僕の事が大好きな君へ。
書峰颯@『幼馴染』12月25日3巻発売!
第一章 週末恋人
第一話 週末だけ恋人であっても、そこには本物の愛がある。
僕の通う学校のクラスには、公認カップルと呼ばれる男女が存在する。
一人はサッカー部員の若きエース、
スポーツマンならではの細マッチョな肉体に爽やかな笑顔。
女子はもちろん男子からも好感度の高い、完全無欠の青春野郎だ。
その相手が女子バレー部の同じく若きエース、
ショートカットが物凄く似合う王子様系女子。
バレーやってる女の子って皆背が高いイメージがあるけど、美結も結構高い。
百七十とか聞いたけど、実際はもっとなんじゃないかなって思う。
だって、二人が並んで歩いている時、護君よりも美結の方が頭一個分くらい大きい。
告白は護君の方からしたって聞いてる、美結がそれにOKしたとか。
別に僕の方が先に美結を好きだったとか、そういう事は一切ない。
高校一年生だ、異性に興味がないと言えば噓になるけど。
でも、美結は可愛いし勉強も出来るし、性格も良い。
誰にだって優しくするし、それはもちろん僕だって例外じゃない。
性別に関係なく声を掛ける美結に惚れてる男は間違いなく多い、けど、それは護君も一緒。
気さくに女子と会話したり、贔屓なしに誰にでも声をかける。
そんな二人だ、みんなが祝福した。
「またそんな顔しながら楓園さんのこと見てる、保助が見るのはこっちでしょ」
僕の前の空いた席に座って声をかけてきた女の子、名を
公認カップルと呼ばれるのは、何も護君と美結だけではない。
僕こと
ただし、僕と桜は仮初の関係。周囲には付き合っていると公言しているけど、実際は違う。
僕と桜は幼馴染の関係であり、従属の関係でもある。
親が会社で上司と部下なのだから、それをそのまま子供も受け継いだ感じだ。
そして僕と桜の関係は「学生なんかで男女の関係とか面倒臭いだけ」と言い放つ桜に、変な輩が声をかけて来ない様にする為だけの、ガードマンみたいなもの。
上司の事を部下が守るのは当然とし、親としては僕と桜が仲良くしてくれていないと、会社での立ち位置とか、他にも色々と面倒臭いことになるのだとか。
まるで、僕の人生を表しているかのような、僕と桜の関係。
「私と付き合ってるんだから、それらしくしてよね。さっきの授業は何? 関係詞が増えたくらいで躓かないでよ。いい? さっきの授業で先生が言いたかったのは――」
周囲から見たら、きっと僕らのコレも仲睦まじい証になってしまうのだろう。
けど、コレの目的は僕の為じゃない、桜の為だ。
上奏寺桜と付き合うに相応しい男になるためのレッスン。
授業が終わるたびに桜は僕の前に来て、こうして授業の復習をしてくれる。
上奏寺桜と付き合う男が、バカではいけないのだ。
ルックスもそう、立ち居振る舞いもそう。
羽生田護が楓園美結とお似合いの様に、備前章保助も上奏寺桜とお似合いでなくてはならない。身長は高くないといけないし、太ってるのも許されない。子供の頃からバレーをやらされたからか、身長は確かに大きい。それこそ、美結以上に。
「毎日大変だな、保助」
「護君」
「ま、今は体育の授業だから女子の目はないし、気楽にやろうや」
男子はバスケット、女子は創作ダンス。どこの高校でもそうだと思うけど、ウチの高校、
体育館には男たちだけの声が響き渡り、女子がいないとやる気が出ない派と、女子がいない事で適当にやろうぜ派とで和気あいあいとしていた。
体育館の仕切りのネット付近に腰かけていると、護君は僕の横に座る。
公認カップルの二人が仲良くするのも、これまた公認。
そうじゃなくとも、護君は誰にでも優しい性格の持ち主なんだ。
そして、悩みを抱えたらどこまでも悩みぬいてしまう、繊細な心の持ち主でもある。
『ちょっと相談事、いいかな』
