『勇者』として異世界に召喚されたが俺だけハズレ職業だったので無難な生活を目指す。

あずま悠紀

第1話

ある日突然、謎の黒服の男達に囲まれて、「あなたを勇者とする」「この世界の人類を救うのです!」とか言われても、「はい? ナニ言ってるんですか?」って思うわ! まあ俺は思った通りの言葉をそのまま返したわけだが――。そしてその黒服の一人はこう続けた。俺に告げた。

「あなたの世界を救うために、あなたの力が必要なんです!」とね。

おいおい冗談じゃねえぞ!? いくら勇者ったっていきなり人殺しなんて出来るわけないだろ? それに世界だって滅ぶなら放っときゃいいだろうしよー。そんなこんなで俺は黒服男達の誘いを拒否しまくり、元の世界で平穏無事に生きていくことにしたのだ。――しかし。なんとその黒服集団が今度は別の異世界へと俺を連れて行こうとしやがったんだ! どうもこいつらの目的はまだわからんが、このままだと本当に世界を滅ぼしちまいそうだぜ? はぁっ!? どうしてこうなったんだよ一体? もう嫌になるぜホント――。

でもよお断りします!!(キリッ)

――なんだけどなぁ。残念ながらそれができないっぽいんだ。どうもこの勇者召喚とか言うやつ、一方通行みたいだからよ。

んで俺は考えた末にこの異界へと降り立った。

理由はいくつかあるがまずはあの自称神が言っていたことだ。あいつの話を信じればこの異界のどこかにいるはずの、俺を呼び出した黒服連中を倒すことができれば俺は帰してもらえるらしい。つまり、元の世界に帰るための鍵を握る奴らはそいつらと見て間違いないだろう。ならば倒さない手はないはずだ――と最初は思っていたのだが。正直、今の現状を見て不安しかないんだよなぁ。だって考えてもみてくれよ。もし仮にそいつらをぶち殺したとしてだよ? そしたらまた次なる黒服連中が現われて「お前の力が必要です!どうか我々と共に世界を救いましょう!」って言われたりした日にはどうするよ!? まさにイタチごっこだ。それどころか今はまだ何の手掛かりもない状況だし、この調子だと下手すりゃ一生終わらんかもしれんし、そうなると帰れなくなる可能性だって十分にあるだろ? そんなことにならねぇうちにさっさと帰るべきだと思うんだよね。だってほら。向こうに待ってくれてる人達もいるわけじゃん。だったら早く行ってあげないと可哀想じゃないか。そう考えればこそ、俺がすべきことは――やはり逃げるしかねえよな!

――うん。我ながら素晴らしい結論だ。よし逃げよう。

ということで俺、勇者から逃げることにしました!!(ドヤァッ)

とりあえず俺は森の中に家を建てることにする。森の中に家を作っちゃう系の物語を昔読んだことがあるのを思い出して真似したかったからだ。そしてそこでスローライフをエンジョイするつもりである。だがそのためには食料が必要になるだろう。そのために狩りを行うことにしたのだ。獲物はもちろん動物たちである。この森にもきっとたくさんの動物たちが住んでいることだろう。その証拠にあちこちで小動物の鳴き声なんかが聞こえるもんね。

そしてついに見つけてしまったのだ。俺にとって幸運なことにそれはイノシシのような生物だった。しかしサイズ感は牛くらいあったけど。どうみてもその大きさでは肉食ではなく草食動物だろうとは思うが一応確認しておく必要があるだろうと思い近づいてみた。

すると案の定というかやっぱりというか、それは立派な牙を持っており、間違いなく捕食者側の存在であった。しかもこちらに向かってくる様子がないということは向こうはこちらに気づいていないということでもある。俺は慎重に、気付かれないように背後へ回って一気に距離を詰めると同時に首筋に手刀を叩き込んで気絶させることに成功すると急いでその場から離れたのであった。

よし、まずは一勝ゲットだぜぇっ!! それからしばらく森の中を歩き回り猪みたいな動物を探し回った結果、三頭ほど仕留めることに成功した。そのうち二頭をアイテムボックスの中に放り込み残った一匹については、その場で食べてしまっても良いかとも思ったが念のために持ち運ぶことにする。

その後再び森の中に戻り少し歩いて見つけた泉にて水浴びをしてから、家を建てるための土台を作ることにしたのだ。そして地面を掘り起こすことでようやく俺は気付いた。

「あー、そういや俺。レベルがカンストしてたんだった」

俺は自分のステータス画面を開くとそこに表示されている文字を確認した。

==

桐島信司 職業:村人

HP:999999/999999

MP:5050/5060

EXP:455000000

/5536000 DropItem :【装備アイテム】『鉄のツルハシ』..etc 【装備品】

頭 なし 胴 麻の衣服

(E-)×1

腰 ベルト 腕 なし 脚 麻のズボン 足 靴下 スキル:【異世界転移LV10】【言語変換Lv10】【アイテム鑑定LV10】【気配察知LvMAX(EX+5,P)】

称号:『勇者召喚』で異世界召喚された異世界で勇者と呼ばれる存在 効果時間残り2分 ==

「うむ、まさにパーフェクトだ。何も問題はないね! さあ、家を建てていこうか!!」

という訳で俺はさっそく穴を掘り始めることにしたのだ。

そしてしばらくして俺の家の玄関部分が完成したところで俺は一度休憩することにしてステータスを確認してみる。そこには驚くべきことにレベルアップの表示が表示されていたのだ。そしてそれを見た俺は、やはり自分が無敵状態であることを知ることになる。なんせ今までどんな魔物と戦っても一度も死なずに倒し続けてきてしまっているのだから当たり前なのだ。そう、まるでゲームのようにだ。しかし、そんな俺がまさかレベルが99になるということがあろうとは思わなかったが。しかしこれでようやくレベル上げができるようになったとも言えるだろう。

「まぁ、とりあえずやってみますかね。【経験値倍増加】発動――」

そして俺が能力を発動させると、突然に俺のレベルが上昇していく――! どうやら経験値もちゃんと同じように倍にされているようだ。この世界の生物を倒すだけでこれほどまでに強くなるというのは驚きではあるが。ただ一つだけ、これは俺にとっては都合の良いことだった。なんせ敵が倒せないと経験値が入らないなんていうルールがあった日にはどうしようもないところだったからだ。これなら安全に経験を積みながら力をつけていくことが可能かもしれない。しかし問題はどうやって経験値を得るかという点である。俺は今のままの状態でも十分過ぎるくらい強いと言えるが。さらに上を目指すためには何かもっと強力な手段が必要であろうということに変わりはないだろう。

例えば俺自身が最強になれるほどの力を持つ、いわゆるチート級のアイテムを手に入れたとしてもそれは結局は使う者の技量次第というわけだ。そしてその道を極めるまでに途方も無い時間がかかることだろう。それに俺の目標が魔王を倒すこととなれば、最終的には魔王を倒すまでに至るレベルの実力を身につける必要があるわけで、そうなると必然的に時間がかかってしまうことになってしまうわけだ。

だからこそ、俺としては俺自身の力を上げることを最優先にする必要があると思うのだ。そしてそのためにもまずは経験値獲得方法を探り当てる必要性がありそうだ。

そんな風に色々と考えているうちに俺はあることに気付いたのだ。それはこの世界で経験値を得るために最も必要なモノについて――である。

そう、俺に必要なのはお金だったのだ。

考えてみれば確かにその通りで、この異世界に来て以来というもの、この世界にはお金がないのだと思い知らされることになった。しかしそれでも俺にはまだお金になる可能性のある物を所持していたのを思い出したのだ。それは、そう。『ドロップアイテム』である。俺が今まで戦ってきた相手は基本的に俺の住む世界に存在する生物とはかけ離れた姿をしていたわけだが。その中には例外的な姿形をした者もいたわけで。そういった存在は決まって俺に対して襲いかかってきてくれたのだ。つまりそれらの存在を倒しさえすれば確実に『お金』が手に入ったのだ。

つまり、だ。もしもあの自称神が言った言葉が本当であれば――

『あなたを勇者とする』

という言葉の意味するところはつまりこういう意味だったのではないだろうか。すなわち、勇者として倒すべき相手が必ずいる。そういう意味で俺はあの言葉を受け取っていたわけだ。だが俺にはまだそれらしい相手の情報すらも手に入れてはいなかったわけで。そうなるとこれから先に待っているものはおそらく――――――――。

金稼ぎという名の戦いの日々が始まるに違いないわけであって。

そうなるとまず必要になってくるのは資金であり、そのために稼げる仕事を見つけ出すのが良いのではないか? と考えた俺はこの異世界には存在しないはずの――ある仕事をすることを決意したのであった。

そして俺はさっそく、その方法を実行するための準備をすることにした。まず最初に俺は自分の着ている衣服を脱ぎ去ると地面に敷いてその上に脱いだ衣類を綺麗に畳んで置いていく。もちろんアイテムボックスの中には他にも着替え用の服などを入れてあるので別に困ることはなかった。

それからしばらくの時間が経過してから作業を終えた俺は家へと戻った。そして早速、俺の目の前にある空間には――。俺が今までに集めてきた戦利品が所狭しと並べられて山を作っていたのだった。それらは俺が倒した敵達の死体から回収してきたアイテムだ。

ちなみに今こうしてアイテムを回収しているのはこの異世界がどうなっているのかを確かめるためである。もしこれが元の世界と同じであるなら死体からは血などが垂れ流れていて非常に不衛生な状態になっているはずだからである。

俺はそれらを見てからアイテムボックスの中から適当なものを取り出していった。俺の所持している『道具袋』に詰め込めばいつでも好きなときに取り出せるようになっているという便利な仕様なわけだが、俺の場合は無限に入れられるのであまり気にせず使えるわけでもあるのだが。

そんなこんなでとりあえず全ての種類を回収することが出来た俺はそれらをアイテムボックスの中へとしまい込んだのであった。これでもうこの場所から動かずにお金を稼ぐことができるようになるだろう。しかしいつまでもこうしていることは不可能である。俺がここに住み続けるにしても生活するために食料などの買い出しが必要となるだろうし、そもそも家を建てるための木材などを入手出来なくなるだろうからだ。そこで俺は別の収入源を手に入れるために動き出そうと考えていた。それがこの異界の森に生息するという希少モンスターたちの討伐だった。

しかし、いくらレアな存在とはいえ森の奥の方にいるモンスターばかりを狙うのはあまりにもリスクが大きいので今回は近場で活動することにする。

「うーん、やっぱりここのモンスターたちは弱いね。弱すぎるよ。レベル上げをするにはもってこいだけど。やっぱりちょっと物足りない感じだな」

そんな独り言を呟きながら俺は次々と魔物を倒していっていた。しかし俺はここでふとある疑問を覚えたのだった。

「レベルが上がったはずなのになんの変化も起きないぞ?」

俺はそのことを不思議に思いながらもさらに森を突き進んでいくと――。ようやくお目当ての存在を発見することに成功したのだった。それは『レッドオーガ』『イエローデビル』『ブルーワイバーン』といった、いずれも超がつくほどの高レベルでなければ遭遇した途端、即座に命を落としてしまうであろうほど危険な存在だ。それに加えてそれぞれ上位種も存在するらしく、これらの存在もまた危険極まりない強さを誇っているらしい。

しかも今回出会った個体は全てが通常よりも大きな体躯を持っていたことから、通常の二倍の強靭さと攻撃速度を有している可能性が高いと思われた。

「まぁいいか、とにかく倒せば分かるんだしね。よし! さっそく戦闘を始めようじゃないか!!」

それからしばらくの間は一方的にこちらの攻撃が続き、俺のレベルはどんどん上昇していくのであった。そして気付いた頃には既に、俺の戦闘能力はかなり強化されていたのだった。それどころか、いつの間にかステータス画面に変化が生じていたのだ。

《レベル99になった。新たな能力を取得することが出来るようになった》

== 桐島信司 職業:村人

HP:999999/999999

MP:50560/55560

EXP:45600/5556000

DropItem :【装備アイテム】『魔剣グラム』.etc 【装備品】

頭 なし 胴 麻の衣服

(E+)×1

腰 ベルト 腕 なし 脚 麻のズボン 足 革靴 スキル:【異世界転移LV1】【言語変換LV1】【アイテム鑑定LV1】【気配察知LV9(MAX+2,P)】【気配遮断LV7(MAX+4,P)】【暗視LVMAX(MAX+5,P)】【索敵範囲拡大LVMAX(MAX+2,P)】【隠蔽LVMAX(MAX+5,P)】【剣術LV8(MAX+2,P)】【槍術LV3(MAX+1,P)】【斧術LV3(MAX+1,P)】【棍棒術LV2(MAX-1,P)】

称号:【アイテムボックス拡張(EX+5,M)】

==

「おおー!! これはもしかして【アイテム鑑定】の能力が強化されたということなのか!?」

俺が嬉しさで興奮気味になりながらそう言うと脳内にアナウンスのような声が流れ込んできた。

「その通りです。ただしその能力は『アイテムボックス内』にしか適応されておりません。ご注意ください」

そして次の瞬間、突然俺の目前に一冊の本が空中に現れたのだ。

それは真っ白な表紙に金色で文字が書かれていた。しかし残念なことに、俺はまだこの世界の文字を読むことが出来なかったのだ。

「おっと、そういえばまだ言葉しか分からないんだった。これじゃあ何が書かれているのかわからないけど――」

それでも一応中身だけでも確認してみようと俺は本のページを開いてみた。するとそこには『勇者召喚について』という項目が存在したのだ。どうやらこれは俺に関係ある内容の本らしい。俺はそこに目を通すことにした。

どうやら『異世界から勇者を呼び出し、共に旅をして魔王を討伐してもらうこと』を使命としているこの世界において、俺を勇者だと認定してくれた自称神が言っていたことはあながち間違っていなかったようである。まぁあの時は状況が理解できなかったからとりあえずあの神の言っている通りに勇者として魔王を討伐しに行くという選択肢を選ぶことに決めていたんだけどね。そして俺が勇者に選ばれたという証が、あの『神石』というアイテムのネックレスだったのだそうだ。なんでもそのアイテムには神が宿っていて持ち主を正しい道へと導く役割があるらしい。それであの黒服男が言った言葉の意味を理解したわけだ。

ちなみに神の石と呼ばれるだけあってあの石の材質は謎だらけの素材で構成されているとのことだ。それに加えて、俺はこの世界の人たちの話す内容がある程度理解できるようになっていた。それもこれもこのアイテムのおかげなのだそうだ。ただ、俺には今のところ特にこのアイテムに特別な変化が起きたような感覚はなかったりするのだが――。それにしても、まさかアイテムに意思があって所有者を導くアイテムがあったとはね。さすが異世界ファンタジーって感じだよ。まぁ俺の場合は異世界に召喚されてしまったっていう現実があるからこの世界のことを否定できないんだけどね。でもそれでもやっぱり、実際に自分が体験していない分には、どこか遠い世界での物語のように感じられるのも確かなんだよな。それに俺が今住んでいる場所も異世界と言えば異世界で間違いないだろうし。

ちなみにこのアイテムの効果というのはこの世界の言葉だけではなく、その他の異世界の言葉でも同様に理解することが出来るという効果もあるみたいだ。どうりで今まで普通に言葉が通じて会話できていたわけだ。

それから俺が勇者となった理由に関しての説明を色々と読んだわけだが――要約するとこんな内容だ。

そもそもこの世界では数百年前に突如、世界を滅ぼそうとしていた邪悪なる王を倒した勇者様が現れてそれ以来、勇者様の子孫は代々王族に、またその従者たちも貴族として優遇され繁栄を極めているわけだ。ちなみに今の国王の名前はアルヴィンという人だそうな。この人も初代勇者の血を引いている人物で、その子孫たちはみな強大な魔力を秘めているということだ。それに加えて、王家の血筋は女性しか生まれないので子孫が絶えないように常に新しい勇者の子供を誕生させているとのことだった。

まぁそんな話はさておき、問題は俺がどうやって魔王を倒しにいくべきかということである。正直に言えば、俺はまだこの世界の地理には詳しくないし。ましてやその魔王とやらがいる城の位置さえ知らないという状態だからである。

そしてそんな時、ある重要なことが書いてあるのを見つけてしまったのだった。それはどうやらこの世界から『日本』へと戻るための唯一の手段が存在するという情報が記されていたのである。

『異界門』というダンジョンの奥深くに存在すると言われる伝説の宝を手に入れればそれが可能となるとのことであった。しかし『異界門』は『魔界』と呼ばれている場所に存在しているので人間族の国の領土内にあるわけではないため、まずはこの国に唯一存在するダンジョンでレベルを上げながら金策を行ってから行くのが良いのではないかと俺は考えたのであった。

「まぁ、いきなり行ってみて何もできずに死んじまったんじゃ意味がないからね。ここは慎重に事を進めてみるべきだよね。さーてと、今日はもう遅いし。このあたりで寝ることにするかな!」

俺はアイテム袋の中から野営セットを取り出すとそれを広げて就寝の準備を始めたのであった。

翌朝、目覚めてから少しして俺はあることに気付いた。昨晩の内に魔物たちを解体しておくべきだったと。なぜならば、俺はアイテムボックスに収納した状態のものを『解体処理済』という分類にしていたのだが、それのおかげで自動的に魔物の解体まで完了していたのだった。

そして早速俺はそれらの肉を使って調理を開始した。しかし俺はそこで重大なことに気付いてしまった。そう、俺は火属性の魔法を一切習得していないという事実に――。つまり俺は、これからしばらくの間の間は食事のほとんどを『木の実』に頼ることとなるわけだ。しかもそれは毒を持つ可能性のあるものばかりだったのである。

それから数時間が経過してもやはり俺がこの森で生活するのには無理がありすぎたのだと判断した。というのも結局俺は未だに森から出ることが出来ずにいたからだ。

「やっぱりレベルを上げて身体能力を上げる必要があるよなー。よし、それじゃあそろそろ本格的に動き出すとするかな」

俺はそう呟くと森を抜け出し『森の外』を目指すべく行動を開始するのだった。

しかし俺が立ち上がって森の入り口に向かおうとしたその時――目の前の森の奥から凄まじい爆音が響き渡ったのだ。

その音を聞いた俺は急いでその発生源に向かうと、そこにはなんと体長3メートル近くありそうな巨大なドラゴンの姿があったのである。そしてその周囲には大勢の人間が倒れており、その近くにいた人間は既に逃げてしまっていたのだ。しかし俺にとっての幸いだったのは、俺の近くに人がいなかったということであった。それどころかドラゴンが俺の存在に気づいておらず、まだその場に留まっていたのだ。

どうやらこちらの気配を完全に消し去っている俺の存在に全く気づいてないようでかなり驚いた様子であった。それならばと思い。試しに背後からの一撃を加えてみることにしたのである。

「【アイテム鑑定】スキル発動! こいつのレベルとステータス画面を表示してください」

《【鑑定】結果

名前:?

レベル:100

種族:竜神

職業:竜神

HP:15000/15000》 俺のその願いに応えるように脳内で声が響いたのだった。俺はそれに満足しながらさらに言葉を続けた。

「ありがとうございます。【気配遮断】を解除した。――【剣術】能力向上 【気配察知】能力向上」

するとその直後、突然俺の前に現れた存在を見て驚いた様子を見せたのが目の前の巨体の生物『竜神』という存在であった。しかし奴が驚いて隙を見せるよりも早く、俺は剣を振り下ろしていたのだった。その結果、奴の胴体に大きな傷を作ることに成功していた。すると次の瞬間――奴は口から火炎ブレスを放ってきたのである。

俺はそれを間一髪回避したが、その際に地面に落ちていた剣を踏みつけてしまい、そのまま後方へと吹き飛ばされてしまったのである。

そして、地面へと倒れたまま立ち上がろうとしている最中に再び、上空より奴の爪による攻撃が繰り出されようとしているところを目撃した。

(ヤバいっ!?)

そう思いながら咄嵯に身を捩るがどうやら避けきれないと判断し、俺は即座にアイテムボックスから『神石』を取り出して【神壁結界】の能力を使用して攻撃を防いだのだった。その次の瞬間には奴の攻撃によって神石が粉々に破壊されてしまっていたのだ。それを見た俺はすぐに【アイテム鑑定】を発動させた。「神石の耐久度低下(EX)

神石の再生(EX)

よし!! 神石の復元(EX)は出来ないけど、これでどうにかこの窮地を切り抜けられる!!」

俺はそう口にすると神石をしまい込むと同時にアイテムボックスの中に入っていた武器類を手にすると【鑑定】を使い最適な武器を選定していった。俺はその中で一際大きな刀身を持ち、尚且つ斬れ味が抜群であろうと思われる名刀を選び取り、アイテムバッグに放り込んだ。するとその直後に奴は、再度上空から俺に襲い掛かって来たのだ。

それに対して俺は名刀を振るって攻撃を捌こうとしたのだがどうにも奴の動きが速すぎるようで対応しきれずに何度も体を切り裂かれていた。そしてついには、奴が繰り出した尾の攻撃を受け止めることも出来ず、大きく吹き飛ばされてしまったのだった。

しかし俺は空中で体勢を整え着地すると同時に再び奴へと向かって走り出しながらアイテム袋の中に手を入れ神石を取り出そうとした。

それなのになぜか神石が出現しない。それを確認した俺は「あれっ?」っと一瞬思ったが、すぐさま思考を切り替えてアイテムバッグに手を入れた。すると、そこに神石の感触が存在していたので、アイテムボックス内にあった予備の神石を慌てて投げつけた。それが命中したおかげなのかはわからないが、なんとか無事に俺は危機を乗り越えることができたのだった。

それから俺が再び地上に降り立ってからは、互いに全力の攻防を繰り返していた。

「なかなか強いじゃんか! さすが神様だよ!」

そして俺も負けていられないとばかりに次々と技を駆使して戦いを繰り広げていったのである。そしてついに俺は勝利を手にした。俺は全身に切り傷を負っていたものの致命傷だけは避けることが出来た。それに加え、俺は相手の体に深い傷を与えることができたのだった。

俺の渾身の力を込めた一撃が奴の身体に吸い込まれるように入り、それによって体が大きく後ろに弾かれたのだ。その隙を見逃さずに俺は追撃を加えようと動き出すが、その時に奴は何かの力を解き放ったのであった。俺は咄嵯に防御しようとしたがそれも叶わず、凄まじい衝撃を受けてしまった。俺はあまりの痛みで動けずにいた。そんな状態になっているといつの間にか目の前に巨大な影が迫っていることに気づいた。その圧倒的な存在感に思わず戦慄してしまう。俺はそれでも諦めるわけにはいかないと必死になって立ち上がり攻撃を仕掛けようとした。だがその時、奴は唐突に翼を畳んで飛び立つと空高く舞い上がったのだった。それだけでなく今度は奴はまるで力を貯めているかのようにしてその場で停止していたのである。

「まさかこいつもブレスを吐く気なのか?

――だとしたら不味いな、この距離じゃ避けられないぞ!」

俺がそう判断し急いで移動しようとした直後、上空にいる敵は溜め込んだ全てのエネルギーを放出するかのような勢いで強力な破壊光線を放ったのだった。俺がそれをまともに受けた時、周囲に膨大な熱量が放出され、大地や空気までもが溶けるように消滅していくような気がしたのである。

それを受けた俺はどうなったのかと言うと――生きていた。ただし俺が纏っていた服や防具の全てが跡形もなく消滅しており。俺の上半身が露出された状態でその場に倒れ込んでいた。そしてそんな状況の中でも俺が意識を失っていないのは――【自己回復】のお陰だろう。

それから俺はフラつく足に鞭を打って何とか立ち上がったのだが。その時には既に目の前に奴がいたのだ。

それを見た俺は覚悟を決めた――今の状態ではとてもじゃないけれど勝てっこないしね。

「降参します。どうか殺さないで下さい!」

俺がそういうとドラゴンは無表情のまま口を開き炎球を発射してきた。その攻撃を俺は避けることもなく受け入れたのであった。しかしその攻撃で俺は死にかけた。というのもこのドラゴンさん、加減というものを知らないようだった。

そうして瀕死の状態になっていた俺はふと思ったのである。もしもここで死んだ場合どうなるのだろうか?っと。するとその答えは簡単に出たのだった。なぜなら、ドラゴンが俺のことを完全に殺すために近づいてきていて。あと一歩でも前に出れば踏みつぶされるという状況に陥ってしまったからである。そしてその直後のことだった。いきなり上空に転移ゲートのようなものが現れたかと思うとそこから黒服連中の一人――おそらく召喚士らしき人物が出てきたのだ。そいつは何事かを呟いていると、突如俺に近寄ってきて、そしてなんとその男の腕が俺の中にズブりと入ったのだ。それは腕が千切れたというわけじゃなくて俺の中に侵入してきたという表現が適切であったのだ。

そしてその男が何かをしている間。俺は激しい苦痛に襲われていた。それはもう筆舌に尽くし難いもので、あまりの痛みに耐えられずに俺の意識は途切れたのであった。そして俺は目を覚ますと自分の部屋の天井を見つめていたのだった。

「なんなんだよこれ!? はあ??意味が分からないよ!?

――いやまてよ?もしかして、俺は夢オチだったのかな?――はぁ~マジ焦ったよ」

そしてそう口にしながら俺は起き上がり時計を見たが、そこにはデジタル表記で『8月7日AM11:45』という文字が表示されていたのである。そう今日は8月4日の月曜日なのだ。

「うん。まあとりあえず着替えるか」

そして俺は寝間着から私服へと着替えると部屋を出て下のリビングへと降りたのだった。するとそこにはソファーの上でテレビを見ている妹の姿があったのだ。そしてその姿を目にした俺は思わず固まってしまっていたのだ。なぜってそりゃそうだろ!だって妹の服装は白を基調とした花柄の入った可愛らしいパジャマ姿だったのだ!それに普段のあいつとはどこか雰囲気が違うように見えたのだ!だからといって別人とかではなく、ただの印象の違いだと思われた。

だけどよく見るとやはりどこか違和感があったのだ。なので恐る恐る俺は妹に声をかけてみたのだった。しかし返事はない。俺は少し緊張しながらも、再度声をかけることにするとようやく声が帰ってきたのであった。

「えっ!? ああ、お兄ちゃん起きたんだね!お昼御飯食べるでしょ?」

俺の声を聞いた瞬間、嬉しそうな顔を浮かべながら笑顔でそう言ってくれたのであった。そんな妹の反応を見て、俺はなんだか心が落ち着くのを感じてほっとしていた。そして俺が「う、うん。ありがとう。頂くとするよ」っと言うと台所の方に向かい料理を始めたのだった。

俺はその背中を眺めながら、何が起きたのかを必死に考えていた。そして一つの結論に至ったのだ。それは、昨夜見たあれはやっぱり夢ではなかったということ。そして俺はこれから先、ずっとあんな目にあっていかなければいけないということだ。しかしそれについて俺はある事実を思い出していた。確か俺が最後に見ていた時間軸で、俺は『ステータスプレート』を手に入れていた。

それを使えば自分の能力を確認出来るはずと考えた俺は『アイテム鑑定』を使って『ステータスプレート』を調べてみることにした。その結果『鑑定結果』には次のように表示されていた。

*

* * *

名称:ステータスプレート

種類:魔道具 能力1

『鑑定機能』2

説明(抜粋):『異世界』の住人のステータスを見ることができる特殊な魔法陣を組み込んだ板状装置

備考:この装置は魔力登録を行った人間以外の使用は禁止されている。

補足情報(任意):この機能は使用者の魔力によって発動するため枯渇しないように注意すること。

所有者設定 対象者名 桐島信司 管理者権限 レベル3 *

* * *

それを見た俺は驚きを隠せないでいた。なぜなら、あの時はこんなのなかったはずだからだ。そして俺は試に妹に向かって使ってみることに決めたのである。そうすると妹のステータス画面が空中に投影されたのであった。するとその画面にはこう記載されていた。

(俺と全く同じ名前がある。そしてレベルも同じ。そして、俺が持っていないものもいくつか表示されているが特に大きな違いは見られないか?)

そこで俺はある可能性に気づいたのである。つまりこれは妹も一緒に巻き込まれている可能性が高いのではないか?っということを。だがそれを確認する方法は今のところないので、一旦このことは忘れておくことにした。それよりも俺は今自分がどのような状況に置かれているのかということが気にかかったのでそれを先に知ろうとし、もう一度妹のステータスに注目することにした。するとそこに次のような文章が書かれていることを発見することが出来たのである。

(なにこれ?――って、お兄ちゃん私の身体で変なことしようとしてないよね?なんか嫌な予感するんだけど――あっ!ちょっと!勝手に人の物いじらないで!!

――ってそんなの知らないよ!私はお兄ちゃんに身体弄られたせいで記憶が曖昧な部分も多いの!それで、気がついたら見知らぬ森の中にいたんだよ!?)

そう書かれてある文章を読み終えた時。妹が怒りに満ちた声でそう叫んできたのだ。俺はそれを見て慌てて妹の方に視線を向けると「えっ?」といった様子の表情をしたのであった。

「――えっと、どうしたの?」

俺が困惑している様子を見せると妹はこちらの様子に気づくことなく、俺に詰め寄ってくると真剣な眼差しで俺のことを見てきたのである。そして、俺の顔をジッと見てくると急に俺のことを抱きしめてきてこういったのであった。

「ごめんなさい!」

それを聞いて俺は思わず固まってしまった。

――なんとなく想像してた展開と違っていたので戸惑ってしまったのだ。俺の妹なら俺がこういう風に困っている姿を見て喜んで、逆にもっとやってこいつ!的なノリでくると思っていたのである。それが違ったのだ。

しかしそれでも妹はそんな俺のことを放さずに抱きついたまま動かなかったのである。そしてしばらくして妹は落ち着いたようで、俺から身体を離すと「ふう」っと息を吐いていた。

それを見て俺がどう接したらいいものかと思っているうちに、今度は唐突に妹が自分の手荷物を確認し始めたのである。

「――ん?あれ、スマホが壊れてる」

そう言い妹は俺に手のひらを見せてきたのだった。俺にはその動作が何を示しているのか理解できなかった。だからそのことを口にすると妹は自分のスマートフォンが俺と同じ状態にされていることに驚いているようなのだ。どうやら妹の持ち物には全てロックが掛かっているようなのだが、そのパスワードが何故かわからないのだという。そしてそれは当然俺にも分からなかったのだ。そして俺はここで改めて今の状況を考えてみることにした。まず俺は死んだはずだ。

でも今はこうして生きて動いている。それは間違いないことだろう。そして妹は俺と同じく『異空間転移事件』に巻き込まれているようだ。しかしなぜかその前後の記憶が無いらしい。まあそれも無理もないだろうけど。それに俺は『異世界』のことは口にしない方がいいと判断して妹の質問に対して『何も覚えていない』と答えた。するとそれを聞いていたのか聞いていなかったのか、それともそれすらも俺の演技だったのかはわからないが、とりあえず妹は特にそれ以上何かを聞き出そうとすることはなかった。

そして妹と話を進めていくと、やはりここは日本じゃない別の世界だということに確信が持てるようになったのだった。というのも妹の持っているアイテムボックスに入っていたものから出てきたものは俺達が知っているような食べ物がほとんど存在しなかったからである。なので俺は妹に『鑑定』を使ってこの世界で手に入る可能性のある食料を調べるように指示を出すと。案の定『鑑定結果』で色々とわかったことがあった。その中でも特に重要なものとして【パンドラの実】と呼ばれる果物が存在していて。これ一つで一週間は持つほどの量が入っていることが分かったのである。ちなみにこれは妹の『アイテム鑑定』によると地球では知られていない植物であり、俺達はこの【神界】にあるとされる『果実』の内の一種類だと判断して、その実を持ち帰ることを決めたのだった。

ただその道中、俺と妹はこの世界を『異空間転移』で移動させられたと思われる場所を目指して進んでいたが、そこはやはりそう甘くはなかったのだ。

それはどういうことだったかと言えば、魔物に遭遇して俺が戦っていた最中に、俺達の目の前に再び『転移ゲート』が現れて俺と妹は飲み込まれてしまうと。気がつけば見知らぬ場所に立っていたのだ。その場所は木々に囲まれて鬱蒼とした感じで薄暗い森の中だった。

俺達が最初に目にした生き物は緑色の皮膚を持つ醜悪な外見を持った二足歩行の怪物で、いわゆるゴブリンのような姿をしていた。そして、そんな化け物を目にしても妹が驚くことは無かった。しかし俺は妹の様子がいつもと違うことに気づきながらもその理由がわからなかったのである。なので俺は妹にどうして冷静なのかと聞いたのだ。そしたら返ってきた答えは予想を裏切るもので俺は驚いたのだ。そしてそれと同時に俺が今までしてきた妹の行動がいかに無謀なもので危ないものだったかを知ったのである。

そうして俺は、妹の安全を確保するために、そして自分が強くなるために『ダンジョン攻略』を行うことを決意したのであった。

さて俺は現在一人で森の探索を続けているところだ。妹はと言うと一応はついて来ようとしていたが、流石にこの場に連れて来るわけにはいかないと思った俺は必死に止めて、何とか一人にさせてもらうことに成功したのだ。しかしそうなると俺としてもこの先どうすればいいのかということが悩ましい問題となる。だって俺がこの先どうするべきかなんてわかるはずもないのだから。まあそんなわけで結局は適当に進んでみるしかなかったというわけなのだ。それにもし妹と一緒にいてゴブリンに襲われても、妹に戦わせるのはまずいと思うし。何より妹にもしものことがあれば俺も嫌だしね。ということで早速、妹とは離れて俺は自分のレベルを上げることを優先することにしたのだ。ただそのためにも俺がどんな状況に置かれていているのかを知る必要があった。そこで俺はもう一度『ステータスプレート』を取り出して確認しようとしたのだがそこでふと思い出したのである。

(そういえば『アイテム鑑定』を使えば自分のステータスが確認できるんじゃないか?)

そこで俺は妹が『アイテム鑑定』のスキルを使って、そのステータス画面に表示されている文章を見て、俺と同じようにステータスを見ることが出来るのではないかという考えに至ったのである。そこで俺は自分の『アイテム鑑定』を発動して『ステータスプレート』の鑑定を行おうとしたところ『エラーが発生いたしました』っと画面が表示される。そして画面をスクロールするとこのようなことが書いてあったのだ。


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名前:桐島信司

(キリシマ シンジ)

Lv:2

体力:120(+520)

筋力:150(+530)

防御力:200(+600)

魔力:350(+1360)

敏捷:250(+470)

:100(+980)

状態:健康

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俺はそれを見て少し考えると一つの結論に達した。つまり『ステータスプレート』には所有者の魔力しか反応しないように出来ているのだと、それで俺以外の人間はステータスを確認することは出来ないのではないだろうか?そう判断した俺は仕方ないので他の方法をとることにしたのである。そして『ステータスカード』を取り出そうかどうかを考えた結果、やっぱり『ステータスプレート』に表示されるステータス画面を見たいのであればこれがないとどうしようもないなと判断したのだ。なので俺は『ステータスカード』を懐にしまって、そのままステータスを確認するのを諦めることにしたのである。するとその時。俺の前に一人の男が現れたのであった。そして男は言うのである。「お前、勇者召喚に選ばれた人間だろう?」って。

その瞬間。俺の身体は無意識に動き出し、そしてその男が剣を振るってくるのをギリギリのところでかわして反撃に転じようとするも、あっさりと攻撃を回避されて地面に組み伏せられてしまった。だが俺はそれでも抵抗を止めずにどうにか抜け出せないかともがき続けていたのである。なぜならそう、このタイミングで現れた人物というのは間違いなくあの男に違いないと直感的に思ったからだ。なのでその言葉を聞いてから俺が行動に移すまでわずか1秒ほどしかなかったはずだ。なのにそのわずかな時間でその男の実力は圧倒的だということを思い知らされることになるのだった。そう、圧倒的なスピードによって、俺は何も出来ずにその男の行動を許してしまったのである。その結果として俺の首元にはその男の剣先が当てられることになっていたのだ。その光景を俺自身が認識するとすぐに「殺される」という言葉が脳裏に浮かび上がり、そしてその瞬間。

「ぐはぁっ!」

突然目の前の男が激しく咳き込んだのである。そしてそのおかげで俺は拘束から逃れて立ち上がることが出来たのだ。そしてその隙を利用してすぐさまその場から離れようと全力で走ったのだが相手はそれを見逃さなかったようである。そして再びその手に握られた剣が光を帯びていくと、それを確認した直後。今度は背後から俺に向けて剣が振るわれてくるのを感じて振り返ると同時に俺はそれを回避する。すると俺が避けたことによって剣は俺がいた場所に勢いよく突き刺さったのだった。

それを見つめながら俺は思う。おそらくはこいつは魔王の手下の一人なのだろうと。だからこのまま放置していてもこの場を切り抜けることはできないと判断して戦うことに決めたのだ。それに相手の目的がわからない以上は迂闊に手を出していい相手じゃないかもしれないと俺が考えたからでもある。そして俺が構えを取ると相手が「ほう」っと息を漏らしたのが聞こえてきた。どうやらこちらの意図が相手にも伝わったようだ。そう思って俺は気を引き締めなおすことにした。

それからはお互いが動くのを躊躇うほどの膠着状態に陥ってしまったのである。

「――なかなかやるようだ。貴様がこの世界の『救世主』に選ばれていてもおかしくはない」

「その『救世主』っていうのは何だ?一体それはどういう意味なんだ!?それになんで俺を狙うんだ?!」

俺は相手が何かを知っているのなら情報を得られるだけ得てしまおうと考えて、質問を立て続けに投げかけることにする。そのおかげもあってか目の前にいる男は俺に答えることを選んだようだ。しかし次の言葉で俺はその選択は間違えていたことを理解することになったのである。

「『聖杯』が壊れれば『魔人』が現れる。奴らを食い止めることのできる唯一の手段が、今はまだ『英雄』が存在していない異世界から『異空間転移事件』に巻き込まれた者たちだけだからな。しかし、『英雄』に成り得る者でも『勇者』の力に敵わなければ倒すことは不可能なのだよ。そしてそれができるのは私のような力を持っている『選ばれし人間』だけでしかない。故に、私は君を倒さなければならないのだ。『魔人』から世界を守るためにはね」

俺はこの男の言葉を耳にしたことで頭が真っ白になった。『勇者』だとか『英雄』だとか、さらにはその話に出てきた【魔族】と呼ばれる存在が【神界】にもいることが分かって、もう俺の理解は限界を超えて、頭の中がグチャグチヤになって思考が完全に停止した。そして次には俺がこの世界に来たときに見た光景を思い出していた。あの巨大な魔物の姿が脳裏に浮かぶと全身に鳥肌が立ち恐怖が襲ってきたのだ。

そしてそれと同時に、俺が【魔素】と呼ばれる謎のエネルギー体に対して異常なまでの拒絶感を抱いていることに俺は気づくと、その正体を知ろうと『異空間転移』を発動して【神界の門】を開いた。しかし、いくら調べても答えを見つけることが出来なかった。そしてこの謎が解けるまでの間は『ダンジョン攻略』を行うことが出来ないと判断して『魔素』について詳しく知るまでは妹のことも放っておくしかなさそうだと決断する。

「くそっ!なんだよこれ、訳がわかんねえ。なんだよこれ。何なんだよこれはぁー!!!!!」

俺の心の中にはただ混乱と絶望だけが広がっていったのである。そうして俺は自分が今までやってきた行いを振り返ると後悔と自責の念でいっぱいになり、そして涙を流し続ける。俺は今まで妹に迷惑をかけ続けてしまっていたのだと思い知ったのであった。

俺が『魔人の呪い』に冒され、自分の身に起こった異変が信じられなくて、現実を受け入れられなかった。そんな時、俺は自分よりも遥かに年下の女の子に励まされたのだ。

そう、彼女はとても不思議な少女でまるで大人と話しているような錯覚を覚えるくらいに落ち着いている。そんな彼女が言うのには、この世界で起こっている異常事態の原因となっている『呪印』は俺の身に宿っているという『魔人の魂』の仕業なのだと教えてくれた。その事実を知ってしまうと、どうしても信じたくなくなってしまうのだが、同時に俺の身に起きた現象についても納得ができてしまった。

というのも俺は、自分がどうしてこんなに簡単にレベルが上がったのか、その原因をずっと不思議に思っていた。その理由については妹から説明を聞いたのであるが、それだと俺のレベルが急激に上がる原因の説明が付かない。そこで、もしかすると妹も俺と同じく『魔人』によって呪いを受けているのではないかと思い至り、そしてその推測が間違っていなかったことを知ったのである。そしてそのことが何を意味しているかというと、俺が感じている違和感の正体をはっきりと確信したということだ。

そして妹と別れてからというもの、俺は常に『魔力障壁』を展開し続けていた。なぜなら、いつの間にか俺の周りにはたくさんの『魔力反応』を感じるようになっていたからである。そのことからも分かるように俺の周囲には大量の『魔法生物』たちがいて俺のことを観察していたのだ。そこで俺の『気配感知』が発動すると俺の周囲を囲むように無数の生命反応が一気に現れ出したのである。その光景を目の当たりにするのと同時に俺は背筋が凍るほどの悪寒に襲われたのである。その瞬間。俺は咄嵯の判断で身体強化を発動させると全速力でもってその場から離れた。その直後。それまで俺のいた場所には炎が噴き上がって周囲が火の海に包まれたのだ。そしてすぐに『魔力障壁』を展開して炎によるダメージを防御した。そして俺は『結界魔法』を使って周囲に『魔力探知』の範囲を最大にしてみたのである。その結果としてやはり俺を取り囲むようにして存在する『魔人軍』、『魔王直属兵団』、その他大勢の兵士たちの膨大な反応を捉えたのだ。そしてそれを知った俺は即座に行動に移ったのである。

まず手始めに一番近くに存在する敵に向かって駆け出すとその敵を『魔力波刃』で一刀両断してから周囲の状況を確認する。そして確認した限りだと俺と敵対する勢力が予想以上の大軍を率いてこちらに迫ってきているようだった。その光景を見て思ったことは単純に俺が想定していた以上にこの国の状況は悪いということだったのだ。なぜなら俺がここに来るまでの間に見てきた王城の様子は明らかに酷い有様であったからだ。

まずは城壁の状態だが、俺が目にしてきた限りではところどころ破壊されてそこから敵の侵入を許してしまっているように見えた。しかもその穴もかなりの大きさだった。だが、それ以上に深刻な状態だったものが城の内部にまで及ぶ被害であり、それによって国としての機能を著しく低下させているように見えるほど悲惨なことになっていたのである。さらには至る所に血の跡が見られ、その傷跡からして城内でも戦いが行われた形跡があったのである。そしてその様子から、おそらく多くの民も犠牲になっているはずだと判断すると胸の奥底から沸々と怒りが込み上げてきた。だが今はそれよりも目の前の問題を解決することに集中する。

俺がこうして今も生きていること自体が奇跡に等しいからだ。なぜなら今この時にもどこかで戦っている仲間たちのことを考えると早く加勢に向かうべきなのだが、ここで焦って下手なことをすればかえって皆に迷惑をかけることになるかもしれないと思ったからだ。そう考えて慎重に行動するように自分に言い聞かせる。それから俺はすぐに移動を始めると敵がいると思われる場所まで急いだ。


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*俺は走りながら考える。果たしてこの状況で『魔王の呪い』を解くことが出来るのだろうか?と、もしもこれが俺の考えていた通りのものであるならば絶対に無理だと思うのだ。

なぜなら『魔人の呪い』とは『魔人化』してしまうことであって決して死を意味するものではない。なぜなら、そもそもこの世界に【魔人】は存在しない。【魔素】というのは、この世界にあるはずのない異物なわけだから、その影響を受けることで身体に変化が生じて【呪い】が発生すると言われている。しかしそれはあくまで言い伝えのようなものでしかない。なぜなら俺は実際にそういう場面を目撃したことがあるのだからである。そしてその時は確かに『魔人』がいたという痕跡を残すことができたのだが、【呪印】が消えたのを目の前で見ているのだ。

そして『勇者システム』は【神界】にいるとされる神々によって作られたものらしく、そして【勇者】の力は【聖杯】によって与えられ、それを正しく扱うために【魔王】は【勇者】を殺すことができるらしい。ただし、【魔素】の影響を受けないようにするためと【魔王】が復活するまでに時間がかかりすぎるというデメリットがあるので『魔王』が復活してしまった場合は、他の方法を探すか『英雄』が誕生するまで時間を稼ぐしかないそうだ。そして『英雄』になるために必要な要素は『聖杯』に選ばれた『救世主』である必要がある。そしてそれは、今はまだこの世界には現れていないそうだ。だから『魔王』の復活が近いということはこの世界にとっての緊急事態ということになる。そして俺は妹に聞いた話を信じるなら、この【魔素】というのが【呪印】を生み出していたものだと考えるべきであろう。だからこそ、俺と妹は、この【魔素】を取り除く必要があったのである。その方法が『異空間転移』であったのだが、俺は結局それができずに、そのせいで俺の妹が命を落とすことになってしまった。そのことを思い出しながら後悔しているうちに目的地に辿り着いたのである。

そこには数多くの兵士がいて、今まさに『魔法兵』から魔法攻撃を受けようとしていたのだ。そんな兵士たちに襲いかかろうとしていた兵士に対して『氷矢雨』を放つ。『アイスアロー』ではなくて敢えて威力の高い上級魔法の『ブリザードアロー』を使ったのは、それだけ相手との力量差に開きがありそうだと感じたからであった。その『魔法攻撃』を受けたことによって敵側の動きは止まった。だが、すぐに立て直してくるだろうと踏んでいたのだが敵は予想外の行動に出てきたのだ。

なんと奴らは俺に背を向けると一目散に逃げ出そうとしたのである。それも『魔獣部隊』を引き連れてだ。俺としては『魔人軍』は俺の手で壊滅させてやりたい気持ちもあったのだが、残念なことにそんな暇はなく、『魔法陣』が起動しそうになっていたのである。そこで俺は咄嵯の判断で再び中級の魔法を使ってその魔法を打ち消すことに成功したのである。そして『異空間収納』の中に入れていた武器を素早く手に取ると敵に向けて放っていく。そして俺は敵を片っ端から殲滅していく。

そうして『魔素』の影響範囲から抜け出したところで俺は『神域転移』のスキルを発動させた。すると『魔素』の影響を受けて俺が弱ってしまう前に、仲間たちの無事を祈りつつその場を離れたのであった。


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『魔法士団』と『騎士団』の活躍により『魔獣』を駆逐することが出来たのである。だが、それでもまだ終わりではないのだと僕は思った。そう思い警戒を怠らないようにする。

というのも今回の『魔獣』の侵攻が単なる陽動の可能性があると予想できたからだ。その理由としては、いくらこの国の周辺諸国と友好関係を築こうと頑張っても一向に『魔法士団』に援軍要請をしてくる国がないことから察することができたのだ。

そしてその可能性を考慮して僕たちは『魔力探知』を広範囲に渡って行うことに決める。

『魔法』や『結界術』には索敵に特化した能力を持つものが多く存在しているためその力に頼ることにしたのである。

「団長、この先に『魔獣の大軍』を確認しました。どうしますか?」

そうして僕が今後の行動指針について考えていると副師団長の1人であるライア=フォンテイン侯爵令嬢に声をかけられた。その問いに対して僕はすぐに指示を出すことにする。

「まずは僕の『結界』の範囲内に誘い込むことを優先する。そして、そのまま包囲するように展開して殲滅していく」

そしてそれを受けて皆に指示を飛ばすのだった。そうして僕たちによる戦闘が開始された。

『魔王軍』、『魔人の呪い』、『魔王軍四天王』、『魔王直属兵団』。これらの情報は既に得ているため敵の位置も把握できている。なので、まずはその敵を一箇所に誘導するところから始めることにした。そしてその後、徐々に包囲網を形成していって、逃げ道をなくすように仕掛けていく。するとその罠にかかったようで敵を『魔法障壁』で囲むことに成功する。そしてそのタイミングを見計らって総攻撃を行った。その結果として、敵の戦力を大幅に削ぐことに成功し、このまま戦いを続ければ全滅させることも可能だったのかもしれないが、これ以上の戦闘を続ける意味はないと判断して降伏勧告を行う。

その結果、こちらに攻撃を仕掛けるようなことはなく投降してくれた。それにより敵の勢力は完全に消滅したと判断した。これで当面の脅威となるような相手は全て倒したはずだ。そこで僕はすぐに仲間たちの元へ駆け付けるのだった。

するとそこで見たものは凄惨な光景であった。

『英雄王』とその側近たちの姿が見えることから彼らが無事だったことが確認できる。だけどそれ以外は全員死亡してしまっているようだ。しかも全員が傷だらけの状態であり酷い状態であることが窺えるほど悲惨な状況となっていたのだ。それを見て怒りが爆発しそうになるのを抑えるのに苦労しながらも、すぐに皆の治療を始める。

そして治療が終わると次は『魔獣軍』が向かってきた方向へと向かうと、そこもやはり酷い状況で多くの味方の遺体が横たわっていたのだ。それらの遺体は丁寧に埋葬することにした後で僕は生存者を探すことを優先し、その作業を続けているとあることを発見することになる。その発見したものというのは『聖杯』だったのである。

どうしてこんなところに聖杯があるのか分からなかったが、とりあえず回収することにして『収納魔法』の中に入れる。そして他にも生存者がいないかを捜索していると瓦礫に埋もれていた死体を発見した。しかし既に事切れていて生きている様子はなかった。それを見て胸の奥がチクリと痛みつつも心の中で安らぎを与えた後で火葬にしてあげることにして、その処理をした。

それからもしばらく救助活動を続けたが誰一人生き残っている者がいなかったので、仕方なく諦めることにして、この国で何が起こったのか調査するためにも一度【王国都市】に向かうことに決めた。そして僕たちは【王都】に戻ることにしたのである。

【王城】へと戻ると国王陛下からお褒めの言葉と労いのお言葉をいただいた後、詳しい報告を行うために玉座の間に向かうとそこで起こった出来事を報告した。すると、その内容を聞いて驚愕した様子で、この国の現状は深刻であり早急に手を打つ必要があるとのことで緊急議会を開催することを決めたのである。

そして、それが翌日に行われることが決まると僕は仲間たちの待つ宿に向かうのであった。

そうして、翌日。俺達は今から緊急会議が開かれることになっているので急いで準備をしていたのである。といっても『英雄王』様が『英雄王』として正式に即位されるだけみたいなのでそこまで慌てる必要はないのかもしれないが、念のために色々と確認しておく必要はあるだろうと思ってのことだった。そうして支度をしていると部屋に訪問者が訪れたのである。それを確認するために部屋の扉を開けるとそこには、元婚約者であるアリスティアがいて俺は驚きを隠せなかったのだ。というのも彼女がこの国に来ることは知らされていなかったからである。そんな俺の反応に彼女は申し訳なさそうな表情で謝罪をする。その反応から察するに、どうやら本当に彼女が来るとは知らされておらずにここにいるようであった。それで事情を聞くと彼女の実家は取り潰しになり財産没収となった上に、アリスは婚約破棄された上に行き場を失ったそうだ。そのため、今現在は俺の実家に身を寄せているらしい。それを知らされた俺とリリアナは何も言えなくなってしまった。なぜならば、その話が事実であれば俺のせいで彼女たち家族に迷惑をかけてしまったということだからである。俺としてはそんなつもりなど一切なかったのに、そのせいで不幸に見舞われてしまうことになって申し訳なく思ってしまった。

それにしても『魔王軍』と何か関係があるのだろうか? ともあれ、今はまだそのことについて考えない方がいいのかもしれないと思いつつ彼女を部屋に迎え入れる。それからしばらくして身だしなみを整え終わったところで俺達は急ぎ玉座の間に向かった。

**

***

玉座の間には俺とアリスが到着したときには『聖杯』を持った宰相さんと、俺達を呼び出した張本人でもある国王がすでに到着していて話し合いが始まっている状態だった。

俺はそんな国王と視線が合うと気づかれないように睨みつけたが彼は素知らぬ顔をしていたのである。おそらく俺が怒っていることを知っており、それに対して無視を決め込むという嫌がらせに出たのだろうと思った。

そして、今回の一件についての大まかな経緯を聞いた後に緊急議会の開会を宣言する。そして、俺からの提案で、これから『聖女騎士団』は【帝国】と【皇国】との友好関係を結ぶ使者となることが決定し、その任には俺達が当たることとなった。また『聖女の騎士団』から俺の配下となっている騎士たちはそれぞれ【勇者騎士団】に所属させることにするという決まりごとまで作られたのだ。そして、この場で決まったことには従うしかないと判断せざるを得なかった。それは、もし逆らうのならば『反逆罪』を適用した上での極刑を言い渡されかねない可能性があったからである。その証拠に、現国王の横に立っている第一王子が不機嫌そうにしている姿が見受けられたので俺は黙って従ったのである。

その後に開かれた臨時議会は順調に進んでいくのだった。そして、『異界の者』である俺と『魔王軍』との関係について説明を求められ、俺は包み隠さずに話すことにした。その結果、『異世界人』、『転生』、『転移』、『神』という言葉を話したが、『神』については俺もその存在を信じることは出来ないし、ましてやその神と名乗る自称神のことなど知る由もないのである。そんな存在を俺は今まで見たことも聞いたこともないのだ。ただ『異界人』に関しては俺以外にも複数人存在しており、俺のようにこの世界へ来ていることは確かだということだ。それを証明するためには『転移門』を開いて見せるしか方法はない。そこで俺達は【王都】にある神殿に赴き、そこから『転移門』を開くことによって『転移先登録所』にて『異世界転移』を果たしたという事実を話すと彼らは半信半疑ではあったが一応は納得して見せたのである。そして『魔人の呪い』や『魔獣』、『魔人の呪いの魔素』などについて詳しく説明した後にその対処法を教えることにした。

そうしてから、まずは目の前に出現した黒い霧のようなものに皆は動揺をしたが、それについての説明をして実際に『結界術』によって防ぐことに成功した。すると今度は光り輝く魔法陣が出現し、そこに立っていた人物が現れたことで更なる混乱を引き起こすことになった。その人物が言うにはこの世界に召喚されたというのだ。しかもその人物は、なんと『勇者』だという。つまり、今回の事件の首謀者と思われる連中の一人が俺たちと同じ『異界人』であることが判明したのである。その『異界人の少年』と俺とリリアナは、ひとまずお互いの状況を報告し合い情報を整理することにしたのだった。

そうしているといつの間にか現れた女性がいたのでそちらを向くと俺に気づいたようで近づいてきたのである。

「あなたが、【救世主】である桐島信司様なのですね?」

いきなり声をかけられたことで驚く。

「ああ、そうだけど」

「よかった!私はあなたの妻の【アリシアーテ=ルグ=ライフォードと申します」

(あぁん!? 妻だって?)

そう名乗られても困るんだけどね? でもまあいいかと割り切ることにする。それよりも問題なのは彼女が着ている衣装に目がいってしょうがないんだよね。どう見ても『神官』とか『巫女』の恰好をしているからな~。そのことに触れようとするが何故か彼女は頬が少し赤くなっている気がするんだよな。

そしてなぜか国王に呼ばれて玉座の前に立つと俺に向かって、この国の象徴として国のために働いて欲しいと言って来たのだ。当然断ろうとしたのだが、その瞬間に俺の後ろに控えていたはずのアリスティアの姿が無くなっていたのである。しかも俺の妻を自称する女性がいつの間にかアリスを連れて玉座の前に現れたのだ。その光景を見て何が起こったのかと困惑しているとアリスが突然、自分の意思で【勇者の従者】になることを志願した。さらに俺も同じようにしてほしいと言い出したのである。その理由というのが『英雄王の加護』の効果で、この国にいる間は俺は国王より偉い立場になるのだという。だからアリスと同じような立場にして欲しいと言われたが意味不明過ぎていて理解できなかったのである。だがその発言により事態は一変したのだった。なぜならば、アリスの言葉で『聖女騎士団』のメンバーは全員俺のことを『主様』と呼ぶようになったからだった。もちろん、アリスもその言葉に従う形で『聖女騎士団』のメンバー全員は、そう呼ぶようにと命じられてしまい、俺はもう完全に彼女達に『命令権』を行使することが出来なくなってしまったのだ。

ちなみにそのことに俺は酷くショックを受けるのであった。まさか、そんな風に呼ばれる日が来るとは思いもしなかったのだ。それというのも俺の知っている範囲では主人とメイドはあくまでも主が優位であり絶対の存在なのでその関係は対等ではないのである。だからこそ信じられないという思いが強かったが受け入れざるを得なかったのだ。しかし、それでもなんとかしたいという気持ちもあった。そして俺はその状況を打破するためにアリスに頼んでみたが無理だと断られてしまった。なんでも、それは『奴隷紋契約』による制限が原因らしいが、俺にもそれが出来るような権限がないかと聞くが彼女は出来ないと言う。なぜならば、アリスの場合は特別にその許可が下りていたらしく【勇者】である俺なら出来るらしいのだ。しかし、その話に俺は非常に違和感を覚えた。なぜならばこの世界では基本的に奴隷制度というものが存在しておらず、アリスは俺の元の世界の知識を持っているため『奴隷』と聞けば嫌そうな表情を浮かべるはずなのだ。その表情を見た時、まるで【勇者の従者】となったことが不本意であるかのような態度をしていたのを思い出す。そうするとアリスは【王国都市】にいた時は奴隷として扱われていた可能性がある。それを察してしまうと彼女の心の傷を考えてしまい何も言えなくなってしまったのであった。そうすると俺は『王国』のために『聖女の騎士団』と共に行動しなければいけないことになり、『勇者』の力を行使せざるを得ない状況になったのである。そして『勇者』としての力を使いながら問題を解決していき、ついに今回の事件を解決することに成功した。

しかし、今回の一件で分かったことがある。俺以外の他の誰かが同じ『異世界転移』してきた場合どうなるかということだった。もしも『勇者』としての『能力』、『称号』が使えるのが俺だけのような場合には他の人が同じ『能力』を使うことは不可能であるし『聖女の騎士団』が俺の命令を強制的に従わされるということも起こらないのである。なぜならば、俺は彼女たちの主ではなく単なる仲間扱いになるためである。つまりは、俺以外にも同じ力を有する者が『転移』した場合はその者は『救世主』、『神人』という称号を得ることがなくなり、代わりに『救世主』という新たな称号を得ることになるのだ。

このことから分かることは、この『能力』を持つ人間が存在するということはこの世界の『理』に縛られない『自由』を手に入れているということでもあり、この世界のバランスを破壊する危険のある『能力』を所持していることを意味するのだ。その危険性を考えた時に、俺はその者を探さなくてはならないと思い至ったのである。そして、もしこの世界を混沌に導く存在であれば俺はその者に戦いを挑むことになろうとも阻止して見せると決心をしたのだった。

そして、今回の一連の騒動が終わった直後に【帝国】の皇帝から『魔王軍』が動き出したと連絡が入ったのである。そのことを国王に伝えてから【皇国】へ向かう準備をすることになった。それからすぐに出発して【皇国】の皇都【聖都】へ向かった。そこでは、すでに戦いが開始されているようで城壁には大量の魔物たちが押し寄せており、皇国軍と冒険者たちがその対処にあたっている最中のようであった。そこで【聖騎士】の一人であるアメリアが援軍の要請をしてきて俺達はすぐに【聖騎士団】の面々と一緒になって防衛戦に加わることにしたのである。そうしていると【勇者騎士団】と【神聖騎士団】の精鋭部隊も参戦してくれたのである。

俺達の戦いは苛烈を極めていたがその戦いの最中である人物が乱入してくる。それは『魔獣』のボスである。

「我はこの世界を支配する『魔王』なり!!この世界に蔓延り我が配下に害を為す下等生物どもめ!!皆殺しにしてやるわ!!!」

いきなり登場したその男は黒いローブを纏った骸骨姿の男だったが『ステータス』を視ると『魔神族』であることが発覚したのである。

「『魔王』? お前は魔王軍の幹部の一人ということか?

