第17話 ジョニーは仲間を増やした

「……このダンジョンの核を破壊して欲しい? 聞き間違いじゃないよな?」

「その通り。間違いないよ」


 条件を聞いて、思わず聞き返す。その言葉に頷いて答えるザントマン。

 ダンジョンの核を破壊する。それは簡単だ。じゃあ、何故やらないかと言われれば……旨みがなさ過ぎるからだ。


(ダンジョンの核を破壊した場合、そのダンジョンは崩壊していく。壊れたダンジョンの核は当然ながら回収できない。そして、モンスター達は消滅していって時間がたつとダンジョンだった残骸だけが残る……だったかな)


 ダンジョンの核を破壊すると、そこから連鎖的にダンジョンは機能を停止していく。脳が死んだことで体が機能を喪失するようなものらしい。だからこそ、核が奪われた場合にはダンジョンから切り離される際に新しい核を作るような指示が飛んで残るらしい。

 基本的に核を破壊してしまえばダンジョンから入手出来るはずの素材も手に入らなくなり、ダンジョンそのものもそこには二度と発生しなくなる。壊す場合というのは、魔力が過剰に集まった結果暴走し、外部に向けてモンスターを吐き出し破壊するようになったダンジョンのような特例だけだとは聞いたが……まさか、その破壊をモンスターからそんな依頼をされるとは思わなかった。


「召喚術士くんは、このダンジョンの異常には気づいているよね?」

「異常って言うと、アレか。このダンジョンのボスの弱さだとか、モンスターの種類に関する話か?」

「そうそう。それであってるよ。話が早くて助かるね」


 節々から感じていたこのダンジョンの異常はやはり間違いじゃ無かったのか。

 しかし、このダンジョンに住んでいるモンスターから直接教えて貰えるとは思わなかった。


「実は、このダンジョンには元々スケルトンだのレイスだのみたいなアンデッドは居なかったんだよね」

「えっ? そうなのか?」

「そうだよ。元々、このダンジョンに居たのは普通の死霊ではないオークやミノタウロスのダンジョンだったんだよね」

「じゃあ、ザントマンとアガシオンもその影響で発生して……」

「いや、そっちは元々からいるね」


 ……法則がつかめたような気がしたが、そんなことはなかった。

 しかし、ダンジョンのモンスターが変化するという話は初耳だった。なら、ザントマンとスケルトン運用はダンジョンが意図的に作り出したコンボじゃないのか……偶然というのは、たまにエグいコンボ生み出すものだ。


「そうか……ただ、気になるのはどうしてアンデッドが生まれるようになったんだ?」

「それは、このダンジョンにある日【渡り】のモンスターが来た事が原因なんだよね」

「【渡り】?」

「そうだよ。知らないのかな? ダンジョンに居るモンスターの中には、僕たちみたいな自我を持つ場合があるんだ。自我を持った後には色んなパターンに分かれるけど、その中でも魔力を求めて他のダンジョンにやってくる存在を【渡り】っていうんだ」


 なるほど、納得した。モンスターが自我を持った場合、最終的にはダンジョンを出ることになる。なぜなら、ダンジョンからすれば自分を守る細胞が意志を持ってメリットがないからだ。

 最悪の場合、ダンジョンによって処分されることすらある。だからこそ、外に出る方法をそれぞれが模索する。その手段の一つが、召喚術士との契約だ。とはいえ、偶然と幸運に左右されるので一般的ではないらしいが。


「魔力をろくにため込まずに外に出た自我を持ったモンスターが、魔力を求めて他のダンジョンに潜りこんでくる事はあるんだけどね。ただ、その【渡り】のモンスターは想像よりも強かったせいでダンジョンに住み着いちゃったんだよね」

「なるほど……それで、このダンジョンのモンスターも変化したのか?」

「うん。ミノタウロスだったりオークを餌として食べちゃうからダンジョンが変質したんだ。食われる内容は【渡り】によるけど、捕食しやすい対象だとダンジョンのモンスターでもお構いなしだからね」

「なるほど……待て、ダンジョンの核を破壊しなくても手段はあるんじゃないか? 例えば、その【渡り】を倒すとか」


 聞いてみる限りでは、【渡り】を倒す事で解決は出来そうな気がする。

 ダンジョンの核を壊すという手段は、助かる方法ではなくて死ぬ方法だ。それを選ぶという不可解に関して聞いてみる。


「あはは、それなら実際に見てみる? ちょうど、アイツの周回ルートだから」

「……? まあ、頼む」


 やけに含み……というか、楽しんでるな? その反応に何やら嫌な予感を感じる

 しかし、虎穴には入らずんば虎児を得ず。リスクを負わなければ何も分からないので付いて行く事にした。



 ――そして現在に至る。

 まさか、【渡り】というのがあんなにも巨大なワームだとは思っていなかった。そして、それが俺達の存在を察知してから真っ直ぐに狙いを定めて襲ってくるとはもっと思ってなかった。


