第三十四話 そう決めたんだ
漆黒の龍は街への無差別攻撃を再開する!
「やめなさいッ!! これ以上……これ以上この街を攻撃しないで!!」
フィオーレが叫ぶ。
「ダメだね!! お前が悪いのだ!! お前がこの俺を怒らせたのが悪いのだ!!」
炎に包まれる街……泣き叫び、逃げ惑う人々……
「ごめん……みんな……また私のせいで……」
屋根の上で街の惨劇を見ながらフィオーレは何かをつぶやいている……
「フィオーレ……?」
そう思ってフィオーレを見ていると、僕のほうに瓦礫が飛んできているのに気づいた!!
龍が暴れた際に建物を攻撃したのだ! その瓦礫は勢いよくこちらに飛んできている!!
「しまった!!!!」
僕は反射的に目を瞑ってしまう。このままでは瓦礫が直撃する!!
「……」
しかしいつまで経っても瓦礫が僕に当たらない。普通なら死んでいてもおかしくはない……僕はおそるおそる目を開ける。
すると、そこには瓦礫を受け止めたフィオーレがいた。僕の目の前で片手で瓦礫を受け止めている。
あの屋根の上から飛んでくる瓦礫よりも速く移動してこの瓦礫を止めたのか!?
「許さない……ッ!!」
フィオーレはそう言うとさらに怖い顔になった。その眼光は鋭く、冷たく、龍をにらみつけている。
そしてフィオーレは高速で飛び上がり、龍へと接近する!!
「はああああああッッッッ!!!!」
バコォォォォォンンンン!!!!
フィオーレは龍の顔を殴る!!
「ぐおおおおおおッッ!!!!」
渾身の一撃を食らった龍は大きくのけ反る!!
「はああああああああッッ!!!!」
ダダダダダダダダッッ!!!! と連続でパンチとキックを繰り出し、超高速で攻撃を繰り返す。
下に落下すればすぐに飛び上がり、まだまだ龍を攻撃する!!
「なっ、なんだこの攻撃は!! や、やめろぉぉぉぉ!!!!」
龍は叫ぶ!
「はああああああッッ!!!!」
ズドォォォォォォォォンンンン!!!!
そして渾身の一撃が龍の顔面に入る!!
「ぐるしゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
龍のその巨体は街へと落下し、地面へと叩きつけられる!!
建物は崩れ、人々は恐怖する。
「ぐはっ!! ご、ごふっ!! こ、この化け物が!!!!」
龍は地面に横たわりながらそう言う。
崩壊した建物の上から龍を見下ろすフィオーレ……炎が赤く照らす暗闇の中に立っているのはいつものフィオーレではない……儚さと冷たさを放つ化け物……
「フィオーレ……」
「もう許さない……」
冷たく見下ろすその眼光からはとてつもない殺気を感じる……
「フィオーレ……もうやめてくれ……」
僕はフィオーレを見ながらそうつぶやく……
「ふっふっふっ!!!! はああああああああはっはっはっはっはっはっ!!!!」
龍は大笑いする。
「……何がおかしいの?」
フィオーレは龍に問いかける。
「見ろ!! この有様を!! お前が俺を地面にたたき落としたせいで街の住人たちが下敷きになっているぞ!!」
そう、フィオーレが龍をたたき落としたことによって街は崩壊し、龍の下敷きになった人や、崩落した建物で怪我をした人、さらにパニックになり逃げ惑っている人がいるのだ!