『魔人の呪い』を発動させて配下にしようとして失敗した腹いせに暴れまわっているのが真相だろ?」

俺がそういうと奴の怒りを爆発させてしまったようである。

「なんだと貴様! 俺が魔王軍の幹部であると知った上で言っているのか? 俺こそ、この世界を統べる者だということを分かっていないようだな?」

俺の発言によって激高し、戦闘モードに入ったのか『魔力波動』を放ちまくる『魔神』に対してこちらも『魔眼』を使用し、『魔導剣』を構え直して迎撃する態勢を取った。

そうしてから俺は目の前に対峙している敵であるはずの相手に思わず同情してしまいそうになるほど憐れな姿を見てしまい哀れみを感じずにはいられなかったのである。その理由が、彼の見た目にあったからだ。彼は全身に酷い火傷を負った痕があり皮膚が爛れてグロテスクな外見をしているだけでなく顔は醜悪に歪み、歯はすべて折れ曲がり鼻や耳は潰れて変形していた。それだけでも充分に見るに耐えないものがあるが、極めつけは背中に翼のようなものがあることである。そして『鑑定』を視てみると『堕天使ルシファー』と判明したのだ。その姿を見ただけで既に可哀想だと思えてならなかった。こんな姿になってしまったのは、俺と同じようにあの【呪われし森】で実験体にされたのだろう。その結果として『魔人の呪い』を付与されこの世界での生存が不可能と判断され【魔神】によってこの世界に送り込まれたのであろう。

そう思うと『魔人』は【呪われた土地】に『転生』させられるために殺されたとしか考えられないのだ。つまりは『魔人』とは【魔神】の僕として使役されるためだけに『召喚魔法』によって召喚された可能性が高い。その事実に怒りが湧いてくると同時に『聖女』として戦っていたアリシアーテの悲惨な最期の姿を想い出して悲しみに包まれるのだった。しかし、今はその感情を押し殺しつつ目の前に現れた敵をどう倒すのかに集中することにした。そうしないと目の前の存在が更に惨たらしい結末を迎えてしまうのが見えているからである。

そして、お互いに攻撃を開始し激しい戦いが開始されたのであった。

【勇者】:『英雄王の加護』を得たことにより新たに取得した称号。

効果1:スキルの取得が可能になりレベルの上限が上昇する(限界突破可能)

ただしレベルアップ時に上限まで上昇していない場合は、さらに2倍のレベルが上がる 取得可能な全ての能力値が大幅に向上する。

取得条件:異世界で勇者と呼ばれる人物になる。(ただし『異世界からの勇者』に限る)

→称号一覧表の『【救世主】』『【英雄王】』の項目に【勇者】が加わる この称号を持つとレベルが上がりやすくなる代わりにレベルが上がった際に上限に達していなければ『成長阻害状態』に陥り『能力制限』が掛かりやすくなる。

取得条件その3:異世界において圧倒的な活躍と成果をあげる。→称号の一覧表に記載 また上記の条件を満たすと新たな職業『救世主』・『聖人』の称号を得られる場合がある。但しこれらの職業に就いた場合でも【勇者】の称号が得られることは可能である。

称号の詳細については別項目にて記載あり

【救世主】:『救世主』として認められたものに贈られる称号。効果は下記を参照のこと

『聖女騎士団』団長であり勇者の妻でもある女性、聖女アリアと『王国』の王女アリスティアが俺の嫁になるというとんでもない出来事が起こったのだがその二人の『隷属』を解除してやったところ俺の言うことを聞くようになった。それだけではなくなぜか『王国』の『貴族』である宰相が勝手に婚約破棄した挙句、国外追放処分を告げてきた。しかし、俺としてはそんなものは受け入れる必要もないと思っていた。しかし、二人は『勇者の従者』という特殊な立場で【王国】にいる限りは『聖女』としての行動が許されずに不自由に生活することになってしまうのだという。そしてそれは俺にとっても不本意なことだったので二人に謝罪した上で、俺の仲間となることを認めてもらったのである。

そうしていると俺達の会話を聞いてしまった『王国』の兵士である【聖騎士】の【アメリア=オロル】が話を聞きたいと言い出した。そうすると俺達がこの国に訪れた理由について話すと彼女達は納得し、これから共に行動してくれることになったのである。

その後、俺たちはまず『奴隷紋』の契約がされている少女、アリシアを救出することから始めたのである。俺はまず最初に【神聖騎士団】の【隊長クラス】である【セシリア】と手分けをして探したがなかなか見つけることができなかった。それというのも彼女が囚われている部屋には鍵がかけられていたうえに、その場所を【聖騎士団】の【隊員クラス】以上の人間でなければ入室できないようになっていたのだ。俺はこの城の『聖騎士団』に所属する【副騎士団長】であり『聖騎士』の階級を与えられた人物なので普通に入れるはずだった。しかし何故かそれができなかったのだ。しかし俺はそのことを疑問には思わずに他の方法を探すことに専念した。なぜなら、城の中は既に【魔獣】の襲撃を受けて壊滅しており、生き残りの人間を見かけることすらも困難だったからなのである。

それからしばらく探し回っているとようやくアリシアが捕らえられているという部屋を発見したので中に潜入することにした。その部屋の中に入ると一人の少女が鎖に繋がれながら虚ろな目で宙を眺めていた。俺はすぐに『魔人』にかけられている『魔獣』を使役できる能力を封じることにしたのである。

この国ではこの世界の人間が知らないうちに奴隷として扱われていることが多く、『奴隷契約』という特殊な契約を結ぶことにより主従関係を結ぶことができるようになるのだ。そうすることで主人となった人間は自由に奴隷を好きなときに使えるし、逆らうことを許さないようにすることも可能となる。この国の奴隷制度はそういったものなのだが、【魔王軍】にこの世界は占領されてしまいこの国に元々いた人間のほとんどが殺されてしまっている現状では【魔王軍】による奴隷狩りが行われ、奴隷として強制的に使われていることが多いのである。

そしてこの少女の『魔人』にかけられている呪いを解くことを試みると彼女は突然目を覚まして悲鳴をあげたのである。それも仕方のないことだろう。なにしろ、俺の姿が彼女の記憶の中の【救世主】と瓜二つだったからである。俺が【聖騎士団】から聞いた【救世主】の話に寄れば【聖騎士】と【聖者】が『女神様の使徒』であるということだ。だからこそ、目の前に【救世主】が現れたことでパニックを起こし、助けを求めようとしたのである。それから事情を説明すると落ち着きを取り戻してくれたので早速俺達は脱出を開始することにした。

「じゃあ行くぞ!【勇者騎士団】!!【聖騎士】たちは先行して敵兵たちの迎撃にあたってくれ! 俺とアリシアさんとセシリアは『魔獣』を使役している奴を見つけて倒す!!それでいいか?」

「分かりました。【勇者様】!お気をつけて!!」

「ああ!みんなを頼む!!」

こうして、この国の城を脱出することに成功した。そして城内は混乱を極めており俺達を追ってくることはなかった。おそらくだが、あの『魔王軍』の幹部の一人が攻め込んできたことによってこの国は滅びてしまったのだろう。

しかし、【勇者騎士団】の【隊長クラス】とこの国のトップの一人である【宰相】と俺が一緒にいたことは知られていなかったようで誰もそのことに言及することはなかった。

「ふうっ、とりあえずここまで来ればいいかな」

俺達がいる場所は王都【アルハザード】から離れた場所にある森の中であった。ここは王城に近すぎて警戒される可能性があると考えたためこの場所に来たわけである。それにしても、さっきの【魔人】との戦闘はかなりギリギリの攻防だったためにかなり体力と精神力を消耗してしまったのである。俺は『アイテムボックス』からポーションを取り出し飲み干すと気分的にだいぶ落ち着いてきたような気がする。そうしてから『ステータス』を確認してみると『レベル上限』が上昇していることがわかった。そして、レベルを上げるために何かできることは無いのかをステータス画面に表示されている文字を読み取って確認してみると、あるスキルを習得すれば経験値を獲得してレベルアップすることができることが書かれていた。

それを見た瞬間、俺は思わずほくそ笑んでしまいそうになった。それはつまり、『聖女』である『アリスティア』を仲間に加えたことにより『救世主』として認められ、更にレベルアップに必要な経験値を獲得したのだと推測したのである。だから俺はレベル上げをするためにはどうすれば良いのかを考えて実行することにする。そのためにまず、今の状況を把握する必要がある。そのため、俺の傍で気絶している【聖騎士】と【聖者】の二人に話しかけることにしたのである。

「おい起きろ。今どういう状況になっているのか分かるか?」

俺が声をかけると、二人が同時に目を覚ます。そして俺の顔を見ると安心感を得たらしく笑顔を浮かべたのである。

「【勇者】殿でございましたか!?助かりました。私たちを助けてくれてありがとうございます!」そう言って感謝の言葉を述べた【聖騎士】は続けて質問をしてきたのである。

その質問とは、【勇者】として【聖騎士】と【聖者】として何が足りなかったかを聞かれたのだ。

それに関しては俺はこう答えたのだ。

「俺は【勇者】だ。【聖騎士団】は『勇者騎士団』と呼ばれているのを知っているか?そして俺こそが【勇者】なのだ。そして、お前たちはまだ未熟だった。しかしそれは俺も同じ事なんだ。【聖女】アリアに【救世主】の力を与えてもらったばかりなのに、あんな強力な力を手に入れられて浮かれていた俺が馬鹿だったというだけだ。そして、今回の戦いだってもっとうまくやれたはずなのだ。【勇者】が俺しかいない今ならなおさらのことだ。【勇者騎士団】が全滅していたのも俺のミスに他ならない。だからこそこれから鍛え直してもう一度、やり直していく。そうしないと俺は『英雄王』にすらなれないんだ。そんな情けない勇者にはなりたくない。だからこそ今は修行が必要だ。強くなってやる。強くなるためにはどうしたらいい?教えて欲しいんだ。」

その言葉に【聖女】と【救世主】である【アメリア=オロル】と【セリシトー】は俺のことを心の底から尊敬すると言ってくれるのであった。

俺達は【魔王】と戦う準備を整えていこうと思ったのだが、まずはこの国が【魔神】に支配されているこの世界で生き残るために必要な物を買い揃えることにした。そうして王城を出た俺は、王都にある『商店街』に向かう。その『城下町』はとても広く賑わっていたのである。そこで必要なものを色々と買ったのだが中でも役に立った物は『回復薬』の類いだ。【救世主】の称号を得てからはなぜか『魔力』を『神聖』に変換することができるようになっていたのだ。これは『聖騎士』と『聖者』の称号を持っているアリシアと俺だけの固有能力のようなものであった。その能力は『神聖魔術』と呼ばれる特別な魔法が使えるようになったのだ。俺がその効果を使って作ったのが『ポーション』である。それは飲むと『傷』を癒してくれるのだ。そしてさらにすごいのが飲めば『状態異常』をも解除してくれたのである。このおかげで俺たちは怪我をしても簡単に治せる上に毒などもすぐに回復するので非常にありがたかった。

そういえば俺の『ステータス』を確認するとレベルが上がらない原因が判明していた。それは俺の『称号』に問題があったことが原因であるらしい。

【勇者】という『勇者』の中でしか得られない称号が俺に与えられていることからもわかっているように【勇者】という『職業』とは非常に貴重なものであることは明白である。

そしてこの【勇者】は実は『称号』とは全く関係がなかったのだ。そもそもこの『勇者』という称号を得ると得られるものなど何一つとして存在しないのだという。この【勇者】というのはこの世界に存在している人間の中の誰かが必ず取得してしまうものであり、それ以外の存在にはまず手に入らないものだということがこの【王国】の歴史の記録から読み取ることが出来たのだ。この世界の人間は『勇者』になれなかった人間は一生『奴隷』にされる運命を背負って生きていくのだという。

この国は元々『奴隷』制度によって成り立っている『王国』であり、『奴隷制度』が国是となっているのだそうだ。それが、この国に住む『奴隷』たちの待遇を悪化させている要因であり国自体の腐敗を招いているということが【聖騎士】であるアリシアの説明を聞いてわかった。この国には奴隷制度の弊害として『奴隷紋』の契約があるせいで『勇者』を召喚しても契約を交わすことが出来ずに意味のない儀式となっていたことが発覚したのだ。それ故に俺の目の前にいるこの国で【聖女】と呼ばれていた【アリティア=アークレイム】が、今回の俺が【勇者】であるという事実を知り驚愕していたことは言うまでもないのであった。

【魔王】は俺の存在に気がつくことなくこの国の王城へと向かってきていたのである。

この国を支配する国王の居場所を突き止めた俺はこの国の支配者がどんな人間なのかを知ろうと、まずは『鑑定眼』を使い情報を集め始めた。

その結果この【魔王】の【種族】は【悪魔族】であることが分かり俺は少し焦る。なぜなら【魔人】と【魔獣】が【聖騎士団】を苦しめていることは知っていたからだ。だからこそ『聖騎士団』が【聖剣】を使うことができず、苦渋の選択で『奴隷』である【聖女】である【アリスティリア=オロルスト】にその役目を押し付けたことを思い出したのである。そして『聖騎士団』が敗北すれば間違いなく【魔族】と戦争が始まるのが分かっていたため、俺はどうにか【聖騎士団】と【救世主】たちを逃さないといけないと考えた。

【魔導騎士団】が【救世主】たちに手を出す可能性もあり、もしそうなれば彼らは【救世主】の力が使えなくなってしまうかもしれない。そうなると彼らが生き残る道がなくなるため、【魔導騎士団】が【救世主】たちを殺す前に彼らを救出する必要があった。そう考えた俺は『勇者』として、彼らを助けに行くことに決めたのである。

俺は急いで王城の『宝物庫』に向かった。そして【聖女アリティア】から渡された鍵を【宝物】の中に入れてみるとあっさりとその『宝箱』を開けることが可能になったのである。『勇者』にしか開けることができないはずの扉が開くことに俺は驚いた。『聖女』である【アリスティア】は確かに優秀な【聖騎士】である。しかし、それはあくまでもこの世界の中ではの話だ。この『勇者』の力があれば『聖女』よりも上の【救世主】の力を引き出すことが可能となるはずである。ならば、俺がこの国の【聖騎士団】に加われないわけはない。そして【聖騎士団】に加わることが出来さえすれば【聖騎士】の称号を得ることができるはずなので【聖騎士団】に加入することが決まったようなものである。【魔獣使い】や【魔人】を倒すためにはどうしても『魔剣士』の力が必要になるのだ。『魔剣士』の称号を得たら俺でも【救世主】の称号を得られるようになるだろう。

そうして【魔王】が現れたことを【勇者騎士団】の面々に伝えると全員が驚くことになった。【魔王】が現れるとは思っていなかったらしくかなり慌てていたようだ。【救世主】である二人に至っては腰を抜かしてしまったくらいだから、それだけこの国の現状は深刻だということなのであろう。

【聖騎士団】が敗北した場合、『奴隷』の【聖女】を殺されてしまい『聖騎士団』が力を失ってしまう。

【聖騎士団】が力を失えば俺達もこの国では無法者になるのは確実だ。だからこそ、俺は今のうちに戦力を増やしておこうと考えていた。

しかし、今の俺のレベルは10程度。だから【救世主】の二人がレベル50を超えない限り、この『聖騎士団』の人たちを助けるのは難しいと思っていたのだ。だからこそ【聖女】の二人と話をしている時に、俺達は【聖女】に頼み込みレベルを上げるために魔物を倒していこうという話をしていたのである。そうして王都の外に出た俺たちだったが運悪くそこに現れた【魔竜】に追いかけ回されてしまったのだ。そして逃げ回りながら【聖騎士】たちが戦う様子を見ていたが明らかに苦戦していたのだ。そこで俺が【救世主】である【アメリア=オロルスト】に「聖剣を貸してくれ」と言う。彼女はその言葉を聞くと、一瞬何を言われたのか分からないといった顔をした。それもそうであろう。なんせ、【救世主】である彼女が持っているのは『神器』の類いで普通の人間がおいそれと扱えない代物なのだ。そしてその力は使用者を選ぶという厄介な特性を持っているので俺が使えるかどうかわからないのである。そして、俺にその『聖剣』を渡した瞬間【聖騎士】の二人の姿が消えていた。それはつまり【救世主】が使うことのできる特殊な能力によるものだと考えられるのだ。そして、それを見て確信したのである。【救世主】が使ったのは『テレポート』と呼ばれる『転移』の能力であるということをだ。俺はそのことを思い出していた。だからこそ『魔導士』の俺は【救世主】に力を貸すことにしたのだ。

そうこう考えているうちに【魔竜】の攻撃が俺たちにも当たろうとしているところだった。

それを見かねた俺はその攻撃を防御するために魔法を唱える。この俺が使っている魔法は【神聖魔術】でありこの世界で確認されている魔法は全て使用可能になっている。しかも、なぜか俺が覚えている魔法や『聖剣』に宿っている魔力で発動できる魔法であれば『MP消費0』で使うことができるようになっている。そのため俺はこの『神聖魔術』を全力で使用しながら他の仲間たちの援護をするべく魔法を発動することにした。まず俺はこの【アメリア=オロルスト】と【アリティア=アブレイム】が使える攻撃魔法の『ファイヤーランス』の術式を展開して、彼女たちの前に魔法陣を展開する。そして『神聖魔術』を使って『魔竜』に対して『魔力弾』を打ち込んでいったのだ。【アメリア=オロルスト】の放った魔法が【魔導師】である【俺】から打ち出された魔法が当たると同時に『魔竜』は苦しんでいた。そして、どうやらこの攻撃はダメージを与えたようで、『HP』ゲージも表示されたのである。俺はこの『鑑定眼』で『魔竜』を調べると『名前』が【レッサーワイバーン】という【魔獣】であることがわかった。【魔獣】というのは【モンスター】と【動物】の中間のような生き物のことを指しているのだが【魔獣】には明確な『種族』というものは存在しない。なぜならそれは『進化』することによって生まれる『新生物』であるからである。この『進化』はレベルが上がった時に起きるものであると一般的には思われているようだが実際はそうではないのだ。【魔獣】とは【魔素】を取り込むことによって【進化】を繰り返すことで強くなるという習性がある。

その証拠に目の前にいる『鑑定眼』の『解析』によると、目の前に居る『レッサーワイバーン』のステータス欄にはレベル1と記載されていて【スキル】の【ブレス】に【飛行】、それから固有技能として『炎属性耐性』『水属性弱点』が表示されているのであった。それを見た俺はこの『魔獣』を倒せる可能性があると思ったのである。それというのも俺が使えるこの世界に存在する魔法の中でもっとも高威力を誇っているのは【火焔魔術】でこれは通常の【魔術師】が使用できるレベルのものよりも高い攻撃力を持っているからだ。さらに、この魔法を俺の【神聖魔術】と組み合わせて放つことができるようにすればかなりの威力を発揮するだろうし【魔導】に【魔人】にダメージを与えることもできるはずだと考えたのである。そして俺が『神聖魔術』を使い【火焔魔術】を組み立て始める。しかし、ここで予想外のことが起きた。この俺が構築を始めた『神聖魔術』の構成を見ていた【聖騎士】の二人は、何をしているんだ、この【勇者】は、という視線を送ってきたのである。しかし、それでも何も言わずに【魔剣士】である俺を見守るようにしてくれているので少し安心できたのであった。

俺はそんなこんなを考えながらも必死で【聖騎士】たちの力を借りるために『鑑定眼』の【鑑定強化】を使いステータスを確認する。するとこの【魔剣士】の職業についている【勇者】の【鑑定】結果が以下の通りであった。

名称:

性別:男

年齢:15

種族:ヒューマン(異世界人)

Lv.20/100

Sランク:5600/6000

MND:500%

DEF:45%

AGI:50%

VIT50% IPD:10%

CHR100% 状態:健康

(勇者補正効果により全ての能力が上昇します。また全ステータスを上昇します。なお、すべての『アイテム収納ボックス』が解放されました。この能力の発動は『勇者の試練』をクリアすることにより解除され、以降は任意で自由に使用することが可能なります。この『称号』を獲得したことにより『アイテムボックス拡張』が使用可能になりました。この能力の使用は制限されていません。)

「なんだと?!」

思わず俺はそう声を上げてしまったのだった。『勇者』は俺一人しか存在していないはずであるのにも関わらず、なぜかその力を得ることができた。そのことから俺は【聖女】がこの世界に来た時の【召喚の儀式】によってこの世界に呼ばれた【異界人】の一人であるという可能性が高いと考え始めたのだ。

それならば、俺はあの『女神』に騙されていたという可能性が否定できないわけだ。俺は、もしそうだとしたらとてつもなく大きなショックを受けることになると思い気が滅入った。だが俺は【魔王】と戦うためにこの世界にやってきたのである。今、俺が落ち込んでいる場合ではないのだ。だからこそ俺は気を引き締めてこの世界の脅威である【魔王】との戦いに臨む決意を固めたのである。

(そう言えば、なぜ【魔王】が現れたのだ?!普通に考えてこの国はそこまで豊かな国ではなかったはずなのだがな。だからこそ俺が【救世主】になったわけだしな。まさか俺の知らないところで何かあったのだろうか?)

【魔王】が出現したということは間違いなく【魔王】が現れる原因となるものがあるはずなのだ。それがなんなのかまではわからない。だから俺はその疑問を一旦忘れることにしたのだ。俺が【勇者】の称号を貰ったからと言って、必ずしも強いとは限らないのだ。実際俺はこの世界ではまだ冒険をしたことがないので強さに関しては未知数なのである。この『聖騎士団』に所属している【救世主】が俺より弱かったらかなりショックなんだよな。俺って結構負けず嫌いみたいでさ。

そして、先ほどから俺のことをチラ見してくるこの二人の少女もきっと強いのであろう。俺と同じ【救世主】なわけだ。そう思うとちょっと楽しみになってくるのであった。俺は彼女たちが『神剣』を扱えるのか確認することにしたのである。俺は【魔剣】を手に持つと『魔力』を込めるように指示をした。

そして俺は【聖剣】に魔力を込めてもらうと『魔剣』は青く光り出したのである。そして、その光が収まると同時に『鑑定眼』で【救世主】のステータスを確認すると、そのステータスに【聖剣】を使うために必要な【レベル】が表示されたのであった。どうやら【救世主】でも【魔剣士】のようにレベルが上がれば【聖剣】の本来の力を使えるということなのであろうか。

その答えを知るべくして俺は【アメリア=オロルスト】に話しかけた。その【救世主】が扱うことができる『聖剣』がどのような特性を持っているのか知りたかったのだ。だからまずはその『聖剣』の特性を聞くことにする。それによって俺はこの【救世主】の少女たちに俺の実力を示す必要があった。そして俺に『神器』である『神剣』が反応するかどうかで俺の強さを判断するつもりなのだ。【聖騎士】が使っている剣は『神器』ではなく【魔道具】なのでそれは不可能なのだ。それでは俺の力を見せられないだろうと思っての行動だった。だからこそ俺は【アメリア=オロルスト】に質問したのだ。

彼女は、俺が持っている『魔剣』を見ると驚いていた。そして【魔剣士】が【救世主】であることと【救世主】の『称号』と『称号』による【加護】によって【勇者】よりも優れた力を有しているということを丁寧に説明してくれたのだ。それを見ていた【アリティア=アブレイム】は納得顔になっていた。そして俺は、彼女達の言葉を信じることにしたのであった。【聖剣】を扱うことのできる者が二人もいるのならこれほど心強いことは他にはないだろう。この世界で確認されている『神剣』は全てが伝説の代物ばかりであるので、それを使えば確実に勝てるだろうと俺は思ったのである。しかも彼女たちの話を聞いてみると『神具』を扱えない者は【聖戦士】になれる可能性が極めて低いようだった。それを聞いた瞬間俺の心は決まったのである。この【アメリア=オロルスト】と【アリティア=アブレイム】は俺が『魔王』を倒すための『パーティメンバー』として必要な存在であるということだ。だからこそ俺は、【魔竜】との戦闘に勝利すると同時にこの二人を手に入れることにしたのだ。【魔竜】に勝てなければ意味はないが。まあ、【聖魔竜】に勝った時にどうするかはその時になってから考えればいい話である。とにかくこの世界を救うためには【魔導師】が必要となってくるわけで、そうなると【魔導師】を扱えるのは俺だけである。俺以外の誰かを【勇者】にして、俺の代わりに世界のために戦うようにさせるというのは正直俺の性分に合っていないので絶対にしたくないという理由があるのであった。そもそも俺が【魔導師】の『職業』を選んだ最大の理由は『ステータス上昇補正』があったからである。

【救世主】と【勇者】は【聖戦士】や『魔剣士』などの『魔道剣士』系の『職業』とは少し異なるのだ。その理由は、俺が持つ『魔剣士』が他の『職業』と比べると、どうしても弱いのが否めないからというところからきている。それというのも、『職業』には『レベル上限』が設定されている。つまりレベルを上げていく上でステータス値の上昇に限界が存在するのだ。それに比べて、俺たち『魔導師』系は【魔術士】のレベルを上げるだけで全ての数値が上昇していくのである。それに、魔術は魔法よりも消費魔力が少ないためMPの消費量を計算しやすいのである。この【魔術士】の利点を生かして、効率良くレベルアップしていくことができればステータスを最大限まで強化することができるようになる。そうすることで、俺はステータス値を大幅に上昇させることができるようになり強くなれるわけである。しかし【魔術】を使えない俺にとってはこの利点が生きてくることはなかった。だから、この世界で俺は『魔剣士』を選んだのである。そして、俺が選んだこの二つの【勇者】にしかない能力、それが『スキル』である。これは、通常の【勇者】が使える固有技能とは違い個人によって使える能力が違うのである。そして【聖魔剣士】の俺の『スキル』の中に【神聖術】がありそれを使用するために必要なのが『女神』に与えられた【女神の恩恵】である『ステータス』の項目の中にある『ステータスアップ補正』が使えるようになるという『聖職の才覚』と、【勇者の試練】で手に入れた『魔剣』を強化することができる【聖魔の心得】であるのだ。

この二つのおかげで俺は『聖魔剣士』でありながらも、他の【勇者】と同等のステータスを得ることができるようになっているのである。【アメリア=オロルススト】と【アリティア=アブレイム】はそんなことを知らず、目の前にいる【魔剣士】がただの【勇者】だと誤解しているわけだ。だからこそ【魔剣士】が本来持っているはずの『聖剣』の力を【救世主】に授けることが可能なのである。『ステータス』に表示された情報を見る限り【救世主】はステータスの値が高く設定されているようでそのおかげで俺にも『聖剣』の力が使うことができるようだ。【救世主】は普通の『勇者』よりも成長速度も速く設定されているのは間違いないと思われる。そして【勇者】は『アイテム収納ボックス』を使うことはできない。その能力がないからだ。その代わりに【救世主】は他の能力が高めに設定されていた。そのため、【救世主】は俺にとってかなりありがたい存在であった。【魔剣士】に【救世主】に【救世主】に【聖魔剣士】、そして『神具』でもある【魔剣】が揃っているのだ。俺はこれでもう怖いものなどないとそう思い込んでいたのである。俺に足りないものはあとは【勇者】の力のみである。だからこそ俺は『聖騎士』である【アリティア=アブレイム】が扱えるようになった『聖剣』の力を見てみることにしたのだ。そうすれば俺は自分の実力を客観的に知ることができるわけだ。

「えっと、それで私の【聖剣】の名前はなんていうんでしょうか?」

俺は【救世主】の少女である【アメリア=オロルススト】の言葉を聞いて一瞬耳を疑ってしまった。彼女の言葉から【聖剣】の名前がわかるかもしれないと思ったのだが【聖剣】の『称号』を確認することができないためその確認ができずに焦ったのである。【勇者】や【救世主】の称号は『聖女』から【救世主】に与えられる【称号】として教えてもらったのであるがそれ以外の【救世主】にだけある特別な【称号】については知らなかったのである。だから【聖剣】の名前を『称号』を確認して知りたかった。だがその『聖剣』の称号すらも見ることができずに俺は非常に焦っていたのである。だから俺が使える可能性がある唯一の方法である【鑑定眼】で【救世主】である【アメリア=オロルススト】の扱う【聖剣】のステータスを確認したのである。

そしてその結果、【救世主】である【アメリア=オロルススト】の【聖剣】に【鑑定眼】で確認した結果、名前と【救世主】の【称号】が表示されるようになっていた。だが、それは『神剣』ではなく『神具』であったため俺が使える可能性はなかった。それを見た俺は思わず舌打ちをした。俺はすぐに【魔剣士】である【アリティア=アブレイム】の方へと視線を向けるとそこには確かに彼女の名前と【救世主】の【称号】、さらに『ステータス』に表示されている内容が確認できることがわかった。【アリティア=アブレイム】の使うことのできる【聖剣】の名前は、なんと『天雷』という名前だったのである。そして、【救世主】が【救世主】の力を扱うことができてもそれは当然のことだと思い俺は気にしないでおくことにした。

そして、【魔剣士】が【救世主】の【加護】を使って【聖魔剣士】の力を行使できるようになるためには【救世主】に認められなければならない。そして【聖剣】の名前を教えてもらうことが必須であるのだ。しかし俺は【救世主】たちには【救世主】にしかできない【救世主】だけの特権を使おうと考えていた。【救世主】は、俺が【聖剣】を扱うことができるようになるために必要な【救世主】専用の特殊な力を使うことができるのである。それが俺にはあるのだ。だからそれを利用させてもらうことにした。まずは俺の持つこの【魔剣】の強化を行うことにしたのである。そしてそれを実行するために俺はまず、【聖魔の心得】を【魔剣士】の『職業』の固有技能『魔剣解放』と重ね掛けするイメージを浮かべながら発動する。それによって【魔剣】は青い光りを放ち始め、そしてそれが収まると、ステータス画面を開いて【聖魔の心得】の効果で俺のステータスが強化されているか確かめたのである。

「おお、なんか強くなった感じする」俺は思わず声を上げてしまう。どうやらこの【聖魔の心得】を使うことで俺が今まで持っていたステータス値の上限が少し上がったようなのだ。それこそ今なら【聖魔剣士】の【魔剣士】としての通常時の最大ステータス値が三千くらいはあるように感じるのである。ちなみに、レベル100の時に手に入る『職業』ごとの限界数値が『12000』というとんでもない数値なのだが俺はそのことをまだ知らない。なぜなら、【神魔竜】を倒すことでレベル上限が上がりその上限が二倍になって上限が『64000』になっていることも。

そして俺は【アリティア=アブレイム】に対してこう告げた。

「アリティアちゃんって【聖魔剣士】になったんでしょ? 俺と一緒に戦ってくれるよね?」すると彼女は戸惑いつつも、「わ、私はまだ【救世主】になってからあまり時間も経っていないので力不足だと思いますよ?」と俺の問いかけに対し不安げな様子で言葉を返してきた。なので俺は【聖剣】を彼女に向かって放ち彼女に手渡したのだ。

「えっ! ちょっ!? えぇー!! 急に何をしているんですか!!」彼女が慌てて俺から受け取った【聖剣】を手にしながら叫ぶとそんな声を上げてくる。そんな彼女を放置しつつ【聖剣】を『魔石』に戻した後に【聖魔剣】を取り出し俺は彼女にそれを手渡したのだ。

そしてそれからしばらくして、【聖剣】を受け取ることができたのはいいものの使い方がいまいちわからず、【アリティア=アブレイム】はあたふたしているので俺は【聖魔の心得】の効果が切れていたから再び使用するために俺は【魔剣士】の『職業』専用特技『魔剣術』を発動させる。これによりステータスが上昇し、更にはレベル99の時点でレベル上限が3600と異常な数字になっていたのである。このレベルが限界突破するのはこの世界ではかなり珍しいらしい。普通に考えればおかしいのであるが、そこはレベル99まで上がる経験値の量が多いのであろうという理由が考えられるだろう。それにこのレベル99になる時点でのステータス値は『1000000』を超えているので俺の場合レベル999でも、そこまでの恩恵があるということになる。

俺は、この『魔剣術』を使用して俺の扱うことのできる唯一の武器である【魔剣】に魔力を纏わせることに成功する。【救世主】には『聖魔術』があるため俺のように魔法属性のない【魔剣士】が『魔剣士』でありながら魔力で【聖剣】を操ることが可能であるので俺が魔法が使えなくとも【魔剣士】の魔法攻撃が可能になるのだ。

【救世主】と【魔剣士】の組み合わせは俺にとって最強だと思える組み合わせなわけである。そして、この組み合わせによって俺の攻撃力が大幅に上昇したことにより【アリティア=アブレイム】は目を丸くしていたのである。まあ、そんなことは置いておいて俺も自分のステータスを確認したのだがやはりというべきか【聖剣】を使うことができたことによってかなりステータスが上がっていたのである。

【アリティア=アブレイム】の場合は、元々のステータス値が低いこともあり俺と比べると若干劣っているが【救世主】としてのレベルも低いことから仕方がないといえるだろう。

ステータスの数値的には大体同じくらいというところで落ち着くこととなった。【救世主】と【魔剣士】が二人揃った以上は負けることはほぼないだろう。

そう思っていた。

「あれれ、【聖剣】の使い方はわからないんだね。じゃあいいや。君も死んじゃえばいいんだよ。【救世主】の【加護】を悪用するような人間を生かしておけないからね。死んでもらうよ」そう言った【魔王】がいきなりこちらへ向かってきて『神術』を使用してきたのである。しかもそれはかなり威力が高いものらしく【救世主】である【アリティア=アブレイム】ですら防ぐことができずにそのまま直撃してしまった。俺はとっさに『聖剣解放』を行ってしまいそうなってしまったのである。

「くそがぁ!!!!」

俺は【魔剣士】の『職業』の固有特技『天雷斬』を発動してそれを迎撃しようとしたのだ。その結果なんとか【天雷斬】を使用することにより相殺することができたのである。

だが俺の攻撃は完全に止めることはできずに俺は衝撃の余波を受けて吹き飛ばされてしまったのだ。しかし【聖魔剣士】になったおかげでHPも防御力も高いこともあってダメージはあまりない。だが【救世主】の『天癒』のおかげで彼女の方は問題ないようであった。

しかし、彼女の使う【聖剣】が先ほどの一撃で粉々になってしまったのである。おそらく『神術耐性』を持つあの攻撃を完全に防御することはできるが耐え切れずに破壊されてしまうというところであろう。そして【魔剣士】は【救世主】よりも圧倒的に強いが【魔剣士】ではその攻撃を耐えきることができないのかもしれない。だからこそ、俺は【魔剣士】のままで戦うことを決めたのだ。そしてその戦い方をするためには俺はまずレベルを上げる必要があったのだ。

俺が【救世主】たちと共に行動する上での一番の問題はこのレベルの差だった。いくら【魔剣士】が強すぎるといっても【魔剣】を使えない俺がこの世界に生きる人々の中では最強の存在でありこの世界に住む人々にとっては【魔剣士】は倒すべき敵である。だからこの世界を支配すべく動き出している【救世主】たちが協力しない俺の存在を無視するはずはない。そして【救世主】である彼らは、【魔剣士】と戦う時に【救世主】の力を使って俺に挑んでくるはずである。

しかし、レベルが圧倒的に違う【魔剣士】を相手にして、さらに【魔剣士】の『スキル』や能力が使える【救世主】の相手をすることになれば【救世主】たちの力を借りていない俺は間違いなく殺されることになる。それだけは避けなければならなかった。だから俺は、【魔剣士】のレベル上げをして強くなる必要があったのである。そして俺は【魔剣士】でいる間はレベルを上げ続けようと心に決めたのだ。しかし、【魔剣士】をレベル100にして限界を超えるのはかなり時間がかかりそうであるために【救世主】たちと共闘する前に俺が一人である程度の強さを得られるようにしておかなければならないのだ。

そこで俺はレベルを上げて強くなる方法を考えた。そしてその方法として俺が思い付いたことが『職業』を変えることだったのである。まず俺は【救世主】の力を奪えるように行動しようと考えた。だから【救世主】たちには、俺に協力して欲しいとお願いすることにしたのだ。そのために【魔剣士】の固有技能を使おうとしたら、なんと、【アリティア=アブレイム】が急に怒りだし、なぜか俺のことを『悪しき者』認定をしてきた上に攻撃を仕掛けてこようとしたのである。俺はそのことに疑問を抱いた。

俺は何も悪いことをしていないのだから。むしろ俺は【魔剣士】になってレベルを上げたいだけなのにどうして彼女は怒ったのかよくわからなかった。だけど【救世主】に敵対意識があると思われて攻撃されたのだから俺の方にも敵意を持って当然だと思うのでお互いに戦うことにした。そして結果的には【アリティア=アブレイム】の方が先に力尽きてしまった。なので俺は彼女に近づきステータスを表示させてステータスを確認するとそこには信じられないことに彼女の名前が書かれていた。そして職業も【救世主】ではなく【聖魔剣士】に変化していたのである。

これは一体どういうことだと思った俺は、ステータスの詳しい数値を見てみることにした。ステータス値の欄を確認してみると【聖魔剣士】の固有技能『ステータス改竄』『ステータス強化』『経験値上昇(極大)』という効果が付与されていたのである。この『ステータス改竄』と【救世主】の【加護】と『職業』の効果で『職業』が変わることで【救世主】の能力を得ることができたのではないかと俺は推測した。それにしてもまさか『ステータス』の職業のところが変化しているとは思ってなかったし、『救世主』と表示されている名前が変化していて【聖魔剣士】に変わっていたなんて全く予想もしていなかったのである。それに【救世主】の【加護】の効果である【聖魔術】を使用できるようになっていて、レベル1の俺に対して【救世主】と互角に近いレベルで渡り合うことが出来たのである。まあ、それでも彼女は【救世主】になったばかりのようで経験が不足しているようだったので俺の実力を完全発揮するには至らなかった。

それから俺は『聖魔の心得』という新しい力を得たがどうやら『聖剣』と『魔剣』の使い分けができるようになる『職業』らしく、それだけではなくステータスの補正までしてくれる素晴らしい力のようである。これがあれば【救世主】との戦いを優位に持ち運ぶことができるだろうと思えた。

それから俺は【アリティア=アブレイム】にステータス確認を頼んでステータス画面を出してもらったのである。そして、彼女が『ステータス改竄』の『聖魔術』の使い方を教えてくれた。

『聖剣』の使い手が使う場合と『魔剣』を使い手が使用する場合は、【救世主】が【魔剣】に【魔剣】が【救世主】になるといった感じにそれぞれの『魔剣術』が使用可能になるということだった。ちなみにこの【聖剣】と【魔剣】の『聖魔の心得』によって【魔剣士】でも【聖剣】の力を使用することができるようになった。この『聖魔の心得』には俺に新たな力が発現したのである。

俺は『ステータス隠蔽』、『偽装』というスキルを獲得したのだ。『聖魔の心得』の力で、この世界の人間に自分の本当の強さを見せないようにすることができるらしい。そして【救世主】たち以外の他の人間からも自分を隠すことが可能だというのである。

【アリティア=アブレイム】はそんな説明をしたのだ。そんな話を聞きながら俺のレベルは99のままになっていることに気づいたのである。そういえば俺は【救世主】から能力を奪ってしまうほどに強いからこのままでは不味いと彼女から指摘されたので【聖魔の心得】による『職業』の変更を行い俺も【聖剣】と【魔剣】を自由に扱えるようにしようとした。その結果、【救世主】と同じように俺は二つの『聖剣』を同時に使うことができるようになったのである。これによって、俺は二つも強力な固有技能をゲットしてしまった。これで俺は今までよりはだいぶマシな戦闘力を手にすることができそうであった。

【救世主】が俺を殺しに来るまではとりあえず俺の方でなんとか生き延びる手段を見つけるしかないだろう。そうすればレベルが上がるはずだからだ。

こうして俺は【救世主】が攻め込んで来るまでの時間を利用して俺は強くなるための修行を行うことにしたのだった。俺のレベルが【救世主】と同等程度になれば、あの連中はさすがに手を出して来れないだろうから、そうしてしまえば、もう後はこっちのものだ。レベルを上げて『聖魔の剣』を使えば俺の勝ちはほぼ間違いないだろう。

そして俺が強くなった後に俺が【救世主】に殺されたふりをしておけば、【救世主】たちも油断している隙に『職業』を【魔剣士】に戻せるはずなのだ。そうなれば俺は再び【魔剣士】に戻ることが出来るはず。そうなれば今度は俺の方が圧倒的に有利となる。なぜなら【魔剣士】は『職業』の中では最強クラスに位置する職業だからである。そしてレベルを上げることができて俺が『救世主』に負けないくらいに強くなれば【魔剣士】のままで戦えるのである。

そう、俺は無敵になったのである。【魔剣士】の状態で『聖魔の剣』を使って【聖魔剣】を発動することで最強の固有技能『魔聖斬剣』を使用可能になる。【救世主】の持つ固有技能『聖剣』や『魔剣』も使えるのだからまさに最強の剣士になれると言っても過言ではない。それに『聖魔の剣』を使うことで【救世主】が持つ『聖剣』や『魔剣』も扱うことが可能になるためにレベル100の俺よりも遥かに弱い存在である【救世主】を倒すことなど朝飯前だと俺は思うのだ。

だが、俺はこの世界を平和に導くためにこの世界に転生したのではなかったのか? こんなにも好き勝手してしまっていいのだろうかと思ってしまったのである。俺は別に自分が無双するのが好きなわけじゃない。確かにこの世界で最強の存在になりたくはあるが、それよりも俺の本命はこの異世界の人々を救ってあげたい気持ちが強い。この世界の人々が俺のように理不尽な死を遂げずに幸せに生きれるような環境に導いてあげる方が大事なのではないかと思うのだ。俺は『聖剣』と『魔剣』を手に入れてこの世界を救う勇者になりたいと思っていたのだが、それは俺の考え過ぎかもしれないと思った。だから俺は一度冷静になって考えてみることにしたのである。

俺の目的はただこの世界を救いたいと願うだけだったはずなのに、それがいつの間にか俺が世界を支配できるほどの圧倒的な力を持つ魔王となってしまっても大丈夫なのかと思い悩んでしまうのであった。

【アリティア=アブレイム】との話し合いを終えた俺達は家の中に戻ってきた。そしてこれからのことを考えることにする。

俺はまず、今現在俺のステータスが表示されている【魔剣士】の職業を別のものに変えることから始めようと思っている。【救世主】が俺を本気で殺そうとしてくる以上は【救世主】の力を奪った時に奪った『スキル』や『称号』もすべて使用できるようになっておきたいと思ったからである。

しかし『ステータス改竄』の【聖魔術】が使えない状態でも俺はステータスの数値だけは書き換えられるようになっていた。だからステータス数値だけでも変更できないかと思ったのである。しかし【救世主】の固有技能の力を奪っているため【ステータス改竄】は俺にとって意味の無い力となっているらしくステータス値を変えることができない。それに【ステータス偽装】についても俺が持っている固有技能ではないため使用することができないようだ。つまり俺は【魔剣士】の状態のステータス値を変更することはできないのである。そこで俺は【魔剣士】と【聖魔剣士】両方の状態の時に同時に発動させればどちらの状態にも同時に変えられるのではないかと考えた。そこで俺は【魔剣士】になった瞬間に【魔聖剣術:魔聖剣】を【聖魔剣士】の時のタイミングで使用し、【聖魔剣術:魔聖剣術】を同時に使用することに成功したのである。

そして【魔聖剣術】を使用した結果ステータス値は【魔剣士】と【救世主】で重複されているはずの部分も含めて両方とも上昇させることができたのである。それによって俺は本来の自分のステータスよりもかなり高いステータスを得ることができたのだった。さらに俺は自分の職業のところを見てみると、ステータスの値が変化しており【魔剣士】と表示され直していた。

俺はそのことを嬉しく思った。【救世主】の固有技能である【加護】と【救世主】の称号である【神からの加護】と【聖魔剣士】の称号である【救世主】が重複することによって俺は『救世主』と同等のステータスを手に入れたことになるのだ。俺はステータスが上昇したことに喜びを覚えたのである。そしてそれと同時に『職業』を元に戻せないのならばこのステータス値のまま『救世主』に殺されないようにしなければと思ったのである。そのためにも早く『救世主』が動き出す前に【魔剣士】と【聖魔剣士】両方の状態に慣れておくべきだと俺は考えた。

そう、俺のレベルが【救世主】と同じになれば俺が負けることなどなくなるので問題なく『聖魔の剣』で『救世主』たちを圧倒することが可能になると予想できるからだ。そのためにもこの状態を完璧にものにしておく必要がある。なので【救世主】たちが襲い掛かってくるまでに俺はステータス値を出来る限り強化したいと考えていた。

そんな俺が次に行うべきは『救世主』たちに対抗するために必要な装備を整えることだろう。幸い俺は『聖魔の剣』を二本と、『魔聖弓』を持っているので武器に困ることはないが防具についてはそうはいかないだろう。『聖魔の剣』はともかく、『魔聖弓』も使い慣れてきたもののまだ扱いきれない。それに【魔剣士】と【救世主】のステータス値の差があるせいもあるのだろう。そのおかげで、俺はレベル100になってもまだまだ『救世主』たちには勝てる気がしなかった。だからこそ俺はこの世界にいる他の強者たちにもっと強くなるための方法を教わりたいと考えたのである。

ただ、『聖魔の剣』を使いこなすことで俺はだいぶ力が上昇しているように感じる。それに加えて『魔聖剣』を使えばさらなる力を手にすることができると俺は確信することができた。それこそが俺の狙いだったのだ。

それからしばらくの間、家の建築に使った材料は俺がアイテムボックスの中で回収し続けることとする。なぜなら【アリティア=アブレイム】が家の中に俺が残していった木などの資材を不思議そうな顔で見ていたからだ。彼女は『空間移動』の能力を持っており自分の家に戻れるのだが、自分の能力のことをあまり話したがらない。俺が彼女に質問をすると、彼女から返ってきた答えが『空間転移魔法』、『転移石』、『収納袋』、『次元倉庫』という四つの名前の『聖術』だという。そしてその中でも彼女が使えるという四つ目の『聖魔術』にこそ『転移石』というものがあり『魔剣士』である【救世主】でも使うことができると教えてくれたのである。

どうやら【救世主】にはこの世界に存在している様々な『スキル』の中でも【魔剣士】と非常に親和性が高い『スキル』だけが与えられているようだ。そして【魔剣士】としてレベルが99まで上がると、すべての固有技能を使用可能になり『スキル』を【魔剣士】としても使えるようにもなるらしい。だから俺は『聖魔の剣』を使えるようになるだけでなく【魔剣士】の職業で【救世主】の固有技能も使用可能になったわけだ。しかもレベルはたったの50なのに【救世主】と同等レベルになっている。だから俺はレベル差はあれども十分に強いと言えるだろう。

【救世主】の奴は俺を殺しに来る際に、この家も破壊してしまわないだろうか? そう考える。もしも破壊されてしまって家がないなんて事態になれば大変だし、俺がこの異世界にやってきて最初に作った家だけに思い入れはある。だから何が何でも家を修復する手段を考えなければならなかった。そういえば俺が作った家というのは木材やレンガなどを素材にしているのにもかかわらず俺の想像したものがそのまま再現された。俺は試すつもりで壁の一部分を作り直してみることにする。そして俺は作り直した場所の部分を『魔光剣』を使って切断しようとするが、上手く切れない。やはり、この世界に存在するものでないものを作り出すことは不可能なのかもしれない。だが俺の【聖魔術】なら可能なはずだと俺は考えたのである。俺は早速【聖魔術】を使用してみることにした。

そして【聖魔術】の『聖癒』を使用すると壁が崩れてしまったのである。まさかとは思ったが俺が壊してしまったので仕方なく元の状態に戻すために『聖癒』を使う。そして今度は壊れることなく綺麗に復元できた。俺はもしかしたらと思った。なぜなら、俺が最初に家を作った時にイメージしたのは元の世界でも存在するような普通の壁や柱だったのだ。それをこの世界で俺が創造できるものはこの世界の物であっても『聖魔術』の効果で自由に作成可能となるということではないだろうか。俺はそう考えてから、家全体をもう一度『聖癒』の力で作り直してみた。だがさすがに一箇所だけの修理では俺が作り出したものがすべて元に戻るわけではないようで家全体がそのままの状態である。だがこれで分かったことがあるのだ。

つまりこの『世界の法則を超えた存在』の力とは俺が生み出したり俺が所有しているものや俺の知識の中に存在する物体に対して俺の意思次第で自由に変形したり形状を変化させたりする力だということだ。これがあれば、もし家が全壊しても『魔聖剣術』を使用し『魔聖剣』を発動すれば俺がこの世界に来てすぐに作った家と同じようなものを簡単に作ることができるかもしれない。俺はそのことを確認することができて嬉しかったのである。だからこの力を有効活用する方法を見つけ出すことができれば俺はさらに強くなれるのではないかと俺は考え始めた。

そこで俺は一度休憩を兼ねて昼食を取ることにする。今日の料理は猪の肉を使った焼肉と、サラダ、スープにしようと思っている。そして出来上がったものを食べ始めることにした。するとなぜか【救世主】のアブレイムちゃんが興味津々と言った様子で俺の方を見ていることに気付く。俺は何か用があるのかと思って聞いてみることにした。すると、なんでも【救世主】たちは食事をほとんど取らないらしいのである。だから【救世主】のみんなで集まる時には俺のように誰かと一緒にご飯を食べるという習慣はないそうだ。

まあ、それは仕方ないことだろう。食事が必要なければ俺も特に食べたいと思ったこともないし今まで必要性を感じなかったのだ。しかし目の前にいるアブレイムちゃんは明らかに食事を欲している。それなのに仲間外れにして一緒に食べられないのもなんだか可哀想だと思い俺の作った食事に興味のある人にも分け与えてあげようという結論に達したのだ。俺の考えを理解できなかったのかアブレイダちゃんは「なんで?」と呟く。そして首を傾げるのである。どうやら彼女は、自分が食べられることが当たり前過ぎているためなのか俺の言うことの意味がよく分からないようである。

俺は説明のために彼女のことを抱きしめてから頭を撫でる。それから【救世主】の仲間になったお祝いということで俺が作ったものを分け与えようと伝えたのである。するとアブレイダちゃんは嬉しそうに笑顔で抱きついてくる。俺は彼女を優しく撫でた。

「わぁ、嬉しいです! 私にそんな素敵なご馳走をくれるなんて!」そう嬉しそうな表情で言うので俺は笑ってしまった。それから俺たちは仲良く昼食を共にしたのであった。それからしばらくして、再び家の中に入り作業を始める。

家の中に『魔光剣』で作った椅子を並べていきその上にクッションを乗せる。そうすることで俺は座布団代わりになるだろうと考えたのである。また、床にはカーペットを敷いてからその上に座ってもらったほうが疲れないだろうと俺は判断したのである。

そして次は『魔光剣』を使い大きなソファーを作っていく。もちろん、俺はソファーというものを見たことがないためイメージが重要になるだろうと考えた。まず俺は背もたれのないベッドみたいな形をした大きめの丸いテーブルをイメージしてみた。これはかなり適当なものだった。次に俺が思い浮かべたのは高級感のある革製のものである。そして、最後に俺が一番最初にイメージしたのはふかふかとした触り心地がいいものだ。俺のイメージ通りになれば良いと願いつつ、俺は魔力を注ぎ込む。

【聖魔術】で家具類を作り出しても、【救世主】たちのような『世界の法則を超えた存在』は『魔聖剣』で作り出した武器や防具などと同じく【魔剣士】が作り出した道具の効力を得ることができるのだろう。

そう考えた上で俺は、【救世主】たちが俺の家の中で俺が【救世主】たちを攻撃できる武器を作るということができないように対策を取っておいたのだった。

【救世主】たちの『世界の法則を超えた能力』は『聖魔術』の【聖癒】を『魔聖剣』に付与できる。そのため、その『魔聖剣』で作り出した武器は【救世主】たちも使用できるはずだ。

だが、『聖魔の剣』で作り出したものは、武器だけではなく『聖魔剣』も俺の【魔剣士】としての固有技能である【魔剣士】が使えなくなってしまうので、そもそも使えないのだった。だが【救世主】の連中にはその辺りの情報を伝えていないので問題にはならないだろう。俺は【救世主】を撃退するための策を考えたのだった。そして俺は【救世主】たちを倒すためにも自分の家を守るためにも必要なものを用意するために作業をすることに決めたのである。

そうしてしばらく俺は家の外で『聖魔の剣』を使って家の中に敷くマットレスを作ったりしながら家の補強をすることにする。それから、俺はあることに気づいた。そう、俺は家の建築で大量の『木材』を使っている。しかし、木材は腐ってしまうし家を建てるときに大量に必要になってしまったからと言って放置しておくこともできないのだ。だから俺が『木材』を全て回収しようと思うと家を壊して材料を全部回収する必要がある。そうなると、今住んでいる家はどうなるのかという問題があった。だが俺は家を作り直すことが可能なので大きな問題ではないように思える。ただ、問題は木材の量が尋常じゃないほど多くなってしまったことだ。しかも【救世主】の【救世主の証】の能力である【全自動増築】のおかげで勝手にどんどん家が広がっていく。このままだと【救世主】が【救世主】のためだけに用意した豪邸みたいになってしまいそうなくらいに家が巨大化しているのが現状なのだ。

そして俺は、家の中に俺が『魔光剣』を使って作り上げた巨大なテーブルを置いてみることにした。ただ、これだけのサイズのものをこの異世界で作れるか心配だったが、どうにか完成した。この家には俺が今までに作ったもの以外にも色々と家具がたくさんあるのでそれを収納していた『魔聖剣』も取り出し使うことに決める。

【魔聖剣術】によって俺の持っているスキルや装備も使えるのだが【救世主】に通用するレベルにまで鍛える必要があるかもしれないと考え直したので『聖魔の杖』、『聖なる指輪』、『神眼の鎧』、『魔導書』『聖盾』などのアイテムも使用することに決めたのだ。

そうして全ての装備を身に付けることで俺の身体に力がみなぎってきた。そして俺は家の周りを見渡すが俺が作ったものは俺の『魔聖剣』の範囲内に入っているものの外にある『魔聖剣』で作成したものは範囲外に存在していた。だからこの世界の法則では家の周りに俺が作っていない物が存在するということになってしまうはずだと思い確認するために家の外へ出たのである。そして案の定と言うべきか、この森の植物たちは『聖魔術』による影響を受けないようだった。俺はそれが分かり少しだけ嬉しく感じてしまった。

そしてこの世界の植物の生命力が強いことは知っていたのでこの木を使って家を強化することを考えていたのである。

「よっし、こんなもんだろ」

俺はそう言って一仕事終えたとでもいうような気分になり額の汗を拭った。そして俺は改めて家の方に振り返り家を見る。この世界の素材で家を修復することは無理だろうと思ったので家自体に強化を施したのだ。家全体を【聖魔術】を使用して強靭化させていく。

俺の家は完全に壊れているわけでもなかったしそこまで酷い破損があったわけではないが。念には念を入れるべきだろうと思ったのだ。この家に元々存在した壁なども再利用しようと考えて、俺は家の外壁の一部分を切り取ってから『魔光剣』で切り取った部分を切断する。そして壁は崩れることなくそのままの状態を保ったのである。そして俺が作り出すことができるものにはすべて【聖癒】を使用することで、壁や柱や床などを修復していったのである。その結果、見た目的には完全に新築同然となった俺の住む家が出来上がったのである。

こうして、この世界での生活に必要な拠点が完成したのであった。そこで俺は【救世主】の気配を探ることにする。どうせ、奴らはこの周辺にいるに違いないと確信していた。なぜなら、この場所は【救世主の楽園】というダンジョンがある場所だ。それ故に多くのモンスターがいる場所である。つまり、モンスターの生息する地域の中でもかなり危険地帯の部類に入るのではないだろうか。

まあそれは俺が【魔剣士】だからそう考えるのかもしれない。他の種族にとってはここはかなり安全で住みやすい場所にしかならないだろうからな。そんな風に思いながら【救世主】の捜索を開始したのである。するとすぐに【救世主】を発見した。そして【救世主】が【救世主】の仲間と一緒に歩いていたのだ。

「あ、信司さんこんにちはー! って、なんか随分変わった格好ですね! なんだか、前よりもちょっと派手になった気がしますけど」と、アブレイムちゃんが言うので俺は思わず「そうか?」と聞き返してしまったのである。確かに言われてみればアブレイダちゃんは前に会った時に比べてさらに露出が多くなっているようだった。前は白い服に赤いラインが入ったものだったと思う。だが今の服装は青いワンピースのようなものを着ていて肩と腕が丸見えになっているしスカート丈も短くなっていたのだ。俺はアブレイダちゃんの太股に視線がいってしまいそうになるのを抑えながらアブレイダちゃんを見つめる。彼女は「うわぁ、やっぱり気付いてくれましたか?!」と笑顔で言うのだ。どうやら彼女は前の服を着ていたことを忘れてしまっていたようである。そして俺の反応を見て満足げにしていた。俺とアブレイダちゃんの会話を聞いて【救世主】たちは俺の服装が変わってしまったことが理解できなかったようで不思議そうに俺のことを見ながら「お前誰?」「見たことのない人間じゃね?」などと口々に言っている。

「え、なんで私たちのことを知ってるようなことを!? なんですかこれ! 私たちは何もしていないのになんでこんなところに来ちゃったんですか!」

そう【救世主】たちが困惑し、混乱しながら言ったことで俺の存在を認識したらしい【救世主】たちが集まってきた。その中には以前、【魔剣士】になったばかりの時に殺したはずのあの男がいることにも俺は気づくのであった。

【救世主】たちが、【魔剣士】に転生したばかりの俺に戦いを挑んできたので返り討ちにした。その時に殺さずに捕らえておくべきだったのかはわからないが、結局は死んでしまい【救世主】として蘇っていたから殺すしかなかったのである。

だがその男の名前は【救世主】たちが勝手に決めたものだと思っていたが実は違ったらしくて、【救世主】たちもその事実には驚いていた。そして【救世主】がなぜここに俺たちがやってきたかの説明をする。そして説明を聞いたあとで【救世主】たちもようやく状況を理解してくれたようだ。そして【救世主】たちは自分たちをこの世界に連れてきてくれた存在である女神様のことを話し始めたのである。

俺が彼女たちの話を聞く中で、俺はあることに気づく。そして俺は彼女達を家へと案内することにした。そして家の中でお茶を出す。すると、当然のように全員が飲もうとしたがそれを止めたのだった。その理由はもちろんある。

それは『魔剣士』である俺の『魔聖剣』が【救世主】たちにも使用できるからだ。そして『魔聖剣』の能力を俺と同じように使用できる以上、『聖剣』もまた【救世主】たちも使用できる可能性が高くなってしまう。そのため俺は全員を【魔聖剣】で攻撃することだけは止めようとしたのである。

俺は【魔剣士】になって最初にやったことを思い出す。そう、自分のレベルを上げておきたいと思った俺はとりあえず一番レベルの低い【聖剣使い】の男を倒すことにした。その男は俺に向かって攻撃してきたので、まず俺はそいつの腕に剣を振り下ろした。その途端に相手はすぐに動かなくなり地面に倒れてしまう。だがその時に相手の体には傷は一つもなかった。

それから俺は次々と男たちを倒していき最終的に残ったのはリーダーの『聖騎士』と副団長のような存在だった【魔聖剣】を持った『魔剣士』だった。俺はその2人の実力を測りかねていたのである。しかし俺の直感が、こいつは危険だと告げていたのだ。

だが俺の【魔聖剣術】で強化された剣を簡単に弾いてしまったのである。

「くくく、貴様の持っている『聖魔剣』の力はその程度なのか? どうせ大した強さじゃないんだろうな! だが私はそんな雑魚とは格が違うんだ! さあ私の本当の力を見せてやるぜぇ!!!」

俺はその【聖魔剣士】が持っている【聖魔刀】の能力が厄介だと感じていたが、それよりも【魔聖剣】での攻撃なら倒せるのではないかと思って【魔聖剣】に力を込めた一撃で相手を斬りつけようとした。しかしその攻撃が相手に当たらなかったのである。まるで、相手が俺の斬撃の軌道を完全に読んでいたかのように回避されてしまったのだ。それに【魔聖剣】は確かに切れ味は良いが威力はそれほどないはずだ。それなのに【魔聖剣士】にはほとんどダメージを受けた様子はなかったのである。そして、俺が戸惑っている隙をつかれて俺も【魔聖剣】を奪われてしまったのだ。

その時に初めてわかったことがある。『魔剣士』のレベルが上がると、剣や防具などの性能も上昇するのだ。俺は『魔剣士』になってから今まで『聖魔剣』にずっと頼ってきていたためそのことを失念していたのである。

それから俺は【救世主】たちから【魔剣】を奪うのをやめた。

俺の予想が正しければ『魔剣士』から奪った【聖武器】よりも【救世主】から奪う【聖器】の方が性能は上だ。それに加えてこの世界の生物は【救世主】たち以外には基本的にレベルが低いし俺にとってはレベル差は関係なくなる。そうして俺は、この場で戦うことは不利だと思いすぐに逃げ出した。

【救世主】たちと出会ってからは俺はひたすら【救世主】たちを【魔聖剣術】で鍛え上げた。俺自身もレベル上げを頑張っていたのだが、やはり俺ではレベルを上げる速度が圧倒的に足りなかったのだ。俺もレベルを上げつつこの世界の人たちの手助けをしながら【救世主】を育て上げることにしたのである。

俺が育ててきた【救世主】たちは俺がこの世界に来た時と比べて格段に強くなり俺よりも強くなっていた。【救世主】たちの成長速度に俺の想像を超えており俺自身驚きながらも感心してしまうほどだ。

「あ、あれ!? 私こんなに強くなったっけ!? 信司さんって一体何者なんですか!?」とアブレイダちゃんが驚いている。そして俺は彼女に答える。「ああ、俺が教えてるからそりゃ強くなるだろう。俺の場合は【魔聖剣】っていう【救世主】でも使える特別な装備のおかげもあるけどな」と言うと【救世主】たちが納得してくれたのである。そして【救世主】たちはこの世界の人間に【聖癒術】を使って【回復】することができるようになった。それによってこの世界に存在している【勇者候補】と呼ばれる者たちの戦力を大きく上昇させることにも成功したのである。そして俺はついに、あの【魔王】を倒す準備が整い始めていたのであった。だがまだ俺の力は全然弱い。俺はもっと強くなり、そして【魔族領域】に行くことを決意したのである。俺の目的はこの世界を元通りにしそして元の俺のいた世界に戻ることだ。だから俺は今のうちにできることはできるだけやるべきだと考えたのである。

そして俺は家から出て行く。この世界に来るときに使った【異世界転移の扉】という魔法が使えないかどうかを確認に向かったのであった。

この世界で俺はレベルを上げて強くなっているので他のモンスターに殺されそうになってもすぐに死ぬということはないだろう。だからと言って無防備のまま森の中に入るようなことをするつもりはない。俺にはまだ『魔銃』と、そして新たに手に入れた能力である『魔銃召喚』がある。

そして俺が新たに手にした新たな能力は【魔導弓士】のアブレイダちゃんが持つ【精霊の矢】と同じ種類のもので、魔力を消費する代わりに、通常の弓矢よりも大きなダメージを与えることができる『魔装』という特殊な弓矢を生み出すことができるというものらしい。しかも消費するMPがかなり抑えられる。これは普通の弓矢の場合でも同じだったりする。ただしこの効果はアブレイダちゃんの持つ『精霊の矢』のそれとは全く違う効果になっているらしい。つまりは俺は【魔聖剣術】を使うのと同じように魔力を込めることで【魔魔銃】も使うことができている。俺はアブレイダちゃんに使い方を聞き出しておいたので問題なく使用できるようだ。なので俺は【救世主】たちを連れて【魔王】を倒すために行動を開始することになった。

【魔の森】の最奥に存在するとされるダンジョン。俺は【救世主】たちを引き連れてそこへ向かっていた。俺の現在のステータスを確認しておくとこうなる。

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桐島 信司(人間)

LV1

体力:10500/10800

魔力 :9900/9800

攻撃力 :7100

物理防御力 :6700

魔術的素養力 :5600

敏捷 :5200

幸運 :4700 スキル詳細 【魔剣士LV15MAX】.【救世主】固有 【魔聖剣術LV16】【救世主の恩恵LV17】【聖魔剣技LV13】【魔剣士技LV11】

【救世主固有スキルLV18】【全属性耐性】【状態異常無効】【言語理解】【経験値増加】【完全鑑定】【魔聖武具収納】【勇者特権】

称号

『勇者』

【魔剣王】【救世主殺し】【龍を狩るもの】【聖者を殺めし者】

特殊称号

『聖剣の申し子』

【救世主】【救世神】【世界の声】

『救世主候補』

職業

『魔剣士』

所属 なし

『魔剣の魔剣士』

貢献度 102P 獲得P 3万1260P 【聖魔剣の魔剣士】

【救世主の救世主】

加護 +【救世主の神域】により獲得した【女神の加護+】

『魔剣の王』『魔聖剣の主』

*【救世主の神の使徒】

『魔剣王の加護』

【聖剣の魔剣】【救世主殺し】

《所持聖剣》

『救世主の救済』

《所有魔剣》 【魔聖剣エクゼキューション】【魔魔剣エクセレントバスター】【魔魔剣エンプレスブレイク】【魔聖剣ソードマスター】【聖魔聖剣エクスブレード】【魔魔聖剣カオスエッジ】

『救世主の聖槍』【救世主の希望】【聖盾の天使】

『魔銃の魔銃王』【救世主の救世主】【魔剣士の極致】【救世主の英雄】〈レベル限界突破付与完了〉 【超英雄】【救世主の守護者】

《装備欄》

『魔剣王』×『魔剣王』【聖魔聖剣エクスブレイド改】【魔聖剣ダークネスインパクト】

『魔剣の魔剣士』専用武器『魔魔剣キング』

《【魔聖剣エクゼキューション】》

☆通常能力 HP 9000/9000 MP 7000/5000 攻撃 7100 物理防御力 5400 魔術防御 4300 敏捷 6700 幸運 4000

☆固有特殊能力 【救世主の救世主】.【世界の声】【魔聖剣召喚】【魔剣聖】【救世主の導き】☆固有特殊能力【魔聖剣術LV20MAX】.【救世主の奇跡】

【魔魔剣術】.【救世主の導き】

【救世主の癒し手】【救世主の加護】

☆必殺技 【真救世主伝説】

【救世主の覚醒】【聖剣合体技 魔聖剣融合】

【救世主の最終剣聖撃】

『救世主の試練』

☆【魔剣聖】【救世主の剣聖】【救世主の英雄】【世界を救うもの】.【剣を極めし者】【武を極めし者】.【救世をなせしめし者】〈レベル限界突破が付与されています〉

☆【魔剣王】【魔剣聖】【救世主の剣聖】【救世主の救世主】

【魔聖剣】と『魔剣の魔剣士』が『魔魔剣』になる際に、それぞれ魔聖剣が進化した。その力は以前の比ではない程に大きくパワーアップしているらしい。

『魔剣』と『魔剣の魔剣士』の両方が進化して、さらに俺が今まで持っていた聖魔武器は、全てこの『魔魔剣』に合体することができるようになり合体させることで聖魔聖武器となる。これによって、この【魔魔剣】は【魔魔聖剣 エクゼキュレイター】という名前になった。俺もそう呼んでいたがどうやら正式名称だったようだ。ちなみに俺の持っている聖魔聖剣は聖魔剣から魔聖聖剣になっている。これも聖魔聖剣にすることで名前が変わり魔聖魔聖剣となった。これは合体させる順番を変えることで使い分けることが可能だという。俺も実際に試したわけでないのでよくわかっていないがこのあたりもおいおい試すつもりだ。

