第15話 ジョニーは曰く付きに挑む
「――そういうわけで、新しいダンジョンに挑む事になった。前からあんまり間を置かないで済まないな」
準備を済ませてダンジョンへと向かう道中に俺は召喚獣達を召喚してここまでの経緯を説明していた。
フェアリーとゴブリン、そしてスライムの3体はすっかり馴染んでいる。
「召喚術士さんも大変ですね」
「俺達モ大変ニナルンダロウガ」
「ジュル」
どうやら、俺が寝た後にゴブリンとフェアリーは自前で魔力を使ってわざわざ運んでくれたらしい。
まあ、それだけやったというのに俺が召喚せずに何も言わないから相当怒られたが。なんとか謝罪をして許して貰うことは出来た。
「未帰還ダンジョンとは言うけども、どうにもトラップか、凶悪なモンスターがいるくらいでダンジョンの難易度自体は一般的らしいからな。専門能力とか飛び抜けた戦闘力が無くてもなんとかなるらしい」
「階層ハ?」
「近場だけど5階層だってさ。一応、長期的に潜るような準備は整えてきたから大丈夫なはずだ」
と、楽観的に伝えるがあくまでも大丈夫だと言ったのは攻略の部分だけである。
問題は、捜し物が見つかるかどうかと言う部分だろう。捜し物が見つからないのなら、それだけ長い時間潜ることになる。
「大丈夫ですか? この前に怪我をしたばかりなのに……」
「ああ、怪我なら大丈夫だ。すっかり治ってる。治りが早すぎてちょっと怖い位だ」
そう言って傷口を見せるとちょっとした痕になっているくらいだ。
後遺症も無し。専門職による治療というのがどれだけ凄いのかを実感させられた。魔法のある世界というのは、やはり色々と常識外れだな。
「……すいません。私が体を治療出来たら良かったのに……そうしたら、召喚術士さんもあの怪我で……」
「気にしなくてもいいさ。フェアリーの個性はそっちじゃない。なら、それを有効活用するのが俺の役目だからな」
コンボに使える魔力の操作は色々と創意工夫が出来る。何やら考え込んでいるようだが、運用を考える楽しさで言うならむしろ俺はこっちの方が良い。
と、馬車が止まって会話が終わる。近隣に辿り着いたようだ。馬車を降りてからしばらくダンジョンに向かって歩いて行く。森の中をかき分けていくと人気の無い場所に入り口があった。中に入る前に周囲を確認すると、そこには一人の男が佇んでいる。
「どうも、ダンジョンに挑む冒険者です」
「ふむ……よし、確認した」
人里から離れている場合には、ダンジョンが暴走してモンスターを吐き出す場合や良からぬ企みでダンジョンを利用する人間が忍び込まないように監視する番人がいる。
こういった人間がいない野良ダンジョンもあるが……まあ、それは今は関係のない話だろう。冒険者証を見せると、確認をして許可が下りる。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ。良き冒険を」
お決まりの言葉を聞きながら、曰く付きダンジョンの中へと潜っていく。
……さて、鬼が出るか蛇が出るか。出来れば楽なのがいいと思いながら潜っていくのだった。
――ダンジョンには個性がある。同じ地域や場所で発生した物でも、中身は大きく変わるらしい。
その話を思い出したのは、このダンジョンの内部が舗装されたまるでレンガ通りのような形……いわば、遺跡のようになっている。意外なことだが、これはダンジョン自体がそういう形を取るらしい。
ダンジョンにとって冒険者や外からやってくる外敵は餌だ。そして、その餌を吸収する際にそれは核に近いほど吸収効率がいい。だからこそ、ダンジョンは冒険者を奥へと誘い込みモンスターによって倒そうとするわけだ。餌を逃さないように誘い込むために適応しているわけだ。
(とはいえ、どうやってダンジョンの内部の形を学習してるのかね)
魔力で読み取るだの、外を実は認識しているだの様々な話はあるらしいが詳しいことは分からない。
まあ、冒険者達にとってはダンジョンというのは命をかけて潜る飯の種だ。それが例え危険であっても生きていくためには潜り続けるだけである。つまり、難しい話は別に任せれば良い。
「召喚術士さん、敵です!」
「まだ気づいてないか……ゴブリン、行くぞ」
「任セロ」
ゴブリンが足音を殺しながら前に出て行く。よく見える距離まで近づくと、老人のような男と骸骨が待っていた。
(スケルトンと……あっちはどういう奴だ?)
