第2話 あれ?
当たり前って言葉は存在しないと思う。
だってすぐに壊れちゃうんだもん。
…私がここに来て2年と半年くらい経ったかな。
もう朝を数えるのさえ諦めてしまった。
「さあ役立たず共!仕事の時間だ!」
野太く力強い声が響き渡る。
この声がしたら部屋を出なければ、私は本当に生きていないことになってしまう。
ふらついた足取りで扉を開ける。
ギギギッと古くなった木造建築独特の音が鳴る。同時に他の場所からも次々に ギギギッ、ギギギッ、と音が鳴った。
みんなは一斉に廊下を進む。
真っ直ぐな廊下を、まるで兵士の列の様に足並みを揃えて進む。
丸太で作った脚に木材の大きな板を乗せただけのお粗末な机が並ぶ大会室。
そこに並ぶのは幼く修道服を身に纏った少女たち。
みんな虚ろな目をして地面と見つめ合っている。
ドンッと机を叩く音と共に、床に向かっていた視線が一点に集まる。
グレーでもじゃもじゃの髭を生やして頭に布を被った白装束の老人。
その青く澄んだ瞳は、私たちの中の誰に向かっているのかな。
「お前たち、今日は兵士様がご帰還される日だ。心して迎えるように。役に立たないお前たちにできる唯一の仕事だ。有難く受けることだな。はははっ!」
その瞳を潤ませ滑稽そうに笑うこの男は、ここの修道院長であるリミヤだ。
リミヤは最低最悪な人間。
でもリミヤには「浄化能力者」という、ここの誰もが越えられないであろうステータスを持っている。
よって、リミヤがここのみんなに茶碗を投げつけても誰かに咎められることは無い訳だ。
浄化能力者というのは、天女様を心の底から崇拝することによって能力を与えられ、その能力を“モノ”の浄化に使うことが許された存在を表す。
この世界でそれが出来るのは限られた人だと言われているから、尚更リミヤは慕いの眼差しを向けられた。
ここではリミヤより偉い人は居ない。
いつからか、いや最初に私がここに来た時からか もう分からないが、リミヤの振る舞いは酷いものだ。
私達が「仕事」と呼んでいるのは主に修道院の外の状況の確認と対処、そして兵士様へのおもてなしなどだ。
修道院に居る修道女なんて言われてるけど、祈ったりするのは極僅かな時間で、それ以外は現場に出向かない形で事例に対処したりする、第2の戦力とでも言おうか、そんな毎日だった。
朝の会合を終え、大会室を出て広場へ向かう。
ガン。
頭に鈍い衝撃が走った。
「きったねぇ!」「こっち来んな!」
周りに居る子供は次々に心無い言葉を浴びせてくる。
頭に被ったであろう生ゴミの何とも言えない酸っぱい悪臭が、私の心を更に苦しめる追撃となった。
あーあ。またか。
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