第16話 ジョニーは洗礼を受ける

「コレデ、トドメダ!」


 ゴブリンの一撃で両断されたザントマンは魔石へと変化していった。

 ……さて、ここはすでに2階層目。1層目の最奥のボスは強化されたスケルトンであっさりと倒してしまった。まあ、階層が複数ある場合にはそこら辺の魔物よりも強い程度でしかない。いわば、モンスターから逃げて忍び込むこそ泥を選別するための存在だ。

 なので、激闘と呼ぶにも失礼な無難な戦いで下に降りてきた。とはいえ、思った以上に弱かったが。


「お疲れ。ほい」

「アリガトウ、イタダク」


 ザントマンの魔石を拾って渡すと美味しそうに飲み込むゴブリン。

 こうして飲み込んでいるのを見ると、美味しいのかを聞いてみたが味ではないらしい。ふうむ、モンスターというのも謎の多い存在だ。それはそうと……


「見つけた魔物はスケルトン、ザントマン、アガシオンにレイスか……アンデッドが多いな」


 ゆっくりと探索をしながら回ってきた。

 ボスを倒した後に休憩を挟んだので、情報を整理していたがこのダンジョンだと意志を持たない死者のモンスターが多い傾向にあった。


「なんか不気味ですよね……ああいうオバケとか骨の方って。でも、壺の人は可愛かったです」

「ああ、アガシオンか」


 霊体で魔法によって戦う幽体生物のレイス、状態異常を操る老人のザントマン、物理攻撃をするスケルトン。そして器用貧乏な壺に入った魔力生物のアガシオン。

 壺に入っているのは、体をそのまま晒すと実態を維持できないからとかなんとか。元は召喚術としての適性の高いモンスターらしい。スライムと同じで人工的に発生させられるモンスターなので、使い魔として使役する魔法使いもいるのだとか。まあ、スライムに使った数百倍の魔力量で発生させるらしいので俺には無理だが。


「しかし……なんだろうな。厄介すぎないか? 銅級ダンジョンってこんな物なのか?」

「ムムム……ワカラン」

「ちょっと変な感じはしますね。なんというのか……こう、お城に鍛冶屋さんが住んでるみたいな……中の人と家が合ってないみたいな違和感があります」


 ふむ、面白い意見だ。こういう意見だと、ダンジョンに住んでいたモンスターであるフェアリー達の意見は参考になる。

 ……ちぐはぐであるという意見。ここが未帰還ダンジョンである理由に繋がるかもしれない。その意見は覚えておこう。


「とはいえ、倒せるから問題なしだ。このまま真っ直ぐ進んでいこう」

「分かりました!」


 歩き始め……ふと、そこに落ちている骨を見つける。


「……骨?」

「スケルトンですか?」

「いや、違う」


 これがスケルトンなら魔石になっているし、普通に死んだ冒険者ならダンジョンに吸収されている。つまり、これは生物の骨だ。

 ……骨だけあるというのは、まずあり得ない状態なので違和感を感じる。


「……これ、なんの骨か分かるかな?」

「んー……動物ですかね? ダンジョンに入ってきたのかも」

「ソウダナ。動物ッポイ」

「……なら、あるか?」


 ダンジョンで骨が吸収されない場合がある。それは、ダンジョン内に関係ない誰かが死体を食べてしまう場合だ。

 まあ、冒険者が持ち込んで食べたというパターンもある。しかし……


(……なんか嫌な感じがするんだよなぁ)


 こういう直感は得てして自分を助ける事がおおい。警戒は緩めずに進んでいこう。

 そして、2階層目を俺達は進んでいく。



 ――3階層目。流石に俺は違和感を感じていた。


「……やっぱり弱すぎるよな。最奥のボスが」


 ダンジョンというのは、核の前が一番吸収効率がいい。とはいえ、そこまで冒険者を誘い込むのは危険だ。

 初心者ダンジョンの時は核を持ち帰ったが、実はダンジョンの核を破壊する方法もある。他にもダンジョンにとって致命な手段はあるのだ。あくまでもリスクとリターンが釣り合わなければならない。だから、それぞれの階層のボスは当然強くなる。だというのに、あっさりと倒せるのは俺達の実力が上がったでは説明が付かないのだ。


(ここまで弱いと、流石に道理に合わないんだよな……)


 やはり、このダンジョンには何かしらの異常が起きているのは間違いない。こういう時はいったん帰って出直すのが吉だ。

 ……ただ、問題は捜し物を見つけ出さないと帰れないということだ。ここまでの道中と帰りまで含めて一週間はかかる。つまり……うん、返済時期に間に合わない。だから潜るしかないのだ……あー、やだな。痛いのもきついのも正直勘弁願いたいんだよな。


