最初から
天城春香
最初から
途中まで、そうですね、具体的には中盤辺りまで勧めたゲーム、いや創作、それとも運動、活動、それでも構いませんが、一度始めた物事を、突然全て投げ出して最初からやり直したい、そんな衝動に襲われたことはありませんか。
このゲームどこまで続くんだろう。中盤だけどだるくなってきたな。この苦労が結果や達成感に繋がらなくなったらどうしよう。そんな不安に襲われることは誰にだってあるものです。それは決して不思議なことではありません。
それ故に、あなたはこのスイッチを押したのですね。これで何度目でしょうか。十度目までは覚えていますよね。それから先、あなたは何度このスイッチを押したのか覚えていない。しかし私は覚えているのですよ。
あなたがこのスイッチを押したのは、これで一万と三千と九百と九十九回目。おめでとうございます。あと一回押せば、切りの良い一万4千回目です。ゼロが三つも並んでとても見栄えがよろしい。まあ、それだけですけれども。しかし、これは本当に素晴らしい数字です。よくぞここまで続けられましたね。あなたは立派な方です。ええ、私はずっと見守っておりましたから存じ上げておりますよ。あなたは立派でした。そしてこれからもきっと、もっと立派になれるはずです。
故に、あなたはボタンを押し続けるでしょう。あと千回押せば一万と五千回。五の倍数となる大変見栄えのいい数字です。おめでとうございます。そうすることであなたはこのスイッチを押すという行為を記念すべき数字とも言い表せるくらい押し続けたということです。
人間は、全く同じことを繰り返すことを苦痛と感じる生き物です。たまに例外はいたりしますが、それでもあなたは同じことを一万回以上繰り返している。これはとても素晴らしい才能です。あなたは途中で投げ出すという行為を桁数にして五つも並べられるほど繰り返されました。
その過程に同じものがあったか、ですって? そんなことどうでもいいじゃないですか。あなたが一万回以上も繰り返し、成し遂げたことは、「途中で投げ出した」という過程の最中の出来事なのです。「過程はどうあれ」などという表現はあれど、それは結果があってこそ使える表現なのです。
あなたは前人未到のことを成し遂げた。強いて言うのであれば、それがあなたの残した「結果」ですよ。これはもう、称賛するしかありませんよね。
すごい。
素晴らしい。
えらい。
さて。さっきからあなたを褒め称えている私が何者か、そろそろ明かすとしましょうか。神様なんかじゃありませんよ。神様は、途中で投げ出す人間を見捨てるものですから。
そしてあなたはボタンを押すのです。
最初からやり直すボタンを。私の招待を知った途端、あなたはボタンを押すのです。私は知っています。それが一万回以上繰り返されているのですから。今回もそうに決まっている。
何故かって?
それは、あなたが私の正体を知ると、決まって「ある感情」が起こるからなのですよ。
そう、私の正体は、
最初から 天城春香 @harukaamagi
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