第十六話 全員でクエスト

 僕たちは森の入り口へとやってくる。目の前にはあの大木がそびえ立っている。すごい迫力だ。森の奥までいけばもっと大きく見えることだろう。この樹はグロウバウムのシンボルであり、街の住人たちの心の拠り所、信仰の対象である。本物の世界樹ではないとはいえ、この樹もすごい大きさである。本物の世界樹はいったいどんな樹なのかと思ってしまう。そして、樹の下には森が広がっている。今からこの森の中へと入っていくのだ。


 「森の奥まで行って、お墓にお供え物をして帰ってくる……それが今回のクエストよ」

 「導かれし者が五人全員揃ってから初めてのクエストですわね」

 「ボクは楽しみだよ、ついに冒険が始まるんだ、ってね」

 「ヒィナも」

 「僕も頑張るよ」


 僕も導かれし者の一人なんだよな……みんなで魔王を倒す運命にある……そして、これが勇者と導かれし者、六人全員が揃ってからの初めての冒険となる……なんかあまり実感がないな……


 「それじゃあ行くわよ!」


 フィオーレはそう言って進み始める。僕も地図を見ながら進む。地図によると森のかなり奥のほう、そうあの小さな世界樹のふもとあたりに今回のクエストの目的のお墓があるようだ。


 僕たちは森の中を歩いていく。


 「私たちは旅に慣れているけど、エゼルはどう?」


 フィオーレが振り返ってエゼルに聞く。僕は旅に慣れているって言って良いのだろうか……


 「ふっふっふっ、私は冒険をするため、そして魔王を倒すため、今こうしてこの森を歩いているのよ。全然問題ないわ」


 要領を得ない回答だが大丈夫ということだろう。エゼルは背も低く幼い見た目をしている少女だが、酒場で冒険者を誘っていたくらいだし、こう見えて意外と冒険には慣れているのかもしれない。


 「ボクは最近、旅に出たばかりだからね、よろしく頼むよ」

 「ヒィナも」


 それをいうと僕やアンナも旅慣れていると言っていいのかは疑問である。フィオーレはずっと前から旅をしていたらしいから慣れているだろうけど。


 先を進んでいくと木でできた看板があるのを見つけた。そこには「この先に進むのならば注意せよ、勇気と蛮勇をはき違えるな」と書かれている。


 「その通りね、気をつけて進みましょう」


 フィオーレがそう言う。しかし、この看板があるということはこの先に何かあるということだろうか。


 「そうだね、簡単なクエストでも油断は禁物だね。いきなり魔物が出てくることもあるし」


 僕たちは気を引き締めて前へと進んでいく。


 しばらく進んでいくと開けた場所に出た。草花が咲き誇り、優しい風が吹く、明るい森だ。

 それにしても、いつものこととはいえ、やはり森を歩くのは大変だ。いったん休むことにして、僕たちは荷物を置く。みんなで地図を見ながら次に進む道を確認する。


 「それにしても目的のお墓は結構、森の奥深くにあるわね」

 「そうだね、あの大きな樹の下あたりだからなかなか遠いね」


 僕たちがそう話して休憩していると、何かの気配を感じる。魔物だろうか?


 「……みんな、気をつけて」


 フィオーレが全員に注意を促す。僕は剣を構えながらあたりを警戒する。他のみんなもそれぞれの武器に手を掛けながらあたりを見回している。


 そして突然、森の奥、木々の間から何かが飛び出してきた! ゴブリンの群れだ!


 「みんな戦うわよ!」


 フィオーレはそう言うと超スピードでゴブリンの群れに接近し拳で戦い始める! まるで台風だ! ゴブリンたちは次々に吹き飛ばされていく!


 アンナも魔法で応戦している!


