第三十九話 信じ合うために

 僕たちは中央王国セントラルーネ、その中継地点にある砂と魔法の街カタブラルーネに向けて歩いていく。


 「次の街カタブラルーネまでどのくらいあるかな?」


 「うーん、まだまだあるよ。いくつか村を経由して、砂漠を越えた先にあるから」


 フィオーレはそう言う。


 「ふむふむ、まだまだ先は長いね」


 「うん、だから無理せず行きましょう」


 「私は全然大丈夫だけどね!」


 エゼルは元気そうにそう言う。どうやら元気を取り戻してくれたようだ。


 「どうしたのよノゾム? 私のほうを見て……」


 エゼルが聞いてくる。


 「うん? ああ、なんでもないよ」


 「さあ! もっと前に進むわよ!」


 ずんずんと進んでいくエゼル。あとで疲れたとか言わなければいいけど。


 「ノゾムさん、わたくしたちも元気に行きますわよ!」


 アンナも元気になったようだ……よかった……


 「あ、そうだ。誰かあとで剣と魔法の修行に付き合ってくれないかな?」


 「いいわよ。お昼を食べ終わったらちょっと練習しましょう」


 「ボクたちも付き合うよ」


 ローゼたちもそう言ってくれる。


 「ありがとう」


 強くなると決めたのだ……どうしても練習しなければならなかった。


 「それとノゾム」


 フィオーレが話しかけてくる。


 「どうしたのフィオーレ?」


 「夜に一緒に見張りでしょ? 話したいことがあるの」


 「え、うん。分かった」


 「お、おおっおお姉様!? わたくしというものがありながら!!!! わたくしというものがありながら!! わたくしというものがありながらノゾムさんと夜の見張りをするなんて……!!」


 「どういうことよ!!」


 アンナは相変わらずだな……

 しかし、いったいフィオーレの話とは何なのだろうか……気になるところだ……



 僕たちはお昼ご飯を食べてから剣と魔法の修行をした。


 「うぅん……やっぱり魔法は使えないや……」


 「なかなか魔法が使えるようになりませんわね……」


 なぜだろうか。なぜ魔法が使えないのだろうか。

 龍と戦った時は精霊様に力を借りたとはいえ、たしかに魔法を使っていた。

 だが今は魔法など何も使えない……コツをつかんだと思ったんだけど。


 「なぜでしょうか……」


 「分からないよ……」


 「まあ、私も魔法使えないし! 大丈夫よ!」


 フィオーレは満面の笑みでそう言う。


 フィオーレ、それはフィオーレがゴリラだからなんじゃないかな……と思ったが口には出さずにいた。


 「ん? 何かいま変なこと考えてなかった?」


 フィオーレは笑顔で聞いてくる。


 「え!? う、ううん、別に何も!」


 最近のフィオーレは僕の心でも見透かしているのかと思うくらいゴリラという言葉に敏感である。気をつけなければ……

 そういえばエゼルやローゼ、ヒィナも魔法は使えるのだろうか?


