第18話 ジョニーは最下層を目指す

「僕の持っている能力? ザントマンとしての力は眠らせる砂を生成することが出来る事だよ。それと、僕はちょっとした魔法が使えるんだ」


 にこやかにそういうザントマン。魔法というのは、実は色々と種類があるらしいのだが……素質が大きく影響するものらしい。俺が魔法が使えないのはそれが原因だ。

 魔具と積み重ねた知恵によって、魔力を操り魔法を使えるようにする。それが魔法使いである。しかし、魔具の補助なしに使えるというのは才能に頼った一代限りの強力な魔法であることが多い。魔法の力次第では、面白い運用が出来そうだ。


「魔法か。どんな力が使えるんだ?」

「幻惑の魔法だね。魔力を使って、姿を消したり見せたり出来るんだ。まあ、魔力を込めればもうちょっと工夫は出来るけどね」

「ほお、面白いじゃないか!」


 幻惑魔法か! 面白いとワクワクしながら聞いてみる。

 ザントマンが使う砂と違って、幻惑魔法はあくまでも惑わす程度。魔力も使うので本人的には余り使う機会はないらしい。しかし、俺からすれば汎用性の高い能力だから垂涎物だ。


「面白いかなぁ? ザントマンとしての能力と僕の個性ってちょっと方向性が被ってるんだよねぇ。出来れば、こういう似たような能力よりもちゃんと攻撃できる能力があれば良かったって思うよ」

(むしろ、俺としては嬉しいな。能力が同じ方向だとしても、特性だのが違えばだいぶ話が変わるからな……まあ、気にしてるっぽいし言わないが)


 フェアリーもそうだが、モンスターというのは戦闘能力の低さに対するコンプレックスみたいなものがあるようだ。

 まあ、確かに自分の力で戦える事が出来なければ、ダンジョンを出て生きていくことが難しいと考えるとそういった思考になるのは当然のことなのかもしれない。とはいえ、そういう癖が強い方が俺としては運用しがいがあるので嬉しい。


「俺としては、十分に役に立つ能力だ。仲間になってくれて頼もしいよ」

「あはは、お眼鏡にかなったようで何より。それで、このまま行くけどフェアリーは召喚しなくていいのかな?」

「ああ。この先のボスとの戦いも考えれば魔力は温存しておきたい。だから一旦は召喚せずに俺達だけで行くつもりだ。ザントマンが先導をしてくれるか?」

「オッケー。ある程度は分かるから任せてよ」


 安請け合いをしたザントマンを先頭に置いて、真っ直ぐにダンジョンを下っていく。


「それじゃ、この先を頼んだ」

「了解。それじゃあ、サクサクと行ける道を選んでおくねー」


 ノリの軽い返事と共に、俺達は3層目で見つけた新しい仲間と共に奥へと進んでいくのだった。



 ――さて、日が変わりすでに俺達はダンジョンは4層目に到達していた。ボスを倒してからしばらく眠ったので魔力も多少回復した。このまま問題なく最下層まで行けるはずだ。

 3層目のボスは幾本もの骨が組み合わさったゴーレムだった。巨大で破壊力はあったが、動きは鈍重だった。スライムに前線を任せつつ、ゴブリンと俺が必死に骨を破壊し続けて倒すことが出来た。しかし、やはりというべきかろくにダメージも受けてないことを考えて、ダンジョンが弱っているという言葉に対する信憑性が高まった。

 ちなみに、ザントマンはこちらを見てヤジを飛ばしていた。状態異常にするような能力しか使えないザントマンは、アンデットと相性がただでさえ悪いのに骨のゴーレムなど幻覚すら効かないというわけだ。仲間になったばかりなのに役立たねえなコイツとちょっとだけ思った。


「ザントマン!」

「はいはい~」


 というわけで、早速役に立たせるように働かせている。気づかれないように忍び寄ったザントマンは、魔力によって作り出した砂を敵である方のザントマンに向かって投げる。

 敵のザントマンは、こちらに気づいていなかったせいで砂が顔面に直撃する。そのまま、眠気に抵抗するように腕を動かしてはいたが、すぐにスヤスヤと眠りだした。

 その眠ったザントマンにゴブリンが剣を振り下ろして倒し、魔石へと変える。もはや狩りというしかないような一方的な戦いだった。


「……理不尽だな、この砂。それと同じザントマンにも効くのか」

「目に当たると眠らせるっていう能力だから、同じ種族でも例外じゃないよ。結構便利でしょ? まあ、目がない相手だと効果は無いし、こういう絡め手って抵抗がある奴が多いけどそういう相手にも効かないんだよね」


 確かに古今東西、昔から状態異常というものは耐性がない相手には無双出来るものだと相場は決まっている。まあ、やり過ぎてお仕置きを食らってしまうのもお約束ではあるが。

 しかし、アンデッドのような死体には効かないし目がない相手からも無効化される。さらに格上だと状態異常に対して抵抗出来るらしい。やはり、こういう初見殺しであったり状態異常が通るか通らないかが強さの分かれ目なのだろう。


