第二十五話 剣と魔法の修行

 この森の中をいったいどのくらい歩いていたのだろうか。僕たちは旅の途中、安全そうな場所を見つけて休憩を取ることにした。荷物を置いて特訓開始だ!


 「さて……今日も剣と魔法の稽古を頼むよ」

 「分かりましたわ」

 「今日は私が剣を教えてあげるわよ」

 「ボクもね」


 ここ最近、僕は空いた時間を見つけては剣と魔法の修行をしている。旅の途中の休憩の合間でもだ。みんなの手を借りているので少し申し訳ないが、僕もみんなの役に立てるようになりたいから……

 剣術はローゼとエゼルが教えてくれる。フィオーレも時々、時間が空いているときに教えてくれている。ローゼは僕たちと違いレイピアの使い手だが、それでもちゃんと教えられるのだからすごい。きっとローゼンブルクにいた頃に凄腕の先生に剣術を指南されたに違いない。


 「いち……に……」

 「ここをもっとこうしたほうがいいんじゃない?」

 「ノゾム、頑張って」


 エゼルも剣術を教えるのが上手い。いったい誰から教わったのだろうか……それとも我流だろうか? いや、そんな感じはしないけど……これはきっと誰かから教わっていたな。


 「ふう……みんなのおかげで剣がまともに振れるようになってきたよ。ありがとう」

 「いいのよ、いつまでも足でまといじゃ困るもの」

 「エゼルはノゾムに教えるために自分の剣技を見直したりしてるのよ」

 「ちょっと! 言わないでよ!」


 そうだったのか……エゼルも良い子だな……


 「ところで前にも言ったけど、なんで弓じゃなくて剣を練習したほうがいいの?」

 「それなんだけど……」


 ローゼは言い始める。


 「もちろん遠距離攻撃のほうが普通に考えれば有利だ。しかし、ボクたちは剣で戦ったほうがいいと思うんだ」

 「なんで? 遠くから攻撃したほうが安全じゃない?」

 「その通りだ。だけど、ボクたちがこれから戦うのはそんな弓矢が通じるほど生半可な相手じゃなくなってくるはずだ」

 「どういうこと?」


 僕は聞く。


 「僕の剣術指南をしていた先生が言ったんだ……達人には弓も魔法の弓も効かない。すべて回避されてしまう。揺らめく白刃でなければ攻撃を当てることもままならないだろう、と」

 「あ、私に剣を教えてくれた先生も同じこと言ってたわ」


 エゼルもそう言う。エゼルも誰かに剣を教わっていたのか。 


 「もちろん弓矢がダメってわけではないけど、これからずっと先、強い魔物と戦い続けることを考えると剣を極めたほうがいいかもしれない……危険な選択肢だけどね」

 「なるほど……魔王軍の手下や強い魔物には弓矢じゃ攻撃が通らないのか……」


 そういえば魔法剣という選択肢があるって言ってたな……


 「魔法剣はどうなの?」

 「魔法剣が使えるならそのほうがいいらしい。魔法は魔物に大きな効果があるらしいからね」


 そう話をしているとアンナがこちらに来る。


 「魔法のことでしたらわたくしが教えますわよ」

 「アンナ、なんで魔法は魔物に効果があるんだ?」


 アンナが説明をし始める。


 「以前も言いましたが魔法はこの世界樹のエネルギーを使っています。そして魔物はこの世界樹の下から生まれた存在……つまり魔王が世界樹から創り出した化け物……これに因果関係があるのか分かりませんが、魔法は魔物に絶大な効果があるんですの」

 「何か関係がありそうだね」

 「ええ、そして魔法剣も同様に効果があります。たとえば炎の魔法フォノを付与した炎の魔法剣は魔物にダメージを与えるのにより効果的です」

 「なるほどね」


 つまり極めた魔法剣で戦うのが一番いいと……次の選択肢が魔法か魔法の弓となる……そういうわけか……


 ん……?


 「待って! 魔法か魔法剣が一番いいんだよね!? フィオーレは!? 勇者なのに剣も魔法も使えないよ!?」

 「ぎくっ……」


 フィオーレは剣も魔法も使えない……魔法拳とかも使えないならピンチではないか?


 「魔法が使えないなら、拳に魔法の力を宿すこともできないよね!? しかも勇者が使える一番強い魔法も使えないんだよね!?」


 「あの……その……」


 アンナが言いにくそうにしている……


 「わたくしからは言いにくいのですが……どちらも使わないで強力な魔物と戦うのは非常にきびしいですわ……特に魔法が使えないのは致命的ですわ」

 「アンナ! 気づいていたのに言わなかったのか!?」

 「でも仕方がないことです……」

 「そんな!! 僕たちは神と同等の存在と戦うんだよ!? それなのに勇者が……」


 「……」


 フィオーレは少し申し訳なさそうな顔をしている。


 「あ……その……ごめんフィオーレ……そうだよね、フィオーレが悪いわけじゃないよね……ごめんね」

 「いいのよ、本当のことだし……いつか分かることだったから」


 少し言い過ぎてしまった……ごめんフィオーレ……


 「そうよ……魔王と戦うには魔法を使えなきゃいけないはず……しかも勇者のみが使えるとされる一番強力ないかずちの魔法、ライ系だって使えない……こんな状況で不安にならないほうがおかしい話よ……ノゾムは悪くないわ」

 「ごめん……ちょっと不安になっちゃって……ごめんね」


 落ち込んでいるフィオーレ……こればかりはフィオーレのせいではない……フィオーレだって一生懸命修行して、それでも魔法が使えないんだから……責めるなんてことできるはずがない……


 こうなったら……


 「僕が剣も魔法も使えるようになるから! フィオーレ、君にできないことは僕ができるようになる……一緒に戦おう」

 「ノゾム……」

 「フィオーレが僕に背中を預けて戦えるその日まで、まだまだ時間がかかるけど……待ってて、いつかその日が来るから」

 「ありがとう……ノゾム……」


 フィオーレは少し涙目になっている……


 しかしこれは本当にそう思ったことだ……嘘じゃない、いつかフィオーレの横に並んで戦えるように僕が頑張るしかない……


 「お姉様……わたくしもいますわ!」

 「そうよ、私たち仲間でしょ」

 「ボクも頑張ってカバーするよ」

 「ヒィナも」


 「みんな……」


 これでいい……ないものねだりなんてできない……僕が強くなるしかないんだから……



 落ち着いてから僕たちは修行を再開する。


 「魔法は基本的に強さがありますわ……個人で強さが違うのはもちろん、その強さで名前が変わっていきます」

 「そういえばフォノ系もフォノとかフォノザラとかフォノマとか言ってたよね」

 「フォノ系統の魔法は、フォノ、フォノゼ、フォノマ、フォノザラの順に強くなっていきますわ」

 「ふむふむ」

 「一番強いというフォノカミは普通は使えないはずです……精霊などの力を借りなければ……」

 「そうなのか……」


 僕はまだフォノすら使えないんだけど……そんなに上まであるのか……


 「よし、頑張るぞ!」


 僕は魔法が使えるように頑張って練習することにした。

 魔王を倒すにはフィオーレの力だけでなく、僕たちが力を合わせる必要がある。

 僕は修行し続ける。

 いつかフィオーレと肩を並べて戦えるようになる、その日まで。

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