第二十七話 眠れぬ夜は続く
僕たちは中央王国セントラルーネに向けて旅を続けていた。そして今日も夜になり見張り番の順番を考える。
そしてその結果、最初がフィオーレとエゼル、次が僕とローゼ、そしてその後がアンナとヒィナという順番になった。
僕が焚き火の近くで寝て、フィオーレたちはテントで寝ることにしている。
僕たちは見張り番をフィオーレとエゼルに任せて、眠ることにした……
……しばらくするとエゼルが起こしに来た。
「ノゾム、起きなさい!」
「うーん、もう時間?」
「ええ、そうよ!」
エゼルは声大きめでそう言う。
「なんか元気そうだね……」
「すごく話が盛り上がっちゃったわ!」
フィオーレはローゼを起こしにテントに向かった。
テントのほうから声が聞こえてくる。
「むにゃむにゃ……お姉様ぁぁぁぁ!!!!」
「なんで寝てるのにくっついて来るのよ!!」
べきべきっ!!
「おほぉぉぉぉおおおお!!!!」
アンナは嬉しそうな声を上げている……
おそらくフィオーレに襲い掛かったアンナが抱きしめ返されて……といったところか……
「なんでアンナのところにフィオーレを行かせたの」
「ごめんなさい、話が楽しかったから、つい忘れていたわ」
エゼルはそう言う。
すると恍惚状態でぐったりとしているアンナを担ぎ上げたフィオーレがテントの中から出てくる。
「この変態をしばっておいて!」
「分かった」
僕はいつも通りその変態を縛り上げると、テントの中にぶち込んだ。
「おやすみフィオーレ」
「ノゾム、おやすみ」
フィオーレとエゼルは見張り番中、二人でいったいどんな話をしていたのだろうか……二人とも楽しそうにしていた。あの二人、興奮してしばらく眠れないのではないだろうか……
僕とローゼは起きると見張り番を交代する。
焚き火の前で座る僕とローゼ。僕はローゼに話しかけてみることにした。
「ローゼはローゼンブルクのお城にいた時は何をしていたの?」
「前にも言ったけどボクは幼少の頃、何不自由なく育ったよ。幸せだった……でもね、この前も言った通りボクはある話を聞いて、それから人生がまるで変わったんだ」
「メイプルーネって街だっけ?」
「そう、その街は急な魔王軍の侵攻によって滅ぼされた……ボクはそれから剣の修行を積極的にするようになった……そして勉学に励んだ。街の人たちを大切にしたいと思い、街に出て色々なことを勉強して、街の人たちと交流を深めて……いつかボクが国を任されても大丈夫なように準備していたんだ」
たしかにあの時そう言っていたな……
「そしていつか街を出て人々を助けたいと思うようになった……だから今、君たちと旅が出来てボクは嬉しいと思っているよ。ありがとう」
「ローゼは立派だよ。僕たちと一緒に来てくれてありがとう」
僕たちはそのあと他愛もない話をした。
「剣術指南役の先生は普通の剣を使うように言ってたんだけど、ボクはいつか国宝の剣で戦いたいからレイピアも教えてくれって頼んでね」
「それは先生も大変だったね……」
「先生もレイピアの使い手だったから教えてくれたよ。先生は良くしてくれた。優しくて物知りで、おてんばなボクの面倒をよく見てくれた」
「いい先生だったんだね」
ローゼは僕に聞いてくる。
「そういえばノゾムは魔法は使えるようになったかい?」
「魔法はまだまだだよ……剣はみんなのおかげでいくらかマシになったけど……」
「おっと、そろそろ時間だね。アンナとヒィナを起こそうか」
「うん、そうしよう」
僕とローゼはアンナとヒィナを起こす。
「アンナ、起きて」
「むにゃむにゃ……あはぁぁんお姉様……はっ!! なぜわたくしは縄で縛られているのですか!?」
「あぁ、ごめん、いまから解くから」
僕はアンナの縄の解いた。
「それではわたくしたちが見張り番をしますので、どうぞ休んでくださいまし」
「ありがとうアンナ、おやすみ」
……しばらくするとヒィナに起こされた。
「ノゾム、起きて」
「うーん……どうしたのヒィナ……」
「アンナが怖い……」
見るとアンナは何か呟きながらキョロキョロしている。
「どうしたんだアンナ!? 何があったんだ!!」
「何……? どうしたの……?」
テントの中からローゼとエゼルが出てくる……
「お姉様ぁ……はあッはあッ……お姉様ぁ……」
まずい! フィオーレ成分が足りなすぎてアンナが暴走状態になっている!
