第五話 クエスト達成
女の子が落ち着いてきたのでもう一度聞いてみる。
「落ち着いた? お姉ちゃんにお話しして?」
「お母さんと木の実を採りに来たんだけど、迷子になっちゃったの」
「お姉ちゃんたち今から街に帰るところだから、一緒に帰ろう?」
「うん……お母さんどこに行っちゃったのかな?」
この子の母親はどこへ行ってしまったのだろうか? 一人で森の奥まで行くのは危険だ。娘を探したい気持ちを抑えて街に戻っているだろうか。そうだといいのだが……
「君、名前は?」
僕は少女に名前を聞く。
「ネウ……」
ねう……というらしい。
「ネウちゃん、街に戻りましょう。ほら、お姉ちゃんと手をつないで」
「うん……ありがとう、お姉ちゃん……」
フィオーレは女の子と手をつなぐと歩き出した。僕も横について歩いていく。
しばらくすると女の子が聞いてきた。
「お姉ちゃんたちは冒険者さんなの?」
「そうよ、でもお姉ちゃんは、旅をしているの」
「旅? どこから来たの?」
「ここからとても離れたところよ。そのお兄ちゃんを探すために旅をして来たのよ」
「そうなの?」
「そうなのか? このあたりの出身かと思ってたよ」
これは僕も知らなかった情報だ。
「お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが大好きなんだね」
「そ、そういうことじゃないわよ……」
そういうことではないらしい。
「お姉ちゃん照れてる~」
「ち、違うもん……」
違うらしい。
「別に嫌いじゃないけど……その……」
もじもじしているフィオーレを見て女の子は笑っている。
話しながら歩いていると街が見えてきた。街の入り口の門を見てみると何やら女性と門番が話をしている。
「うちの娘が!! 娘がいなくなってしまったんです!! 森の中で!! ううっ……どうしたらいいの!!」
「落ち着いてください奥さん、今から冒険者さんに頼んで探してもらいますから」
どうやらこの子の母親のようだ。
「お母さん!! お母さん!!」
「ネウ!! よかった!! 無事だったのね!!」
ネウの母親は泣きながら駆け寄ってネウを抱きしめる。
「お母さん……」
「心配したのよ……よかった」
「あのね、お姉ちゃんたちが助けてくれたんだよ」
ネウの母親はこちらを見る。
「ありがとうございます……ネウを助けてくれて」
「いえ、無事に送り届けられてよかったです」
「フィオーレちゃんとノゾム君が助けてくれたんだね、僕からもお礼を言うよ、ありがとう」
門番の兵士も僕たちに向かって礼を言う。
「お姉ちゃん、すごく強いんだよ。猪さんたちをどんどん倒していったの」
「猪……? まさか、オークの群れに襲われたのかい!? オークの剛毛は刃を通さないほど分厚いと聞く。筋力や生命力だって人間以上だ。並みの冒険者じゃ歯が立たないはずだよ。よく無事だったね」
「え、う、うん。なんとか無事だったわ」
ええ……そんなの相手によく無双したねフィオーレ……
ネウの母親は続けて言う。
「ネウを助けていただいて本当にありがとうございます……何かお礼をさせてください」
「いえ、お礼だなんて……」
どうしてもお礼をしたいというが僕たちは断った。
「気持ちだけで十分ですよ」
「ありがとうございます……このご恩は忘れません」
街に四人で戻って行く。途中までネウたちを送っていき、僕たちはネウたちに別れを告げて酒場へと戻ることにした。
「ネウちゃん、バイバイ」
「またね、ネウちゃん」
「バイバイ!! ゴリラのお姉ちゃん!!」
「お姉ちゃんはゴリラじゃないってば!!」
僕たちは酒場へと戻る。
酒場に着いた。僕たちはクエスト達成の報告をし、報酬を受け取った。
「宿に戻りましょう。もう少しお金が貯まったら武具や旅の支度を整えて旅に出るわよ」
「うん、ところで次はどこへ向かうの?」
「それなんだけど……次は危険な場所らしいの」
「危険な場所……?」
「ええ、でもそこには導かれし者の一人がいるみたい」
「僕たちの仲間になってもらう人だね」
導かれし者……いったいどんな人物なのだろうか……
「そのためにもまた酒場に来るつもりよ」
「またクエストを受けるの?」
「いいえ、もっと情報を集めるの……危険なことがないか、情報をね。酒場は冒険者や旅人が集まるから何か情報を得られるかもしれないでしょ」
「なるほどね」
「でも今日ははじめてのクエストでノゾムも疲れたでしょ? だからゆっくりしましょう」
僕たちは宿へと帰ることにした。
宿屋に帰ると僕はベッドに寝転んだ。
「今は僕のペースに合わせてゆっくりやってくれてるけど、フィオーレも本当は早く旅に出たいんだろうな……頑張らなきゃ」
そう思っているうちにいつの間にか眠ってしまっていた……
目が覚めると夜になっていた。
すると、扉を叩く音が聞こえてくる。
「ノゾム、食事に行きましょう?」
フィオーレの声だ……もう夕食の時間のようだ。
「待って、いま行くよ」
僕は支度をして外へと出る。
「夜風が涼しいね」
フィオーレが言う。
「うん、そうだね……今日はどこへ食べに行くの?」
「レストランにしましょう」
「いいね」
僕とフィオーレは並んで歩く。
この街は夜でもある程度明るい。冒険者たちが集まって栄えているからだろう。
石畳の街を歩いていくと、レストランに到着する。
レストランは普通に仕入れた食材以外にも、冒険者が森から持って帰ってくる食材を利用しているため、メニューが豊富だ。
「私はここのサラダが好きなの」
「クルミ入りライ麦パンか……なんか美味しそう」
僕たちは席に着いて注文する。
クルミ入りライ麦パン、サラダ、麦のコーヒー、シカ肉のステーキ、エスカルゴ焼きソース添え……
「それじゃあ食べましょう」
「そうだね、いただきます」
ライ麦パンは塩が効いていて麦の香りがとてもいい。コーヒーは麦の独特な香りがする。甘味が入っていて飲みやすい。
「うん、おいしい」
「そうね、お肉もおいしいわよ」
そんな話をしていると時間がゆっくりと過ぎていく。
こんな時間がいつまで続くのだろうか……
こうしている間にも魔王軍による侵略が行われているのだろうか。
僕はここに来てまだ日が浅いから実際のことは分からない。
早く導かれし者を集めて魔王を倒しに行かねばならない……
僕とフィオーレは食事を終えると、宿屋に戻った。
「焦っても仕方ないけど、頑張らなきゃ……」
そうして夜は更けていった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます