第八話 魔法使いアンナ
僕とフィオーレとアンナは次のイレの村に向けて森の中を歩いていく。あの後、アンナの荷物をまとめてから三人で出発したのだ。
「あぁん! お姉様っ! チュッチュウゥゥゥゥ!!」
アンナはフィオーレに抱きついてキスしようとしている。
「助けてぇぇぇぇノゾムぅぅぅぅ!!」
いや助けられないんですがそれは……
「お姉様にわたくしの愛が届くまで何度でもお伝えしますわ! あぁん!! このアンナ、お姉様に出会えて幸せですの!!」
「気持ちは嬉しいけど私は嫌なの!」
「嫌よ嫌よも好きのうちと言いますわ! あぁ!! お姉様ぁぁぁぁ!!」
「ノゾムぅぅぅぅ助けてぇぇぇぇ!!」
フィオーレとアンナが仲良くしているところを横目に僕はあたりを警戒する。いくらフィオーレが強いといっても、ここは森の中だ。魔物や獣が出てくるかもしれない。二人が大きな声で叫んでいるため、その危険性は十分考えられる。
これからの旅のことを考えると思いやられる。毎度このやりとりをするのだろうか。少し落ち着いてもらえるとありがたいのだが。
不意にアンナとフィオーレが構える。僕も何かの気配を感じたので同時に構える。
「何かしら? たくさんいるみたいだけど」
「分からない。囲まれているのかな?」
「お姉様、気をつけてくださいまし」
すると、森の奥から何かの群れが出てきた。人のような姿をしている。言い方が悪いかもしれないが顔はまるで醜い老人のようだ。耳はとんがっていて、肌の色は緑や灰色、茶色と様々だ。簡単に言うとゴブリンというやつだろう。
「ゴブリンね、二人とも下がってて」
フィオーレが前に出て言う。やはりゴブリンというらしい。ゴブリンたちはそれぞれ剣や斧、弓などの武器や、木槌、ツルハシなどを持っている。
「ゴブリンか……緑とか茶色とか意外とカラフルだね」
「言ってる場合ではありませんわ」
ゴブリンというと、悪さをする妖精というイメージがあるが、目の前にいるゴブリンたちはおそらく違う。魔王の手下や魔物などの類いだろう。
「ニンゲン……コロスゾ……」
ゴブリンたちは口々にそう言っている。
「お姉様、ここはわたくしにやらせてくださいまし」
アンナがそう言って前に出る。アンナはこれでも魔法使いだ。僕はこの世界に来てから魔法というものを見たことがない。ついに魔法を見ることができるのだろうか。
アンナは持っている大きな杖を構え、何かを唱えるように言う。
「消し炭になりなさい! 炎の魔法、フォノザラ!!」
アンナが魔法を唱えると、あたり全体を炎が焼き尽くす!!
ゴブリンたちは炎に包まれると、たまらずその場に倒れていく! すごい火力だ! 熱風が後ろにいる僕たちにまで届いている。
それを見た残りのゴブリンたちは慌てて逃げていった。ゴブリンたちをやっつけた!
「すごい……」
これが魔法……はじめて見た……こんなにすごいんだ……
「すごい……さすが魔法使いね……」
フィオーレがそう言う。
「今のはフォノ系統の炎魔法、フォノザラですわ。魔法とはこの世界を構築する世界樹のエネルギーを使い、奇跡や超自然的な現象を呼び起こす技……」
「へえ……ん? 世界樹……? 世界樹で構築されてる……? え? この世界って樹なの? どういうこと? 樹はどこにあるの?」
いま、なんかすごく大事なことをさらっと言ってなかった?
「さすがね、アンナ」
フィオーレ、いまの聞いてた?
「そういえば私が知ってる神話でもそんなこと言ってたような……」
「そんなことより、お姉様ぁぁぁぁ!! わたくしのことを褒めてくださったのですね!! これはもう両想いですわね!! さあ愛のキッスをぉぉぉぉ!!」
「なんでそうなるのよ!! いやぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、ちょっと……?」
ダメだ……こうなったら間に割って入るのは無理だ……しかも、そんなことよりお姉様とか言ってるし……
仕方ない、その話はまたゆっくりできる時にでも聞こう……
僕たちはイレの村に向けて再び歩きだした。
歩きながら僕は言った。
「さっきの魔法すごかったなあ……僕も魔法使えるようになりたいなあ……それに剣も使えるようになりたい」
「それならまた今度ちゃんと教えて差し上げますわよ」
アンナがそう言ってくれた。
「ありがとうアンナ」
「ええ、わたくしもちゃんとお姉様とノゾムさんに協力したいと思っていますもの」
なんだかんだアンナもいい子そうだな……お姉様のことで暴走しなければ、だけどね……
日が暮れる前に僕たちはイレの村になんとか到着することができた。
イレの村は、はじまりの街トルペティアほど賑わったり整備されたりしていないが、それでも冒険者が集まる村なので酒場や宿屋などはあるようだ。
村はあちこちに草花が生えており、水車があって、小川が静かに流れている。離れた間隔で民家があちこちに建っている。
「はあ、疲れた……」
「お疲れ様、宿を取りましょう」
「うん、それから食事だね」
僕たちは宿屋に行く。そして荷物を置いてから酒場に向かった。
もうすっかり日が暮れてしまい、あたりはやや暗くなっていた。夜に染まりそうになる村を吹き抜ける風が心地いい。
酒場に着くとメニューを注文した。
「うん、今日もご飯がおいしい」
「この後は宿に帰って休みましょう」
僕たちは食事を済ませると宿へと帰った。
「魔法か……アンナはすごいなあ……僕も魔法の練習してみたいなあ……」
「きゃああああああああ!!!!」
そう考えながら僕が部屋でくつろいでいると、突然、奥の部屋から悲鳴が聞こえてくる! フィオーレの声だ!
「何っ!? まさか……魔物!?」
僕は急いでフィオーレの元へ向かった! 僕はフィオーレの部屋に突入する!
「フィオーレ!! 何があったの!?」
「お姉様!! わたくしの愛を受けとめてくださいまし!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!! 助けてノゾムぅぅぅぅ!!」
部屋に入ると、フィオーレのベッドにアンナが入りこんでいた。
「お姉様、チュッチュウウぅぅぅぅ!!!!」
そう言いながらフィオーレに抱きつくアンナ……
「フィオーレ!! 抱きしめかえす攻撃だ!」
「ぎゅううううぅぅぅぅ!!」
フィオーレは抱きついているアンナを抱きしめかえす。
べきべきっ……
「おおおおああああ!!!! お姉様の愛ッ!! 激しすぎますわ!! ああああぁぁぁぁんんんん!!!!」
アンナの体はミシミシと音をたてている……
僕は続けて言う。
「そのままアンナを投げるんだ!」
「うりゃああああぁぁぁぁ!!」
宙に放り出されるアンナは投げ飛ばされながら言う。
「おほおおおお!!!! わたくしまるで宙を舞っているみたいですわ!!!!」
いや、いま宙を舞っているところだよアンナ……
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん!!!!
アンナは壁に激突した。
「とりあえずこの変態は縄で縛って部屋に持っていくから安心して寝てね」
「ありがとうノゾムぅぅ怖かったよぉぉ」
「おやすみフィオーレ、いい夢を」
「きゅぅぅぅぅ……」と言いながら気絶するアンナを縄で縛って彼女の部屋にぶち込み、僕も自分の部屋に戻ることにした。
「しかしどうしようかな、フィオーレとアンナを同じ部屋にするわけにもいかないし、これからも今回と同じように別々に部屋を取らなきゃダメそうだな……うーん、少し余分にお金がかかりそうだ」
その日の夜はそうして過ぎていった……
次の日の朝、フィオーレとアンナは宿屋の人に「ゆうべはおたのしみでしたね」と謎の言葉をかけられていた。
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