「……ザントマンの能力が両方効かない場合は何ができるんだ?」

「その時は、適当に逃げながら応援するよ。幻惑魔法は魔法だからもうちょっと誰にでも効果はあるけど、ザントマンの能力を下地にしてるから目がないと効かないんだよね」

「……なるほど、まあ誤差で考えて良いな」


 目がない相手には効かないと言うが、それでも有効打として使える技と考えれば十分すぎるほどだ。

 前世でやっていたゲームで、進めていくと雑魚にすら状態異常が通らなくなって途端にお荷物になってしまうキャラが居たという悲しい記憶がある。


「おっと、そうだ。ゴブリン、魔石をくれるか?」

「分カッタ」


 拾った魔石をゴブリンから渡して貰う。

 そして、その魔石をザントマンに投げ渡す。


「おっと。どうしたの? 魔石って価値があるんだよね?」

「いや、食事としているだろ? どうせ持ちきれないからな。ゴブリンには分けているし、ザントマンの役割が大きかったからな。そっちの取り分だ」

「くれるなら貰うけど……本当に良いのかな?」

「生憎、俺は持ちきれないからな。気にせずに食べれば良いさ」


 ちなみに魔石は専用のケースというか、保管するための道具に入れる必要がある。そして、保管するケースも持ち運ぶ限度はある。冒険者同士で行く時には人数が居れば、小さい魔石を貯めておく。そして、大きい魔石を見つければ入れ替えて持ち帰えるという選択も出来るだろう。

 しかし、一人でダンジョンに潜る俺は持ち込む道具も厳選しなくてはならない。魔石をケースに入れずに外に持ち運んでも最終的に魔力が抜け出して割れてしまう。屑石にするくらいなら仲間にあげる方が良い。


「んー、そういうことなら遠慮無く貰うよ、ありがとうね」


 そう言って美味しそうに魔石を飲み込むザントマン。

 ……ああ、そういえば聞いてみる事があった事をふと思い出す。


「ザントマン、そういえば聞きたい事があるんだが……」

「えっと、何かな?」

「指輪を見なかったかな? 魔石を加工した物らしいんだが」


 これは今回の依頼で探して欲しいと言われた物だ。話を聞けば、このダンジョンで失われた事は分かっているらしい。その詳しい詳細は伏せられていたが、色々と事情があるのだろう。間違いなくこのダンジョンでなくなっているらしく、魔石は特殊な加工をしているからダンジョンに吸収されたりはしないとか。

 回収されて売られていれば分かるが市場に流れていないので、ここにあるはずだと言う事らしい。


「……んー、見た記憶が無いなぁ。それに、ダンジョンがアンデッドを出すようになってからそういう道具に関しては他のモンスターも拾わなくなったし」

「なるほど……それが見つからないと、このダンジョンから出られないんだよなぁ」


 それを当てにしてるからなぁ……とぼやく。

 4層目まで来て未だに見つからず、5層目でないとなると……あの化け物が居る中で探し回るのか……やだなぁ。というか、冷静に考えるとダンジョンが崩壊するなら先に見つけないとダメじゃ無いか?


「それなら、知ってそうなモンスターに話でも聞いてみる?」

「知ってるモンスター?」

「そうそう。僕以外にもいるんだよね。知性の芽生えた奴が。4層にいるから案内するよ」

「ああ、是非頼む!」


 その言葉に、テンションが思わず上がってしまう。


「じゃあ、こっちこっち」


 ザントマンの案内でついて行く……と、分かれ道の奥に進んでいく。


「……こっちかな?」

「召喚術士、イイノカ?」

「ああ、元から寄り道は前提だから大丈夫だ」

「イヤ、ソウジャナクテ……」


 ゴブリンがなんとも言えない表情で俺の事を見ている。なんだというのだ。


「……ああ、いたいた。おーい」


 その言葉の先には……小さい壺の中に隠れている二つの目。

 そう、アガシオンだ。使い魔であり、万能な能力を持っている。逆に言えば器用貧乏で飛び抜けた何かを持ってないとも言えるが。

 普通の召喚獣として出来る事は大抵できるらしい。


「……ざ、ザントマン? どうしたの? そ、そっちは……?」


 警戒しつつも、逃げ出さないのはザントマンに対する信頼か。


「ああ、僕と契約した召喚術士だよ。聞きたい事があるらしいんだよね。だから、ちょっと協力してね。ほら、召喚術士くん。聞いてみなよ」


 そう促されて、俺は口を開いた。


「なあ、俺と契約して仲間にならないか?」

「え、ええええっ!?」


 俺の言葉に驚くアガシオン。何を言ってるんだと言う表情のザントマンに、首を横に振るゴブリン。

 そんな中で、俺はアガシオンの返事を待つ。視線を揺らしながら、壺に隠れてアガシオンは叫んだ。


「……ご、ごごご、ごめんなさい! さ、流石にいきなりそういうのは……!」


 見事にフラれてしまったのだった。

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