そして『魔魔剣の魔剣士』のステータスを確認すると、レベルの上限が25から75まで上がっており、さらには【魔剣の魔剣士】が新しく得たスキルの『救世主の剣技』というものがあったのでそれを確認してみることにした。

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【救世主の剣技】:この世界に存在する『勇者』のスキルと全く同じスキルを使用できる。またこの世界にいる『救世主』から指導を受けることによって『勇者』と同じレベルの能力を得ることができるようになる。ただし『勇者』のように【救世主補正】と【女神の加護++】を受けることができない。この効果はこのスキル所有者が死ぬと消滅する。

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これってどういうことなんだ? 俺は【勇者】のスキルは『救世主』には使えないということか。だが俺は【救世主】であるアブレイダちゃんに教えてもらった通りにやってみたのだ。するとなんと本当に俺が使えるようになったのである。しかも、なんでか分からないけど【勇者】のレベルが一気に50以上も上がった。

「あー! 信司さんだけズルイです。アブレイダも教えて下さい」

と妹が駄々こねていたのは可愛かったので俺は頭を撫でながら優しく教えてあげたのである。それから俺たちが森の中に進んでいくとその先には【魔王】が作り出したダンジョンが存在していたのであった。俺は【魔王】が作り上げたダンジョンを目の前にして呆気にとられていた。こんな簡単に見つけることができてしまうなんて思ってもいなかった。俺が呆然と突っ立っていると後ろにいたアブレイダちゃんたちが不思議そうな顔をしていた。そう言えば、アブレイダちゃんたちはここに入るのが初めてだった。なのでこの中にどんな敵がいるのかはわからないはずなのだ。俺は彼女たちに中に入るとモンスターが大量にいることを注意しておく。アブレイダちゃんたちは顔色を悪くさせながら怯えていたが俺はその心配はないと言ってあげる。俺は早速『魔魔剣』を召喚してそれを使って戦おうと考えていた。そこで気が付いたのだが今の俺の職業が魔剣の王になっていることに俺は気が付いていない。だからなのか知らないけど俺のステータス画面を覗き見してきた【救世主の使徒】の一人である少女のユナちゃんが何で驚いているんだろうといった感じの顔をしていたのに俺はこの時初めて知った。そのことについては後から話そうと思う。とにかく俺はダンジョンの中に足を踏み入れることにしたのである。そして中に入った瞬間に俺は自分のステータス画面に違和感を感じてしまった。俺のステータス画面を見て俺は絶句してしまった。

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桐島 信司(人間)

LV100

体力:10000/100000

魔力 :1000000/1000000

攻撃力 :1000000

物理防御力 :10500

魔術的素養力 :1000000

敏捷 :100

幸運 :103 【魔剣王】【魔聖剣の王】【魔聖剣の勇者】【魔剣聖】【魔魔剣の主】【救世主の救世主】

【魔聖剣召喚】【魔剣融合】【魔剣解放】【救世主の剣技】

特殊職業

『救世主の使徒』

称号

『魔聖剣の主』

貢献ポイント 100万

『救世の勇者』

『魔剣王の救世主』

『魔聖剣の魔剣士』

【聖魔剣王】

加護 +【女神の加護+】により獲得した『聖女神の加護』

『聖盾の女神』

*『魔魔聖剣召喚士』.『救世主の使徒』.『魔剣王の救世主』.『魔聖剣の救世主』〈レベルアップ時の上昇ボーナスアップ〉〈HPが0になっても死亡しない〉.『聖盾の天使』〈【超盾聖】の効果強化 【盾聖】の習得条件 取得 レベル限界突破 盾職のレベル限界が撤廃されました〉 《【超盾聖】の効果が進化しました。》

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何が起こったのか分からないがとりあえず『聖魔剣』の能力を確認していくことにした。まず最初に確認できたのが、この武器の名前は『魔魔聖剣 エクゼキューション』になっていた。つまり【救世主の聖剣】が魔魔聖剣になって【魔魔聖剣エクゼキューション】に変わったということである。次に【魔剣の魔剣士】の固有能力として、【救世主の剣聖】と、【救世主の英雄】というのが新たに手に入れていたのでそちらも説明を読んでいく。

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『救世主の剣聖』.【聖女剣】と、【聖女騎士】と、【救世主の英雄】の3つの職業が統合されたことによって手に入れることができた職業であり、【剣聖】と同等の能力を得られる。【剣聖】と違って『救世主補正』と『救世主の加護』が受けることはできない。

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『救世主の英雄』.レベルの限界を突破することで【救世主の加護】を取得することができ、『英雄』の全ての能力を使用することができる。【救世主補正】と【救世主の加護】を同時に受けることができるようになる。

この二つの効果を得ると『救世主の剣聖』よりもさらに強力な職業となる。

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『聖魔剣エクゼキューション』は【魔魔聖剣】からさらに進化したのだろうと思われるがこの『救世主の剣聖』と『救世主英雄』というのはどうも俺にぴったりのものだった。なぜなら俺の持っている『魔剣』は全部この剣と融合した時に進化して【聖魔剣】という上位の剣となっているからだ。だからなのだろうか、俺の持つ武器はこの剣一本だけになった。俺は改めて自分が手にしている聖魔剣を見る。『救世主の剣聖』は、銀色で刃渡りが150センチほどある片手剣だ。『救世主の英雄』はその対になっていて同じく150センチほどで鍔のない両手持ちの直剣だ。柄の部分は白と金の2色のツートンカラーになっている。俺が聖魔剣に魔力を注ぐと聖剣の時のように光の粒子となって消えることはなくしっかりと形を残していた。

「さてと。そろそろいいかな?」

俺はそう言うとこのダンジョンにいるボスらしき巨大なドラゴンに向けて走り出す。俺はこの『救世主の英雄』の力を使いながら、スキルをいくつか使ってみることにする。まず最初に使ったのが『魔聖剣術』で、その能力は『魔聖剣』と『魔聖剣』を使うときに使う【救世主補正】と【救世主の加護】、そしてこの『救世主の剣聖』がレベル限界突破というのが付いているせいか、今まで使っていた【剣聖】の力が格段に上がっていた。

『魔魔聖剣 エクゼキューション』は【魔魔聖剣エクゼキュージョン】になったのだが俺が持つ聖魔聖剣エクゼキュレイターと合体させることで【聖魔聖剣エクゼキュレイター】となったのだ。そして合体させると【魔魔聖剣エクゼキュレイター+】となった。合体して変わったことといえば見た目での変化はなかった。

合体させてみたけど別になんとも変化はなかったので、俺はすぐに解除する。すると今度は『魔聖剣術』を合体させるのに、合体させたい武器に触れながらスキルを発動して、そして合体というキーワードを唱えるだけなのでかなり簡単であることがわかった。そしてもう一つ『救世主の加護』について分かったことだがこの【救世主の剣聖】が【救世主の加護】を受けている状態で【救世主】にジョブチェンジした場合に『勇者補正』という能力を獲得することができるようだ。これは俺の予想では【救世主】から【勇者】へジョブチェンしたときにもらえる能力ではないかと思う。【救世主】に【勇者】になる為に必要な条件とかが不明だったのでこのスキルがあればそのあたりはなんとかなりそうだ。

それからもう一つの【救世主補正】は『女神の加護』を更に強めにしたものだと思われた。

「ふっ。はぁあああ!」

俺の気合の乗った声とともに『魔魔聖剣 エクスキューション+』に纏わせた光る白い光が輝きを増して巨大で禍々しいオーラを放った龍に向かっていき、そしてそれを斬ると、その黒い巨体を一刀両断にしてしまったのである。その結果、真っ二つに分かれた身体が左右にズレて地面に落ちていったのだった。すると目の前に宝箱が現れてその中には金貨と銀細工が施された短杖と小ぶりでシンプルな金色の剣があった。俺はその剣を拾い上げて鑑定をしてみる。

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名前:【聖なる神剣

アルデモンブレイド レア度:SS級

付与:聖】

攻撃力:S

属性:聖/聖/火/聖

説明:この世でもっとも神聖な力を秘めた神剣の一つ。

鞘に収めた状態でも常に浄化されているのと変わらない。

使用者は傷つくことはない。

===

俺がこれを見た瞬間に嫌な予感を感じ取った。しかし俺の手は自然とその剣を抜いてしまいそしてその剣を天にかざしていた。その途端にその剣がまばゆいばかりに白く輝くと空へと伸びていき上空にある雲を切り裂いてそこから太陽が顔を出す。

俺の全身がまるで何かに押し潰されたかのような衝撃を受け俺はその場から吹き飛ばされてしまう。俺が何とか起き上がろうとすると俺のステータス画面の加護の欄に新しく『女神アルテア』という名前が増えていた。それは俺が初めて倒した敵を倒したときに表示される画面にあった【救世の勇者】という称号の横に書かれていたものと同じである。

【救世の使徒】の称号を得た俺はその日を境に自分の力を強化することに集中したのであった。俺は強くなるためにひたすらモンスターを倒して経験値を得て、自分のステータス画面を開いてレベルを上げたり新しいスキルを習得したりしていた。

そんな感じに毎日を過ごしていて1年が過ぎ去りもうそろそろ夏休みに入るという頃合いの季節になっていた。俺は学校が休みに入ってからも変わらず『救世の使徒』として戦っていたのだった。そんなある日、いつもと同じように家を出て学校へと向かう途中、交差点の前で信号待ちをしていたら、後ろから俺の名前を呼ぶ女性の声が聞こえたので振り返ってみてみるとそこにいたのはこの辺りじゃ見かけないくらいの美人がこちらに手を振りながら歩いてきたのである。そして俺の隣まで来るとその女性は笑顔を見せてきた。

彼女は『高城 彩音』と言って同じクラスであり隣の席になった人なのだが実はこの『高城 彩』というのは彼女の偽名らしい。というのも彼女は本当はどこかの財閥のお嬢様であり、その関係で様々な秘密があるようだったのだが俺と初めて話してからよく話をするようになり仲が良くなったのでこうして時々話すようになったのである。そして俺は今日もまた彼女に呼ばれて喫茶店にやってきたのだった。

そこでコーヒーを飲みながら彼女としばらく雑談をしていると、突然彼女は何かを言いかけたような素振りを見せた後急に立ちあがってしまう。その事に少し疑問を持ったのだけど俺は特に気にせずにコーヒーのおかわりでも頼んでおくことにした。それからまたしばらくして俺が注文したケーキがテーブルに置かれる。するとなぜかそれを食べ始める前に彼女が真剣な顔をしてこちらを見つめているのに気づいてしまう。

「どうしました? なにか用事ですか?」

俺は不思議に思って訊ねてみた。

「えっとですね。今朝も言いましたように、私の家は色々と複雑な事情を抱えておりましてですね。私はあまり学校に行っていないんです。それで、この事は誰にも言わないでください。お願いします」

どうやら学校でほとんどいない理由はこのあたりの家の問題が原因だったみたいだ。そして俺はとりあえず納得するとそのことを彼女に伝えたのである。その後、俺はケーキを一口食べてみる。すると今まで味わったことがないくらいに絶品だったので思わず言葉を失ってしまったのであった。俺の様子に気づいたのか高城はクスッと笑っている。俺は恥ずかしくなって急いでコーヒーを飲む。そして照れ隠しの為に俺は話題を変えることにして、最近、魔物を倒すために山奥に入っていくと強い魔族がいるというのを聞いていたのでその事を聞くと。

「それは多分、魔将ですよ。確か魔王軍の四魔将軍の一人で最強の力を持つと言われている存在で私も噂を聞いただけですから詳しいことは分かりませんけど。それと魔将軍は普通の人間とは強さの次元が違うと聞いています。それに彼らはそれぞれ違う国に属していますから倒すのは厳しいかもしれません。ですから関わらないようにするのがいいと思いますよ。もし関わっても絶対に一人では挑まないで仲間と一緒に行くべきでしょうね。あなたならきっと大丈夫だと思うのですが油断だけはしないようにして下さい。そして無事に帰ってきてくださいね」俺は魔族のことについてもっと詳しく聞こうと思ったのだが、これ以上は言えないと言われてしまった。そして彼女は伝票を持って支払いを済ませると、最後に別れの挨拶を告げて店を去っていったのである。

俺はそのまま何となく学校に行かずに帰る気にもなれずに、街の中をあてもなく彷徨い歩いている。すると目の前を歩く一人の女性が目に入った。その女性を見ていると何故か懐かしい気がしてくる。

そして俺はその女性に声をかけることに決めたのだった。俺は彼女に近づいて声を掛けると。「ん? 君は誰だい?」と返事をしてきたので、俺はその声を聴いて驚きのあまりに固まってしまっていた。だってそれは聞き覚えのある声だったのだから。

「あれ? もしかして知り合いかな?」

「い、いえ。初対面だとおもいま、思いますけど。お名前を聞かせていただけませんか?」

「ふーん。そうかい、あたしはレイナだよ。君はいったいなんなんだ?」

そう、彼女は俺の妹の『高宮 美桜』で俺よりも一つ上の15歳だった。そしてこの世界での記憶がないので俺は、この子が元いた世界から来たのではと一瞬思ったのだったが、そもそも俺達がいた世界とは違う世界のようだ。

レイナは妹である。俺が中学生の頃に異世界へ召喚されて行方不明になっていたはずなのだがどういう訳か俺がこっちの世界に戻ってきたと同時に、この子もこの異世界へ戻ってきて、そしてなぜか記憶を失っていた。そして偶然なのか俺と再会を果たしたわけだがまさかこんな場所で再開するとは思っていなくてかなり動揺している。ただ俺が妹のことを忘れてしまっている設定にしている以上、何も知らない体で接するしかないだろうと思い俺は彼女の質問には答えなかった。

そして適当に話をすると彼女はこの近くにあるという学園に通っている学生らしくその途中で迷ってしまったのだと言う。なので道案内をするということで一緒にその学園まで歩いていくことにする。その途中レイナになぜこの近くにいたのかを聞いてみるが分からないとのこと。どうもレイナは学園に行く途中にいきなりこの場所にいたのだというのだ。しかもここが何処かもわからないというのである。その事がとても不安な様子だったので仕方がなしにこの周辺を散策してこの付近をうろついているであろうモンスターを倒しながら家へ帰るまでの時間を稼いでやると言ってみると嬉しかったようで「ありがとう!」と言って俺に抱きついてくる。

それから二人で歩き始めて数分後にレイナが俺をチラチラと見てきて落ち着かない様子を見せる。何か俺に言いたいことがあるのかもしれないので「どうかしたのか?」と問いかけると、「あのさ、ちょっと寄り道していかないか?」といってきたのである。その提案に少し考える素振りをしてみるが、どうせこのまま真っ直ぐに帰ればすぐに夜になるし。そうなる前にモンスターを狩っておいたほうが楽だと思って賛成する。

そして街を離れて人気のない場所に来るとレイナが突然に剣を抜いてこちらに向けてきたのだった。そして剣を構えながらこちらの様子を伺ってくるので。俺はどうして攻撃されたのかわからず、そしてレイナに話しかけようとしたところで俺はある事に気づいたのである。それは目の前にいるレイナの表情が険しくなっていたからだ。そしてその理由を察知できた俺は何も考えないことにした。俺は彼女の視線に射抜かれながらも無反応を貫くことにしてそのまま立ち続ける。

「君からは何の魔力も感じないし本当に何者なんだよ! 私はずっと警戒していたというのにそれでも君のことが分からなかったんだからな!!」

どうやら俺は彼女には俺の正体を隠せたようである。それにしても俺はそんなに怪しいオーラを出しているのだろうかと思うと、少しだけショックであったのだが。まあそういう事ならこちらとしても好都合だと考えることにした。レイナは剣を構えるとその構えたままでいるが、どうすればいいか困った顔をしていて隙だらけになっている。なのでとりあえず一撃を加えて気絶させることにしたのである。そして俺は容赦なく全力で腹に拳を叩き込んでやった。するとその威力に吹き飛ばされた彼女がそのまま木にぶつかって倒れてしまう。俺はそんな彼女に近づいていき手加減抜きに頭を殴りつけた。すると頭に強い衝撃を受けたからか、彼女は目を回しその場に倒れたのだった。

俺はそこで彼女が気絶してしまったのを確認してから、まずは彼女を拘束しておいて放置する事にした。次に周囲にモンスターがいないかを確認したのである。どうやら近くに敵はいなかったようなので俺はその場から移動することにした。とりあえず近くの町へ向かうとしよう。そこで冒険者になってお金を稼ぐという目標を立てた俺は早速、モンスター退治をするために森へと向かうのだった。俺はそこに向かう最中、レイナについて考えていた。

この子は一体どこから現れたのだろうと、どう考えても彼女はこの世界の住人だと思われる。なのに彼女はこの世界にはいないはずである。しかし、この子の持っている『聖剣』という武器は明らかに俺のアイテムボックスの中に入っている【救世の使徒】という称号を得る為の試練の報酬であった【救世の使徒】の専用スキルの一つである【勇者の加護】と同じ能力を持っている。それに、俺が手に入れたこのスキルも、この子も持っているこの『聖剣』という武器。これらを見る限り、おそらく彼女は俺の妹であり、何らかの理由でこの世界へと戻って来たのではないかと推測できる。だが、問題はそれだけではない。彼女が持っていた俺に対する態度がおかしかったのも気になるのだ。俺はこの世界に戻る直前、美月が「お兄ちゃんが帰ってきたら教えてあげる」と言っていたのでその事を話していたのである。その時の彼女は「わかった。絶対に見つけてみせるから」と真剣な顔で言っていた。それを考えるとやはり、何かあったのか? とも思えるのだけど俺には美月に何をしたのかさっぱり思い出せなかった。そして結局、この疑問に関しては俺に分かるわけもなく考えるのをやめる事にする。

そして俺はそれからしばらく歩く事にした。

森の中は結構入り組んでいる上に、危険な動物が生息していることもある。俺はそういったものを警戒しながら奥地へと進んでいくのだった。そしてある程度進むと俺はようやくモンスターを発見したのである。そいつは熊のような見た目をしているのだがどうもサイズが大きいようだった。体長が2メートル以上もあるのだから。

しかし俺は全く恐怖することなく、むしろ戦えそうな相手を見つけて嬉しく思ってしまうくらいだったのだが。俺が喜んでいたら、突如、熊型の魔獣の目が紅く輝いたのである。俺が驚いていると突然、その巨体が地面を思いっきり踏み込むようにしてこちらに向かって走り出して来た。その速度は凄まじいものであり、俺が今まで出会ったどんな魔獣よりも速かったのである。俺は何とか回避に成功したものの、奴はそのまま直進していき木々を吹き飛ばしながら突き進んでいた。そして俺は、このまま逃げても無駄だと思い覚悟を決めると、戦闘態勢に入るのである。

そして俺は熊型の魔獣に攻撃を仕掛けるべく、奴の背後をとることに成功したのである。

俺はまず足を狙って斬りかかったのだが、それは難なく避けられてしまった。

そして奴が振り向きざまに攻撃をしてきたが、それはバックステップすることでなんとか避けきることに成功していた。それからも何度か俺は斬撃を繰り出すが全て交わされてしまう。

(クソっ、動きが速いしパワーも半端ないな。こっちはステータス的にはレベル30相当だというのに手も足も出ないなんてな)

俺の今の装備はミスリル製のフルプレートメイルに魔鋼を使った盾、そしてロングソードを装備しているのだが。俺の筋力と敏捷力では、敵の攻撃を避けたり受け止めたりする事は出来そうにもないと判断した。俺はそこで思い切って、敵の攻撃を受け止めることはせずに避ける事に徹することを選んだのだった。そして俺はひたすら避け続けながら反撃の機会を待つ。だがいくら俺が相手の隙を探しても見つからないため。次第にイラつき始める。そして俺はこの相手に勝てないという諦めが浮かんでしまったのである。そして俺は心の中で美月に「悪い。ごめん、許してくれ、必ずお前を見つける。探して見せるから」と言い残し俺は目を閉じてしまった。

すると俺の目が再び開いた時。そこには見慣れぬ風景が広がっていた。

「な、なんだこれ? 俺は確かに殺されたはずじゃ?」

そう、死んだはずの俺が何故か生きていて。そしてなぜか俺は目の前に広がる巨大な樹を見つめていた。そして、俺が困惑しながら自分の体を確認するが傷はついていない。しかし俺は、この世界では『異世界からの転移者』という扱いになっているはずなのだが。どういう事なのだろうかと首を傾げていたのである。

それから俺が状況を整理していると目の前にある大きな枝に腰を掛けながらこちらの様子を観察している人がいた。そしてその人が俺に対して話しかけてきたのだ。

「やあ、僕の名前はユーグニス=エルドリアっていうんだよろしくね桐島信司君」

俺に語り掛けて来たその人物の名前は。『ユーグリス=エルドル』と名乗る。銀髪の髪を長く伸ばしその瞳にはまるで宝石のようにキラキラ光輝く緑色の綺麗な目を持つ青年だ。彼はどうも俺のことを知っているようでその自己紹介を聞いて驚くが。すぐに冷静さを取り戻すことにした。そしてその人物がこの世界の管理人である女神様と同じ名前の『神』を名乗っている事に驚いた。なので俺は彼が本当に『神』なのかを確かめようとした。

俺はまずこの世界のことを聞くことにする。俺の知る知識によると、ここは日本のある世界で、そしてその世界を創造した女神様がいる世界だ。

「それで君達はどうやってここに来たのかな? 普通に考えて、こんな場所に来ることは出来ないんだけど。そもそも君って本当に日本人なのかい? その黒目黒髪はこの世界でも珍しい色だしそれに、その服だってこの世界に存在するどの国の物でもないみたいだけど。君は本当に何者だい?」

俺を興味深々といった様子で見てくるが、俺はとりあえずこの人に質問することにした。

「まず俺の名前ですが。桐島信司といいます。あなたの名前と容姿ですが、それはあなたの本当の名前ですか? それとあなたは女性なんですか? 男にしか見えないのですが」

まずはこちらの情報を教える前に相手が本当にこの世界に関係のある存在であるかを確かめておく必要があると考えたのである。もしも違うなら俺は騙された事になるから、それは非常に不愉快だと思ったからだ。俺の質問に相手は少しだけ困ったような顔をして「君には嘘を言っても仕方がないと思うから、正直に言うけど、僕のこの姿が君の考えているような性別の姿だと言うのならば。それはこの姿こそが本来のこの世界の人間の形なんだよ。君達の地球で言う所の神話に出てくる存在達を真似たのが始まりだから。この世界の人間たちは皆同じ容姿をしていて男女という概念が無いんだ。ちなみに君が着ているその服装は地球の人間が作りだした文化だよ。だから君のいた世界にも、この星と同じ形で、文明が存在するよ。まあそんな話は今はどうでもいいよね。本題に入ろう。君がどうしてここにいるかの話だったかな。それに関しては簡単に言えばこの世界がピンチだから。それを打開するために呼んだってところだ。まあ僕はそのついでって感じかな。そしてこの世界での目的はただ一つ。魔王を倒しに行くことだよ。これで良いかい?」

俺は彼の話に唖然としていた。なぜなら女神様ですらそんな事を言っている事は無かったのである。なのに、なぜこの人はそれが当然であるかのように話したのだろう。俺はそのことを聞いてみたら、なんでも女神様というのは複数いて。それぞれに担当地域というのがあるらしく、そこを担当している神様がそれぞれ、他の世界の神々と交流する為の場所としてこの世界を創ったらしいのである。だが、この世界が危機に陥った時に、それぞれの世界の女神様同士で情報を交換しあうための通信機能みたいなものがあるのだが。それが故障してしまったために連絡が取れなくなったのだという。だから女神様達は、この世界を管理して守ってくれていたこの人の協力を得る事にしたのである。だがこの世界の住人はどうも頭が固い連中が多いのと。この世界を管理する権限を与えられたこの人と、この世界で産まれた人間はこの世界で生きるのが一番という古い思想のせいであまり積極的に動いてくれないという問題があった。なのでこの人が自由に動けるようにするため。俺という地球人を呼んだのだというのだ。俺としては迷惑極まりないのだけど、俺も地球に戻れないというのならば、この世界を生きて行かなければならないのであるから。仕方なくこの世界のために働くことにしようと思っている。しかし俺はふとあることを思い出してしまった。

「そういえば俺、レベル1の状態だったはずなんですけど? レベル上げをしないといけないんじゃなかったのでしょうか? あとこのスキルって貰えるんですよね? なんか俺にスキルを与えてくれていたみたいでしたけど? あれはどうなっているんでしょうか? それに俺はこの世界に呼ばれたってことはもう勇者になってるんでしょうかね?」

俺がこの世界について気になっていた点を次々に口にしていったら、目の前の自称女神が笑い出したのである。

「クフッ、アハハッ、面白い、本当におかしい子だね。うん。でも君の疑問には僕が答えてあげようじゃないか。そうだねぇ~、勇者召喚をしたのは間違いじゃないし、君のレベルについては、ちょっとした事情があって君はまだレベルアップしていない。でも安心して欲しい。君のステータスがカンストしたからレベルが上がらないだけなんだよ? それから君の持っているスキルは間違いなく与えられる。でもまだ渡さないよ? これは君にこの世界を救ってもらわないと、君から貰った能力に意味がなくなるから、今はまだ、あげられないんだ」そう告げると俺に向かって微笑んできた。俺は、その顔が綺麗すぎてドキッとしてしまっていた。俺は、それから話を元に戻す。

「そうそう、聞きたいことがあったのを忘れていました。そうですね。俺はこの世界でどんな役割が与えられるのかとか、俺の役割ってなんなのかとか教えて頂けませんかね?」

俺の言葉に目の前の美人さんは少しだけ悩むように腕を組んでからこう言ったのである。

――まず、この世界での役割というか使命なんだけど。この世界の危機を救うという部分と、そして魔族と呼ばれる者達が住んでいる魔族の領域を荒らし回っている魔人の王を倒すという事の二種類になる。魔王の討伐が終われば、後は魔人を殲滅してしまえば、この世界が平和になるということだ。それと、魔族の領域を荒らしまわっているのは魔人であって、魔人ではないんだ。その違いも知っておいた方がいいかもしれないね。それから、君に与えられるのはこの世界でもかなり上位の力を持つ職業だ。だからステータス的には、かなりの強さを持ってはいるがあくまでも、今の君はレベル1のままなんだよね。そこで提案なんだけど、魔人が君を狙って襲ってくる可能性もあるからレベルを上げるまではこの大陸を離れてレベルを上げながら旅をするっていうのはどうかと思って。

そこで魔人が攻めてきたら倒してしまって、その力を吸収していけば、君の経験値がたくさん手に入るから、どんどん強くなる事ができるよ。

まあそんなところだね。そして、そのついでと言っては何だけど、君がもし、この世界を救った暁には君に女神様から加護を与えることになっている。それで君は、この世界においての最強になれるわけなんだ。どうだい。やる気が出てくるだろう? ちなみに、君は『異世界からの転移者』という事で、本来ならあり得ないレベルの力と、特別な能力を使えるようになっているはずだよ。その力で頑張ってほしい。君に、神のご加護があられんことを祈っている」そう言い残すと彼は枝を蹴り空に飛び立つと消え去ってしまったのだ。

「えっ? おい待てよ! ってもういない!? なに?あいつ瞬間移動した? はぁー。これからどうすればいいんだよ?」

俺はいきなり現れた謎の人物との対話を終え深いため息をつく。

「ああ、疲れた、今日はこのくらいにして休ませてもらおうかな。俺だってまだ寝たばかりだし、色々とあり過ぎて整理するのにも時間がかかるからさ」そしてそのまま地面に座り込み。俺は今後の方針を考えることにするのであった。

――俺の名前はユーグニス=エルドリア、年齢は15歳だ。この世界では成人を迎えていないが、この世界にはそういうルールは無いので俺は気にせずに行動している。まあ年齢的なことで何か言われる事もあるがそれは、スルーだ無視しておけば何も問題は起きないので適当に流しておくことにする。そして、この世界での職業というのが『女神教』では聖女となっている。しかし実際にはそんな大した役職ではなく『神官』と同じ様なものだと考えて欲しい。実際この国に住んでいる人間は全員同じ仕事をしており特にこれといった特徴も無いからだ。しかし、その仕事というのは、教会での布教活動や、教会で運営している孤児院で子供達の世話をしているという感じであるから、その程度の差しかないと思うのだ。

ただ違うところをあげるとするならその規模が違うだけで他に大きな違いは存在しないという訳だな。だがしかし。それでも一応は聖職者扱いだから俺の仕事は結構忙しいのだ。

例えば、週に3回。俺と同僚のシスター達は街にある大きな教会に出向き礼拝を行って寄付金を貰う。そして、それが終わり次第次の場所へと向かい同じように寄付金をもらって行くという感じだ。その次は教会の運営資金を集めるために近隣の町に赴き寄付を集めている団体を探して交渉したりもしなければならないのである。そして、俺はその仕事を毎日こなしているのである。しかも俺達は、国から補助金が出ており、お金に不自由する事がないのである。

この国の王様もなかなか太っ腹であると言えるだろう。この国が、女神信仰の国として有名な理由の一つである。なぜならば俺達が生活に必要な食料の全てをこの国が負担してくれるからだ。

さらにこの国の住民は女神の使徒であるとして尊敬されており。それ故に優遇されている面もあるというのが大きいと思う。

そんな俺の趣味はというと実は、女神様が大好きなのだが、この事は秘密である。

そんな俺だが現在、俺は、この世界の常識について調べるために図書館で本を読んでいたのだが。その最中ある一冊の本を手に取った時に俺は驚愕の事実に気づいてしまったのだ。その本が置いてあった本棚の裏に隠れるように存在していたスペースの中に『禁書目録』なる書物が存在した。俺はそれを手に取り中を確認する。

その本には、この世界について書かれていた。

この星の名は「アルスマグナ」と言い。地球でいうところの世界の名前と似たような名前だった。この本の執筆者は地球の存在を知った後、その本を作り出したらしく、この世界の歴史が記されていたのだ。この世界は俺がいた世界よりも、文明が遅れているというか。この世界の方が歴史が古いらしい。だから俺達からしたら当たり前の事も彼らにとっては未知の知識となるような事が書かれているのだった。そんな事を知って俺は興奮を抑えられずにいたのである。なぜなら地球より進んだ技術を持っていたのであろう彼らの残した文献があるというのならば俺にも読めるかもしれないという可能性が出てきたという事になるからである。

俺も地球人としての知識は持っているがこの世界で使われている文字というのはこの世界の物なので理解することができないのだが。なぜか俺の使っている言葉はこちらの世界の文字として通用するようだ。つまり俺の頭の中には日本語では無く、別の言語が翻訳されてくるのだ。なので、もしかするとその解読方法さえ分かればこの世界で使われる文字を読み解くことができるようになるかもしれないのである。そうなればこの世界の謎を解く鍵の一つを手に入れられたも同然である。

俺はそれからというものの。暇を見つけてはその本を読むようになっていたのである。しかし俺の予想していた通り。この世界に元々住んでいた人達が書いたと思われる文字で書かれた文章を理解するためには日本語を理解できるだけの学力が必要になるということが発覚した。だから、この世界で暮らす人々は、日本に住んでいた俺のような奴と同じような境遇の人間がいて。そういった人を集めて学校のようなものを作っているとのことだった。ただ、そこまで進んでしまうと俺が読むのは無理そうだ。というか多分これ以上読んでいても意味はなさそうだなと思い俺は本を元の場所に戻そうとしたがそこに見覚えのある顔を見つけたのである。その人物は俺が今読んでいた本の製作者の知り合いのようで、俺の顔を見ると笑顔になって近寄ってきたのである。

――俺は今。図書館にいる。理由はこの国に来てすぐにこの世界での身分証明書を発行する際に使用した。戸籍登録カードの返却のためだ。このカードが無い限り。俺はこの世界で生きていくための最低限の衣食住を手に入れる事ができないし、最悪捕まって犯罪者として扱われてしまう可能性もあるため、こうして返しに来たのである。

しかしなぜだろうか?この国の人間とは皆顔立ちが似ていて正直見分けがつきづらいので最初は迷ったがこの人物には見覚えがあった。

確かこの人は、最初にギルドへ訪れた時、受付の女性の隣に座っていた人だったはずなので恐らくは司書なのではないかと推測できる。その人物が笑顔を浮かべて話しかけてきたので俺の方は警戒しつつ対応したのだ。そういえばあの女性の名前はなんて言うんだろう? まあいいか。俺の個人情報と紐付いている情報だから、あまり他人の前で喋らない方がいいのかもしれないなと思った俺は、適当に話をしてこの人物から離れる事にしたのである。そして俺は、その場から離れようと思っていたのであるが。そのタイミングを見計らっていたかのように。一人の男性が俺に話かけてきたのである。その男は、俺に対して「今から俺と一緒に来てはくれぬか?」と言ってきた。そこで、どうしたものかと悩んだ俺ではあったが、とりあえずその男の話だけでも聞いてみようと思ってついて行ってみたのである。

そして俺は今その男の車に乗り、移動中だった。

ちなみに車の方は、どうやら電気自動車と呼ばれる物みたいでエンジン音などが一切なくとても静かな運転をする乗り物であった。そんな車を運転している男性だが、見た目は30代後半くらいの男性で、どこかで見た事がある人だなとは思ったのだが誰だか思い出すことができなかった。そこで、その人物に尋ねてみると。この男性はこの国の国王であり、そしてこの国一番の賢者であるという事が分かった。俺はてっきり偉い人であることは分かっていたが、ここまでの人物とは思ってもいなかった。だから思わず動揺してしまい言葉が出てこないまま黙り込んでしまったのである。

ちなみにその人のステータスがどうなっているかというと、職業に賢帝と書かれており、スキルもかなり凄かった。しかし何よりも驚いたのが称号だったのだがなんと! 【賢帝の極意】と出ていたのだ。俺はこの世界では初めて見る称号だった為、その効果を確認してみるがそこには驚くべき能力が記載されていたのである。その効果は『レベルが1でもレベル100相当まで成長できるようになる』というものであった。

レベル1の時点でこの効果であるのなら。普通に考えればありえないレベルの強さを持つことが出来るという事になる。

そんなことを考えていると王様は、唐突に「これから向かう場所は私の研究所なのだが」と話し始めたのだ。そんな王様を見て少し疑問を感じたのだが、特に気にせず王様の言葉に相槌を打ち続けたのである。

それから数分ほど車に揺られているうちに。俺達は目的地に着いたようである。その施設は王様が所有する研究所で様々な研究を行っている施設であった。その施設の一室には。大きなガラス製のケースが存在しその中には何かが入っている様子が見えた。俺がその中にあるものに興味を抱いていると、王様はそれを見ながら口を開いたのである。

――俺の目の前では先程まで会話を交わした人物が大きな試験管の中に入っていた少女の姿をした物体と向き合っていたのである。

そんな事を突然聞かされたせいなのかは分からないが俺は、ついつい聞き返すように声をあげてしまった。

しかし王様は特に動じることもなくその説明をし始めた。その話によれば、その生物はかつて、地球で生きていた存在らしく。異世界から地球へと渡った時に偶然にもこちらの世界の住人と接触してしまい地球で言う宇宙人という立ち位置の存在になったとのことらしい。そして、その存在が地球での役目を終えた後に、その体をこちらの世界の人間に提供する事になり生まれたものが。今の人類の先祖に当たる生命体だとの事だった。

そんな話を聞いた俺はその実験が成功したという話を聞き、心の中でガッツポーズをとっていたのである。というのも、もしそれが本当であるならば俺はその実験の成果を自分の目で確認できるということになるからだ。そんなわけだから俺はかなり期待に胸を膨らませながら王様に案内される形でその場所へと向かったのだった。

それから数分後、その研究室に到着した俺達だが。その部屋の中では研究者達が忙しく働いていた。俺はその様子を観察しながらこの人達も地球の出身だという事を思い出し興味を抱いたのであった。そんな俺の視線を感じ取ってか、研究者の一人が近づいてきて王様と一言二言交わした後、俺を連れて別の部屋に移動したのである。

――俺は今。この施設の実験室にいる。この建物の内部にはいくつかの部屋があり。その内の一つであるこの部屋の中は、かなりの広さを有しており。多くの機械が置かれていた。

この部屋には現在。

王様とその助手と思しき人物が数人と。そして俺がいるのだが。王様は俺に向かってこんな話をしてきたのだ。

なんでも、俺に協力してもらいたいことがあるからこの部屋に来てほしいということなのだ。俺は特に断る理由も無いし、それについて承諾した。すると王様は俺の返答を聞いて、笑顔を見せたのだ。

俺はこの時、王様のこの笑顔を見た時。一瞬嫌な予感というのを感じていた。それはなぜだろう。俺がこの世界にやって来た時から今まで、感じていなかったものなような気がする。だからというわけではないけど、なんとなく、俺の中にある危険信号が鳴り響いている感覚を覚えている。しかしだからといってこのまま何もしないわけにはいかないため。仕方がないと思い。俺の頼みを聞くことにしたのである。

その後、しばらく待っていると王様の助手らしき人物がやってきて俺達を別の場所に案内した。俺達が移動している間。周りを観察して見るとどうやらここは、俺がいた世界にある研究所の一室のようだが。なぜか電気のようなものが使われているような気配は無かった。その様子を確認した俺だが。そんな事より今は別の事を考えることにして。今の状況を確認することにしたのである。俺の隣には俺よりも身長の高い王様が並んで歩いているのだが、俺が王様の方を見るとなぜか微笑まれた。俺って今そんなに笑える要素があっただろうか?と、俺は不思議そうな表情を浮かべながらもそのことについて深く考えるのは止めておいたのである。

そうこうしている内に目的の部屋に到着したようだ。俺達はその部屋に入るとまず最初にガラス製のカプセルのような装置を発見したのだ。そして俺が、その装置の中に視線を送るとそこには。先ほど王様から見せてもらった生物が眠っているのを確認した。

俺はその光景に興奮したのかは知らないけど、気が付いた時には無意識のうちに駆け寄りその生物の顔に手を当てたり頬を軽く叩いていたのだ。

その行動を見た他の人は俺のことを心配するような言葉を言ってくれたりしたんだけど、俺はそれを耳にも留めずに夢中でその生物の観察をし続けた。それからどれくらい時間が経った頃であろうか?俺はふと時間の流れを意識した。俺はそこで違和感を覚えることになる。なぜなら俺はここに来た直後、王様に実験室に入る許可を得たのが昼頃のはずなのに、俺が意識を取り戻した頃には既に日が落ちかけていたからである。そして俺はすぐにその事に気が付くとすぐにこの世界が元いた世界ではないということを再認識させられたのだ。俺が焦り始めたその時、隣にいた女性が俺の行動に気づいたようで話しかけてきたのである。

――私は、今。とても気分が高揚している。この気持ちを抑えるのが大変難しい状況になっているのだが。その理由というのは私が現在手に持っている。あの青年が大切にしていた書物の内容が真実であったことを確かめられたからである!この国の歴史で過去に存在していた魔王という悪逆非道を繰り返し人類に対して脅威となる者を倒した勇者という存在であることは知っていたのだが、まさかあのお方の子孫であるなど誰が想像できたであろうか?いや!誰もできないと断言できるほどの情報であった!しかしだ、そんな私達の国の希望ともいえる方が、なぜこのような姿になってしまったのか?そこのところは非常に気になるがおそらくはこの世界の人間の体に適応するための進化だと考えられるだろうなぁー!しかしこれは、この国だけでなく、全世界に影響を及ぼすことなため、あまり公にすることはできないかもしれないが、なんとかできないだろうか? そんなことを考えながら。私は、あの方を起こさないように注意をしながらこの部屋を出るのであった。そういえばまだ名乗っていなかったな?私の名は『アルム』といい。この国の王様に仕えている身であるのだが、今回は特別にあのお方の命令によりある実験を行っていたのだ。その事は誰にも話していないのだが。この事を国王様が知ることになった時はどんな顔をするか見ものであるなぁ。

俺は先程から王様の傍に立っていた女性のことが少し気になっていた。彼女はどうやら研究者の一人で、俺にその生物を見せてくれた人でもある。だから、彼女のステータスを覗き見ようとはしたのだが。どうにもステータスを開くことができないみたいだった。そこで王様に直接尋ねてみると、どうもそういう魔法を使っているらしいのだ。俺がどうしてそのような事が可能になっているのですかと質問をしてみると。

どうやらその女性は俺の鑑定能力を無効化しているみたいだったのである。そんな事を言われても、正直、俺はそんなことができるという自覚が全くないので戸惑ってしまったが、とりあえずこの人のことは後回しにしておくことにする。

「王様はこれから俺をどうするつもりなんでしょうか?」

俺は、先程までの王様の会話を思い出しつつそんな事を呟いていたのである。

「君は、これからしばらくの間。私の研究所に滞在してもらいたいと考えているが、問題はないかね?」

その言葉を聞いた俺は王様の研究所で生活することが決まったのだが、その際俺はある不安を抱いていたのである。

それは自分がここにいる意味はあるのかということだ。王様の話だと、この研究所は俺が以前生きていた場所とは、また違う世界らしいが。それでも地球に似たような場所が存在していたということは、そこに住んでいた地球人は存在しているということになる。そしてそんな地球の人間が俺しかいないのであれば。王様は、きっと、俺に地球へ帰るための方法を探すために研究をしろと言う命令を出してくるはずだと考えたのである。

そんなわけだから俺としては、早く地球に帰れる方法を見つけて帰りたいというのが本音なのだが、その前にやらなければならないことがあるのも事実なのだ。というのも俺はまだこの世界に何が待ち受けているのかを知らないのだからである。それにもし仮に地球に帰ることができたとしても。元の体が死んでいる可能性もある。そうなると俺はこの世界に骨を埋める必要がある。それか別の世界で生きる必要だってでてきてしまう。だからこそ、この異世界での生活の仕方についてある程度把握する必要があると思うんだよね。

それからしばらくして俺達は王様が住んでいる家に到着することになったのである。

「ここが我が家が用意した君のための部屋になる。」

俺はその王様の言葉を聞くと、部屋を見渡したのだ。すると俺は驚きの声をあげてしまった。なんとそこには、地球で言うアパートのようなものが存在したからなのだ。しかも、俺が借りることになっている部屋は最上階という事もありかなり良い部屋だと思う。

「本当にいいんですか?」

思わずそんな言葉を漏らしてしまう俺。

俺がこの部屋を見てそう口にしたのは決してこの待遇に驚いてしまったとかそういった理由ではなく。単純に地球ではこんな立派な部屋なんてなかったのだから当たり前の感想を述べただけである。

そして、その部屋を見た後に俺は王城の一室にある研究室に戻って王様の用件を聞いてみることにしたのである。そしてその要件だが、どうもこの国は俺にお願いしたいことがあるようだった。その内容は至極簡単な内容で。俺が持っている剣やアイテムなどをこの国のために有効に使ってくれないだろうかということだったのだ。俺にこの国からの依頼を引き受ける義務があるわけじゃないし、むしろ俺は、この国に厄介ごとを持ち込む可能性がある存在でしかないはずなんだ。それなら別に断ることもできたはずなんだが。なんで引き受けたんだろう。俺は自分に疑問を感じながら部屋に戻ったのであった。

俺が部屋に戻ると王様と女性がいた。なんでも王様が言うには、今回の件について色々と聞きたい事があるようだ。そのため王様が俺に話せる事なら答えてやってもいいと言ってきたので、まず初めに俺がここ最近経験してきた出来事について簡単に説明する事にしたのである。俺が説明をするとその話を黙って聞いていた王様と、何故か一緒に話を聞いていた女性は驚いた表情を見せていた。そして王様はその話の内容が信じられないといったような様子だったが。信じなければ話が進まないと思ったらしく、王様はこの俺の話を聞いた上で。俺にある提案をしてきて俺もその話を承諾したのであった。その話というのは、俺は今から数日以内に旅に出ることになるというのだ。しかしそれは、この国を出ていくわけでは無くて、俺を元の世界に送り返すために必要な物を探しに行くのだというのだから、俺にとっては嬉しい話であった。なぜなら、俺をこの世界に呼んだ女神を名乗る人物が、実はこの世界に存在する可能性があって。俺がその人物をどうにかできれば俺を地球に戻してくれるという話になったからである。その話を聞いた俺と王様の目の前にいた女性はなぜか納得したような顔になり、それとは別になぜか、嬉しそうな表情をしていた。

――俺は今から旅に出なければいけないのだが。この部屋には王様の助手さんもいることから、俺は王様に質問することにしたのである。

なぜ俺のようなただの学生が王様に呼ばれたのか?その経緯を知りたかったのもあるのだが。それ以外にも俺は気になることがあるので、それらについても聞くことにしたのである。その事とは一体何か? それはなぜか、王様の助手の女性と王様はなぜか親しげな感じの雰囲気があったからだ。だから、どうして二人がそんな風に仲が良さそうなのかが気になってしまったからこそ聞いてみたのだが。どうやら二人は昔からの友人関係だったみたいだ。そして、なぜ俺をここに呼び出したか?だが。

王様はこの国が危機に陥っていることを俺に知らせる必要があったみたいだ。その危機の内容というのがどうやらモンスターの襲撃によって国民達が危険にさらされてしまっているというのだ。そしてこの国の国王は、代々この国を守ってくれる守り神として、とある伝説の剣を召喚できる儀式を執り行っていたのだが。俺の先祖にあたる人族がこの世界に残した記録書を読んでみると、勇者召喚を行った場合の成功率は、限りなくゼロに近い確率であると書かれているのだ。つまりこの国で勇者を召喚しても無駄に終わる可能性が高いということである。それならば勇者ではない存在に頼ればいいじゃないか!と、いう事で王様が考えたのが。――俺の祖父に当たる人である。『剣鬼』と呼ばれている人で。

どうやら王様は俺の爺ちゃんのことを心の底から尊敬しているみたいで、だからこそ自分の代になってでも、勇者がこの世界に降臨しないのであれば、他の人に頼むという選択肢を選ぶことに決めたらしいのである。

そこで俺は王様に質問してみることにする。勇者を召還するために行うべき儀式とは具体的にどのような事を指すのか?と尋ねると、どうやらその勇者が身に着けていたという装備品が必要らしい。それも国宝級の物であるほど成功の確率が上がると言われている。それなのに王様が、わざわざ俺を呼んだ理由。それはこの世界の勇者である俺の祖先の人族が使っていた装備が。今もなお大切に保管されているからだというのだ。どうやら俺の家系は昔、勇者と共に戦った人達の子孫なため、勇者が使用していた装備を身につけることができる資格を持っているから俺が呼び出されたという事になる。

俺はこの王様の言葉に驚くと同時に納得したのであった。なぜこの世界の人間でもなくましてやその人族の生まれでもない俺がこの世界に存在しているのかという疑問を抱いていたのだけど、この話を聞いたおかげで謎は解けたのである。

俺にその装備のことについて話した後王様はこうも言ってきたのだ。

その装備は、初代国王『シンジ』がこの世界に現れた時に持ち運んでいた物の一つでもあるらしく、その剣の名前は『聖剣アスカロン』と呼ばれていて、この世界で最も強い攻撃力を有しているとされている武器らしいのである。俺はその話を聞くと、この国を守ることができるのか不安になったが。この王様と一緒のタイミングで部屋の中にいた女性の人がそんな不安を抱く必要はないと言ったのである。どうやらこの人はこの国の姫様だったようで。王様とは小さいころからの親友でもあって。この人を守るために俺は呼ばれてきたみたいだったのだ。だから俺は何も心配せずに、この人の力を借りればこの国はきっと安泰だろうと思えたのだ。

俺はその姫様と一緒に王様にお礼を言ってその場を去ると。これからすぐに出発する準備をし始めたのである。というのも。まだ日は昇りきっていないので時間はまだまだあったのだが。王様からは、出来るだけ早く出発した方がいいと言われ。俺も早く地球に帰りたい気持ちが強かったので。早速旅の準備を始めていったのである。

それから少し経つと、俺の前に王様が現れて、王様からこの国の地図を受け取る。そして王様はこの王都から東に位置する街に向かうようにと俺に伝えたのである。その目的地がどこにあるのかを聞く必要はなかった。なんせ、王様から貰った王城の周辺の見取り図を見ただけで場所を特定できたからだ。そこは王城のあるこの場所から見て北東の場所にあり。ここから歩いて向かうには1時間も掛からないだろうと思う距離にあったのだから。それを確認すると俺は早速出発することにしたのである。

そして俺は、王様の家から出る前に振り返ると。王様に向けてお辞儀をした。すると王様は、この世界を救ってくれるようにと俺に声をかけてくれたのである。

それから王様の研究所を出て外に出た俺だったが、王様の助手の人の姿が見えなかったため。どこにいるのかと思い探し始めると、俺は、街の中を走る馬車を見つけると、それに近づいていき話しかけてみることにしたのである。

俺は、目の前にある豪華な造りになっていると思われる馬車の扉に向かって手を振りながら声をかけると。その馬車の扉が開くとそこには俺がよく知る顔があったのである。そう、王様の助手の人である。

「君、僕に会いに来ましたか?」

「いやー、そういうわけじゃないんだけど。その、もしかしたらこの国から旅に出るかもしれないから、挨拶しとこうかなって思ってね。」

「なるほど。君が僕の所に来たのはそのためですか?」

「まぁ、そんなところかな。」

「それで君は旅の用意ができたのかい?」

「あ、はい。王様が用意してくれた荷物を持ってきているんで。」

「わかりました。では、まず最初に君の住んでいる所に案内しますのでついて来て下さい。」

俺にそう言い放つ助手の人と俺が話をすると。王様の所の人が、この国で一番安全な場所に案内すると言うから。

俺もその言葉に了承すると。俺は彼の後ろをついていくようにして歩き始めたのである。そうして、しばらく歩いた後に到着したその場所を見て俺は驚いた。だってそこにはなんと、大きな建物がいくつも存在しているというのである。しかもそれはどれもが豪邸のように豪華で大きく見える建物ばかりであった。

俺は目の前に広がったその光景を見て唖然としていたのである。それこそ本当にこんなところに人が暮らしているのだろうか?と思ってしまうくらいにその街並みのスケールは大きかったのだ。

その建物の内の一つの建物に入ると、中には一人の男性がいて。俺はその男性に王様の助手の人に言われたとおりの事を伝えると、彼は驚いた表情を見せた後に納得した様子で俺をある部屋に連れて行くと。そこには大量の食料が保存された箱がたくさん並んでおり。俺にはそれが、この家の人達に振る舞われる食事なのだと分かった。その事を俺に告げた後。王様の助手の人は、その家を後にしてどこか別の場所に向かったようだった。だからその後俺は一人残されたのだが。一人でいる事に飽きてしまったため。誰か他に人を呼ぼうと考えてみたが。誰も近くにはいない様子だったので、俺は仕方なく自分で料理をする事にしたのであった。

そうして俺は、調理場に立つとその道具を手にして、食材を使って料理を作ってみたのである。そして出来た料理を俺が作った食卓の上に並べて皆に振る舞う事にしたのだ。そして俺の作ったご飯を一緒に食べるために。俺以外の人達はいつの間にかこの家の中には居なくなっていたみたいだが。

どうやら俺は、この家で一緒に暮らす人たちの食事を俺が作り。一緒に食べようと声を掛けたが返事が返ってこないから、結局自分で作ったものを食べる事になったのである。しかし、それは別に構わない事なので俺が用意した物を美味しく頂くことにしたのである。しかしここで問題が発生する。

俺は目の前に並んでいるその豪華な料理の出来栄えは良いと思ったのだが。量が少なすぎると俺は思う。その量は成人の男性なら満足できるだろう量だと思われたが。俺は女性並みに食べる事はできないから俺にとっては足りない分量を俺は感じてしまったのである。

そうして俺はその食事を何とか平らげることに成功したのである。だけども俺はまだ腹が減っていたから再び自分の力で料理をしようと思ったのだが。そこで、ふとある事を思い出した。そういえば俺は、異世界に来る前に食べたハンバーガーの味が忘れられずに、いつかこの世界にまた帰ってこれたら。その時こそはもう一度この世界に召喚してもらってハンバーガーが食えるようにしてほしいと思っていたのだった。そこで、俺はそのことを思い出したので、この世界の食材が俺の世界と同じようなものが手に入る可能性はあるのかと考えたのである。

そこで、俺はとりあえず。何かこの世界独自の物がないかを調べるため、先程俺が通ってきた研究所の周辺を探索してみることにしたのである。だけども残念な事に、そこら辺に生えていた草などは。全て地球に存在する植物ばかりで特に変わった物は無かった。だが俺はそれでも諦めなかったのである。もしかすると俺の世界にしか存在しない食べ物があるかもと思ったのだ。それこそハンバーガーとか。そういったものはこちらの世界には無いはずなので絶対にあるはずだ!と思い込み。俺は必死に森の中を駆け回って調べ回っていたのであった。

だが、そんな俺の行動を無駄だと笑うかのように。いくら探しても俺が求めている物は見つからなかった。そして気づけば日が落ち始め。空が赤く染まり始めている頃だった。

俺はそこで一旦森での作業を中断することを決めると。その日の夜に備えて俺は自分の住処に帰る事にする。なぜなら俺は寝泊まりできる場所が無いから野宿する必要があるからである。そこで俺は自分の家の方に歩いて行きその玄関まで到着するがそこで俺は自分の目を疑うような出来事を目の当たりにすることになる。

俺の家は、俺がこの世界に召喚される直前に見たときと同じようにして、綺麗な状態で保たれていて、まるで時間が経過していないかのような感覚に襲われたのである。その現象に驚き戸惑った俺だったが。今はそれよりも早く自分の家に帰りたかったため、その考えを捨てる事にしたのである。

俺は急いで家の中に入ると、俺はまず自分が寝るための場所の確保を優先したかったので、俺はリビングにある大きなテーブルの上に置かれていた俺用の荷物の中から。テントを取り出すことにする。

この世界に来てからというもの。今まで俺が持っていたはずの物のほとんどがこの世界に来た時点で壊れてしまっていたので。俺はもうこれ以上は物を壊したくないという気持ちでいたのである。しかし、この世界で生きて行くためには。どうしても俺が手に持っている物が必要な場合もあるかも知れないので。俺はそれを覚悟の上でこのテントを使うことにしたのだった。

そうやって、無事に準備を終わらせた俺は、明日のために今日はゆっくり休む事にするのである。

「あれ?このベッドは一体誰が使っているんだ?」

この家の中に俺が生活するのに不自由がないように。俺の私物などが丁寧に保管されているのに。何故か寝室には何も置かれていなかった。もしかして、誰かこの部屋を使っている人が居るのか?でもこの部屋の扉の先には部屋らしきものが無かったから。この部屋には人が入れるようなスペースが何処にも見当たらないしな。

「う~ん、どうなってるんだよ?」

俺は訳が分からず首を傾げていると。俺は突然背中に強烈な痛みを感じると共に目の前が真っ暗になって意識を失ったのである。

== 《スキル『毒無効』のレベルが上がりました》

「うぅ。痛てぇ、何が起きているのか全く理解できねぇ。」

俺は意識を取り戻すと同時に。俺の体に違和感を覚えたのである。というのもなぜか体が異常に怠いと感じ始めたからだ。だからといってこの原因不明の異変の原因を探る為、俺が無理矢理体を動かそうとしたとき。

《ピコーン。新しい称号を入手しました。この称号は特殊条件を満たさない限り表示されません》 突如頭の中で鳴り響いたアナウンス音を聞いたことで俺はようやく目が覚めた。俺は慌てて目を開けると、そこには知らない女性が立っていたのである。しかも彼女は俺のことを心配そうな顔で覗き込んでいるのである。その女性の容姿について一言で言うと美人さんであった。しかもその顔にはどこか幼さが残っている。おそらく俺と年齢は同じくらいだろうと俺は思ったのである。そう思いながら俺は目の前の女性をジッと見つめていた。

そんな時、目の前の美女が俺に向けて声をかけてきたのである。

そして俺はその声によって、ようやく今の状況を理解できたのだ。俺が起き上がろうとすると俺の身体が上手く動かなかった。それで、なぜだと思って自分の手足を確認してみると、俺は今椅子に縛られて身動きが取れなくなっている事が分かった。それに気づいた俺はなんとかこの状況から抜け出す方法を必死に考えるも、目の前にいる女性に隙が全くない。

そこで俺の目の前にいる彼女のステータスを覗くと俺は驚いたのである。なぜならその人の能力値は凄まじいほどの力を示していたからだった。そのことからも彼女がただ者ではないと言うことが分かる。

そこで俺が目の前の人物の正体が何なのかを確かめようとした時。急に目の前の女性が俺に声をかけて来たのである。

「君はどうして、あんな所で倒れていたのですか?」

その質問に対して俺は、目の前に座る彼女に警戒しながら俺は答えようとすると、その時である。

【神界】からの声が再び俺に話しかけてきのだ。

俺はまたあの神様からの連絡かと思ってすぐに反応しようとすると、目の前に座る女が、少しだけ険しい表情をしたように見えたのだ。

(どうやら俺は彼女を警戒しすぎていたようだな)と内心で思っていると。再び頭に例の女神様が語りかけてくる。その声で俺が内心では焦りながらも冷静に対応することができたのである。しかし俺はここで新たな事実を知ることになったのである。それは女神の言っていたことが本当であったことが証明されたからだ。そのことに関しては俺は素直に喜ぶ事ができたのである。だって俺はこれで元の世界に戻れると知って、やっと帰れるという実感を得ることが出来たからである。そうやって俺が喜んでいると、そこで俺はふと思うことがある。

この世界に来てしまった俺をわざわざ異世界に戻してくれるということは。もしかすると俺が元いた世界の事を良く知っている人が俺をこの世界に呼んでくれたのだろうかと俺は考えたのである。そこで俺がその疑問をぶつけるとその問いに女が答えたのだった。

「それは私があなたにお願いしたことだからですよ」

その言葉に俺が驚愕している間にその女性は更に話を続けたのである。

そして彼女は、この国で起きた事件について俺が説明してくれると俺は驚きを隠せないでいる。なぜなら、まさかこの国に勇者が二人も存在するという事に俺は衝撃を受けたのである。そして俺はこの時改めて自分の使命を思い出したのであった。

それからしばらくして。俺は拘束を解かれて自由に動くことができるようになった。俺はその後、この家の持ち主だという女性の後をついて行き。俺がこの森に入る前に見つけた湖までやってきたのである。俺は、湖の水で喉の渇きを潤した後、再びこの家に戻っていく。俺はその途中で俺をここまで運んできた男を見かけると。俺は彼に礼を言うため、彼の元に行こうとしたが、しかし俺の目の前を先程家まで俺を連れ帰った女性が現れ。俺は彼女に止められてしまう。そして俺の前にその男性が現れた。俺は、その人物を見ると。彼はその顔を一目見て俺に分かるほど、かなりの強者である事がわかった。そうして俺は彼と会話を交わした後、俺をここに連れて帰って来た男性の方はその場から離れてしまった。俺はまだ何かを話したいという衝動に駆られたが今は目の前の男の相手をしなければならないのである。

その男は俺の目の前でいきなり剣を抜いて俺に襲いかかってきたのだった。しかし、その男の攻撃は簡単に避けられ。そしてその男の首根っこを掴むことに成功すると、俺の後ろで様子を伺っていた女の人が、突然飛び出してきて、男が逃げられないように取り押さえることに成功した。

「ごめんなさいね、この人はあなたの敵ではありませんよ。この人の目的は私の旦那の暗殺です。この人を見逃しては貰えませんでしょうか?もちろん私に出来る範囲の事はさせていただきますので」

そう言うと女は深々と俺にお辞儀をしてきたのである。その行動を見た瞬間。俺は彼女が俺を騙そうとしているのではなく。本当にそう思って行動してくれているのだということが分かったのであった。そしてこの人の言葉に偽りはないとも感じた。だから俺は、とりあえずこの女に色々聞きたいこともあったのでその提案を飲むことにする。

そうして俺は彼女と二人でその家に案内してもらうことに決まった。その時にその女の名前はアイラと言うらしく、その隣にいた男性がエルナと言い。この二人は夫婦だったらしい。

俺はこの人達を信用できるかどうかまだ完全に確信は持てなかったが。この二人から俺の求めていた情報が聞けるかもしれないと思った。そしてこの家の中に入った時、俺は、その家の中に見覚えがある物が飾られていた事に気がついた。

それは以前この世界に来たときに俺がこの世界で身につけた物だった。つまりこの家にはその世界で俺と一緒に戦ってくれた仲間の持ち物が置かれているということだろう。俺の記憶が確かならばここに置いてある武器はこの世界で手に入るような物ではなく、その全てが伝説の名刀級だと鑑定されたのである。それによく見ればその部屋に置いてあったテーブルも、椅子も、その他全ての家具類も全て一級品ばかりである。俺の目から見ても相当な業物であることが理解できるほどである。

だから、こんな凄い物を作れるのはおそらくこの世界でたった一人。この世界を作った創造神だけであるはずだ。だからこの家はきっとこの二人の家でもあるんだろう。

そう考えながら俺はアイラさんとエルナさんの二人からこの国の話を聞いたのだった。そして話を聞くうちにこの国は魔王軍の侵攻により滅ぼされようとしている事が分かり。俺はなんとかしなければと決意した。しかし、今の俺の力では正直どうすることも出来ないことも理解した。だからこそ。この世界に召喚してくれたあのクソ女神の力を頼りたかった。そして俺は女神の力を借りるために。まずは俺にこの世界に転生させてくれたあの女神を探すために旅に出ようと心に決めるのである。

そして俺は今。あのクソ女を探し出すための旅を始めて一か月が経過していた。その間も色々なことがあったが俺は無事に乗り越えてこられているのには理由があった。実はこの村に来る途中、俺は、俺と同じ世界からこちらの世界にやって来た人たちに出会うことができ。そこで、俺と同じく『異世界召喚』をされてこちらの世界にやって来ていた人たちに会ったことで、俺は彼らのおかげで無事にこの世界に溶け込むことに成功できた。

そんな俺は今日、これから俺に新しくできた友達に会うためにとある場所に訪れていた。そこはこの村に一軒しかない酒場だったのである。俺はそこに足を運ぶとその酒場に足を運んだ目的は俺の友人に会いに来たのであった。しかしその目的を果たすことは出来なかった。なぜなら目的の人物はもうこの世にいなかったからだ。

