第三十五話 邪龍をぶった斬る

 どこからか謎の声が聞こえてきた。その声はどこかで聞いたことがあるような気がした。


 「誰……誰なの?」


 「ノゾム……誰と話しているの……?」


 フィオーレには聞こえていないのか……?


 「……あなたに力を貸します。どうかこの街を守ってください」


 すると、向こうのほうから青い光が僕たちのほうに向かって飛んできているのが見える。


 「なんだ! 攻撃か!」


 しかし、その光はなんらかの攻撃という感じはしない。優しい光だ……青色の淡い優しい光……


 光は僕たちのところまで来ると、僕の胸の前まで来る。そして僕の胸の中に入っていくように消えていく……


 「私は水の精霊……私の声が聞こえる者よ……私の力を使って戦ってください……」


 「水の精霊様……?」


 「ノゾム……今の光は……?」


 「ノゾムさん、とおっしゃるのですね。ノゾムさんがなぜ私と会話することができるのかは分かりませんが……よろしくお願いしますね」


 「なぜ僕に力を貸してくれるんだ? 目的はなんだ? なぜ自分で戦わない?」


 「おい小僧、さっきから誰としゃべっているんだ? ついに恐怖でおかしくなったか?」


 龍が口を挟んでくる。


 「あの龍には私だけの力では勝つことができません。私はこの街が大好きなのです。この街を守るために私と協力してほしいのです」


 「……分かった、僕はどうすればいい?」


 「私が力を貸しますので、あなたは魔法を使ってください。水の精霊魔法を使うのです」


 「精霊魔法……」


 精霊魔法を使える者はアンナですら見たことがないという。それだけすごい魔法なのに僕に操れるのだろうか……僕は魔法なんて使えたことないのに……


 「大丈夫です。私とともに戦いましょう」


 「分かった、いくよ」


 「ノゾム……」


 「フィオーレ……僕が一緒に戦う……だから、もう大丈夫だよ」


 僕はフィオーレに言う。


 「小僧、お前に何ができる……俺はお前らから興味が失せた。何もしてこないのなら街を焼き払うまでよ」


 龍は再び空へと舞い上がる。


 「まずはお前らを焼いてやろう!」


 そして炎を吐いてくる!


 「ノゾム……ッ!!」


 僕はフィオーレの前に出て剣を構える。


 「最上級水属性魔法だ、上手くいってくれ……!!」


 僕の剣からは美しい幻想的な青い光が出始める。そしてその光から青い水が出始める。水のしぶきなどは虹色に輝いている。


 「水の精霊魔法……ウォタカミ……一刀両断ッ!! スプラッシュ斬り!!」


 僕は炎を一刀両断するように剣を振り下ろす!


 すると、炎は僕たちの前で消え失せる。


 「上手くいった!! 僕にもできるぞ!!」


 「ノゾムいまのは!?」


 「なんだいまのは……封印のせいで魔力感知が上手くできないから分からないが、あの小僧には今まであんな力はなかったはずだ!!」


 龍も驚いている。


 「いまのは精霊魔法だ……水の精霊様が僕に力を貸してくれたんだ……」


 「水の精霊様……?」


 「フィオーレ……これで僕も一緒に戦える……行こう」


 「……分かったわ」


 僕は剣を構える。


 「いまのは何かの間違いだ! もう一度焼いてやる!」


 龍は再び炎を吐いてくる。


 「何度やっても同じだ!」


 僕は水属性最上級魔法ウォタカミを使った斬撃でそれを再びはねのける。


 「くっ……調子に乗るなよ小僧」


 龍は少し動揺しているようだ。


 無理もない、この魔法はアンナや猫先生ですら使えないほどの高度な魔法……それをいきなり連発してくるような奴が現れたのだから驚くはずだ。


 「分かるぞ、その魔法は普通ではない……たしか魔法は俺のような生物に対して大きな影響を与える……その魔法の最上級ともなれば危険だ……当たればタダでは済まないはずだ」


 「なら、ここからお前に当ててやる!!」


 僕は魔法を発動する。


 「ウォタカミ!!」


 僕たちの目の前に光の魔方陣が現れ激しい水流がそこから出てくる。そしてその水流は龍めがけて飛んでいく。


 「くっ、当たってなるものか!」


 龍は身を翻しなんとか避けようとする。


 だが、その巨大な的は当てやすい。龍の体に直撃する!!


 「ぐおおおおおおおお!!!!」


 当たった部位、龍の体の真ん中あたりはそぎ落とされ、龍の真下へと落下していく。


 「くそったれぇぇぇぇ!!!! よくも俺の体をぉぉぉぉ!!!!」


 「もう一度当てる!!」


 僕はウォタカミを連発する!!


 こんな高度な魔法を連発して大丈夫なのかと思うほどすさまじい回数を撃つ。


 「ぐおおおおおおおお!!!! 馬鹿な!! どこに!! どこに、これほどの魔力が!!!!」


 龍の体はボロボロになっていく。


 「くっ!! だがいいのか!! 俺は次に攻撃を当てられたら、わざと落下して転げ回ってやるぞ!! 下にいる人間どもはどうなるかな!!」


 「……ッ!! 卑怯だぞ!!」


 このままではまともに攻撃できない。それに遠距離からウォタカミを当てるだけではあの龍を倒しきることはできないだろう。近距離から精霊魔法の斬撃を当てる必要がある。


 だが僕たちは二人……フィオーレと力を合わせればいけるはずだ!!


