第十四話 冒険への決意

 ローゼは真剣な表情で語り始める。


 「ボクはこのローゼンブルクの城で何不自由なく育った。両親やまわりの人々との関係も良好で、毎日幸せだった。今でもそうだ。ボクは幸せだ」


 ローゼは続ける。僕たちも真剣に話を聞く。


 「だけどね、ボクはある街の話を聞いたんだ。それはメイプルーネという街の話だった……」


 「……ッ」


 街の名前を聞いた途端、フィオーレが目を見開いて驚いていたのを僕は見逃さなかった。


 「メイプルーネ? その街がどうしたの?」


 僕は聞き返す。


 「あぁ、その街はとても穏やかな街だったんだが、ある日、そう今からだいたい七年前だ……魔王軍の侵略で街が滅ぼされたそうだ」

 「風の噂で聞いたことがありますわ……メイプルーネ……たしかに魔王軍の侵略を受けたそうですわね」


 アンナも聞いたことあるようだ。


 「当時八歳だったボクは衝撃を受けた……悲しい思いをしている人々がいる……助からない命がある……ボクはその事実に気づいたんだ」


 ローゼは続ける。


 「ボクは幸せものだった……街は平和でみんな笑顔で、ボクはこんなに毎日楽しく生活しているのに、外では苦しい思いをしている人がいる……そう思ったら助けに行きたいと思うようになったんだ」


 ローゼは真剣な表情をしている。みんなも黙って話を聞いている。


 「それからというもの魔王軍によって滅ぼされた他の街の情報を集めた……魔物のことを調べ、魔物と戦えるように剣の稽古もした……それまで以上に勉学にも励んだ……だけどね、ボクは王女だ……この街から出ることはできない」


 ローゼは悲しそうに言う。


 「何度も城から脱走し、街へ出た。みんなと交流を深め、色々なことを調べてまわった。そしていつかはこの街を出て困っている人々を助けたいと思った……でもボクは王女だ。王女としてこの街を捨てるわけにはいかない……」

 「街を出てみんなを助ける旅をしたいという思いと、王女としてこの街に残りたいという思いがあるんだね」


 僕はそう聞き返す。


 「そうなんだ……この街を守りたい……だけど、魔王軍に怯える日々を送っている人々も助けたい……もちろん、ボクの力なんてたかが知れている……すべての人を助けられるとは思っていない……外に出てみんなを救いたい……でも外には出られない……」


 ローゼは悲しそうな顔をしている。その思いは本物で、その心は真剣そのものだと肌で感じるように分かる……


 「すまないね、旅人の君たちにこんな話を聞かせて……」

 「いやいや、そんな……」


 僕はそう返す。



 「あなたはどうしたいの?」



 フィオーレがローゼに聞く。


 「え?」

 「あなたはどうしたいのよ」

 「だからボクは……」

 「外に出たいの?」


 フィオーレはそう聞く。


 「……できることなら外に出たいさ、でもボクは王女だ、外には……」

 「それでいいの?」


 フィオーレはそう返す。


 「王女だから、街を守りたいから……正しいわ……否定するつもりなんてない。でもね、それはあなたが本当にやりたいことなの?」

 「え……?」

 「本当は外に出てみんなを助けたいんでしょ?」

 「それは……」


 口を閉ざすローゼ……沈黙が続く。


 「……」


 そしてローゼは決心したように言う。


 「ボクは外に出て、みんなを助けたい……それが本当の気持ちだよ!」


 ローゼは続ける。


 「お願いだ、ボクを外へ連れて行ってくれないか?」


 ええっ!? 王女様を外へ!? いやいやいや、そんなことしたら僕たち罪人になっちゃうよ!


 「分かったわ!」


 フィオーレ!? 分かってないよね!?


 「待ってフィオーレ……」

 「私たちと一緒に旅をしましょう! そうすれば解決よ!」


 何が解決されるの!? やばくない!?