「二人はテントに入って寝てていいよ、この変態は縛り上げておくから」
その後、フィオーレのいるテントを守る僕と暴れまわるアンナとの一騎打ちがはじまった……
「お姉様ぁぁぁぁ!!!!」
「僕はお姉様じゃないからぁぁぁぁ!!!!」
「ノゾム、頑張って」
ヒィナが横で応援する中、アンナを押さえ込み、縄で縛る。
「お姉様ぁぁぁぁ……ガルルルルゥゥゥゥ……」
「ふぅ……今日も変態を縛り上げることに成功した……」
三十分にも及ぶ死闘の末、ようやくアンナを押さえ込むことに成功した……
「……じゃあヒィナ、僕と見張り番しようか」
「見張り番する」
僕はヒィナと縛られて身動きが取れないアンナとともに焚き火の前で朝日が昇るまで待つのだった……
次の日、僕たちは時折出現する魔物と戦いながらも別の村に到着した。
ここで休んで準備を整えてから次の街を目指すことにした。
「次の街は水の都マルコーネよ」
フィオーレがそう説明する。
「水の都?」
「そう、街に水が流れていて、街を移動するには歩くか水の上を船で移動するのよ」
「へえ、すごいね」
僕たちは次の街、中央都市セントラルーネに向けて移動するため、途中にある水の都マルコーネを目指すことになった。
その日の夜、僕は宿屋の自室で寝ようとしていた。
「やっと眠れる! 最近、眠れてなかったからなあ!」
するとドアがノックされた。
僕は心の底で「寝かせてくれぇぇぇぇ」と叫びつつも扉を開けることにした。
扉を開けるとそこにはヒィナがいた。
「ヒィナ、どうしたの?」
「おなかすいた」
ヒィナが僕の部屋にトコトコと入ってくる。僕はヒィナをベッドの上に座らせ、その横に座った。
「ここには何もないし、なんか食べに行く?」
「……」
「……どうしたの?」
「おなかすいた」
「……うん」
これは……きっとお腹は空いていないのだろう……おそらく構ってほしいだけだ。
なんだろう、どうすればいいんだ?
「あの……ヒィナ、お話でもしようか」
「うん」
あ、やっぱりそうだ……構ってほしいんだ……
「ヒィナは僕たちと旅に出て、どう?」
「楽しい」
「よかった……大変な思いをさせているから少し心配だったよ」
「大丈夫、ノゾムがいるから」
「そ、そっかぁ……」
ヒィナは僕に向かって何か言いたそうにしている。
「どうしたの?」
「……」
僕をずっと見つめてくるヒィナ……僕はヒィナの頭を撫でることにした。
「よしよし」
「……もっと撫でて」
「え? う、うん。よしよし」
あまり変化がないがおそらく機嫌がさっきよりも良くなっているみたいだ。
僕に寄りかかってくるヒィナ……頭を撫でているとヒィナはそのまま僕に寄りかかって眠ってしまった……
「ええ……どうしよう……」
僕はベッドにヒィナを寝かせることにした。
僕ももう余裕はない。連日眠っていないからだ。眠くてヒィナを部屋まで運ぶ余力はない。
ベッドはヒィナに譲って、僕は仕方なく床で眠ることにした……
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