第十三話 おてんば姫ローゼ

 僕たちは次の目的地ローゼンブルクへと向けて森の中を歩いていた。


 「ローゼンブルクはバラが至るところに咲いていることで有名な街よ。ローゼンブルク城っていうお城があって国全体が自国を守るための要塞になっているの。それにも関わらずその景観の良さから観光地としても有名で、旅人たちが立ち寄る人気の名所になっているという不思議な街よ」

 「バラかぁ、綺麗なんだろうなぁ」

 「ローゼンブルクのバラは一度見てみたいと以前から思っておりましたわ」

 「ヒィナ、お花好き。見てみたい」


 僕たちはそんな話をしながら歩く。


 「そしてそのローゼンブルクに導かれし者の一人がいると、お告げにあったわ」

 「ふむふむ、いったいどんな人なんだろう」


 歩いているとやがて街が見えてきた。ローゼンブルクの街だ。そして山の上に白い大きなお城がある。あれがローゼンブルク城か。

 街のまわりは城壁に囲まれている。もう既にあちこちにバラが咲いている。早く街の中の様子を見たいところだ。

 僕たちは入り口で門番から許可をもらうと中へと入る。


 「綺麗ね!」

 「綺麗ですわねぇ」


 見るとバラがあちこちに咲き乱れていた。街は整備され、建物も色とりどりで美しい。かなり大きな街のようだ。


 「観光地として有名なバラのお花畑があるそうよ。あとで見に行きましょう」


 導かれし者を探す話はどこへやら……

 僕たちは宿に荷物を置くと、街を歩いてみる。


 「あぁん! お姉様! わたくしと二人きりになりませんか? わたくしとバラの花園でチュッチュウぅぅ」

 「やめてぇぇええええ! 襲わないでぇぇぇぇええええ!!」


 またやってるよあの二人……


 「フィオーレとアンナ、仲良し」


 ヒィナは二人を見ながら言う。


 「ヒィナ? ヒィナはあの二人みたいになっちゃダメだよ?」

 「なんで?」


 分かっていないようだ。


 「あの二人はたしかに仲良しだけど……」


 説明しにくい……

 そんなことを考えながら歩いていると、僕は誰かにぶつかってしまう。


 「あ、すみません……」

 「いや、君は悪くない、ボクの方こそすまない」


 見ると帽子を深く被った少年がいた。前にツバのあるぶかぶかの帽子を深く被っており、顔を確認することはできない。

 すると、少年がやってきたほうから兵士が三人やってきた。


 「こっちじゃないか?」

 「どこに行ってしまわれたんだ」


 あたりを見回しながらこちらに向かって走ってきている。


 「ちょうどいい。僕をかくまってくれないか?」

 「え? かくまうって……」


 僕は聞き返すが、少年は果物屋の看板の裏に隠れる。

 僕は何事もなかったかのように振る舞う。

 兵士たちは僕に向かって話しかけてくる。数いる街の住人や旅人の中からなぜ僕を選んだのだろうか。


 「おい、少年。帽子を深く被った、このくらいの背丈の少年を見なかったか?」

 「そ、それなら、あっちに行きましたよ」

 「ありがとう。おい、こっちみたいだぞ!」


 兵士たちは僕の指差したほうに向かって走って行った……

 看板の裏から出てきた少年は僕のほうにやって来た。


 「ありがとう。君のおかげで助かったよ」

 「いやいや、それより何があったの?」


 僕は聞き返す。


 「すまない……それには答えられない……」


 なぜだろうか? 悪いことでもしたのだろうか? かくまわないほうがよかっただろうか?

 でもそんな悪い子には見えないけどな……


 「ノゾム、嘘はダメ」

 「ごめんヒィナ、この人が困ってるみたいだったから……」

 「君たちはノゾムとヒィナと言うのか、ありがとう。また会うことがあったらそのときはボクのことについて教えてあげよう。では」


 そう言って少年はどこかへ行ってしまった。


 「何だったんだいったい……」


 そういえばフィオーレとアンナは何をしているんだろう? 僕は振り返って見てみる。


 「お姉様!! はぁはぁ!! あぁぁぁぁんん!! お姉様お姉様ぁ!!!!」

 「人前ではやめてぇぇぇぇ!!!!」


 逆に聞こう、人前でなければいいのか、と……

 仕方ない、助けてあげよう……


 「フィオーレ、そのままアンナを抱きしめるんだ!」

 「ぎゅぅぅぅぅぅぅ……」


 フィオーレは尋常じゃない力でアンナを抱きしめる。フィオーレももちろん手加減しているだろう……してるよね?


