぅうううおお!」
必死に地べたに這いずると、上空をミノタウロスが自分から崩壊した体をぶん投げてきた。つまり、骨を投擲してきた。
あり得ないだろ!? そこまでする前に手前のゴブリンとかスライムを狙うべきじゃん!?
「あはは、大変だねぇ」
「クソおおおお! ザントマンだって狙えば良いだろうがぁ!! 幻惑魔法は――」
「あ、無理だね。アンデッドの目に当てても駄目なんだ。多分、概念的な目じゃないんだろうねぇ。ザントマンの砂は目を経由する縛りがあるからこその効能だし」
「クソがああああああ!!」
叫びながら必死に逃げ続け、スライムとゴブリンによって体の動きを保たせる重要な骨を全て破壊するまでミノタウロスの攻撃は止まる事は無かった。
――そして、ミノタウロスが完全に沈黙して魔石に変化した後にこの部屋で何も言わずに休息の準備をした上で、一眠りしてようやく落ち着いた。そこで、ザントマンが起きた俺に声をかける。
「ご苦労様。いやー、凄かったねぇ。まさかミノタウロススケルトンが最後には骨が壊れて立てなくなっても這いずって向かってくるなんて驚きだったよ」
「……俺が何をしたって言うんだよ」
そのボヤきに、ゴブリンが目をそらした。何だよ。
「召喚術士くん、どこかでミノタウロスに恨みでも買ったんじゃないかな? 余程の恨みなら、それが呪いになってミノタウロスの同種からとんでもなく嫌われる事があるけど。同じ種族ばっかり倒すと、恩寵を受けたり呪いを受けたりなんてこともあるらしいんだよね」
「……それか? でも、初心者ダンジョンのミノタウロスを2回倒しただけなんだけどなぁ」
そう呟く俺に対して、ゴブリンは正気か? という視線を向けてスライムも何故かこっちを見て動きを止める。
アレはどう考えても正々堂々の戦いだったじゃん。絡め手だって立派な戦術だし。そんな呪いに繋がるまでじゃないだろ。
「心当たりがあったならそれだね。アンデッドだと、そういう影響を受けやすいからね。今後はミノタウロスに関わるときは気をつけた方が良いとおもうよ。君、ビックリするくらい狙われると思うから」
「そうか……まあ、気をつけようがないだろうけど覚えておくよ」
それはそうと、このミノタウロスを倒したことで、ついに4層目を超える事が出来たわけだ。
ザントマンの誘導のおかげで、ダンジョン自体は奇襲をかけられる事もなく単調な道程を進む事が出来た。先ほどのような苦労……いや、なんか要らない苦労だった気がするな。まあそれも大してなかったが、ザントマンが居なければモンスターの傾向や動きなどで無駄な戦いが増えていただろう。
……残る問題は、徘徊しているワームになるか。本来ダンジョンに存在せず、ダンジョンの在り方すら歪めるような怪物。それに遭遇すると死を覚悟せざるを得なくなる。最下層にいるということであれば、今までの道中が単なる息抜きでしかなくなる。
「最下層に関しては、殆ど変化はしないんだよね。ダンジョンの変化って魔力を使うからね。上層は定期的に変化するけど下層は変わらないってダンジョンも多いんだ。ここもその例に漏れず、下層は常に同じ形をしてるダンジョンなんだよ」
「……つまり?」
「ワームは、下層だとほぼ遭遇してもおかしくないような構造になってるってわけ」
楽しそうにいうザントマン。
ワームに遭遇する可能性が高いとなると危険だ。間違いなく、俺達が戦える相手ではない……いや、どうだろう? 意外とチャレンジしてみる価値はあるんじゃ無いか? 大物喰いというのは、いつだって成り上がるために必要な手段ではあるし……
「……召喚術士、無茶ヲシタラ駄目ダゾ?」
「っと、そうだよな」
そうだ。無茶をする必要はなかった。つい、ああいうの倒して見れるんじゃないかっていうゲーマー的思考が働いてしまう。
というのも、手札が増えたからなのだが。長時間出す事は出来ないが、一時的にフェアリーを出して人数制限を超えて戦う事は出来る。召喚術士だけが出来る抜け道みたいなものだ。人間とは違って、召喚符に戻す事も出来るからな。
「じゃあ、なるべく出会わないように注意して進みたいけど……ザントマン、出来るか?」
「ワームの痕跡をたどって、可能な限り出会わないように道を選んでみるよ」
心強い言葉を信じて、任せる事にする。
……もしワームを倒すならどう戦うのがいいか。歩きながら、その事をついつい考えてしまうのだった。
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