 「水属性の魔法で一気に倒しますわ! ウォタ系水属性魔法! ウォタザラ!!」


 アンナがそう言うとアンナの杖の先から水が出てくる! そしてその水の塊は巨大な女性の姿になり、あたりを飛び回る! 水の塊はあたり一帯を飛び回りながらゴブリンたちを巻き込み激流で吹き飛ばしていく!

 すごい魔法だ! アンナはこんなこともできるのか!


 「ノゾム、頑張って」


 ヒィナは僕の後ろで応援してくれている。


 「ありがとう、ヒィナも気をつけて!」


 僕は剣を構えて襲いかかってくるゴブリンと戦う。いきなりフィオーレやアンナみたいなすごいことはできないけど、せめて足を引っ張らないように戦わなきゃ! 最近、剣や魔法の修行をしている。その成果を見せる時だ!

 僕は剣でゴブリンが振り回す剣を受け止める。そしてそれを受け流し、ゴブリンに一撃を与える!


 「やった! ゴブリンを倒した!」


 しかし、二体目のゴブリンが襲い掛かってくる!


 「くっ!」


 僕はなんとか攻撃を防ぐ。


 「私に任せなさい!」


 エゼルが盾を構えて突撃しながらこちらにやってくる。 シールドバッシュだ! ゴブリンはたまらず吹き飛ばされる!


 「あんたたち! 私が守るからあんまり離れないでね!」


 エゼルは盾でゴブリンたちの攻撃を防ぎながら剣で反撃する。


 「エーデルシュテルンの名にかけて!」


 エゼルはそう言って剣を構え、僕とヒィナを守りながら戦う。


 「ありがとうエゼル! 助かったよ!」




 「べ、別にあんたのためにやったんじゃないんだから! そ、その……私が強いからよ! 弱いあんたたちを守るのが役目だからよ!」




 エゼル……ツンデレだったのか……



 その横でローゼがレイピアでゴブリンたちと戦っている。


 「五月雨突き!! 一閃突き!!」


 ものすごいスピードと剣技でゴブリンたちを倒していく!




 ……こうして誰も怪我をすることなくゴブリンの群れをやっつけることに成功した。




 「みんな大丈夫?」


 フィオーレが僕たちに聞く。


 「お姉様! わたくしのことを気遣ってくれるなんて!! このアンナ幸せですわ!!」

 「僕とヒィナはエゼルが守ってくれたから大丈夫だよ」

 「エゼル、強い。ヒィナたちを守ってくれた」

 「まあ私の手にかかればこんなものよ!」

 「ボクも大丈夫だよ」


 そう言いながら皆、武器をしまっている。



 このパーティもしかしてものすごく強いのではないだろうか?



 パワーとスピードで凄まじい戦闘力を誇るフィオーレ、広範囲への魔法攻撃ができるアンナ、スピードアタッカーのローゼ、守りのエゼル、かわいいヒィナ……



 こうして考えると皆すごく強い……僕も頑張らなきゃ……



 僕たちは荷物を持ってまた歩き始める。クエストの目的であるお墓を目指して……



 僕たちは目的地の近くに到着する。みんなであたりを見ましてお墓を探してみる。


 「このあたりね、とても小さなお墓らしいわよ」


 僕は地図を見ながらあたりも見回してお墓を探してみる。


 「手分けをして探さないか?」


 ローゼがそう提案する。


 「そうね、手分けして探しましょう」


 フィオーレが答える。


 「わたくしはお姉様と一緒がいいですわ! 二人きりでチュッチュウ!!」

 「やめて!! 誰か一緒についてきて!!」

 「じゃあヒィナがついて行ってあげて?」


 僕はヒィナにそう言う。


 「ノゾムと離れるのやだ」


 ヒィナが答える。


 「うん、それならボクが一緒にいこう」


 ローゼがそう言う。つまり僕とヒィナとエゼル、フィオーレとアンナとローゼという分かれ方になる。


 「それじゃあ手分けして探すわよ!」


 フィオーレは僕たちにそう言う。僕たちは分かれて目的のお墓を探し始めることにした。

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