第十五話 最後の導かれし者エゼル

 あの後、夢の中に再びリラ神が出てきた。ハニーに教えてもらったのだが、やはりローゼは導かれし者の一人らしい。そして最後の一人についても話してくれた。

 「街に入ってダーリンたちに最初に話しかけてきた人が最後の導かれし者よ!」とのことだ。

 いったいどんな人物なのだろうか……


 「いったいどんな人なんだろうね……」

 「リラ神がそう言ったんですのね」

 「うん……教えてくれるのはありがたいけど、夢にまで出てこられると疲れちゃうよ……」


 僕はため息を吐きながら言う。


 僕たちが向かっているのはグロウバウムという街だ。グロウバウムは小さな世界樹の街と呼ばれており、巨大な大木が近くにある街だ。その樹はもう既に見えてきている。大きなシンボルがあるためかグロウバウムにもたくさんの人が集まるようだ。


 僕たちは街の入り口で門番に許可をもらい中へと入る。


 街はやはり冒険者が集まるだけあって整備されていた。なんといっても目の前に見える大きな樹が特徴的だ。しかしこれは世界樹ではない。あくまで大きな樹である。本物の世界樹はどれほど大きいのだろうか。


 最初に話しかけてきた人物が最後の導かれし者……僕たちは黙って歩き続ける。


 荷物を置きたいところだが、誰が声を掛けてくるか分からないのでとりあえず宿屋は後にしてみる。宿屋の店主が最初に話しかけてきたらその人が導かれし者だということになるが、まさかそんなはずはないだろうし……ありえない話ではないけれど……冒険者に話しかけられる確率が高いであろう酒場を目指して歩いてみる。酒場の店員に話しかけられる可能性もあるけれども。


 そして誰にも話しかけられないまま酒場に到着する。こんなことってあるだろうか。


 そして酒場に入ったところでついに話しかけられる。


 「あんたたち! 待ちなさい!」


 お! ついに最後の導かれし者が現れたか! そう思いながら僕は声のしたほうを見る。


 「私とパーティを組みなさい!」


 その人物は金髪でドリルのようなウェーブがかかったツインテール、青い瞳、整った顔立ちが特徴的な背の低い少女だった。

 さらに特徴的なのは手に持っている大きな盾である。その盾には豪華な装飾が施されている。そして胴体には胸当て、腕にはガントレット、足にはグリーヴをし、防具で身を包んでいる。剣も持っているようだ。


 「あんたたち、聞いてるの? ……なんで全員で黙ってこっち見てるのよ! え、何、怖いんだけど!!」


 たしかに五人で黙ったまま彼女のことを見てしまっていた。それは怖いよね……

 フィオーレは彼女の元に飛んでいき抱きつく!


 「やったわ! ついに出会えた! あなたが最後の導かれし者! やったぁ!」

 「な、何よいきなり! え、私やばい奴らに話しかけちゃった!?」


 そうかもね。やばい奴らに話しかけちゃったかもね……しかもこのあと魔王を倒しに行こうって誘われるんだからやばいよね……


 「あなた! 名前はなんていうの!!」


 フィオーレは彼女に聞く。


 「え、エゼル……」

 「エゼル! 私たちと一緒に来て!」

 「何!? どういうこと!? って痛い!! 痛いってば!! あんたどんな力してるのよ!!」


 ゴリラ……おっといけない……


 「ゴリラじゃないもん!」

 「言ってないよ! 思っただけ!」

 「視線が語ってるのよ!」


 「悔しいですわ!! 本来お姉様に抱きしめられていいのはわたくしだけのはずですのに!」


 アンナがジェラシーメラメラ嫉妬ファイヤーの状態でそう言う。実は僕も抱きつかれたことあるんだよなぁ……黙っておこう。


 「アンナ落ち着いて……導かれし者を集めるのはフィオーレの悲願だったんだから……ね?」

 「これで全員揃ったんだね、ボクも嬉しいよ」

 「ヒィナも」


 フィオーレが落ち着いた後、僕たちはエゼルに話をするため席に着く。


 「女子供ばかりのパーティで心配だったから私から誘ったわけだけど、さっきのはどういうこと?」


 エゼルは僕たちに聞いてくる。というか、あなたも女の子ですが……


 「実は……」


 僕たちは全て話す……フィオーレは救世主であり、導かれし者を探し出して魔王を倒しに行こうとしていることを……夢の中に神様が出てきてエゼルが最後の導かれし者であると告げたことを……そして彼女もまた魔王を倒しに行く運命にあるということを……


 信じてくれるだろうか……


 「くっくっくっ……そう、そういうことなのね……」


 エゼルは笑っている……信じてくれなかったのだろうか……無理もない、こんな話を信じるほうがおかしいからね。


 「くっくっくっ……ついに来たのね……私の元に……ッ!! 運命に導かれし者たちが!!」


 おかしい人だったか……


 「待っていたのよ! この時を!! ずっと待っていたのよ!!」


 おかしいのはこの人のほうだったでござるよ!!


