第3話 頑張れば、
ー鏡の前にふてぶてしい顔で佇む私。
「あーあ、なんでこんなに目が真っ黒なの?茶色が良かった!」
周りの人はみんな、光が当たるとキラキラ光る綺麗な茶色い瞳をしていた。
それが羨ましくて、少しでも瞳の色が薄くならないかと期待しながら毎日のように鏡と睨めっこをした。
「陽向、降りてきなさい、学校に遅れるでしょ。」
「はーい。」
今日もダメだった、でも気持ちを切り替えて一日を頑張らなければ。
だって明るく太陽のように眩しい子になるというのが私の名前の由来だもん。
床に転がっていたランドセルを背負い、玄関のドアを思いっきり押し開け、足早に家を出て学校に向かう。
「今日もみんなに会える!」
そう思うとにやけてしまった。
コンクリートを踏むパタパタという音が、校庭の砂を踏み締めるジャリジャリという音に変わり、眩しい日差しの薄いレースカーテンは今日も黄土色の世界を白く見せていた。
ふと空を見上げる。
「わぁ、いい天気だ。」
そこに広がっていたのは雲ひとつ無い晴れ晴れとしたどこまでも続く青色の海だった。
このまま地球の重力が全く反対の方に働いて、この海に足から落ちてしまうんじゃないかと妄想するほどだった。
「あっ」
気が付くと体の重心はランドセルの重みも相まって完全に後ろに傾き、私は頭から黄土色の天井へと落ちていった。
ドシン。
ジャリジャリとした感触と全身の痛みを噛み締め、体を大の字にして仰向けになったままピクリとも動かずに居た。
するとどこからか聞き覚えのある声がした…
「うわー。なにやってんのあれ、頭おかしいよなー!」「流石バカ陽向!バナタ!」「何それー、男子やめなよ。ってかバナナみたいじゃん。笑えるー。」
私の周りを取り巻いていたはずの暖かい空気はいつの間にか無くなっていた。
気分は一転して、決して良いとは言えなかった。
白いカーテンは嫌味かのように私に覆い被さっていた。
「おい!なんとか言ってみろよ!」
周りの声が大きくなった気がするけど私には関係無い。
(もうこの場から動かず放課後まで過ごしたいな。)
一瞬にして暖かい空気と共に気力が奪い去られた。
決して気分の良いものじゃないけど、クラス全員から後ろ指刺されるよりはマシ。
そのうちあいつらも飽きて教室に向かった。
その時、
「キーンコーンカーンコーン」と朝の会の鐘が鳴った。
私はむくりと起き上がり、遅刻してしまったものはもう仕方ないと背中の砂を払った。
今朝だけでどっと疲れた気がした。
朝の会が終わった頃教室に着いて、恐る恐る教室のドアを開ける。
みんなが一斉にこっちを見る。
クスクス。
とあちこちから私を笑う声がした。
先生にも怒られた。
「今日は委員会の連絡があるから早く来なさいって先週から言ってたでしょう?あなたって子は!廊下に立ってなさい。」
「やーい、根暗」「陰キャ!」「帰れ帰れー」「そうだ!帰れよ!」
「かーえーれ!かーえーれ!」
「かーえーれ!かーえーれ!」
私を見る人の全ての視線が私の体に穴を開けた。
「ッ!」
俯いて、急いで元きた道を引き返した。
みんなの前で泣いているところを見せていないかだけが気がかりだった。
ふと足元を見ると、自分が上靴に履き替えていない事に気が付く。
今更ながら罪悪感を覚え、一応履き変えようと靴箱に向かった。
昔ながらの木の棚。扉も無い。
すっかり汚れた上靴を手に取り、違和感を覚えた。
不思議に思いながらも靴の中を確認すると、
そこには大量の石とミミズの死骸が入っていた。
「ひっ!」と上靴から目を逸らす。
手を離さなかったのは、この場で上靴を落とした方がもっとトラウマになると瞬時にわかったから。
ふと靴底に何か書いてあるのに気が付いた。
「しね」
私はその場で嘔吐した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます