第十一話 神の使いヒィナ
僕とフィオーレとアンナ、そしてヒィナは教会を後にする。
「それにしても驚きましたわ。その子、いきなり現れたかのように立っていたんですもの。接近されるまで気づきませんでしたわ」
アンナはそう言ってヒィナを見る。僕たちが歩いている後ろを無言で着いてくるヒィナ。本当に喋らない子だな、この子。
「僕のハニーが言ったんだ、この子は導かれし者だから連れていってくれ、って」
「は、ハニー?」
しまった! リラ神のことをハニー呼びしてしまった!
「な、なんでもないよ……?」
「そ、そう……?」
危ない、まさかあのゴリラをハニーと呼んでいるなんてバレるわけにはいかないからね。恥ずかしいからっていう理由だけど。
「それにしても……」
フィオーレは続けて言う。
「これで私がゴリラの適正がないことが証明されたわね!」
胸を張ってどや顔をするフィオーレ。もちろんその胸はぺったんこであるためどんなに胸を突き出しても平らだ。それにしてもゴリラの適正とは何なのだろうか?
「そ、そうだね……ごめんね、フィオーレ」
「そうでしょ!」
ふんすっ! と言う感じでぺったんこな胸を張っている。
「でも、アレは僕の能力……? 能力っていうのかな……? で、リラ様と会話できたみたいだけど」
「いったいどんな魔法を使えば神様と話ができるんですの……」
アンナは呆れたように言う。僕だって詳しくは分からないよ……
「ユエリア様って言う女神様に言葉が分かるようにしてもらったんだけど……」
「えっ……?」
フィオーレの表情が変わる。目を見開いてこちらを見ている。驚いているような、何かを恐れているような、そんな顔をしている。フィオーレには言ってなかったっけ? そういえば女神ユエリアのことは言っていないかもしれない。
「どうしたのフィオーレ……」
「い、いえ、何でもないわ」
フィオーレは何かを知っている。だがそれを僕たちに隠していることをリラ神から聞いた。そして深く聞かないであげてほしいということも……
「そ、そう……」
僕はここで切り上げる。これ以上聞くわけにはいかないからね……アンナは不思議そうな顔で僕たちを見ている。
「それで、そのリラ様とはどんな話をしたんですの?」
アンナが聞いてくる。フィオーレのことについてははぐらかさなければならない。
「う、うん、その……アンナが魔法を使うには世界樹がどうのこうのって言ってたから、聞いちゃった、かな」
「そんなことが気になっていたんですの? わたくしが教えて差し上げますのに」
アンナはそう言う。
「ありがとう、また今度教えてくれると嬉しいな」
「ええ、分かりましたわ」
しかし、さっきからヒィナは本当に喋らないな。大丈夫かな? そう思い、振り返ってヒィナを見る。
ヒィナは街で遊ぶ子供たちのことを見ていた。一緒に遊びたいのだろうか?
そしてヒィナは自分の服を見ている。服といってもほぼ布きれのようなものを服のように身につけているだけの格好だ。
「もしかして……服が欲しいの?」
僕は聞いてみる。
「……」
ヒィナは黙っている。
「ノゾム、ヒィナちゃんにお洋服を買ってあげようよ」
フィオーレがそう言う。
「そうだね、そうしよう。ヒィナ、お洋服を買いに行こう?」
僕はヒィナに言う。ヒィナは目を大きくさせて僕を見ている。心なしか喜んでいるように見える。
「ヒィナ……お洋服、着てみたかった」
ヒィナはそう言う。おそらく喜んでいるな、うん。それにしても今まで洋服を着たことなかったのか……
「決まりですわね、オシャレは女性の嗜みですわ」
アンナもそう言う。
僕たちはヒィナの服を買うために街の洋服屋に行くことにした。
街の中を歩いていると小さな洋服屋さんを見つける。僕たちはその店に入ることにした。
店に入ると、カランカランッと音がした。
「あら? いらっしゃいませ」
おっとりとした感じの女性店員が座って裁縫をしながら声をかけてくる。
あまり広いとは言えない店だが、店の中の雰囲気は物静かでおしゃれだ。服があちこちに飾るように置いてある。
「すみません、この子の服を買いたいんですけど」
「あらあら、そうなの? よかったらゆっくり見ていってね」
店員さんはふんわりとした感じでそう言うと、裁縫仕事を再び始める。
ちなみに僕の服だが、こちらの世界に来た時に自動的にそれっぽい服に変わっていた。何着か服を持たせてくれていたし、女神ユエリアが気を利かせてくれたようだ。そのため僕は特に怪しまれることなく生活していたのだ。
「どれがいいかしら?」
フィオーレは奥へと入っていく。ヒィナは何も言わないが、目を輝かせて飾られている服を見ている。どうやらわくわくしているようだ。
あまりたくさんお金があるわけではない。旅の支度や宿代だって必要だからね。それを考えるとそんなに高いものは買ってあげられないが、なんとか好みの物を買ってあげたいところだ。
「うーん、ヒィナ、どれがいい?」
「ヒィナ、お洋服着たことないから分からない」
それもそうか……僕はヒィナに似合いそうな服を探して歩く。女性ものの服には詳しくないのでフィオーレとアンナに任せたほうがいいかもしれないが、色々考えてみる。
「これなんかどうかな?」
「これとかどう?」
「こっちがいいんではないでしょうか?」
みんなで色々と考える。試着も色々させてみる。可愛いワンピース、ズボン、エプロン付のスカート、帽子など……
見てみると、ヒィナは嬉しそうに僕たちのことを見ている。
「ヒィナ、どうしたの?」
僕は聞いてみる。
「ヒィナ、ずっと人間になりたかった。みんなと一緒にいられて嬉しい」
ヒィナはそう言っている。もしかして今までずっとリラ神のところで他のみんなといられずにいたんじゃないだろうか……
「ヒィナ、気にいったのがあったら言うんだよ」
僕はそう言う。
「これ、ヒィナ、これがいい」
ヒィナが指差すほうを見ると僕が選んだ質素なワンピースがあった。
「これがいいの?」
「うん、ノゾムが選んでくれた、だからこれがいい」
それはとてもオシャレとは言えないが、フリルなどが付いていないシンプルで可愛らしい素朴な雰囲気のワンピースだった。
「それがいいんですの?」
「うん、これがいい」
「そっか、そういうことならそれにしましょう」
茶色と白を基調としたこれといった飾り気のない素朴な感じのワンピースだ。ヒィナの緑の髪の毛と合う……かもしれない。
「お姉さん、これでお願いします」
「はぁい、あらぁ、とっても似合ってるわよ」
店員のお姉さんはそう言ってくれた。試着したままだったが、買うときもそのまま着ていて良いとのことだ。
僕たちは買い物を済ませると洋服屋さんを後にした。
ヒィナは心なしか嬉しそうに歩いている。
「もう少しオシャレなのがありましたのに……まあこれがいいというならそれがいいですわね」
「そうね、きっとヒィナはみんなの気持ちが嬉しかったのよ」
「そうかもしれませんわね」
僕たちはそんな会話をしながら宿屋へと戻っていった。
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