だから俺はここに友人の遺品を持ち込もうと思いこの酒場に立ち寄ったのである。そして俺は、この酒場の主人に挨拶をすると共に友人に頼まれた物を手渡し。その後、酒場の外で待機していた護衛の女性と合流し。俺たちが乗ってきた馬を連れてこの場から去ろうとしたその時であった。

俺は、ふと誰かに見られている気がしたのである。その気配を感じ取った俺は咄嵯に近くの建物の裏に身を潜めたのだ。するとその直後である。

俺が身を隠そうとしている建物に向かって一人の女性が近づいてくると。その女性の顔を見て俺は驚くことになる。何故ならその女性がなんと、かつて魔王を倒した俺を裏切って俺の仲間を殺した張本人であり。そしてその女性は勇者の俺に復讐するために俺の住む国を攻め込んできた、その勇者であるシンディの成長した姿そのものであったからである。

俺は、その姿を見て愕然としてしまう。しかし、その女性は何故かすぐにどこかへ姿を消してしまい。そのせいで俺に気づくことができなかったのである。俺はその光景を見ながら呆然として立ち尽くしてしまった。だがそんな俺の事を、一緒に来てくれていた仲間の護衛が心配して話しかけてくると。俺は大丈夫と言って彼女を安心させる。それから俺達はすぐにその場を離れることにした。しかし、その日以来、この酒場を訪れるのをやめたのだった。理由はその女性の事をどうしても気にしてしまい。その女性が一体何者で、なぜこの村に来ていたのかなど疑問が絶えなかったからだ。だから俺は、その事を調べようと思ってこの村に何度も通っていたのである。

そうやって調べて行く中で俺はその女性について少しずつ知ることができた。そして、あの時俺を殺そうとして来た女性は、その当時では、最強の聖女と呼ばれていて、その国でもかなり有名な存在で、国民達からも愛されていた。しかもその容姿も非常に整っており。まさにこの世で最も美しく可憐な少女と呼ばれていたほどだった。

それから、俺は彼女の情報を調べる為に俺は『情報収集魔法』を駆使して、様々な事を調べ上げた。その結果として彼女は『魔法勇者』と呼ばれる職業に就いていた事が分かった。その称号を持っている者は全て俺が持っている『固有スキル』・『解析鑑定』『無限収納鞄』のように何か特別な力を有している。

例えば俺の場合、その称号の『英雄騎士』がそれにあたる。この称号を授かる事ができる人間は世界でも十人ほどしか存在しないと言われてるほどで、そのどれもが強力な能力を保有していたりする。そして俺はこの世界の人間に自分の実力がばれないように行動する事を意識していた為、極力目立たないように努力した。だから俺の実力を知っている者は、この国でも数えるほどしかいない。俺がこの国に来たとき、勇者であるはずの俺に誰も何も言わないのはそういう事情もあるのだ。

そして彼女は、この世界で、俺が初めてこの世界に来た時に初めて俺を裏切った女性。そして、魔王軍の幹部でもあった魔王を討伐した直後、その隙を狙って、俺が信頼を寄せて、ずっと俺の側で戦い続けていた、この世界で最高の相棒である俺の大事な親友を殺されてしまった人物でもある。そして、そんな大切な人を殺したのも、全ては俺に対する強い恨みによる行動だという事も分かってしまった。そして、あの事件以降。俺は彼女に対して激しい憎悪を抱いていたのである。

だけど俺にはどうすることもできなかった。俺がこの国に滞在する間に彼女が再び俺の前に現れることはなかったのである。その事から考えて彼女が、もう二度と俺の前に現れるつもりはないのだということが推測できるほどに。しかしそれでも、この国の平和を脅かすというなら俺の手でその命を摘むことになっても仕方がないと思うくらいに恨んでいる。

そうして、俺の心の中では、未だに彼女に抱いている深い憎しみの感情を消すことができずにいた。しかし、俺に出来ることはこれ以上被害が広がる前に魔王軍をこの世から消し去る。その一点のみである。

その目的を果たす為にもまずは俺にできる最大限の準備をして。確実に奴らの首を狩る準備をしなければいけない。そう思い。俺はこの村の人たちを守るために戦うことを決意したのだった。

そしてその数日後のこと。この村は突如やってきた、大量の『魔人軍』の襲撃を受けていた。それに対抗するために村人達は抵抗したが。結果は惨敗であった。しかし、その襲撃の最中に一人の青年によって窮地を救われた。そう。俺のことである。俺はあのクソ女から与えられた力で。この世界の住人ではないことや、その世界で起きた過去の記憶を全て失っているという設定にしているため。俺の正体に気がついたのはこの村には居た俺の事を知ってる村長と。俺と一緒に戦ったことのあるこの酒場の主だけだったのである。

「あの人はまさか!?」

「そうだよ!あの時の!」

俺は俺に助けられたことに驚く村人たちの様子を見て。この世界に来て俺に初めて出会った人達と俺を助けてくれたあの少年が重なって見えたのであった。そして、俺はそんな俺を嬉しそうに見る村人たちの姿を見ると思わず笑みがこぼれてしまう。しかしその直後のことだった。

俺が突然襲ってきた痛みに膝を着くと同時に俺は地面に崩れ落ちそうになってしまう。すると俺の近くにいた護衛の女性が俺の身体を必死になって支えてくれたのである。俺は護衛の人のおかげで地面との激突を免れることはできたが。

そのせいで、俺は、この村を守ることができなかったのである。

その日の夜。俺は護衛の女性と共にこの村を出て行くことに決まった。それは護衛の人がこの村に残ると言ったからである。それは俺がこの村に恩があると感じているからであり。そしてそれはこの護衛の女性も同じ気持ちだったということだったからである。だからその提案はありがたく受け入れることにしたのだった。

そうやって俺は馬車に乗り込む直前にある男に出会ったのだ。それは以前俺にこの世界に転生してくれた時にお世話になった『神様』だった。その『神様』の話を聞いた俺は衝撃を受けたのだった。

何故なら、あのクソ女神のやったことは俺への裏切りではなく。俺のためにやってくれたことであったと言うことを理解したのである。

俺はそんな『神界』の連中を信用し、俺は、彼らの協力を得るために『異世界転移魔法石(使用制限解除)×10』、『異世界通信鏡(携帯版:時間停止付き特別限定アイテム)×2』を手に入れたのである。そして、それらの品は今後、この世界で起こる未来を見越した物だと言われた。さらに、もしこれらの品を使って異世界に行きたい時は言ってくださいと、『神族召喚の儀(異世界転送の術書×3)』と、あとは、いくつかの役に立つ物までプレゼントされたのだ。

そうして、俺は護衛の女性とともに、あの女に貰った『無限収納バッグ(時空間操作付)』の中に荷物を入れていくのだった。それから俺は護衛の女性にこの村を出る際に、あの女の話を聞かせて欲しいと頼むのである。

護衛の女性から聞いた話では、あのクソ女神が何故、この世界に俺を呼び込んだのかは謎であったが。その目的はただ一つだけ分かったことがある。俺を裏切って勇者を殺し。そしてその後。俺は、この世界の王たちに、自分が魔王を退治したという嘘の情報を流し。その後すぐに俺は元の世界へと帰ったということらしい。そのおかげで勇者の力が暴走するという大災害が発生したのだ。そしてその結果、あの国には大きな被害が出て復興するのにかなりの年月がかかってしまうほどだったのだとか。そして、そんな被害を受けた国を再建するために多くの犠牲が払われることになったと。

そんな話を聞いて俺は心の底から、あの時殺さずにちゃんと拷問して情報を吐かせていればと後悔すると共に俺のことを裏切った理由がなんとなくわかった気がするのである。おそらくだが、その俺に復讐するためにわざわざあんな国の再建を手伝ったというところだろう。まあ、それももう関係のないことである。俺はもうあの国に一切興味などないし、あの国に戻れるとも思えないからだ。だから俺はこの世界を生きていけるように、強くなろうと思った。そしていつか必ず復讐を果たしに行こうと心に誓ったのである。だからそのためにも今はまだこの国の復興に尽力して、俺を支えてくれるみんなを守ろうと改めて決意したのだった。そうして俺は新たな旅立ちの一歩を踏み出すために護衛の女と一緒に、これから向かう先について説明を受けに行くことにしたのだった。

そういえばまだ名前を聞いてなかったことに気づいたので自己紹介をすることにする。そして、護衛の女が名乗りを上げる前にふとその女が名乗った名前に驚くことになる。その名は――俺の幼馴染の少女の名前と同じであり驚きのあまり目を大きく見開いてしまったのだった。その女性はそんな俺の反応を不思議に思ったようで俺の顔を見ながら首を傾げていたので。俺はなんでもないと答える。それから俺も、自分の名前を言おうと思い、口を開いたその時である。俺達の目の前に突如謎のゲートのようなものが現れたかと思うとそこから現れた人物によってその女性は吹き飛ばされてしまったのだ。

そんな女性を助けるため、そして何よりもこの世界の脅威になるかもしれないそいつを撃退するために剣を構えるとそのまま攻撃を仕掛けたのである。しかしその男はとんでもない速度で移動をし始めると、次の瞬間、その男の持っていた短刀で斬りつけられた俺は地面に叩きつけられてしまった。しかもその一撃で俺は瀕死の重症を負う羽目になったのである。そんな俺を見た女性はすぐさま回復魔法を唱えてくれようとしたのだが、男がその女性に向かって再び襲いかかり。そして女性が俺の回復に気を取られてるうちに、その女性を人質に取られた俺は身動きができなくなってしまったのである。その状態で俺は、女に、仲間になりなさいと言われ、俺には断るという選択肢しかなかった為。その女の提案を受け入れざるを得なかったのであった。しかし俺にはある予感があった。この女こそがあの時のクソ女だという事を。だから俺はこの女を全力で排除しようと思い行動に移す事にしたのである。

俺は女を拘束していた手を離してもらい自由を得ることに成功すると俺はその女に『無詠唱化』の魔法をかけた。そうすると当然女は困惑した表情を浮かべながら何かの罠を仕掛けているのではないだろうか?っと思っているような顔を見せる。だけど俺はそんな事はしない。俺はこの女の事を裏切らない。絶対にだ。俺はこの世界で得たかけがえのない親友たちのことを思い出し。俺はあの二人なら俺に同じ選択を突きつけるだろうと思った。だからこそ俺はその行動をとることに決めたのである。しかしそれは俺にとっては自殺行為に等しい。なぜなら、もしも俺がその行動を取らなければ間違いなく殺されるからである。だからこれは命を賭けた賭けであった。

そんな状況で俺の目の前では、女に短剣を向けることで牽制している護衛の男と、それに対抗して魔法の攻撃を放っている護衛の女の姿が見えていて。そのどちらも、俺から意識が逸れていることに気がついていた俺はこのチャンスを逃すまいと、こっそり『転移魔法石(制限なし)』に魔力を注ぎ込むと。その魔法を発動させて俺はあの世に向かうのだった。しかしここで誤算だったことが三つ。

一つ目は転移先はランダムであったこと。二つ目は転移先がかなり遠い場所に転移してしまう可能性があったこと。三つめが、俺の魔法が不完全だったために転移の時間がかなりずれていたことだった。そしてその三つの要因が原因で俺は運良く転移先で助かったものの。俺はその転移先の場所を詳しく把握できていなかったので。その場所がどこなのかを全くわからなかったのである。

しかし俺の予想に反して俺がいたのは。そこは魔王城の近くだったのである。そして俺は『無魔の魔窟』というところにいた。そこでしばらく過ごすことになったのであった。

そうこうしてる内に俺に話しかけてきた人物がいる。

「お前さんは一体誰だ?」

俺に尋ねてきた人物は全身真っ黒の服を纏っていた初老の男性である。そして俺はどうしたものかと悩んだ末。正直に伝えることにするのである。

「俺は、桐島信司だ」

俺は男の言葉が真実であればこれで納得してくれるだろうと思って言ったのだったが。その考えは完全に間違いだったことがすぐにわかったのである。そう俺の答えを聞いた男はすぐにこう言ったのである。

「なるほどな。それであんたは何しにここに来たんだい?まあいいや、私はここの主をしているものだ」

主と名乗った男の態度には少し疑問があったが俺はとりあえず自己紹介することにして。俺も自分の名前を名乗ると、今度はその主の方が驚いた顔をしたのである。

俺はどうして驚くのかわからないと尋ねると男は信じられないものでも見たかのような表情をしてみせた。

そしてその後俺に対して色々と聞いてくる主に俺は出来る限りのことを話すことにし、自分がどういう理由でここに転移してきたのかを。俺なりの解釈も含めて話したのである。しかし俺はこの男が何故驚いていたのかを最後まで知ることはなかった。何故ならば俺と話をした後に突然何者かの襲撃にあって男は倒れてしまい。俺はその場を離れざるを得なくなったからである。俺は男を殺した犯人を捕まえるためにその場に残ることを決め。そうしてしばらくの間この城の中を探索することになったのだった。その最中である俺に一人の人物が近寄ってくると、俺に頭を下げたのである。その人物は、メイド服を着こなした綺麗なお姉さんだけど見た目は若そうな人であった。

それから俺はこの人の案内の元この『魔王城』を歩き回りこの城の構造を把握していく。

そうやって俺が、城の構造の把握を終えた頃。

『無限収納バッグ』の中の携帯端末から連絡が入ったのだ。

その連絡は『神様』からのものであったので俺は急いで携帯の電源を入れる。

それから電話に出た俺は、携帯の画面を見てみるとある意味意外な名前がそこに表示されていた。それはあの『女神』の名前が表示されていたというわけである。しかしその内容は驚くべきもので。

俺はこの世界にいるはずのない人間の名前を目にして混乱することになる。

そしてそのせいで携帯の画面を見ていたら落としてしまうと大変なので。

俺は一旦その画面に映っている『神様』との通話を切り上げて、再び『神界』への通信を繋げることにしたのである。

『神界』の人達はこの世界で起こっている出来事についての情報は得ているらしく。俺の報告を聞いて、やはり俺の行動の結果だったと改めて確信することができたのだった。そして俺にこの世界の事を報告してくれた人によると、『女神』が『勇者召喚システム』を解析した結果判明したことはいくつかあるらしい。まず、俺を転生させるときに使用した装置についてだが。あれが、勇者を召喚する仕組みになっていると言う事が分かったらしい。つまり、この異世界の『勇者』は、異世界の勇者を呼び出した上で殺しているという事になるのだ。だから、この世界の『勇者』の数が足りないというわけではなくて。異世界から召喚されているから、『勇者』の数が増えないという事らしい。

そう、この世界がおかしいと思ったのも。あの『異世界転移の秘薬』のせいではなかったのだ。ただあの『秘薬』を投与された人間の中の極々一部の者しかこの世界に呼ばれなかったからだったのである。そう、あの薬の効果が発動するにはある程度の適性が必要であの薬にはその適性がある者をこの世界に強制的に呼び出すことができるようになるという代物なのだそうだ。だから俺は自分の体に流れる『魔血』の力が関係しているのでは?っと思ったりしていたのだがその可能性は極めて低いようである。そうあの女の話だと、あの女自身が異世界からこの世界に呼び出されてその力で王たちを皆殺しにしたとか言っていたからおそらくはその可能性が高いというわけだ。

それと、もう一つの『女神』に関する重要な情報が、その薬を開発した研究者の一人に『魔女』と呼ばれる存在が居たということだ。その人はどうもこの世界の人間ではないらしく。そして研究に没頭し過ぎて、この世界を裏切って『魔導書』というものを作りだした挙句にそれを自ら使い『魔女』となってしまったらしい。

だから、おそらくその人物というのがこの世界の全ての原因を作り出してしまった張本人ということになる。

しかし俺がこの話を聞いて最初に思ったのは。『神界』の人たちはどうやってその情報を入手したのかということであった。

そしてそのことを聞くと。俺の前に現れた女性は答えてくれる。そうその女性は俺をこの『異能の世界』に連れてきた人物である『天使』だった。

俺は彼女達がどうしてその情報を持っているのかを聞くとどうやら『女神』は、自分達の力の源となる『魔力エネルギー』を欲しており。それに気が付いたあの『魔王』によって殺された後『魔王』の中に取り憑くことになり『悪魔』を生み出してしまったらしい。そうこの世界で起きている現象の全ては彼女の責任であると言えるのだ。しかし彼女は俺の目の前でそのことを否定すると、自分一人で起こした事態では決して無いと言ってくるのである。しかしそれでもその事実に変わりはないのである。

そして彼女が俺に話してくれたことの一つにあの俺をこの世界に連れてきた女性が、俺を殺そうとしていたことについての話がでてきた。その女性が何故、この世界の『魔王』に俺のことを殺すように依頼をしたか?っという話が、どうもその女性には、どうしても許せない理由があったらしいがその理由とは、どうも俺に関係があり。それどころかその女性にとってとても大切な人だったのであるようだ。しかしその女性は俺の手によって既に死んでしまっている。

俺はそれが誰だったか知りたかったので聞いてみることにすると。女性はそれを口にした後しばらく口を閉ざしてしまう。そして俺はその名前を口にしたことでようやく女性の口からその人の名を知ることができたのだった。その名を俺はよく知っていた。そして俺はその人が俺に何をしようとしていたかもわかってしまった気がしたのだ。

しかし俺はそれを信じたくなくて否定したい気持ちで一杯になったのだ。だってそうじゃなきゃ俺が今まで頑張ってきたことがなんの意味もないということになってしまうのだから。だから俺は信じないと心に決めていたのである。

そして俺はその日。城の中にある自分の部屋に戻ることにした。

その部屋の窓から見える景色は、夜になると真っ暗な空間が広がりまるで星空が広がっているかの様な光景を見ることができ。俺が今いる城は周りに高い壁に囲まれていて、外からは絶対に中に入ることはできない構造になっていて。もしこの城の敷地内で事件が起きたとしても誰にも知られることがないのである。

俺はその景色を見ながら、自分がどれだけこの場所に馴染んできたかを考えてしまう。

しかしそんなことを考えていても何もならないことを俺も理解しているので。気分を変えるためにも今日はもう寝ることにしたのであった。

次の日の朝になり俺が食堂に入ると、そこには一人の人物がいて朝食をとっている姿が目に入って。

そしてその姿を見て俺は驚いてしまったのである。なぜなら俺のその人物は俺に背を向けながら座っており俺に気がついていないようであった。しかし俺は見間違えるはずもなく、俺の目にその人物が入ってきた瞬間に思わず声を上げてしまいそうになったので慌てて手で自分の口を抑え込んだのである。しかし、俺のそんな行動を見たことでその人物は後ろを振り向いてくる。そして俺の顔を見るなり驚いた表情を見せた後に俺に向かって話しかけてきたのである。

「桐島くんじゃないですか!?どうやら無事に生き返ったみたいですね」

その言葉は間違いなく俺に届いていたのだが。俺は言葉が出なかった。何故ならその人物は俺のことを知らないと言った少女であり。あの時は俺の目の前から突然姿を消してしまったから俺は生きているとは思っていなかったのだ。なのにこうしてその本人が何事もなかったかのようにそこに存在していることに俺は驚愕してしまい。頭が真っ白になってしまっていたのである。

しかし俺はすぐに冷静さをなんとか保ちながら俺の知り合いかどうかを尋ねてみたのである。しかし俺の言葉を受けた相手は自分の名前を言って俺に自分の素性を教えてくれた。

そしてその正体を知った時。俺の心の中にあった不安はどこかに行ってしまい。代わりに喜びが生まれていったのである。そうこの世界に来て俺に初めて優しくしてくれた人物であり、俺が初めて恋心を抱いた相手でもあるこの人物こそ俺の妹だったのだ。

しかし俺が嬉しさを感じながらも疑問も感じていたので妹に対してどういう経緯でここに来ていたのか聞いてみることにしたのである。

しかし帰ってきた妹の返答はこの城が『勇者召喚システム』を使って、『女神』を呼び出したことで。自分がその『勇者』として呼び出されたのだというものだった。そしてその後、『勇者』である自分は、その力を駆使して『女神』を殺して。この『勇者召喚システム』を停止させようとしたらしかった。そう、この城に居る人達に『勇者』が殺され続けている原因はこの『勇者召喚システム』がこの城の中で暴走していることによるものであり、その原因はこの城が『勇者召喚システム』の動力となる魔力を『魔王』が独占して『勇者召喚システム』を作動させ続けていたかららしいのであった。しかし、妹は俺がここに飛ばされてから、城の中に入ろうと思っても入ることができず。どうしたらいいのか迷っているときに、ある人に出会ったと言う。そしてこの世界の常識や知識などを全て教えられて、この城の中に出入りすることができる『女神』と『魔王』を殺す方法についても教わったのだと説明してきたのだった。

だから俺は妹の言葉を疑いはしなかった。しかしそれと同時に俺はこの妹の事を少し疑うようになったのだ。というのも、この子が『女神』と面識があるのはわかるが、なぜこの城の仕組みや、『勇者召喚システム』についての知識を知っているのかと言うことである。妹と初めて出会ったとき、俺は妹のことを『女神』ではないかと疑って警戒していたくらいなのだ。それに、その妹の話の内容の中には明らかに俺の知らない単語がいくつか含まれていたのだった。

俺はこの子が何者で俺をこんなところに送り込んだ奴らの仲間なのかを知りたいと思い探りを入れるため質問をしてみた。その結果、その子は、この世界に『魔導書』という物を作り出した人物の娘であり、『魔女』と呼ばれている存在なのだという事がわかった。

それから俺は、この世界がおかしくなっていることについて詳しく教えてほしいと言うと、その人は俺が望むままの情報をどんどん教えてくれていく。その話を聞けば聞くほどこの世界の仕組みがだんだんと見えてきていたのだ。

『勇者召喚システム』というのは『勇者』という特殊な能力を持つ存在をこの世界から召喚し『女神』がその『勇者』を使いこの世界を支配をするための仕組みだということらしい。しかし、『勇者』は『異世界転移』のスキルを持っており元の世界に戻れるらしいのだが。この世界の人たちはそれを知らされていないらしく。そのためこの世界で『女神』の言うとおりに動くことだけしかできず。そしてそれをこの世界で生きるための『使命』だと思っているようだ。だからこの世界で暮らしている人たちの多くはこの国で働いているのだと妹はその話の中で言っていた。

そして俺が知りたかった情報としては『魔王』がこの『異能の世界』に元々いた人間ではないという事実を『女神』は知っているようなので、おそらく『魔王』を殺した場合『女神』が『異能の世界』を滅ぼす可能性が高いという話も聞き出せたのだった。俺はそれを確認できて満足しながら俺は最後にこの世界の元凶である『女神』と、この世界に混乱をもたらした『魔女』を殺す協力をしてくれると聞いてきたが俺はそれを丁重に断ったのである。そしてその代わりに。俺には『女神』、『魔女』の他にも殺さなければならない存在がいると告げ。それに協力するという条件を提示してきた。

そして俺は了承すると共にその相手とは誰であるかを聞いた。そしたら俺に情報を提供してくれる人物はこう答えるのであった。

「それはあなた自身です」

その一言を受けて俺は納得した。つまりその人物は『俺達の世界が生み出した災厄の元凶は自分自身であり。それを倒すことで俺は自分の罪から解放され自由に生きられることになるのだろうということを、この世界が与えてくれたんだろうと思うことができたからだ。だから俺は妹の提案を受け入れこの城から脱出することを決意したのである。しかし俺が脱出するために必要な道具を持っていなかったので俺はこの城を出ようと準備をしていてもなかなかできなかった。そこでこの城に居た妹が俺に協力してくれることになったので俺の準備はスムーズに進み。城からの逃亡に成功したのだ。そして俺が城から抜け出した後この国は『魔王』の呪いに蝕まれてしまい滅んでしまったらしいが俺はもう二度と振り返らないようにしようと決めたのだ。しかし俺の妹が俺と一緒に行動することを希望してきたので俺は仕方なくそれに付き合うことを決めるのである。

『異能の世界』では、俺を裏切った人間は俺に復讐されることを望む傾向があるらしいので俺も俺のことを見捨てたこの世界の人間のことは許すつもりはないのだ。だからこの妹にも俺の邪魔をしなければ見逃すと伝えると俺のことを気遣ってくれるような優しい言葉をかけてくれたのだった。

そのあと俺は妹の提案に乗って。一緒に行動することを決めたのだ。しかし、妹は俺を騙そうとしていないかという心配を拭い去ることができない。なので、俺は念のため妹のことが信じられるようになるまでは行動を共にするのは避けておくべきだと判断したのだった。しかし俺は妹のことをもっとよく知りたいと思ったので。しばらくしたら妹のことが信頼できるようになってもいないが。とりあえず信用することにして行動を共にすることを許したのだ。

それから俺が妹と一緒に生活していくうちに俺が今まで感じたことのない気持ちをいくつも持つことができるようになる。そのおかげで俺は今まで以上に楽しい生活を過ごせるようになっていったのである。そして、そんな俺達はお互いに惹かれ合っていったのだった。しかし、そんな関係は長くは続かなかった。俺達が出会ってから数ヶ月が経過したある日。突然妹の様子が豹変してしまい妹が敵として俺に襲いかかってきたのだ。しかし俺も妹を殺そうとしたが、なぜか俺は妹を殺すことができずに俺と妹の戦いが始まってしまい。最終的には妹の力の前に俺の方が圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまい。もう俺に生き残る術は残されていなかったのである。しかしそんな時であった。俺の妹は突如現れた謎の男によって殺されたのである。

そして男は俺に近づいてきて、俺を『勇者』の『異世界転移』のスキルで、自分のいる場所に俺を移動させようとした。しかし俺に抵抗される。俺はその男の実力が自分の今の全力を凌駕していることを感じ取り。逃げることを決断すると、その男と戦闘を始めたのである。しかし俺のそんな努力も虚しく結局その男の力には勝てず。俺は『異世界』に『勇者』として強制的に送り返されてしまったのだった。そして、俺はその後自分の力の無さを痛感することになり。この『異能の世界』を救うことをやめて。自分以外の全てを恨むことにしたのである。

そして俺はこの『勇者』として『異世界』に召喚されたときに、女神がくれたこの『アイテムボックス』の能力を利用して。今までの恨みをぶつけてやりたい相手を見つけ出し殺しに行くことを決意する。そしてその最初の標的となったのがその世界を支配しようとしている『魔王』であるのであった。

『魔王』が居ると思われる城を目指して旅をしていた時に。『魔女』と偶然再会することになる。その出会いはまさに奇跡としか言えない出来事で。俺と妹は運命に導かれたのだとこの時本気でそう思っていたのである。そして俺は彼女と話し合いをする中、彼女が『異能の世界』のことを良く知っている人物だと確信したのだった。

だから俺がこの世界で『女神』と敵対している理由を話したら。俺に協力したいと申し出てくれたのである。その申し出に対して俺はこの『異能の世界』のことを知っているこの少女を頼ることにした。しかし彼女は自分がこの世界に存在している本当の目的を知らないという嘘をついていたことがわかったのだった。

その事実を知った後俺はこの子に対して不信感を抱く。そして彼女の話を聞く前に殺そうとしたが。その瞬間彼女の力が膨れ上がりその力に恐怖を抱いた俺は。この子の言うことを素直に聞くことにしたのである。その日を境に俺はこの子と行動をともにすることになった。

そして俺はその途中で妹が使っていた能力を手に入れてしまうのであった。その後、妹の力をコピーして使えたことでこの子が本物であることが確定し。俺の中でさらに彼女を信頼するようになったのだ。その後、俺はこの子と一緒に城に侵入し、『魔王』の居る部屋の扉の前に来ていた。

俺はそこでこの城の主が居るという部屋にたどり着くと妹が先に中に入りその『魔王』を殺すことに成功したのであった。そしてその部屋の中で『魔王』の死体を確認してこの世界の『魔王』を倒した後に。俺はこの城を出るために城の最上階にある出口から脱出しようとする。しかしそこに現れたのは妹の上司で妹のことを溺愛しているはずの『女神』で俺は殺されそうになるが。この子が俺に加勢してくれなんとかその場を切り抜けることができたのである。そして『魔王』を殺した報酬をもらうと俺は『女神』の隙をつき妹と『異能の世界』を抜け出すことに成功し。妹は俺が渡したお金を使って新たな人生を歩むための生活基盤を整えるため街に向かう。しかし『異能の世界』と『異能の世界』の人間との共存は難しい。

その証拠は、妹がこの街に入った直後に起きた事件の数々であり。それを見た人々は恐れを抱いてしまうため『異能の世界』の人間を受け入れてくれるような人間など存在しないのだ。そのことを知っていて俺と妹はこれからの人生を二人で生きて行こうという結論に至ったのであった。

俺は、その世界から抜け出し別の世界に行きたかったのだが、どうしてもこの世界のことが好きになってしまったのだ。だからこの世界を守る為の『異世界防衛軍』に入ることを決めたのである。しかし俺が入った『異能の世界防衛軍本部基地』には、すでに俺が入隊を拒否できない状況にまでなってしまっており、そのまま流れに任せて入隊してしまうことになるのであった。しかしここで問題が起きて俺はまだ正式な隊員ではなかったのだが、『魔王』を倒せと言う任務を押し付けられ、その任務を受けたのである。しかしその仕事で俺が殺した人間の中には俺が助けた『魔王』が混じており、その事実を知らされた俺はこの『異能の世界』の平和のためにこの『異能の世界防衛軍』に入ることに嫌気がさして辞めようとする。

だけど、俺はあることがきっかけで妹と仲が悪くなってしまい俺は彼女から逃げるようにして、一人でこの世界を放浪することにしたのだ。

そして、俺がこの『勇者』として呼ばれた『異世界』で。妹の復讐を果たすための準備を進めながら、俺の邪魔をする者を殺すことで経験値を得て強くなっていったのであった。しかし、そんなある日。俺の『異能の世界』で妹を殺しに行ったはずなのに妹と瓜二つの人間がこの世界に現れたのである。それを知った俺はすぐに『異能の世界』に戻って来たら。俺と妹は何故か同じ世界に存在してはいけない存在であることがわかり。そして妹が俺に襲い掛かって来た。しかし妹も本気を出していなかったらしく。俺はその妹の攻撃を受けてしまう。

それからしばらくして、妹の『魔王』としての力は失われてしまった。だから妹の方から攻撃を仕掛けてくることもなくなったので俺と妹が争うことはもうなかったのだ。俺は妹に謝る為に、この世界に残っていた。しかし俺がこの世界で妹に会った時にはすでに遅く、妹はこの世に存在しなかった。妹が居なくなってしまったことにより、俺は妹を探し出すこともできなくなる。そこで仕方なく俺は、妹を作り出した存在の所に行って妹を取り戻すために『女神』を殺そうと思い立つ。しかし『女神』がどこに住んでいるのかがわからなかったので『魔王』に『異能の世界』に俺の『異世界転移』で連れてきてもらうようにお願いするのであった。

こうして、俺と妹と『女神』、『魔女』との戦いは始まるのである。

【名 前】

天城 剣 レベル100

(人族)

体力

10億8000万/10億8000万 魔力 1兆6000億0000 攻撃 6050万9000 防御 5570億2000 速度 5120万3000 精神力 8300億 運 6500 状態:

技能:『異世界転移』『剣術(Sランク)→神刀(SS-Rank,EX)、『大賢者』(S+C-B-D+P×5 EX+Error +G×2 Max S-A→EX Master+Execution AGI INT MAX DEF MAX MND MAX CRI ∞ EXP 3200/7400 Connection 100%)

『異能力』(SSSSS-Ex++???)

→《異能力完全制御》

「異能の世界」最強の異能力者の固有能力 全ての『異能の力』を完全に制御することができる

「全魔法」「武闘系異能力」「特殊異能力」を全て完全に使えるようになる →《異能力完全耐性》 全て『異能力』の能力を無効にすることができる →

『異能力』を使うことができる →《異能力者無効化》 自分を中心とした半径1キロ以内の空間内の『異能』の効果範囲にいる異能力の発動者を一時的に異能力を使用不能にする この効果範囲内に『異能』を発動させなければ異能力は使うことはできない

『異能』と普通の魔法の両方の適性を持ち『異世界転移』や、一部の『魔眼』の能力を使うことが可能となる 《全属性魔法適性化(特級)→火(極)水(上級)風(下級)→土(下級)→雷(初級)光(中級)闇(上級)回復(中位)→聖(上位)

無 この世界には存在しない「炎」・「水」・「木」、「鉄」の属性を使用することができる。また、それ以外の魔法を使用することができる。

→《無詠唱(SS-B→A+ EX Max)→無呪文使用可》

『異能』を使う際に使用する『無詠唱』を使用可能 全ての『無魔法』と『時空間魔法』を使用できる。また、他の『時空間魔法』と『重力魔法』の併用ができるようになる。さらに、『時』と『時空間』に関係する能力が使え、その『時』と『時空間』の能力の使い方次第で色々なことが可能になる

『勇者』・『女神』の扱うスキルの効果が半減する。その分『勇者』や『女神』が扱えるような技は使用できない 全ての武術の習得が可能になる この世界に存在する武術が習得できる。ただし剣術は剣の素振りや型がわかる程度でしかない すべての格闘技が理解できる 全ての『異能』の力が分かる。理解している

『勇者』や『女神』が持っている固有能力が扱え、この固有能力を扱う際の制約などが消滅する。またこの世界には存在していない特殊な『超能力』の類が扱えるようになり、その『超能力』の威力と操作精度が増大する。また、この『超能力』を使用する際の負荷が減少する この世界に存在しているありとあらゆる『異能』に関する文献を瞬時に読み解き。その書物の内容を完全に覚えることができ、この『異世界』で起こることが未来を含めて全てがわかるようになる

『大賢者』により、自分の望む知識と経験を得ることができる この世界で得た戦闘経験を元に自分が一番効率の良い戦い方が行える 自分が望んだ結果になるまで、何度でもやり直しを行う事ができる 自分に不利な状況であってもそれを打破する方法を考え出し、実行することが可能。また一度成功すればその行動を繰り返すことができる この世界に存在せず、自分で想像した事象を現実に反映させることが出来る イメージ通りに現象を発生させることができ、自分の意思でその発生を停止させることも可能

『魔王』を倒すことで得られる経験値が2倍になる レベル上限がなくなり、成長限界が無くなる

『女神』を倒すことで入手できる経験値が通常の10倍に跳ね上がる ==『魔王』を倒した後、『魔王』を殺した者に『異能の世界防衛軍』にスカウトするために現れる 女神の姿は、白い服を纏った黒髪ロングの少女の姿をしており、胸は小さい しかし実は少女は人間ではなく『女神』そのものなのだが。人間のように振る舞うために見た目を弄っていただけで本来は『魔王』と同じ姿をしているのである。

「勇者召喚によってこの世界にやってきた『勇者』に『異世界防衛軍』に入って欲しい。そのために私が『異世界防衛軍』の本部基地から君たちのところに『異能の勇者』である妹を連れてきたのよ。そして妹と一緒にこの『異世界』の平和を守る為に戦って欲しいの」

『異能の世界』の『異能』とは??

(例、ステータスウインドウ、インベントリボックスなどなど。ゲームに出てくるような言葉や道具の呼び方は全てこれに当てはまると考えて良いです)

(基本的に異能力で作り出した物は壊れることはありません。しかし『破壊不能』と言うわけではなく、時間が経過すると破壊されていきます。これは異能力の『時間停止』で止めることが出来ます。異能力によって作られた物なので壊されたら新しく作り直す必要はありますが異能力で作られた物の破損は、修復可能です)

ちなみに『神器』と呼ばれる『女神』から『異能の世界』の人間に下賜される武器も、同じく『女神』からの贈り物なので、普通なら絶対に壊せないのです。ただそれはあくまで、壊せる人間が居なかっただけであり。もし仮に、それと同等の力を持つ『異世界転移』で現れた人間がいた場合に限り『神石』でできている神器を破壊して『異能力の世界』に持ち込んだという事例がありました)

(ちなみに、『異世界転移』で訪れた『異能の世界』の住人を殺さないように注意しなければならない。それは『異能の世界防衛軍』の隊員は『勇者』である妹が殺した人間は、殺すことができないからである。『異能の世界防衛軍』の隊長と副団長である双子姉妹の妹と姉の二人と妹で、妹を倒そうとしてくるが妹の強さは異常であり倒しても倒すことができず。それどころか妹の方が先に力尽きてしまい。妹は殺されても死ぬことはなかったが。しかし『異能の世界防衛軍』に入隊することになってしまう)

異能の力と異能 【異能の世界】では異能力というものが実在します。そしてその能力の中には『物理法則を捻じ曲げる異能』があります。これがどういう意味か分かりやすい例えを出すならば『火の玉が出せる』といったような異能ですね。しかし『魔法が存在する異能の世界』の場合はそうはいかないわけで、その『火の玉を出す異能』の使い手に対して別の人が魔法で攻撃したら、異能で生み出しているわけではない普通の火での攻撃だったので。火だるまになってしまい死んでしまう。と言った具合なんです。そのため異能と異能の力の相性次第では簡単に殺し合いに発展してしまうということなんでしょうね。それに異能の力は基本的に同じ種類のものしか使えない。例えば『異世界転移』でやって来た人の中に炎を操る異能を持つ人は居なかったのに、炎が操れるようになったりするということは起きないはずで、そういったことも関係あるのかと思います)

(『異能の力』についてですが基本的には。異能力と同じように考えても良いと思われます。ただ異能力と違う点を挙げるとするならば『異世界転移』の能力で来ることになった人たちには必ず、何かしらの特別な能力が与えられるという点でしょうか??)

(『勇者』『魔王』などの力についても、異能の力で作り出したような力と考えれば良いのかな?まあとりあえず説明的な部分はこれくらいにしておきましょう)

(ここからは少し真面目に書いて行きたいと思いまっす!『主人公(男/女)→名前→年齢→性格(熱血→冷静→優しい)→趣味→特徴(身長が低い/筋肉質/イケメン/頭が良い/可愛い/カッコいい)→強さ』の順に記載していくぞ~!!

『桐島信司 きりしましんじ 20歳 164cm

60.5kg

★☆★ 1章の序盤は主人公の視点から始まり、2話からは回想で3歳から12歳までの物語になるのでご期待ください 主人公が住んでいる国は日本では無く『異世界の王国アゼリスタ 』だ。

アゼルタとはこの国の昔の呼び方なのだが今は世界共通語となっているので日本から来た人も困ることはないであろう 主人公の家族は父と母と妹の四人で暮らしているが両親は仕事のため家に帰ってくるのが遅いため妹との2人だけの時間が多く寂しい思いをしている。そんなときに『勇者』に選ばれたことにより家に帰ることができなくなる。そこで主人公は自分の力で両親と家族を守ることを決意するのであった)

(異世界に来てしまったことへの混乱と不安、これから自分が何をしなければならいのかという困惑と疑問に主人公は頭を悩ませる。だがそんな中で自分を助けてくれた『女神』が言った「魔王を倒して欲しい」という言葉が頭の中で何度も響いた。しかし自分が魔王と戦えるような能力を持っているのかどうかが分からずどうすれば強くなれるのかわからないまま、魔王を倒すまで『女神』と共に過ごすことになるのだった)

備考:『女神』の加護 《異能力完全耐性》 → 《全魔法適性化》 →《異能魔法》 →《特殊魔法》 全属性の魔法が使用可能となり、さらにそれ以外の魔法も使用可能となる 《異能力者無効化》 →《無詠唱(SS-B→A+ EX Max)→無呪文使用可》 《無詠唱》で魔法の行使を行うことができる 無詠唱で魔法を使うことができる。また、呪文詠唱が必要ないので、発動速度が格段に上がる。

呪文を唱えることで効果が高まる魔法は唱える必要があり、その場合は、詠唱する必要がある 《時空間魔法》 → 《時空間超越(S-B)》 時間の進み方を変えることが出来るようになる 時間の流れがゆっくりになり、通常時と比べて動きが遅くなります この効果は異空間の中だけなので現実には影響が出ません。この時間は任意で変えることが可能 また、他の魔法で作り出した物体や物質を移動させることができるようになる。

この能力は『異能の世界』の人間の肉体にも影響を与えることができる 自分の体を異空間に隔離して自分の時間を早めたり遅くしたりすることも可能 自分の周りの時間を止めることも可能 ただし異空間の中だけに影響を及ぼすことができる 《異世界の勇者》として覚醒したことで手に入れた《異世界勇者》の力を使える ただしこの世界に来る前に持っていた異能と異能の力は弱体化する。その分『勇者』の扱うことができるような技は使用できない

(『勇者』は『異能』ではなく、あくまで『異世界防衛軍』に所属する者のことを総称で呼んでいるので『異能力の勇者』では無く『異能の勇者』である)

『異能の勇者』が持つスキルをコピーできる コピーした能力を使用することが可能

(ただし、この『異世界』に存在しないものは、複製ができない

『異能の世界』で手に入るような能力が再現できない)

(異能力とはまた違った『超能力』という異能の力がある また異能力とは違い。異能力で作れる物は『異世界』でも作れる)

(『女神』によって異能の世界に連れてこられた『異世界の勇者』が異世界にやって来るまでに過ごした記憶もそのまま引き継ぐことができ。その人物に関する詳細な情報も見ることができる。

『異世界の勇者』となった際に身体能力が大幅に向上するが、元の世界での生活や知識は引き継げなくなる 元の世界に戻った際には異能の力を失ってしまう この世界では異能力ではなく異能の力が普通に存在するので、それに対する対策が必要となる)

《勇者召喚》 異能の世界の『勇者』を呼び出す。呼び出された人物は召喚される際。

ステータスウインドウを表示させる能力を付与される。

異能の力は『異能力』や『魔術』、『呪術』などの一部のもの以外は全て使用することができる 《ステータス鑑定》 他人のステータスを見ることができる 【異世界】

【主人公】

桐島信司 きりしましんじ 20歳 176cm 62Kg BMI22 黒髪黒目。顔立ちはそこそこ良いが身長が低いことと筋肉質でガタイがいいために、よくて中肉中背、普通だと普通よりちょっと上のレベルの印象を与える 性格は冷静で優しいところがあり正義感が強い、普段は物静かで大人しめの人間だが。怒ると怖いタイプの人間でキレやすいタイプではないものの、家族のことをバカにされると、かなり怒ったりする。その反面。自分のことに対しては割と雑で面倒くさがり屋でもあるので適当に物事を終わらせようとする癖があり。そこだけはダメな人間なので直さなければと思っているがなかなか改善されない)

(異能の力に関しては、特に変化はないが『異世界防衛軍』に入ってから訓練を受けるうちに徐々にその力を発揮していく。そして異世界での初めての敵との戦いで『異能の力』である『勇者の力』と『勇者の証』が発現。これによって異能の勇者の力が強化されて、戦闘時に使用する能力が強化された ちなみに妹がいるらしいのだが妹の名前はまだ明かされない)

(ちなみに異能力の力は、『物理法則を捻じ曲げる』というものですが、『異世界の勇者』である主人公の場合、自分の周りの時間だけを『加速』させた状態で動けるようになる能力。つまり、相手の攻撃を『異能の勇者』のように回避することができるようになりました)

【魔王サイド】

(まず初めに言っておく。この話はあくまでも魔王軍の幹部である。四天王の1人の視点で物語を語っていく。ちなみに、私は魔王軍の幹部の1人である)

(我々魔族の中には、大きく分けて3種類の勢力が存在するのだ。一つは私たち魔王軍と。『神器』の使い手にして我ら魔王軍の頂点に君臨せし存在である。我らが主。魔王様に忠誠を誓う者 もう一つは魔王軍には属していない。中立の存在。しかし我々の邪魔をして回る。いわば害悪。そして最後が、魔王様に従わず。そして我欲の為に世界を滅ぼそうとする。いわば、邪教徒のような連中のことだ)

《登場人物》 《魔王軍四天衆》

(この話の中では名前だけしか登場しない。ただ四人とも強いということは間違い無いだろう)

《四魔将》

(これも名前しか出てこないが実力はあると思われる)

《魔獣将軍

ビーストロード ガルバ 》 種族:悪魔種: 魔狼王(まろうおう)/??/男/???/215???/B82 W64 H83/ 銀眼、白髪、長い髪の毛先だけが黒色、耳の先が少しだけ尖っている、身長175センチの筋骨隆々の大男 見た目的には厳ついが性格は温和。しかし自分の大切な人を守る為ならばどんなことでもする、そういう覚悟を持っている)

《鬼人

きじん 》 種族:亜人族: 吸血鬼(きゅうけつき)/女/23歳/156cm/45kg 黒い肌に紅く輝く瞳。銀色の長い髪をポニーテールにしている。赤い口角が吊り上がった笑顔を浮かべている。少しだけツリ目の美人だが。左の目に泣きぼくろ。服は着物を着ており。胸は小さい。

服装と雰囲気からはクールな雰囲気を感じるが、中身はかなりおっとりしていて、天然なところもある いつも笑みを絶やさないが、感情の浮き沈みが激しく。機嫌が悪いときは本当に機嫌が悪くなる。

普段はニコニコしていることが多い)

《魔蟲将軍

ワームジェネラル ゲオル 》 種族:悪魔種 蟲魔王(ちゅうまくそう)

昆虫魔王(こんちゅくまそう)/ 雄雌同体(ゆうめどうたい)

虫王(むしさるい)??????????/??/ 195???????/B95 W58 H88 白い髪のツインテール。目は緑色で。金色の王冠を被っている、身体が白く大きなマントをしているが。下はビキニアーマーで、露出が多くエロっぽい、 スタイルは抜群だが。貧相な体型のロリ巨娘。

喋るのは基本苦手で、たまに「うん」と「や」ぐらい。語尾に必ず『〜よ』『ね』がつく)

《死皇

デスマスター メフィラス》 種族: 悪魔種 死霊術師(ネクロマンサー)

/男

外見年齢:24~25歳(実年齢は不明。ただし外見上は二十代に見えるが実際は四十路手前だと思ってほしい)

1人称 俺、私(公式)

二人称 お前、貴方(通常)

貴殿(公式)、貴様(敵に対して)

一人称 私、ワシ、僕、某(場合によっては)、拙僧(通常)

二人称 お前、主(あるじ)、汝、貴様、呼び捨て、呼び捨てる、お主など(親しい相手)

三人称 あの御方、奴、彼、彼ら、皆の衆(味方)

基本的に偉そうな言葉遣いをする。そして自分が一番えらいのだから何をしてもいいという傲慢な性格で。上から目線で他人と接する)

《死王

デスキング サタン》 種族: 悪魔種 屍族 骸骨戦士(スカルファイター)??/?? 180 cm 75 kg 255/357(外見年齢は16)

赤黒い長髪、顔色は青白い、額には一本のツノがあり。両肩に漆黒のマントをつけており。鎧は全身を包み込んでいる、背中には一対の翼があり、足も鳥の様な鉤爪がある。右手に槍を持ち。左手には大きな大盾を持っている。その見た目から不死の怪物と思われがちではあるが、一応死んではおらず、生きている ただ心臓に杭を打ち込んで完全に動かなくなるようにしているため、二度と動くことはない。しかし本人は、死んだまま動いていることを気にしておらず。寧ろ、自由に歩き回れて。食事が摂れることを喜びとしている。

また『不死』というわけではなく。ただ、肉体を別の物に取り替えることができるため『再生』が行えるというだけであって、『不老』ではないため。年相応に老衰していき死ぬ ちなみに寿命は人間で言うと約150歳 口調は、古風というか武士みたいな感じ、敬語もちゃんと使えるが。あまり使わない 自分の命は『世界征服』のために捧げるという忠誠心が高い 《四天王》

(こちらも名前が出たのみ。特に能力等は明かされない。ただ強そうだ)

◆◆◆

◆◆◆

『魔人の呪いについて』

(まず最初に説明しておきたいことがある。それは『魔王』と呼ばれる存在に関してである)(我々が仕える魔王は、『神』や『世界そのもの』を憎んでいる)

(そもそも何故このようなことになったのか、それについては今から約500年前にまで遡る必要がある)

(かつて我々は他の世界の『勇者』たちと戦いを繰り広げた。その結果、魔王軍側が勝利を掴み取り、世界を我がものにしようと戦争を行ったのだ)

(結果は引き分けに終わった)

(だが、魔王が敗れたことにより、我々『魔王軍』は滅ぼされることになった)

(だがそこで我らの主は言ったのだ。魔王が死んだことで新たな魔王が生まれると)

(その瞬間に、我らは歓喜に打ち震えた)

(なんたって『神』は我々にとって『仇敵』であり、そんな存在に勝つことが出来たのだからな!だがここで疑問が生じたのだ。一体どこの誰が生まれた魔王なのだと)

(そこで我の眷属の一人に魔王を偵察させておいた。そしてその魔王を見た我らは、その魔王の生まれがどこか理解した)

(そう『人間』の腹の中で誕生したということだけはわかった)

(そして魔王はその生まれた時に『異能』を手に入れたのだ)

(異能とは、我々の使う魔術とは違う力である。魔王の『異能』には特別なものがあった。それが《勇者召喚》の力である)

(そして『勇者』として選ばれたものが呼び出されるという話を聞いた)

(そしてその『勇者』の力を持った『勇者』が誕生したと、我らは確信した)

(しかし、すぐに殺すことは出来なかった)

(なぜならその生まれた『勇者』はまだ子供で未熟すぎたからだ)

(魔王の力を十全に使うことができなかった)

(故にまだ殺せないと判断して監視を行うことにした)

(しかし、その時の我は、まさかあんな結末になるとは思いもしなかった)

(魔王が『救世主』としての力を持つ。そう告げられて。我らは驚愕に囚われてしまった)

(しかも魔王の見た目は『勇者』の『加護』を持つにふさわしい少女だった。だがそれでも我らには魔王が幼すぎると思い込み、まだ『聖剣』を授けるべき時ではなかったのだ)

(だが我らの判断ミスにより、我らは敗北した)

(『魔王』は成長し。我らに『復讐』を誓い。我々を倒すための『策』を用意し。我らを殺すことに成功したのだ)

『四天王』は魔人族に忠誠を誓っている。

しかし四天王には『魔人族至上主義』という考えはなく。全員が魔王のことを慕っている。

*

* * *

【勇者側】

(まず初めに言っておくがこの話の中では魔王と四天王の戦いが始まるまでの出来事しか語られていないので。それ以降の話は別視点の話から語らせてもらうことになる)

(魔王が『救世主』の力を得るのと同時に『異世界防衛軍』のメンバーが召喚されました)

(『救世主』として現れたものは全部で12名)

(『剣士』の加護を持つ者:『鈴木雄介』、『佐藤和真』、『加藤智弘』の三名は共に同じ高校に通う高校生であった)

(彼らは突然自分たちが置かれた状況を理解することが出来ていなかったので、とりあえず訓練を行うことになります)

(しかし、そこで一人の女子生徒が行方不明になる事件が発生するのです。彼女の名前は安藤彩音と言い、とても明るく活発で。正義感の強い女性で。クラスの中心に居るような人物でしたが。実は過去にとある問題を起こしていたことがありましたその内容というのが『いじめ』を受けていたというものです彼女も別にいじめを行っていたわけではありませんでした。しかしある日、偶然にも彼女は自分がクラスメイトに嫌われているということを知り、ショックを受けていました。そしてそれを見ていた男子が、その事実を隠してしまい、さらに噂はどんどん広まっていってしまい。気が付けばクラスの全員から陰口を言われるようになり。やがて彼女が不登校になってしまったのは必然の結果だったのかもしれませんその後、担任教師や友人などの励ましのおかげでなんとか立ち直った彩音は。もう一度学校に行こうと決心しました。そしてその日。学校の校門をくぐった時でした)

《ドォーンッ!!》

(轟音が鳴り響き、それと同時に地震のような振動が発生し。地面が激しく揺れ動き始めました)

(それは一瞬にして生徒たちを飲み込んでいき、生徒のほとんどを死に追い込み。教員のほとんども犠牲になった。それは、あまりに悲惨な出来事でした)

《バキッ》

「きゃあ!」

ガララララッ ズシャ

「うっ、なに?これ?何がどうなって」

(激しい爆発によって発生した煙が晴れていき。瓦礫の下敷きになっていた先生が意識を取り戻した時には、もう全てが終わっていました。そう生き残った者は一人も居なかった)

「いや、だ、誰か、助け」

ガシャン! グシャアアアッ ビチィ ブシュ ズルリ ベチャ メキメキ ゴキャア

(そこには血塗れの無残に破壊された学校と。変わり果てた姿の教員たち)

(まるで地獄絵図を彷彿させる光景が広がっていた)

《キーンコーンカーンコーン》

「あっ、予鈴が鳴ってる!?みんな早く教室に入ってください。ホームルームが始まりますよー」

ワァァ!ザワ ザワッ ダッダッタ

(校舎内に入った彼女たちは、急いで自分たちのクラスに向かって駆け出して行きました)

(しかしその途中。あることに気付き足を止めてしまう)

ピタッ シーン

(それは異様な雰囲気に包まれていたからだ)

(なんせ周りを見渡すと死人が沢山倒れているのだから当然である)

タッタッタ ヒソ コソ

(廊下ではそんな生徒たちの姿が見られる。そしてその視線の先にあるのは、死体がゴロゴロ転がっている中。一人で平然と歩く一つの影が目に入ってきた)

ヒソ カワイイ?

(そう、その謎の人物が通り過ぎる瞬間に聞こえてきた呟きはそんなもので。思わず声が出てしまっていた)

「あの子は誰?それに一体何があったんだろう?」

ゾクッ

(するとなぜか、言い知れぬ悪寒が背筋に走る。それは『死の恐怖』を感じさせられたのかもしれない)

(その人物はただ歩いていただけだというのに。なぜそのような感覚がしたのか分からない)

(でも確実に言えるのは、あの子に関わると何かが起こるということ)

(だからこそ、この場で誰も彼女に近寄らないというのは、正しい判断だろう)

(だってもし話しかけてしまったら、きっと大変なことに)

スタスタ ガチャ ガタンガタン ガタンゴトン プシュー キュルキュルル「おっはようございます!お兄ちゃん!!」

ガシ

(いきなり飛びついてくる女の子)

ギュウ

(抱きしめられ身動きが取れなくなる)

ムニッ モミッ

「えへぇ~やっぱりいい匂いがしますね。安心します♪それと私がいない間。浮気とかしてないですか?」

(なんと美少女にハグされて質問されているのだ。これで嬉しくならない男はそうそういない)

「おい。俺にこんなことしている場合じゃないぞ。今日は一限目から体育があるんだ。遅刻したくないなら今すぐ離れた方がいいと思うぞ。あとそろそろ胸から手を離してくれないか?」

「そうですね。それじゃあさっさと離れるとしますか。というかそもそも、なんで私は電車に乗っているんですかね?普通に学校に行ってるはずなんですけど。あっそうか。お昼休みまで時間潰すためにわざわざ遠くまで行ったんでした。というわけで今度こそ離れて下さい。今すぐにです」バッ

(急に飛び退いたため、慣性の法則が働き後ろによろめいてしまう)フラフラッ ガン!「あいたぁっ」

ゴンッ

(頭を打ったことで視界に火花が散り。俺は気を失ってしまった)

◆◆◆

◆◆◆

(目が覚めると見知らぬ天井が見える。しかしなんとなく予想がつく)

キョロ

(起き上がり周囲を見渡してみると。ここは病院だとわかった)

(そして隣には椅子に座る白衣を着た綺麗な女医さんが居る)

「あら起きたみたいね」ニコッ

(笑顔を見せる彼女だが、少し怖いものを感じた)

(何故かというと、その笑みが明らかに作り物だということに気付いたからである)

(そしてその微笑の裏に隠れた殺意のようなものを感じる)

サッ

(思わずその場から離れようとする)

ダン! ドン

「動かない方が身のためだと思うわよ」

(壁に両手をつけ逃げ道を塞いで来たのである。完全に退路が断たれてしまい、絶体絶命な状態に追い込まれたのだ)

(だが俺は諦めない)

(だってこんな美人な人と密着なんて滅多にないことだからな)

(だからもう少しこの人と一緒に居たい)

(そんな風に思った時だった)

ガラララッ パタンッ

(扉が開かれて誰かが部屋に入ってくる。一体誰が入ってきてのだろうと、そう思い顔を向けると見覚えのある顔の人物が現れた)

ドッドドッン

(彼女はなぜかこちらを見るなり走り出し、そして俺に抱きついてくる)

(柔らかいものが身体に当たる感触)

(そして香ってくる甘い香り)

(これは夢ではないだろうか。何故ここに居るのかは分からないが。彼女はとても懐かしく感じる存在なのだ)

(そして彼女を見るとなぜか自然と涙が込み上げてきた)

「彩、乃?」ボソリ

(その声を聞いた彼女は一瞬だけビクリとしたが。それでも必死に首を縦に振り)

「は、はい。私は、あなたの、妹。ですよ。姉様」ポロッ ポロ ポロ ボロ

「会い、たかった」

(気が付けば、彼女を力強く抱きしめていた)

スリスリッ ギュウゥゥ

「ちょっ、お、お兄、ちゃ、ん、力強すぎ、る、です。こ、このままだと骨が折れます。折角また会えたので死んではダメなので、もっと優しく、抱きしめてください!」

ハッ

(我に返った時。そこには恥ずかしそうな表情を浮かべている少女がいた)

(その仕草がなんとも可愛らしく。思わずニヤけてしまう。それは仕方がないことだった)

ニコ

(だからその照れた表情を見たくてつい意地悪をしたくなった。その結果)

「ごめん、痛かったよね。彩」(そう言うとその頬に手を当てて撫でるように触れてやる)

(彩乃の顔をまじまじ見るとやはり、昔の可愛い妹の姿が重なる)

(それは当たり前だ。彩乃は彩乃で彩音は彩音だ。双子なんだから)

(そして目の前の彼女の名前は安藤彩音だ。つまり、俺がずっと探していた。そしてやっと再会できた双子の妹ということになる。そして彼女がこの世界に転移したということはおそらく『救世主』の力を手にしたということなのだろう)

(そうでなければ彼女が生きている筈がないからだ)

(彩音が死んだ理由は、その時に『勇者』と『四天王』との戦いに巻き込まれ。『魔剣王』の攻撃で致命傷を負い、その一撃で息絶えてしまったのだから)

(しかし、それはあくまでゲームでの話。だから現実となった今では、『魔人王』にやられて死んでいたのかもしれないが。まあ、今は関係ないことだ)

(そしてもう一つ重要なのが、どうして、彩音がここの世界に来たかという理由である)

(恐らくではあるが、その力は間違いなく【救世主】の称号によるものだろう)

(ただその力を手に入れる為に、どれだけ過酷な人生を歩んできたかはわからないが。とりあえず彩音のことは、これから家族として受け入れていくことは決めている)

(ただまだ問題はある。その力を『魔神』が手に入れたという事。奴を倒す為には、彩音の力が絶対に必要になる)

(それにしても、本当に生きていて良かった。まさかこんな奇跡が起こるとは)

(いや違うな。これもきっと『神』の思惑なのかもしれない。なんせこのゲームは『女神』と俺の二人でプレイしているのだから)

(だからこの世界の創造者であるあの女なら何かを知っている可能性が高い)

(ならばさっそく、この世界で何が起こっているのか、彩音から色々と話を聞かないとな)

(そのためにまずはこの子を、しっかりと甘えさせてあげよう。そして、心のケアをしないと)

(だって彩乃にとって一番大切なのはその心。感情の起伏によって現れる精神世界に住むもう一人の彩なのである。そしてそここそが、俺の妹であり、本当の家族でもある場所だから)

ポンポン ナデナデ

(そしてその日。俺は久しぶりに再会した妹の彩と長い時間。一緒に居たのである)

コン コン

「どうぞ、お入り下さい」

(そのノックに応えるのは俺の声ではなく、俺の愛する女性、リリスの透き通るような美しい声が室内から聞こえる。それは俺の気持ちを表しているようで嬉しかった。俺は今、彼女と待ちに待ったデートの日を迎えたのである)

「おはようございます。リリス」

(その言葉を口にするだけで、胸がドキドキとする。それほどに緊張をしている。でもそれと同時に幸福感が胸一杯に広がる)

「ふぅ、はぁー。おはようございます、タクミさん。今日は、よろしくお願いしますね。うっ」

(挨拶を終えた途端、苦しそうな声を上げる彼女。その様子はとても辛そうに見える)

スタッ ストンッ

(心配になった俺は、駆け寄り彼女に触れると、それはまるで氷のように冷たくなっていた)

「な、何をしたんだ!君は一体彼女に何を吹き込んだ!?こんなに体調が悪い状態で外出するなど無理だろう!早く病院に連れて行くんだ!」

「あらあら〜、お熱はないようですが、もしかしたら疲れが出たかもしれませんね〜」

ペタ ペタ ピトッ

「はっ!そ、そうだ。体温を測るんなら、私がやりましょう!私のスキルで調べれば一発でわかるでしょう!な、なんて優しいんでしょう。わ、私!感激です!」

「いえいえ〜そんな大袈裟なぁ。それよりも私はあなたを看病するためにここにいるんですよぉ?それくらい私にさせてください。ね?」

ギュム

(その瞬間。背後から腕が伸びてくる)

「そ、そうですか。なら私は部屋に戻っていますね」スタスタ

「そうしてください。お邪魔虫さんは私達には必要なありませんからねぇ」ニッコリ

(なんとも言えない迫力があるなぁ)

(なんか最近思うんだが、最近のリリスさん。結構怖かったりするんだよね。なんと言うか目がマジなんだもん)

「では早速失礼して。ちょっと手を貸りますよ?ってひゃっ。な、なんて冷たいんですかね」スッ

(彼女はそう言って、額にそっと手を当ててきた。だが次の瞬間、驚いて手を放してしまう)

ピキィィン

(すると、そんな音が聞こえたかと思うと、突如、体が重くなる感覚に襲われる)

バタッ

(その場に膝がついて倒れる俺)

グラァ

(そして意識を失う寸前。リリスさんの驚いた顔と。俺の視界に見えた『魔道具』を手にして笑みを浮かべる彼女が見えたのは幻ではないだろう)

――俺は夢を見た 俺は夢の中で、いつもの夢とは違う、とても懐かしく。そしてとても愛しく感じる女の子と一緒の時間を過ごす夢を見たのだ そして俺達は幸せだった時間を思い出しながら楽しい時間を満喫していた。その女の子は、彩乃と名乗ったが。俺のことを『兄』と呼んだ。だから、その子は俺の大事な妹なんだ。だから俺は、その子が安心できるような。守れるぐらいに強くなったら。今度は本物の妹にしてやりたいな、なんて思ってたりした そして、俺はこの世界で生きていこうと思った。だからその為にも、俺はこの世界での使命を全うしようと決意した。それが俺の生きる意味であり、生きていく為の唯一の希望なのだから そうして俺は目覚めた

「知らない天井だ」(この台詞を言いたいがために転生したことを思い出せる)

ゴソッ

(布団の中に人の温もりを感じる)

スッ

「あ、起きたみたいですね。大丈夫でしょうか?」

(そこには美少女の顔がドアップで見える)

「あ、ああ。なんとか大丈夫だと思うよ」

(そう言うとなぜか頬を赤らめる美少女)