 ミシミシ……べきべきっ……


 アンナの体が音を立てている。


 「おほぉぉぉぉおおおお!!!! あぁぁぁぁんん!! これがお姉様の愛ッ!!!! わたくしの体は今にも押しつぶされてしまいそうですわぁぁああ!!!!」


 いや、本当に押しつぶされそうになっているよアンナ……


 メキメキッ……


 「あっ!! あぁぁああんん!! おほぉぉんんんん!!!!」


 そろそろ大丈夫だろう……


 「よし、そろそろアンナを放してあげて」

 「うん……」

 「はあッ……はあッ……何でしょう……この気持ちよさと充足感は……わたくしこれがクセになってしまいそうですわ……」


 ええ……それはヤバイよアンナ……フィオーレも手加減してるだろうから大丈夫だとはいえ……


 「よいしょ、っと」


 僕は恍惚に浸るアンナを担ぐ。


 「さて、そろそろバラを見に行こうよ」

 「……そうね」


 フィオーレもアンナの扱いにだいぶ慣れてきたな……

 僕たちはバラ園に向かって歩き出す。


 僕たちはバラの花畑へと到着した。

 バラはあちこちに咲き誇っており綺麗にあたり一面を赤に染め上げている。バラで作られた生け垣やアーチなどもあり、おしゃれな感じだ。さすが観光地である。


 「お花、きれい」


 ヒィナが喜んでいる。


 「……はっ!? ここは……天国?」


 アンナが恍惚状態から目覚めたようだ。


 「あ、おかえりアンナ」

 「ここが天国ですのね……綺麗な場所ですわ……」


 僕はアンナを降ろす。


 「それじゃあ、歩いてみましょう」


 フィオーレがそう言いながら歩き出す。ヒィナが後ろからくっついていく。


 「あぁ、お姉様があっちのほうで呼んでいますわ……」

 「アンナ、しっかりして」


 僕はよろよろと歩き出すアンナと一緒にフィオーレたちを追う。


 「綺麗な場所ね……」


 フィオーレはそう言いながら歩く。


 僕たちが観光しながら進んでいくと、その先で一人の少年が花を愛でているのを見つける。

 さっき兵士たちに追いかけられていた少年だ。


 「君たちはさっきの……ノゾムにヒィナだね」


 少年はこちらに気づく。


 「さっきはありがとう、おかげでこのバラを見に来ることができたよ」

 「この子は誰?」

 「ああ、さっき知り合ったんだよ。それで、君はなんで兵士たちに追われていたの?」

 「そうだね、教える約束だったね」


 少年は帽子を外しながら言う。赤い髪の毛と整った顔立ちがあらわになる。


 「ボクはローゼ……このローゼンブルクの王女……つまりお姫様だ」

 「ええっ!? 女の子だったの!? しかもお姫様!?」


 僕は驚いて言う。少年だと思っていたのが実は男装した女の子で、しかもお姫様だったのだ。それは驚くよ……


 「ボクはいつも城から抜け出す時、男装をしているからね」


 そう言って笑うローゼ。いつも、って脱走の常習犯なのか!?


 「とんだおてんば姫だ……ねえフィオーレ」


 フィオーレを見ると目を輝かせてローゼを見ている。


 「お姫様、すごいわ!」

 「ヒィナもお姫様になりたい」


 あの……二人とも……?


 「ローゼ様、私たちは旅をしていて……」

 「ローゼでいいよ。砕けた口調で話していいから。街のみんなもそうしてる」


 街のみんなと顔見知りって、やっぱり脱走の常習犯じゃないか!


 「ローゼ、お城を抜け出して大丈夫なの?」

 「ああ、いつものことだからね。それより君たちは旅人かな? この街の人ではないよね? よかったらボクに旅の話を聞かせてくれないかな?」


 僕たちは話をするため、落ち着けそうな場所に移動する。

 軽く自己紹介を済ませ、話をすることになった。

 旅であったことをローゼに話す僕たち……当然、勇者と導かれし者のことは話していない。

 フィオーレと出会ったこと、フィオーレが酒場で物を壊して働かされたこと、アンナと出会ったこと、ゴリラの神様の街に行ったことなど……

 ローゼは笑いながら聞いていた。そしてローゼは自らについて話し出す。


 「君たちの話を聞けてよかった。ボクもできれば旅に出たいよ」

 「旅はそんなにラクなものじゃないよ?」

 

 僕はローゼにそう言う。


 「ボクはこの街を出たいんだ。もちろんこのローゼンブルクのことを愛している……ボクはこの街が大好きだ……だけどこの街を出たい」

 「なんで? お姫様なのに」

 「ボクはこの世界のことを聞いたんだ。魔物に襲われる日々を送る人々のことを……ボクは色々な人たちを助けたい……困っている人たちを助けたいんだ……正義のために」


 ローゼはそう言うと空を見上げる。


 「本当にそう思ってる……?」


 フィオーレが真剣に話を聞き始める。


 「本当だ……外に出る理由が欲しいからじゃない……人々を救いたいんだ……」


 ローゼも本気でそう言っているように見える。


 「なんでそう思うのか、聞かせてもらえないかしら?」


 フィオーレがそう聞く。


 「そうだね、これも何かの縁だ……ボクがどうしてそう思うようになったのか話そう」


 フィオーレはうなずく。僕たちはローゼの話を聞くこととなった。

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