以前僕に語り掛けてきた護君は、美結との付き合い方についての質問を、同じ公認カップルである僕に相談してきた。告白したものの、それからどういう風にしていけば美結さんが喜ぶのか、恋愛に関しては先輩である僕に伺いたいと。
形式的ではあるものの、僕と桜が付き合っているという情報は、入学式の時から全生徒に知れ渡っている。無論、誰かが流した噂ではなく、桜本人が全生徒に告知した内容だ。
高校初日、自己紹介の時に桜は「私は備前章保助君とお付き合いしています」と宣言したのだから。中学の頃も同じだったから、公然の事実を再度告知したに過ぎない。
羨望の眼差しなんかやめて欲しい。
この宣言は、僕の高校三年間の恋愛禁止を謳っているも同意なのだから。
「――――でな、一緒にどうかなって美結も言ってるんだけど……って、保助聞いてる?」
「え? あ、ごめん。ちょっと聞いてなかった」
「なんだよ、また桜ちゃんのこと考えてたのか? ま、俺もずっと美結のこと話題にしてたから保助のこと言えないけどさ。でな、新作のフラペチーノが美味しいから、美結が桜ちゃんも一緒にどうかって言ってるんだけど。今度の土曜日とか保助たち空いてる?」
「今度の土曜日……うん、僕は大丈夫だと思う。桜の方は聞いてみないと分からないけど」
「あいよ、それじゃ桜ちゃんが大丈夫なら土曜日に駅で待ち合わせな」
他愛のない会話、けれども他の男子からすると羨ましくてしょうがない会話。
つまりはWデートな訳だ。護君と美結、そして僕と桜の四人でのデート。
でも、僕はこの話を桜にする前に、桜がどういう態度を取るかが予想出来ていた。
「行く訳ないでしょ、私が何のために保助と付き合ってる、何て嘘ついてると思っているの?」
体育が終わった後のお昼の時間、食堂で僕は桜へとWデートの話を持ち掛ける。予想通りというか何というか、男女の関係保持の為に何かをすること自体が億劫な桜なのだから、Wデートなんか行くはずが無い。
創作ダンスで汗をかいたのか、髪型が少し崩れ気味だ。くせっ毛の彼女は汗をかくと毛先が跳ねてしまう。僕は胸ポケットから櫛を取り出すと、彼女の跳ねた髪を優しく整えながら、桜のご機嫌が斜めにならないよう笑顔を作った。
「……だよね、護君には断っておくよ」
「当然。あ、私が行かないんだから保助も行っちゃダメだからね? 彼氏が行って彼女が行かないなんて、何だかイメージ悪くなっちゃうでしょ? その日はそうね……土曜日だから、私とデートとか? 適当に理由付けて断っておいてね」
Wデートを断る理由にデートっておかしくない? とは言葉に出来ず。
噛み締めた笑顔のまま相槌を打ち、どんな言い訳なら護君が傷付かないかひたすらに悩む。
そして思うんだ、段々と疲れてきたなって。
癒しが欲しい、誰にも気を使う必要がない癒しが。
人間関係で苦しむ人は、大人になっても苦しむんだって何かで読んだ。
僕の人間関係は表面上とても上手くいっていると思う。
けれども、親が主従関係で苦しんでいるんだ、息子の僕が上手くいくはずが無い。
「適当な理由ほど考えるのが大変だって、桜さんは知らないのね」
艶やかな声で彼女が語る。
「知らないんだと思うよ。嘘を付けば
この空間だけは『嘘』が存在しない。
本音と真実だけの空間。
「そして、尾ヒレがついて本当と嘘が混ざっちゃう。保助君なら大丈夫だと思うけどね」
「……それは買いかぶり過ぎだよ」
「そんな事ない、貴方は上手に嘘が付ける人。桜さんとの関係に、護との関係、そして――」
僕のベッドでうつ伏せになりながら、彼女は微笑む。
屈託の無い笑顔を浮かべ、ぱたぱたと足を動かしている彼女。
「――私との関係もね」
嘘が無い空間、けれども彼女の存在こそが、世間から見たら嘘になる。
楓園美結、僕と彼女は、互いの癒しの為の週末だけの恋人なのだから。
――
次話「どんな理由があったにしても、許せないし許すしかない相手がいる。」
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