第11話 ジョニーは手に入れた
「では、ダンジョンの核を回収する作業のため、初心者ダンジョンの入場はこれより制限されます。ダンジョンの核を持ち出して、当ギルドに持ってきていただければ依頼は達成となります。核を回収する作業には危険性が伴うので、近隣が封鎖され初心者ダンジョンの周囲から人払いがされますのでダンジョンの外で死体となった場合でも、早くても1週間は近隣に誰も近寄れませんので回収は遅くなります。それで問題はございませんね?」
「あー、大丈夫です」
「――はい、じゃあ召喚術士さん。頑張ってください。ここ最近の新人さんは尖った方は少なかったので、召喚術士さんくらい尖ってる人は珍しくて面白……期待してますから。是非帰ってきてくださいね」
「アレイです」
そんな応援なのか、煽りなのかよく分からないことを言われて見送られる。
背後を見れば、魔具によって封鎖のための道具を起動していた。核を回収するために消滅を厭わずに外部に出てくるモンスターもいるため、この措置なのだとか。
「……つまり、限界ギリギリで外に出て力尽きてもアウトなのか」
ギルドからしたら、自己責任で終わるおまけに報酬を支払わずに済むから死んだ方が得だと思ってる可能性もあるな。そんな風に思いながらダンジョンに入ってスライムとフェアリー、ゴブリンを召喚する。
スライムはいつも通り。フェアリーとゴブリンはとんでもなく暗い顔をしている。
「……大丈夫ですかね。本当に」
「ムリナキガスル」
「暗い顔しなくても、大丈夫だって。きっと上手くいくさ。」
もう召喚獣たちの不満げな視線も慣れたのでスルーしていく。
やるときになったらやってくれるだろうし、結果で見せれば良いのだ。何よりも、今は楽しみでたまらない。
(ゴブリンを加えて、新しい布陣で戦うわけだからな……これまでと変わるだけでも楽しみだ!)
上手くいくのかいかないのか。いかないとして、もしも失敗してしまえば俺はダンジョンの餌になってしまうだろう。しかし、その緊張だって心地良い。
……困難なほど。乗り越えるのが大変なほど……そして、リスクがあるほどそれを乗り越えた瞬間は何よりも最高の瞬間なのだから。
「ふふふふ……」
「ショウカンジュツシ、ワルイカオシテルナ……」
「大丈夫です。いつものことですから」
誰が悪い顔をしたって言うんだよ。武者震いだって言うのに。
そんな風に思いながら、ダンジョンの中へと歩みを進めていくのだった。
「ゲゲゲ!」
「クラエッ!」
「グギャッ!」
襲いかかるゴブリンに対して、こちらのゴブリンは手に持った剣を使い棍棒を弾き返して切りつける。
……道具を使えるという特性は思った以上だ。俺が使えなかった武器なども、ゴブリンは持ち前の技能で使いこなしてしまう。特性で武器に対する補正があるからこそだろう。とはいえ、魔具は使えず武器も基本的な性能でしか使えないのだが。
それでも、武器を使い分けられるだけでも十分すぎるほどだ。なんなら、ナイフを使ってとどめを刺す役の俺よりも強い。
「イイブキダ」
「気に入ってくれて良かった。売るか悩んでたけど取っておいて良かったよ」
渡したのは以前にダンジョンで拾った小振りな剣だ。恐らくダンジョンで死んだ犠牲者のものだろう。初心者向けでも死者は出るし帰ってこない人間だって数え切れないほど居る。
昨日まで冒険ギルドの掲示板で騒いでいた青年が、数日後には物言わぬ姿で帰ってくる。軽く見えても、厳しく死が近い職業なのだ。だからこそ、誰かが死んでも暗くならないように明るく振る舞うのが冒険者なのだと受付嬢さんは言っていた。
(ゴブリンを利用して、相手の武器を奪って使う戦術とかありかもしれないな……スライムが擬態能力を持ってたら武器に変化させて使わせるんだが)
「召喚術士さん、そろそろ最奥の部屋が近いですよ」
と、そこでフェアリーが伝えてくれる。
前回と違って、真っ直ぐにミノタウロスの待っている最奥の部屋へとやってきたので思った以上に早い到着になった。