「いやー、もっと普段は鈍感なのに空腹だったのかな? 運が悪かったねぇ」

「そういうのには慣れてる」


 運が悪かったというフレーズで説明できる事は両手の指どころか、前世から数えれば人体の骨の数よりも多いかもしれない。

 とはいえ、運が悪いことを嘆いていても仕方が無い。嘆くくらいなら、なんとかする方法を考えるしかない。


「しかし……自我があるとは言っても、スライムみたいに会話が出来る奴ばっかりじゃ無いとは思ってたけどな……あんなに巨大なモンスターがいるとは思わなかった。あれは交渉をしようにも無理だよな?」

「無理だろうねー。だって、メリットがないもん。自分で魔力を補給できるし召喚術士に仕えて貰える魔力を考えても自分で食った方が早いからね。それに、知性もそこまでじゃないんじゃないかな? 自我を持った所で個性次第では知性が上がらないパターンもあるし、本能的な存在も居るって聞くからね」


 自我を持っても、どうなるかはその個性次第か。その言葉は肝に銘じておこう。

 友好的に見えても、その個性次第では相容れないこともあるだろうからな。それはそうと、あのワームは例え契約ができる可能性があったとしても使うかと言われると悩ましい。ただ巨大で物量で押しつぶすのは好みじゃないんだよなぁ……


「で、ダンジョンにやってくる冒険者の数が減ってるせいであのワームが好み関係なく食い荒らし始めたんだ。だから、ダンジョンの核を破壊して追い出したいんだよね。自分の居たダンジョンがあの怪物の好きにされるのはイヤだし」

「なるほど……まあ、言いたいことは分かった。破壊したとして、あのワームはどうなるんだ? 外に逃げ出すと不味いんじゃないか?」

「むしろ、この近隣にダンジョンはないからね。外に出てから他のダンジョンを見つけるまでに弱って死ぬ可能性は高いと思うよ。ダンジョン内の濃度の高い魔力じゃないとあんなに巨大な体は維持できないからね」


 ……ふむ、筋は通っている。

 一緒に聞いていたゴブリンを見てみるが、先ほどの話の内容に違和感は持っていないようだ。フェアリーにも意見を聞くために呼び出してみるかを考えて……魔力のことを考えて今は辞めておくことにした。

 まだ先で休憩するポイントはあるだろう。なら、急ぐ事じゃない。


「分かった、問題は無い。それじゃあ、契約をしよう。ザントマン」

「うん、契約成立ってわけだね。ダンジョンの核の破壊。頼んだよ」


 お互いの同意を得て、召喚符に魔力を込める。その内容で契約は成立してザントマンが魔力として分解されて召喚符に飲み込まれていく。

 そして、すぐに召喚。すると、その見た目は老人からすっかりと若く変化していた。そんな自分の変化に面白そうにしているザントマン。


「へえ、これが召喚なんだ。今までと違う感じで面白いね」

「すっかり若くなったな……本当に年齢が変わったわけじゃないんだろう?」

「うん。君たちで言うなら、服装が変わったような物だね。窮屈な服から、自分に合った服に着替えたって感じだよ」


 そう言って軽く動き回り、自分の体の調子を確かめている。少年のような顔立ちになったザントマンは、絵本に出てくる小人のようなファンシーさがある。まあ、にこやかな笑みが胡散臭いが。

 だが、これで新しい仲間が増えたのだ。その事実を噛みしめるとテンションがドンドン上がっていく。思わず口から漏れ出るほどに。


「よし! それじゃあ早速試用運転をしたいな! えーっと、モンスターとしては死霊系だから……ザントマンの能力だと、どうやって使ってみるかだな……眠らせるのは難しいから……」

「えっと、召喚術士くん?」

「いや、固有能力があると考えるなら、ザントマンの基礎性能だけの運用だけを考えるのは悪手か? いや、固有能力を使うときは魔力の消費が激しいからな……それなら、召喚術士に対する魔力消費が薄い方向で……」


 もはや何か言われても耳に残らないほどに思考の海へとハマっていく。


「……うーん。僕、契約するの早まったと思う?」

「難シイ所ダナ」

「そっかぁ……まあ、早く会話が出来るようになることを祈るよ」


 そんな会話も聞こえないほどに思考に熱中した俺は、次の戦いでザントマンをどう動かすのか。それをワクワクしながら考えるのだった。

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