14-2
「お願いします! 隊長!」
三人の騎士が、一斉にラースに頭を下げた。ラースは三人を見下ろし、呆れて思わず溜め息を落とす。
場所は騎士の詰所。三人はラースの隊の部下で、彼が詰所に入った途端に駆け寄って来たのだ。
「それは直接、本人に言え」
「だって、ご本人が良いって言っても隊長がダメって言ったらダメじゃないですか!」
顔だけ上げてそう訴えるのは、直属の部下のカールだ。茶色の猫っ毛が特徴的な若い騎士で、人懐っこい性格をしている。カールを可愛がる者は多い。
「……。代表者、ついて来い」
溜め息交じりにラースが言うと、三人は表情を明るくする。詰め所を出る彼にカールが続いた。
エメの部屋に行くと、ちょうどエミルの授業が終わったところのようだった。失礼します、と頭を下げて部屋に入って来る見知らぬ騎士に、エメはきょとんと首を傾げる。
「こいつは俺の部下のカールだ」
「カールです! 以後お見知り置きを!」
自己紹介が済むと、カールは勢い良く頭を下げた。
「エメ殿! お力を貸していただけませんか!」
カールの突然の懇願に、エメは目を丸くする。うかがうようにラースを見るので、説明しろ、とカールに言った。
「実は『ゲシュタルトの塔』を攻略したいんです」
それは『風香の迷宮』より難しいとされているダンジョンだ。ダンジョン内は冒険者を迷わせるように迷路状になっている。さらに惑わせる魔法もあるため、一度入るとスキルがなければ出られなくなるという恐怖の迷宮だ。そのため、エメの【状態異常修復】が必要になる。
「ゲシュタルトの塔には、
『炎除けの護符』は、熱から体を守ってくれる。しかし遮熱されるだけで、実際に炎から身を守ってくれるわけではない。『熱源耐性』が上がるのだ。
「次の任務で砂漠に行くんで、どうしても『炎除けの護符』が欲しいんです! これがないと結構きつくて……」
「どうだ、エメ」
ラースが訊くと、エメは頷いた。協力しても良いということだが、ラースはまた問いかける。
「こいつに協力してやる義理はお前にはないぞ」
「隊長! なんでそんなこと言うんですかあ!」
涙目になるカールに、ラースは肩をすくめた。
エメが微笑むので、またひとつ息をつく。
「ただし、俺とニコライ、エミルも同行させてもらうぞ」
「はい! ありがとうございます!」
さっそく準備して来ます、とカールは部屋を出て行く。
エミルが怪訝な表情でラースに視線を遣った。
「なぜエメが【状態異常修復】を持っていることを?」
「俺たちは『風香の迷宮』を攻略している。そこにエメを連れて行ったんだから、エメが何かしらのスキルを持っているということはわかるだろう。なんのスキルかは知らないはずだが【癒し手】のことは知っている。何かしら状態異常を回復する方法をエメが持っていると思ったんだろう」
「なるほど。ラースさんが口を滑らせたのかと思いました」
「そんな軽い口だと思われていたとはな」
「思ってはいませんが、万が一はありますからね」
もしくはニコライさんかと、とエミルが言うので、ラースは肩をすくめた。ニコライはとても軽そうだが、あれで絶対に情報を漏らさない固い口を持っている。
「ニコライのこと、もう少し信用してやれよ」
「信用してますよ」
抑揚のない声で言うエミルに、ラースは目を細めた。
エメがきょとんと首を傾げるので、エミルは頭を撫でる。
「ニコライさんへの信頼は、ラースさんへの信頼の半分でいいですからね。いつ何をやらかすかわかりませんから」
「さすがにニコライも泣くぞ」
ラースが苦笑いを浮かべるので、エミルは肩をすくめた。
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