ポッ

「良かった。急に倒れたから凄くびっくりしましたよ?」

「そうだったのか。それはすまなかった。ただその前に聞きたいんだが、君の名前を教えてくれないか?」

「あ、はい。私は安藤彩乃と言います。一応この学園で、魔術の教師を担当しています」

「なるほど、安藤先生だったのか」

「それであのー、さっきまで、お話していたのですが。覚えていますでしょうか?」

「んー。なんとなくだが。その記憶はあるかな」

「そうですか。それならよかったです」

(何故かホッとしたように胸を撫で下ろす安藤)

スッ

(安藤は立ち上がるとこちらに手を差し出してきた)

「では私はこれで帰りますので、今日はありがとうございました。あ、あとそれとですけど。これから何かあったときは相談に乗ってもらってもいいですか?ほ、他の人には少し話しづらいというか、なんといいますか」

モジモジ

(安藤の恥ずかしそうな表情を見て。自然とその手を取ってしまう)

ガシッ グイイッ グイー

「もちろんだ。俺は君のお陰で生きていると言っていい。だからこそ遠慮はいらない。いつでも頼ってくれて構わないぞ。まぁもっとも。俺に出来る範囲であればだけどな」ニコッ

(俺は微笑を浮かべると。安藤は顔を赤く染めて恥ずかしそうにしていた)

フワ

(そしてそんな俺たちの間に割り込んでくる少女)

ズザァー ドン

(俺の目の前に立ちはだかる様に、勢いよく飛び出した少女は安藤を守るようにして立ったのである)

「だ、誰だよ。いきなり」

「彩音様から離れなさい!それ以上近寄れば攻撃しますよ!」

キッ

(鋭い眼差しで俺を睨む少女)

「お、落ち着けよ、彩音ちゃん」

ナデナデ

(とりあえずこの場を収める為に彩音に声をかけるが。やはりその視線が俺に向けることは無く)

ギロリ

(むしろさらに強い殺意が俺にぶつけられる始末)

「な、なんなんだ、お前は!さっさとここから出ていけ!この変態!」

ブンッ

(拳を握り締め、今まさに殴りかかろうとする彩音の手首を掴み止める俺)

パシィー

「おい、それは止めろ。俺だって別に何もしないわけではないぞ」

ギリギリ

(俺が彩音の手首を掴んだことで怒りの形相をする彼女)

ビリッ ビリリリィ

(そんな時。部屋の扉が開き、入ってきた人物に目を奪われる彩音)

「あー!もう。こんなところに居たんですか?全くどこに行ったのかと思えば。彩乃さんと一緒にいたんですね」

ニコニコ

(部屋に入ってくるなり嬉しそうにはしゃぐ女性。そして彼女はその声を聞くと、先程までの怒っていた様子が嘘のように笑顔を見せる)

スタッ ストンッ

(彼女はベッドの前に立つと。まるでお姉さんの様に彩音を抱きしめたのである)

ギュム

(彩音が突然抱きつかれて、困惑気味なのを良いことにその豊満な胸に押し付けている女性。それを見て嫉妬した俺は思わず)

バッ

(彩音を奪い返そうと飛びかかるが)

「うっ」

(そんな俺に気がつき振り返った女性は、ニヤリと笑みを浮かべるのと同時にその手に握られたスタンガンのようなモノを俺に発射したのであった)

「うわぁぁぁぁぁ」

(俺は断末魔の叫び声を上げつつ、意識を失っていくのである)

――俺はまた夢の続きを見た 俺はその世界にいた そこは見慣れない世界だったが、俺には全てわかっている これは夢の世界 現実とは切り離された世界 そこに居る人間や生き物達は俺と同じ姿 そう、それはもう一人の俺自身 もう一人の俺は自分の姿をしている 鏡に映った自分の姿 その姿をしている俺は、今まさに誰かと戦っているようだ

『魔王軍』と呼ばれる人間達の軍勢 俺はそれを見ていることしか出来ない しかしもう一人の俺はその軍勢と戦うことができるらしい 俺と瓜二つの存在である彼は、俺ではないのだ 何故ならその手には剣ではなく銃を握っている その銃口を向ける先は相手 そして引き金を引く度に相手が一人。また一人と倒れていく そう、それは虐殺と呼ぶべき行いだった だが俺はそれでも構わなかった 彼がそうすることで皆を救うことが出来る ならばそうすればいいのだ だから俺も戦う 俺が戦えと願えば俺が動くだろう しかしもう一人の俺が戦ってしまっていては。もはや俺の意思で動くことは出来ない ただ俺は傍観するのみだ 俺は彼の戦いを見守るしかないのだろうか

――目が覚める そして俺は理解してしまった 俺に残されている時間はあまり残されていないということに そして、その時が訪れてしまう

「はぁはぁ。くそ、なんだこの強さは。一体どういうことだ」

(血だらけになりながらも。どうにか相手の攻撃を受け流すことに成功)

サッ

(俺は咄嵯に身を屈め、回避を試みるが)

ピシュン

(そんな隙を逃すことなく俺に向かって飛来してくる銃弾)

バタンッ

(銃弾が俺の頭部に命中したことにより。その場に倒れる)

カチッカチカチッ

(そしてその銃弾が、何度も俺の体に突き刺さり続ける)

ピシュッ

(その度に意識が遠のいていくのを感じつつも)

スゥー

(俺は気合だけで意識を保っていた。なぜなら、俺が倒れた後。すぐにあの連中がここに来ることが予想出来たからである)

「クソッ。まさかここまで強いとは」

「どうなっている?あれだけの銃弾を受けてなお、まだ息があるだと?そんなことあるはずがないだろうが」

バタッ バタァァーン

(そう言いながら倒れる兵士達)

「ちっ。使えない奴等だな。おい。こいつの体を拘束しておけ」

スチャ

「了解です。しかし隊長。こいつを捕らえてもよろしいのでしょうか?」

「かまわん。それにこの男を捕まえたら報酬が支払われると国王からの直々のお達しだからな」

スラッ

「そうですか。それは何よりです」

(そんな会話が俺の耳に届く)

グッ ギリリリリ ガッシャァァーーーン!!(俺は縄で縛られる)

ガチャッ キィッ ガラララ

(そして扉が開かれると。俺の目に入ってきた光景は『勇者』と呼ばれる者共の姿だった)

「貴様か、私の部下を倒した愚か者は?名を名乗れ」

(俺の前にやってきた【アリティア=アブレイム】)

「俺は政宗。『魔導士』の伊達政宗だ!」

(俺の口から自然と出た台詞に、一瞬驚く素振りを見せた【勇者】)

「ふん。政宗か、まあいい。私の名はアリエル。『聖騎士』の勇者だ。覚えておけよ」

(名乗りを終えたかと思うとその剣を振り下ろす彼女)

スパッ

(首から先が宙を舞う俺の体)

ドサッ

(俺は地面に転がるとそのまま二度と起き上がることはなかった)

ゴトッ

(その生々しい音が、どこか心地よく感じたのは、きっとこれが俺にとって最後だったからであろう)

スッ

(その音を聞いて。俺の視界が真っ赤に染まっていく。だが俺の体は指一本動かない。動こうにも既に死んでしまっている為。動くことができないのだ)

(その状態で俺の目が最後に見たのは、この世界でたった一人の妹の顔。俺の最愛の妹である彩音の姿だった)

フワッ

(そして、そこで夢は終わる。まるで何かに強制されているように、俺はこの世界を彷徨う。まるで自分が自分で無いような。そんな感覚に囚われたのも束の間。俺はすぐにそれを理解することとなる)

――この世界の俺。俺自身が死んだことによって、本来のこの世界の仕組みを俺が引き継いでしまったからだ

「なんだ?急に立ち止まって。いったい、何を考えているんだ?さっきまであんなにも暴れていたというのに。今は何か別の事を考えていて忙しくないのか?それとももう、体力が限界なのか?ん?どうなんだ、政宗」

ギロッ

(睨みつけてくる【神童 アリスティリス】。しかしその表情は、何故か嬉しそうに微笑んでいるようでもあった)

ニコッ

(その表情を見た俺はゾクリと恐怖を感じた)

ガタブル

(その瞬間に思い出したのは俺が彼女に殺されたときの映像。俺にはわかるのだ。彼女が次に言う言葉が何であるのかを)

「おい。聞いているのか。私は質問をしているのだが」

(彼女の声はまるで死刑宣告のように聞こえた)

「あぁ、すまないな。少しばかり考え事をしていてね」

フッ

(しかし俺にはそれが出来なかった。今の俺は俺ではないのだから。しかし、それでは困るのがこの目の前にいる【神童 アリスティリス】である)

「お前というやつは、まったく仕方がないな。ほらっ。いつまでもぼさっとしているなよ。さっさと来ないと、置いていくぞ!」

タッタッタ

(そう言って駆け出す彼女)

「あ、ちょっと待ってくれよ。全くせっかちだな」

(その背を追うようにして俺もまた歩き始めた)

――こうして再び始まる悪夢の旅路 俺はまたあの世界に戻ることが出来たのかもしれない だが俺の知る現実とは、少しだけ違った未来へと進んでいくのだった

――俺の名前は伊達政宗 そして俺の横には、妹の彩音がいる しかし、俺の記憶の中にある彩音とは姿形が全く違う姿となっていた そして俺は俺が彩音にしたことを思い出していた

――彩音には俺以外に家族がいない いや、彩音と本当の姉妹として育った双子の妹。『彩音』という名の女の子はいたが、その彩音は今現在行方不明になっているらしい そしてその『彩音』が生きていた時代というのが俺達が生きてきた時代から約1000年後の未来だということを。俺はつい先程、俺を殺してくれた『聖騎士』の少女によって知らされた

――俺は、その時代に飛ばされ、彩音と出会い、そして殺した。それは俺にとっては苦い経験となった 俺はその事実を思い出すと、思わず嘔吐した しかし吐いた後に俺は気づいたのだ「そういえば。俺が死ぬ直前に見た、俺に似た男が俺の前に出てきたということは、あいつが俺を助けにきてくれたってことなんだよな。でも俺はあいつを知らないし、一体どういうことなんだ?あいつはなんなんだ?」

(俺の疑問に対して答える者はいない。しかし俺の中に芽生えた違和感の正体は恐らくそこにある気がする)

――俺とよく似た存在 そう、それはもう一人の俺だ だがもう一人の俺と俺は同一人物じゃない だってもう一人の俺は既に死んでいるのだから 俺と俺とは違う人間だ もう一人の俺が助けに来てくれた理由とは一体なんだ もう一人の俺の思惑は何なんだ? しかし俺の思考は、その答えを知る前に途絶えることとなるグシャ

(それは突如、現れた巨大な腕に握り潰される)

ガシャンッ

(それと同時に、俺は意識を失ってしまうのであった)

◆ ◆ 俺の名はアリティア アリエリオス王国に仕える騎士団の一人にして、最強の剣士と呼ばれる存在である

(そんな俺には最近悩み事がある。その相談相手とは、この俺が隊長を務める部隊の部下であり。同時に親友と呼べる関係の男。そう、その名は)

ガチャッ

「アリティ、来たぞ」

バタンッ

「おぉ、遅かったな【神童 アルスティリス】」

スタスタ

(俺の言葉を聞いた彼女は。いつもの席につくと俺に向かって)

「ふっ。相変わらず時間通りなんだがな。それよりも例の話についてなんだが」

コトンッ

(そう言いながらテーブルの上に置く一つのグラス)

「お、今日も酒を持ってくるとはな。流石だなぁ。でっ、話はそれからだ。飲め」

トクトクッ シュワー

(酒を注ぎながら話をする俺)

「おう、頂くぜ」

カチンッ

(二つのコップを合わせて乾杯をする)

ズッ

(そして俺とアルスは一気に酒を飲み干す)

カッ

(そんな二人を呆れた顔で見守る俺)

「また二人で酒盛りか?まあ別にいいけどさ。それで?話っていうのはなんだ?」ゴクリッ

(俺の問いに、一度口をつけただけで。直ぐにグラスを置くと真剣な表情となるアルス。そしてその瞳を見つめると、俺に向かって問いかけてくる)

「ああ、この前の襲撃の時にな。妙なことがあったんだよ」

「んっ、襲撃って。この前の魔族との戦いのことだよな?」

(そう、俺達の敵はこの魔族の国でもある【アゼリア帝国】。俺達が所属する国は【アブレイル皇国】なのだが、このアブレイル皇国に魔族の国が侵攻してきてから、俺達、アリエス皇国軍は何度も魔獣の国【バルナシア共和国】から送られてくる援軍と共に撃退してきた。そう何度も何度もだ。しかし、俺達はその度に苦戦を強いられてもいた)

「いやっ違う。この前は違う奴等だったんだ。だから俺の言う妙なことというのは。その襲撃とは別件で起こったことであってだな」

ゴソゴゾッ

(何かをポケットから取り出すと。それを俺に差し出してくるアルス)

パサッ

(それを俺は受け取る)

「これは?手紙か?」

「ああっ、俺が見たことも聞いたこともないような国の連中が書いた手紙なんだ。そしてその中にはこんな事が書かれていたんだ。俺の隊に所属していた部下が殺された、ってな」

ギラッ

(その視線を受けた瞬間。思わず恐怖を感じる俺)

ブルブルブル

(いかんいかん、俺は恐怖に負けてなどいられない)

ゴクンッ

(そう自分に言い聞かせると唾を呑み込む俺)

スッ

「そいつの名前はなんて言うんだ?」

ペラッ スッ

「えっと、【神童 アルスティリス】。お前と同じ名前だけどな」

(そう言った後。俺は彼女の持っている手に持つ紙をひったくるとそれに書かれている文字を読み上げる)

【アリエルへ】

俺の仲間を返して欲しければ。【神童 アルスティリス】を渡せ

「おいっ!この【神童 アルスティリス】を渡せだと!?」

バンッ

(俺は思わず大きな声で叫んでしまった。そしてすぐにハッとすると周りを確認する。しかしどうやら誰もいなかったらしく)

「よかった。みんな寝ているようだな。いやっ、今はそんなことを気にしている場合じゃない。アルスが攫われたということだろう?それなら、直ぐに探さないと。アルス、何かその手掛かりになりそうなものはあるのか?」

ゴゾゾゾゾゾ

(何かをポケットにしまい込みだすアルス。しかし何かを思いだしたかのように、手をポンっと叩く)

ピタッ

「ああっ、それならば確かここに【神童 アルトリアス】という男が使っていた。その【神童】と書いてある仮面がここに置いてあったはずだ」

「ん?【神童】のマスク?そんなもの、どこにあったというんだ?」

(するとアルスは立ち上がり部屋を出て行くと)

ガサガサ ゴゾゾゾゾゾ

「ほらよ。これが、その仮面と服。そして剣が一振り」

(そう言って持ってきたものをテーブルの上に乗せた)

「あぁこれだ。これだよ。俺もこの仮面を被ってたから間違いないな。うん」

ガシャッ クルッ

(俺は自分の頭に【神童のマスク】を被り、剣を構えるとその剣を振り回し始めた)

ジャキキンッ シャキーンッ

(俺は【神童の鎧】を着込むことによって【アリティリオス】へと変身した)

バッ ドォン

(そう、俺はこの姿になると【勇者】の力を手に入れることができる。そして俺はアルスとこの城から飛び出していったのである)

「おい。政宗、起きろ。お前、本当にここで何をしているつもりだ?」

(そう、目の前には【聖女】の姿になった彩音がいた)

「彩音?俺はお前なんか知らないぞ」

(目の前にいるこいつは一体誰だ?)

「おいおい、何を言う。彩音とは、この彩音のことでは」

(そう言う彩音に対して俺は無性に腹が立ってきた)

(彩音の顔は間違いなく俺が殺してしまったはずの妹の彩音であるはずなのに)

グシャグシャグチャグチャグシャグシャグシャグシャッ ズズッズザザーッ

(俺が怒りに任せ、彩音だった者を殴り続けている間。俺の中にいるもう一人の俺が囁きかけてくる)

『俺には分かるんだよ。あいつは本物の彩音ではないと。あいつの魂があいつの中には存在していないのが。そして俺はあいつを知っているんだ』

ガブッ

(もう一人の俺の言葉を聞いた時。彩音であった者が苦しみ始めると口から血を流し始めた)

ビタァーンッ

(そして地面に倒れる)

ブシュー

(そしてその光景を見た俺は彩音であったものの体を切り裂いていく)

バキャッバキッ

(しかし彩音であった者は、既に絶命していた)

「チッ、死んじまってやがる」

ポロッ

(手に持っていた【魔人のマスク】が落ちる)

スッ

(そして俺は【魔人 マゼンティス】へと姿を変えると、この世界のどこかに存在すると思われる、もう一人の俺を探してこの世界を駆け回る)

バタンッ スタスタ

(その頃。俺の部下達は俺の指示でこの城の兵士達を皆殺しにした)

◆ 私はこの世界に召喚された時に見た光景が忘れられずにいた あの日。私達、勇者は魔王軍の幹部達と激しい戦闘を行っていたの。それはまるで地獄のようだった。だってそこには多くの仲間達がいて。そして私達の国の兵士たちの死体だって山のように存在していたのだから。でも、そんな中で一人の男の子を見つけたの。

その少年はとても不思議な存在で。私のことを救ってくれたり、この世界では見ることがない魔法を使うことができて。しかも、その力は私なんかよりも強く。そんな彼を目にするうちに私の心はどんどん彼に引き寄せられて。

でもそんな彼と一緒に戦うことが嬉しくもあり。同時に彼の強さに憧れを抱くようになっていった。だから彼が魔王の幹部を倒した後に見せた素顔の姿を見ても特に驚かなかったの。

(むしろ。それが本来の姿ではないということを理解した上で)

(本当はそんなに強い力を持っていなかったんじゃないかなって思ってしまった。だってそうよね。そんな凄い力を持っていながらあんなにも優しく接してくれるなんてありえないもの)

(そう思うようになったのは私が恋をしていたからだ)

スゥー

(だから私達は、そんな彼を守りたいと、支えたいと思うようになっていって。そして、いつしか彼は皆から【英雄王 アルトリアス】と呼ばれるようになった)

フワッ スタスタ

(私は、今からこの世界で最強の力を持つといわれる男に会いに行く。もしもその男が私と敵対関係になってしまっても後悔はしないと決めていた)

スタスタス

(なぜならその男は【魔王軍四天王】と呼ばれる最強の一人だから。そんな男を相手にするには。きっと私は命を落とすことになるだろう)

スタッ ピタッ

(そしてその部屋の中に入ると、そこに居たのは一人の若い男の人であった)

「よく来たね。僕が魔王の【アルティアネス】だよ」

(アルティアネスは笑顔で話しかけてくる)

ニコッ

(その姿を目で確認した瞬間。なぜかこの人を一目で好きになってしまった)

(そう思ったのは初めてのことだった)

(その瞬間。何故か分からないけど、今まで味わったことのない感情に戸惑ってしまう。どうしていいのか分からず。そして胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる)

ドキドキッ

(鼓動が激しくなり息苦しくなってくる)

(しかし、その時。そんな私を助けてくれるかのごとく)

「大丈夫かい?」

(優しい声をかけられただけで救われたような気持ちになってしまう)

スッ

(思わずその人に寄り添うようにしてしまう)

トクンッ

(この人の側にずっと居たいという欲求が生まれる)

(こんな風に感じてしまう相手は初めてだった)

(そんなことを感じたのは、初めてだった)

「あっありがとうございます」

(私は、思わず感謝を伝えてしまった)

ペコリ

(しかし、アルスはその言葉を耳にした直後。その顔を赤くして、あたふたしだしたのだ)

「べっ別に礼を言われるほどのことじゃないよ」

(そう言うと、アルスは少し離れて椅子に腰掛けると。何か考えごとを始め出したのである)

「あっあぁそうだな。君の名前は確か、【アリエル】だったかな?」

(アルスがそう言うと私は、なぜか急に怖くなった)

ビクリッ

「あぁああああ、あの。はいそうです。アリエルと言います」

(つい、反射的に答えてしまったのだけど。それを口にしてからしまったと思った。なぜなら、その名前はこの世界では有名な名前の一つなだけに。この人はそのことを知っている可能性があると、気づいたからである)

「なるほどなぁ。そう言えば【聖女】の名前も同じ名前だし。そのせいかもしれないが君の魂からとても強い力が感じられる。その証拠になるかわからないが僕の持っている剣を貸すから使ってみるといい。まぁこの剣を使えこなせるのならだけどさ」

(そしてアルスが差し出してきたものを見るとそれは【聖剣】であった)

ゴゴゴッゴ ギラギラッッッッ

(俺は【魔剣士】の力でステータスを確認する。すると【神剣 ザハークソード】と言う名の剣を使えるようになっていた。さらにそれを鑑定すると。能力の欄にとんでもない数字が書かれているのを確認する)

(えっ!?なんだこれ!?なんで?俺まだ何もしてないんだけど!?これ、絶対に普通じゃないよ!?どういうことだ?)

「あぁどうやら、君はもう【聖剣】を使えるようになっているようだね。よかったらその力でこの世界を平和にしてみてくれないか?」

(そう言うとアルスは、また机に向かって仕事に取り掛かろうとし始めた)

ガタッ スタッ

(そう言うとアルスは立ち上がり。俺の方を見てくると真剣そうな表情をして話を始めるのだった)

ゴゴゴゴッ

「それでだ。僕は今からある人物を倒しに行きたいと思っているんだが。それに協力してくれないだろうか?報酬は十分に出すから」

(俺が断る理由はなかった)

コクッ

(そう俺が返事をするなり)

パチンッ

(指を鳴らしたかと思うと)

ドォンッ

(アルスの背後にあった窓の外には俺の仲間たちが集まってきていて、その中には見知った顔もいた)

ゴホッ

(そしてアルスの手には【転移門の鍵】が握られているのであった)

◆ ◆ ◆

「おっと、そろそろ【魔王軍】のみんなと合流できるみたいだよ」

(そうアルスが言うと。この部屋にいた【アルティアネス】と【聖女のアリティリオス】以外の人達の意識が途絶え。その場にいるのが【アルティアネス】だけになると、アルスの前に一人の女性が現れる)

ボワンッ

(するとアルティリアは驚きの声を上げた)

スッ

(そして彼女は【神眼の巫女】の力により、自分の目を覗き込んでくる。そこで彼女が自分にとってどのような存在であるかを知ることができた。そう。この【魔王 アルテニアス】こそがこの世界に【魔王】を呼び出した本当の首謀者なのだということを知ることができたのである)

「お久しぶりですね。私ですよ」

(私が【魔王】に声をかけると【魔王】は、まるで信じられないものでも見るかのような瞳を向けてきて。それからしばらく固まってしまっていた)「本当にあなたは一体何を考えているんですかね?」

(【魔王】はため息混じりに呟くと呆れたような様子で尋ねてきた)

「それはもちろん。私のために動いてくれているんですよ。この世界を私の手に取り戻してくれるためにね。そしてその障害となる存在は、例え誰であっても私の敵。ならば排除する。当たり前の行為ではありませんか」

(私のことを不思議そうに見つめていたアルティアネスは納得したかのように何度かうなずくと)

コホンッ

(咳払いをした。その態度にはなぜか余裕のようなものを感じる。そしてそんなアルティリアの姿を確認した【魔王 アルティアネス】は自分の体を確かめてから口を開く)

「なるほど、そういうことでしたら。この体の主である私としては黙ってはいられません」

(【アルティアネス】は手に持っていた大槍を構え直した)

ブゥウンッ スチャ ブワッ ズザァアアッ

(その瞬間。室内を黒い炎で埋め尽くされてしまう)

(【魔王】は【魔法兵】が放つことのできる最強の攻撃スキルを使用したのだろう)

スッ

「そんなのが効くわけないでしょう」

(【魔王】はそんな【魔法兵】の言葉を無視して、【黒焔滅覇波】を放ったまま【魔王】の懐に潜り込むとそのまま腹部を殴る。だが【魔王】はそれを受けるどころか逆に腕を取り。関節技をかける。しかし【魔法兵士】は【アルティアネス】の腕をそのままへし折ろうとするのだが、それでも【魔王】の関節を破壊することができずに逆に反撃を受けて、今度は背中に強烈な蹴りを叩き込まれてしまい、吹き飛ばされるのだった)

バシッ ガン

(壁に叩きつけられた【魔法兵士】だったがすぐに体勢を立て直し、両手を前に突き出すと手の間に小さなブラックホールを生み出す。それは一瞬で巨大化していき【アルティアネス】を呑み込もうとした)

ググッ

「だから無駄だと何度も言っているでしょう!」

(アルティリアスはその巨大な黒い渦のような攻撃を素手で受け止めてしまう。すると、そんな彼女の体を中心に竜巻が巻き起こったかと思うとその【黒焔滅覇波】を飲み込み消滅させてしまった)

ゴオオオッ シュバッ

(そして次の瞬間、目の前からアルティーリアは姿を消してしまう)

ヒュウゥッ ブンッ

(そして気がつくとアルティスの背後を【アルティアネス】は取ると、彼女に対して膝の裏を思いっきり蹴った。しかし、それが【アルティアネス】の最後の抵抗であり。その体が地面に崩れ落ちていくのをアルスは確認したのだった)

ドサァ

(そんなアルティアネスの元にアルスは無表情で近づいていき、アルティアネスの顔を見下ろす。するとアルティアネスの目は既に閉じられており既に絶命していることは明らかであった)

「さて。これから私は魔王城に行かないとな」

(アルスはそう独り言を言うと。家にある大きな鏡を召喚した。そこにはアルスの後ろには二人の少女がいた)

「えぇそうね」

「ふぅ〜やっとこの国を救えたわ」

(二人は笑顔で会話をしていたが。アルスはそれを見ても笑わない。ただひたすらに冷たい視線を送り続けている。そして、二人もそれを気にしない。それくらい長い付き合いがあるからなのか?)

「しかし。お前がこの世界の王とはな」

「ほんとよねぇ〜」

(二人はまるで他人ごとのように話す。その言葉を聞きながら、アルスは二人を睨む。その目は鋭く、殺気を放っていた)「なぁ、もう二度と僕の前に姿を見せないでくれるかな?じゃないと僕は、君達を消しちゃうかもよ?いや消してもいいよね」

ゾクッ ビクリッ ゴクッ

(アルスの言葉に二人の体は硬直し動かなくなってしまう。しかし、そんな中で【聖女のアリティリオス】だけは、その言葉を聞くと嬉しそうに笑うのだった)

フフッ

(その不気味な雰囲気に気づいたのか。アリティリオスは急に立ち上がると、アルスのことを睨みつけ始めた)

ギロッ

(そして【聖女】アリティリオスがアルスの肩を掴むと)

ドンッ ゴホゴホッ ゲホ

(アリティリオスにアルスは突き飛ばされた)

「あらごめんなさい。でも、あなたに私たちの行動を邪魔することはできない。何故ならあなたの目的は、私達にこの世界を支配させることですものね」

(アルスはその言葉を聞き。ニヤリと微笑んだ)

ギラリ

(その時、急に部屋の扉が開くと。そこから【勇者】が現れて。アリティウスは彼に助けを求め始める)

タッタ

(彼は【聖剣】エクスカリバーを持ち。その圧倒的な存在感を身に纏いながらゆっくりと歩を進める。アルスはその姿を見てから少し考え事をするかのように天井を眺めてから。口を開く)

「あぁやっぱり来たんだね」

(アルスがそう言い終わる前に【魔王】アルテニアスに向かって【勇者】は【聖剣】を向けると)

ブォンッ

「【光輝剣】」

(そう言った。すると剣が輝き出し、光が剣の形を成していく)

カッ

(その剣の美しさは見るものを魅了するような力強さを感じさせる。その剣がアルティアネスの体に触れた時、【アルティアネス】は一瞬のうちに消滅した)

ドサッ ブォンッ

(アルスはそう言って、【魔導砲】を発動させると。【聖騎士】である彼の姿が見えなくなるほどの光線を放ち、部屋にいた者達を一掃してしまう)

スタッ

(アルスはその場から一歩も動くことなく全ての攻撃を回避し終えると【魔王】の方を向き話しかけてくる)

「これで君はこの世界で最強の存在となったわけだけど、どう?何かしたいことってある?」

(【魔王】アルスにそう聞かれてもアルティスには答えられなかった。何故ならば、彼女はもう死んでしまったから、それに。彼女にはまだやりたいことがあったから)

ゴゴゴ

(そしてアルスの方を見ていると【聖魔人】アルスの後ろの鏡が消え。代わりにそこに映っていたはずのアリティウス達の姿が消えた。そしてそこには一人の青年の姿だけが映し出されているだけだった)

「まぁそうだな。特に何も」

(そしてアルスは、そう一言言うとその場から離れていき、アルスの気配が完全に消失した。その後には【魔王】アルティアネスのみが取り残されている。その表情には悲しみともとれるようなものが含まれていた。彼女はしばらく呆然とした後。虚空に向かって呟く)

スゥー

(そして【アルティアネス】は、アルスを追いかけるために家を出ようとするのだが、その時になってアルスの言葉を思い出す。その顔はどこか悲しげだった)

パタン

(彼女は、ドアの前で立ち止まるとそのまま振り向いてきた)

ガチャッ スタ

(彼女は、【魔王城】へと続くゲートをくぐり。自分の世界に戻ることにした)

ドシャァ

(そう彼女は、自分が本来存在するべき世界に戻ったのだ。その瞬間、彼女の体は砂になり。地面に散らばってしまう。まるで彼女の存在した証がこの世界に残っていないと示すかのように。こうして、魔王による支配の世界は終わりを告げたのだった)

「さて、俺はこの世界の人間ではないから。あまりこいつらに関わりすぎるのはよくないかもな」

(アルスはこの世界に干渉することを一旦止める。そして彼が今いる場所こそ。異世界に存在する【魔王軍】の本拠地だった)

(俺は、【救世主】と【魔王】の戦いの一部始終を【魔王 アルティアネス】の目を通して見て。その結果を確認することが出来た)

スッ

(俺は『魔王』との戦いの疲れをとるために一休みしてから再び行動を開始することにする。俺の目的である『魔王軍』とのコンタクトを図るためだ。まず手始めに向かうとした場所。それは、【魔王 アルテニアス】の居城である。しかし、そこは既にもぬけの殻となっていた。なので、その場所で見つけた情報は【魔王】の部下である。その者たちに話を聞いたり。他の場所にいる幹部たちと話をしたのだが。彼らは『魔王』が【魔王城】に向かったとしか知らなかった)

「しかし、【魔王】か。あいつらは、何でこの世界に侵攻してきたんだろうな。その理由は今のところわからないが。もしかしたらその辺りに今回の襲撃に関係があるのかもしれない」

(しかし、現時点では何もわからなかった)

「とりあえず【魔王】について探っていくか」

(そんなことを思いつつ。魔王軍の本拠の城内を見て回る)

テクテク

「んっ」

(【魔王 アルティアネス】は何かに気づき、その場所へと向かうと、そこには、アルスのよく知る人物たちが座っていた)

バァン

(アルスの見つめる先にある光景とは。そこでは、【聖女】である【アリティリオス】と、もう一人の女性【大賢者】の【アリシア】が【魔族】と思われる種族の男に、暴行を受けていた。

グググ

(【アリティリオス】は必死に耐えようとしていた。そんな彼女を、【アリシア】と男達はニヤニヤしながら楽しんでいた)

バシィィイッ

(男は、【聖女】を殴りつけた)

ガシリッ ゴキゴキッ ブチィ

(しかし。そんな行為の中でもアリティリオスは耐え続ける。【聖女】の力は凄まじく、普通の攻撃など彼女にとっては無意味なものなのだから。そのせいで、男は彼女の体に自分の痕を刻めないことに対して苛立っていた)

ドゴッ

(【アルス=アーカーシャ】はその瞬間を見ると、我慢できなくなり二人に襲いかかろうとする。だがそんなアルスが、【大賢者 アリティリオス】に触れるよりも先に男が動いた)

ドドッドッ ガッ ドドッ

(その拳の速度はアルスが予想していた以上のものであり、アルスはその攻撃を受けてしまう)

グッハァ

(そして男の一撃を受けた後。アルスは、吹き飛びながら、地面を転がった。そしてその痛みを感じながら意識を失ってしまうのであった)

カランッカランッ ズザアアアッ

(アルスの攻撃でダメージを受けていた男は、アリティリオスとアリシアの服を引き裂いてから)

バッバッバッ

(二人を両手に持ち上げると)

ヒュンッ ダッ

(二人を連れて、何処かに転移してしまったのであった)

スタッ

(そして。その様子を見ていた者は、誰もいなかった。なぜなら、その時既にアルスは別の場所へ移動していたからだ)

「クソ。あの二人がやられていたなんて」

(そう。実は、俺の【眼】で見た時には。すでにアリティアとアリリスは傷ついており、危険な状態だった。そこで、助けに入ったのだ。そして、そのおかげで。なんとか最悪の事態は免れることができた)

ホッ ホッ

(アルスは安心すると。すぐに次の目的に向けて移動を開始した。この【聖都 ヴァルキュレシア】は、魔王によって壊滅的被害を受けてしまった。だからその被害を受けた街に物資を届けるため。【魔王 アルテニアス】は部下を引き連れて旅に出た。それが、アルスに聞いた情報である。しかし。実際には、【アリティリオス】は生き残っており、それを知ったアルスは彼女に話しかけてみようと思う。そう考えたのだった)

コツッコツンッ

「あ、あの」

(アリティアの足音を聞きつけたのか。彼女は、急いでアリティリオスの前に立ち塞がると。頭を下げ始める)

ペコッ

(その行動に、アリティリオスも困惑してしまう。なんせ【聖女】である自分が頭を下げるという事は普通にあり得ないことだから)

ギロッ ギラッ

(その瞳にアリティアは思わずたじろいでしまいそうになるが。彼女は【魔王】アルスのことを尊敬しており。そして彼の力に憧れているのだった)

「えっとあなたが私を襲ってきた人たちを全員倒してくれたのでしょうか?」

(アリティリオスのその言葉を聞き、アルスはすぐに理解した)コクッ

(アルスは、無言のまま、小さくうなずくとその場から動こうとしなかった)

(私は。目の前に現れた少年を見た時。なぜか、心が落ち着くような感じがしました。今まで私の周りにいたのは敵ばかり、いえ、むしろ私自身が敵にならなければならなかった。でも私だって。まだ年相応の女の子として遊びたいし恋もしたい)

「ありがとうございました」

(そう。彼女は、【魔王】に礼を言い、それから少しだけ会話をした。そのやり取りの中で。【魔王】が【魔剣士】であることと【魔剣士】でありながらも聖剣を扱うことが出来るということを彼女は知ることになる)

「そうなんですね」

(私が【魔王】と話し込んでいると)

タッタ

(一人の男性が慌てた様子で近づいてくる)

スタッ

(そして男性は、その青年にお辞儀をしてから話しかけてくる)

「あ、アルス様」

(その瞬間に、【魔王】アルスという名前を彼は知っていたのだと思い。彼女は、彼のことを改めて見てみる)

(そう。彼女は、この【魔王 アルティアネス】が『英雄王』であることを知らず。そして、自分のことも知られてはいないと考えていた。それは【魔王】が、異世界からの転生者ということがこの世界にはまだ知られていないので当然の思考だったのだ)

ジッ

「ん?」

(そう。この時のアルスは、『勇者の従者』である『奴隷』の少女アリティアの存在には気づかなかったのだ)

(そしてこの少女はのちに【魔王軍】の一員となって。アリティリオスと共にこの世界を救う存在となるのだが今はただの幼い子供だったのだ)

ギュッ

(そう。このときの【アリティア】とアルスとではあまりにも差があった。それに【アルティリア】は、まだ【魔王軍】と戦う前だった。なので【魔王】のことは噂で知っているだけで顔すら知らないはずだった。それでも彼女は【魔王】であるアルスが味方だということを知って安堵するのだった)

フゥ

「あ、そうだ、ちょっと待ってください」

スゥ

「これは、この国の王様に渡された物なのです」

(彼女はそう言うと、その手に握っていた小さな紙切れを差し出してくる)

サッ パシッ

(アルスがその紙を受け取った瞬間に、その手から消えてしまう)

パパッ

(その瞬間、アルスと【魔王 アルティアネス】が入れ替わる)

「えっ?な、なにが起こったの」

(【アリティア】が突然、姿を消したアルスに戸惑っていると。彼女の隣にもう一人の人物が姿を現した)

スウッ

(その姿を見て、【アリティア】は驚愕する)

パアアアッ

「こ、こここ、【魔王 アルティアネス】さまあああああっ!?」(彼女は慌ててその場に平伏した)

(俺はアリティアから【魔王軍】に関する情報を手に入れると、次にどこに行けばいいのかわからなくなる。とりあえず『魔族』たちの情報を聞かなくてはならないと思い。とりあえず、まずは【魔王 アルティアノス】の居城がある場所へと向かうことにする)

スタタッ

(俺はまず【魔族】について詳しく聞き出すことにする。その前に、俺は彼女から『聖剣』を受け取ると、【魔王 アルテニアス】が【魔王城】から持ち出したという。『宝箱』にそれを戻して置く。【魔族】のことを知りたかったがまずはこの世界のことを知ることが先だと判断したのだ)

ゴクゴク スゥー グビグビッ

(俺のこの世界での肉体が成長していることも分かった。なのでこの世界でも十分戦えるはず。だからこの国を復興させるための手始めに。これから行動を始めようと決意をするのであった)

(そんなことを考えつつ。アルスはまず最初に、アリティリオスの話を聞いてみる)

コクッ

(俺の言葉を聞くと。アリティリオスは驚いた表情を浮かべる)

「そ、そんなことを言ったら。あなたの方が危険です。だって相手は【救世主】ですよ」

ググッ

(アルスはそれを聞いたが特に気にせずアリティリオスとの話を続けてみる。彼女はどうやら俺のことが信じられないようで【魔王】である俺のことを怖がりながらも。アルスの力になりたいと願ってくれていた)

ゴクゴク

(俺の方から何か提案しようと思い口を開くと、アリティリオスはそれを制止する)

ブンッ

「わ、私にも考えがあります。まず、この城の地下に【魔人族】のアジトがあることはすでにわかっています。おそらくそこにいると思うので行きましょう」

スタッ タッタッタッ バァンッ

「はぁ、はぁ、ふぅ、はいっ」

(アリティリオスはそれだけ言うとお腹を抑えながらどこかに行こうとした)

(そんな彼女の後姿を見ながら。彼女が先ほど話していたことを思い出す)

テクッ

「ええと。アリティリオス。その、【聖騎士】というのはどういうものなのか。教えてもらえないか」

(そう、アリティリオスが言うに。この国の精鋭部隊のことだと言っていた)

キョロ ススス

(アリティリオスは振り返ると少し考えて。すぐに答えてくれた)

「わかりました。えっと。この国に存在しているのは全部で三種類の部隊があって。【聖騎士団】が主力となります。そしてその下が私たちの所属する【神聖騎士団】になります。そしてその下に存在するのが【魔術兵団】ということになります。その中でも【魔術兵】と呼ばれる人たちが存在していて。そして彼らは特殊な技能を使って、戦うことができる人たちでした。でも今はもういないと思います。というのも【聖女】たちはこの国が崩壊した時に散り散りになって。今はほとんどいなくなってしまいましたから」

「そう、ですか」

(アリティリオスの説明によると。【魔剣士】はレベル30になれば【聖剣士】になるらしい。そしてさらに強くなるためには50を超える必要もあり。また、他の職業についてもレベルを上げていく必要があったのだ)

「それじゃ、【魔剣士】の人はみんなレベル上げに忙しいのですね」

コクン

(俺はアリティリオスの質問に素直にうなずいて答える)

スタッ スススス

(そうして、俺たちは。アリティリオスの後をついていき、地下への入口へと案内される。するとそこは真っ暗だった)

コソコソッ

(アリティリオが先頭に立って歩いていく)

「あの、その先に階段がありますので。降りてもらって大丈夫です」

(そう言い残すと、彼女はその場から離れていってしまった)

コツコツ

(それから、俺は一人きりになったのだが)

「あれ?誰も来ないぞ?」

(それからしばらくして。一人の少年がやってきた。そう。彼はアリティアに渡した【魔剣】を届けにきてくれていたのだった)

「はいこれ」

(彼はそういうと俺に手渡してくる)

(それから、少年の名前は『英雄王の息子 ユーキ』という名前だった。そのユーキが、アルスが『魔王』であることと、その力を『魔王城』で感じたことを話す。しかし『勇者』は現れていなかったようだ)

「え?」

(ユーキがそう告げた直後、俺の顔が一瞬引きつってしまう。『勇者』がいなかった。ということは、【魔将王 デスパダロス】は死んだのか、あるいは【魔王 アルテニアス】によって倒されてしまった可能性がある)

「そういえば、アリティアが、【聖女】に会えたって喜んでいましたよ」

スタッ タッ

「ん、そうか」

(俺はそう聞いても。正直なところ。【魔王】と『勇者』が出会うと、どういう展開になってしまうのかわからなかったので不安を感じずにはいられなかった)

スタッ

(それから【魔王 アルティアネス】は。アルスとして、『英雄の国』にあるダンジョンに向かうことにするのだった)

スタスタスタ

(俺が【魔王 アルティアネス】として、その力を行使することにしたのには理由がある。それは俺自身がこの世界で生きるための準備でもあった。【魔王】の力を持ってすれば、この世界の人々に対して圧倒的な力を持つ存在になることが可能だと思われた。だからこそ。俺自身は【魔王】の力を使うのをなるべく避けようと考えていたのだ)

(それに今の俺はまだ弱い存在だったのだ。なのでまずは、【魔剣士】のレベルを上げることで強くなろうとしていたのだ)

ススッ

(【魔王】としての力が使えなかったとしても。『聖癒術』と『勇者』の力だけでも十分にこの世界の人々は救えるだろうと考えたのだ)

(そう、【魔王】の力があれば確かに世界を救える。だが俺はあえてそれを選ばなかったのだ。そう、【魔王】は最強の【魔剣士】であると俺は考えていた。ならば最強の力で戦うことよりも。最強の【魔剣士】であることを目指そうと、俺は考えたのだ)

(もちろん、俺はただ強くなりたいというわけではない。そもそもこの世界での目的は【救世主】の奴らと戦わなければならないからだ。そのためにはどうしても【魔王軍】の『幹部』たちの力が不可欠だと考えている)

スタッ

(そう。『聖王国 聖癒術師国 ホーリーレイジ』は【救世主】が『魔王 アルテニアス』との戦いで壊滅したと聞いた。【魔将軍 デモン】や『七大罪魔王 マステマ』『七大天使魔王 ルシファー』などの『四天王』たちと共に『魔王軍』を率先して来た『魔剣』使いのアルスも、その戦争で亡くなっているはず。それに【聖魔王 ヴァルガリス】の話では【救世主】たちがこの世界に残した遺産は【聖剣】や【聖槍】だけではなかった。他にも強力な【魔道具】が存在したとのことだった)

「ええと。その、アルス。あなたはこの国のお姫様を助けたんですね」

「ええ。アリティアのことでしょう」

「は、はい」

(俺は、俺の姿のままではアルスであるとは説明できないので。アルティアネスという偽名を使って、この世界のことを知る必要がある)

スゥー ググッ

(アルスは、俺が【魔王】であることを知っている。その事実を隠しつつ俺はアリティリオスと話を続けていた。彼女はアリスティオスの姉が、俺の知っている人物だったことを聞いて少し驚いていた様子だ)

「それで、これからどうするのです?」

「とりあえずこの世界のことを知りたいので」

スタスタスタ

(俺の目の前には大きな壁が存在していた。この国の象徴ともいえる建物。それがこの城の上空にあったはずの【魔導城】だ。だがこの国に訪れたとき、その【魔城】があった場所は深い谷になっていた。そう、【救世主】どもが攻め込んできたせいだ)

「えっと、まずはこの城をどうにかしたいと思っているんだけれど」

スッ

(アルスがアリティリオスに声をかけると。彼女もそれに同調してくれた。城が崩れてしまったとはいえ。この場所は、元々アリティリオスの領地なのだから当然といえばそうなる)

(だがその前にまずはこの国の状況を確認しなくてはならない)

スタスタッ(俺はその情報を手に入れるべく行動を開始する。俺の足音を聞いた兵士たちが慌てて武器を手に持ち警戒をしていた。おそらく【魔剣士】が俺を狙っているという情報を掴んでいるに違いない)

ググググッ

(俺はそんな彼らの行動を見て心が傷んでしまう。本来なら、彼らは戦うべき立場ではない。そんな兵士を殺すことはさすがに躊躇われた)

「ええ、はい。そうです」

(俺の考えは間違っていなかったようだ。彼らは【魔剣士】の命令によってここにいるだけで。本来の任務は城の守護だという。俺は、そんな彼らに謝ってから、【聖騎士】を探し始めたのだった)

(俺はそれから城の周辺を調べてみたのだが。どうやらここにはかなりの【聖騎士団】がいるらしく、とてもではないが一人で突破するのは難しそうだと判断した)

(そして【聖騎士団】は全部で十人いるらしい。そしてそのうちの三人はどうも【魔王】のことを敵とみなしているという。そして残りの八人のうち四人は俺と友好的な態度をとってくれるのだという)

(ちなみに残り六人に関してはすでに死亡しているか、それとも行方知れずとなっているらしい。アリティリオスの話だとこの国は【魔人族】との戦争でほとんど機能してないらしいので仕方ないことかもしれない)

スタススッ タッタ

「あの、その、どちらへ」

(それから俺はこの国に何が起きたのかを知るために動き始める。俺が向かう先は地下に存在すると言われている迷宮だった。その迷宮は地下に存在していたが、その奥深くで巨大な魔素があふれ出してしまっているらしい。だから、その場所にたどり着くのは危険だと言われていた)

テクテクッ

(俺が向かっていく先には何重もの門があり。その門の前には屈強な【聖戦士】が立ちふさがっていた。俺は彼らを説得しようとしたものの。【聖戦士】たちはまるで狂ったような表情をしており。会話ができる状態じゃなくなっていた)

「ええと。とにかく通して欲しいんだけど」

ギロッ ズザッ

「【魔剣士】がなんのようだ?」

(俺の言葉を【聖騎士団】は受け入れてくれなかったが、彼らは俺に【聖魔剣】を差し出してくれた)

ゴトッ

(【聖魔剣士】の力を秘めた武器、【聖魔刀】がそこには置かれていた)

コクン

(俺はそれを見てしまう。その光景に感動してしまうが、それと同時に俺は一つのことを思い出す。『勇者』の持っていたとされる『勇者の遺物』の存在。もしかしたらこれがそうじゃないだろうか?)

ガチャン ガチャ

(そして【魔将剣】が二振り。そして『魔王』のみが扱える【聖具】【魔王杖】が俺の手元に置かれる。俺にこれらの装備を譲渡するという行為は【聖剣】を【魔剣士】に託したということに他ならないはずだ)

ピコーン ピコーン(『聖剣』を託されたというのにも関わらず。俺には『聖剣』の力は引き出せそうもないことがわかった)

(そう、『勇者』にしか使えないという【魔装剣】ですら扱えなかったのだ。ならば『勇者』ではない【聖剣使い】では使えるわけがない。そう考えても不思議はなかった)

「ん?あ?なんだ?うぐぅ!」

(だが、俺にはまだわからないことが残されていた)

ビクッ

(『魔王城』には、かつて【魔王軍】を率いた【七つの原初たる悪魔王 サタナー】が封印されていた。俺はそれを知って【聖魔王 ヴァルガリス】の元を訪れ、そこで新たな『魔王軍』として、仲間にしてもらおうと思っていた)

スタッ

「おい。こっちこい」

「え?はい」

(だが『聖魔王 ヴァルガリス』の話では、もう『勇者』はいない。だからこそ。【魔剣士】と『勇者』は対立しなければならないのだと言われたのだ)

「まぁいい。来い。お前の力を確かめるぞ。もしもお前が本当に【救世主】を救える存在なら。この国の人間も安心できるだろうしな」

スゥー フッ

「わたくし、【魔王】であるあなた様を信頼し。『魔城』をお守りさせていただきます。なによりこの国を、そしてアリティアを助けてもらったこと。感謝いたします」

「ああ、頼む」

(俺には目的ができた。それは俺自身の力を手に入れることである。この世界は、まだ【魔王】の力を必要とするはず。だから俺自身がもっと強くなればいい。この国を俺自身が救えば。この国にいる人々は俺の力を認めてくれるに違いない。そのためには、【魔剣士】の技能を極めなければならない)

「はい」

(そう、【魔王】の力を使う必要はない。この世界を救うには、最強の【魔剣士】でなければならないのだろう。だが俺はあえて、【魔剣士】の力を使うことを決めたのだ)

スタスタッ

(俺はそれから【聖騎士】たちと戦い続けた。もちろん俺の目的は【魔王の鎧】の回収のためでもあった)

シュタッ

「くそっ!こんな【魔人族】の奴らに負けるかよぉ!!」

ドォン!!

(【魔闘気】を使った攻撃が【聖魔拳】というスキルに弾かれる)

バタッ

「クソッ、この【魔魔銃】でも無理なのか!?」

ブゥウン ドゴオオオン バリバリー

(『魔城』で手に入れた、【聖魔王の遺産】の『魔銃 魔砲』でさえも倒すことはできなかった。そして、この世界で俺が最強だと信じてきた【魔闘士】でさえ、今の俺は倒せはしなかった)

「くそっ、【魔闘士】だぞ、【魔魔拳】と、【魔魔術】、さらにこの【魔魔弓】があるんだぞ、それでもだめだって言うのか」

ズサッ ダァーン

(俺は、そんな彼らの攻撃を【聖魔剣術】で受け流しつつ。この国の平和を守っているつもりだった)

スタスタ

「アリティア。この国は一体どうなっているんですか?」

「はい、わかりません。突然この【魔王】と名乗る者が現れてから、この国の状況は一変しました。今やこの国の戦力の大半はこの男と戦っていると言っても過言ではありません」

ググッ ギリッ スッ

(この国は、俺が現れたときにはもうほとんど機能していなかった。そんな時現れた【魔王】と、アリティアの姉アリティリオスによって救われ。この国は再び復興していくことになったのである)

スタスタッ スッ

(アリティリオスは、俺のことを認めてくれて。俺の仲間となってくれると言う)

「それで、これからどうするのです?」

スッ

(そして俺は、俺のことを敵視してくるアリティリオスを仲間に迎え入れるため。彼女と共に旅に出た)

(そして俺たちはこれからアリティリオスが支配している『魔界』へと向かう。そして、そこに存在する迷宮の探索を行う。それが次の行動の目的となった)

(【魔城】で、俺が倒した【魔剣 魔魔剣 デモンズブレイカー】。それと『聖具』だったらしい【魔装剣 ザ・デスサイズ】を手に入れたことによって、俺はレベルを上げることができなくなっていた。しかし、今はなぜかその現象が止まっている)

ググッ ガキィンッ

(そんな俺は、この世界のことを知り。そして、この世界を滅ぼそうと企む、この国の【魔剣士】を止めるために動き出すのであった)

(そう、この世界のどこかに存在するとされている。そのダンジョンの攻略を行い。この国を救うためだ)

「よし。これで終わりっと」

俺はその言葉通り作業を終わらせることができた。

だがその代償としてかなりのMPを失ってしまったため、しばらくステータスは戻らないだろう。

そしてステータスを確認したところ。

「あれ?これってまさか!」

「え?どうかしたんですか?」

「ああいや。なんでもないよ」

「ふーん?」

(もしかしてだけど。俺があの【剣聖の使徒】を倒したときに入手した、剣聖の力を秘めている【聖刀 天叢雲剣】を装備すれば、【救世主】に勝てるんじゃないだろうか?)

(そして、俺の持つ最強の刀、その刀身の長さを変えることが出来るこの『剣神』の能力を秘める【剣神刀 ムラマサ】があれば。【魔剣】を扱う【魔人族】と互角以上に戦えるかもしれない)

「なぁ、そういえば。君たちのことをちゃんと紹介していなかったと思うけど。俺は一応『勇者』だから。名前とか聞いておいた方がいいんじゃないかと思ってね」

「えぇ、そうですね。ではわたしからご説明します。まずわたしは【剣姫】と呼ばれる種族の『人族』です。年齢は不詳ということです。ちなみに、アリテリオス姉さまは『吸血鬼』で『真祖 始祖』なんですよ」

『勇者』の能力は『鑑定眼』によって調べているため知っているが。俺は自分の力で情報を集める必要があると思っていた。

「それじゃあ次はあたしかしらねぇ」

スチャ そう言いながらアリティーリオが取り出したのはなんの変哲もない短剣である。

「こいつはあたしの一族に伝わる宝器の一つ。【聖剣】なのよぉ。あたしが使う時はこの姿になるの。名前は【魔魔短剣】。まぁ、こいつらはあたしらが代々受け継いできたものよぉ」

スッ そして、彼女はその手に持っていた、剣をこちらに差し出してきた。

(なるほど、これが俺が求めていた【聖剣】ということか)

(俺が【聖剣】を手にしたことで。俺のレベルは1に戻り、【魔人】に成り代わってしまっていた【聖魔人】の称号も【聖人】に変化しているのだろう)

『鑑定』で確認したところ、間違いなくこれは『聖剣』であるようだ。『魔剣士』が持つと『聖魔剣』に変わることも間違いないようだし、俺の持っている【魔将剣】のように、『聖魔杖』『魔将杖』へと変化する機能も備えているようだ。だが俺はその武器に、少しだけ違和感を覚えてしまう。なぜならば、【魔剣】であるはずの【魔剣】の剣先からは、【魔力】が一切感じられなかったからである。

「なあアリティア、俺には【聖魔剣術】が使えないみたいなんだけど、どうしたらいいかな」

スゥー スパッ

(『聖魔剣術』には、俺が【魔魔剣術】を使っていた時の『剣術』のような補正はなかった。『スキル』を発動するための補助効果はあるようだったが。それでもこの状態だと『剣術』は使えないだろう)

「はい。ええとそのぉ、それは【聖魔人】にしか使えない特別な【聖剣術】の『スキル』なのでしょう」

(え?なんだそれ)

【聖魔人】に使える【聖魔剣術】は、確かに特殊といえば特殊な【聖剣術】だろうが、この世界で俺しか扱えないと言われると少し困惑してしまう。それに、俺の使える唯一の【聖魔剣術】なのに、この能力には『スキル』の欄にも、もちろん【魔剣術】や【魔法剣】の欄にはないのだ。そして、この世界に元々存在していた【魔剣術】は俺には使えなくなってしまったようである。

(つまりこの世界の人間には【魔剣士】はいないということになるのか)

「うん、わかったよ。でもそうなると困ったな」

「いえ、おそらくあなた様のお仲間の中に【魔剣使い】の方がおられますので。その方に【聖魔剣術】を学んで頂けば良いのではないでしょうか?」

スタッ

「そういうことだ」シュバッ

「な!?き、貴様!!」

ガキィイイン!!

(俺が気配を感じて、そちらの方を向くと、そこには【魔王】と名乗る【魔剣使い】がいた)

「ほぅ。我が聖魔の太刀筋を受け流すとは。ただものではないと思ったのだが、どうやら違うようだ」

「お前、一体何者だ」

グググッ ズザッ スッ

「我が名は【魔魔王】のアティリオス。魔を司る者なり。我が主のために世界を救う為に。【救世主】殿、この国を守るために。そして、我と戦うことを望む」

「ちっ、そんなことは言われなくてもわかっている」

(俺にはまだ【救世の魔王】という【聖剣】は使えないが。それでも俺はこの世界を救う義務がある)

「なら、いくぞっ!」

ダッ スカッ

「くっ!まだまだぁ!」

ブゥウン

(だが、俺は今レベル1になっているとはいえ、もともとステータスが低かったわけではない。むしろかなり強いはずだ。だから【魔魔王】と対等以上の戦いができるはずである)

ガキンッ ギィン

「うわっと」

(それでも【魔魔剣術】で、攻撃を当てても相手はほとんどダメージがないように見える。俺は今のままではダメなのだ)

ドドドドッ! ドォン!!

(だから俺はもっとレベルを上げなければならない)

スタッ ドッドッ ドォンッ

(レベルが低ければ弱いなんて、俺はそんな当たり前のことを言われたって何も思わない。でも俺は強くなりたい)

「ぐあっ」

(そうだ、俺だって強くなってやる)

「どうした?もう限界か?」

スッ

「まだ、これからだよ」

スタッ

(そして、俺は今のままではいけない)

「な!?この俺と打ち合って、しかも俺の技にここまでついてこれるか。本当に只者じゃないな」

(そして、俺は俺を鍛えてくれる人を。探さなければならない。今の自分では【救世主】に勝てないと理解したからだ)

バァン バキッ ボコォ ドン

(この世界に来たときも。俺の仲間たちは強かったが、あの時の俺よりも圧倒的にみんなは成長していた)

スラッ サッ

(そして、俺が【勇者】としてこの世界に来てしまった時のように、俺はこの世界に来る前も【勇者】として召喚されていた)

「な、なぜそこまでの強さが」

(だが俺は、こんな所で止まっているわけにはいかない)

スッ「さぁ、これで決めるぞ」

(だから俺は、まずこの世界のどこかにいるらしい。自分の師匠を見つけなくてはならない)

(だが、そう簡単には見つからない。なぜなら、俺の世界の【勇者】は。他の勇者を探すことなどしなかったのだからな)

(そう、だからこそ、俺はこの世界で出会った人たちと共に戦うんだ)

ダアッ(そう、この【魔城】の主であり、かつて俺と同じようにこの世界に呼び出された『勇者』である、あの【勇者】。『勇者王』アリテリオスとも共に戦わなければならないのだろうからな)

ゴオオッ

(俺は、俺を信じてくれて俺についてきてくれた皆と一緒に強くなる。そしていつか。あいつを止める。そのために)スチャ スゥウウー

(【魔魔短剣】を手に取り。【救世主】を倒せるようになるために)スッ カチャッ

「行くぞ!」

「はい!」

タッタタ スッ ブンッ

(俺の仲間になってくれた【聖魔剣士】。『聖魔騎士』、『神聖魔術士』。『魔道弓術士』と『魔道槍兵』は俺と、この世界に来て初めて出会った仲間たちだった)

(この四人と、そして【魔導師】と【錬金術士】の二人も、俺は信じて一緒に行動してきた)

(この五人は俺がこの世界で一番最初に会った人達でもある。俺が、こっちに飛ばされたときに、偶然出会って。それから色々ありながらも俺を助けてくれると、一緒に行動すると言ってくれ、そして、今では一番頼りにしている俺にとって大事な存在なんだ)

スタッ

「はあああぁあ!!!」

スウッ ザンッ!

「ぐうあぁあああ」ドォオオオン! スッ

「大丈夫ですか?マスターさん」

スタッ

(俺がこっちの世界に呼ばれてすぐ、俺が最初にあった人、それが【魔人】の少女。アリテリオス姉さまだった。アリテリオス姉さまは俺がこの世界で唯一信用できるかもしれないと思えるような人でもあった。だから俺が彼女に【聖剣】を託したのだ)

スタッ ドォオオーン スゥー「はぁ、ふぅ。うん。ありがとう、助かったよ」

(俺が初めて信頼できた人、それがこのアリテリオス姉さま。彼女ならば俺の持つ唯一の切り札ともいえるこの【魔剣】を預けられると、心から思ったのだ)「お疲れさま。マスター君」

ポンッ ニコッ

(そして俺に力を貸してほしいと言ったのは【魔導王】のラティス。俺がこの世界で信頼できると確信を持てる初めての人。この人もやはり俺にとっては最初の仲間。そして彼女は、俺が持つ【聖剣】の力を理解している唯一の人である。だからこそ、彼女が俺の唯一のパートナーとなってくれるだろうと思った。しかし)

「えぇ。マスターさんの役に立てて良かったです」

ニコッ

(彼女は【聖女】の力を持つ、俺が信頼することのできる初めての仲間。彼女は俺が持つ【聖剣】のことを全て知っており、その上で俺を支え続けてくれた人だ)

「よしっ!アリテリオス。後は俺が引き受けよう」

フワッ スッ ピョン

(アリテオリオスは俺が持つ唯一使える【聖剣】。『魔将の剣』を使うことができる【聖魔剣士】である。俺が『聖剣』を使えない状態なのに【聖魔剣術】を使うことができているのはこの【魔将の剣】があるからである。俺のステータス値を大幅に上昇させてくれている【魔将剣】の力は『スキル』ではなく『技能』に分類されるもの。そのため『スキル』にない【魔剣術】の【魔剣術】を発動させることができるということだ)

(だがそれでも、俺はこの『魔族領域』では、本来【聖剣術】を使うことができなくなった。つまり俺には【魔剣術】の【魔剣術】しか使用することはできない。そのはずなのに。俺がこの世界に初めて来たとき。なぜかこの世界には俺以外にこの世界に呼ばれた人間がいた。それはこの世界が危機に陥った時に異世界からの人間の協力を得られるようになっているからなのか。それとも俺以外にも【勇者】が来ていたというだけなのかはわからない。それでもその【勇者】はどうなったのか。その疑問の答えは、俺は知ることはできないのだろう)

(だから、今は俺の使える唯一の武器である【魔剣術】。その中でも最強の一撃とも言える【魔魔剣術】で倒す)

(俺は、今の状態では俺の実力で勝てないことがはっきりわかった。だからまずは俺自身の強さをあげなければならない。だがこの国の【魔魔王】との戦いでは俺はレベル上げの手段がないのだから、俺が強くなってこの【魔魔王】を倒すのが手っ取り早い。だからこそ俺がまず強くなるべき相手はこの国にいるこの国の【救世主】のはずの、【聖勇者】ではないのだろう。俺が一番倒さなければならない敵は俺自身。この国のために戦い続けているはずの【救世主】。そのはずだ。なら俺に足りない力はレベルを上げればよい。俺はレベルを上げる方法を考えるべきだ。そこで、この【魔城】の主である【魔王】のアティリオスと戦ってみた。アティリオスと戦うことで俺は俺の弱さを痛感した)

(確かに俺は今までも、【聖剣】が使えない状態でも強い魔物や魔王と戦うことができた。それはおそらく俺が強かったから。だがそれでも。この世界に来た時と、そしてこの国に召喚された時には【勇者】であった時とは比べ物にならないほどの力が発揮されていたと思う)

(そしてそれはきっとステータスが上がったことによるものなのだと思う。だがこの【魔城】で【魔王】と戦ったときにステータスが上がることはなかった)

(俺は自分がどれだけ弱いかを、この世界に来てから一度も感じたことが無かった。しかし【魔王】との戦いを通して俺はこの世界の、【魔魔剣術】使いの『勇者』がどれほど強く、俺がどれほど弱いかということに気が付いた。俺がもっと強くなれる場所はただ一つ)

(俺が【勇者】だったころに、強くなろうと思い続けた場所。そう、【神域】にある訓練場だ)

(【神域】の訓練場で俺は強くなってきた。だからこそ。俺に足りていない物は何かを考えれば自ずと答えは出てくる。そして俺に足りないものは俺がもっとも得意とする【聖剣】を扱う技術であり、それを俺は鍛えるべきだと気づいた。俺は今のままでは【魔魔剣術】を上手く使うことができないのは理解した。だからこそ俺は俺自身を鍛える。俺自身が最も得意とし、鍛えてきた。そしてこの世界で唯一【聖剣】を扱うことができる。そんな存在になるために、そしてこの世界を救うために、俺は、【魔剣】の使い手に会わなければならないんだ)

「大丈夫ですか?お父様」

スッ

「あぁ、大丈夫だよ。すまない」

(そうだ、俺は俺を信じてくれる皆と一緒に戦わなくてはならない。だから俺はこの世界に来たばかりの頃の、あの無力でちっぽけな俺とは違うんだ。もう何もできなくて、仲間に頼っていたあの俺じゃない。俺には、【救世主】の皆に守られて生き続けてきた俺じゃない)

スッ スゥウウー

「俺は、この世界に来た時の俺はこの世界で最強ではなかった。俺は【勇者】として、そして俺を信じてくれる仲間と一緒に強くなりたかったんだ」

(でも今の俺は違う。俺の強さを認めてくれる仲間ができたんだ。この世界の【魔導王】であるラティスだってそう、この世界に呼び出されてすぐに会ったあの【魔導王】は俺を信じてくれた。この世界にいる全ての人達が俺の強さを信じてくれたから俺はここまで強くなることができた)

スッ カチャッ「だからこそ俺は【救世主】を倒さねばならない。この【魔城】にいるらしい【救世主】を倒して俺は俺の強さを証明してみせる」

スッ スウッ ゴゴゴゴッ

「俺こそが【魔導剣士】にして、この世界で最初に『魔剣士』のレベルを上げた存在であり。すべての『職業』の頂点に立ち。すべての『職』において最強の力を持っている者。そして、いずれ【勇者】をこの世界で唯一倒す者」

フッ「行くぞ」

バッ

(俺にはまだ力が必要だ。そのために俺がこの世界で唯一【勇者】よりも優れた存在であること。それが【聖魔剣士】であり【救世主】なんだ)

タッタッタッタッ ダダッ(俺はこの国を救うと約束してくれた、この国の人達が好きだ。だから絶対に守りたい)

「うおおぉー!!」

「はあああああぁあ!!」

(この国の人達と、俺を受け入れて助けようとしてくれる皆を守るために)

スゥウウー「俺は、俺にしかできないことを成す!!」

スゥッ ズッバァーン!!

