第二十八話 動き出した物語
次の日、アンナとともに旅に必要なものを買いに来ていた。
アンナが治療薬などに詳しいためだ。そして僕は荷物持ちである。
「ありがとうございます、ノゾムさんのおかげで助かりますわ」
「いや、アンナのおかげで冒険に必要なものが分かるから助かってるよ」
フィオーレも旅慣れているが、アンナの知識も凄まじい。これも猫先生が育ててくれたおかげなのかな。
「あと、それとそれも買いましょう」
「何に使うの? こんなもの」
なんだろうかこれは……何か分からない物質だ……そしてなんでこんなものが売っているのか分からない……
他にも動物の骨らしきものや謎の植物などを買っている。
「あとで調合して魔法薬にします」
「え? これを?」
変わったものばかり買うアンナ。僕たちの使っている魔法薬はこういうのからできていたのか。
アンナの作る薬は良く効く。怪我をしたときや調子が悪いときに使わせてもらっている。
「猫先生が教えてくれたの?」
「ええ、先生は魔法薬などにも詳しいので教えていただきましたわ」
「猫先生って魔法薬の知識もあるんだ」
「ええ、森で野草を採ってきて教えてくださいました……どうしても材料が足りない時は街に行きましたが」
猫先生は街に行くと人間になでなでされてしまうらしいが大丈夫だったのだろうか?
「猫先生って街に行ったらもみくちゃにされるよね? 大丈夫だったの?」
「そのときだけおつかいとしてわたくしたちに行かせていましたわ。街で買い物をすると、そんなもの何に使うんだ、って聞かれて大変でしたわ」
まあ、そうだよね。僕もこれが何か分からないくらいだから……
「魔法教室を子供たちに開いているって言ってたよね? どんなところなの?」
「教室と言っても部屋があるわけではありませんわ。青空のもと、切り株に座って授業を受けるんですの」
「え!? そうなの!?」
これは驚きである。まさか屋根もないところで勉強しているとは。
「猫先生はわたくしたちによくしてくださいましたわ。色々と教えてくださいました」
「ああ見えてやっぱり先生なんだね」
「ああ見えて立派な先生ですわよ」
アンナが笑いながら言う。
「それでわたくしは猫先生を尊敬してこの帽子を作って被るようになりましたわ」
「その帽子って手作りだったの!?」
「ええ、先生とおそろいですわ」
アンナも良い子だな……いつもあんな調子だから全然分からないけど……
そんなたわいもない話をしながら歩いているとフィオーレがいた。
「あ、二人とも、買い物ありがとう!」
「フィオーレ、それじゃあ……」
「ぐへへへ……お姉様ぁぁぁぁ!!!!」
アンナはいつも通りフィオーレに飛びついた!
べきべきっ!!
「おほぉぉぉぉおおおおんんんん!!!!」
「なんでいつも抱きついてくるのよ!」
またやってるよ……さっきの、アンナは良い子だな、っていうの訂正しようかな……
僕はひそかにそう思うのだった……
夜になった。
次の日に村を出発し、水の都マルコーネを目指すことになった。
宿屋の自室で寝ることにする。
「今日こそはちゃんと寝るぞ!」
ここ数日まともに寝れなかったからね。今日こそは眠れるだろう。
そう思っているとまた扉がノックされた。ヒィナだろうか。また眠れない予感がする……
「どうぞ」
そう言って扉を開けるとフィオーレがいた。
「フィオーレ、どうしたの」
「うん、ちょっとね」
フィオーレが部屋に入ってくる。僕はフィオーレをベッドに座らせ、その横に座った。
「どうしたの? 何かあった? 買い物したとき足りないものがあったとか?」
「あの……その……みんなノゾムと喋っててずるいなって思って……」
たしかにフィオーレとだけは喋っていない。ものすごい力で抱きしめられて朝まで耐久とかあったけど。
「そうだね。寝る前になんか話そうか」
「うん!」
フィオーレは話し始める。
「私ね、最近はみんなと一緒にいられて幸せ」
「僕もみんなといられて楽しいよ」
それからフィオーレは言う。
「ノゾム、これからどんな冒険が待っていても私を信じて。どんな危険なことがあっても、私……」
「大丈夫だよ、最初からそのつもりだから」
「ありがとう」
「それに僕もいつか強くなってフィオーレと肩を並べて戦うから、それまで待ってて」
「うん、待ってる」
そんな話をした後、他愛もない話をした。
アンナが猫先生と一緒にいた時代の話、ヒィナを撫でてあげたこと、ローゼの剣術指南役の先生の話、エゼルの旅立ちの理由など……
そんなことを話していると扉がぶち破られる! いったい何事だ!?
見るとアンナが興奮状態で部屋の中に入ってきていた。
「お姉様と話すのはわたくしの役目ぇぇぇぇ!!」
またかアンナ……
「ヒィナもノゾムとお話したい」
後ろからヒィナも入ってくる。
「ボクたちも混ざっていいかな?」
「私だけ置いてかないでよ」
ローゼとエゼルも入ってくる。
「みんな……」
僕は言う。
「迷惑にならないように静かにね」
「うん」
その後、僕たちはみんなで他愛もない会話をした。
こうして仲間になれてよかった……そう思う僕であった。
物語は動き出した。
冒険はまだ始まったばかり。
この先どんな冒険が待っていても僕はみんなと一緒に行く。
みんなと一緒ならどんなことだって乗り越えられる。
そしていつかはフィオーレたちと肩を並べて一緒に戦うんだ。
その日まで僕は頑張って修行する。
まだまだ謎は残る。
フィオーレの秘密、勇者の秘密、僕自身の過去、神話の謎、古代遺跡のこと……
中央王国ではどんなことが待ち受けているのだろうか。
それらを解決しながら、先へと進んでいく。
魔王を倒す、その日まで……
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