第二十四話 中央王国を目指して
僕たちは中央王国セントラルーネに向けて旅をすることに決めた。
「じゃあ僕たちはセントラルーネを目指そう。そしてそこで騎士団の力を借りるんだ」
「行きましょう、セントラルーネに」
猫先生はセントラルーネへの道のりを教えてくれた。
「今いるこのグロウバウムはセントラルーネからゴリラの方角に位置するニャ」
「へえ、ゴリラの方角か……え? ゴリラの方角?」
「そうニャ」
「はじまりの風が吹く街トルペティアやゴリラ信仰の街リラは? やっぱりゴリラの方角にあるの?」
「そうニャ。それらの街もセントラルーネからゴリラの方角にあるニャ」
フィオーレ……ゴリラの方角から魔王を倒す旅を始めることになるなんて……やっぱりゴリラじゃないか……
僕はそう思いながらフィオーレのほうを見る。
「何よその目は! ゴリラじゃないって言ってるでしょ!」
よかった……いつも通りのフィオーレだ……実はフィオーレがさっきから元気がなさそうだったから少し心配していたのだ。
「ねえ、もしかして毎回このやりとりしてるの……?」
「してますわね」
エゼルとアンナがそんなことを話している。
「世界樹はこの世界のほぼ真ん中にあるニャ。そして中央王国もその近くにあるからほぼ真ん中ニャ」
「ふむふむ、ゴリラの方角っていうのは地図でいうとどっちなの?」
「うーん、そうだニャ……世界樹や中央王国から南西の方角ってことになるかニャ」
「そうなんだ」
つまり猿の方角ってことか。
「そして世界樹の北から東の大地は魔王軍に侵略されているニャ」
「犬と猿とキジの方角は魔王軍が侵略できていないってことか……」
あの有名な話みたいだな……鬼が出てくると言われている方角は魔王の領地になってるってことだからね……
「世界の半分とは言わないけど、かなり魔王軍が攻めてきているニャ。世界に魔物が散らばってから、世界のほとんどの場所で魔物が出るようになったし」
「そうなんだ……猫先生のおかげで世界の状況がなんとなく分かったよ」
「ニャ!」
猫先生、もう「ニャ」を隠す気ないニャ……
「とにかく君たちは中央王国に向かうといいニャ」
「分かったよ」
そんな話をしていると魔物が近づいて来ている気配を感じる。
「ノゾム、気をつけるニャ」
「うん、魔物が近くにいるね」
見ると巨大な狼の魔物が近くに迫っていた!
「グルルルル……」
狼の魔物はこちらに敵意むき出しである。一匹だけだろうか。これが本当の一匹狼……
「ノゾム、ボクがやるニャ!」
「猫先生が!?」
猫先生は魔法を唱える。
「炎の魔法! フォノ!!」
猫先生はフォノ系の炎魔法で一番弱い魔法、フォノを放つ。
しかしそれは巨大な炎の球となり狼の魔物を襲う!!
「グルァァァァ!!!!」
狼の魔物はその炎を食らうと驚いてどこかへと姿を消したのだった……
「こんなもんニャ!」
「猫先生強い!!」
はっきり言って強い!! アンナが使う魔法と同じものとは思えないくらいに!! まるで違う魔法のようだ!!
「これはフォノザラではないニャ……フォノ……ニャ」
そして全然かっこよくない!!
「先生、フォノニャなんて魔法はありませんわよ?」
「フォノニャじゃないニャ!! フォノニャ!!」
やっぱりフォノニャじゃないか!