(だから俺は、俺の力で、必ず【聖魔剣】を取り戻す。俺の力だけで【聖剣】を手に入れる。俺の力はそのためのものなんだ)

シュゥンッ

(この国で初めてできた俺の友達。その一人に【魔剣鍛冶師】の少女がいる。この子は、【魔剣鍛冶師】という珍しい固有技能を持っており。俺が持つ【魔剣】を作ることができるのだ)

スタッ

(彼女は、俺の持つこの【魔剣】を作るために必要な【魔剣製作術】というスキルを持っていて。俺が彼女に頼んで【魔剣】を作ってもらったのだ)

「マスター、大丈夫ですか?お体の方は?」

スタッ

「うん、大丈夫だよ。ありがとうアリテリオス」

フワッ ギュッ「よしっ、行こうか」

タッタッタッタ ガチャッ「はい。お待ちしておりました。【聖勇者】殿」

ニコッ

「うん、今日はよろしくね」

ニコッ

(この子がこの【魔城の工房】に住むようになってから一か月くらいになるかな。俺が初めてこの子に会った時は、彼女はボロボロの状態だった)

◆アリテリオス 回想◆

(私には帰るところがない。あるのはこの国を守る為に【魔剣聖】様から賜った魔剣だけ)

グサッ「はっ、はっ」

(どうして私は、あんなにも簡単に捕まってしまったのか。私は、【魔剣士】なのに、どうして【魔剣】を持っていないのか。私が、【魔剣聖】様に拾われたのは、まだ小さかった頃。だけどその当時は魔剣を持っていたのかもしれない。それでも、魔剣の力を引き出せないほど小さな頃に、誰かに奪われたのか。それとも捨てられてしまったのかはわからないけど。とにかく、魔剣は、手元にはない。だから私は、魔剣なしで、【魔剣士】の力を引き出すしかなかった。そんなこと無理だって、最初は思った。だけど、毎日のように【魔剣】を使って戦う練習をしているうちに、私の体は魔剣の使い方に慣れていった。それは魔剣に振り回されているのと変わらないものだったと思う。だから魔剣なしじゃ、戦えないと諦めていたのに。ある日、魔剣の気配が感じられなくなった)

(なんで、その時のことを、覚えていないんだろうか。きっと魔剣は【魔剣士】である私のそばにあるはずだったのに。それからも、毎日、魔剣の気配を探して。必死に探し続けて。そしてやっとの思いで見つけたときには、すでに魔剣は壊されてしまっていた。そんなこと許せないって、魔剣が直るまでずっと、怒り続けたんだ)

(そう、あれは確か魔剣が壊れてから、一月経ったぐらいのことだったと思う。急に大きな地震があって。その時にこの国で一番大きい建物が崩壊したんだけど。そこに偶然いた私も、崩れた建物の瓦礫に巻き込まれてしまって。死ぬ覚悟をして。死を待つだけだった時に。魔族の人たちが現れた)

(正直、怖かった。魔族を見たことがないわけじゃないけれど。こんな風に近くで見るなんて。それでもその人たちは魔族の中でも優しい人だった)

(その魔族は私たちを助けてくれようとしたのだと思う)

(そして私たちは魔族の人たちに助けられて。その人のおかげで何とか生きながらえることが出来た。でも、結局魔剣は見つからず。魔族の人は私達を見放してしまった。仕方がない。この国は人間と戦争中だし。魔族にとっても大事な人がこの国に住んでいるから。私達にそこまでする必要はないと判断されたんだと思う)

(それに魔族も余裕がなかった。だから、助けたのは気まぐれみたいなものだろう。だから魔族の人も魔剣を見つけるのを諦めたんだと、思ってた)

(でも、違ったんだ。私はあの時。魔剣の力を自分の体に流せるようになれるために、体の中の魔剣を感じるための訓練をしていたんだ。そしたら、何かがおかしいと感じた。この辺りは魔素がとても薄いはずなのに、濃い感じがした。まるで、近くに大きな魔力を感じたみたいに。でもそれが魔剣の力だっていうことはすぐに分かった)

(だから魔族がこの魔剣を手放したことに納得ができた。それでも。この魔剣が本当に私にとって大事な物なんだということが分かって欲しかった)

(そして私を拾ってくれた魔剣使いにもう一度会うことが夢になった)

(魔剣使いはすごく優しそうな女性だったからまた会いたいと思った)

(そう思っていたら魔族の人と話せるようになったんだ。それどころか魔剣が使えるようになった)

スゥッ

「魔剣の力が使えない魔剣使いはいらないから、返してもらうわよ」

ビクッ

「えっと」

「なによ。文句があるの?あなたは魔剣の力が使えなくなったからここに捨てられたんでしょう?」

スッ「そうです。魔剣使いの【救世主】は必要ありません。もうここには用事はないかと」

スッ ガシャ スッ「ごめんなさい。この子には魔剣が必要なんです。魔剣使いとして。そしていつか魔剣使いとしてこの世界を救う者として。必要なのです」

ペコリッ

「そんなのダメよ。【魔剣聖】のところに行きましょう」

スッ ググッ「お願いします。魔剣さえあれば」

スッ ギュー「もういいの。これ以上、私のせいで。この子の魔剣を奪ったりしないでください」

スッ スッ「そんなの、だめだよ!もう魔剣はないんだから。【魔剣聖】に、怒られちゃう」

「ううん、魔剣ならちゃんとあるわ」

パチン ボッ ゴゴゴッ フワァア「これが、本当の私の【魔剣】」

フゥーン「よかった。この子が生きてる」

(その人が持っているのは。私が最初に見た【魔剣】そのものの姿になっていた)

スッ「あのっ、それ」

「これは、あなたのために用意してあげた、魔剣なんだよ」

スッ「あの、魔剣をくれた方ですよね?」

フワッ スタッ

「うん、久しぶりね。魔剣使いさん。いえ。今は、アリテリオスさん、と言ったほうがよろしいでしょうか?」

ニコッ

(魔剣士である私の名前を知ってくれているということは)

「あっ、はい」

(やっぱり、魔剣聖様に拾われてきたのかな?)

スッ フラッ

「魔剣を、お返ししてくれますか?」

「ごめんなさいね。それは出来ないわ」

フッ

(この人は誰なんだろう)

(私のことを知っているってことはかなり位の高い存在なんだとは思う。この国には魔族以外の種族はほとんど存在しないはずだから。この魔剣士が言う通り。【救世主】という職業の人はいないと聞いている)

(だから私を知っていてもおかしくはない。ただ、なぜ魔剣がこの魔剣士の手の中にあるのかが疑問ではある)

スッ ギュッ「うぅ、どうして」

スッ「だってあなたの力は強すぎる。だから他の【救世主】たちに目を付けられないように。私が守ってあげないと、いけないの。分かるでしょ? あなたは強い力を持っていて狙われやすいのだから」

ナデナデ

「私は、この子に魔剣を渡すわけにいかない。私はこの子に魔剣の力を渡した。そして、魔剣使いはこの国の【聖勇者】と一緒にこの国の人達を守るために力を使うべきだと思っているの。そのために、アリテリオスにこの国の守護者になってもらおうと思って」

スタッ スウッ「私は魔剣士だから魔剣使いになれないんですよ?」

フワッ スタッ スッ

「うん、だから魔剣の力を使わなくても大丈夫になるように」

ギュッ スッ「魔剣なしでも戦えるように教え込むから。だから安心して、魔剣を使いこなす練習をしていいわよ」

「ありがとうございます」

(魔剣士が【聖勇者】の傍にいればこの国を守ってくれるということだよね)

(それなら私はこの国の為に戦うことを誓う)

『【救世主】である僕が、こんなところでくたばるなんてありえない。僕の力があればこの国だって救うことがきっとできるはず』

『【救世主】様の力を信じるのだ』

(【勇者】とはこの世界に一人しかいない特別な能力を持っている人)

(【魔剣士】はその人のパートナーであり仲間のような存在。私はその【魔剣士】の役目を果たしただけだし。それにこの子はまだ子供なんだから魔剣に頼ろうとするのは仕方がないことだと思う)

(魔剣の力がなければ魔剣士は魔剣の力に負けてしまうこともあるから)

(【魔剣士】の力に目覚めたばかりの子はその力で自分の体や精神を壊しかねないことがある)

(私は、【魔剣士】の力を持つ子をたくさん見て来た。だからわかるの)

ギロッ「ふむ。それは困ったことですね」

ギクッ「そっそうだろ?だから早くこの国を出て行くんだ。君がこの国を守る必要はない」

ビシッ

(どうするんだ?このままでは本当に【魔剣士】であるこの娘が殺されてしまうぞ。しかし。あの男。かなり強そうな気配だが。【救世主】と魔剣を同時に相手にするなど、正気ではないな)

(さて。俺が助けるべきなのは、魔剣士であって【救世主】の相手は、あの魔剣持ちにでも任せておけば良い)

(まぁ、俺は【救世主】とやり合うのは、あまり乗り気ではないがな)

(そもそも俺には、魔剣がないしな。今ここで戦うつもりは最初からなかったし。それよりも問題はこの場を収めることを優先しなければならない)

(とりあえず魔剣士をこの国から出すための準備をしておこう)

ピピッ「はい。何があったんだい?」

「魔剣使いが、魔剣の力を解放しました」

「わかった。すぐに向かわせる。君は、そのまま監視していてくれ」

「わかりました」

(この国にはすでに何人かの監視者がいる。おそらくはあの娘もその一人ではあるんだろう。だからと言ってその娘の相手をするつもりは今の所ないが)

(それにしても、一体誰が、あんなことを仕組んだんだろうか)

(【魔王】とかだったら厄介だ。もし、【魔剣聖】が出てきた場合は本当に面倒なことになってしまいそうではあるが。それとも別の組織が動いている可能性もある。この国が魔族に対して敵対的になる可能性がないとは言い切れない)

(どちらにせよ、魔族も動き出している。警戒だけは怠らないようにしないと)

(さて、それでは俺はそろそろここから去ることにしよう)

スタスタ

(あの二人も。特に何もなければ、この城から出ていくと思うし。そろそろ俺の出る幕はなくなるはずだ)

(それにして、【救世主】と、あの魔剣が手を取り合っているというのはどういうことだ。魔剣は【救世主】が、持っているべきものだ。魔剣使いとは本来そういう役割のはずだ。なのに)

(なぜ【救世主】が魔剣を使うことができる。魔剣使いとは【救世主】にとって道具にすぎないはず)

(まあいい。とりあえず魔剣さえ取り戻せば、あとはこの世界を滅ぼすための計画をゆっくりと進めることが出来る。だから今は、まず、この魔剣を手に入れるのが先決だ)

(幸い。この城にはまだ【聖魔】が眠っている)

(この国には【聖勇者】がいて。この魔剣使いを操っているのは【魔剣聖】だというのが、分かってきた。だから。僕はこの【聖魔】を手に入れて。この世界を【魔族】が支配できるようにする)

(そして魔剣使いの力を奪って、魔剣の力を使えば僕の力でもこの世界を征服することは簡単だろう)

(そして。いずれは【魔剣聖】さえも倒し。最強の力を手にすることが出来れば)

(僕の理想の世界を作り上げることもできるかもしれない)

スッ

「それじゃあ。この辺で、お別れかな」

(そう言って魔剣使いに近づいた男は、魔剣使いのことを軽く抱いた)

「はい」

スッ ギュー「ありがとうございました」

「うん。またいつか、会いに来るね」

フワッ

(この人が私の先生なの?)

「はい」

スッ スタッ スッ スタッ

「うん。それでいい」

クルッ

(私を見つめていた瞳は優しかった)

「うう、【聖勇者】に、【魔剣士】までいる。一体なんなんだ」

「こいつらは、魔族側の人間なんだ。この国は、魔族によって乗っ取られる寸前の状態にまで追い込まれているということだ」

「そんなこと。信じられるか!」

バシッ「そんなことをしたら大変なことになるぞ!お前はそれでもいいのか?」

フラッ スタッ「私は、この世界を救うために生まれた存在」

スッ「私は、この世界の【救世主】なんだ」

フラッ スタッ「あなたたちはもう。邪魔をするなら排除させてもらうわ」

「何を、勝手な」

スッ「【魔剣士】としての力。あなたたちの目の前で見せるわ」

フワッ スタッ「さぁ、行きますよ」

ゴォオオオ「炎熱魔法【煉獄業火】」

ゴァアア「凍てつかせ【永久氷結】」

ボッ「雷鳴魔術【紫電一閃】」

スッ「水撃魔術【激流弾】」

ゴブゥア「闇属性【深淵の暗黒刃】」

シュッ「風属性【風の斬空槍】」

ザッ「土の魔術【大地の怒り】」

スッ「重力魔術【ブラックホール】

ギュオオン ドゴン

「うっ、ぐぅ」

「これは、なんだ?」

「みんな。落ち着け」

スッ「ふぅ」スッ ギュッ フサッ「大丈夫?」ナデッ

「はい」

ナデッ「うぅ」スヤスヤ

「はぁ、全く、無茶するんじゃねぇっての」

(なんだ? 一体この力は、魔剣を使っている? それにしては妙な気配もしているし)

スタッ

「あなたは?」

ギロッ「ちぃ、こんなところで」

グイイッ「ちょっと待ちなさい」

ビタッ「あなたは何者ですか?この子たちに何かしたんですか?」スタッ「別になにもしていない」

(こいつは一体。どうしてこの二人がこんなに懐いているんだ? 魔剣の力を使える人間は限られてくるはず。この娘が使えている時点でおかしいのだが)

ギロッ「とにかくこの二人は俺の所有物だ。勝手に連れて行かれるのは迷惑極まりない」

ギロッ「それに。この国の中でこんな真似をしているんだ。ただで済むと思っている訳じゃないよな?」

「ふん。【勇者】様の癖に、俺様に口答えするとでも言うつもりなのか?俺様に逆らうということは。つまりはこの国の反逆罪になるんだぜ?」

(さすがは王直属の騎士と言ったところだろうか。まさか、俺の威圧が効かない奴がいるなんてな)

ピキッ「ほう。貴様。その発言から察するに、俺様が誰かを知っているようだな」

(この反応。おそらくこの騎士はそれなりの立場の人なのであろう。だからこそ、この場を誤魔化すためにも。俺の正体を悟られない方がいい。だからここは下手に動かずにやり過ごすべきだな)スッ

「くくくく、面白いじゃないか」

ギロ「おい、貴様、何を」

ピキーン

「おっ、ようやく気づいたようだ」

ギロッ「くっ、貴様、いったい何者だ」

スタッ「はぁ」

(やっぱりこの国の貴族階級には俺の存在は知られていないようであった)

「俺はこの国に新しく来た旅人だよ」

「俺はこの国に新しい仲間を連れて来てくれた【魔剣聖】さんの仲間だ。そして俺は彼女の仲間だから、彼女を救いに来ただけだ」

ガシッ「とりあえず。あんた。その【魔剣】を置いていけ」

スカッ ビクッ

「ひっ」

(やばいっ)スバッ ドンッ「危ない」

「はぁ、はぁ、なんとか間に合ったな」

(どうやら俺の行動は無駄ではなかったようだな)

「なぁ、とりあえず、俺の仲間たちは全員この城の地下に閉じ込めてあるみたいだし、俺はその地下への扉の場所も知っているし。それに魔剣は俺のところにも、【救世主】がいるわけでもない。それならさっきも言ったとおり。このままこの魔剣だけを持っていくのは簡単だが、それで納得できるような奴じゃないだろう?」

「ああ。もちろんだ。そんなの認められるはずがねえだろ」

バシン「それは俺も同感だ。俺たちの国は、お前たち魔族の奴隷になってたまるものか」

スッ

「だが、今のこの状況は圧倒的にこちらの方が不利だということもわかっているだろ」

「そうだな。確かに魔剣使いのこの娘は強い。このまま戦えば確実に負ける。しかし、魔剣さえ奪ってしまえば」

「まぁ。そういう考えに行き着くんだろうけど。そうはさせないんだよ」

ゴニョゴニョ「とりあえず。今はこれで勘弁してくれ」ボソッ

(そう言って魔族が差し出してきたのは。あの時見たことのあるアイテムだった)

ピカーッ ピカカ「おお」

スタッ「なるほど、それが噂で聞いていた。魔道具と言うものか」

スタッ「まあ、それならば。仕方がないか」

スッ「では。この魔剣は貰っていく」

スパッ「はい。分かりました。ご自由に持って行って下さい」

(さて、俺の方での目的は終わったな)

(あの娘が生きていることがわかっただけでも、この世界にいる価値があるってもんだな)

(それじゃ、これからは。この世界で好きにさせてもらうとするかな)

(まずはこの魔剣使いの力を封じることとしようかな)

スタッ

(まあとりあえずは魔剣使いを拘束して、それからこの魔剣を封印してしまうとしようかな)

(魔剣使いを操っていた魔剣は今俺が手にしている魔剣と対をなす魔剣【聖剣】だ。なら、俺が持つことで。魔剣使いを操っているのと似たような効果を得ることが出来るかもしれないからな)スタッ

「えっと。あなたが本当に魔剣を持っているのか分からないのですけれど、あなたが持っていたという証明ができる物は持っていますか?」

スッ

(なんだ?この男)

(明らかに怪しい雰囲気をしているな。俺に対して敵意は抱いていないが。魔剣は欲しているように見える。それに、俺には、【魔剣士】特有のオーラを感じ取れないことから。こいつも魔剣士ではないことがわかる。そうなると魔剣士でないにも関わらず、ここまで魔剣使いの魔力の気配がするのはおかしな話だ)

(そしてこの男の服装は間違いなく貴族階級であるということを表している。そしてこいつの言動を見る限りこいつが貴族の中でもかなり上の身分の人物であるということは明らか。だとしたら)

スタッ「ほら」

(おそらくはこれが欲しいのだろう)スタッ

(こいつ、これをどこで手に入れた?)

「へぇ。魔石ね。それなら私が持っているものをあげるわ」スタッ「はい」

スタッ「それじゃ、私はこの子たちを家に連れて帰ることにするわ」スッ「待て」

(この男が持っている魔石をどうやって入手したんだ?この魔石はかなり特殊な代物であり。これを手に入れた者は、世界の支配者となる資格を持つと言われている。だからこそ。そんな貴重な物を簡単に渡すことなど普通はありえないのだ)

「これは私の家の宝物庫から持ってきた物だから問題はないのよ」

「私の父はこの王国でもそれなりに偉い役職に就いているものでね。それこそ。私も父の後を継ぐ者としてそれなりの教育を受けてきている。だから私にとっては魔剣などさほど珍しいものではないのよ」

スタッ

「ふむ。魔剣使いに、貴族の家柄か」スタッ

(まぁ。これだけの力があれば、いくら【勇者】や【魔剣士】と言えども倒せないはずがないが)

スッ

(この男には魔剣を扱うだけの力はまだ備わっていないように見えるな。まあそれもそうであろう。この男はまだまだ幼い。それにこの男からは、まだ魔剣を使い始めたばかりだということが分かるし。この歳でこのレベルの力を持つことができるのであれば大したものだ)スッ スタッ スッ「まぁ。一応渡しておくぞ」

スッ

「ありがとうございます」スッ スッ「ああ、俺の名前はゼスト=アゼルリシアだ。俺の名前をしっかり覚えておくんだな」スタッ スッ「あっ、はい。よろしくお願いします。僕の名はルシウスです」スタッ スタッ「さて。魔族さん。俺の仲間に手を出すことは許さない」

(とりあえず、この二人を連れてこの国から出て行くことにしよう。この二人がいなければ。俺は自由にこの国の中で動くことが可能だし。それに魔族を一人相手にするのなら、この二人の少女を連れていた方が俺としては都合が良いからな)スタッ

(とりあえずは。魔剣使いのこの娘の力が弱まった状態でも魔剣を俺の方に完全に取り込んでおく必要がある。だから、この娘が寝静まるまでは魔剣を使ってこの娘の身体を支配しようと思う。魔剣を完全に俺が取り込んだ後に、魔剣から切り離した後のこの娘にまた魔剣を宿らせればいい。それにしても、この国の人間は随分と甘いみたいだな。俺のことを魔族だと勘違いしたようだし。そもそも。俺は別にこの国に危害を加えようとは思っていないんだ。俺の目的を達成するために。少し利用しようと思ってここに来たに過ぎないんだ。だからさっさと終わらせてしまうのがいいだろうな)スタッ

(とりあえずは俺も今日はいろいろありすぎて疲れてしまったし。それに眠いし。早く休ませてもらいたいからな)

(とりあえずこの魔剣を使う前にこの国の中でやるべき事を済ませるとするかな)スタッ ピキーン ギロッ「おい、お前。何のつもりだ?」

ピキピキッ「この子たちを連れてここから出ていく。お前たちはこの城の中に閉じ籠もっているといい」

ギロッ「貴様。そんなことをしてみろ。どうなるかわかっているのか?」

ピカーン スタッ「俺の言う事が信じられないというのなら。試せばいい」

ギロッ「くっ」

ギロ「貴様。その魔剣に手を触れているようだが。大丈夫なのか?」

「俺はただ。この剣を自分の武器にしているだけ。そして魔剣とはこの世に存在するどの剣よりも優れた存在」

ビクン「っ」スラッ シュパァーッ ゴトッ「うぅ、ぐはっ」

バタッ

「ふっ。所詮は魔族か。まぁいい。この国はいずれ滅びの時を迎える。そしてこの国が滅べばこの国で生活していた者たちもみんな死に絶える。それでは困るのでな。魔族がこの世界に害をなす前に排除させてもらっただけだ」

「俺の目的の為にな」

(この娘が眠っている隙を見て、この魔剣は回収しておこう。それから、この娘たちをどうにかしないと。流石にこの年齢の子供まで殺すことはできない)スタッ スッ

(とりあえずは。この国から脱出してから。どこか落ち着けるような場所でこの少女たちの記憶を改竄させてもらおう)

「ん?なんだこの感覚は」

スタッ

(なにかが俺に向かって飛んできているが、なんだこのスピードは)

(避けても構わないが。避けるとこの城に被害が出るな)スタッ スッ「はい」

(やはり魔剣か。しかし。この魔剣からは魔剣使いの力は感じられないな。どうも普通の人間にはこの速さの魔剣を避けることは不可能に近いだろうな。しかし、なぜ魔剣使いが魔剣から俺を攻撃してきたんだ?この魔剣から俺に向けて放たれていた殺気も微かにしか感じ取ることができなかった)

(まさか。この俺に対して、攻撃できるほどの実力者がいるというのか?いや、ありえない。この魔剣使いの少女が俺の攻撃に対して防いだのは偶然でしかないはずだ)

バシンッ

「おっ、おい。何をしている」

(この男は俺が今攻撃を止めた魔剣使いの少女の腕を平然と殴っていやがる。魔剣使いの力は一般人には絶対に出せない力のはずなのに)

「ええ、この娘が起きてしまいましたので。僕と一緒に旅をしていた時もこの娘が起きている時には。魔剣使いの力は使うことができなかったので、この機会にと思って」スタッ

(こいつは一体何者なんだ?)

(こいつの目、まるで。魔獣のような目をしていやがる。しかもこの男の目、確実に何かを知っている。それならこの場でこいつを倒してこの国を潰してしまうのもいいかもしれないが。だが、こいつがこの魔剣使いの力について、何かを知っている可能性があるのなら、こいつの話を聞かなければいけないな)スッ

(まずはこの魔剣使いから俺の力を吸収するとするか)スタッ

「はい、分かりました」

(なに?こいつ。魔剣使いから俺を奪おうとするのをやめさせようとしないだと?それどころか、むしろこいつ自身が魔剣を手にしようとしているだと?どういうことだ)

(俺を魔剣に取り込もうとしている?それは無理だな。確かに、俺が今まで魔剣を吸収しようとした時は俺の持っている能力に抵抗できたやつはいないが。今回は違う。それにこの魔剣にはなぜか俺の能力が全く通じない。それならば)スタッ スッ

(こっちはもう、こいつの腕ごとこの魔剣を奪ってしまえばいい。それにこの男の身体能力自体は魔剣使いにしては弱い。だから俺でも簡単に対処することができるだろう)スタッ スタッ

(なに、こいつの動きを止めて魔剣使いの方に向かわせたら、こいつを取り込むことが出来るだろう)

(この魔剣、かなり特殊だな。俺の力が全く効かないだと?こいつ本当に何者なんだ?)

(この魔剣から感じる魔力、この魔剣から感じ取れる雰囲気は間違いなく俺がこの世界に来る前に倒した魔王のそれと似ている気がする)

ドガッ

(なっ。こいつ魔剣士でありながら、俺と同じような戦い方をしてくるだと?この男はいったい何者なんだ)

スタッ

「さあ。これでこの魔剣はあなたのものです」スタッ

「さあ、魔族よ。さっさと俺の前から消え去るんだな」

ギロッ「ぐっ」

(この男。俺の実力を見抜いているな。それなら。ここは一旦引くことにしよう。あの二人の少女たちは魔族を召喚するのに必要な魔石を持ってはいたようだが。この国の貴族たちは魔族が召喚されることを知っていながらも何も行動を起こす気配がなかったからな。この男がこの国の貴族である可能性は低いはず。ならば。あの娘たちはこのまま見捨てても問題ないだろう)ギロッ

(それにしても。あいつらは結局どこに行ってしまったのだ?)スッ ピキィィン

(あれだけの魔石をあんな幼い子供たちが持っていたのが不自然だったのだ。それにあいつらが身に付けていた装備が明らかに高価すぎる品ばかり。それにあの強さ。おそらくは貴族階級の子供だろう。そうなると俺の正体がばれていないうちに逃げるのが無難か)

ピキンッピキーンピコーン

(ふぅ。なんとかなったか)

(それにしてもこの少女。かなりの力を秘めているように思うのだが。まぁ、魔剣の力を吸収できていなかったらこの程度の強さでしかなかったということか)スタッ スタッ「よし。とりあえず。この国から脱出することにしよう」スタッ

(まずは、魔族と【救世主】との関係について調べなければな。そしてそれが分かった暁にはこの国を完全に滅ぼすとしよう)

スタッ スタッタッ

(この男は何者なのだ?私の攻撃を止めるばかりか、私を圧倒するなど、とても人間にできるような芸当ではない。それに、あの男。私が全力を出したのにも関わらず。奴は顔色一つ変えずに私と対峙していた)ギロッ

(あの男は。ただものではなさそうだ。もしかすると今回の戦争を勝利に導いた勇者というやつなのかもしれぬな。だが。あの男はただの人間。それも女連れで、しかもその二人は子供だというではないか。いくら勇者とはいえ。この国の兵力では到底太刀打ちはできなかったはずだ)

(まぁ。良いだろう。とりあえずは。この二人をどうすべきかを考えなくてはな。この二人が居なくなればこの国に潜むスパイも全て炙り出すことが可能だからな。そしてそのあとに、俺の計画を本格的に実行に移すことができる。そう、俺の計画、それはこの世界を滅亡させる。俺の手でこの腐った国を俺の手によって完全に滅ぼす)

ピキッ ピキーンピコンッ

(さぁ、これからこの国で起こる地獄を見てもらうぞ)

(俺はこの世界の未来を変える。そのためには、この国が邪魔になるんだよ)スタッ スタッ「はい、行きましょう」

「ええ、あなた」

(俺はお前たちに危害を加えようなどと思っていない。お前たちが俺のことを信用できないと言うのならそれでも構わない。だが、お前たちは知らない。俺の本当の目的を)スタッ

「ん?」

ピキーンッ

「んん」

(俺は別にお前たちのことを信用しているわけじゃないが、今この国にいると、この国の連中を殺す時に面倒なことになるから、お前たちを逃がしているだけだ。それと、俺は、この国の人間を殺してこの国を滅ぼしたいんじゃない。この国を滅ぼすことで、ようやくこの世界で生き残る為の道筋を見つけることが出来るからだ)

ピキュッ

「ふぅ。やっと着いたな」

(ふぅ。何とか無事に到着したな。流石に魔族に見つかることはなかったし。それに加えて、途中で、俺が魔剣を奪った魔族の女の子に出会うことはあったが。俺の存在に気づいていなかったようだな。まぁ、この魔剣は、魔石に溜め込まれた魔力を吸収したから、今は俺の支配下にはあるが、俺の能力は通じないから、とりあえず。適当に俺のアイテムボックスに保管しておくとするか)スラッ(それにしても、やはりこの世界は魔剣が多いな。俺のアイテムボックスの中には既に20本近くの魔剣があるから、この国にある魔剣を全て回収することは難しくないが、この国以外の魔剣が回収されている形跡がないから。まだこの国は俺の魔剣の影響を受けている範囲で収まっているみたいだな)

「お待ちしておりました。王城へはこちらからお入りください」スタッ

「ありがとうございます」スタッ

(さっきは魔剣使いの子が魔剣に力を流し込んだからなのか。それとも俺の能力に抵抗して見せたからなのかは分からないが。俺を殺せなかったことで相当焦っていたように見えたな。それにこの城の兵士たちからは殺気を感じることはできなかった。俺があの子を殺さないであげたから、安心しているのだろう。俺を油断させるためにわざと隙を見せていた可能性もあるが。どちらにせよこの国の戦力に関してはあまり警戒する必要もなさそうだな)

「はい」

(あの男はこの国でかなり偉い人物なのだろう。それにこの国の王は恐らく、あの男に頭が上がらないはずだ。それこそ下手をすれば、あの男の命令だけで国を滅ぼされてしまうほどの影響力をこの男が持っていても不思議ではないほどだ。それにこの男は先程。この国の王女を連れて逃げてきたと言っていたな。ならば、おそらくはこの男がこの国に忍び寄ろうとしていたスパイだったんだろうな。それならば、この男の持っている情報にはこの国を潰せるだけの情報があったはず)

ピキンッピキーン

「はい」

(この男の魔力。確かに他のやつよりもかなり多い。それに俺に対して全く恐れていないように見えるが。だが、この男の力はあくまでも人間レベルを遥かに超えているというだけであって。俺の敵というわけではない)

スタタタッ スタッ バタンッ スタッ「はぁ。まさか本当に、あの方と連絡をとることができたなんて」

(この手紙、本当に信じられない。こんなことが実際に起こるものなの?)

「えぇ。これでこの国は本当に滅びます」

(でも、本当にこれでいいのかな?本当にこの人は。私達にとって悪い人では無かったのに。そんな人を殺してしまうってことは)

「ええ、確かにこの男を逃せば私たちにとっては最悪の事態になるかもしれないわ。だけど私はもう決めたの。この国の人間がどれほど残酷に人を殺せようとも。それはそれで受け入れるしかないでしょう?でもね、私達はこの男だけは許せないのよ。この男のせいで私たちは一度死にかけたことがあるんだから」

ピキィーンッ

(なんだこの違和感は。こいつらの言っている意味は理解できないはずなのに。何故か分かる。この国の人間のやっていることも理解できるが。こいつは駄目だ。俺にはこいつを許すことは出来ない)

スタッ

「そこまでだ!」

(こいつらは何を考えているのだ。こいつらは自分たちが死ぬ覚悟をしているからなのか、それとも何かしらの情報を手に入れたからこその行動をとっているからなのだろうか。俺には判断できないが。こいつらは間違いなくこいつらに害を与える存在だ。それならここで殺してしまっても問題はないはずだ。それならば俺の力でこいつらを殺した後に、この国からさっさと脱出することにしよう)

ピキッピキーン

(こいつのステータスは普通の人間のものとは明らかに違う。それどころか、人間というよりも魔族に近いものだな。もしかして、本当にこの男が魔王だとでもいうのか?いや。そんなはずはないな。魔王は確か、【救世主】とかが倒してくれたんじゃなかったか?)

スタッ ピキーンピキュンピコーンッ

(まあ。とりあえず。この国の王女は捕まえることができたし。あとは、あの男さえ始末できれば完璧に俺たちの作戦通りだな)スタッ

(この魔石を使えば、あの女共が使っていた召喚用の魔石と同じ効果を得られるようだな。これがあれば。俺の配下たちをこの世界に呼び戻すことも可能ということか)

ピキュッピーピピンッピキンッピキピキンッ

(よし。準備完了だ。それでは、俺の忠実なる部下よ。俺のために存分に働くがいい)ピキュッ

(まずは召喚するための儀式を始めるとするか)

ドカーンッ ズガーンッ グオオオオッ「ふぅ。なんとかここまで辿り着けたか」ガサッ

(あれだけ大規模な爆発が起こったのだ。いくらあいつらが【結界】を張り続けていても流石に影響が出ているはずだ)スタッ スタッ「ん?」スタッ スタッ スタッ「おい。何だこれは」スタッ

「ふぅ。やっと辿り着いた」

(さっきの魔法攻撃の威力を考える限りこの国はかなりの戦力を有しているみたいだが。さっきから感じている妙な気配。それに。あの二人の少女たちの力は異常だ)

スタッスタッスタッ スタッ「はぁ。それにしてもあの魔剣の能力は便利だよな」スタッ スタッ「ん?あいつは何をしている?」

(あんな場所で立ち止まって。何かを探しているような素振りだが。俺の存在に気づいていないということは。あの場所の周辺にはまだあの少女と、あの少女が連れている少女以外の人間がいないということか?いや、もしかすると、あの魔族の女に、俺のことを報告させるために一人であの場所に待機しているのかもしれな)

スカッ

「は?」

(消えた?)

シュッ バッ

(くそ!俺の【無詠唱】より速く移動したっていうのか)

(いや。それよりもあの魔剣が吸収されたということの方が重要か)カチッカチカチ「な!?俺の魔剣が!!」

(どういうことだ。魔剣が。俺の支配下から外れようとしているのか?)

ブオンン バチィィィンッ

(俺の力が通じない?)スタッ スタッ「ちっ。一体なんなんだ」

バタンッ!! スタッスタッスタッ ダダッ

(クソが。さすがは魔王と言ったところか。この国の王女を連れてきていて正解だったな。さっきまでは奴を殺すための策を考えていたせいで少し周りが見えていなかったが。どうやら、さっきから感じていたこの違和感の正体はあの女のものだったみたいだな)

「おいっ!」

スタッ スタッ「な、お前は、まさか魔族なのか」

(だが、おかしい。何故この魔族は俺を見ても怯えないんだ?俺の魔眼はどんな人間だろうと、相手が強ければ恐怖を覚える。それは俺の【能力略奪】の能力によって相手のスキルを奪えるようになるから、自分のスキルが相手に通用するかどうかもわからないからだろうな。だが、この目の前にいる魔族にはそれがない)

(それに俺の魔剣の能力も効いていない。もしかしたら、この魔族の持つ特性は俺が持つ【状態異常無効】のような特別な耐性があるのかもしれないな。そうなると、俺の攻撃は全てこの魔族の体には届かないことになる)

ピキュッピーピッピピキンッ(だが、俺はまだ魔剣の能力を一つしか使えていなかった。だから今の俺は全力ではないのだが、それであっても。この俺に傷をつけることのできる可能性がある魔剣はこの『聖剣エクス』だけだ)スッ スタッスタッスタッスタッスタッ「な、貴様、この俺を無視してどこへ行くつもりだ」ピキッピキィピピピキンッ「なんだこの魔力は。さっきまでとは段違いじゃないか」

ビキッバチンッ

(なんだこの威圧感は。まるでこの国の王様に対面したとき以上のプレッシャーを感じるぞ)

スタッ「おいっ」

(くっ。まさか魔剣に力を注ぐ必要があるほどの敵がこの世界に現れるとは思ってもいなかった。あの時は【魔剣士】に成り立てで、まだまだ弱い時期だった。あの時よりも格段にレベルは上がったとはいえ、今の状態の俺に勝てる見込みのある人間はそう多くはないだろう)

(しかし。まさかこれほどまでの力を持つ者がこの世界に存在しようとはな。しかも、あの男よりもさらに格上の力を持っていそうだな)

「なんだ」

スタッ スタッ「俺のことを無視するな」

(いや、無視していたわけじゃねえんだけど。俺のことは見向きもしねぇし、それにあの魔族の女。明らかにこの国の王を殺せるほどの強さを持っているようには見えないんだが。なのに、なぜだ。あの女から感じるこの魔力。今までの俺よりも圧倒的に強い。それこそこの世界での本当の魔王よりもな)

スタッスタッスタッ「おいっ」スタッ バッ「くっ。今度はこっちか」

バッ

「なんだよお前」

バッ スタッ「な、こいつまた、俺から逃げやがったな」

スタッ「だがこれで分かった。あいつの狙いがこの国の王女だってことがな」

ドォンッドンドンドンッ

「さぁ、出て来い人間どもよ。我の忠実たる部下たちよ。そして、我が元にひれ伏せぇえええ!!!!」スゥウウウーーッッッ スゥウウンッ「あ?誰もいねぇのかよ」

スウッ

(なんだと?あの魔族の女は俺達の仲間をこの国のどこかに呼びつけたのか?しかし、そんな気配はどこにもないぞ?)

ゴソッ ガサァッ

(おいおい。まさかこの城の兵士たちが全員気絶してるなんてことはないよな?)

ガチャッ バンッ「ははははは。なんだお前たちは。俺に攻撃しようというのなら無駄なことだと教えてやろう」

ボワッ ボワンッ

(な、なんだあの女の周りに黒いオーラみたいなのが現れて。そこから現れたのは人型の悪魔だ。それもただの悪魔の数倍もの強さを持った)

「な、なんだこの化け物は!」

グワァッ「うわぁああ」ガシッ ブンッ

(く、くるじぃ)ググッ

(な、なんて力だ。この俺を片手一本だけで持ち上げるだ、と)

スタッ

「おい」スタッ「まあいいだろう。俺は優しい方だ。今すぐ俺を楽にしてやる」スッ ガシャン「ふっ。この俺に楯突いたことを後悔するんだな」スッ

(な、こいつ。一体どうやって俺の後ろに。それに。一体何をしようとしているのだ?)スタッ シュパパパッパパン ヒュン「は?は?は?」

ドサドサドサッ

「な、な、な、なにがおきた?い、いま。あの化物の手が光って」スタッ

(一体なんなんだこの国は。どうしてこうも次から次に。まあ、いい。とりあえずはあいつらの居場所を突き止めたし、そろそろ行動に移らせて貰うか)

(とりあえずこの国の城の中に、この国の騎士や魔道士の精鋭たちを呼び出しておいたが。あの女の言っていた、魔族の男の部下というのはいったい誰だ?)

スラッ シュルルッ「この魔道具さえあればあいつらもすぐに来るはずだが」スッ

(よし。これであいつらはいつでもこちらにこれるようになったな)

ドォオオオオーンッ ドドドドッ

「な、な、な」

ドカーンッ ドドーンッ「な!?何だこれは!」

(この魔力は!)

(くっ、あの女が連れていた少女の力のようです。恐らくあの二人が連れてきた部下たちが到着したんでしょうね)スタッ

「な!?貴様、さっきの魔族か!?一体どこへ消え失せたのだ?」

ギロッ

「ふふふふ。私の名前は魔将軍。あなたの部下である【黒影の鎧騎士】を倒しましたので、次は私があなたの相手をして差し上げましょう」

(まずは俺のことを油断させるためにわざとらしく名乗りをあげるところから始めなければなりませんね。そういえば、昔読んだ物語に出てくる名台詞。この世界にもちゃんとあるのですね)

(な、この女の気配。先程のあの二人の魔族よりも強く、それになんだ。さっきまでとは纏っている空気がまるで違うではないか。この俺がこの気配を前にしても恐怖心を覚えないだなどと)

(まさか俺よりレベルが上なのか?確かにこいつは魔王の気配が感じられる)スゥウウーーンッ「【闇夜の大行進】!!!」

ブオオオンッ バババッババッ「ん?」スカッ シュッシュシュシュシュッ「あれ?俺なんか変なもの殴っちゃったかな?」シュシュシュシュシュシュ「んんんんん?」

(この女の魔力が急激に高まったと思ったら、急に消えただと?どういうことだ?)

(俺の攻撃が効かないのか?いや、そんなことあるはずがない。それに俺のステータスは俺のレベルの高さに見合うくらいのものなのだ。いくら相手が魔将だからと言って俺の攻撃が全く通用しないということなどありえない。つまり考えられる理由はただ一つ。俺の予想以上にこいつが強いということだ)

スタッ

(やはり俺では敵わないのか。だが俺にはまだ奥の手が残っている。あの女から奪った能力があれば俺も少しだけあの女の域に足を踏み入れることができる)

(だがあの能力はリスクが高すぎる。まだ俺も完全使いこなせているわけではない。この力を解放すれば俺はおそらく動けなくなるだろう)

(しかしそれでも。俺は魔王に一矢報いる必要があるんだ。たとえその結果が死であったとしても)

(俺はここで死ぬ訳にはいかないんだ)

スゥウウーーン スウッ

(きたな)スタッ

「あら。どうしたんですの?」

「はははははっ。貴様にこの魔剣が通じるかどうか確かめに来たのだよ」

「ほぅ。その余裕はどこからくるというのですか?」

「ふっ。この俺はもう負けられないんだよ」

ジャキッ ピキィピキィンッ(くっ。やつの魔剣も俺と同じく聖剣のようだ。そして俺の魔剣の斬撃が奴の聖剣によって吸収されているように見える。だがそれは錯覚だ)

(この魔剣は俺の持つ【聖剣エクス】と同等の力を持つ聖剣。それなら相手の聖剣を喰らい尽くすことができる)

(それに俺の持つ聖剣はこの『魔剣グラム』と『聖剣エクス』の二つだけではない)

(そう、俺はこの聖剣を手に入れるまでにいくつもの聖剣や神級武器と呼ばれる強力な力を持つ武具を手に入れたんだ)

スラッ

(これが最後の魔剣だ)スゥウンッ

(この魔剣で奴にダメージを与えられるか分からないが。俺の持つ【聖剣エクス】と同等レベルの力を持っていればこの程度の威力でも十分な筈なんだ)

スッ スウウーーッッ ズッ ザアァアッ「くっ、」ザァーッ

「ははは。やったぞ」スタッ シュルンッ「お、おお。力が溢れ出てくる。凄まじいまでの魔素がこの魔剣から放たれているというのに、俺には全く苦痛を感じさせない」

スタッ「これで、これでようやくあの方に認められる力を手にいれたぞ。魔王よ待っていてくれ。この俺の力を試させてやる」

(さて、これで俺の役目は済ませた。俺の体に残っている魔力の残りカスをかき集めて作った。この【闇の霧】も奴には多少なりとも効果がある筈だ)

(そして奴にダメージを与えることができなくても。時間稼ぎをすることができれば、後は他の仲間が来てくれるのを待ち、その後全員でこの国に攻撃を仕掛ければいい)

「くっくっく。この国もあと数時間で終わる」スゥウウーーンッ

(なっ!?)

シュバババッ スタッ

「あぁあ、危なかった。もう少し反応が遅れていたら、俺は完全に飲み込まれてしまっていたかもしれない」

(なんだ今の速さは。まるでさっきまでのあいつの動きとは違う。それに、あの男の体からは黒い煙のような物が漏れ出している。あんな状態じゃ、まともに動くこともできないはずなんだがな)

「はぁあああああああ」ゴォオオオオッ

(ま、まさか。この俺と張り合おうっていうのか?)

ドォオオンッ ゴゴゴゴッ「なにぃ?」

(この力はまさか【勇者】の)

(あの男は人間の中でも最強の存在である【聖勇者】のジョブを持っている。だが、どうしてこんな辺境の地に、この国の最強であるはずのあの男が?)

スウウーッ

「ふははは。いいぞ、もっと俺に攻撃をしてこい。そうでなければこの国の王の首を取ることなんて不可能だぞ」スウウーッ

(なぜだ?さっきまでとは段違いに強さが違う)

「はは。お前のことは覚えておいたぞ」スウウーッ スウウーッ「お前の名前を聞いておく」スウウーッ

(名前。あぁ。そんな物聞くまでもない。この国を滅ぼす俺にとっては。その名前を知る必要はないからだ)

スウウーッ「お前の名はなんという?」

「くくく。俺は魔将軍。貴様を倒すためだけに産まれた者だ」スウッ

「そうか、魔将軍といったな」スッ

(なんだ?あいつの雰囲気が変わった?なんだあの黒いオーラは)

スウウゥゥゥッ

「この俺と戦えることを誇ってもいい。この世界は貴様にとってそれほど価値のあるものだということだ。だからこそこの世界の真実を見せてやろう」スウッ

(この雰囲気。まずいな。この男に俺の正体を気づかれてはならない)

「ははは。俺に正体を隠しても無駄なことは分かっているはずだ」スウウーッ スゥウーーッ「な、何を言っている。俺は」スウッ

(しまった。つい口が滑ってしまった。なんとかしなければ)スゥウーーーーーッ

(なんだあの光は?)

(いや違う、光なんかじゃない。闇だ。あれほどまでに暗いオーラを持つ人間がいてたまるか)

(だがあの光。闇にしては眩し過ぎるような)

パキィーーンッ パリィンンッ

(な、なんだこれは)

(まさか、【魔将化】を使った影響がまだ残っていたのか?)

(だが何故俺はまだ動けるのだ?それになんだ?さっきまでとはまるで別人ではないか。この男、いったいどうしてしまったと言うんだ?)

(いや、今はそれどころじゃない。このままだと俺の命が)

スッ サッ

(くっ。まさか俺にここまでのスピードを出すことが出来るようになるだなんて。それにさっきの魔道士の時とは違ってこの攻撃は間違いなく当たる)

(俺の狙いはあいつらの隙を突いて、魔将を仕留めることだ。その為なら俺は何度死んでしまってもかまわない。あの魔道士の女の魂だって俺の中に既に取り込んだ。この肉体を潰されてもまたすぐに新しい肉体に乗り移れる。俺にはこれくらいの覚悟しか無いのだよ)

スゥッ ブンッ グォオオオンッ ドッカーンッ ドッカーンッ

(この魔将の攻撃。確かに威力は桁外れだ。だがそれでも魔将軍ほどのものではない)

「さて、そろそろ終わりにしようか」スウッ

(こ、こいつはもう【魔王】の力を使っているというのか?まさかこの男は最初からこの魔王と戦うつもりでここに現れたというのか?)

シュバッ

(は、速い)スウッ

(なっ!?こいつどこに消えた)

ガブッ ボギィイインッ シュパッ

(こ、こいつ!この一瞬の間に移動しているだと?それに俺の体を、腕が!!一体どうやって俺の腕が切断されたというんだ?)

(く、くっそぉおお)

スッ

「ふっ。どうやら俺が思っていたよりも強かったようだな」シュルルッ

(ち、血が。くっ。この俺の身体に流れる血の殆どをこの男に奪われてしまった)

(こ、こうなれば。最後の切り札を切らなければ。俺の体は傷ついてもすぐ元通りになる。しかし魔将として得た能力は別だ)

ブオンッ

(なにぃ!?この俺の体に、傷が治らないだと!?)

(くっくっく。魔道士と魔将を殺ったおかげで魔将軍の力を使いこなせるようになってきたぜ。これで俺はあの方の側近になれる)

(そして俺がこの世界に君臨し、この世界のすべてを支配するのだ)

(そして俺は魔王を倒し。魔王を超える力を手に入れ、この世界で真の最強となる)スウウウウウウーッ

(なに!?魔素を吸収しているのか?)

(まさかこの技が発動できる程に俺の能力が覚醒するなんて思わなかった)

(魔族にとってこの力は諸刃の剣。だが俺はここで魔王に復讐を遂げなければならない)

スウウーッ

(まさかあの男がこの魔素の流れを読んでいたというのか?)

スウウーッ

(いや、そうじゃないな。恐らく奴はあの黒いオーラに全てを注ぎ込んだんだ)

(奴のあの目は本気で魔素の全てを破壊しようとしている)

シュルルルーーッ ビシッ バリィイッ ゴァッ

(なっ!?奴が俺の【闇の霧】を切り裂いている。そして魔将の力を無効化したというのか)

スゥウウーーーーッ

(な、なに?ま、まずい、や、やめ)

(や、やめるんだ)(く、来るな)

(俺は魔将軍のスキルを全て持っている。それは魔族の王として君臨するためのものだ)

シュバッ ズザァアアッ

(や、やめてくれ)

シュババッ

(俺はただ自分の存在価値を示したかっただけだ)

(な、なんだよそれ)

(や、止めろ。俺を殺すな)

ズバッ ザッ「ぐ、う、あ、あ、あ」ドチャァアアッ

(あぁあ。俺の人生ってなんだったんだろうか)

(この世界では、この世界こそ俺が産まれてくるべき場所だったというのに)

(あぁ、俺は、なんで、あんなにも無力なんだ)

(あぁあ。せめてもう一度だけ。俺の存在を認めてくれるような。優しい誰かに愛されたいよ)

(い、嫌、だ。死にたくない、俺はまだ、まだ生きたい。助けてよ。誰だか知らないけど、誰でもいいから、この俺を助けてくださいよ。神様でも悪魔でも構わない。なんでも良いから、どうか、この命だけは)

「さて、次はお前の番だ」スウーーッ シュッ

(な、なぜ俺がこんな奴に。俺の方が強いはずなのに)

(まてよ、こいつの能力には【魔王】と【魔聖剣の王】の効果を相殺することができるのかもしれない。つまり俺はこいつに勝てない)

(ならば俺に残された選択肢は)

「くく。くっくっくっくっくっく」

「なにがおかしい」スウッ

(この男からは恐怖も焦りも感じられない。やはり魔道士を倒したのはあの女ではなくこの男のようだな)

「あぁ、やっと見つけた。この世界の人間達の中で最も俺に相応しき存在がようやく現れたというわけだ」

「貴様はいったいなんの話をしている?」スウッ

(なにを言いたいかわからないな。まるで意味が分からないぞ)

スウッ

(なにが言いたいのか全く分からないが。俺は今こいつに殺されてやる訳にはいかない。なぜならこいつは俺の生きる目的であり、生きる目標だからだ)

「あぁ、すまないね。つい興奮してしまった。どうやら君は僕の目的の人ではなかったらしい」スウッ スウッ「僕はこれからこの世界を滅ぼすことにする」スウッ

(は?今この男はなんて言った?)

「お前はこの世界を滅ぼすつもりなのか?」スウウーッ

(こいつが何を言っているのか理解できない)

「そういえば君の名前を聞いていなかった。教えてもらえるかな」スウッ

「なに?なぜお前のような化け物に名前を教えなくてはならない」スウウーッ

(こいつ。本当になにを考えているんだ)

「僕の名前かい?そうか。なら特別だ。名前ぐらいは名乗らせてあげよう。その代わり君の名もちゃんと名乗ってくれるよね」スウウウーッ スウッ「ま、まさか」スウッ

(この世界を滅ぼしてしまって、その先を考えてなかった)

「ふふふ、さてこの世界も終わりの時間みたいだ。じゃあさっさと始めさせてもらうとしようか」

(そうだ。この世界が滅んでしまっては俺の目的は達成されない。この世界が終われば、次の世界に俺は転生することになるだろう)

(ならば、それまでの間俺はこの世界にいる人達を出来る限り救ってみよう。それで俺が俺の存在意義を示せたと言えるはずだ)

「なに!?世界を滅ぼすだと!?」スウウーッ

(なんだこの黒い光は?)

(こいつはいったいなんなんだ?)

スウーッ

「なんだ、もうこの国の人たちを殺してきたのか」スウウーッ スウーッ「この国にいた人達は皆、殺して魂を回収してきました」スウウーッ スウウーッ スウウーッ

(俺にはわかる。こいつこそが本当の魔王だと)

「お疲れさま。よくやってくれたね。君の名前はなんていうのかな」

「はっ!私の名前をご存知いただき恐悦至極にございます」

「そんなに畏まることはない。もっとリラックスしてくれてもかまわないよ」

「ありがとうございます」

スウウウーッ「さすがは【神魔】殿ですね。さっきまで殺し合いをしていた魔族を相手にしても平然と会話を続けることができるなんて」スウウーッ パチンッ スウウーッ

(【神魔】は指を鳴らすだけで魔法を発動させることが出来るという。だがそれが本当だとしたら、こいつは本当にヤバイ相手だ)

スウウーッ

「ところでさっき言っていた世界を救うっていうのは、どういうことなのかな?」スウウーッ スウウウーッ「えっとそれは、私は魔族に両親を殺されたのです。魔族は私を実験体にするために誘拐したんですよ」スウウーッ

「それはまたひどいことをされたものだ」スウウーッ スウウーッ

「そこで、この国にきた時に私は誓ったんです。いつか私の両親を殺した犯人を捕まえる。そして私が絶対に魔族を許しはしないということを証明して見せるって。そしてその為に私は、強くなる必要があった」スウウーッ

「なるほど。だがそれならば、この世界を壊すことができれば君にとっては願ったり叶ったりということなのではないのかね」スウウーッ スウウーッ「確かにそうなのですが。ただこの国がなくなるのは悲しいです。それにこの国は私の故郷なのです」スウウーッ スウウーッ「ふむ、しかしそれでは困ったな。僕もこの世界でやりたいことがあるんだよ」スウウーッ スウウーッ スウウーッ「この世界には【神】の力を持つ者がいるはずなんです。それを倒せば、私には【聖魔】という称号が得られるでしょう」スウウーッ スウウーッ スウウーッ「そうすれば、魔族の長として【魔帝】を名乗ることが出来ます」スウウーッ スウウーッ スウウーッ「魔族の王としては、魔族のトップに君臨できる」スウウーッ スウウーッ

「それはいい。それはとてもいいことだ」スウウーッ スウウーッ「この世界を魔族のものにする。そのための力として【魔剣】というものが魔族の間で伝えられていました。それを使いこなすことができれば最強の力を手に入れることが可能になります。だから私はその力を手に入れて、必ずこの世界で最強の存在となって見せましょう」スウウーッ スウウーッ

(こいつは本当に何がしたいんだ。こいつの言葉はどこまでが真実でどこからが嘘なのか分からない。こいつも魔王と同じく俺のことを探っているように感じる)

スウーッ「そして魔王を超える強さを得て、あの方の右腕になることさえできればきっと私にも救いが与えられるはずなんです!」スウウーッ スウッ

(なっ!?なにもんだこいつは)

「さぁこれで全ての準備が終わったね。さぁいこうか」

「わかりました魔王様。仰せのままに」

シュタッ(な!?なにもない空間から突如として人が出現した)

「さぁ行こうじゃないか」スタスタスタ

(くそ、あいつは危険だ!このまま放っておいたらとんでもない事になってしまうぞ!俺はここで殺される訳にはいかない!この世界の為にもなんとかして生き延びなければならない!!俺はこの世界に必要な存在として認められなければ意味がないのだ!!!俺の存在する価値が証明できないと俺の人生は意味のない物になるんだ!頼む!助けてくれ!!!神様でもいい!俺の人生を助けてくれぇえーーーーーッ!!!!!!!!!!うわあぁあああーああんんんんんうわあぁあああーんんんんんんううううわあぁあああーあぁああっんんんんうううわあぁあああぁぁああんんんんううううわぁあああーあぁああっん)

バシィイインン!!!

『うるさい!!』

(な、なにが起きた?)

(俺は、どうやら気を失っていたようだ。どうやら俺は生きているらしい。しかもなぜか傷一つ負っていないようだ)

(これは、おそらく何かしらの能力によって助けられたということだろう。一体だれが?)

『お前だよ』

(な、なんだ今の?なんか頭に声が流れ込んできたんだか)

『は?なんだよその言い方。俺の声を聞けて嬉しいだろうが』

(えっ?もしかしてさっきの頭に直接響いてきた謎の謎な音声は君だったのか?てか誰なんだ君は?もしかして君は【勇者】とか【神魔】とかそういった感じの俺の味方的な存在なのだろうか?それともまさか俺のライバル的存在とでも言うのか。まぁどっちにしても君に名前を聞かれていたみたいだし俺も名乗っておくとしよう)

「俺は山田太郎だ。君の名前はなんというんだい?」

「な、名前だと?名前か。名前はない。だから俺には名前はない。まぁあえていうなら『魔王の側近Aさん』といった感じの立ち位置だ」

「ふ、ふふふ」

(なんだこの人。自分のことを俺だなんて言って。変なの。俺なんて一人称を使う人見たことがない。まるで厨二病患者みたいな喋り方。だけどなんだろ。この人に少し興味がある。それになんだかこの人を見ているといい匂いまで漂ってきて、思わず頭を撫でたくなるようなそんな不思議な気持ちになる。なんだか懐かしい感じがするような気がしなくもなくないこともない。うん。やっぱりちょっと撫でてみようかな)

ワサワサ スカッ スウウーッ

(あれ?なにこれ幻覚?)

ワサッ

(おかしいな、なにか触った感触がすると思ったんだけど。まぁいっか。もうちょっと試してみようかな)

スウッ スッ

(やっぱり手はすり抜けるのか。いったいなにが起きてるっていうんだろう。まぁ別に今はそんなことはどうでもいいかな)

ワサァ

(そういえば名前って言われて咄嵯に名前をつけようとしたけど、なんていえばいいのか分からなかった。だって俺はこの異世界では今まで【佐藤】って名前を使ってきた。まぁ俺がこの異世界に来た時に名前をつけたのは確かだけどさ。それでも俺は、この世界に来てからは【佐藤】という名前でしか行動していなかったはずだ。俺はどうして急に【太郎】なんて名乗ろうとしたのだろう。そもそも俺は本当になぜこの世界の人間じゃないはずの俺なのにこの世界での記憶が残っているんだ。いったいなんの意味があってこんなことになってるのだろう?)

スウウーッ「さっきはよくわからないことだらけだったがやっと状況を理解しつつある。君の正体は分かったし、俺の状況についても把握できたしね。とりあえずこれからよろしく頼むよ。ところで君は今、魔王と呼ばれている奴の部下で魔王の側近的な立ち位置の【魔王側近BくんAさん】で合っているかい?」

「あ、合ってはいるが」

「よし。ならば魔王を倒しに行くぞ!!」

「は?魔王を倒す?無理だ諦めて家に帰れ」

「なっ!?何故だ!さっきまであんなに乗り気だったというのに!?」

「そりゃあ俺だってできることならば魔王を倒してやりたいさ。だけど今の魔王には勝てん」

「それはなぜ?」

「魔王が強すぎるんだよ」

「それは仕方がないことではないか。相手が強くても負けると分かっている勝負に挑むほど無謀なことはない。ここは逃げるべき場面だ」

「確かに普通に考えたらそうなんだが。ただ、あいつはこの世界にとってなくてはならない重要な役割を担っている。それを殺すことはできない」

「それなら俺も同じことじゃないか。俺はこの世界にとって必要不可欠というわけではない。この世界に必要とされているものは他にも沢山ある」

「だからと言って君が死んだとしても構わないとは思わない。それは君にとっても俺にとっては大切な仲間だ。死んでもらっても困るというものだ」

「ふざけんな。誰がお前の仲間になどなるものか。勝手に決めつけんなっての」

「まあまあ。そんなことを言わずにさ。ほら、君の好きなようにやってみるが良い」スウウーッ シュバッ

「へ?おわぁああぁーーッ」ドッカーン ゴゴゴーーーン

「いてて。全く。いきなり殴るなんてひどいじゃないか。それに俺はまだ魔王について何も説明していないんだぜ」

「う、うるさい!だいたいお前が急に手を伸ばして俺を空に向かって投げ飛ばすからだ。おかげで死にかけたわ。俺を殺したらどうしてくれるつもりなんだよ!」

「ごめんなさい」

「は?何その態度、全然謝ってる様に聞こえないんですけどぉ~。誠意ってもの無いんですかねぇ~」ブォオオン ガシィン!「な、なんだ今のは、俺はいつの間に剣を持っていたんだ」

「ふふふふふ。驚いたようだね君ぃいい!」ブンブン

(こ、こいつなんでこんなに楽しそうなんだよ)

「そ、それはそうと。君の名前は結局教えてもらえないのかね?」

スウウーッ(くっそイラつくやつめ。絶対許さないからな)

「ふふふふふふ」

ブンブン「なにその顔。超ウザいんですけど」

ブン! ブン!!「てめぇ。マジうざ過ぎんだろ。殺すぞこらぁ」スウウーッ ブンッ ブンッ

「おい!さっさと俺に名前をよこせや。この俺がお前にぴったりの名前をつけてやる」

「いらんわ」

「いらないだと!?」

「あぁそうだ。いらない。そんなに欲しければくれてやる」

シュバッ スウウーッ

「え?ちょっ!なにこれ!な、なんだって言うのさぁああー」

(くそ!こいつのこの能力!どうやったかは知らんがどう考えても俺のスキルのはずなんだが!どうにもこいつに操作権を取られているみたいで思うように使えなくなっている)

「くそっ!」

バシッ

(くそ!どうにかしなければ!!このままじゃ本当に殺される!!)スウッ バシン!!バキッ!!グジャアァアーッ!!!