「ありがとう。さて……ミノタウロスは一回倒したが、前回の戦略は使えないんだよな」
「ダンジョンも学習しますからね……まあ、あの倒し方は酷すぎるので使えなくて良かったと思いますけども」
ダンジョンは生きているので、当然ながら学習をする。
地形を利用したり、敵の習性を逆手に取った討伐などはあらかじめ潰すように作ったミノタウロスへインプットする。今回のスライム討伐も間違いなく対策しているだろう。
「まず、スライムを見た瞬間に戦い方を変えるだろうし警戒もしてるだろうからな。今回は相手の虚を突いた戦術は通用しないと考えて良いだろう」
「なら、激闘になりますね」
「ムウ。オレノチカラ……タメサナイト」
そうやって気合いを入れるフェアリーやゴブリン。
……そんな二匹に、俺は早速指示を飛ばすのだった。
ダンジョンの最奥で待ち構えるミノタウロスは、嫌な気配を感じとっていた。
「グモウ……」
ミノタウロスには以前の記憶がある。正確に言えば、ダンジョンで発生するときに魔力によって様々な知識や経験が継承されていた。自分を死に至らしめた記憶だ。
異常な死に方をした場合には同じ轍を踏まないために、ダンジョンは知識にリソースを割いて次の守護者へ継承する。何度も同じ方法で簡単に殺され続けてしまえば、ダンジョンにとって利がなくなる。守護者は守るための存在だから、それだけの手間がかけられている。
「……」
近寄ってくる音や気配から、間違いなくこのダンジョンに居ないはずのスライムがいると伝えてくる。
記憶に残っている、スライムが爆発し何も分からないまま殺された記憶。甘く見た自分を戒め、敵の侵入を待つ。己のテリトリーで戦えば不覚は取らないのだ。
「グウウ……」
気配は4体。ならば、不足はない。自分の中に残る不快な記憶、この意趣返しをするためミノタウロスは斧を構える。
――そして、ゴブリン、フェアリー、スライム、人間がミノタウロスの住処に侵入してきた。
「ゴオオオオ!」
そして見つけた人間たちに、斧を振るう。何かをさせる暇など与えないとばかりに先手を取った。
そして、ろくに回避も出来ずにその攻撃は司令塔である人間を叩き潰す。そして、それに巻き込まれて小さなフェアリーも吹き飛ばされた潰されたことで液体へと変わってしまった。
まだ残っている。まずは二人を倒したが、油断はしない。それほどまでに以前の死は屈辱的だった。
「グウ!」
こちらに向かって武器を振りかぶり残っているゴブリンの首を狙う。しかし、その一撃は小さい体躯から当たらなかった。自身の気負いを自覚し、己を諫める。
足下に対する警戒も怠らない。スライムはまだ残っているはずだと視線を向ければ、足下にやってきたスライムを見つけて踏み潰す。油断をしなければ、当然ながらスライムに負ける理由などない。これで、負けはない。過去の自分の雪辱を果たしたミノタウロスは残ったゴブリンに意識を集中し……
「よし! 今だ!」
「グモ!?」
突然声が聞こえ……そして、突撃してくるのは潰したはずの人間とフェアリー。そして……目の前に居るはずのゴブリン。
突然のことに困惑し――だが、すぐに戦闘の驚異を切り替えて意識を人間たちに向ける。しかし……
「ジュル」
「――」
その瞬間、スライムの音。あの音が聞こえたことで記憶が警告をならす。だが、それは致命的な隙だった。
「――スマナイ」
申し訳なさそうな声で、ゴブリンの剣がミノタウロスの目を貫き脳を破壊する。
倒れ伏したミノタウロス。そして、朧気に自分が何をされたか理解した……そして、残った意識で指示をしたであろう人間を見る。自分の起こした成果に満足げな人間を見つめる。
「召喚術士さん、まだ見てます! 警戒を……」
「グ、ル、ウウウ……」
そして、ゆっくりと中指を立てる。
「クタ……バレ……」
――単なる防衛機構でしかないミノタウロス。
喋る機能すら付いていないはずのミノタウロスは……恐らく、発生してから感じたことのない怒りに身を任せて召喚術士に中指を立てて言葉を浴びせて消滅するのだった。