「猫先生ってこんなに強かったんですね!」
僕は猫先生に言う。
「自分で言うのもどうかと思うけど、ボクは魔法が得意なのニャ!」
猫先生はそう言う。
そんな話をしばらくした後、猫先生は言う。
「さて、そろそろ行くかニャ……みんなに僕の意見を伝えられてよかったニャ」
「先生、もう戻られるのですか?」
アンナは少し寂しそうだ。
「うん、子供たちが待ってるニャ。また魔法を教えるために戻るニャ。君みたいな立派な魔法使いを育てるために」
「え? アンナが立派な魔法使い?」
僕は驚いて猫先生に聞く。
「ニャ、ボクの自慢の教え子ニャ」
いつもフィオーレにくっついてるから立派だと感じなかった……そういえばたしかにアンナの魔法はすごいんだよな……そう、魔法だけは……そう思いながら僕はアンナを見る。
「ノゾムさん、何ですかその目は? 何か失礼なことを考えていませんか」
「べ、別に考えてないよ」
猫先生は歩きながらこちらを振り向く。
「また会える日を楽しみにしているニャ……みんなバイバイニャ!」
猫先生はそう言うと、どこかへ向かって歩いていく……
「またお会いしましょう……先生……」
アンナはその後ろ姿に向かってそう呟いた。
「行っちゃったね……」
フィオーレがそう言う。
「そうだね、僕たちも行かなきゃ」
「ボクはこの世界のことを知ることができてよかったよ」
「ヒィナ、猫さんもふもふしたかった」
「もふもふされるのは嫌がってたからね……」
僕たちは街へと戻ることにした。
街に戻ると僕たちは酒場でクエスト達成の報告をすることにした。酒場に入ると僕たちは酒場の客たちから声をかけられる。
「戻って来たぞ!」
「おお! みんなお前らのことを待っていたんだぞ!」
酒場はなぜか僕たちの話で持ちきりだったみたいだ……
「え? どうして? なんで?」
「僕たちなんかやっちゃいました?」
なぜ僕たちの話が酒場でされているのだろうか……そう思っていると奥から酒場の店主がやってくる……なぜか顔をぐちゃぐちゃにして泣いている……
「みんなおかえり……よく帰ってきたね……」
「これはどういうことですか?」
僕はこの状況について店主に聞いてみる。
「まさか……私たちが勇者一向だとバレたとか」
「くっくっくっ、やはり私たちが救世主だということは隠しきれないようね」
「フィオーレ、エゼル、違うと思うよ……」
店主は理由を話してくれた。
「ごめんね……おじさん、お墓参りのクエストのことは前から気になっていたんだ……誰かにクエストを達成してもらいたいと思っていた……こんなに熱心にクエストを受けてくれた子たちははじめてで、感動しちゃって……」
つまり僕たちが熱心にお墓参りに行ったことに感動してみんなに話していたと……すみません……本当の目的は石碑だったんです……
「俺も感動したぜ。報酬も割に合わないし、真面目に受けるやつがなかなかいないクエストでな。依頼主が可哀想だと前から思っていたんだ。まさかこんな立派な冒険者がいるなんてな」
他の冒険者もそう言う……すみません……ちゃんとお墓参りしてきたんで許してください……
「ごめんねみんな……おじさん感動しちゃって……うぅ……ううぅぅぅぅ……」
そう言いながら号泣する店主……すみません……お墓参りちゃんとやってきたんで……どうか許してください……
「それと、この人が依頼主さんだよ……」
「皆さん……本当にありがとうございます……きっとあいつも喜んでいることでしょう……」
足を怪我した依頼主の男性が僕たちの元にやってくる。
「ちゃんとお墓参りしてきたので、安心してください」
僕がそう告げると彼もまた号泣しはじめた……
「ありがとうございます……ううぅぅ……」
彼は相方を亡くした元冒険者の男性だ……相方さんはきっと大切な仲間だったのだろう……
「みんなでちゃんとお墓参りしてきたので泣かないでください」
「ありがとう……本当にありがとう……ッ」
「ああああぁぁぁぁ!!!! 依頼達成できてよかったぁぁぁぁ!!!!」
「私もこのクエスト受けてよかったぁぁぁぁ!!!!」
なぜかもらい泣きするフィオーレとエゼル……もうカオスである……
僕たちはみんなが落ち着くのを待ってから報酬を受け取り、酒場を後にした……
僕たちは宿屋へ戻ることにした。
「クエスト達成できてよかったね」
「ええ、ちゃんと達成してよかったわ」
そう言うフィオーレ。
「それから……明日、この街を出ましょう。中央王国セントラルーネを目指しましょう」
「そうだね」
「ついに始まるのね……私たちが魔王を倒す冒険が!」
エゼルはなぜか楽しそうにそう語る。
「ボクも騎士団には興味あるな」
ローゼもそう言う。
「そうだね、すごく強いみたいだからね」
僕たちは宿へと戻り一晩過ごした。
次の日、この街を旅立つことにした。
中央王国を目指して……いつの日か魔王を倒すために……
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