(やばい!!このまま殺される訳にはいかないんだ!!絶対に俺は生き延びなければならないんだ!!俺は死ぬ訳にはいかない!!)「死ねや!!雑魚野郎!!これで俺の勝ちだ!!うおおおーーッ」

ブンブンッ「ぐぎゃあああああああああーーーッ」

スゥーー(あれ?なんか飛んでいった。そして、俺も地面に激突して動けなくなってしまった)

「な、なんでだ、なぜ殺せない?この俺の攻撃が全く効いていないのか」

(どういうことだ。まさか本当に俺の攻撃は届いていなかったとでもいうのか?そんなことがあるわけがない)

「う、うう、クソ。俺はどうやら意識を失いかけているようだ。なんとか起きていなければ。しかし一体なぜなんだ。俺はこんなに弱かったか?確かに【勇者】として召喚された時よりも弱くなっていた。だがしかしそれでもこんなに強くなった覚えはないんだが。これはどうなっている?それに俺はどうやってもこいつに攻撃を与えることができないようだしな)

スウーッ「なにをボサっとしてんだよお前」スウウウーッ バコン!!「うげっ!!なにをする!!」

(俺に不意打ちとかまじで最悪過ぎる。なにか反撃を、え?嘘でしょ?もういないんだけど)

スウゥッ スウゥウッ「ふぅ。なんとか倒せたな。しかしいったいどうして俺は【佐藤】なんかになったんだろうな。まぁ、もう気にしないことにするが。さてと」

「魔王の所にでも行ってみますか」

俺は『魔王の側近A』を倒したことで魔王を倒すことに成功したのであった。

(まぁ俺が倒したといっても実際にダメージを与えたのはこの人であって俺が与えたダメージは皆無だったのだが。そもそも、この人俺のこと完全にスルーしていたよね。なんの感情もないみたいな感じだった。あれかな。俺って実は透明人間だったりするのかな。いやでも、流石にそれは無いよな。この人俺が見えていたはずだし。それにもし、この人が見えない人間だったとしたらそもそもこの人の攻撃を俺が喰らうなんてことが起きる訳ないしね。やっぱりこの人も普通じゃないよな。それに俺って、この人に何かしたっけ?普通に初対面のはずだし、この人は敵でもないはずだ。だけど、何故か妙な親近感を感じるというか。とにかくよく分からない)

スウーッ フワッ「よし。ついたぞ魔王」

スウーッ スタスタ「ん?そこにいるのは誰かね?」

(誰の声?それに今目の前にいるのが魔王なのか?)

スウウウウーーッ

(な、何をしているのだ。こいつは。魔王相手にあんな大胆な行動をするなんて、俺でさえ思いつかなかったぞ)

「ふふふ。はっはっはっはっは!面白い!実におもしろいな!はっはっは」

(こ、こわいこいつ、笑い声こわい、なんだこの不気味な男は、な、なんだか寒気がする。早くここから逃げないと。こいつに捕まったら俺はどうなってしまうんだ。想像したくない、考えたくも無い!!)

スウウウッ

「な!?」

ドガーンッ ガラララララッ(扉にぶつかりまくってる、痛そうだな、大丈夫かな?まぁいっか、それよりも、魔王の側近Aさんって意外といい奴かもね、わざわざ魔王に殺されに来た俺を逃がすための行動に出てくれるなんて、案外良い奴だったんだね)

「ん?な、なにをしておるのじゃ。はっはっは!そ、それはまずいだろう。お主がここにいたということは、我は、魔王を裏切っていたことになる。こ、これを見られてしまうのはまずいのではないか?お主、いったい何がしたいのじゃ。なにか言ってみるのじゃ!!」

ドカーン!ドカン!

(え!?ちょ!なに!?いきなり大声で、なにがあったんだ!?てかさっきまで魔王と会話をしていたんじゃないの?なのに今、魔王はここには居なくて。この人は今一人きり。てことは、魔王の味方だと思っていた魔王側近Bくんは今現在、この魔王の側近であるはずのこの女性に命の危険にさらされている状況ということになるのではないだろうか?だとしたら俺はどうすればいいんだ。とりあえず、俺が今すべきなのは、俺がここに居ることが彼女にバレないようにする事だな)

サッ(やば、隠れよう)

タッタッ ダッ(とりあえず建物の陰に隠れれば見つからないだろ。たぶん)

スウーッ(ん?なにか話し声のようなものがきこえてくるな。なにを話しているんだろう)

「お前、我の部下ではなかったのか?」

「はい。そうですよ。あなたに言われて部下になりました。ただそれだけのことですが?」

「お前がこの部屋にいることを、お前の主が知った場合、確実にお前が危険な目に合う。それはお前も分かってるよな」

「もちろんですとも。だからこそ、私はここであなたを殺してしまうことに決めております。それに私が貴方をこの場から見逃してしまったとあれば。私の立場が危うくなるかもしれませんからね」

スウウーッ「な!?貴様!」

スウウーーッ スウーッ「ぐわぁーッ」

「ふふ。私の勝ちですね」

バタン ガチャリ ギィーッ

(あーーーーーッ!あいつなにやってるんだよ!!せっかく俺が上手くやろうとしたってのに!!なんで自ら正体バラしちゃってるの!!馬鹿なの?あの人死ぬの?あーあー、これだから素人は困っちゃうんだよ。ほんっとに嫌になる。てゆーか、もう面倒だし、こっちから仕掛けちゃおうかな)

スウーッ「おい」

ガシャーンッ ガッシャーンッ スウーーッ「ねぇねぇ」

ガシャンッ ガッキーンッ「ちょっとぉー!」

バンッ! スウーッ「おい!!無視するな!!この野郎!!聞こえてるんだろ!!お前!!お前!!返事しろやぁああああ!!!」スウーッスウーッ スウウーッ「はぁはぁはぁ」

(き、気づかれなかったみたいだな。よかった、てゆうかなにが目的なんだったっけ。あぁ、そうだそうだ、俺の目的はこの世界を滅ぼそうとする『魔王』を倒しに来る『勇者』をぶっ殺すことだったよな。俺の目的ってこんなんでよかったっけ?いや、そんなはずない。俺がこの世界に来てしまった原因を作ったのは勇者だ。そして、勇者に俺は殺されかけ、その結果この姿になって、こんな訳のわからないところに飛ばされることになった。そしてこの女には散々な目にあったな。まぁ、もうそれも過去の話だがな。そしてその恨みはまだ俺の中に消えることなく残ってはいたが、まぁそんなことはもうどうでもいい。今はこの状況にどうやって俺が対処するかを考えるべきだな)

スウッ

「お前、そこでなにしてんだよ」

ガシッ「ひぃ」

「お前がこの部屋に入ったところを偶然見かけたんだが、俺がお前の姿を見ちまった以上このまま帰すわけにはいかなくなったな」

(こいつは俺の存在に気づいていないはずだ。なぜなら俺はずっと部屋の中に隠れていて、この部屋を出ずにここまでやってきたのだから。流石にこいつもそれぐらい分かっているだろう)

「お主、なにをしているのだ」

(あれ?俺なんか変なことでも言ったか?なんかこいつ顔真っ青にしながら、汗ダラダラ流しているんですけど、なんかやばいことでもやったのか?それなら話は早いな)

「俺は勇者だよ」

「勇者だって?な、なんの勇者なんだ。勇者っていってもいろいろいるだろうが、お、おまえまさか、『異能の勇者』か!?そんな馬鹿な!!なんでこの世界にいるんだよ。それにこいつがなんの勇者か分からんが、この世界で勇者と言えば、勇者しかありえないだろ。しかしなぜだ!?どうしてこんなにも強い気配を放っているんだ。まさか本当にこいつの言う通り『勇者』なのか?)

「あんたさ、ここがどこだかわかんねぇんだろ?」

「そそそ、そんなことより、お前はなんだ!!なぜこんな所にいるんだ!!」

(こ、こいつはなんていう質問をしてるんだ。なぜここに来たかなんてわかりきっていることだろ。俺が『聖剣アスカロン使いの聖騎士を殺した男だからさ』まぁこいつらが知っているかはわからんけど。とりあえず答えておいてやるかね)

「まぁ簡単にいえば俺の『固有能力』が原因だね」

スウウー(嘘は言ってないぞ。俺の【固有技能】である【ステータス】が原因でここに転移してきたのだけは本当だ)

「く、【ステータス】の能力者だと。な、ならば、この国に存在する全ての【ステータス】所有者を殺すことが目的ということか?」

「ん?どういう意味?別にこの国にだけ【ステータス】を持った奴が居ればそれでいいよ」

「はっはっはっは!お、お前はなにを言っているんだ?この国は、この国にいる人間全員が持っているに決まっているじゃないか」

(なにいってんだこいつ。ん?待てよ。そういうことか。こいつ、自分が【勇者】だからこの国が全部自分のものだと勝手に思っていやがるんだな。俺の勘違いか。こいつは、この世界の『人間という生物全て』が自分のものだと勘違いしているのか。それにしてもすごい自信家だな)

「そ、そうなの?でもそんなこと俺には関係ないし。俺にとって一番大事な事はこいつを倒す事だ」

チャキッ「ほぅ」

「俺の名は『神崎勇也』。魔王の討伐にこの俺が来た」

(こいつ、俺の名前を聞いた途端態度変えてきやがった)

「ふっ、面白い!いいか、我が名は、『ルシファー=ド=サタン』である。その名を忘れるな。魔王と名乗らぬのは、我と対となる存在がいるためなのだが、貴様に言っても理解できないと思うので、あえて言わぬことにする。覚えておくが良い。そして貴様がもし我を倒したとなればこの世界に生きる全ての者が我にひれ伏すことになろう。そして貴様が倒した暁には褒美としてこの世界をくれてやるぞ。光栄に思うがよい」

スウウーーーッ ドカーン!「ぎゃぁあ」

「ふんっ!なにが褒美だ!!そんなもん貰うわけないだろうが!お前が死ねば俺は元の世界に帰れなくなるかもしれないからな!お前が生きているだけで俺の人生は狂いまくりなんだよ!!」

バコンッ ガッシャーン!ドカン!ガララララッ「ぐあぁーー」

ガラガララッ

(うおっ!ちょ!あいつなにしてくれてんだ!魔王様が!めっちゃ怒ってるじゃないですか!ヤバイッス。あいつ死んだかもしんない。魔王様怒ると怖いからなぁ。あの人大丈夫かなぁ。魔王の側近としては心配ですよぉ)

「おい!!魔王さんよ!!あんたも魔王の癖に、そんな奴の言う事を真に受けてんじゃねーよ!!俺の話も聞けーー!」

「黙れ!我に話しかけてくるでない!」

スウーーーッ バッ ブンッ「ひぃ!」

(えええええ!まじで!?この距離で避けられたんだけど!!やばすぎだろ)

「我の目の前に現れるとは命知らずなやつよ。貴様にも我が力を体験させてやろう。我の力の一端を見せてやろう」

シュイン ズドーンッ ブシャッ ゴボッ

(こ、これは俺が悪い。こんな化け物を相手にする気は無かったから仕方ないとはいえ、こんなやつに俺はなんて失礼な態度を取ってしまったんだ。魔王様の機嫌を直さないとまずいよなぁ。どうしたらいいだろうか。とりあえず謝っておくか?いやいやいや、この程度の謝罪で魔王の怒りが鎮まるとも思えないし。そうだ!俺にはこんなことができるんだって魔王に証明できれば少しは怒りが和らぐかもしれないな。よし。そうと決まれば早速実行に移すか。俺にはまだまだやりたいことがいっぱいあるんだ。あんな奴に時間を取られたくない)

「おい」

「なんだ」

スウーッ

「うあぁあああーー!」

ドンッ

「うわー!」

ガッシャーンッ

「ふふふふふふふふ、なかなか楽しめそうではないか。次はどのような方法で遊んでくれるんだ?」

「な、なんだお前!!なにしやがる!!俺はただ、俺の能力を証明しようとしただけだろ!!てゆうかあんたさっき俺がどんな魔法を使ってもあんたのその力があれば防げるから俺のこと無視してただろ!!なのになに俺に攻撃を仕掛けてきてるんだよ!!」

「確かにそのとおりであるな。ではお主に一つ提案しよう。今ここでこの場で戦うのを辞めてくれさえすれば、お主の願いを聞き届けてやるぞ」

「お断りだね。俺はまだ死にたくはねぇんだよ」

「ほう、お主は死にたいと思っているように見えなかったが?まぁいいだろう。それなら、お主の命が尽きるまで、お主を痛めつけるまでだ。そのあとゆっくりと、お主が心変わりするのを待つことにしよう」

(な、なんなんだよこいつは。なんでこいつは魔王なんだ。こんなに性格が悪すぎるだろうが!!こいつをなんとか説得できないものなのか?)

「なぁ、あんた。もう辞めないか?」

「なんだ?なにを言い出すんだ?」

「いやさ、あんたって魔王だろ?しかも結構強いみたいだし、このまま戦ってもあんたが勝てる可能性はほぼ0だと思うんだよね」

「なにを言うかと思えばそんなことを言い出したのか。笑わせるな。この世界の生物は全員我の支配下に置かれているんだぞ。そして貴様はこの世界を支配しようとしているんだろ?だったらどちらに正義があるかは一目瞭然ではないか」

「そんなのおかしいじゃねーか!!お前は本当になにもわかっていない。俺は元の世界に戻りたいだけなんだよ!だから俺はこの世界を支配するつもりなんかこれっぽっちもないんだよ!それどころか、俺は魔王を倒すつもりでここまで来たんだぞ!!お前の味方になんてなれるはずがないんだよ」

「なにを戯言をほざいておるのだ。そもそもお前のような奴に我が倒せる訳なかろうが。さぁ早く始めよう。そろそろ飽きてきたからさっさと終わらせたいのだよ。それになにより、これ以上貴様の言う事に耳を傾けてやる気にもなれんしな」

シュイン ガキンッ キィン ガッ「なんの!」

ドカッ ドスッ「くそ、やりにくいな」

スウーッ バッ ガシッ スウゥッ「ふっ、遅い」

ズドーン ドッカーーン! グハッ「なっ、ぐはっ!!」

「どうした?もう諦めるのか?」

スウウッ「舐めるなぁ!!」

(こいつは強過ぎる。こんなのにどうやって勝てば良いんだ。だが、まだ手はあるはずだ。考えろ俺。こいつは【固有能力】持ちだと言っていた。それは恐らく本当だ。そして【固有技能】を持っている。つまり、【固有技能】を無効化するような手段がきっとこの世界に存在している。俺がこの世界の人間ではない以上、【固有技能】を持っていないことは確かだ。しかし【ステータス】だけは別だ。こいつらは【固有技能】ではなく、【固有技能】と同じように扱ってくるはずだ。つまりこいつには俺のステータスを見れない。ということはステータスで表示される数値だけを見ることができないということだ)

「ははっははは、いいことを教えてくれたぜ。これで勝機が見えたよ」

ニヤリ スウーッ「ほう」

スウウーーッ「ふむ」

スウーッ バタン

「なにが起こっている」

スウーーッ「くっ!これは一体!」

スウウーーーーーッ バッ ドッカーン!!「ぎゃぁあ」

ガラガララッ バシャン バシャバシャッ ザバーン

(やったか?いや!ダメか。水の中に入っているせいでよくわからんが。おそらく生きているに違いないな。俺の考えが正しければ。俺は賭けに出たんだ。あの化け物に攻撃を当てられただけでも奇跡的なのだから仕方ないだろう。あの化け物が油断してくれたおかげで俺は攻撃を喰らわせれたがな。あいつもまさか俺が水中に潜んで俺の攻撃を避けているとは思ってないだろうから、完全に隙だらけになってくれたから成功したと言えるだろう)

バシャアァア フワ〜

(んん?体が軽いような。それに息もできる。どういう事なんだ?ん?俺の服が無くなっている?それにこの腕と胸にある紋章はなんだ?それになんだか髪の色も黒から金色に変化してきている気がする。俺の体に何が起こったというんだ)

「貴様。一体なにをした!」

ガクッ「うぅ。いてぇ。頭がガンガンして気持ち悪い」「なにがあったんだ!なぜ貴様が倒れている!そして貴様の姿も変化しているだと!?なにが起きた!」

スウーッ バッ

(うぉっ!びっくしたぁ!いきなり出てくるんじゃねーよ。心臓止まるだろーが!ってかやっぱりこいつもこの異変に気づいてたわけね。ってことは、こいつと俺とでは、ステータスの数値が違う可能性があるってわけだな。そうなると、俺はあいつの『魔眼』に映らないわけか。って、あれ?『魔王』ってこいつじゃないの?でもこいつからは『魔王』の力を感じないし。どういう事なんだ?)

「答えぬか!我に何をした!!」

「あぁ、俺はただ、お前と一対一の決闘をしていたんだがな。俺はただお前と戦いたくなかったからあることを思いついて、お前に俺の持っているある物をプレゼントしてみたんだ」

「なんだと?貴様、我に毒物を仕掛けたのか!?」

「違う違う、そうじゃないんだ。お前のその力の源。それは恐らくスキルだ。俺にはそれがなんのスキルなのかまではわからない。ただ一つだけ言えることがあるとすれば、それはお前は『勇者』の力を持ってない。いや、正しく言うならば『魔王の力を宿している』といったところかな」

「ふふふふふふふ、ふはははははは!なるほどな!そういうことか!どうやら貴様はなかなかに優秀なようだな。我の正体を突き止めるばかりか。我の力がスキルによって得たものだと看破するとはな。流石と褒めるべきなのか、その力を与えた神が優秀だったと考えるべきなのか。どちらにせよ、やはりお主は面白い存在のようだ。お主に敬意を示して名を名乗るとするか」

スウーーッ

「我の名は魔王軍第4師団師団長、序列2位の者だ」

シュイーーン

(おっ、やっと出てきたか!こいつのステータスはどんくらいあるんだろうな。こいつは、今までの敵とは違って普通に戦いたくねーんだよな。なんでかって言われると説明できないけど。まぁいいや。取り敢えずステータスを見てみないとな。どれ)

スウウーッ「ふん、名前など聞いていなかったぞ。それよりも俺は貴様の名前を聞かせて欲しいものだな」

シュイン

「はぁ?ふざけてんのかお前?俺に名前を聞かなかった?俺はお前みたいなやつに名乗りをあげるつもりなんか一切ねぇぞ。俺がお前の名前を聞いたのだってお前から仕掛けてきた喧嘩だろ?お前こそ、なんで勝手に話を切り替えてんだ?」

「ふっ。そうだったな。すまないことをしてしまった。しかし我には名乗らせてくれても良かったのではないか?」

「知らんな」

「まぁいい。お主の望みどおり我が先に名乗ることにしよう。我の名前は、サタン。魔界の支配者だ」

シュインッ ドガーーーーーーン ズゴーン バゴォーーッ

「おい。なんだそれ?さっきまでの威勢の良さは何なんだ?随分大人しくなったじゃないか」「ふっ。なぁ、少しばかり話を聞いてはくれまいか?我にも色々と事情があってな。お主が望むなら我がお主に協力をすることも辞さない考えだ。それに、今ここで我と戦う意味もないであろう?お互いが無事では済まないぞ」

「は?なんだよそれ?俺の話ってなんなんだよ?なんのために俺がお前と戦ってたと思ってんだ?」

「そうだ。確かにそうであるな。まずはそこを説明しなければ理解できぬか」

シュイーーン

「お、おう」

「貴様は先程言った。『俺の目的は元の世界に帰ることだ』と。それは嘘ではなかったのか?」

(こいつは俺を信用しようとしているのか。しかし俺の目的を知っているとなると話は別だ。こいつが元凶であることに変わりはないからな。それにこの世界の魔王の可能性もある)

スウーーッ バッ

(こいつは俺の事を本当に殺そうとしているのではないだろうか。いやまだ確証は持てないがな。しかしこいつは、自分の命を賭けに出すほどの価値があるのかどうか試しているのではないだろうか)

スウウウーッ「どうなのだ!お主なにを考え込んでいるのだ!」

ドッガガガガーン!

「くっ!なにをしている!」

スウウウッ「なにって、戦っているのだが?」

「貴様ぁぁああ!!!」

ガクンッ ドッカアーン!! バシャバシャーン

「貴様が余計なことを言うからだぞ!」

シュイーーン

「貴様の狙いはなんなんだよ!!」

「我にも目的があると言ったではないか!」

スウウーッ

「じゃあなんでさっさと攻撃しないんだ?」

ガキンッ!ドカ!

「うぐっ、それは貴様の出方を見たかったからだ。お主は、強いがあまりにも我のことを舐め過ぎているようだったからな」

ズドーン バッ「うわっ!!」

「ふぅ。少しやり過ぎたな。大丈夫であったか?」

「いつつ。お前なにがやり過ぎただよ。今のはかなりヤバかったんだけど?ってかお前。本気で殺すつもりだったのか?」

「うむ。当たり前だ」

「いや、当たり前じゃねえよ。は?どういうことだ?なんの冗談だ?ふざけんなよ?マジで、どういう事だ」

「はっははははははは。そんなに睨むでない。そう焦るな。まだ時間はある。しかし気をつけた方がいいぞ?この世界の神がなにか企んでいるのやもしれん。貴様も気をつけておけよ」

「どういうことなんだ?まさか、あの自称神のことを指しているのか?なぜあいつがお前らの世界に関わっているというんだ!」

「そこまで教える義理はないが、我はあいつのやろうとしていることを阻止する為にここにいる。つまり我とお主は同じ目的を持った同志だ。そこで、我もひとつ情報を提供することにした。我の推測ではあの神の異能はこの世界には存在しないはずだ。恐らくだが奴が異界から持ち込んだものだろう」

「待て。あいつは、俺たち異世界の人間から『召喚』されてきたとか言ってたが」

「それは、おそらく『女神』による作り話であろう。そもそも我たち悪魔族は『異世界』と『地球』の両方に存在する。しかし、『異世界』の人間が『地球人』になることはない」

「は?なにいってんだ?意味が分からん」

「そうか。これは知らないのかもしれんな。我らは、もともと一つの世界に住んでいた。しかしその『世界』は争いに満ちていた。そのせいで多くの生物が死んでいったのだ。それはもう見ていて気分が悪くなるくらいに。我はその現状に耐えられず。なんとかせねばと思い行動を始めた。それが、我にとっての救いとなったからな。だから我は『異世界の侵略者』という肩書きを与えられたのだからな。しかし、この世界の『魔王』は違う。奴は、自ら進んでこの『世界』にやってきた。そしてこの世界を支配しようと考えた。最初は『魔王』の力に皆怯え、恐怖していたのだが。次第に奴の力を『利用』するという考えを持つようになり始めたのだ。それからが、本当の意味での地獄の始まりだった。この世界の生き物たちは奴の傀儡として働かされるようになった。それがどれほど恐ろしいものだったかは想像がつくだろう。そしてその『力』に溺れた者の中には【救世主】のように己の『力』だけでこの世界を統一しようと考え始める者が増えていった。『魔王』の力を使って。そうなればどうだ?どんどんと歯止めがきかなくなる。『魔王』は『魔物』を生み出し、増やしていった。その結果『魔物』は数を増やし続け、いつのまにか『魔族』と呼ばれ始めるようになった。まぁ、今では『亜人』と呼ばれる存在になってしまったがな。元々我は争いが好きではない。なので争いごとを避けようと、なるべく人と関わらないようにひっそりと生きていた。

そんなある日、この世界に異変が起こるようになった。突然、今まで我たちのいた『魔族』以外の生命体がいなくなったのである。そのことから我はある考えにたどり着くことができた。その『考え』とは『魔族』だけが残ったのには何かしら理由があるのではないか、と思ったのである。その予想が当たっていたことは我はすぐに知ることになるが。その出来事のせいで、さらに『魔王』の力が暴走してしまったようだ。それによりこの世界の生き物たちを皆殺しにしてしまった。

我にはどうしてもやらねばならない事がある。その為に貴様の力を我に貸してもらいたいと思っている。お主の目的を教えて欲しい。我の目的に協力して欲しいのだ」

シュイーーンスウーーッ「俺はただ、元の世界に帰りたかっただけなんだ。それに俺の目的が手伝えるかどうかは分からないけど。協力はしてやる」

スウーーッ

「ほぉ、そうかそうか。お主の言う通りだ。今は我の目的に手を貸すことはできないかもしれない。ただなにか困ったことや手助けできることがあればすぐに言ってくれ」

スウーーッ「おう」

スウーーッ「なぁ、俺からも聞いていいか?」

「なにかな?」

スウーッ「お前らはなんでこっちの世界に来てしまったんだ?他のみんなは俺と同じだろ?どうしてだ?」

「そうだな。それは我にもわからぬな。我は気づいたときにはこちらの世界にいたからな。その時のこともあまり覚えていない」

「じゃあお前はどうやってこっちに来たんだよ?」

「うむ、実は、こちらの世界に飛ばされてきた時に『スキル』を手に入れた。それで転移系の能力を得たからな。その能力で、あちらの世界の自分の体に戻ることに成功したのだ」

「へぇー、それは便利なことだな。俺にもできないのか?」

「すまぬが、我が知る限りは、同じ方法では無理であろうな」

「ふぅーーん。まぁ仕方ないか。それしか方法がないみたいだしな」

スウーッ「ふふふ、貴様が元の世界に戻った時は我が歓迎しよう」

シュイーーン

「おい、なんだよ。急に出てきやがって」

スウーッ「すまぬな」

(まぁ別に、いいか。それよりあいつの目的だ。あいつは、俺が目的を叶えるためには邪魔になりそうだし早めに殺さなきゃな。でもあいつの力はなかなか強力だ。俺のステータスだと正面からは戦いたくはない相手だ)

俺はこの世界に連れて来られてから2ヶ月ほど経過していた。その間は特にこれといって俺の日常に変化が起きることもなく。俺にとっては、いつもの『異世界ライフ』を過ごすことができていた。ちなみに俺の『異世界生活』が始まっってからのここ2ヶ月間のことを軽くまとめてみようと思う。まず、俺のステータスはこんな感じになっていた。

___ステータス_

(名前)

(年齢)

(性別)

(状態)

(称号)

(加護)

ユウト=オオツキ

(18歳)

(男)

(良好)

(なし)

(アルスの使徒)

(??)

(女神 アルテミシア)

(良質)

(魔法)

(固有能力)

(異世界言語)

(特殊能力)

(魔力眼)

(アイテムボックス)

(聖刀 天叢雲剣 装備中(詳細)

(身体能力上昇)

筋力増加率20倍 生命力強化率30倍 自然治癒速度向上50% 身体耐性 精神耐性 俊敏増強成長促進10倍 超再生 気配察知 危険感知 無詠唱 隠密 隠蔽 結界無効 毒 睡眠 麻痺 即死 闇魔法 光魔法 水魔法 風魔法 土魔法 雷魔法 火魔法 聖属性魔法 氷雪魔法 時空魔法 付与魔法 重力魔法 召喚術 回復 補助 浄化 真心をこめて精一杯作らせてもらった ___というように、この世界に来る前と比べると、明らかに強くなっていることがよく分かるのであった。だがそんな、異世界での毎日にも変化が起きたのである。そう。あの自称女神がまた現れたのだ。それも今度は二人も。

「こんにちは。私の名前は、アルテミスです。よろしくお願いしますね」と、笑顔で言う女神様がいたのだった。正直言ってこいつは胡散臭い奴で、信用することはできないようなやつだと思うのだが。なぜか不思議と嫌悪感を抱くことはなかった。それはこの女神の容姿がかなりのレベルであったからだ。そういえばこの世界では美人やイケメンのレベルは、地球よりも遥かに高いのである。この自称女神も例に漏れずに美形なのである。

「我の名は、サタンだ。貴様の力を貸りようと思っておる」と言う奴もいた。

「貴様、誰だ?なに勝手に人の家に入ってきてるんだよ」と言ったが、この二人は「ふっ。まぁそう言うでない。少し我の事情を聞いて欲しいのだ」と言って話し始めたのだった。この世界は今危機的状況に立たされているらしい。魔王軍により人類が滅ぼされる前になんとかしなければならなくなったらしく、魔王軍の進行を抑えなければならないのだそうだ。そのために魔王を倒すために俺たちの力を借りたいと言っているのである。俺はこの話が本当なのかを確かめるべく「なんで俺たちが魔王軍を倒さなきゃいけないんだ?そもそも俺たちはただこの世界で生きていくだけの普通の人間だぞ?あんたらはいったい何者なんだ?」と、聞いた。しかし返ってきた言葉は予想とは全く違うものだった。「そうか。ならば話は早いな。単刀直入に言おう。我々についてくるがよい。我と一緒に世界を変える旅に」と言われたのである。

俺はこの話を断ったのだが、結局無理やり連れ去られることになった。このあとのことは詳しくは分からない。この女神がなぜここまで必死に俺を求めているのかもよく分からなかった。だからなにかあるのではないかと疑いはしたのだが。そのあと特になにが起こるわけでもなく無事に俺はこの世界に送り届けられてしまったのである。だから今は、これからのことを考えて、この世界にいる魔王軍とかいう奴らを潰してまわることにしていた。

それから1時間ほど経った時、俺の目の前には、3人組の男が現れていて、その中のリーダーと思われるやつが俺にこう問いかけてきた。

スウーーッ シュウーーッ スウーーッ

「お前、【勇者】か【救世主】じゃないよな」

俺はその言葉を、この世界の言葉に翻訳して聞いてみた。

「はぁ?俺には意味がわかんねぇ。それに、どうして俺のことを知ってるような口ぶりをするんだよ」

「俺達はこの村の人達の救助と安全を確保する為に派遣された兵士だ。それでだ、最近、【魔王】を名乗るものが現れているという噂が流れてきていてな。それがどうにも気になるんだよ。まあ俺達の目的は村の安全確保だからお前の事はどうでもいいことではあるがな。だがもしも本当にお前が【魔王】と名乗る者の仲間だったとしたら。それは俺達が全力で止める。なぜならその者が魔王軍に情報を流してしまっているかもしれないからだ」

「なるほど。それで?そっちの要求はなんだ?」

「そうだな。俺達の要求は一つだけ。大人しく投降して欲しい」

「嫌だと言えば?」

「もちろん殺すまでだ」

(なんだよ。それじゃあいつらもあいつらで結局は俺を殺そうって訳か)

「おい、お前らはあいつの知り合いとかなのか?」「あいつというのは?」

「お前らの仲間みたいなもんだろう?」

「あいつとは?」

「は?」

「あいつとはいったい誰のことでしょうか?」

「魔王軍の誰かだよ」

「あぁ。そういう事でしたら違います」

「なんだ違うのか」

スウーーッ「はっ!」「おわっ」スッ ドッガーーンッ! 俺は瞬時に『魔力眼』を開眼させて、敵の三人の魔力の流れを見る。

(なんだこれ?こいつらは全員同じ動きをしてやがるのか?なんなんだこいつら?)

俺は『聖刀 天叢雲剣』を抜き放ち『神速の抜刀』で敵の一人を真っ二つに斬ってやった。そして次の瞬間に、残りの二人の魔力の動きに注目する。

スウーッ シュイーーン ガキーーーンッ

(やっぱりそうだ。こいつらは、常に一定のスピードで同じ動きを繰り返していやがる。しかもこれは、こっちから攻撃を仕掛けないとずっとこのパターンが繰り返され続けるな。でもこっちから攻撃をしても必ず避けられるか、もしくは反撃されて終わりだろうな)

「お前、今のはなにをしたんだ?」

スウーッシュイーーーーーン

(はぁ。まあ仕方ないか。それじゃあ俺の本当の姿を見せてやるかな。これで逃げてくれれば良かったんだけどな)

俺は自分のステータスを確認してみると、称号が新しく増えていることに気付いた。

(えっとなになに?【勇者英雄 救世主 勇者召喚者 勇者殺し】? っておいおいおいおいおい、なんだこのふざけた名前のオンパレードは。っていうか勇者を殺したって称号もあるんですけどぉ?マジかよこの世界では、勇者が殺されることもあるってか?そりゃまた面白い世界だなここは。それよりもこの勇者を殺すってのは何を意味するのかを詳しく調べたいところだ)

(でも、俺はまだこの世界にきて2日だぜ?こんな短期間でもう勇者を殺してしまっていいものだろうか?でもこのままこの国に留まってしまった方がもっと面倒事に巻き込まれそうな気がしてきたからとりあえずさっきの三人がどこにいるのかを探し出すことにした)

ザッザーーー「くっ!?︎なんだよこの雑音は。まるで頭の中に直接流れ込んでくるみたいだ。まさかこれが『念話』なのか?」

(まずはあの男からいくとするか)

シュッ スパッ ズドーン

(おっ。思ったよりあっさり殺せてしまった。よし、どんどん行くぞ)

(こいつのレベルは、126だって?かなり強いな。もしかしたらあいつらの上司的な存在だったのかもしれんな)

(次はあの男か。名前は知らない。見た目は普通だな。年齢は25歳くらい。レベルは120)

(あの男はかなりの手練れで間違いないだろう。レベルも高いことからこの世界の人間にしてはかなりのレベルだと思える。そんな男が、たった一撃で殺されてしまうほどの実力者であるということでもあるのだが。まぁとりあえず次に行ってみることにするか。)

シュン バッシューーーン シュインシュインシュンシュンシュキンッ「ふう。なかなかに骨のあるやつらだったな。まさかあんなに強い奴らがいるなんて思わなかったよ。あれだけの手応えを感じたのは初めてのことだったから少し興奮してしまったよ。それに、この力のおかげで俺は、強くなれるという確信を持てた。俺はまだまだ強くなることができるんだなと思うことができた。あの力は本当に凄かった。この世界は俺の想像していた以上の強者が存在する世界らしい。俺もこの世界がとても楽しくなってきたな。あの力を試してみたくてウズウズしている自分を抑え込むことができそうもないな。ははは。この力が一体どこまで強くなれるのかが楽しみでしょうがない」

「あの方はこの世界で最強に近い存在となるだろう」と、俺は呟いた。すると、「お前の言うあの方のことを教えろ」といきなり俺に襲いかかってきた男がいた。だがその男は突然消え失せた。俺はその男に近付き、話しかけることにした。

「あんたが俺の言っていた人物について知りたいとか言うやつか?」「あぁそうだ。俺はどうしても知らなくてはならないことがある。教えてもらうぞ」

「はは。俺の質問にも答えてくれたらいいぞ。その代わり俺の頼み事も一つ聞くってことで」

(こいつらが魔王軍だとして俺がこの村にいたことはバレていると考えて良いだろうな。ということはこいつらは、俺に魔王軍についての情報提供を求めて来ているというわけか。まぁ俺も、俺自身の情報をこいつらに教えるつもりは無いが。ただ一つ俺の予想でしかないが。魔王軍は恐らく、【勇者】と呼ばれる者達を探り出そうとしていたんじゃないかと推測できるな。勇者とは異世界からやってきた最強の存在であると言われているからな。それに、俺はこの村を襲った時に、この国の王様が話していた内容を聞いて、勇者がいる可能性は考えていたから。その点に関してはあまり驚くことはないんだが。しかし、魔王軍とかいう組織がなぜ俺の存在をそこまで知っているのかということが気になるな。まぁ、いずれ分かることだから気にしないでもいいか)

「分かった。お前が俺に話せることを話してみろ」

(は?俺はお前になんの情報を教えると言ったんだ?まあ俺が魔王軍とかの存在について話すわけがないから別に構わないのだが。俺に魔王軍がなにを聞きたいのかは分からないが。まあ、俺がこいつらを裏切るとかはないと思うから大丈夫だと思うのだがな)

「魔王軍とはいったいなんなんだ?」

「魔王軍のことについて聞きたかったわけか。なら最初からそういえばよかったものを。まあいい。魔王軍は簡単に言えば魔族の王達の集まりというものだ。魔王というのは、俺たち人間の間でも伝説や伝承に出てくるような、いわば架空の存在であるはずだよな?なのにどうして魔王が存在しているのか、そしてその魔王を倒そうとする人達まで存在しているのか、それが不思議に思うよな。それはおそらく【魔王】と名乗る者が実在していて。その者たちの力がこの世界においてとてつもなく大きいということなんだと、俺は考えている。その魔王を名乗るものが俺とどういう関係があるかまでは分からねぇがな。だから魔王のことについて知っておきたいというのならばそれは俺には無理なことなのだ。なぜなら俺はこの世界の人じゃないのだから」

「はっ?貴様は何を言っている?この世界には魔王を名乗る者がいて、そしてそいつを殺せば俺達が元の世界に帰る方法を知っているかも知れねえんだよ。つまりだ、俺は魔王を殺す為に行動してるってことになるんだよ。その情報を知る為にも、俺達はその魔王と名乗る者のことを調べる必要が」

「なあお前。俺がその魔王と名乗る者と、どう関わっていると思っているんだ?そもそもお前はその魔王を殺さなければならないって理由でもあるっていうのか?そんなことしても無駄だ。絶対にそいつはこの世に戻ってくる」

「あぁそうだ。だから早く俺達に」

「俺にも目的があるんだ。それを邪魔しようとするお前らみたいなやつらは。俺のこの『魔力眼』で消しておかないといけない。それじゃあ俺はお前にこれ以上興味が持てなくなったからな。これで終わりだ」

ドドドーーーーーーーーーーンッ 俺は『聖刀 天叢雲剣』に全ての魔力を流し込み刀身を光らせる。その状態で、俺はこの男の目の前まで瞬時に移動した。

(こいつは、まだ意識を失ってはいないようだな。俺の動きを見て、俺の実力を測ろうとしてきているな。こいつがこの国のトップのやつだとは到底思えないが。まぁ、こいつに聞いても答えてくれなさそうなのでとりあえず、さっきの男と同じように一瞬で斬ってしまおう)

(くっ。速い。しかも先程までの男よりも動きが格段に違うな。それに、この動き、全くと言っていいほど予備動作を感じない。これでは隙を見つけることができない。しかしこちらの技で反撃する手段がない訳でも無いのだ。そして、私にも奥の手は存在する。これはこの国に古くから伝わる、伝説の魔法『空間魔法』の力を使って使う魔法であり。私が使える最高の威力を誇る攻撃だ)

(こいつも他の二人のように急に姿を消してしまいましたわ。一体どこへ行ったのかしら?いえ、それよりも。あの人は、やはり強いですね。でも私はここで引くことはできないのですわ)

「我が剣に宿りし力よ今こそ解き放て『闇纏』

『ダークソード』『影纏』

『シャドースライム』

(はあ。この国はやっぱりダメだな。もう俺はこの国にいる意味がなくなってしまったな。仕方ないか。まぁ俺が勝手にこの国に留まらない方がいいと判断しただけなんだけどな。とりあえずあいつらが逃げ込んだ場所に向かうとするか)

シュパッ「ふぅーん。この村の連中もかなりの強さを誇っていたってところか。俺もまだまだ強くならないとこの世界で生き残るのは難しいかもしれんな。よし。これからこの世界の強者を見つけ次第戦って鍛え上げていくことにするかな。よし。次の標的を探さないとな」

「なぁあんた達、ちょっとこの国の王都に行かないか?俺もそこに行こうと思っていたからな。一緒に乗せて行ってやるよ」

ザワザワーー「おいっ!あの方からのお誘いが来ているぞ」「えっ!?︎あの方ってだれ?」「俺なんかがあんな方に声かけてもらえるとか。夢でも見ているんじゃねえのか?」「俺が誘ってもらいてぇ〜!!」「あの方の御車だぞ?ありがたく乗らせてもらうに決まってるじゃないか!」「確かにそうだよな!!︎こんなチャンスを逃すわけが無いもんな!よし。お前らあの方のお車に乗れるようにしっかりとご奉仕しろ!!!お前らもしっかり働けや!!」(あの方ってもしかして『勇者殺し』の『勇者英雄』の方なのか?)

(あちゃあ〜。あいつらのこと無視したらめちゃくちゃ騒ぎ出しちまったじゃんか。しょうがない。俺は俺のしたいようにしてみるか。俺は俺のやりたいようにするだけだから問題はないと思うのだがな)

こうして俺は王都内へと続く道を走り抜けて行く。途中何度かモンスターが現れたが、俺は難なく倒し、走り抜ける。そして、俺が走っている間に、王都が近づいてきたため、少し速度を落とし王都内に入っていくのであった。

王都に入ると、そこはまさに俺にとって楽園と言わざるを得ないような場所になっていた。なんせここにはたくさんの女性がいるのである。そしてその中には、なんと美少女と呼ばれる存在も存在していたのである。俺はそこで、自分がこの世界で強くなって行くことを決意したのである。この世界は俺にとってはパラダイスだった。だが俺はまだ知らない。自分のハーレム要員となるべき女の子達が俺の毒牙にかけられてしまっていることになど。そして俺と俺が気に入った女達はこの世界を駆け巡ることになるのである。俺は、この世界の人間と関わることはほとんどないのであるからして。俺の本当の目的のために、俺は今日この日、旅立った。

(俺はこの世界に召喚されてから色々な経験をしてきて分かったことがある。この世界での人間というものがどれほど醜いものかをな。俺にはそんな人間と仲良くできる気が一切起きないということも分かったからな。俺には好きな時に自由に過ごせる居場所が欲しいんだ。そのためにも俺は力をつけて、誰にも負けることは無いほどの絶対的な存在になりたいと願うのだよ。俺の理想は俺だけが心の底から信頼できるパートナーと共に過ごして。お互いを支え合うという関係を築き上げて行きたいと俺は思っている。そして、俺にはその相手にピッタリの人物がいると、そう思えるんだ。俺は彼女と出会う為にこの世界に来たのだと俺は確信しているんだ。彼女は俺が探し求めている人かもしれない。俺の魂の半身とも言える人なのだろうな。しかし彼女のことは俺もはっきりと分からないんだ。ただ俺のこの『魔力眼』を通してみるとなんとも不思議な気持ちになって来るんだよな。俺は彼女が欲しいと思った。そして俺は彼女を俺だけのものにして、俺が守るべき大切な人と定めたんだ)

そして俺はその日から強くなるための特訓を開始することにした。まずは、この国の最強と呼ばれる人物を探すところからだな。そしてその人物を俺の敵になる前に倒して俺が強くなっていくために必要な糧になってもらうつもりだ。そしてこの世界の強者と戦うことによって、もっと強くなりたいと思っているんだ。

(この国には既に俺に敵対しようと企んでいる者が何人か存在しているようだ。この国から俺が出ていったらすぐに俺を倒しに来るんだろうな。それじゃあその前に、こいつらに潰してもらっても構わないかな)

「おいお前、俺はお前らのようなクズどもに時間を割いている暇はないんだよ。さっさとそこを退けよ」

俺がそう言い放った直後。この村のトップの男が何かを言い出したのだ。俺が気に食わないような感じの発言でな。

俺はその発言を聞いた後に即座にその男の背後に転移し、刀の峰の部分を使い思いっきり顔面を殴りつけてやった。その一撃で、男は気絶してしまったようで。俺は男の胸ぐらを掴んで俺が泊まっている部屋の中に投げ飛ばし、そのあとに『魔力操作』を発動させて、俺自身の気配や魔力を消すことができるようになる『隠匿』を男に付与させ。俺は『魔導書庫』の中にあるスキルを使って、俺自身の姿をこの場に存在する人達に見えるようにしてから、俺は王城に向かって歩みを進めたのである。

そして俺は、王様に会うために、この国の騎士団団長に会いに行き、俺は騎士団団長と戦いを始めたのだった。そして俺は、圧倒的な差を見せ、俺の勝利で終わったのであった。俺はこの騎士を部下にして、俺について来てもらい、俺はその後この国の国王のところに謁見に向かったのである。

俺が謁見の間に入っていくと、そこには国王らしき奴の他に、他の奴らも全員集まっていた。その者たちが誰だか俺には分かっている。俺の配下になりたがっていた、俺を殺そうとしてきた者たちだということをな。俺がここにいる者たちを殺して、この城を血の海に変えるのは簡単なことだと思っている。

しかし、それは流石に不味いだろと思っているので俺は殺さずに捕らえるつもりでいる。そして俺はこいつらを生かそうと決めていたのだ。

この者たちが俺に殺してくれと言い出すまではな。

そして俺が、こいつらの望み通りに殺すかどうかを決めようと思考に意識を向けようとしていた時。俺は一人の人物がこちらに向かって歩いてきていることが目に見えてしまったのである。その人物は、俺の『魔力眼』を使おうとしなくても分かるくらいの存在感を放っており、この国の中で一番の実力者なのであろう。俺も警戒していたのだが、どうやらこいつはこちらに向かってくるだけで特に何もしてこなかった。

俺もそいつもお互いに相手の実力を感じ取りながらも沈黙の状態が続いていたのだがその静寂を誰かが破った。

その者は、おそらくは、この国の王族の者なのではないかと思う。なぜならば、この国の中でもトップに位置する存在なのではないかと思えたからである。

「よく来たな勇者よ!そしてようこそ我が王国へ!」

「は?勇者?どういうことだ?俺はこの国のトップの者とお話をしようと思ってここまでやってきたんだが?勇者ってなんだよ?」

(俺のことを、いきなりこの国のトップが勇者と呼んだので思わず俺はそう聞き返してしまうと。周りの者達が急に俺に対して敵意を持って攻撃を開始して来たのである。だが、この程度では俺に傷一つすらつけることすらできないので俺は一切動くこともなく、この攻撃を無効化していく)

「まぁいい。お前らなんかに興味は無いし俺の邪魔にならないなら別に好きにすればいい」

「何を言っておるのだ?この勇者が!!我の臣下が貴様を勇者ではないと言っているので、貴様は間違いなくこの国の新たなる勇者として認められたのだ。だからこの国のために協力し、魔王を倒してくれ!!」

「ああ。俺も、今お前と同じようなことを言おうとしたんだが。先に言われたのは少しショックだったが、協力をしろということについては俺も異論はない。だけど俺も自分の目的を達成するために、お前達を利用している。だからお前達のことは、ちゃんとした目的を果たせたら、その時に死んでもらうからよろしくな」

「なんだ?死ぬだと?ふざけたことをぬかすなよ?そんなことは絶対に認めんぞ?もし本当に死ねば、貴様に呪いがかけられるぞ?」

「呪い?面白い。それで、俺はどんな呪われるんだ?」

「そうだな。我がこの国に危害を加える行為をすると必ず貴様の身に危機が襲うというものだ」

「なるほどな。つまり俺を利用しようとしているくせにこの国に俺に危害を加えようとすると、この国は滅ぶってわけだな?」

(まさかこんなことまで見抜かれているとは。この勇者に下手に逆らうのはよくないかもしれんな。しかしこんなことよりももっと重要なことがこの勇者にあるはずだ。そう。この国が滅びれば、我が国の戦力が大きく削られることになる。だからこそこの勇者を生かして帰すことはできない。この勇者を生かして帰せばきっと我らの国に大きな禍をもたらすに違いないからな)

俺はこいつらと話していても時間の無駄だと判断して、俺はその場から立ち去ろうとすると。俺を呼び止めるようにまた俺の配下の者が集まってきたのだ。

そして俺をこの世界に引き込んでくれた女が現れて俺のそばに来て、話しかけてきたのであった。その声を聞いて、この世界の女は全てが美しいということを再確認することができたのだが、この世界に来た当初の俺であればそんなことを考えたりはしなかったはずなのだが。この世界にはあの女がいない。それだけで俺はどこか寂しいような気分になってきてしまっていたのである。

俺がこの女の相手をしながら話を聞く限り。俺が召喚されたこの世界には、女がとても美しかったのである。この世界に来たばかりの頃の俺はそんなことに一切興味が持てなかったのである。そしてこの世界に来た当初俺を仲間にしてくれた女性にも好意を抱かなかった。ただ俺は、女が俺に寄ってくることに嫌悪を持っていていて、そんなにたくさんいらないと思っていたのだ。

(それにこの世界にいる女はみんな醜いんだもんな)

しかしそんな俺でも俺に惚れているらしいこの目の前の女性には少なからず好意を持っていたのだった。

俺がこの世界に飛ばされたのは一年前なのである。そして俺はある目的の為に強くなりたいと願いこの世界に転移させられたのだった。俺が目的のために動き出そうと考えている時に俺は俺の目的のために必要になるかもしれないと思ってこの世界の女たちを集め始めたのである。そう、この世界の女が俺にとっては醜くて気持ち悪い生き物だということを知っていたからこそ、この世界で俺の仲間にする女を選ぶ基準というものが存在していた。まずはその顔とスタイルの良さ、そして性格も悪くないという最低ラインのものを合格として、そして次に、その者の能力の適正を調べる。これはただ単純に戦闘ができるのかとかそういうものではない。俺は、ステータスというものを見ることができているからその数値によって強さを見極めているのである。そして、この世界に召喚されてきた俺と同じ境遇を持つ人間たちを俺は仲間に誘ったのである。その数なんと、三百人近くいるのだ。しかも全員美人だったり可愛かったりする女性たちだったのだ。俺はその時に嬉しく思った。俺の周りに美女や美少女が集まりつつあるということはこの世界の奴らは俺のハーレムにしたいと思っているようなゴミクズどもだということがわかったからだ。

そして俺が仲間にした者たちには俺に気に入られようと、俺を慕っているかのような言動を取り始めるのである。その者たちの中には俺のことを愛している者もいる。しかしその者達を俺は利用するつもりでいるのだ。そして俺は俺の本当の目的の為に必要なスキルを『聖女アリティリオス』という少女に付与してもらった。その時も俺はこいつのことを心の中では嘲笑っていたが俺の目的はこの世界を平和にすることであるために俺の欲望を必死に隠して笑顔で接していたのだ。そして、アリティーリスのおかげで。この国も安全に暮らせる環境になったのだが俺はこの国が俺に敵対してきた時に俺にとって必要な駒となるこの国の者を選別していたのである。そして今、この国のトップとその取り巻きの者達を皆殺しにしたところである。俺はこの国に俺への反抗勢力を作ろうと考えていた。俺を殺そうと企んでいる者たちがこの国から出るまでに、俺はその者たちを全て殺してこの国から出ていくことを考えていたのである。

(しかしこの女も殺しておくべきか。さっきから何か俺に色々と言いたそうな顔をしているんだよな)

そして俺が殺そうとしたそのタイミングだった。俺はその女から突然、俺に向けて『魔法』が飛んできて俺の体を吹き飛ばしたのである。

俺は何が起きたのかわからずに地面に倒れ込む。

俺が吹き飛ばされてから、この国の中で最強の実力を持つと思われる存在の男が、この国のトップを庇いながら俺に対して剣を向けていた。その男は俺がこの城の中にいた時からずっと感じていたことを俺に伝えた。それは俺の実力は『勇者』のレベルを超えすぎているというものだった。

俺は、その言葉を聞いて。俺のことを強いと思わせるためにあえてスキルを使って、自分が使える中で最強と言える技を使ってみたのである。だが、どう考えてもこの男と戦えば確実に勝てる気がするのだ。

しかしそれでも、俺はこの国を出ることにした。

それは俺の目論見通りで、この国を乗っ取ることも出来たのだが、やはり、俺を嵌めようとしたこの国の連中を生かしておくことはできなかった。そしてこの国の中で一番強いとされている男の攻撃を軽くいなすと。

ドォオンッ「クソがぁぁあああ!!!!!」

ブワァアアンッ スパッ「え?ちょっ!?な、なんだよ?俺の斬撃は効いてねぇじゃねえかよ!!なんだよその防御力は!!おかしいだろうがよ!!そんなのあり得んだろうが!!くそが!!くそぉおおお!!」バタン

(はははははは!!ははははははははははははははは!!やった!!これでやっと俺は自由に行動することができるんだな!!あはははははははははは!!)

俺が笑っている時、この国にいたはずの女達が一斉に、こちらに向かってきていることが『魔力眼』でわかっていたのだ。だから俺が『魔力眼』で、こいつらを殺す準備を始める。そして、こいつらを俺が殺した時にこいつらのステータスを見ることができるようになったのである。そしてこいつらを殺した後にこの国の王が死んだことにより、俺の国の民が全員、俺の味方になると表示されていたので俺は、そのまますぐにここから出て行き、俺について来ている配下を連れて他国に行くのであった。それからしばらくしてこの世界は魔王軍により滅ぼされることになったのだが。俺はそんなことは全く気にせずに。これから先どうしていくのかを考えながら新しい国を目指して進んで行くのであった。

◆俺がその女の子の言葉を聞いた後、俺はしばらく無言の状態になりその子のことを見る。しかしそんな状態の俺に対してその子はまだ俺に対する警戒を解いていなかったのだ。そしてその女の子の顔を見ると、その子は、まだ、完全に俺がこの子のことを信用していると判断できるまで安心した様子を見せなかったのであった。だから俺はその女の子に声をかけることにする。

「まぁとりあえず俺が君に対して害を与えることは一切しないということだけ理解してくれれば、後は君の自由だ。だから、俺をこの部屋に入れてくれないかな?」

「うん!いいよ!」

俺の問いかけをその子は即答で答えてくれる。

(ふぅーやっぱり可愛いなこの子は)

俺はそんなことを考えてながらこの子の頭を撫でると。彼女は頬を赤くしながら照れてしまうので俺もその仕草が可愛すぎて思わずニヤけてしまいそうになる。でもここで、この子を襲ってしまうと、おそらく、俺は彼女のことを怖がらせてしまうと思ったので俺はどうにか耐えることができた。そして彼女が部屋の扉を開けて中に入っていくので俺も続けて中に足を踏み入れた。そして俺はその部屋の中を見て驚くことになる。

「すげぇなここ」

俺は思わずそんな言葉を漏らしてしまうくらいには驚きを隠せなくなってしまう。なぜならそこには金銀財宝が置いてあったのである。それもこの子が身に付けているようなドレスなどもあるので俺はかなりびっくりしたのである。

「な、なんなんだよ?ここは?」

俺はこのあまりにも異常な光景を見つめながら呟いてしまった。するとそんな時に俺の後ろに立っているこの女の子が口を開いた。

「私の部屋だよ?あなたが見たことあるものなんてこの部屋にはほとんど無いはずなのに、どうして驚いた顔をしているの?」

俺はその声を聞いて振り向いてみると不思議そうに俺の表情を見てきている彼女を見た。すると、俺は、目の前の少女にどうしても聞かなければいけないことがあるのを思い出したので質問をする。

「君は本当に人間なのかい?」

その言葉を聞いて目の前の少女はクスリと笑ってから俺をまっすぐに見てくると。彼女はゆっくりと喋り始める。

「人間ではないよ。でもあなたと同じ種族ではあると思うわ。私には、人間でいうところの前世の記憶がある。それで私はある人に会うためだけに生きているの。そしてその人を探すためにここに戻ってきたのよ。そしてこの城の最上階にある部屋に入った時にその人の匂いを感じ取った。だからここまでやってきた。それしか言えないけれど。わかった?」

俺は目の前にいる少女から放たれた衝撃的な言葉を聞き唖然としてしまい固まってしまう。しかし、そんなことはお構い無しに、目の前にいる少女はまた話しかけてくる。

「それよりも。まずは名前を教えてもらえないかしら。あなたの方も名前を言わないのは不公平だと思うし。それに私の名前はもう教えたはずだけど?忘れちゃったの?」

その言葉を聞くと俺は何も言い返せない状況に陥ってしまう。なぜなら俺はこの目の前にいる少女の名前を一度として聞くことができなかったからだ。

(この子の名前が知りたい。この子のことがもっと詳しく聞きたいという欲求が溢れ出てきてしまったのだ)

しかし俺がこの感情を無理やり押し殺すとその気持ちを押し潰すように、俺のことを見上げてくるその子に視線を合わせる。

「ごめん。君のことがまだ信じられなくて。俺はこの世界に召喚されて一月が経つんだけど。その間俺はこの世界に一人ぼっちだったんだ。それでこの世界に召喚されてから俺に寄ってくる女の人達がみんな嘘つきばかりでさ。だからこんな風に誰かを信頼できる人が今まで俺の周りにいなかったから。それが理由で俺は君の言うことに簡単に信じることができなくなってしまった。それだけなんだ。許して欲しい」

俺は正直な気持ちをそのまま話すことにした。別に俺はこの子に何かを求めているわけではないが俺は俺の心の拠り所になる人を求めていた。そしてそれは俺の心を癒やしてくれるような女性であることが望ましいのだが。俺は自分の容姿のせいで女性が近づいてきても俺にはそんな気になれなかったのである。だけど目の前の子から俺はなぜか惹かれるものを感じていた。

その証拠に、俺は、俺のことを睨みつけている彼女に少しドキドキしてしまって顔も真っ赤になってしまっているような気がする。そして、その彼女は俺に怒るような態度を取るわけでもなく、微笑みながら、優しい瞳で俺のことを見ていた。

俺はその瞳を見続けているうちに。何故か俺は泣いてしまっていた。俺もなぜ泣いているのかわからない。ただ、俺を優しく包んでくれそうなその眼差しに自然と涙が出てきたのだ。俺はその瞳をずっと見続けたかったが。今はそういう場合ではなかったと思い出し。涙を服の袖で拭うことにしたのだ。

(俺は何をやってんだ?)

そして、俺は泣き止むことができたのでその目の前にいる彼女の目を見ると。その女の子は微笑みながら俺に向かってこう言った。

「私はこの国で一番偉い人よ?だからあなたのことは何でも知ってるの。それに、この世界の全てを把握しているつもり。だからこの城の中で起こった出来事は大体わかっている。この部屋にあるものは全てあなたのために集めたものよ。だって私が欲しいものはあなたしかいないんだもん。でもあなたがそれを気にするならこの国から出て行くという選択肢も選べなくはないと思う。でも、この国にいれば安全だと保証することは絶対にできる。この国は強い人たちで固められているのだからね。それはつまりあなたにもその力が秘められていて、しかも私より遥かに上の力を持っているってことだから、そんなにこの国の人たちは弱いっていうことになるのかしら?この城は一応私がいない間は警備兵が守っていたから大丈夫なんだけど、今この城の中ではあなたが私以外にこの世界で誰も見ることの出来なかった『異能力』というものを発動させているみたいだし、その強さの理由を考えるとやっぱりあなたをこのまま帰すことはできない。それに、あなたのステータスを見てみるとレベルが異常に高い。それにステータスのスキルの項目を見てみると。あなたは《???》が表示されている。これは『スキル』なのかもしれないけれど。これの詳細を見てみると。《???》としか書いていないのよ。そのおかげでどんなことができるのかさっぱり分からない。それにあなたからは私に対する好意のオーラが出ている。それも尋常じゃないほど出ている。そんな人に何も教えずにこの城を出ていくことがあなたはできるかしら?」

俺はそんなことを聞かされると俺には返す言葉がなかった。

この子の発言が正しかったからである。

俺はその言葉を聞いた後すぐに。俺は、目の前の少女に土下座をしながら頼んでいた。

「どうか俺の願いを一つ聞いてくれないか?」

俺は、この国に来た理由はこの少女に出会うことが目的なのだから。そのためには俺はなんでもしようと思っていた。すると、俺の言葉を聞いた少女は笑っていた。

「じゃあ私の彼氏になることが条件でお願いを叶えてあげる。あと、これからは私のことは名前で呼んでもらう。それと、あなたは今日から私の恋人になったのよ。だから私以外の女には近づかないように約束してもらう」

俺はそんな条件を受け入れてその日は部屋を後にすることになった。

しかしそれから数日間、この国では特に何も起こらないのであった。そして俺と彼女の関係が始まったのだ。俺はこの国に来て以来一番幸せを感じた時を過ごすことができたのだ。その証拠に初めて俺の部屋にあの子がやってきた時に俺は彼女に対して『魔力譲渡』の魔法を使い俺が貯め込んでいた膨大な量の魔力を渡した。

そしてその後、俺は彼女のために俺は料理を作り彼女と一緒にご飯を食べたり、一緒にこの国の周りに存在するダンジョンを攻略したりなど。本当に彼女と恋人らしい生活を毎日過ごすことができたのである。

俺はその生活があまりにも楽しくて仕方が無かった。そして、俺はこの世界に来て初めて俺のことを愛してくれている存在と出会うことができたのであった。

「ふっざけんなよ!何で俺の邪魔をするんだよ!」

「それはこっちのセリフだ!いい加減目を覚ませ!俺たちが今相手にしているのは【魔王】なんだぞ!そんなことよりも俺の話を聞け!」

俺はそう叫ぶがこの馬鹿は全くと言っていいほど俺の言葉に耳を傾けようとしないでひたすら攻撃を続けている。

(くそ!どうすればこの暴走しているやつに俺の声が聞こえるんだよ!もう完全に周りが見えていないじゃないか)

「俺は、俺はお前のことを助けてやったはずだ!なのになんで!お前はいつもそうだよなぁ!人の気持ちも知らないで、いつもいつも自分の都合ばかり押し付けてきてさ、そんなんならいらなかったんだよ、お前なんて!そんなやつはもう友達なんかじゃねえ!もう俺はお前の顔なんて二度と見たくねぇ!」

俺はそう叫んだ後にこの場から離脱しようとした。だが俺はここで大きなミスをしてしまう。俺は『隠密』を使って姿を消していたはずなのに、何故かその男が突然こちらに振り向いてきたのだ。

俺は焦りながらその場から離れようとするが、俺が逃げようとしている方向を先回りするように、俺の前には別の人間が立っていた。

俺はその男を見てしまう。その男は黒いローブを着ていて顔には仮面をつけており表情が全く読み取れない。そしてその手には見たこともないような武器を握っていた。俺は一瞬その武器に視線が行ってしまったが、直ぐに意識を切り替えた。

(俺の直感は危険信号を発してる。あれはやばい。こいつの放つ殺気だけで死ねる)そしてその黒ローブの奴はその剣のようなモノを俺に向かって斬りかかってくる。その一撃は速すぎて俺の目では追い切れない。そして、俺は、俺の身体に強烈な衝撃が走るのを感じるとそのまま吹き飛ばされた。

ドカァン!!︎ その威力に思わず俺の体は地面へと叩きつけられてしまった。俺はその痛みに耐えながらも立ち上がると、俺は俺が今立っている場所がどういう状況なのかを知るために辺りを確認することにした。

(ここは城の中だったはずだ。しかし俺はなぜか外にいる。そして目の前には俺の仲間たちの死体。しかし、目の前にいるはずのあの男の姿がない)

俺は必死になって周囲を見渡す。そして見つけた。目の前にいるあの黒フードを着た男が俺の仲間を殺したであろうことを。俺はその事実に頭がついていかず呆然としていた。

(どうして?俺が何をしたっていうんだ?)