 「フィオーレ、僕を背負ってジャンプしてくれないか!! 僕は奴を直接ぶった斬る!!」


 「分かったわ!!」


 そう、近距離から避けられないように斬撃を食らわせれば、そのまま倒すことができるはずだ。まわりへの被害も少ない。


 「やれるものならやってみろ!! 俺はこのあと速攻で逃げるぞ!!」


 そう言いながら龍は炎を吐いてくる!! あの龍、炎の攻撃で足止めしてから逃げるつもりだ!!


 「くっ!! まだ準備が!! もう一度魔法を!!」


 「ノゾム、このままジャンプするわ!!」


 「えっ? なんで僕をお姫様抱っこするの?」


 フィオーレは素早く僕をお姫様抱っこすると、炎を回避しながら龍めがけて空へと飛び上がる!!


 「ヤダ!! 僕、お姫様抱っこされて空を飛んでる!!」


 「ノゾム!! 私はノゾムを龍に向かってぶん投げるわ!! ノゾムは龍を倒して!! 大丈夫、着地は任せてちょうだい!!」


 「え、え? う、うん……なんか思ってたのと違うけど、やってやる!!」


 その後すぐに僕はフィオーレにぶん投げられた!


 「わああああああああ!!!! 風が強いいいい!!!! 怖いいいいいいいい!!!!」


 あまりの風の強さに剣を地面に落としてしまいそうだ!!


 「小僧!! 俺に近づいてこようというのか!!」


 僕は龍と向き合う形になった。


 「魔法を宿した斬撃なら!! お前を倒せる!! 水の精霊魔法……ッ」


 僕は剣を構えながら空を滑空する!!


 「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」


 「ウォタカミ……水龍ぶった斬りッ!!」


 僕の剣から激しい水流が出る!!


 虹色に輝くしぶきをあげる幻想の水を刃にまとわせると、水は巨大な龍のような形になり、爪で攻撃しようとする。


 僕は思いっきり剣を振り下ろす!!


 僕の斬撃は龍の形になり、目の前にいる巨大な龍を剣でぶった斬る!!


 「どぅぅぅぅああああああああ!!!! 体が崩れるうううう!!!!」


 魔法を宿した斬撃はこの邪龍に対してとてもダメージが通る!!


 そしてそれは切れ味の良いナイフが果物をシャッ、と切るかのように、龍の体を真っ二つにしていく!!


 さらに目の前の邪龍は何度も水の龍に爪や牙で攻撃される!!


 「ぐあああああああああ!!!! よくもこのジャファニールをおおおおおお!!!!」


 水龍は大きな口を開けて牙で噛みつき、さらに巨大な爪を振り回す!!


 そのたびに邪龍の体はボロボロと崩れていく!!


 「このくそったれがああああああああああ!!!! よくもおおおおおおおお!!!!」


 「このままぶった斬らせてもらう!!!!」


 僕は剣を龍に突き刺すように構えながら空を滑空する!! 龍の体は魔法の斬撃でボロボロと引き裂かれていく!!


 「うおおおおおおおおおお!!!!」


 「くそがあああああああああ!!!!」


 体が引き裂かれていく邪龍……


 そしてついに龍はボロボロになり、地面へと落下する。


 それと同時に僕も地面へと落下し始める。


 「うわああああああああ!!!! フィオーレ助けてええええ!!!!」


 水の龍は光に戻り消えていく……そして邪龍も体が崩れ、死へと向かっていっていた。


 「くそったれがああああああああ!!!! 完全に封印を解いていれば、こんな雑魚の魔法なんぞに負けることはなかったのにいいいいいい!!!!」


 龍は大きな叫び声を上げる。


 「よくもこのジャファニールをおおおおおおおおおお!!!! だが!! 俺を倒したということはお前らは魔王を倒すチャンスを失ったということ!! お前らはあの炎を持っていないからな!! せいぜいもがき苦しむんだなああああああ!!!! はああああああああはっはっはっはっはっはっ!!!!」


 それが邪龍ジャファニールの最期の言葉だった。


 邪龍は地面へと落下する。


 ドスン、ドスン、と大きな音を立てながら地面に叩きつけられる肉塊……


 龍は見るも無惨な姿になり、死に絶えたのだった……


 「倒した……あの邪悪な龍を……」


 僕は再びジャンプして飛んできたフィオーレに抱きかかえられ、無事に着地する。


 「はあっ……はあっ……倒した……フィオーレと一緒に……」


 僕は膝に手を当て、肩で息をする。フィオーレとともに倒せた……フィオーレと一緒に戦えた……そう思った。被害を少なくできたし、フィオーレだけに全てを背負わせることもせずに済んだ。


 こうして僕とフィオーレは龍を倒すことに成功した。


 しかし、僕はあることが気になっていた。


 「あの炎……あの炎ってなんだ……?」


 僕は龍の最期の台詞に妙な引っかかりを感じていた……


 龍の言っていたあの炎とは何のことだろうか……

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