「召喚術士さん、あちらから何か来ます!」

「敵か!?」


 フェアリーの言葉は、魔力を持った何かがこちらにやってきているという報告だ。人間ではないのなら、間違いなくモンスターだろう。

 ゴブリン達と共に、臨戦態勢になり待ち構える。そして、そのモンスターが姿を現し……


「やあ……おっと、待った待った。君、召喚術士なんだろ? 話は出来るかい? 出来れば、その構えてる武器を下ろしてくれる方が助かるんだけど」

「……会話の出来るタイプってことか」


 そこに居たザントマンは、他と同じような姿をしている。

 しかし、大きな違いがあった。それは……


「……なんか、声が若くないか?」

「まあ、個性って奴だね。多分ちゃんと自分を確立したら若返るんじゃないかな?」


 にこやかにそう言ってのけるザントマン。知性のあるモンスターがやってくることは多いが、こうして声をかけてくるの初めてだ。

 ザントマンという種族自体が老人で胡散臭いので、ちょっとだけ警戒心が出てしまう。それに、現在進行形で異常が起きているらしいダンジョンなのだ。警戒することに超したことはない。


「わざわざ自分から冒険者のところに出てくるなんて、珍しいな」

「まあ、君たちがちゃんと交渉できそうかをずーっと観察してたからね。僕たちも必死なんだよ。例え冒険者と会話できても、普通の冒険者にとっては関係ないどころか優先して狙われる事が多いからね」

「そうなのか?」

「その分魔石が大きいからね。君たち冒険者からすれば、いい獲物ってわけだよ。経験があるほど、見逃してくれないんだよね。それに、本来敵対的なのが普通だし」


 ……なるほど。魔石のサイズは値段に繋がる。質とサイズが魔石の価値だ。

 事情があるにせよ、普通の冒険者なら協力するよりも狩った方が儲けがあるわけだ。それに、知性があると言うことは騙されるパターンもあるわけだし。こういった会話の出来るモンスターが魔力を得るために騙し討ちで冒険者を狙うこともあるのだ。


「だから、わざわざ魔物を連れて戦い続けている君なら安心かと思ってね。交渉の余地はあるだろう?」

「ああ、納得した。それで、どういう話をしたいんだ? 内容次第だ」

「ああ、実は契約をしたいんだよね。君と」


 突然、ザントマンはそんなことを言い出す。

 ……契約を自分から申し出る。それ自体はありがたい。しかし、それはそれとしてだ。


(召喚術士さん! 絶対に怪しいですよ! 胡散臭いですし、これは良くない感じがします!)

(アア、気ヲツケタ方ガイイゾ。俺ガ契約シタ時ミタイナ感ジガスル)


 ゴブリンとフェアリーは警戒心をむき出しにしている。まあ、それも当然だろう。ゴブリンの言葉には異論を唱えておきたい所だが。

 突然、怪しいダンジョンで契約を持ちかける友好的なモンスター。まあ、どう考えても裏がある。

 ……というわけで。


「よし、契約をしようか。話を教えてくれ」

「エッ!?」

「話、聞いてましたか!?」

「……いいのかい? なんだから、そっちは納得してなさそうな感じだけど」


 俺の答えに全員から驚かれている。いや、言い出した方のザントマンも驚いてるのはどうなんだと思わないでもないが。


「そっちの事情がどうにせよ、仲間が増えるには越したことはないからな。このダンジョンで異常事態が起きているなら、仲間は多い方が良いってわけだ。というわけで、契約をするための条件があるんだろう? それに関して聞かせてくれるか?」

「あ、ああ。了解だよ。話が早いのは助かるからね。ちょっと話が早すぎてビックリしちゃったよ」


 ちょっとだけ、引いた笑顔でそんな風にいうザントマン。

 確かに、俺が突然何も言わずに受ける。警戒するなどと言っていたのに。そんな風に思われるかもしれない。しかし、ここで俺が契約を申し出るのは当然だろう。なにせ……


(ザントマンは今まで欠けていた絡め手の使える癖のあるユニット……それを使いこなすの、絶対に面白いはずだ!)


 それだけで、選ぶ理由には十分だ!

 ここまで色々と考えていたが形にならなかった作戦が全て、実態を持って自分の脳裏で構築されていく。ああ、なんとも素晴らしい!


「……絶対に召喚術士さん、碌でもないこと考えてますよね。あの顔は」

「間違イナイ」


 だからうるさいぞ、そこ。

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