俺の目の前に立っているあいつは仲間であるあの二人を、おそらく即死だろうが、殺した。それは間違いない。なぜなら二人の体の周りに飛び散った血液と、そして地面に染み付いている血の跡がその状況を物語っているからだ。

(俺は、俺はこの世界でやっと心の底から信用できた人間を見つけたんだ。この世界で俺は一人ぼっちだった。だから嬉しかったんだ。その人とは本当の意味で心を許せる存在だった。だから俺はその人をこの命に変えても守りたかったんだ)

しかし、俺が守るはずだった人は、その男のたったの一回の攻撃で死んでしまった。いとも簡単に俺の大切だった二人は死んでしまった。俺はそれを理解した時。今まで抑え込んでいた感情が一気に俺の中に入り込んできた。そして俺の心は俺の気持ちに正直になり、俺の中の何かが弾けたように俺の頭の中で色々な考えが浮かんでいく。そして俺は俺が考えていることを試してみることにした。

『魔装顕現』

すると俺の手には俺の愛用していた二丁拳銃が現れるが。その銃口に俺は大量の銃弾を込めた。その数およそ10発。それだけの数の弾丸が装填された銃を構えると、俺に攻撃を仕掛けてきているその男に向けて構えると。

バン!!!! 激しい爆音とともに撃ち出された無数の小さな鉛玉。それは、普通の人間が目にしたらまず間違いなく避けれるようなものではなく、そしてそれに当たった者は確実に死んでしまうほどの凶悪な力を持ったものだ。しかしその男はまるで最初からそこに存在しないとでもいうかのように姿を消したのだ。

俺の予想だと恐らく『異空間収納』を使ったのだろうと推測する。その『異次元収納』の中には俺が使える魔法とはまた違った能力が備わっていると聞いたことがあるので、それで俺が使っているのと同じような技を使おうとしたのかと思う。

だが、俺がその男の気配を追おうとする前に俺が撃って放った弾丸を全て避けるか受け流しながらこちらに向かってきているのを感じた。そして俺に向かって放たれている攻撃も感じ取ることができている。

(くっそ!俺はこんな化け物と戦って勝てるわけがないだろう!俺は弱いんだ。それに、俺はこいつらを、この国の人を助けるために戦おうとしていたのに!その人達を守るために強くなったんだろうが!それがなんで俺は今こいつを、【魔王】を殺そうとしてしまっているんだよ!俺はこの世界の人間ではない。だから別にこの国の人たちのために戦う義理はない!だから俺の命に賭けてでも、俺が生き残るために、この国を救うために俺はこの国の人たちを守るべきなんじゃないのか?そのために強くなるために来たんじゃなかったのか?なら!この国の人を守るためじゃなくてこの世界の全ての人が平等に平和な日々を過ごすことが出来るようにする為に!そのためならこの俺の全てを!全てを捨て去ってでも俺は、俺はこの世界を、この異世界を救った方がいいんではないか?いや!俺のこの気持ちに、魂に従え!!)

完全鑑定フルステータスチェック!』

俺は自分のステータスを開く。

『勇者』

『覇王』

レベル上限 ∞ スキル上限 1000 称号限界値 15000 固有スキル《絶対服従》

『魔王』→

『魔神』

レベル上限 無限 スキル スキル スキル

『???』

「ふっははははは!!!あはははははは!!」

俺はついに壊れた。自分の中で、自分で自分が制御出来なくなってしまったのだ。

『俺は一体どうしてしまったんだ!?俺はいったいなにをしているんだよ!俺はこの国のみんなを救うって心に誓ったはずだろ!俺にはその力が、俺にしかない、この世界を救う為だけの、この国だけのために使うはずの力があるだろ!なのに俺は今、俺は自分の力を過信している馬鹿どもを殺すために自分の国で好き勝手に行動していたやつを殺そうと思っている。俺はそんなことの為に『勇者』としてこの世界に召喚され、この国に来てしまったんじゃないか?違うだろ!もっと俺には大事なものがあるはずだろ。なのに俺はその大切なものよりもこの国を優先しようとしていたんだぞ。これじゃあこの国に来てからずっとやってきたことと一緒じゃないか。この国は俺にとっては所詮他人事だったはずだろうが!そうだよ!俺は俺が一番大事にしていたものに気が付いていないだけだったんだよ。俺は結局は自分の欲望のままに生きていたんだ!ただ俺の心の弱さが原因だったんだ。そうだ、そうだよ。俺の本当に守らなければいけない存在はこの世界でただ一人。彩音を。彼女を俺は守り抜くと決めたんだ」

「そうさ!俺は、俺にとって一番優先すべきものは彼女なんだ!」

俺は自分に言い聞かせるように声を張り上げると彼女のいる場所に向かうために歩き出す。その途中、倒れている【聖騎士】を放置するのはなんだか可哀想だったので、『回復』のスキルを使って【蘇生】を使い【死者復活】を使って彼女を復活させる。

そして【魔王】がいる方向に向かって走り始めるが、【魔王】は既に俺の方に向かって歩いて来ていた。その速さはまさに歩くというよりも疾走という言葉の方が相応しいスピードで、その男は向かって来る。

【魔王】が持っている剣の斬れ味と威力が半端ではなく、俺は防ぐことに徹することしかできなかった。

そして遂に、俺の持っていた銃の弾薬は尽きてしまったようで、俺の銃撃による攻撃は一切当たらなくなった。

(くそがぁ!!何でだ、何で当たらないんだよぉー!!!)

そして俺はもう完全にやけくそになって攻撃を避けずにとにかく全力で殴ったり、蹴ったり、武器を投げたりと色々な手段を用いて攻撃を続けた。しかし、その攻撃も虚しくも意味をなさなかった。

ドカァン!!ドゴォーン!!ズシャ!バキンッ!

(くっそ!!もうダメだ、ここまで強いのかよ。くそくそくそ!!)

俺はそう思い、絶望していたのだが、そこで俺は思い出すことができた。

「『覚醒』、『全武装開放!!』

その言葉と共に俺は手にした全ての武器が一斉に解放されて、それと同時に俺は身体強化の『超加速』を発動する。すると一瞬にして目の前にいる敵の姿が消えたように見えた。

そして俺は一瞬で敵を殴り飛ばし、その瞬間俺は俺自身が、俺の意識が飛んでしまうのではないかと錯覚したほどの衝撃を受ける。そしてその男は、その男は遥か遠くの壁に激突して瓦礫の下敷きになったのだ。しかし、それでもなおその男は意識を保っていた。

そして俺は無意識にその男に向かって剣を向けていたのだ。その男はその剣を見て何かに気が付いたような反応を見せると、その男は笑みを浮かべた後に意識を失ってしまったようだ。そしてその後俺は意識を失った男の心臓に向かって手を向けるとその男にトドメを指すことにした。

そしてその男の体に触れて『神眼の巫女』の能力で男の過去を覗くことにする。そして俺が男の過去を見たことで、俺の心の中には様々な感情が溢れてきたのである。

(こいつは一体何を思って、こんな人生を送ってきたんだ?)

俺は疑問に思った。なぜなら男の過去は悲惨そのものなのだから。俺はこの男に対して、怒りを覚えることはなかったが、少し同情するような感情が湧いてきてはいた。

(こいつがもし俺だったのならば。いやまあ俺も、俺もこんな人生を歩んでいたとしたのならば同じ行動をするのだろうか?)

この男は『覇王』と『魔王』の両方の力を手に入れてからの数年間の殆どをその力と権力によって蹂躙する側にいて楽しんで過ごしていたようなのだ。

(でも、俺がこの男の立場ならやっぱりこの男と同じ道を歩んでいてしまっていたのだろう。だってそうしないと生きていけなかったのだろうから。でもだからといってその行為が正しいわけではないし。こいつにもきっと事情があったに違いないんだ)

俺はそう考えると。とりあえず目の前の男の記憶の中からこの男のスキルだけを消し去るようにして、俺が見たその男の過去の映像を脳裏に刻み込んでおく。それから俺はその場を離れようとした時、この部屋の中にいた他の奴らは全員俺が倒したというのに、その男は一人だけ生き残っていて、そしてなぜか俺に向かって笑いかけてくる。

俺に殺してくれ、というような視線を送り続けているのだ。

俺はその男が何かを訴えかけてくるその瞳に俺は嫌なものを感じ取ってしまい、俺は『強制契約魔法』でこの場にいる人間達全員に契約を結ばせることにした。内容は単純明快で。俺がこれから行うことを見逃すことという内容だ。そしてその契約を済ませると、その俺に敵意を持って攻撃してくる者はいなくなっていたので。

俺は急いで【魔神】と『魔装顕現』を解きながら走って彼女のもとに急いだ。

「彩音!!!無事か?」

俺がその言葉をかけると、その言葉を待っていたのか、その少女はすぐに返事をしたのだ。それもかなり切羽詰まった感じで

「お兄ちゃん!!助けて!今私のところに敵が迫ってきているの!!」

それを聞いた俺は直ぐに【空間転移】のスキルを使う。そして、その場所に辿り着くと俺は目を疑うような光景を見てしまう。それは先程まで戦っていたあの魔王のような姿の化物がそこに現れたのだ。

(おいおい!あれはまさか『魔神』なのか?いやでも、そんなはずは。あいつは死んだはずだろ?それにあいつからはあの魔王のようなオーラも感じる。ってことは。本物ってことになるのか!?でもどうやって?ってそれよりもまずは早くこの娘を守らなければ)

俺はこの娘の安全を確保するため、すぐに彼女の元へと向かうと彼女は涙を流しながらも必死に頑張ってくれているようだった。俺にはそれが凄く嬉しかったが、俺は彼女に『聖女神』の姿になって貰うように頼む。その方がこの国を守る上でも、彼女が傷つかなくて済むからだ。俺ではどうしても彼女のことを守ることはできない。だからこそ。俺が俺の力で彼女を、いや彼女たちを守ってやる為にはこの方法が一番確実だ。だから俺は彼女を守ることを優先させる為に『勇者召喚術』を使って召喚された者達を全員この国から避難させようとしている最中なのだろう。俺もこの国の人たちが嫌いな訳では無い。だけど俺にとっては一番大事なのは彼女なのだから仕方がないと思うしかない。だから、この国のみんなを助けられなかったとしても許して欲しいと思っている。

俺は今この国に迫り来る脅威を取り除こうとしている最中だ。俺には時間が無い為この国の人間達が逃げる時間を稼ぎ、少しでも多くの人たちを助けるために動いている。

俺は今からここに来るであろう化け物を迎え撃とうと思っていたのだが、その考えを変える必要があるらしいな。何故かと言うのが。その相手から感じられる気配に俺は恐怖を感じてしまっているからだ。

(これは一体どうなっているんだ?何故これほどまでの力を持ち合わせているというのに今まで気が付かなかったんだよ。こんなことがあってたまるか!)

そう。この男は本当に魔王のように強い力を持っている。だが、俺の『鑑定フルステータスチェック』の固有スキルのおかげで俺はそのステータスを知ることができるようになった。その結果、この男のステータスがこれである。

名前 【???】

種族??? 年齢???歳 性別??? 職業??? レベル 150000000 スキル スキル 《鑑定》 レベル9999+99 《解析》レベル10《多重起動》レベル8 《偽装》レベル3 《絶対防御障壁レベル2》 《完全治癒レベル7》

ユニーク スキル 《限界突破:リミットブレイクレベル6》 【称号】

この男に『魔王』の称号が付与されていることは間違いない。つまり魔王のジョブを授かっているのがこの男だということだ。しかし、それだけではないようだ。他にも『覇王』のジョブが表示されているのだ。しかも『神眼の巫女』の鑑定の固有スキルで調べても、詳細が表示されず、【魔王】よりもさらに上のレベルの表示になっているのだ。

そのことから、恐らく『勇者召喚術』で呼び出された勇者達の力を全て取り込むことでその【??】は誕生したということだ。しかし、そうなるとこの国に現れたのが、本物の『勇者』ということになるだろう。この国にやってきた『異能の世界』からの勇者達は既にこの男に取り込まれてしまったということだ。

(まあ。俺には関係ないか)

俺は思考を放棄して目の前の脅威を取り除くことにした。この国で俺は『魔王』を殺すつもりだったが。そんな余裕すら無くなって来た。俺は一秒でも無駄にしたくないとばかりに全力で戦闘を開始することにする。

俺は、この男を倒さなければならないだろうと思った。なぜならこの男の持つ力は圧倒的すぎるほどに強くて。このままだと俺は負ける可能性があるからだ。

(この男の『限界』はどれくらいの強さなのかわからない。しかし俺はまだ本気を出すわけにはいかない)

俺は自分の『魔力』の制御に全神経を注いでこの男の攻撃をなんとか防ぎ切ることに成功する。しかし俺も無傷ではすまないだろうと思い覚悟を決めていた。すると、俺は一瞬意識が遠のきそうになったのだが。その時俺はある事に気が付いたのだ。それはこの男の存在に違和感があるということだった。そして、その理由は直ぐに理解することができた。そうこの男から放たれている波動の感覚は。

俺と全く同じだったから。俺はそのことを不思議に思っていた。そうこの世界にきてから『覇王』になってからというものの。この『覇王』の力を得たことによる恩恵を常に受け続けてきたので。この男と同じ存在になったことによる違いを感じていなかったのだが。今こうして目の前にいる男と対峙することで俺は、やっとこの男と同じような力が使えるようになったのだということがようやく分かったのである。そして俺がそれを理解した途端。俺はこの男と戦う前にこの男から『強制契約魔法』を行使させてもらいこの男を縛らせてもらった。その行動は正解のようで、この男は何も抵抗せずに素直に従ってくれて俺が『強制契約魔法』で縛りつけたのにも関わらず。一切攻撃を加えてこずにその場で待機していてくれた。だから俺はその男の意識を奪うと俺と瓜二つの顔をしたその男の頭を鷲掴みにする。そして俺自身の体にも異変が起き始めた。

『神眼の神域』が進化を始めて、『神眼』が『真眼神』へと変化する。その『神眼神』に新たに加わった機能の中に。『魂喰』の機能が追加になったのだ。俺の体の中に入り込んだ人間の肉体に宿っている魂と意識を奪い取りその者の力の一部を得ることができるようだ。ただその『奪魂神』の能力の対価として俺がその者から奪い取ったものは俺が死ぬことによって消滅して二度と取り戻せないという制約もあるようだ。

『奪心神』で得たのは俺の分身のような存在である『分身体アバター』という能力だ。この能力は俺が想像したものをそのまま現実化してくれる。俺の場合は自分自身の姿をした人型を作れるみたいだ。そしてその『奪神』は相手の意識を刈り取ることで、相手は自分を失うのだ。だからその奪った相手に対して『命令』ができるみたいなのだ。

(この力を使えばこの国の人達を救うことも簡単なんだろうけど。やっぱり彩音を優先したいし。俺もそろそろこの国を離れるべきだよな。それに、今は彩音の身に何かが起きたような反応は出ていない。彩音が俺以外の奴らに殺されないようにするためにもこの場を離れた方がいいだろう)

俺は彩音に危険が迫っているということを確認できてから。この国を出て、別の大陸に行くことを決断する。そして俺は『魔神』と『魔剣士』の姿に戻ると『魔神』の力でこの場にいた全ての人を『空間転移』でこの国から遠ざけていくのであった。俺はその作業を手短に終わらせると急いで彩音のもとへと向かった。

俺と、そして俺の妹に危機が迫っていることがわかったので俺は『空間転移』のスキルを使ってこの城の中まで戻ってくることに成功した。しかし、俺はそこで信じられないものを目撃してしまうのだ。それは彩音の隣で剣を振るう少女の姿だ。

俺と全く容姿の変わらないこの世界で俺と同じように生活しているはずの妹が、まるで俺の生き写しのような姿をしていたのである。そして俺はその光景を見た瞬間に全てを悟った。そう俺はもう既にこの世界の住人になっていたのだということに。この世界に来てからはや数年が経つ俺にこの世界に来る前の記憶が残っていないこと。そして『勇者召喚術』によってこの国に異世界召喚された勇者たちが一人残らずその男に取り込まれているという事実を知った今なら。その事実は受け入れざるを得ないだろう。

俺はこの世界を救いに来たつもりが逆に俺の方がこの世界に利用されていたのだろう。それに俺以外にも召喚された者たちがいる。その中にはきっと妹の幼馴染もいることであろう。俺はそのことにも気づかないまま俺はここまでやって来てしまっていたらしい。しかし、そのことは今考えるべきことではない。今はこの男に対抗できるだけの力を手に入れることだ。幸いな事なことに、その男が振るう武器には見覚えがあった。それは俺も使用していたことのある『勇者の宝刀』だ。しかし『勇者の証』は持っていないようだったので、俺は『魔神』の姿のままその男に攻撃を仕掛けることにした。

スタッ

「待たせたな」

ドゴンッ!!︎

(おいおい。まじかよ。まさかこの男は『勇者』の固有スキルまでも取り込んでいるっていうのか?)

『魔神』の力で殴っても、男を怯ませることはできなかった。それどころか、俺の攻撃を食らった男は俺のことを睨みつけるだけで、ダメージを負っている様子は全く見られなかった。俺は今になって自分がどれだけ弱い存在になってしまったかを実感することになった。

それからは俺が一方的に攻撃を受けている状態が続くことになったのだが、それでも俺は諦めることなく立ち向かうのだが、この男はあまりにも強すぎて、俺はどうしようもない気持ちになりつつあった。そんな時だった。俺は自分の体に異変を感じ始めていた。その異変というのは『限界突破』を発動させていた時にも起こったことがある。

俺はこの『勇者』の力が馴染むまでの時間を利用してどうにかできないものだろうかと試行錯誤をしていたのだが。その試みも虚しく俺の体は段々と侵食されて行き俺の意思とは無関係に俺自身が『勇者』に成り代わって行くという現象が起こるようになった。そう、この現象を起こせるというということは『勇者』はこの力を制御できていたということを意味している。

だが俺はこの『魔神』に変化した状態で、その力を制御することができないのだ。『覇王』の時の『神威かむい』ならばなんとかなるかもしれないと『覇王』に姿を変えてみる。すると俺は『神眼』を起動させてステータスを確認する。するとそこにはこう記されていたのだ。

【ステータス】

名前 神無月零かんなづきれい

(神眼)

Lv.180000000 職業『覇王』『魔王』『魔導師』〈??〉『大賢人』〈??〉『魔神王』

筋力:SSS

体力:SS

魔力:EX

精神力:S

素早さ:A+

運:D

魅力:E+

ジョブ:ユニークジョブ:『覇王』、『魔王』

ジョブ詳細

:『覇王』

『魔王』

【特殊ジョブ】

〈『覇王』『魔王』は同一ジョブでは存在しません。それぞれの条件が満たされることでその力を発揮することができます。また。ジョブの覚醒は使用者のレベルが上がり次第解放されていきます〉 固有能力【全言語翻訳】【限界突破】【成長強化】【才能開花】【超解析】【完全記憶】【瞬思念】【神格者】【絶対領域】【全能神】【運命掌握】【究極耐性】

(俺に、この力が制御できているわけがないよな。これでも俺はこの力の全てを使えるわけではないんだよな。だから、この男の持っている力はそれだけではないはずだ。だからこの男は『勇者』よりも上の存在になっていると考えて間違いないだろう。この男の力の一部を手に入れたことでようやく理解できた。『勇者』の力と、俺自身の力で。この男を殺すには俺自身のレベルを上げなければならないようだ。この男の力を取り込み続けるだけではダメなのだ)

俺は自分の体を侵食してくる『勇者』の力に耐えながら。自分の中にいる俺自身を必死に押さえ込んでいた。しかし、この俺を抑えるのにも精一杯の俺はこの男に反撃を加えることができないままいたのだった。俺も彩音を庇いながら戦っていたからこそ何とかなってはいたが。もし俺が単独で戦うことになると俺はなすすべもなく負けていただろうと予想がつくほどだ。それほどこの男の強さは異常すぎたのである。しかし、この男はそんな状況だというのにも関わらずに。なぜか俺をじっと見つめてくる。

「お前はいったい何のためにそこまで強くなろうとするんだ?」

(こいつは何を言っているんだ?俺はこの世界の人々を幸せにすることを目的にして今まで努力を続けてきた。この国の人たちは俺を必要だと言ってくれたからな。この男から感じる波動は。おそらくこの国の人々とほとんど変わりはしないだろう。ならどうしてこんなに圧倒的な強さを持ち得ることができたんだ?それは、やはり、俺と同じように他の『召喚された勇者』を取り込んだのだろう。それも、この男のように『全魔法』を使うことができるようになっている可能性が高いな)

「まあ。そんな事はどうでもいいがな」

スパッ

「グッ!?︎」

バタン 俺がこの男の隙を見て攻撃をしようとするとこの男の斬撃が俺の腕に当たり俺の腕から血が流れるのを感じるとそこで俺は意識を失いかける。しかしその時俺の頭の中に聞き慣れた少女の声が聞こえてきた。そしてそれと同時にこの男の体が突然苦しみ始める。その男の口から発せられる言葉には先ほどの俺に対する態度とは一変していて。この男は完全にこの体の主人格である『俺』のことを見下していたようだった。

しかし、『勇者』であるはずのこの男は。その『俺』を簡単に倒してしまったのだった。『俺』はその瞬間に、完全にこの体の所有権を失ってしまったことを自覚してしまう。

(この『俺』がこの男に勝てる可能性なんて皆無に近いということがわかっただけでも良しとしておこうかな。彩音が生きていることがわかったのも幸運だったな。彩音も『俺』と一緒にこの国を出ると言っていたし、俺もすぐに準備をしてここから離れないといけないだろう。それにしてもこの『俺』もとんでもないやつに戦いを挑んで死んだものだな。まあいい、俺の妹も無事だったことだし。俺がいなくなった後のことはこの体の所有者の知り合いに任せるしかないか)

そう思い俺は目を閉じて彩音の元へ行こうとするが俺は『俺』に意識を奪われてからの意識がほとんどないせいで彩音のことが心配になり彩音の気配を探すことにした。そして彩音のことを探しているとこの城の近くにいることがわかったので彩音のもとに向う。しかしそこに居たのは意識を失くしている彩音の姿だけで。彩音には『魔剣士』の魂が宿っていなかった。そして、俺は『俺』に意識を奪われたときに感じていたことを思い出していた。それは俺の大切な人が危ないという直感と、彩音の魂に別の人間の魔力を感じたのだ。それは俺と同じ世界からこちらの世界に転移した人間であることは間違いなかったのだ。しかしなぜこの世界にやってきた彩音に『俺』が取り憑いてその力を振るっていたのかは謎ではあるが俺はそのことも含めてこれからの事を考えるのであった。

俺はこの『勇者』が使っていた武器を回収する。この武器の本来の使い手であるはずの『俺』は殺されてしまった以上。この武器を使って戦うことはできない。俺はこの世界で俺の知っている『剣聖』や『勇者』以外の人間が使っているところを見たことがない武器だ。

これは『神滅器』と呼ばれる特殊な剣で『勇者』のみが扱うことの出来る最強の剣の1つである。しかしこの『勇者』の『勇者』の証が手に入らなかったため『俺』がこの剣を使うこともできなかったのだがこの剣を手に入れることができたのはとても大きいだろう。

俺はまず、この武器の性能を確認しておくことにする。

【鑑定結果】

『魔導剣:天之雲刃』

神威かむい:神を滅ぼすことのできる力を持つ剣』

攻撃力はSS級相当で、あらゆるものを断ち切ることの出来る神造武装の一つだ。さらに『魔道士』系統の『固有能力』を発動させることでこの武器は、この世に存在する全ての魔法を吸収することが可能になり、吸収した魔法の威力に応じた攻撃ができるという優れものでもある。ただし、一度使うと使用者に莫大な反動があるため連続で使用することができないデメリットもある。

(確かに凄まじい能力のアイテムだ。ただ俺の場合は固有能力を使うことができないみたいだな。それに『勇者』が使っていた時は『魔剣士』の状態でこの武器が使用可能だったが今は『覇王』なので、そもそも『魔神』の状態になってしまった今では、俺はこの固有能力は使用できないらしい。それじゃ、試すために。俺の『魔剣』をここに召喚する)

そうすると俺の右手に俺がこの世界に転移する際に持ってきた唯一の剣が出現する。その『魔剣』はこの世界に存在していたどの『勇者』よりも優れていた性能を誇っているのである。この『勇者』が使っていたものより性能は圧倒的に上のはずなのだ。だから、これならば問題はない。俺がその手に持っているこの世界にある唯一の『神威』を試そうとした時。俺の背後に何者かの魔力反応があることに気づく。俺は慌ててその方向に視線を向けるとそこには『魔神』の力が解放されたことで、この世界に転移させられた時のような人型に戻っていたがその容姿は明らかに『魔神』のものだったのだった。

(こいつは。この男を取り込んでいた『魔神』の魂か。どうやら『勇者』の『魔神』の力を奪い取ることに成功したようだな。それでその男が持っていた『神器』の能力も全て使えているというわけか)

【鑑定】をした結果、この『魔神』の持つ『スキル』には俺が持つ能力も含まれていた。俺はその『魔神』から俺の体に異変が起こった原因を探るべく解析を始める。その結果俺はこの世界の人間ではなくなったことが原因だと判明した。

しかし俺はその事実を受け入れて、俺は『魔神』に向かって戦闘態勢に入る。しかし俺の目の前にいる『魔神』もすでに戦いの準備を終えていたので。俺たちは一瞬のうちに激突して、激しい攻防戦が始まる。

スバッ!!ザシュッ!!ドゴォオオンン!! お互いの一撃がぶつかり合う度に、辺りに衝撃波が走る。『魔神』の振るう刀が空気を切りながら迫ってくるが、俺はそれを自分の持つ大剣を横にしてガードして、俺はその勢いのままに大剣を横に振って相手の体を両断しようと試みるが相手はそれをジャンプすることで回避をする。

ズバン!! そして空中に浮いた状態でそのまま『魔神』は、刀に魔力を込めて俺に斬りかかってくるが俺はそれに自分の大剣をぶつけることによって防ぐが俺の大剣の方が破壊される。俺は、すぐさま『魔導砲』を放ちながら後ろへとバックステップを踏むことで距離を取る。

(くそ。この世界の『勇者』と俺が融合したことによってこの世界における最強に近い力を手にしてしまったというわけか。俺が今まで経験した中でもトップクラスの実力を持つ奴だ。しかも、今の俺の攻撃を受けてもダメージを負っているように見えていない。あの程度の傷ならすぐ再生してしまうのだろうな)

俺はその『勇者』から奪ったと思われる『スキル』、『勇者』の力を持っているからなのか、『勇者』にしか扱えないはずの固有能力まで使うことができるようだ。しかしそれだけじゃない、『魔剣』を使った攻撃でも俺の体を傷つけることが出来るようになっているのだから厄介なことこの上ないだろう。だが、俺もまだ諦める訳にはいかないのだ。この世界の人々に危害を加えようとする者はなんとしても俺の手で葬る必要がある。だからこそ俺はまだ負けられないのだ。そして、ここで『魔導砲』を撃ってもこの男は避けてしまうだけだろうし。『魔導砲』は相手に直撃させる必要もなく相手を行動不能にすることが出来る。つまり、動きを封じることができれば俺の勝ちは確定するということだ。だから俺はこの技に全てを懸けることにしたのだった。

スウッー!

(さすがにここまでしないと俺の魔法を避け続けることはできないみたいだな。まあそれも時間の問題だろうがな。とりあえず俺の攻撃が当たった時に起こる現象について解説をしておこうか。まあこの男ならそんなものに構っている暇があれば攻撃を繰り出した方が効率がいいと思っているかもしれないが、そうも言っていられなくなってきているのも確かなことなんだよね。それにこいつは自分の体に流れる魔力の量にもかなり自信を持っていて『俺』を取り込んだ影響か知らないが。俺に対して異常なまでの敵意を見せてきているからな。油断なんてしたら間違いなく殺されることになる)

(そして次の瞬間には、俺は膨大なエネルギーを放つことに成功する)

(くくくっ。ようやく俺も『魔神』として完成することが出来たようだ。まさかこれほど早く全盛期の『魔神』に戻ることができるとは思わなかったがこれもあいつを取り込んだことによるおかげということか)

「貴様、今何をした?」

バァアン その『勇者』の言葉を聞いた俺はその問いに答えることなく俺は『魔道砲』を発動させて巨大な光のビームを撃ち放つ。そのレーザーによって地面はえぐれており周りに居たものたちは巻き込まれてしまったのである。

(これで少しはダメージが通ってくれるといいんだけどね。『勇者』の固有能力を扱えるといっても、この世界に存在する『勇者』は、あくまで元はこの世界の住民で、元々のステータスがある程度は決まっているはずだ。それがこの『勇者』のように『覇王』と同等のステータスになっているというわけではないだろうしな)

俺はこの場から逃げる為に、俺は再び『勇者』との戦いに集中して、俺と『勇者』の戦いはさらに激化していくのであった。

俺は『魔剣士』の時とは違い『魔神』の状態なので魔力の量が圧倒的に多いので魔法を使えるのはもちろんのことだが。固有能力を使うことも可能なのだ。そして『魔剣士』の時に習得することのできた、俺のオリジナル魔法である、魔導術も使用可能だ。

そして俺はその魔導術と『魔剣士』の頃に習得することができた『魔剣士』の固有の能力を使うことで『魔導剣術』『神滅流闘気』を使うことが可能となるのだ。

(そして、俺にダメージを与えることができていないことに苛立っているのか『勇者』が、ついに俺に対して本気で向かってきているようだな。やはりこの世界でも『勇者』の身体能力は、他の生物と比べて群を抜いているのか?俺のスピードに着いてくるのは不可能だろうな)

ドゴンッ!!!! 俺の振るった大剣による一撃が、『勇者』の振るっていた大剣を破壊する。俺の大剣を壊すことの出来た奴などこの世界で見たことはないのだが、それでも『魔剣士』の時に手に入れた、この魔剣の切れ味が良すぎるので問題なく破壊することが可能だと思ったのだ。

ガキィンッ

『勇者』は俺の斬撃を防ぐために大剣を捨てたが。すぐに別の剣でガードをしてくるのでその隙に俺は再び距離を詰めていく。

(ふむ。なかなかやるな。さっき俺に攻撃してきたのは恐らくこの『神威』の効果を利用した攻撃か何かなのであろう。あれだけの威力の攻撃を受けたにもかかわらずダメージがないというのも驚きだったが、俺の大剣を破壊されたことに対しても驚いたよ。あの攻撃を防ぐには、それ相応の大剣が必要になるというわけか。そしてその剣も俺がこの世界に持ってきたあの剣よりは数段落ちるようだな)

俺はこの『勇者』を倒すためには、確実に殺す為にはあの大技を使うしかなさそうだと判断したのだった。俺は『魔導剣術』を応用することで『覇王神装機龍覇王神剣

零ノ太刀:覇王龍閃!!』を使うことを決めるのだった。

俺が『覇王龍剣』を使うために集中を始める。『魔剣士』だった時の時も使うことは可能だったが。固有技能の力を最大限まで引き出し、俺の体を乗っ取ってくる、あの『魔王』の固有技能に抵抗しなければならなかった。

だが、今はもう俺の中に、この世界に召喚された際に俺に憑りついてきた『魔王』の力は存在してはいない。『勇者』が俺に取り付くために俺の肉体を完全に支配しきるまでの時間はかなり短いものだったが。それでもこの世界に転移させられるまでかなりの時間を喰ってしまったのだ。だから、俺がこの世界に召喚されてから俺の意識が目覚めてから『勇者』に体を操られるまでの時間が、そこまで長くなかったおかげで俺はこの固有技能の力を扱うことが可能になっていた。

俺は『覇王神剣』を創造するために自分の魂と俺の中の魂を同化させていき、俺の中に眠っている全ての神剣を具現化していく。そしてそれと同時に、俺は俺の中で一番相性の良い固有武装を探し始めるのだった。

するとその俺が作り出した固有武器に俺と俺の中に入っていた、魂たちが融合していくと一つの最強の剣を作り出すことに成功した。

その剣の名前は『真覇王神剣 聖神刀 覇王神剣』と言い俺の持つ固有技能の全てを引き出すことができる、まさに最強と呼べる一振りを生み出すことに成功しのである。

「はぁああ!!!!」

(なんだ?急に奴の雰囲気が変わっただと?だがこの攻撃を止めることは不可能だ!!たとえこの『聖剣 カリバーン』ですら防ぎ切れないほどの攻撃をされたとしても、俺の命を奪わなければこの国の平和を守ることなどできやしないんだから!!俺には死んでも成し遂げなければならない使命があるのだ!!そのためならこの程度の攻撃に命を差し出す覚悟はとうの昔にできているのだ!!俺はここでお前を殺すぞ!!!そして俺の目的のためにその体を利用させてもらうからな!!『魔神』!!)

『魔剣聖』は自分の中に眠っていた力をすべて解放して『魔神』の懐に潜り込んで、全力の突きを放つ。そして『魔神』の腹に剣が刺さったのを確認した後に、『魔剣聖』はそのまま『魔神』のことを斬りつけると見せかけた攻撃をして『魔剣聖』はすぐさまその場から離れる。

(『魔神』のあの顔を見ろ。完全に油断している顔をしていた。おそらく『魔神』は俺があそこで攻撃を仕掛けるとは完全に予想していなかったはずだろう。だが、俺の攻撃を防いだところであの攻撃から逃れることは出来なかっただろうな。それにしてもあの表情には本当に焦らされた。まさかあんなにも俺を追い詰めることができる存在がまだいたとは思いもしなかった)

俺は自分の体に傷をつけることのできた、あの存在を逃がすつもりは一切ないのでこのまま殺しに行くことにする。俺は俺の体を傷つけることができた『魔剣聖』を殺しにかかる。

スバッー

『魔神』は一瞬で移動し、『魔剣聖』の後ろに立つと、そのまま『魔剣聖』の首に向かって『魔剣聖』を切り捨てるのであった。

ズパッー

「ぐぅっ!?貴様よくもぉおおおおおおお!!!!」

ドスンッ 俺は首を切り落とされてしまったが、『魔剣士』が習得することが出来た、スキル『再生回復』を使い、俺の体が治っていき、すぐに『魔剣聖』の元へと向かう。『魔剣聖』はそんな状況に驚いており動きが止まっている状態なので。今度は確実に仕留める為。確実に殺すため。俺は、固有技能の全てを使って『真覇王剣 滅光覇王神覇斬』を放つ。その一撃で俺に襲い掛かってきた、俺が作り出したこの剣を折ることなどできないのだ。

グォオオオンン 俺の放った、固有能力の全てが宿った一撃は、まるで天変地異のように荒れ狂う嵐となり。その一撃でこの『聖国』が半壊するほどの攻撃を放ったのである。

そして、その技を使った影響で俺も『魔神』としての力が強すぎて耐え切れなくなり、そのまま俺の体の方は消えて行ってしまうのであった。そして俺の中から出てきた、あの男がまた俺を殺そうとしてきたが、俺の体を乗っ取ることができなかったようで悔しそうにしている様子だったので。その男はその場で殺した。

俺はこの世界のこの国を、魔王に滅ぼされないように守る為に、あの男をこの国から追い出して俺の支配下に置くことを決めたのだった。俺はまず『勇者』を殺してこの『勇者の国』を支配して、それからこの国の周りの魔物たちを俺の力で強化してから、魔族たちの住む大陸へと攻め込むことを決めて、この『勇者の国』を支配した。

この国では『魔剣士』の時に使っていた、固有武装の量産に成功した。これにより、俺が作り出すことが可能な固有装備の数は大幅に増え。『勇者』に対抗する準備を整えていくことが出来た。だが、それでも『勇者』が所持している『勇者』の力の方が遥かに強く。俺は苦戦を強いられることになった。

だが。それでも俺は諦めずに、この世界で『勇者』と死闘を繰り広げていた。何度も何度も。だがしかし。どれだけ俺が頑張っても、『覇王神剣』を使うことが出来なかったので、『聖騎士王』という称号の者を手に入れることはできなかった。

それでも俺は決してあきらめなかった。俺の目の前に立ちはだかる、この世界に存在する、あらゆる『王』の称号を持つ、人間たちに『神王剣』、『龍皇剣』『神剣王』、『武闘王』、『覇王神剣』、『戦神刀』、『聖剣帝』、『大賢者』『覇道の王』などの全ての『王』たちを打ち破り俺は遂に、『神剣聖』と呼ばれる最強の『勇者王』である、アリテリオスを殺すことだけを考えるようになっていたのだった。

俺は『覇王神剣

零ノ太刀:覇王龍閃』を使うことに成功をしたのだが。その技を使うと、その技を使用した後の反動で俺は動けなくなってしまったのである。

(ふむ。どうやらあの技はかなりの負担がかかるものみたいだからね。しばらくは動けないかもしれないな)

『覇王』の魂を受け継いでいた時に手に入れた『神威の固有武装』の中には、『魔剣聖』の時の固有武装の『カリバーン』もあったのだが。それは、なぜか発動させることができなくなっていた。その理由については全くわからない。だが『聖王』が『聖剣』の固有技能を持っていたということは、『魔剣聖』も固有武装の中に固有技能が封じられている、固有武器を隠し持っている可能性もありえると。俺は思ったのだ。だから俺は固有武装を使えるようになるまでは、今まで通りに固有能力と固有技能だけで戦うことにした。

そして俺はその日から、俺の持つ固有技能を全て使うことが出来る、この『聖剣聖 アリティア』という少女と共に『魔王』とこの世界の平和を守るために、この世界に巣食う、人間という愚かな生物を滅ぼすための作戦を実行することに決めたのだった。

(さてと、俺はそろそろ動くとするかな。まずは、この『勇者』が俺の肉体に魂を移した原因を知らなければな)

俺は『聖王』の魂と融合することによって『勇者』の固有技能を手に入れたことによって『勇者』の記憶を見ることができたが。俺が見た『勇者』の固有技能は全ての固有技能の中でも最弱の力だったのだ。固有技能の中に、他の魂に自身の体に乗り移らせ、相手の記憶を見ることのできる固有技能がある。だが『勇者』はその固有技能を発動させたとしても、乗り移りできる対象には限度があり。それも、その乗る相手が、自分よりも圧倒的に強い力を持っていない相手のみなのだ。

(だが『勇者』は、あの力を使えば、この世界でも一番力が強いと言われている、この『聖王国』を支配することも容易く行えることができたはずだ)

『覇王神剣 聖神刀 覇王神剣』によって俺に攻撃を加えた際に『勇者』は俺のことを完全に舐めきっていたようだったが、それでも俺は、あの一瞬の間に俺を殺すことが本当に可能なのではないかと思わせるほどの攻撃を放ち俺を追い詰めてきたのだから、あれがもし油断をしていなかった状態での攻撃であったのならば間違いなく俺は死んでいたであろうと思う。

そして俺のことを本気で殺しに来ている『聖王』を返り討ちにして。そして『聖王』を洗脳し俺の手駒にすることが出来たのなら。俺が今から行う『魔族殲滅作戦』をより円滑に実行することができるだろうと、俺は考えたのだった。

俺が今からしようとしているのは、俺の作った軍隊を、魔物たちが生息する大陸にある国に進軍させて、そこで俺が作り上げた、『魔王城 聖魔宮』を建設させて。そこに魔王とその側近たちを移住させ、その大陸を完全に支配することが目的であった。そして、この『聖王国』にいる、『勇者』以外のすべての『王』たちは、俺の手で皆殺しにしてやろうと俺は考えていた。

俺の目的は、まずはこの『聖王国』を手中に治めることにしようと思っていたのだ。この国は俺が生み出した軍隊がすでに『魔族殲滅軍』という組織を作りあげており、この国の民たちから、信頼されている人物にその指揮官を任せることで、その組織の士気を上げることができると考えたからだ。

(それに『聖王』は『魔剣士』の時にこの国が保有している最強の部隊と、『覇王神剣』を強奪したことで。この国の軍隊を壊滅に追いやったらしいからな。『聖王』の魂が持っていた固有能力の中にはその部隊が保有していた、全種類の剣の力を使用できる能力があるので。その部隊に『聖王』の固有能力を使ってもらえばいいだろう)

そうして、俺は『聖王』を俺の計画の手伝いをさせるために『覇王聖騎士団』の指揮官に任命することにした。そして俺の計画は『聖国』で動き出すことになる。俺の作り上げた、魔物で構成された、最強の軍勢による魔族たちの国への侵攻がついに開始されたのであった。そしてそれと同時に『勇者』もこの国を後にしたのだ。おそらくこの『勇者』は自分の『固有技能』の本当の実力を知っているからこそ、『勇者』が、自分の意思に反して、自分の肉体を奪われてしまう可能性があると判断したからなのかはわからないが。この国から姿を消して、『聖国』を出て、魔王の住む、魔族の大陸に向かったのだということを、この国に住んでいる情報屋からの情報を俺は聞いたのだった。

(これで俺の計画の邪魔をするような存在はもういない。俺の計画は順調に進んでいくぞ。『聖国』のこの国の戦力も、俺の『聖剣使い 勇者』の力ですべて強化済みだし。魔物の数も俺の力で強化し、その大陸に存在する魔物たちを強化し、進化させたことで、魔族が住む大陸には大量の強力なモンスターが出現しているはずだ。これでもまだ足りないというのならば俺はいくらでもこの世界の人間たちに魔物を強くすることを教えていくだけなのだ。この世界の人間の命が尽き果てるまで、な)

俺は、俺の計画の最大の障害になるであろう存在が『勇者』だということを理解していたので、その対策にかなりの時間をかけて準備をしていたのだが。それが功を成してか、予想以上に『勇者』の動きが鈍かったおかげで、『聖剣聖』の体を乗っ取った状態の、今のアリテリオスの肉体の戦闘能力では、『聖剣聖

アリティア』の固有武装を使いこなしていたとしても、俺が作り出した『覇王神剣 零ノ太刀:覇王龍閃』を使った状態の俺と戦うのはまだ早いと考えていたのか。アリテリオスを乗っ取っている『聖王』がこの国から姿を消したことによりアリテオリスの行動を制限することはなくなったのだ。だが『聖剣』の力を得たといっても。まだまだ未熟だった、この世界の勇者と魔王は魔族が支配する大陸で。その圧倒的な力を持つ、魔族たちと魔族たちを統率していた『覇王』と、その配下の者たちと死闘を繰り広げている最中であるということを。俺はこの世界の人間たちに教えたのだった。

俺が、人間たちにその事実を伝えると、人間たちの中には魔族を恐れるものたちも多く存在していたので、魔族はそこまでの脅威では無いということを人間たちに理解させるため、魔物の軍団を作り出してから。魔族の住んでいる土地へと攻め込むために俺たちの軍は動き始めたのである。もちろん『聖剣』と『聖鎧』を装備させている兵士も一緒にだ。

だが、その時。俺は、一人の『英雄騎士 聖者騎士』の称号を持つ者と出会う。この世界で最強の『聖騎士』の一人だと、俺に紹介をされた。そんな奴がいるのかと思ったのだが、そいつの話を聞く限りどうやらそいつもアリテオリスと同じで俺の世界からこの世界に来てしまった者のようだ。俺と同じようにこの世界に召喚されてしまったが、アリティオリオスが魔王を倒すのを阻止するために、アリティオリスの『勇者』の能力を封印したのだが。それを無理やり解除されてアリテオリスは俺を殺しにきたみたいだ。

俺はアリテリオスに俺を殺すように命令をした『勇者』に復讐するためにこの世界を旅することになったのだが。アリテリオスはその男を殺す気はなかったようで、俺のことを自分の主人にするように、その男に懇願をしたのだ。

(まぁいい。こいつがどんな思惑を持っているにせよ。その『聖剣聖 アリティオス』の力は非常に役に立つ)

俺はその日から『勇者』との戦いに備えることにした。それから数日後。とうとう魔人の大陸に攻め込む日が来たのである。だがそこで予想外の事態が起きた。それはなぜか突然現れた、あの『聖王国』で俺に屈辱を味合わせた【救世主】の少年が、あの時とは比べ物にならないぐらいの速さとパワーを兼ね備えて、再びこの世界に降臨したという情報が、どこから来たものかもわからないのに、俺のもとに届いたのである。

どうやらその噂を聞いたアリティナは『勇者』をすぐに倒しにいこうとはしなかったのだ。どうやらアリティナはこの国の戦力だけで、本当に『聖剣聖 勇者』を倒せるかどうか試してみようと考えているようなのだ。その考えに俺も賛成だったので、俺がアリティナと手を組んで、『魔王討伐連合』を結成して、俺の仲間になってくれそうな者を勧誘したりしながら、『魔王』が支配している『魔王城 魔宮』に攻撃を仕掛けることになったのだ。

(まさか、あんなに早く復活するなんて。やはりあの『勇者』だけは侮ることができない存在だったということなんだな)

俺に、俺のことを『勇者殺しの聖剣』で切りつけてきたあの時のあいつの強さを考えると、とてもじゃないが一人でこの『魔王城 魔宮』を守る魔人族たちの相手が出来るとは思えないのだ。だからこそ。この作戦が失敗するというリスクを考えて、他の魔人たちには、自分たちの種族の中で一番強い存在だけを選別してもらっているので。おそらく大丈夫であろう。それに、『魔獣化』させた、他の『悪魔種』たちや、『竜人種』たちの中にも、強いやつらがいるみたいなので問題ないと思うのだ。それにもしも万が一この作戦が失敗した場合のために。『覇王』として俺は、自分が作り出した、『魔国』に住む者たちを守るために、『魔国 魔帝』としてこの国に住まう民を守っている『覇王様親衛隊』たちも『覇王直属兵団』を呼び寄せているのだ。

そして俺の計画は着々と進み始めるのであった。

「ふむっ。それで、一体私に何の用なのだ?」『魔国』の中でもかなり力のある者が集うこの場所。『魔国 魔殿』に俺は足を踏み入れたのだが、俺はそこで、『魔将』と呼ばれる魔族のトップの者たちに会うことになった。俺に何か用があるみたいで、わざわざ俺に会いに来てくれたようだったのだが。その前に『覇王』のことをよく知っているみたいだったから俺の正体がばれるのを避けるために一応は偽名を使っておくことにしようと思ったのだ。(『覇王』のことを知らなければ本名を名乗っても良いんだけどな。まあ仕方がないな)

俺はそう思ったのでとりあえず俺は『魔国 魔帝』と名乗った。するとその場には驚きが隠せないほどの衝撃が走っていたのだ。どうやら『魔国 魔皇』ではなく『魔国 魔帝』と名乗る存在は過去にも存在したことがないほど強大な存在らしい。

俺としては、ただ名前が似ているだけだと思っていたのにそうではなかったらしく。どうやら『覇王』が、『魔国』を支配しているということはこの国の歴史に残る出来事らしいのだ。そのせいで俺はこの国の支配者と間違われてしまうことになるのであった。俺自身はこの国を支配するつもりは一切ないということも伝えたはずなのに、俺のことを支配者として祭り上げるような発言までしてきたのである。

(俺は別に『魔国 魔帝』を名乗りたいわけじゃねえよ!勝手に俺の肩書をそんなものにするんじゃねえ!俺はそんなことを言い出した、こいつらに向かってそう言ってやったんだが。まったく聞く耳を持ちやがらない。どうすれば良いんだよ)

「お前たちは何を勘違いしているのか知らないがな。そもそもこの国は俺の支配下には無いし。この俺にはこの世界を征服しようという気はないから。もし仮に俺を崇め奉るような行為をしたら殺すぞ」

「わっ分かった。あなたは我らの国を支配したりなどしないと約束をしてくれた。それならばもうあなたのことをこの国で崇拝しようとする馬鹿な真似をしようとは思わないので、安心してくれていいですよ」

『覇王』様を怒らせてしまうと自分たちが死んでしまうことになるのが分かっているのか、その『魔国 魔帝の』部下は、怯えながらもなんとか、俺に対して忠誠を誓うことを誓ったのだ。そして俺はその後。その者たちを連れて魔国の城へと戻るのであった。

それから俺はその者達を引き連れて、『魔国 魔宮』に戻り、これからこの魔族たちを束ねる者として君臨することにしたのである。

その者たちは『魔族四天王』と呼ばれていた。まずこの四人は全員が全員この『魔帝国』の中でも相当に高い魔力を持っていたので俺は彼らと、契約を結び、彼らの配下になったのである。彼らは俺のことを完全に『覇王』として扱おうとしていたのだが。それを必死に拒否していた。

なぜなら『魔帝』というのは俺にとってそれほど興味が惹かれることではないからだ。それよりも、今はこの国の王としての役割を果たすことに集中したかったのだ。

俺は、この世界の人間の王と話をしなければいけないと思っている。なぜならば『勇者』たちがこの世界を救える可能性が出てきたので、このまま放っておけば『勇者』とこの世界に召喚された人間たちと、魔族による戦いが始まる可能性が高いと考えたからである。

(だから、この世界に召喚されてしまった人間は殺さないといけない。だが、問題は、人間たちにも魔人族と同等の力を持たせることが俺にできるかどうかである)

人間と魔人の戦争。その争いに巻き込まれるのは俺にとっては都合が悪いのだ。だがしかし、俺一人の力ですべての人間が『勇者』になることができるとは思っていないのである。俺の力だけでは到底無理なことであると、理解していた。

(だから俺は『覇国』を作る。魔人以外の種族でも、俺たちに協力をしてもらえるなら『英雄神 勇者』に作り出すことのできる力を身に着けさせることも可能だと思う)

それから俺は『魔王』との戦いに備えながら、『勇者』との戦いの準備をするべく行動を始めることにしたのであった。もちろん、俺の味方に付けようとしている者たちを、『覇国』に連れてくるためにだ。

(この世界の人間たちと戦うことになる前に仲間にしておかなければならない。そのために、俺はこの世界にやって来たんだ)俺の仲間にする基準はただ一つ。それはその者が、この世界の人間たちよりも圧倒的に強くなければいけない。だからこそ俺はこの国の人間たちでこの国のトップに立つ者を集めたのである。『魔国 魔皇』が認めたこの国の強者である者の中から選ぼうと考えていたのだ。だがそんな時俺に話しかけてくる者がいた。

それはあの『魔将』の一人で『魔帝』と話をしていた時に一番最初に声をあげていた男だったのだ。その男はなぜかこの俺の目の前にいる。この俺にいきなり挑戦をしかけてきそうな感じだったのだ。

そしてそいつも他の『魔将』と同じように。『勇者』の力を封印するために作った武器を所持しており、俺が持っているものと同等レベルだった。そしてそいつも『魔国』のトップクラスの力を持つ魔人だったのだ。

そいつの名前は『鬼魔将軍 魔王殺し』。俺はその男に、自分の力で『魔王殺しの聖剣』の力に勝てれば。俺はその男の望み通り、『勇者』の力を与え、仲間になろうではないかという、条件を提示した。するとそいつもあっさりとその提案を受け入れたのだ。だが、その男が俺を簡単に認めることはしないと思った。俺にはそれが分かってしまったのだ。

(やっぱりこいつは『勇者』と同じタイプのやつだ。自分こそが一番優れていると信じて疑わないタイプだ。だからこそこんな舐めた真似をしている。こいつの態度を見ていれば俺にもこいつが俺より格上だということが分かるくらいには実力差があるはずだが。俺はまだ全力で戦うことはできない。俺もこいつも『魔王殺しの聖剣』を使っているからこそわかるのだが。『聖国』にいた『魔王 勇者』とは強さのレベルがまるで違うんだ)

「おいお前名前はなんと言うんだ?お前の実力が俺と対等なのか知りたくなっちまったんだよ。ほらかかってこいよ。俺に勝つことができたのならば、俺はお前を本当の『魔将』に迎え入れようと約束してやるよ。まあ俺に勝てるはずもないんだけどな!」

(ふふ、そうだろ。この挑発に乗るしかないよな。俺がこの世界で一番『勇者』と『聖女』と戦わせて欲しいのになぁ。他の『魔将』は俺に負けちゃったら恥ずかしくて『勇者』と戦いにいけないかもしれないもんな)

スウーッ ギロッ 俺は『魔眼 魔の極み』を発動した。すると、その瞳には相手の力が数値化されて見えているのだ。俺はそれを見ている限り、『魔将』たちの中でも、特に力が強いやつを、選別することができた。

俺はそれから『覇国 覇王 七将』の皆に命令を出し、『魔国 魔帝 覇皇』の直属軍、その中でも精鋭だけを選別し、『魔帝』の部下たちの中に、組み込ませた。そしてそれ以外の者は俺が集めた、信頼できる仲間たちのところに行くように言って、俺はその直属兵に守られつつ、『魔帝』の元へと戻ったのである。

そして俺の目の前に、魔族の頂点の者たちが揃うことになった。そこで俺は『魔国 魔帝』として、『覇国 覇王』としての責務を全うする決意を固める。

その日。『魔国 魔帝 覇皇』の新たなる伝説の始まりを告げる儀式が行われたのだった。

「はあっ、はあっ、はあっ」

(やばい。なんだこれ?どうして急にこの俺の身体がおかしくなったんだ?)

俺に今起こっている状況は非常にマズいことになっていたのだ。

「ふむっ。まさかこの私に攻撃を仕掛けるとはな」

俺は『魔帝』に向かって、その攻撃を行おうと思った瞬間、俺はこの身体の異常なまでの力の上昇と暴走をし始めたことに気がついたのである。そしてその攻撃を無意識のうちに俺はしてしまったようであった。その結果、『覇国 覇王 七将』が守るこの場所に張られている結界が破壊されてしまったのだ。俺はそのことについて『魔国魔帝』に向かって謝ることにした。

しかし『魔帝』はその俺の行動に対して逆に褒めてくれるのである。俺の力を測りたいと思ってあえて攻撃を受けたみたいだったのだ。『魔帝』からすれば俺はまだ弱い存在らしいのだ。

(『魔国 魔帝』と『魔国 魔臣』を倒せていない時点で俺の今の実力ではまだまだということが伝わってくるよな。だけどこの力はどうなっているんだろう。俺は確かにこの男を殺すつもりで放ったんだ。それを受け止めることもせずになぜ無傷なんだ?それにさっきの感覚はなんだ。俺に何かが起こったような気がする。だがそれが一体何が原因かはわからない。)

「あなた様のお名前をもう一度教えてはくれませんでしょうか?」『魔帝国 魔帝の名を持つ者 魔将 第一魔将』

「名前だと?それならさっき自分で言っていたじゃないか」

(何を言っているんだろうか?この男は。)

「いえ、そうではありません。私が尋ねているのは『あなた様がどの様な御方であるか?』についてであります」

「はっ?」

「私はあなたの力を見て。この方は私たち『四将』を超える存在であると感じています。そしてそんなあなたのお名前を知りたいというのは至極当然のことだと思いまして。申し訳ございませんでした」

『魔国 魔皇帝 覇王の力を持つ者 魔族四将 魔皇 第四魔将』

「えっと、まあ良いけど。俺は『魔王殺しの聖剣』の所有者で、『覇国 覇王 覇王』と呼ばれている存在だ。よろしく頼む」

俺はこの時まだ自分の状態の変化に気づくことができなかったのであった。

(俺はこの国にいる者たちは全員殺さなければならない。『魔王殺しの聖剣』を持っている『勇者』たちはこの世界の敵だからである。だがしかし、俺がこの国の民を殺さないためにも、この国の王と話をする必要があると思っている。俺の考えは正しいはずだと今でも思っているが。俺のこの国の王に会おうとする行為も、ただ単に話をしたいからだけではない。もしこの国の王が俺たちのことを敵対視してきた場合のことも考えなければいけないからだ。この国は俺のことを歓迎しないだろうと思うが。だからこの国に少しでも協力的になるように俺が説得しなければならないと考えている)

俺はこの国の人間たちと戦うためにも、そして俺の配下になる『勇者』たちを『英雄神 創造の神人』の力を手に入れることができるようにするためにはどうしても『魔国 魔帝』を倒すことが絶対条件だったのだ。

(『勇者』たちが『魔国 魔皇帝』の持っている『魔王殺しの聖剣』に勝てればその力を吸収できる可能性があるんだ)

そして俺の前にいる、『魔国 魔皇帝』という最強の魔人族はその見た目からは想像できないほどの強さを持っていた。俺はこの世界の人間は強いものしかいないんじゃないかと思い始めたのだ。

(これは流石に想定外だったな。だがしかし、だからこそやりがいがあるというものだろう。『覇国 覇皇』の力を見せ付けてやればきっと俺の言葉を信じてくれるはず。だがまずはこの場を切り抜けなければ)

「この『覇国 覇皇』にお前のような者が傷をつけられるなんて思いもしなかったぞ。お前がこの世界の人間たちの中で一番強いのは分かった。俺のこの剣は『魔王殺しの聖剣』。『勇者』だけがこの剣の本来の力を解放させることができるのだが。その俺が本気になっていない状態でも、この『魔国 魔皇』お前は防げなかったわけだが。これでお前がどれだけ弱かったのかが分かるよな。お前がこの俺より格上であることを認めることはできるが。それでも俺とお前の差はそれほどないと言っていい。そんな格下を相手にこの国の王と話ができるように取り計らってやるつもりはないが。お前はどう思う?」

スウッ ババッ グサッ ドスッ ガクリッ ビクン

(よしっ!)

「なっ、この私を殺した!?な、なぜそのような行動に、わ、わたしの身体はいったいどうして。あ、ああああぁぁぁあ)

ボトッ

(俺は自分の目の前にいる男が俺に襲いかかってきたため、即座に自分の『覇王の紋章』を発動してその攻撃を防いだ後、『魔皇の首飾り』で、男を拘束し。男の身体の中に魔力を通して心臓を止めたのだった。男の身体の中には既に俺から放たれた攻撃のダメージが入ってしまっており男の体もボロボロになってしまっていたようだが俺の攻撃をその身に受けると、その男の身体も、俺の目の前の男と同じように壊れていくようになってしまった)

ドサッ

(そして俺は目の前で絶命している男の死体と、『魔帝』が持っていた聖剣を回収してその場から消え去ったのだった)

「お前たちは『魔王軍 四魔将軍』の二人を倒してきたみたいだが。あの二人の力は既に知っている。あの二人が負けるような相手にお前らが本当に倒せたのかどうかは怪しいところだよな。それにお前らの『魔王軍』を束ねていた魔族の男と『魔王 勇者』を倒したとか言っているようだったが、そんな奴が本当に存在していたのかどうか。俺はその言葉を聞いたことがないんだ。そんな嘘をつくようなやつにこの魔帝は任せられねえな」

ギロッ

「はっ、いやそれは。」

ゴクッ「まぁまぁ、落ち着け。そのくらいにしとけ。確かにお前の言うとおり、魔族の頂点に立つ『魔帝』である『覇国 覇王 覇皇』と『聖国 聖王 セイクリッド アーサー』がやられてしまったというのは少し問題があるかもしれないが、この少年が言っていることを、嘘だという根拠はないし。『魔帝』のこの私の命を狙って来たという事実には変わりはない。だからこの少年にはそれなりの罰を与えてもいいのではないかと思っている」

ニヤリ

「『魔帝』がそこまで仰るのであれば、俺はそれで構いませんが」

スゥー シュパッ グサァア ブシャアアッ

(ふぅ〜、やっと殺ることができた。さすがは魔帝の側近中の筆頭、そしてこの魔帝国で最強の『四将』である魔帝を守る『魔将』の一人。今までは隙がなく中々手を出すことができなかったが、今回は運良く隙を見せることができたからこそ、こうして殺すことに成功した。それにしてもまさかここまで強い存在だとは思わなかったが。でもまあいいか、こいつのおかげでこの国が滅ぶきっかけが作れそうだしな)

『魔王城』

『魔帝』と側近の男たちとの戦いが今、始まったのだった。

「なっ、なんだこの化け物は」

「ばっ、馬鹿な」

ザザァ スウー

(さてさて、どうなるかな?こいつはなかなかに強いから、俺が全力を出し切っても、ギリギリ生き残れるかもしれないんだよなぁ。まぁ『覇国 覇王 覇王の力を使うまでもなく倒せる相手だろうけどね)

『我の力を望むものは誰じゃ』

よしっ、『四魔神 魔神召喚』!!(『創造神人』、『英雄神 創造の神人』!!)

(おっ、なんか『創造神人』が出てきたな。そういえば前に『英雄神 創造の神人』と話をしていたときに、『魔王殺しの聖剣 魔帝 魔皇 四将 魔王』という男の存在を確認していたんだが、その魔皇帝を倒すために俺に力を貸して欲しいという『創造神人』に、この世界を救うためならいくらでも良いだろうと承諾をしたら、この『魔帝』の魂を喰らいたいと言い出したんだよね。『創造神人』が俺の頼みを聞いてくれているみたいだし、せっかくの機会だと思って俺もこの魔皇帝の肉体を乗っ取ることにしてみた)

【称号 魔王殺し スキル『支配』『王の支配』『龍の覇王 龍神の波動』を獲得しました】

『我を呼び出すとは良い度胸をしておるようじゃのぉ。この魔皇帝が相手になることを光栄と思うがよい』

(おおっ、さっき『四魔将』の『魔帝 魔将 四将』と戦っている時もそうだったんだけど。この『創造神人』もやっぱり俺の声が聞こえるんだな。まあ当然といえば当然なのか。それどころか。魔帝たちと戦った時の戦闘も俺には全て筒抜けだったから、俺の強さもバレちゃってるのだろうけど。この程度の強さで魔帝国の『四将』の魔帝に挑もうとしていたと思われていてもおかしくはない状況だもんな)

「き、貴様は何者だ!その圧倒的な力に溢れ出るオーラは只者ではない。その力は『覇国 覇王』の力か!」

『魔皇 覇王の力だ。それなのに、なぜお前が『魔王殺しの聖剣 魔帝 魔皇 四将 魔王』の力を知っているのか。この俺も驚いたよ』

『この者の持つ力はこの『魔帝』よりも強い力を宿している。その者の力は我が全て頂こうとしよう』

『はっ?』

『覇王 覇王 その者を喰らえ』

(はっ?)

『ははは、良いぞ良いぞ。この力この身に取り込んでくれるわ。『覇王 神人』は我が完全に飲み込んだ』

ドサッ(えっと、なんですかこれは。一体どういうことですかね。いきなり『創造神人』が俺の前に現れたと思ったら。俺に力を譲渡してくれるみたいなこと言ってきて、『魔帝 魔皇 四将 魔王』の魂を吸収したんですけど。いや、そもそも俺は『魔王』を殺して、この『魔国 魔皇』という『魔皇帝』という魔人を倒してその力を奪おうとしているわけだから。別に『創造神人』に力を渡される理由がないはず。だが俺の考えは間違っていたようで、そのあとすぐに、『覇国 覇王 覇王』の力を奪われてしまったのであった)

「ははは、これで『覇王 覇王 魔帝』の力は俺のものになった。そしてこの俺が新たに得た能力はやはりこの『魔帝』を殺すために使うことにするか」

「何言ってんのかわかんねぇが、俺たち四人は最強。魔帝もお前には負けていない。魔帝の本当の力を見せてやるぜ」

ドクン ゴクッ ドスンッ グシャァッ

(『創造主 創造の主』

能力:全ての生物を作り出すことができる)

「この姿は。これが俺の真の姿。これこそが、お前たちを始末するための力。この俺の新しい身体はお前らを一瞬にして塵に変えるほどの力を持つ」

ドサッ

(ふむふむ。俺の新たな身体は確かにかなり強いな。それにしてもこれ程まで強力な力をこの世界の人間に与えてしまうことになるなんて思ってなかった。ただの人間を簡単にこの世界に来れてしまうようになってしまっているのが少し心配になってきたが、この男と、あの『聖女 勇者 セイクリッド 聖王 アーサー』とかいう男さえどうにかすることができれば俺の役目は終わったも同然だしな。この男もあの男の関係者であるのならば俺の力で殺すこともできるだろう。だがその力を奪うことができないほどにこの男は強すぎるようだ。この男の身体を貰うことはできないみたいだが。それでも俺はこの男の力を手にすることができた)

「さて、どうした?この魔皇帝である俺が本気を出せばお前たちに勝ち目がないことは明白だと思うが。このまま何もせずに殺されるつもりなのであろう?」

「ははは、ふざけた野郎だ。そんな言葉信じる奴がいると思ってんのかよ」

ギロリ

(この者たちはまだこの魔帝国のことをなにも知らないようじゃの

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『勇者』として異世界に召喚されたが俺だけハズレ職業だったので無難な生活を目指す。 あずま悠紀 @berute00

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