 「エゼルたちも魔法って使えるの?」


 僕はみんなに聞いてみる。


 「私はちょっとだけ使えるわよ。でも実戦で使うことができるほどじゃないわ」


 エゼルはそう言う。


 「ボクもかな。王国で勉強してきたけど、実戦で使うとなると話は別かな」


 ローゼも魔法はあまり使えないようである。


 「ヒィナも」


 「そっかぁ、やっぱり魔法って難しい技術なんだね」


 「そうですわね、魔法を操るのはかなり難しいですから」


 アンナはそう言う。


 「僕が魔法が使えるようになったとして、実戦で使えるかな?」


 「正直、いまの感じだと難しいかもしれないですわね……」


 「そうかぁ……」


 残念である。というか魔法は使えないとこの先まずいと思っている。

 というのも魔獣や魔物は魔法攻撃に弱いと聞いている。いまのところ戦力になれていない僕としては魔法は習得したい技術であった。


 「うーん、練習あるのみかな……」


 「そうですわね、気長に練習あるのみですわ」


 そう言って僕たちは練習を切り上げた。


 修行が終わればまた歩き出す。

 途中で魔物が出てくることもあったが、その度に倒して前に進んでいく。

 オークやゴブリンのほかにもウサギのような魔獣なども出て、僕もなんとかそれらと戦った。

 僕もなんとかそれらと戦っていく。それにしてもオークは怖い。ゴブリンも剣とか槍とか持ってるし。



 歩き続けるといつしか夜になった。みんなで眠るための準備をする。

 最初の見張りはローゼとアンナだ。

 僕は疲れてすぐに眠ってしまった。


 そしてしばらくすると見張りの交代で起こされた。


 「もう時間かあ……」


 「ああ、疲れてるところ悪いけど交代の時間だ」


 「うん、大丈夫だよ」


 「それじゃあノゾム、フィオーレ、次の見張りを頼むよ」


 後ろからアンナがやってくる。


 「わたくしもお姉様と夜の見張りをしたかったのに……」


 「はいもう寝るからね、おやすみノゾム、フィオーレ」


 「お姉様ぁぁぁぁおやすみなさいませぇぇぇぇ!! ノゾムさんもおやすみなさいませぇぇぇぇ!!」


 ローゼに引きずられていくアンナ……僕たちは二人と見張りを交代した。

 エゼルとヒィナは寝ているので起こさないように気をつけて起きていく。


 僕とフィオーレは焚き火の近くに座る。


 「……」


 「フィオーレ、話があるって言ってたけど」


 「うん、それなんだけど」


 フィオーレは話しはじめる。


 「ありがとうノゾム、その、これからも一緒に戦ってくれるんでしょ?」


 「ずっと前からそのつもりだったよ」


 「でも今回のことで、もっとちゃんと向き合ってくれたよね。それが嬉しかったの」


 フィオーレは膝に顔をうずめながら話しを続ける。


 「私ね、本当の意味でみんなを信用できてなかったのかな……そんなつもりはなかったんだけど、もしかしたら自分だけしか信じられてなかったのかもしれない」


 「フィオーレ……」


 「他の人たちは私みたいに戦えないから……守らなきゃいけないから……だから私一人で背負うしかないと心のどこかで思っていたのかもしれない……」


 「……」


 そうかもしれない……戦いは常にフィオーレたち強いメンバーが率先して戦っていた。もちろん僕やヒィナのように戦いが得意でないメンバーもいるのでそう考えてしまっていてもおかしな話ではない。


 「だから今回も一人で背負い込んでしまいそうだったの……でもノゾムが一緒に戦ってくれるって言ってくれたから、もっとみんなを信じていいんだって、そう思えるようになったの」


 「うん……」


 「だから……だからね、私はノゾムにちゃんと私の話をしたいなって思ったの……」


 「フィオーレの話……?」


 「うん、またあとでみんなにも話すけど、最初にノゾムに聞いてもらいたいって思ったの……」


 「僕に?」


 「うん……私、ノゾムのこと信じてるから……」


 いったいどんな話をするのだろう……


 フィオーレはどこからかペンダントを取り出した。ピンクの花の形をした可愛らしいペンダントだ。


 「これね、私の大切なものなの……」


 「大切なもの……」


 「これからノゾムには私の過去をちゃんと話すわ……だから聞いてもらいたいの……」


 フィオーレの過去……いままでフィオーレは何かを隠していた。それを話してくれるという決心がついたのだろうか。


 「いいのフィオーレ?」


 「ええ……もっとみんなと信じ合うために、私も隠し事なんてしないわ」


 「そっか……」


 「大丈夫、私はみんなと一緒に魔王を倒すんだから……」


 フィオーレは自分に言い聞かせるようにペンダントを握りしめて言う。


 「神父様……シスター……みんな…………私、前に進むよ……」


 フィオーレはペンダントを握りながら、澄み渡る星空を見上げる。


 「私ね……」


 そして静かに自分の過去を話しはじめた……


 僕は知ることになる……


 フィオーレの隠された過去を……


 フィオーレの身に起きた惨劇を……


 つらいことかもしれない、だがフィオーレは頑張って過去の話をする……


 僕はそれを静かに聞いていた……


 フィオーレが前に進んでいくために……


 そしてみんなと信じ合うために……

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