 「ありがとう……一緒に旅をする仲間までできるなんて……ありがとう……君たちに本当の話をしてよかった……」


 うん、一緒に来るね、これ。



 「そして一緒に魔王を倒すわよ!」



 「……え?」


 ローゼが驚く。それはそうだろう。まさか僕たちが魔王を倒すために旅をしているなんて思ってなかっただろうし。


 「魔王を……倒す?」


 ローゼが驚いたようにそう聞き返す。


 「そうよ、そうしなければいつまでも解決しないわ」

 「たしかにそうだ……いずれこの街も襲われる……みんなを守るためには魔王を倒すのが一番いい……」


 ええ……


 「私たちは魔王を倒すために旅をしているわ! 私は勇者、魔王を倒しこの世界を救う者よ! そしてここにいるみんなは導かれし者! 私とともに魔王を倒す者たちよ! そして、あなたも導かれし者……」

 「これは運命だ……!! 勇者や導かれし者がなんだか知らないけど、まさかこんな仲間に巡りあえるなんて!!」


 ローゼ……信じてくれるんだ……勇者がなんだか知らないのに……導かれし者がなんだか分からないのに……でもローゼは導かれし者だと思う……おそらくだけどね……


 「そうと決まれば一緒に行きましょう!」

 「ローゼも一緒に来る、ヒィナ嬉しい」


 ええ……なんかすごい流れで旅の仲間が増えた……


 ローゼは「準備をするからついてきてくれ」と言ってどこかへ行く。僕たちもそれについていく。


 ローゼについて行くと、ローゼンブルクの城の外れの森に着いた。そして城を指差して言う。


 「あそこに秘密の抜け道があって、ボクの部屋につながっている秘密の部屋へとつながっている……荷物を取ってくる」


 なるほど、いつもあそこから逃げ出していたのか……

 壁を触ると扉が開いた。そして中へと入っていく。数分後、荷物を取ってきたローゼ。


 「実はもう旅の支度を整えてある……きっとボクは旅に出たかったんだね……」

 「その剣は……レイピア?」


 僕は聞き返す。


 「ああ、王家の秘宝のレイピアだ……勝手に拝借して、ボクの部屋につながっている秘密の部屋に隠して置いておいたんだ」


 王家の秘宝のレイピアを勝手に持ち出してきたの!?


 「え!? 大丈夫なのそれ!?」

 「いま使わずにいつ使うんだ。魔王を倒すために、これからこの剣を使って戦うよ」


 ええ……さすがおてんば姫……


 「これでも剣の腕前には自信があるんだ。みんなボクのことを姫騎士と呼んでいる。君たちの役に立てると思う」


 姫騎士……おてんば姫だけでなく姫騎士……


 「次に私たちの荷物ね」


 僕たちは隠れながら宿の荷物を取りに行く。


 街には脱走した王女を探すため兵士たちがたくさんいた。

 僕たちは見つからないように宿屋へと行く。


 宿に入ると、店主のおばさんが僕たちに声をかけてくる。


 「あ、おかえりなさい……それに、王女様? またお城から逃げてきたんですか?」


 やっぱり顔見知りなの!?


 「ああ、それからちょっと外に行ってくるよ」

 「気をつけてくださいね」


 ええ……


 「荷物を取ってきましたわ、行きますわよ」


 アンナがそう言って僕たちに荷物を渡す。

 僕たちは店主に挨拶すると、外へと出る。


 そして兵士たちや門番の目をかいくぐり街の外へと出るのだった……

 ふたたび森を歩く僕たち……


 「なんとか街から脱出できましたわね……できることなら少し休みたかったですわ」

 「ヒィナ、ローゼが一緒に来てくれて嬉しい」

 「よし、これから旅に出発よ!」


 僕たちは次の街に向けて歩き出した。


 「それにしてもどうなることかと思いましたわ」

 「きっとローゼは導かれし者の一人よ、間違いないわ」

 「これで導かれし者も残り一人か……」


 確証はない。だがローゼが導かれし者であるのはおそらく間違いないだろう。

 というか、ここまで導かれし者に相応しい人物も他にいないだろう。

 そして導かれし者は残り一人、どんな人物なのだろうか……



 「みんな、行ってくるよ……」



 ローゼがそう呟くのが聞こえた。

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