第9話 ジョニーは仲間(手札)を見つける

 先ほど聞いた道を進みながら、俺は感心していた。

 さすがは本職だ。斥候から聞いた道は間違いが一切なく、さらにこうやって通れば良いという指示に従えば足場の悪さも気にならずスイスイと進めていく。フェアリーの誘導も頑張っているが、こうしてみると精度が大きく違う。


「斥候だけ雇うのを悩むくらいだな……こういうのが得意なモンスターがいるか?」

「居ると思いますよ。意志がある方は、それぞれで得意なことがありますし、そういうのが好きな方もいるはずです」

「まあ、見つかれば助かるな……雇うよりは安く付くだろうしトラブルもないだろうからな」


 金という面。人間相手でトラブルが起きるという可能性。それを考えると自前のモンスターとの契約で済む以上はそちらが良いと思える。


(とはいえ、問題は魔力だ)


 俺がミノタウロスを倒したときも楽に見えて実はヘロヘロだった。魔力なんて、数戦した後にダンジョンを出ればもう戦うことも出来るかどうかというほどに空っぽになっている。

 まあ、魔力量が多ければ魔法使い適正がもっと高くなるもんな。


(それだけで考えるなら、金の絡まない範囲で頼れる同業者を見つけるメリットはデカいな……)


 先ほどの出会いは悪いものじゃなかった。最悪、見つからなくても成果があると思えるくらいには。

 とはいえ、まあそれはそれだ。今の思考は新しいモンスターのことだけだ。


(やっぱり手札が増える瞬間は最高の楽しいんだよな……!)


 限りあるリソースのやりくりも確かに楽しい。しかし、戦力が増えることで選択肢が増える瞬間はもっと楽しい。

 今の気分は新しいゲームを買ってプレイする前の子供だ。


「まって、召喚術士さん! 待ってください!」

「えっ!? なんだって!?」

「だから! ちょっと待ってくださいって!」


 ストップをかけられて、しぶしぶ足を止める。

 すると、怒り心頭なフェアリーに怒られる。


「私が追いつかないのに、なんで先行して走って行っちゃうんですか!? まだ、ゴブリンたちが徒党を組んで待ってるかもしれませんよね!? もしも死んじゃったりしたらどうするつもりですか!」

「す、すまん……」


 めちゃくちゃに怒られてしまった。フェアリーは普段押しが弱いのだが、この時ばかりの剣幕はミノタウロスも正座で反省をするほどだろう。勝手に使ったミノタウロスには悪いが。

 ……普段おとなしい子ほど怒らせると怖い。そんな言葉が浮かぶ。


「聞いてますか!?」

「聞いてます」

「……はぁ。それじゃあ、落ち着いてゴブリンを探しましょう。焦っても得はないですから」


 焦ってるわけじゃないんだけどなぁ……というボヤきをしない程度の理性はあったので何も言わずに足並みをそろえて歩いて行く。

 ……さて、先ほどのパーティーがゴブリンを発見したと言っていた地点までたどり着いた。確かにゴブリンなどが居た形跡はあるが、すでに跡形もない。


「ここから……あの曲がり角の方向に逃げたって言ってたな」


 目を懲らしてみれば足跡らしき痕跡がうっすらと見える……が、それが誰のものでいつ出来たのか。それは分からない。

 だが、確かに証拠は残っているという事実が再び俺をワクワクとした気持ちに駆り立てる。


(……ここからは、音を殺すべきだな)


 意志を持っているモンスターは倒されることを恐れる。すでに戦った後なら、逃げ出す可能性だって高いだろう。

 なので、一歩、二歩。普段よりも神経を使いながら松明の光源を頼りに進んでいく。


「……冒険者さん……あそこ……!」

「……っ!」


 そこには、何やら座り込んで作業をしているらしいゴブリンがいる。周囲を把握……他にモンスターは居ない。

 そのままスライムを召喚して指示を出す。ズルズルと進んでいくスライム。気づかれてしまえば問題だが……どうやら、集中しているらしい。近くに寄れば気づかれるかもしれないが、これならば問題はないだろう。


「……よし、行くぞ!」


 そして、スライムが所定の位置にたどり着いたところで声を上げる。


「っ!?」


 油断していたゴブリンは声に驚いて周囲を確認し、俺達を見つけたゴブリン。

 先ほどの冒険者だけではなく、一人だけの俺に一瞬だけ迷う。一人だけの俺ならば、逃げるよりもこのまま立ち向かう方が良いのではないかと考えたのだろう。

 しかし、俺の横に飛んでいるフェアリーに気づいて迷いを捨てたのか、背中を向けて脱兎のごとく駆け出す。


「今だ! 行けスライム!」


 その言葉によって、ゴブリンが逃げ出した先で倒れてしまう。

 この部屋の通り道は二つだけしかない。俺達が来た道と、奥へと抜けれる道だ。あらかじめ分かっていれば、スライムをこっそり忍ばせて通り道でトラップにすることは出来る。動きは遅いが、制圧する面は広いのだ。

