第8話 ジョニーは冒険者に出会う

「……えーっと、俺の言葉分かる?」

「グギギギ!」

「ダメかぁ」


 話が通じないことが分かったので、スライムが拘束しているゴブリンにナイフを突き立てて魔石へと変える。拾った石を今度はフェアリーに投げる。


「ほら、フェアリーも食べたら良いぞ」

「わぁ。ありがとうございます」


 そう言って嬉しそうに魔石を飲み込む。

 ……さて、ダンジョンを進みながらゴブリンを殺さずに拘束して話しかけること10匹目。フェアリーも見つけたのだが、そっちはこっちにフェアリーがいるので交渉する前から敵対的だった。

 フェアリー曰く、契約をした後は同族から裏切り者だったり仲間殺しと見えるらしい。フェアリーを引っ込めれば話は変わるのだろうが、そんなことをしてダンジョン探索して仲間捜しなど難易度が高いので辞めておく。


「運が良いから多くても2体位しか出会ってないけど、そろそろゴブリンの編隊に出会わないか不安になるな」

「そうですね……対策をしないと、危ないかも」


 以前にも追われていたゴブリンだが、こいつらは放置をすると仲間を呼ぶ習性がある。

 手数が足りず、こちらの処理能力を超えた数になって逃げて、すると仲間を呼んで増えていく。それが俺達がゴブリンに追いかけられてきた経緯だった。

 数の暴力とは圧倒的な差が無いと覆らないのだ。


(とはいえ、最悪はスライム増殖コンボで対処は出来るか?)


 スライム増殖コンボの良いところは手数以外にもある。それは、スライムが小さくなることだ。


(大体今の最大サイズが、大きい犬を飲み込めるくらいだから10分の1になればゴブリンの内部に入るのも難しくない気がするが……)


 ゴブリンも発声で仲間を呼んでいる。ならば、口を塞げばいいわけだ。

 小さくするのも、俺がスライムを切り分ければいい。フェアリーも前回のダンジョン探索で手慣れてくれたのでとっさに対応も出来る。まあ問題は試してないということだが。まあいい。


「ゴブリンの編隊に対する対抗策は考えた。だから、このまま進もう」

「はい」

「グジュ」


 そして進んでいくと、足音が聞こえてくる。相手は判断できないが、聞こえてくる以上は警戒をするべきだ。巡回をしているモンスターの可能性も高い。

 角で警戒をして、待つ。


「……あれ? あの、召喚術士さん。この感じは……」


 言葉の前に、突如として足音が変わる。それは先ほどのペースと違うこちらを奇襲するような動き。

 とっさのことで動けない。そして、そこに3人の人間が武器を構えてこちらを見ていた。


「スライムにフェアリー!? スライムなんて居たか!?」

「構えるんだ! 冒険者を助けないと!」

「……!」


 スライムに向かって弓が放たれ……って、ちょっとまった!?


「待った! 待ってくれ! このスライムもフェアリーも敵じゃないんだ!」

「……え?」


 スライムに矢が直撃して吹っ飛ばされる前に送還をしたことで、なんとかスライムに矢が直撃しなかった。

 致命的な攻撃を食らった後、召喚符から時間をおかないと召喚出来なくなるのだ。


「あ、あぶねぇ……」

「……えっと、事情を教えてくれるかな?」


 その3人のリーダーらしい人からそうやって声をかけられる。

 今後も同様のトラブルがあるかもしれない。そんなことに気づいてここで誤解を解くべきだろうと事情を話し始めるのだった。



「……へぇ、召喚術士かぁ……そんな職業があるんだ。ボクは初めて聞いたよ」


 そう答えるのは、優しい顔をした黒い髪の少年。

 彼がリーダーなのだろう。人当たりが良さそうだ。身につけている装備を見る限りでは、前衛のファイターという感じだな。遊撃を主にするタイプだ。

 魔力によって強力な攻撃を行うことが出来るのだとか。俺に適性はなかった。


「オレは、そういう手段はあるって聞いたことはあるけど……本当にやってるのは初めて見るな」


 そして、それに同意するのは軽装に身を包んだ赤髪の幼い顔の少女だ。

 こちらは、身軽さや装備から斥候という感じだ。狩人なのだろう。ちなみに適正は死ぬほど無かった。


「……?」

「魔法使いの中でもモンスターを使う奴はいるんだよ。まあ、殆どは補助程度らしいけどさ」


 首をかしげ、斥候の子に説明されているのは……頭にはバケツのような兜を被った全身鎧の人間。

 盾役であるナイトという感じだな。オレの適性は当然無かった。

 ……しかし、バランスがいいな。お手本のようなパーティーだ。人数が少ないのが気になるくらいか?


「いやー、でも勘違いで倒しそうになってごめんな。まさか、こうやって冒険者にダンジョンで出くわすなんて思ってなくてさ」

「それはこっちのせいでもあるから、こっちこそ悪い」


 斥候の子の謝罪に、俺も謝罪をして返事をする。

 まず、召喚術士という職業自体が珍しい。まず存在しないと言っていいレベルだ。だから念頭に入れるのは難しいだろう。ぱっと見ればモンスターに囲まれている冒険者だしな。


「それで、一人で探索して何を探していたんだい? 事情次第ではボクたちで良ければ手伝えるけど」

「……」


 バケツが同意するように頷く。まあ、あちらから勘違いしたのでお詫びも兼ねているのだろう


「仲間を置いて一人で来るなら、何か事情があるんだろ?」


 ちょっとまて、聞き捨てならない。


「変わったモンスターを探してたんだ。それと、それに、仲間ならこいつらがいる」


 そう言ってフェアリーとスライムを指さす。それを見て、微妙そうな顔をする狩人。


「……えーっと、オレは冒険者仲間のことを聞いたんだけど」

「こら! 失礼だろ! 人には事情があるんだから! ごめんね。ウチのメンバーが……」


 そう言って、ファイターが斥候を怒って俺に謝罪する。

 ……いや、分かるよ? こっちの事情を考えてくれる気持ちは有り難い。ただちょっと複雑な気分になる。なんと形容したら良いんだろうか。善意というのは悪意がない分心に直接来るな。

