第三章 中央王国に向けて ~水の都編~
第二十九話 水の都
僕たちはついに水の都マルコーネに到着した。
「ここが水の都マルコーネよ」
フィオーレは振り向きながら僕たちにそう言う。
街には石畳が敷かれていて、街のあちこちには川が流れている。その川の上を小さな船が行き交っている。
人々は移動に船を使い、生活しているようだ。石でできた橋の上から船に向かって手を振る小さな子供の姿も見える。
「私たちもゴンドラに乗りましょう」
そう言い、みんなでゴンドラに乗り込む。船頭さんにお金を渡し、船を動かしてもらう。
「この街を経由して中央王国を目指すわ」
「ふむふむ。じゃあここでは旅の支度をして、それからまた旅立つ感じだね」
「そうね、そして次の街は砂と魔法の街。猫先生の話にもあったカタブラルーネを通るルートよ」
「じゃあ、そこでは古代遺跡に行ってみるんだね」
猫先生によると中央王国に向かう途中にあるカタブラルーネには古代遺跡があり、そこに寄ってみるといいとのことだった。いったいどんなことが待ち受けているのだろうか。
橋の上から母親と思われる女性に抱っこされた子供が船に乗る僕たちを見て笑顔で手を振ってくる。僕たちの船はその橋の下を通る。僕たちもその子供に手を振り返す。
「ここは陽気な街だね。今日は天気もいいし」
ローゼが言う。
「そうだね。街の人たちもみんな笑ってる」
「この街は陽気な人たちが多いと聞くわ。そして水の都以外にも芸術の街とか大聖堂の街とか呼ばれているわ。観光地としても有名ね」
「へえ、色々と有名なものがあるんだね」
「ええ、あっちのほうに大きな聖堂と広場があるそうよ」
フィオーレは指差しながら言う。
「なるほど、準備がちゃんとできたらちょっと見てまわってみるのもいいかもね」
「せっかく来たんですのもの。見てみたいわ」
エゼルもそう言う。
僕たちはゴンドラを降り、船頭さんにお礼を言った後、街を巡る。商店街らしきところに降りたが、色々な店がずらりと横一列に並んでいる。果物や野菜、魚などが売られている。
街は多くの人々が行き交い、活気に満ちている。
「大聖堂はこっちね。広場があるそうよ」
「なるほど。じゃあまずは宿屋に行って、そのあと旅の支度をして、それから行ってみよう」
僕たちは宿屋を目指して歩く。
宿に荷物を置き、買い物をして旅の支度を整える。
そのあと僕たちは聖堂がある広場や商店街を歩いて観光を楽しむのだった。
しばらく歩いて休憩している最中のことだった。
何かに呼ばれるような感覚がしてそちらに向かう。小さな世界樹の街グロウバウムであのお墓参りのクエストを受けた時と同じだ。何かに導かれているのだ。
「どうしたのノゾム?」
フィオーレに聞かれる。
「こっちに何かある」
僕はそう言ってその感覚がするほうへ向かう。
建物の間の細い道、いわゆる路地を通ってその奥へと向かっていく。他の五人も不思議そうにしながら僕に着いてくる。
しばらく路地を歩いていると、いきなり開けた場所に出た。どうやらここは小さな広場のようだ。そして中央には大きな樹が立っていた。
「ここは……」
「見てノゾム、そこに何か書いてあるわよ」
見ると樹の下に石碑があった。そして何かが書いてある。おそらく古代文字だろう。
「ふむ……この地に空より堕ちた龍、眠る」
「龍が眠っている?」
何のことだろうか。
そう思っていると近くにいたおじいさんが驚いた顔でこちらを見ている。
「お前さん、その文字が読めるのか!?」
老人はそう聞いてくる。
「はい、読めますけど」
「だとしたらそれはすごいことだ……そして今のは本当のことかもしれない」
「どういうことですか?」
老人は言う。
「この地にはたしかに龍が封印されたという伝説が残っているんだ……口伝えだから最近の若い子は知らないんだけどね」
「封印された龍の伝説……」
老人は続ける。
「お前さんたちこの街の住人ではないね? 水の精霊様の祠には行ったかい?」
「いえ……さっき聖堂前の広場は歩きましたが……」
「あっちも大事な場所だが、この街には知られざるもう一つの重要な場所がある。それが水の精霊様の祠だ。この街が水の都と呼ばれ、水とともに生活しているのは水の精霊様のご加護のおかげなんだ」
「水の精霊様……」
「もしよかったら行ってみるといい」
「おじいさんは何者なんですか?」
「ワシか? 別にただの通りすがりだ……生まれてからずっとこの街に住んでいるがその文字が読める人間に会ったのは初めてだったからつい話かけてしまっただけだよ」
「そうですか、教えていただきありがとうございます」
「まあ、お前さんたちもこの街を楽しんでいってくれ。水の精霊様のご加護があらんことを」
そう言うと老人はどこかへと行ってしまった。
「それで水の精霊様の祠ってどこにあるのかしら?」
エゼルはそう言う。
「あっちって行ってたよね、行ってみようか」
僕たちは祠があるというほうへ行ってみることにした。
そしてなんとか祠と思われる場所に到着した。
石で作られた泉に水が張り巡らされ、その泉の真ん中に石でできた小さな祠らしきものがある。
そして祠の中には小さな青いクリスタルのようなものが祭られている。
「ここの水、綺麗」
ヒィナがそう言う。たしかに美しい場所だ。
そしてこれが水の精霊の祠のようだ。目の前の石碑に小さくそう書いてある。
「これが水の精霊様の祠……よく分からないけど不思議な何かを感じる……ような気がする」
「ヒィナも」
ヒィナもそう言っている。
「なぜ水の精霊の祠がこのような小さな場所に……本来、精霊はもっと大切に扱われるべきですのに」
そういえばアンナがいつかの魔法の修行の時に精霊魔法のことを話していたな。
「精霊魔法があるって言ってたよね。この水の精霊の祠と何か関係あるの?」
「ありますわ。精霊魔法は精霊の力を借りて魔法を行使するのですわ。ですが、精霊魔法を扱える人間なんてわたくしは見たことがありません……そして精霊を見たことがある者もいないはずです」
「アンナも水の精霊の力を借りれば精霊魔法を使えるの?」
「分かりませんわ……前例がありませんからね。おそらく先生でも扱えないはずです。精霊魔法はそれほど強力な魔法なのですわ」
「どこに精霊様はいるんだろうね」
ローゼがそう言う。
「分かりませんわ……精霊様がいたとしてどこにいるか分かりませんし、どうすれば力を貸していただけるのかも分かりませんから」
「ふむ……とにかく気持ちだけでも伝えておこう」
僕たちは水の精霊の祠を拝んで旅の無事を祈る。
「水の精霊様、どうか僕たちの旅に力を貸してください」
「分かりました」
「ありがとうございます……え?」
いま誰か僕のお願いに返事をしたんだけど!?
「い、いま誰か返事した!?」
「いや、ボクたちは普通にお祈りしてただけだよ?」
ローゼは不思議そうにそう言う。
「え!? いま分かりましたって誰かが言ったんだけど」
「そんな……気のせいじゃない?」
フィオーレもそう言う。
「き、気のせいかな……」
僕たちはしばらくしてからその場を後にした。
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