「……おー、ビックリした。喋るんだな」
まさか、ミノタウロスに中指を立ててくたばれと言われるなんて。実績だったらなんだろう。
「……」
「……」
「どうした、ゴブリンもフェアリーも凄い顔をして」
信じられないモノを見たような顔をしている二人にそう聞くと、こちらを見る。
「……ミノタウロスみたいな守護者って、喋ったりしないんですよ。それが、最後の怨嗟のためにルールすら超えるなんて思わなくて……」
「ドレダケ、クツジョクダッタンダロウナ……」
「……いやいや、そこまで変なことはしてないだろ?」
「してますよ!?」
何が変なのだ。
遙か昔から、身代わりを使った戦法というのはありふれているだろう。前回はスライムに頼りすぎたので、今回は趣向を凝らして全員の協力プレイをしたのだ。
「マサカ、ニンギョウツクリヲスルトハ……」
「いや、実際この戦法は有効だな。今回はあり合わせだったからスライムに人の形になってもらったけど、魔力を操作できるフェアリーと手先の器用なゴブリンを合わせれば色々と応用が効きそう」
「本当にスライムを労ってくださいね……? もう、この子最近文句を言わずに率先して分割されてて見ててかわいそうです」
「ジュル……」
今回のミノタウロスへ使った戦略は、分割したスライムを俺達に見えるようにゴブリンへ造形をして貰った上でそこにフェアリーが魔力を通して偽造をするという戦略だった。
スライムが動いているわけではなく、操り人形のような形でフェアリーが動かしていた。そのせいで動き自体はぎこちなかったし叩き潰されてしまったのだが。
「でも、なんでミノタウロスは判別できなかったんですかね? サイズも大雑把ですし色だって変なのに……」
「牛って、実は色をちゃんと識別できてないって話を聞いたことがあってさ。だから、スライムを使えば騙せるんじゃ無いかって思ってな。特に、以前の記憶が残ってるなら警戒しているはずだろ? 倒した方的にスライムに注目するだろうし」
闘牛も、あれはヒラヒラした布に反応しているだけで色は分かってないらしい。だったらいけるだろうという理屈でやってみた。
まあ、実際それが原因なのかは分からないが上手くいったので結果的には問題なしだ。
(とはいえ、結構不安定ではあるんだよな……もう同じ戦術は通用しないって言うか、これは仕様の穴を付いた戦術感はあるしなぁ。他の方法でちゃんと正攻法で戦えるような何かを考えておきたいんだが……)
「おーい、召喚術士さーん! 目的まだ達成してませんよ!」
「おっと、そうだった」
今回の目的は、第一にダンジョンの核を持っていく事だった。忘れかけていたが、そのまま帰らずに奥へと進んでいく。
……徐々に、なんというのだろう。空気が変わる。魔力が濃い空間は色々と影響があるらしい。いわば、高山に上って空気が薄いのと似たような状態だろう。
「……これか」
「ダンジョンの核……初めて見ます……!」
魔石を巨大にして、濃縮したような塊。
それを見るスライムやフェアリーも、気圧されている。
「……よし。問題はないな」
サイズとしては、野球ボール程度。そしてそれを手に持って……ん?
突如として、嫌な予感がする。虫の知らせとは違う、なんというのだろうか……建物の重要な柱を倒したような感じの予感だ。
「……なんかヤバイ気がするな。よし、いこう」
「デグチハ、コッチダ」
ゴブリンの先導に従いながら、ボスの部屋から出る。
……そして、ものすごい数の足音が聞こえてくる。
「なあ、これって」
「早く逃げましょう!」
「クルゾ!」
逃げる方向の背後をちらっと見て……慌てて正面を向いた。
――流石に、通路を埋め尽くすゴブリンとフェアリーの群れを直視すると気分的に追い込まれる。捕まったら、跡形も残らなそうだな!
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