 エゼルは興奮して立ち上がり話しはじめる。


 「あんたたち! よくこの私に会いに来たわね! 私が仲間になったからには大船に乗ったつもりで旅を……いや、私がいる時点でもう既に大船に乗っているのよ!!」


 泥船の予感しかしません本当にありがとうございました。


 「もう一度言うわ! 私はエゼル! 魔王を倒しこの世界を救う者よ!」


 ええ……それもう勇者だよ……


 「フィオーレ!! 私が仲間になったからにはもう安心よ!! 一緒に魔王を倒しましょう!!」

 「ありがとう!! 仲間になってくれて嬉しいわ!!」


 ええ……意気投合してるよ……


 「悔しいですわ!! お姉様!! わたくしというものがありながら……ッ!!」


 こっちもこっちでなんか嫉妬してるし!!


 「そうと決まればさっそく魔王を倒しに行きましょう!!」

 「おおぉぉ!!」


 待って!! 早い早い!!


 「ちょ、ちょっと待っ……」

 「待ってくれないか、まずは仲間も揃ったことだ、冒険の準備をちゃんと整えよう」

 「そ、そうそう、クエスト受けてお金稼いだりしてさ。旅の支度なんかもして、今後の予定も立てようよ」


 ローゼがいてくれてよかった……話がとんでもない方向に一気に進むところだった……

 たしかに僕たちの目的は魔王を倒すことだ……だが、それはそんなに簡単なことではないはずだ……


 「そ、それもそうね、ちょっと舞い上がっていたわ……」

 「そ、そうね、私も元々はクエストを一緒に受けようと思って声をかけたからね」


 フィオーレとエゼルも落ち着いたようだ。


 「お姉様!! わたくしのことを忘れないでくださいまし!!」


 アンナもそろそろ落ち着いて……


 三人が落ち着いたところで僕たちはクエストを受けることにした。僕たちは巨大な掲示板の前に行く。やはり色々なクエストがあるようだ。

 魔物を討伐してほしいというもの、森で薬草や木の実を採取してきてほしいというもの……自治体や街の公的機関からの依頼まである。


 僕はその中から気になるクエストを見つける。


 小さな世界樹の下に眠る貴女に花束を……そう書かれている。


 「ノゾム、それが気になるの?」

 「う、うん……僕たち六人で行くには、そんなに危険ではないクエストだけどね」


 もちろんどんなクエストにも危険はつきもので簡単なクエストだからと言って油断はできない。

 このクエストは森の奥にあるお墓に花などのお供え物をしてきてほしいというものである。

 僕たち六人ならそんなに難しいクエストではないはずである。ちなみに報酬はそんなに良くない。まあ、強い魔物と戦う必要のないクエストだからね。

 クエストには冒険者も命をかける。強い魔物と戦うなど、危険なクエストにはそれ相応の報酬が支払われるわけだ。

 そしてギルドは冒険者が犠牲にならないように冒険者の腕前に応じてクエストを受ける許可を出すわけだ。危険なクエストで冒険者が命を落とさないように……


 「それならこのクエストに行きましょう」

 「簡単なクエストですわね」

 「もちろん油断してはいけないよ」

 「私があんたたちのことを守ってあげるわ」


 僕たちは酒場のマスター、つまりギルドマスターのもとにクエストの貼り紙を持っていく。


 「ああ、そのクエストか。たまに依頼があるんだよ。依頼者は怪我をして引退した冒険者でね、なんでもクエストを受けている最中、凶暴なシカの魔物に襲われて怪我をしてしまったらしいんだ。相方は女性の冒険者だったんだが命を落としてしまったそうだ」

 「そんな……」


 マスターは続ける。


 「それで、怪我をして森の奥まで行けないから、代わりに冒険者に墓参りを依頼しているんだ」

 「なら私たちがちゃんとお墓参りしてきます!」


 フィオーレがそう答える。


 「そうしてくれると依頼者も喜ぶはずだよ」


 僕たちは宿に荷物を置き、冒険の支度を整える。


 「六人で森を冒険か……ボクは楽しみだよ」

 「ヒィナも」


 そして僕たちはグロウバウムの小さな世界樹、そのふもとにある小さなお墓を目指して歩き始めた。

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