俺のモンスターの知識は学園で学んだものだ。その記憶を遡っても老人のような男に関しては覚えがない……あるのかもしれないが、何をしてくるのか行動を見ないと思い出せない。
とりあえず、スライムには裏取りをして貰いながら、ゴブリンに前衛を任せて俺も一緒に距離を詰めていく。をする。だが、流石に交戦距離まで近づくとこちらに気づいた。
スケルトンは持っていた剣を構え、老人の方は……なんだ? 手の中に何かを生成している。
「……あっちのお爺ちゃん、何か魔力を込めてます! 警戒をした方が良いかも……」
その言葉を待たずに突っ込んでくるスケルトン。それに併せて老人は何かをばらまいた。
……粉? 毒を警戒して息を止め……いや、待てよ? 脳裏に思い当たる名前が出てきた。いや、それはヤバイ!
「ゴブリン! 目を閉じろ!」
「えっ、目を閉じるって……」
「グッ!?」
しかし、すでに手遅れだった。スケルトンの背後から投げつけられた砂をゴブリンは浴びてしまう。
そして、そのまま倒れ込む。
「ゴブリンさん!?」
「……グゥ……グゴゴゴ……」
寝息が聞こえる。そして、眠ったゴブリンに対してスケルトンは剣を振りかぶる。
「アブねぇ!」
前に飛び出て、ゴブリンを蹴り飛ばす。手で回収するのは間に合わなかったのだ。かろうじて当たる前にゴブリンは吹っ飛んで回避出来た。多少痛そうだが、我慢して欲しい。
そして、フェアリーに対して指示を飛ばす。
「フェアリー、ゴブリンの目を見てくれ!」
「目ですか!? 分かりました!」
その言葉と共に、ゴブリンに元に飛んでいく。これで、魔力の操作でなんとかしてくれるだろう。
……間違いない、あの老人はザントマンだ! こうも厄介な敵がいるとは思わなかったが、すでに布石は打っている。ナイフで攻撃して骨の注意を引く。そして、誘導し……
「スライム、ぶっ壊せ!」
「ジュル!」
忍ばせていたスライムが居た場所に誘い込んだ。スライムは、命令に従ってスケルトンに背後から巻き付いて締め上げる。
なんとか逃げようと抵抗はしていたが、スライムはスケルトンをそのまま締め上げバラバラにした。
「……よし、後は――」
視線を向けると、そこにはすでに老人は消えていた。どうやら、やることをやった後は逃げていたらしい。
……なんというか、めちゃくちゃ敵に回すと嫌なタイプだな。
「グッ……何ガ……?」
「ゴブリンさんが起きました!」
「ああ、さっきのモンスターについて説明するよ」
ザントマンについての説明をする。魔力によって生成した粉によって目を潰し、そのまま強制的に眠らせる力を持っているモンスターだ。眠りの砂と呼ばれ、一部では薬として使われていたりする。
ガスと違って、目を介するのが特徴だろう。そして、スケルトンというのが憎らしい。眠らないアンデッドとコンビネーション。対策していなければあっという間にダンジョンの餌だ。
「……いや、即死トラップすぎないか?」
「凄い難易度高いですね……このダンジョン」
初心者から脱して、銅級ダンジョンに挑んでいるとはいえ思った以上にえげつないコンボだ。
普通の冒険者だとどうなのだろうか? 比べる対象が居ないから分からないが……フェアリーに治療をして貰ったことを考えると状態異常への対処は必須なのかもしれない。
「考えることはドンドン増えるな……まあいいか。とりあえず、潜っていこう。他にもモンスターが出るかもしれないし」
「分かりました! 警戒していきます!」
「今度ハ気ヲツケル」
「ジュル」
やる気十分な二人と、スケルトンの魔石を食べてご満悦なスライムを連れて俺はダンジョンの奥を目指して歩みを進めるのだった。
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