13-2
翌早朝。ラースは、エメはきっと立ったまま寝かける状態で部屋で待っていると思っていた。しかし予想に反して、エメはしっかりと起きている。どうやら、ダンジョン攻略に対して相当の気合いが入っているらしい。
ユリアーネに門まで見送られ、三人は馬にまたがる。エメが、行って来ます、と言うようにユリアーネに大きく手を振り、三頭の馬は一路、南へ向かう。
『風香の迷宮』は王宮から馬で一時間ほど走った場所にある。林の中に二本杉があり、その二本杉に挟まれるようにして扉がある。前から見ても扉で、後ろから見ても扉だ。扉だけ林の中にぽつんと佇んでいるのだ。
その扉を開けばダンジョンへと通じている。エメはラースに抱えられながら、不思議そうに扉を眺めている。
「【状態異常修復】の効果は半径約二メートル程度だそうです」と、エミル。「そばにいれば効果は確実かと」
「怖くて離れらんないっスよ」
『風香の迷宮』で現れる状態異常は「混乱」「錯乱」「スキル封じ」「魔法封じ」「物理攻撃耐性無効」などだ。仲間が混乱や錯乱に掛かったとき、味方同士で剣を交えることもある。そのときに物理攻撃耐性が無効化されていると、それにより大怪我を負うこともあるのだ。
ダンジョン内は、岩が剥き出しだった「冒険者の迷宮」とは違い、壁は水晶のようなものでできている。状態異常さえなければ、観光名所にでもなったかもしれない。
「ほとんになんともないっスね」ニコライが言う。「これなら八階層まで余裕っスね」
「油断するな。防げないものもあるんだぞ」
厳しい声で言うラースに、はあい、とニコライは間延びした返事をする。緊張感の欠片もない。
エメは前回のダンジョンと雰囲気の違う景色に、物珍しそうに辺りを見回している。楽しんでいるように見えた。
問題なく三階層まで降りる。誰かが【状態異常修復】に防げない状態異常になることもなく、景色のずっと変わらないダンジョンを着々と進んで行く。
「魔物も出て来ないっスね」
ここまで魔物の姿が影どころか気配すらない。
「魔物も住めないんですよ」と、エミル。「状態異常になりますからね。人間と同じです」
「ははあ、なるほど。
「ニコライさんのスキルは戦闘向きではないですからね」
エミルがそう言うと、ニコライは肩をすくめた。ニコライの持つスキルは補助系のものが多く、騎士を務めていく上ではあまり必要ないものばかりだ。
「先輩も
エメはラースを見上げて首を傾げた。それからニコライに視線を戻すと、ふふん、とニコライはもったいつけた。
「先輩の
その凄まじい効果に、エメは目を丸くしてまたラースを見遣る。ラースは肩をすくめた。
「対魔法戦では意味のないスキルだ」
「でも、先輩はすごいんスよ。二つ名も持ってるんスから」
なぜかニコライが得意げに胸を張って言う。エメは問いかけるような視線をニコライに向ける。
「先輩の二つ名は『不死身』っス! 盗賊団を三つ制圧したときに、そういう噂が立ったんスよ」
「ベラベラ喋ってますが、いいんですか」
エミルが眉をひそめて言うので、ラースは肩をすくめる。
「エメに知られることに不都合はない」
本来なら、勝手に情報を漏らすなと叱るところだろうが、相手がエメならなんの不都合もない。しかし、なぜニコライは自分のことのように誇らしげな顔をしているのだろう。
五階層目に降り、次の階段を探しているとき、エメが何かに気付いたように後ろを振り向いた。
「どうした」
問いかけるラースに、エメは背後を指差す。そこはいま通って来た道で、目視の限りでは何もないように見える。
「何かいたんスかね」ニコライが首を傾げる。「坊ちゃんの【マナ感知】になんか引っ掛かったのかな」
「ここはほとんど攻略が進んでいませんからね」と、エミル。「情報にないものがあってもおかしくはありません」
その場で少し足を止めるが、何かが現れる様子はない。エメの【マナ感知】に引っ掛かったのだとしても、目に見えるものではないのかもしれない。
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