第3話

 さて私達は、学校を卒業する少し前から社交界へと顔を出す様になった。

 淡々と準備をする私に、リボン女のアルマは「地味な貴女にどんなドレスが似合うというのかしら」だの言ったり、足をひっかけだの、相変わらずなことをしてきたのだが、まあその辺りはスルーだ。



 そしていざ茶会だの夜会だの出る様になった時。

 私のエスコートは兄がすることになった。

 兄とは三年間というもの、徹底して顔を合わせない様に、とここも情報戦を繰り広げてきたのだが、さすがにこれだけは無視できなかった。

 まずは身近な異性。

 兄が居たら兄。

 会いたくも無かったが、外面がいいのでまあ何とかしてくれるだろう、というやや楽観的な憶測のもと、彼に頼んだ。

 さてそこで、何か見覚えのあるひとが居るな、と思ったのだ。

 図書館でちょいちょい見掛けた顔。

 ジェームズ・ロッドもそこで私を紹介する様に、兄に頼んでいた。

 どうやら彼は兄の知り合いだったのだ。

 そう、兄は「知り合い」と明言した。

 それで私は安心して彼との会話を楽しむことにした。

 断言しよう。

 兄に「友人」と呼ばれる人種は、碌な者ではない。

 兄が道具として使うか、兄と気の合う人でなしか、どちらかだ。

 なので兄が「知り合い」と、この人混みの中で言ったことで私は安心した。


「いやあ、確かに知り合い程度ですよ。何たってトーマス・サットンは本当に学校では凄い奴ですから。自分の様な頭でっかちと違って、クロケットでも花形選手だし」

「私も頭でっかちと言われてますわ。ものを書くのが趣味ですの」

「どんなものです? ぜひ一度見せていただければ」

「気が向いたらで宜しくて?」


 まあ、そんな感じで私と彼は文通から始めた。

 そしてまあ、案の定アルマは兄に目をつけたという訳だ。

 ちなみにアルマは私の目から見ても非常に良くできた令嬢だ。

 意地悪をするという癖はあるが、黙っていれば判らない。

 そして狩人だ。

 そのリボンが翻る都度、よりいい条件湯の独身男は居ないか、と探すその視線。

 私には逆立ちしてもできないものだ。

 結果として、彼女のターゲットは兄と確信できた時、私の心の中にはお祝いのくす玉が割られ、鳩が飛んでいくかの様だった。



 さてそれから、私はジェームズと、アルマは兄と付き合う様になった。

 私は実家の方に、これこれこういう良い令嬢が今兄と付き合っている様ですよ、学校でもとても成績の良い、素晴らしい方です、と手紙を送っておいた。

 ついでの様に私自身も好ましい方が居るのですが一度お会いしていただけないでしょうか、と付け加えた。

 まああの両親のことだから、ジェームズの家格と私との相性さえ良ければ後はどうでもいいだろう、と思っていた。

 彼等が何より問題にするのは兄の結婚なのだから。

 まあ実際、アルマはうちの嫁にするなら充分すぎる資質を持っている。

 タウンハウスであろうが、田舎であろうがどっちでも彼女のことだから何とかなるだろう。

 まあ、兄は法律家になるということなので、タウンハウスに住むことになるだろうが。

 私は卒業前に田舎へジェームズを、そのご両親と共につれていった。

 男爵という肩書きは両親を充分安心させた。

 私は博物館勤務になるという彼についてそのまま街で住むことになった。

 そしてその後で両親の本命がやってきた。

 この辺りは乳母からの報告だったのだけど。

 アルマ様は実によくできたお嬢さんです、何とかなるのではないてすか、と。

 まあそうだろう、と私は思った。

 彼女のかぶった猫の大きさは凄まじいものだ。

 だが兄のそれには及ばない。

 そこが私の狙い目だった。

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