「お前が悪いのだ!! お前がこの人間どもを殺したのだ!!」
「そ、そんな……」
「そして小娘、お前を見た人間どもはお前のことをなんて呼んでいると思う?」
「え……?」
「バケモノ、だ」
あたりを見回し、声に耳を澄ませる。
「化け物だ!! 龍と化け物が戦ってる!!」
「あんなの人間じゃねえ!! みんな逃げろ!!」
「あいつが!! あの化け物が私の恋人を殺したのよ!!」
「化け物のせいで人が死んだ!!」
そんな声が聞こえてくる……
「……ッ!!」
僕を攻撃されたことで怒っていたフィオーレだったが、これらの言葉を聞いて我に返ったようだ。
「お前がやったのだ!! お前が殺したのだ!! 小娘!! お前は俺以上の化け物なのだ!! お前は勇者などではない!! この街の破壊者なのだ!!」
「そ、そんな……ッ!! 私のせいで……ッ!!」
「フィオーレ!! 耳を貸すな!!」
「お前が悪い!! お前はきっと昔からそうだったのだ!! その力のせいで大切なものを全て壊してきたのだ!!」
「やめろぉぉ!! フィオーレにそんなこと言うなぁぁ!!」
僕は龍に向かって叫ぶ。
「わ、私は……私のせいで……また……こんなことに……」
「どうする小娘、まだ俺に攻撃を続けるか? 俺はお前に攻撃されれば、わざと転げまわるぞ? そうすれば、建物という建物は壊れ、人々は下敷きになり、そして被害はもっと広がる!」
「そ、そんな……」
「お前が攻撃して被害が広がれば、もっとこの街は悲惨な状態になる。お前の罪はどんどん重くなるのだ!! はああああああああはっはっはっはっはっはっ!!!!」
龍は笑いながら言う。
「いいんだぞ? 攻撃してみろ、この俺に! さあ!! その化け物と呼ばれるその力で、俺を攻撃してみろ!! もっとたくさんの人間どもをその手で殺すのだ!!」
「やめろぉぉぉぉ!!!!」
僕は龍に向かって叫ぶ。
膝から崩れ落ち絶望するフィオーレ……その顔からは血の気が引き、その目はどこか虚空を見つめている。
僕は恐怖でふらつく足を前に出し、フィオーレのいる場所まで行く。
「やめて……来ないでノゾム!! 私のせいで……私のせいでノゾムまで怪我をしてしまう……」
フィオーレは僕にそう言う。
フィオーレがどんな秘密を持っているのか、どんな過去を持っているのか、そんなこと知らない……だけど、僕の知っているフィオーレは……優しくて、明るくて……人間の普通の女の子だ……決して化け物なんかじゃない!!
僕はフィオーレのいる場所にたどり着き、フィオーレを抱きしめる。
「やめろやめろやめろぉぉぉぉ!!!! フィオーレは化け物なんかじゃない!! フィオーレは普通の女の子なんだ!!!!」
僕はフィオーレを抱きしめながら叫ぶ。
「ノゾム……?」
「フィオーレがどんな秘密を持っているかなんて知らない!! だけど!! 明るくて!! 優しくて!! どんな時も笑顔で!! 化け物なんかじゃないんだ!! ゴリラでもない!! 人殺しでもない!! 普通の女の子なんだよぉぉ!!」
なぜだろう……なぜか分からないが僕の目からは涙が溢れてきた……
「僕がもっと強くなるから!! フィオーレだけに罪を背負わせないから!! 僕も一緒に戦うから!! だからこれ以上、フィオーレだけに全てを背負わせるのはやめてくれぇぇ!!」
「ノゾム……ッ」
フィオーレもなぜか泣き始める……
「ふん、友情ごっこか……つまらん」
龍は冷たく言い放つ。
「僕も肩を並べて戦うから……だから……」
僕はフィオーレを抱きしめる。その小さな肩に、その小さな背中に、どれだけの想いを背負ってきたのだろう……どれだけの責任を背負ってきたのだろう……どれだけの罪を背負ってきたのだろう……
勇者だから……救世主だから……強大な力を持っているから……それがどれほどの重圧か、僕には分からない……
だけど、決めたんだ……フィオーレと一緒に戦う……フィオーレが背負っているものを、僕も一緒に背負うって……そう決めたんだ……
肩を並べてフィオーレと一緒に戦う……いつの日か、じゃない……今なんだ……
「僕も一緒に戦うから……大丈夫だよ……」
僕がそう言うとどこからか声が聞こえてくる。
「私が力を貸しましょう」
その声はどこかで聞いたことがあるような気がした。
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