 もしも、スライムの移動がバレてしまえば捕まえられない可能性がある博打ではあったが……なんとか上手くいった。確率を上げるために、声を上げてゴブリンの注意をこちらに向けたのも良かった。あのままこちらに突撃してきていたら危なかった。正面切って戦う場合はゴブリンに負ける自信がある。


「よし! スライム! そのまま捕らえろ!」

「っ! っ!」

「ジュルジュル」


 グルグルと体に巻き付いて拘束していく。先ほどまでの10体以上のゴブリンを拘束してきた手際が生きてきた。

 すっかりとスライムに捕らえられて動けなくなったゴブリン。フェアリーと俺は捕獲されてしまったゴブリンの正面から交渉を始める。


「――さて、俺の言葉が分かるよな?」


 そう聞くと、必死に頷くゴブリン。

 ……よっしゃ! 当たりだ! 正直、魔力を使う関係上あまり時間がかかるなら……という不安があったが、それも報われた!


「喋れるか?」

「……ググ……ナンダ?」


 ふむ。喋れるとなれば、知恵が回るということだ。意思疎通をする上で簡単にでも喋れるのはメリットが大きい。


「さて、俺は召喚術士なんだが……ゴブリン、このままやられたくないよな? もしそっちが良ければ、召喚契約を受ける気は無いか?」

「……ショウカン、ダト?」


 疑問符を浮かべているようなゴブリン。

 一から説明をしながら、先ほどまで作業をしていた痕跡を横目で確認する……ふむ、なにやら道具のようだ。ゴブリンが使っている武器は、基本的に棍棒だったりなのだが……


「なあ、ゴブリン。何を作ってたんだ?」

「……ツクッテタノハ……ブキダ……」

「ゴブリンの武器……棍棒じゃない奴だよな? あっちにあるのは、尖った槍に見える」

「アア……ドウゾクハ……ブキナドキニシナイ……シカシ、ニンゲンノツカウブキハ……スゴイ」


 ……ほほう。武器が凄いといって作ろうとしている……ゴブリンという種族に詳しくないが、基本的に棍棒を持っているか冒険者の持っている武器を奪って使っている程度なのだ。

 その中にいて、武器の魅力に気づいて自分で作ろうとするほどに意欲に溢れた存在というのはやりづらいだろう。ならば……それは使える!


「なら、俺に付いて来た方が良いぞ? 冒険者にやられて魔石になる危険もなくなる。武器が作りたいなら、契約で武器作りのサポートをする契約を結んでも良い」

「……ホントカ? ブキヲツクッテイイノカ?」

「ああ、ホントだ! 武器を作るっていうなら、幾らでも手伝うし可能ならゴブリン用の武器だって用意できるぞ! 魔石だって、必要の無い魔石はちゃんと渡している。福利厚生もしっかりとしてるからな!」

「グム……」


 ふふふ。悩んでいるようだな。

 欲しがる相手に対して、ちゃんとメリットを提示する。誠実であることが交渉には重要というわけだ。


「このまま、このダンジョンでずっと待っていても良い結果は生まれないだろ……多少、俺の手伝いで苦労をするだけで武器に関われるなら良いと思わないか?」

「タシカニ……」

「契約の内容はちゃんと合意をしていないと取れないからな。ゴブリンが絶対にこれだけは譲れないというような条件をちゃんと入れておけば、問題は無いだろ? むしろ、冒険者にやられて死ぬ可能性だって減るじゃないか」

「……ホントウニ、ケイヤクデキルノカ?」

「ああ、出来るとも」


 召喚符というのは便利なもので、一部の特殊な例を除いてモンスターと細かい条件などを思い描きながら魔力を込めるだけで契約出来るのだ。

 そこで交わした契約は絶対であり、もしも契約を違反した場合は違反したものへ魔力が呪いとなって返ってくる。ある意味で公平な作りになっているのだ。


「ナラ、ケイヤクヲスル」

「よし、契約成立だな。じゃあ、これに条件を考えて魔力を込めてくれ」


 そう言って、空の召喚符を差し出す。それにゴブリンが触れながら魔力を込めると徐々に体が符の中へと移っていく。

 ……契約完了。そして召喚符に入ったゴブリンを召喚して確認する。


「……コレデ、ケイヤクカンリョウカ?」

「ああ。今日からよろしくな」


 そう言って笑顔で握手を求めるとゴブリンも握手を返す。

 これで召喚は成功だ……よし、新しい仲間を手に入れることが出来たぞ!


「……なんだか、契約っていうよりも詐欺をしているみたいでしたね」

「グジュウ」


 フェアリーの言葉にスライムが同意するように震える。失礼なことを言うなよお前ら。

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