 話を変えるためにこっちからも話題を振ってみる。


「ああ、気にしてないから大丈夫だ。それで、そっちは帰り道か?」

「ああ、そうだね。ボク達はちょうど最奥のミノタウロスを倒して戻るところなんだ」

「……」

「そっちは最奥を目指してるのかな? ミノタウロス討伐の手伝いは出来ないけど……」


 その言葉に首を振る。


「いや、もうミノタウロスは倒してる」

「えっ!? それ、一人で!?」

「いや、だからこいつらと協力してだけど……」


 斥候の言葉にフォローを入れながら説明をすると、ファイターも斥候も……なんならナイトも驚いている。

 なんとなく異世界にやってきたような気分になるが、これはあれだな。変態的な縛りプレイをしているプレイヤーを見て「やらないけど凄い」と思っているときの感じだ。


「凄いなぁ……ボク達も、3人だと難しいなんて言われたし苦労したんだけどね……実質的に冒険者一人で踏破したんだ……」

「なあ、召喚術士。お前ってもしかしてフリーなのか? パーティーを探してたりしないか?」

「ああいや、ちょっと事情があって今はパーティーは探してないんだ」

「そうか……なら、探してるときは声を掛けてくれよ! オレ達ならまだメンバーの空きがあるからな!」


 良い笑顔でそういう斥候……突然の話に驚いたが、こういうこともあるのか。

 借金さえなければなぁ……という気持ちになる。事情が何であれ借金持ちというのはマイナスだからな。


「あはは……突然でごめんね。ボクもフリーな人は歓迎だから、縁があったらまた声をかけてくれると嬉しいな。幼馴染み3人組なんだけど、やっぱり他の冒険者を探すのも難しくてさ」

「……」

「そうなのか? 見てる感じで、実力もありそうだし入りたいって奴は多そうだけど」


 パーティーバランスも良いし、空気も悪くない。緩く見えて、ちゃんと緊張感を保っている。

 バケツ兜のナイトが何も喋らないが、そういう性格なのだろう。そこも気遣えるなら問題はなさそうだ。なら、引く手あまただろうに。


「あー、ダメダメ。入りたいとか頼んでくる奴は良い奴居なかったんだよ! なんなら、おこぼれ狙いですよみたいな奴も居てさー。最悪だよな! 10人以上声をかけてきたけど全部突っぱねたんだよ!」

「まあまあ……でも、この子は人を見る目あるんだ。ボクたちもその目を信用してるんだ」

「……俺は良いのか? さっきの最奥を倒したってのも嘘かもしれないのに」


 見栄を張ってる可能性もあるだろという指摘だが、斥候は何故か知らないがケラケラ笑ってる。

 そんなに変なことを言ったのか?


「ははっ! そんな嘘をつけるようなタイプじゃないって! アンタと似たようなタイプを見たことあるけど、もっと不器用だったよ!」

「……一応聞きたいけど、どんなタイプだ?」

「偏屈で、自分の興味のあることには引くほどのめり混むバカ正直な生きづらいタイプ!」


 ……罵倒じゃない? あと、フェアリーは分かるみたいな顔で頷くなよ。本当にそうなのかと思うじゃないか。


「こらっ! ……まあ、でも見る目は本当に確かなんですよ。だから、ボクたちも何か事情があって仲間を探してないと思いますが……その事情が無くなったら、声をかけてくださいね? 召喚術士という職業も面白そうですし、仲間になったら色々な戦い方が出来そうですから」

「ああ、分かった。その時には声をかけるよ」


 ファイターの言葉に、うっすらと同族の臭いを感じる。多分、俺とは違うが完璧な戦略を作ってパターンにハメるのが好きなタイプじゃないか?

 ふと、バケツが狩人に何かを耳打ちしている。


「……えーっと、召喚術士。なんか変なゴブリンが居たらしいぞ。そういうの探してるんだよな?」

「本当か!? どこに居たんだ!? もう倒した!?」

「うわっ!? え、えっとだな。5匹くらいのゴブリンと戦ったんだけど、一匹だけすぐ逃げ出したってよ」

「逃げ出した……間違いない! 方向は!? 教えてくれ!」

「あ、ああ。この道をまっすぐに進んだ後に、部屋があって……」


 そして逃げ出した方向と行き方を聞いて脳裏にたたき込む……これは、望みありだ。

 このまま見失う前に行くべきだろうと走り出す!


「ありがとう! 外であったら、またなんかお礼をするよ! じゃあな!」

「しょ、召喚術士さん! 待ってください!」


 そう言って一目散に走る。

 もしも他の冒険者に倒されたら最悪だ! さあ、待ってろよゴブリン!



「――やっぱりオレの見立て通りだったな。偏屈で、のめり混むような生きづらいタイプだって」

「あはは……さっきの変わりようを見たら否定は出来ないなぁ……まあ、あっちの成功を祈りながらボクたちも帰ろうか。縁があればまた出会えるだろうしね」

「……」

「え? ……そういえばフェアリー喋ってたね。可愛いからもう一回会いたい……? 知らなかった。そういうの好きだったんだ」

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